ドローンを使った個人宅への食料配送の実験が10月6日、北海道上士幌町で行われた。参加住民がタブレットのアプリで注文して2分後に、自宅の敷地にドローンが注文の品を届けた。山梨県小菅村でのドローン配送に関わる株式会社エアロネクスト(東京)、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)などが実検に名を連ねた。個人宅への配送に加え、グランピング施設への料理のドローン配送サービスを軸とする観光商品開発、牛の検体配送などスマート物流に関わる配送実験が行われた。
実験を実施したのは、エアロネクスト、セイノーホールディングスのほか、イノベーションチャレンジ実行委員会(実行委員長:竹中貢上士幌町長)、株式会社karch(上士幌町)、経済産業省北海道経済産業局だ。
個人宅への配送では、町内上士幌地区の住民が、町から貸与されているタブレットで、食料品の詰め合わせを注文できるアプリで「ごはんセット」を注文する方法で行われた。廃校となった小学校には、あらかじめ地元スーパーの荷物を一時的に集めておき、注文が入るとそこからドローンで注文者まで直接、ドローンで配送する。山梨県小菅村ではエアロネクストとセイノーHDが、ドローン配送と陸上輸送を組み合わせたスマート物流「Skyhub」の実験を実施しており、上士幌町での実験はその取り組みを社会実装するための取り組みとして行われた。
実験について公表されたプレスリリースの内容は以下の通りだ。
イノベーションチャレンジ実行委員会(実行委員長:上士幌町長竹中貢)と、株式会社karch(本社:北海道上士幌町、代表取締役 千葉与四郎、以下karch)、セイノーホールディングス株式会社(本社:岐阜県大垣市、代表取締役社長:田口義隆、以下 セイノーHD)、株式会社エアロネクスト (本社:東京都渋谷区、代表取締役 CEO:田路圭輔、以下エアロネクスト)、経済産業省北海道経済産業局(北海道札幌市、以下経産省)は、10 月 6 日(水)~10 日(日)に、上士幌町の各地において、ドローンを活用した複数の先進的な実証実験を実施し、10月6日(水)にはドローン観光商品開発・ドローン宅配の2つの実証実験を報道関係者に公開しました。ドローン宅配の実証実験は日本初となります。
本実証は、本年 8 月に上士幌町、セイノーHD、株式会社電通(本社:東京都港区、代表取締役社長執行役員:五十嵐博)、エアロネクストの4者が締結したドローンを含む次世代高度技術の活用による「持続的な未来のまちづくり」に関する包括連携協定の、農業・観光・産業・経済の振興、カーボンニュートラルと利便性が両立した持続可能な地域交通・物流の確保と住みやすい環境づくりに関すること、株式会社 karch と連携した新たな観光コンテンツ開発の「ナイタイテラスにおけるドローンを活用した観光商品開発」に基づくものです。
10 月 6 日(水)に実施し、報道関係者に公開したのは以下の2つの実証実験です。
広さ約 1,700ha、東京ドーム 358 個分の面積を誇る日本一広い公設牧場のナイタイ高原牧場で、ドローンを活用した新たな観光商品開発の実証実験を実施いたしました。コルソ札幌協力監修のもと、ナイタイテラス内にグランピング特設サイトを設え、利用者がオーダーしたドリンクと十勝ナイタイ和牛ステーキを麓からドローンで配送いたしました。上士幌の食や大自然とテクノロジーが融合した他にはない唯一な観光体験、ナイタイ高原牧場での特別な過ごし方を演出する観光商品として将来的に実施を検討してまいります。
町市街地から離れた農村地域に住む交通弱者への買物支援を想定し、食料品をドローンで個宅へ配送する実証実験を実施いたしました。本実験は、廃校となった小学校に地元スーパーの荷物を一時在庫したうえで、その中から注文のあった商品を購入者の自宅の敷地内にドローンで直接配送いたしました。
上音更地区に住む大道さんは、町が ICT 活用による地域住民の生活サポートとして実施している「予約制福祉バス」の実証に参加しており、町が貸与しているタブレットからバスを予約し、サークル活動などで市街地までの足として利用しています。今回は、大道さんご自身がタブレットから、あらかじめ用意された地元スーパーの食料品の詰め合わせを注文できるアプリを活用し、「ごはんセット」を注文しました。約2分後には自宅前にドローンが着陸し、大道さんの手に届けられました。
