• 2021.6.11

    ドローンで牛丼配達実験 日本初のオンデマンド配送を横須賀市でエアロネクストなど実施

    account_circle村山 繁

     できたての牛丼をドローンで医療従事者に届けるオンデマンド配送の実験が6月10日、神奈川県横須賀市で報道陣に公開された。実験を統括したのはドローンの姿勢を制御する技術を持つ株式会社エアロネクスト(東京)。病院スタッフがスマホで注文すると、注文を受けたキッチンで牛丼が出来上がり、配達係が大切にリレーし、荷室が揺れないドローンに積み、70m上空を飛んで病院に急行し、注文から15分後にスタッフが受け取り、あたたかい牛丼に感激した。参加者、見学者はそれぞれの立場から、定期航路開設、医療物資の調達、物流難民の解消、宅配事業のコスト圧縮、地域活性化などへの期待を口にした。

    ACCESS、出前館、吉野家、横須賀市立市民病院、神奈川県立海洋科学高等学校など協力

     実検に参加したのは、エアロネクストのほか、ドローンのオペレーションや運航管理の株式会社ACCESS、デリバリー株式会社出前館がデリバリーで、株式会社吉野家が牛丼弁当の提供で参加。注文をした横須賀市立市民病院、航路を提供した神奈川県立海洋科学高等学校のほか、横須賀市、神奈川県も事前調整などで重要な役割を果たした。

     注文は横須賀市立病院(横須賀市長坂)から出された。病院スタッフで臨床工学技士の橋口宗成さん、看護師のクォン・ヘリムさんがスマホに入れてある出前館のアプリで吉野家の牛丼弁当4つを注文すると、陸路で約4キロ離れた場所に開設された吉野家のキッチンカー「オレンジドリーム号」のタブレットが受け付けた。

     ここからはそれぞれの専門業者が本職の腕を見せた。

     キッチンカーの腕利きの調理人が素早く調理して専用ボックスに収めると、待機していた出前館の配達員に手渡す。配達員はドローンが待機している地元の景勝地、立石公園まで徒歩で、ゆれないように、くずれないように運び、ドローンの担当員にリレー。ドローンの担当者は荷室に格納すると準備完了をドローンの運行管理者に連絡する。運航管理がドローンの飛行指示を出すと、ドローンは自動で飛び立ち、海上に設定されたルートをたどり、上空70~100mをフライト。目的地の病院に近づくと海上で方向を変え、河川の上空、海洋科学高校のグラウンドなど協力を得られた場所を航路にし、注文から15分で病院上空に到着した。約5.2キロを飛び、ドローンが着陸。ドローンから切り離された荷室のボックスの牛丼弁当は、具のくずれもなくできたての湯気がのぼった。

     横須賀市立市民病院は新型コロナウイルス感染症の入院が必要と診断された中等症の患者を受け入れる「重点医療機関」に指定されている。病院周辺に昼食がとれる場所は少なく、外出には時間的制約があり、新型コロナウイルス感染症対策で病院内の食堂の運営時間が短縮されている。医療従事者にとって温かいランチを取りにくい。またオンライン診療の導入も検討しており、医薬品配送の可能性を見据え今回の実験に参加する意味があると判断、今回の実験に協力することになった。

     この日運ばれた牛丼弁当の4個のうち2個を、注文を出した橋口さん、クォンがその場で味わうと、クォンさんが「あつあつです」と笑顔で満足そうな表情を浮かべた。

     この取組みは2019年12月に神奈川県の「ドローン前提社会の実現に向けたモデル事業」として採択されたエアロネクストの「ドローン物流定期ルートの開設に向けた実証実験」、横須賀市の地域課題解決を目指した「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」の一環で、2022年度の「レベル 4 」解禁に向けたドローン定期配送を見据えた取組みだ。

    機体はエアロネクストの物流専用機

     実験で使ったドローンは、エアロネクストが株式会社自律制御システム研究所(ACSL、東京、6月24日に社名をACSLに変更予定)と共同開発した物流専用の回転翼機。改善を続けてきた機体の5世代目で、公に飛行するのはこの日が初めてとなった。6つのローターを持ち、バッテリーを4本積み、5キロの荷物を運べる。エアロネクストが独自開発した機体構造設計技術「4D GRAVITY」も搭載している。最大の特徴は、進行方向に安定して効率よく進むことを最優先して考えられた設計だ。流線形の機体は、前後が明確なスタイルで、前進時の前傾を考慮した空力をデザインに反映している。

     エアロネクストは山梨県小菅村で定期航路の開設を目指し、物流大手などと組み連日、村民の注文に応じて配送ドローンを飛行させている。実装が進めば機体の量産も見込めるため、月末にはルートを増やすなど、より高度な運用を目指す。

     エアロネクストの田路圭輔代表取締役CEOは、「物流におけるドローンをとりまく環境は、法整備が先回りしてルール作りが先行し、機体のクオリティ、操縦者のクオリティをこれに十分、見合うようにする必要がある」と訴え、こうした実験の成果を今後につなげる構えだ。

     この日の実験について横須賀市立市民病院の管理者、北村俊治氏は「将来的には医療物資の輸送などへの応用も期待できる」と展望した。出前館の広報担当者は、配達員の確保、人件費などのコストの壁をドローンが超える可能性に言及、「現在配達エリアに含まれていないエリアにも、ドローンが無人で届けられることになれば、事情がかわる」と期待を寄せた。

    横須賀市立市民病院の上空に牛丼をつんだドローンが着陸
    この日の実験に使われた機体と牛丼を格納した専用ボックス
    スマホで牛丼弁当を注文する病院スタッフの橋口宗成さん
    つくりたての牛丼弁当を出前館の配達員に手渡し
    徒歩でドローンが待機する立石公園まで大切に運ぶ出前館の配達員
    配達員が牛丼をドローン担当者にリレー
    牛丼弁当をつんだドローンが立石公園を飛び立つ
    病院に向かって飛行
    ドローンを見送る出前館の配達員
    病院に到着
    届いたばかりの牛丼を味わうクォンさん(手前)と橋口さん
    届けられた牛丼は偏りも荷崩れもなかった
    実験を前に説明するエアロネクストの田路圭輔代表取締役CEO
    あいさつをする横須賀市立市民病院の

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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