できたての牛丼をドローンで医療従事者に届けるオンデマンド配送の実験が6月10日、神奈川県横須賀市で報道陣に公開された。実験を統括したのはドローンの姿勢を制御する技術を持つ株式会社エアロネクスト(東京)。病院スタッフがスマホで注文すると、注文を受けたキッチンで牛丼が出来上がり、配達係が大切にリレーし、荷室が揺れないドローンに積み、70m上空を飛んで病院に急行し、注文から15分後にスタッフが受け取り、あたたかい牛丼に感激した。参加者、見学者はそれぞれの立場から、定期航路開設、医療物資の調達、物流難民の解消、宅配事業のコスト圧縮、地域活性化などへの期待を口にした。
実検に参加したのは、エアロネクストのほか、ドローンのオペレーションや運航管理の株式会社ACCESS、デリバリー株式会社出前館がデリバリーで、株式会社吉野家が牛丼弁当の提供で参加。注文をした横須賀市立市民病院、航路を提供した神奈川県立海洋科学高等学校のほか、横須賀市、神奈川県も事前調整などで重要な役割を果たした。
注文は横須賀市立病院(横須賀市長坂)から出された。病院スタッフで臨床工学技士の橋口宗成さん、看護師のクォン・ヘリムさんがスマホに入れてある出前館のアプリで吉野家の牛丼弁当4つを注文すると、陸路で約4キロ離れた場所に開設された吉野家のキッチンカー「オレンジドリーム号」のタブレットが受け付けた。
ここからはそれぞれの専門業者が本職の腕を見せた。
キッチンカーの腕利きの調理人が素早く調理して専用ボックスに収めると、待機していた出前館の配達員に手渡す。配達員はドローンが待機している地元の景勝地、立石公園まで徒歩で、ゆれないように、くずれないように運び、ドローンの担当員にリレー。ドローンの担当者は荷室に格納すると準備完了をドローンの運行管理者に連絡する。運航管理がドローンの飛行指示を出すと、ドローンは自動で飛び立ち、海上に設定されたルートをたどり、上空70~100mをフライト。目的地の病院に近づくと海上で方向を変え、河川の上空、海洋科学高校のグラウンドなど協力を得られた場所を航路にし、注文から15分で病院上空に到着した。約5.2キロを飛び、ドローンが着陸。ドローンから切り離された荷室のボックスの牛丼弁当は、具のくずれもなくできたての湯気がのぼった。
横須賀市立市民病院は新型コロナウイルス感染症の入院が必要と診断された中等症の患者を受け入れる「重点医療機関」に指定されている。病院周辺に昼食がとれる場所は少なく、外出には時間的制約があり、新型コロナウイルス感染症対策で病院内の食堂の運営時間が短縮されている。医療従事者にとって温かいランチを取りにくい。またオンライン診療の導入も検討しており、医薬品配送の可能性を見据え今回の実験に参加する意味があると判断、今回の実験に協力することになった。
この日運ばれた牛丼弁当の4個のうち2個を、注文を出した橋口さん、クォンがその場で味わうと、クォンさんが「あつあつです」と笑顔で満足そうな表情を浮かべた。
この取組みは2019年12月に神奈川県の「ドローン前提社会の実現に向けたモデル事業」として採択されたエアロネクストの「ドローン物流定期ルートの開設に向けた実証実験」、横須賀市の地域課題解決を目指した「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」の一環で、2022年度の「レベル 4 」解禁に向けたドローン定期配送を見据えた取組みだ。
実験で使ったドローンは、エアロネクストが株式会社自律制御システム研究所(ACSL、東京、6月24日に社名をACSLに変更予定)と共同開発した物流専用の回転翼機。改善を続けてきた機体の5世代目で、公に飛行するのはこの日が初めてとなった。6つのローターを持ち、バッテリーを4本積み、5キロの荷物を運べる。エアロネクストが独自開発した機体構造設計技術「4D GRAVITY」も搭載している。最大の特徴は、進行方向に安定して効率よく進むことを最優先して考えられた設計だ。流線形の機体は、前後が明確なスタイルで、前進時の前傾を考慮した空力をデザインに反映している。
エアロネクストは山梨県小菅村で定期航路の開設を目指し、物流大手などと組み連日、村民の注文に応じて配送ドローンを飛行させている。実装が進めば機体の量産も見込めるため、月末にはルートを増やすなど、より高度な運用を目指す。
エアロネクストの田路圭輔代表取締役CEOは、「物流におけるドローンをとりまく環境は、法整備が先回りしてルール作りが先行し、機体のクオリティ、操縦者のクオリティをこれに十分、見合うようにする必要がある」と訴え、こうした実験の成果を今後につなげる構えだ。
この日の実験について横須賀市立市民病院の管理者、北村俊治氏は「将来的には医療物資の輸送などへの応用も期待できる」と展望した。出前館の広報担当者は、配達員の確保、人件費などのコストの壁をドローンが超える可能性に言及、「現在配達エリアに含まれていないエリアにも、ドローンが無人で届けられることになれば、事情がかわる」と期待を寄せた。
建設設備大手の三機工業株式会社(東京)は7月11日、グループ会社、有限会社キャド・ケンドロ(仙台市)と共同で狭小空間ドローン開発の株式会社リベラウェア(Liberaware、千葉市)のドローンとレーザースキャナを併用した既存設備の3Dモデル化するデジタル化手法を確立したと発表した。Liberawareも同日、三機工業に「IBIS2」を「導入した」と発表した。
三機工業は設備更新や模様替えなどのさいに、現場を3Dモデリングし、現状を把握してから取り組む。完成後の更新や追加工事で現状が図面通りになっていないことが多く、作業の妨げになるおそれがあるためだ。しかし天井裏などでダクトや配管が込み入っている場合に、すべての設備にはレーザーが届き切らずに十分な3Dモデルができあがらない場合がある。こうした課題を乗り越える手法の開発を進めているところ、今回、ドローンとレーザースキャナを併用してデジタル化する手法を開発した。