本実証実験は、セイノーHD とエアロネクストが開発推進するドローン配送と陸上輸送を融合した新スマート物流「SkyHub」の社会実装に向けた実証実験で、ドローン宅配(個宅へのドローン配送)は日本初の試みとなります。その後 10 月 7 日(木)~10 日(日)の期間中には2)のドローン宅配を引き続き上音更地区の複数の個宅へ実施するとともに、以下の実証実験を実施予定です。
株式会社ノベルズ(本社:北海道上士幌町)の協力のもと、牛の乳房炎の検体(乳汁)の配送をテーマに、温度管理・振動・ドローン配送と陸上輸送との連携・配送後の検査品質評価等の一連の実証を行い、配送等の課題の多い畜産業界全般におけるスマート物流の実装可能性を検証します。ドローンを活用した牛の検体の一連配送の実証は、日本初の試みです。
※本実証は経済産業省「地域産業デジタル化支援事業」(実施機関:公益財団法人 北海道科学技術総合振興センター)を活用して実施するものです。
今回の複数の実証実験の内容は、実験だけに終わらせることなく、今後実際に上士幌町において実用化を目指した取組みです。実際に 11 月頃より、物流インフラとしての SkyHub導入の第一歩として荷物を集積し一時保管するドローンデポを市街地に設置し、地上配送と将来のドローン配送を想定した買物代行サービスから開始する予定です。
今後も、包括連携協定に基づき、それぞれが有する資源を有効に活用しながら、相互に連携、協力し、町の課題や町民のニーズに沿って、ドローンを含む次世代高度技術の活用による農業・観光・産業・経済の振興、持続可能な地域雇用および人材教育・人材育成・産業基盤整備、持続可能な地域交通・物流の確保と住みやすい環境づくり、地域防災への貢献および新しい社会インフラの整備を推進することで、上士幌町における「持続的な未来のまちづくり」に貢献してまいります。
医師がオンラインで診察し、処方した医薬品をドローンで届ける実験が、北海道旭川市で7月18、19日に行われる。ドローンは補助者あり目視内で飛行する予定で、難易度は高い方ではない。見どころはオンライン診療、オンライン服薬指導に必要となる数々の連携に、ドローンまで組み込んだ複雑なオペレーションの実効性の確認だ。新型コロナウイルス感染拡大防止で、遠隔、非接触サービスへの期待と需要が高まる中、オンライン診療の普及促進に向けた実験の重要な一部を、ドローンが担う。難易度は高くなくても、重要度は高い。
実験は7月18、19日、北海道旭川市の国立大学病院旭川医科大学(旭川市)などで行われる予定だ。経済産業省北海道経済産業局(北海道札幌市)が公募した実証実験で、北海道経産局によると事業主体となる北海道経産局に加え、旭川医科大学、ANAホールディングス株式会社(東京都港区)、株式会社アインホールディングス(北海道札幌市)が中心的な役割を担う。
ほかに北海道旭川市、エアロセンス株式会社(東京都文京区)、トッパン・フォームズ株式会社(東京都港区)、特別養護老人ホーム緑が丘あさひ園(旭川市)株式会社日通総合研究所(東京都港区)が協力する。
実験は、外来患者が医師の診療をオンラインで受けることを想定して行われる。実験当日は、特別養護老人ホーム緑が丘あさひ園の入居者(実際には関係者が入居者役を担う)が、旭川医科大の医師のオンライン診療を受ける。医師は処方箋を作成し、患者と、患者が希望する薬局に発行する。オンライン診療では、患者が薬局に薬を受け取りに行く方法と、薬を配達してもらう方法とがある。今回の実験では、薬局が患者のところまで、ドローンでまで運送することを想定。処方箋はアインホールディングス系のアイン薬局旭川医大店が受け取る。
アイン薬局は処方箋を受け取ると、クスリを処方し、その場に待機しているドローンの運用事業者であるANAに配送を依頼する。ANAが、トッパンフォームズ製の容器にクスリを収め、エアロセンス製のドローンに乗せ、患者の待つ緑が丘あさひ園まで薬を届ける。緑が丘あさひ園にドローンが到着すると、あさひ縁の看護師が荷物を受け取り、クスリを確認して患者に受け渡す。医師が処方する医療用医薬品は、薬剤師による服薬指導が必要と定められており、実験ではオンラインによる服薬指導も実施する。
ドローンはアイン薬局と緑が丘あさひ園の間の540mを目視でフライトし薬を運ぶ。補助者もつけ、両施設の間を走る道路は、実験の間は通行止めにする。オンライン診療、オンライン服薬指導、処方箋のもとで提供される医療用医薬品のドローンによる配送を、ひとつの流れとして行う実験は、過疎地域の医療現場を想定した訓練に近い。実際を想定した実験の実施は「今回が初めて」(ANA)だ。
実験の背景には過疎化の進行に伴う医療サービスの低下懸念がある。北海道経産局地域経済部健康サービス産業課は「特に地方で医師不足が加速している。医師が減り、患者が増える状況をカバーする工夫のひとつとして非対面非接触医療の提供が考えられる。今後、トラックドライバーなど配送の担い手も減ることが考えられ、無人で効率的に配送できるドローンへの期待が高まる」と、地域医療の維持、拡充への展望を見据える。
オンライン診療は、外来・入院・在宅に続く医療提供の一形態として2018年度診療報酬改定で保険適用となった。導入当初は、通常の外来診療に比べ点数が低かったり、算定要件が厳格であったりと普及の阻害要因が指摘されていた。その後、要件の見直しや対象疾患の拡大が行われ、普及環境が徐々に整備されている。また、厚生労働省医政局は今年(2020年)4月10日、都道府県などに向けて、新型コロナウイスルの感染拡大に伴い「時限的・特例的な対応」として、条件付きで初診のオンライン診療も可能にするなどの緩和措置を事務手続きとして連絡した。これに伴い、オンライン診療を受け入れる医療機関が急増するなど、対応が進んでいる。
ドローンのオペレーションを担うANAも、今回の実験がドローンのフライトそのものよりも、ドローンのフライトも前提した全体のオペレーションの連携の可能性を確認することにあると話す。「クスリが間違いなく手元に届くか、個人情報が守られるかといったオンライン診療に要請されるオペレーションの機能性を確認したい。実装に備えて課題やリスクの洗い出したいと考えている」と意欲的だ。
また、北海道経産局地域経済部健康サービス産業課は「実験の参加団体はそれぞれに課題感をもって取り組んでいる。われわれとしては非対面非接触の医療サービスを完全リモートにするために、無人で配送するドローンは不可欠だった。医療用医薬品の配送が可能になれば、地方で進む医師不足への対策として有力な選択肢になりうる。なお今回は医薬品の配送がテーマだが、今後は過疎の進む地方を想定して、日用品の配送にも取り組みたい」と次の展開も見据える。
今回の実験は、全体の流れの有効性を確認するため、一定の条件の下で行われる。たとえばアイン薬局にはあらかじめドローンが配備されている前提だ。ドローンを飛行するための許可も取得している。実装するにあたっては、この条件以外の場合も想定した課題への備えも必要になる。薬局にドローンが配備されていない場合の配送依頼、ドローン事業者から薬局までの飛行と薬局側の積み下ろし、患者が配送を希望するかどうかを判断するための、薬局と患者との円滑なコミュニケーション、届いた医薬品の荷下ろしの適否などが残る。
さらに、オンライン診療と外来とで異なる診療報酬がもたらす医療機関への負担や、ドローンを含む配送事業者の配送費の収受などの経済性などについて、検証ポイントを列挙しておくことが、オンライン診療の維持、利便性拡大につながるとみられる。
今回の実験を契機に、ドローン医療分野でも当たり前に活用できる環境の整備が進めば、ドローン前提社会の構築で価値ある豊かな未来を手繰り寄せる一歩につながる期待が高まる。
<■プレスリリースに説明されているシナリオ>
本実証では、「処方箋医薬品」をテーマに、医師・薬局薬剤師の参加・協力のもと、医療分野における実際の活用を想定し、以下のシナリオにて実証を行います。
・旭川医科大学病院のオンライン診療による処方箋に基づき、アイン薬局 旭川医大店にて、薬局薬剤師がオンライン服薬指導のデモンストレーションを実施します。
・アイン薬局 旭川医大店から緑が丘あさひ園までの間で、ドローンによる処方箋医薬品配送を実施します。
・緑が丘あさひ園に到着後、配送した処方箋医薬品の品質・状態をオンラインにて確認します。本実証の結果をもとに、北海道内におけるドローンの地域実装に向けて、課題の洗い出しやビジネスモデルの具体的検討を推進し、将来的には、地方における通院が困難な方に対して、「オンライン診療⇒電子処方箋発行⇒オンライン服薬指導⇒ドローンによる処方箋医薬品配送」という一連のサービス提供を目指します。
※本実証は厚生労働省より発表された「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」
(https://www.mhlw.go.jp/content/000621247.pdf)に基づき実施しております。