同社が実施した実用化検証では、IBIS2とレーザースキャナを併用した場合、従来の3Dスキャン手法と比べ、機械室などの天井の無い空間の場合、認識できた建築部材が約135%、天井の一部が解体された天井裏空間で約400%向上したという。
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丸紅株式会社(東京)は7月8日、大阪・関西万博でデモフライトを披露する計画を公表している英ヴァーティカルエアロスペース社(Vertical Aerospace Group Ltd.)開発の5人乗りAAM「VX4」について実施を「見送る」と発表した。英国で行われているVX4試験機での有人飛行試験で判断したという。
丸紅は発表の中で「現在英国で行われているVertical社製VX4試験機による有人飛行試験の進捗状況から、大阪・関西万博でのデモフライトへの対応を見送ることとなりました」と伝えた。VX4のキャビンを再現したモデル空間は予定通り万博会場に出展し、8月から搭乗体験を実施する予定という。
また丸紅が万博で飛ばすもうひとつの機体、米LIFT AIRCRAFT社(以下、「LIFT社」)製の1人乗り機「HEXA」については、デモフライトを近く再開させる方向で調整中だ。HEXAは4月26日のデモフライト中に部品が落下したためデモフライトを中断して原因究明を続けている。
その結果「モーター搭載箇所の部品について、サプライヤーが仕様と異なる素材の部品を誤って供給していたことが判明」したと説明し、「当該部品の交換およびその他重要部品の再点検を完了した上で、再発防止策として、LIFT社において部品の受領・品質管理について包括的な監査を実施し、必要な工程について改善したことを確認しました。関係機関の許可を以て、今後大阪・関西万博でテストフライトを実施し、十分に最終確認を行った後、安全を最優先として関係機関および関係各社と協議・判断し、デモフライトの再開に関しては改めてお知らせいたします」と伝えている。
丸紅は大阪・関西万博でのAAM運航事業者4グループのひとつだ。
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英ロックバンド、オアシスの再結成後初のコンサート会場となるウェールズの首都カーディフのプリンシパリティ・スタジアムで現地時間7月2日、ドローンで形作られた「OASIS」のロゴが浮かび上がった。ツアーは7月4日に始まり、11月まで世界各国をまわる。ツアー初日を翌々日に控えたドローンの演出はオアシスの公式アカウントで公開されている。
ドローンのロゴは公演開始前に上空に描かれ、オアシスの再結成ツアー開催を祝福し、喜ぶファンの気分の高揚に貢献した。
オアシスは1991年にマンチェスターで結成され、7000万枚以上のアルバムを売ったロックバンドだ。2009年に解散したが昨年2024年に再結成した。再結成後初のコンサートツアーが7月4日にはじまり、北米、南米、オーストラリア、韓国など各地をまわる。2025年は11月23日のサンパウロ公演で幕を閉じる予定だ。日本公演も10月に予定されている。チケットはいったん予定枚数の販売を完了したが、機材席の解放による追加販売が決定し、7月12日正午に抽選の受付を開始する予定だという。
音楽シーンとドローンとは、MV撮影、ライブ映像撮影、演出としての屋内ドローンショーなどの例があるなど縁があり、今後も活用の幅が広がる可能性がある。
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AAM開発の米ジョビー・アビエーションは6月30日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでパイロットが搭乗し、垂直離着陸の固定翼飛行を実施した。ジョビーは「2026年に最初の乗客を運ぶ」と2026年のサービス開始を目指している。ジョビーは開催中の大阪関西万博で「運航事業者」にもなっている。
ジョビーによるドバイでの飛行は、「piloted, vertical-takeoff-and-landing wingborne flights」で、パイロットが乗り、垂直離着陸をしたうえで、機体の固定翼で移動した飛行で、「eVTOL分野では初めての取り組み」としている。ジョビーはこの飛行を通じて、ドバイ地域での商用市場準備の取り組みを開始したことも明らかにした。ジョビーは直接運航、航空機販売、地域パートナーシップを商業化戦略の3本柱と位置付けていて、今回の試験飛行が「重要な一歩」と話している。
試験飛行はドバイ道路交通局、ドバイ民間航空局、UAE民間航空総局と連携して実施された。またドバイ道路交通局長官兼理事会会長のマタール・アル・タイヤー会長が立ち会った。
ジョビーは、ドバイ国際空港(DXB)、ペルシア湾の人工島であるパーム・ジュメイラ、現在建設が進められている世界第2の面積の人工のマリーナであるドバイ・マリーナ、超高層ビルブルジュハリファで知られるドバイ・ダウンタウンでの商業サービス導入を目指している。バーティポートはすでに建設が進められている。
ジョビーはDXBからパーム・ジュメイラまでをエアタクシーサービスで移動した場合、移動時間は12分で、45分かかる車での移動時間が大幅に短縮されると見込んでいる。
ジョビーがエアタクシーサービスで使う機体は電動で、パイロット1人と最大4人の乗客を乗せ、最高時速200マイル(約320km)で輸送できる設計と説明していて、ジョビーは「短時間の通勤、小旅行、地域間のシームレスな移動のために、より速く、より静かで、より便利な空の旅を提供します」と話している。
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東京株式市場グロース市場で7月2日、ACSL株がストップ安となった。午前9時29分にいったん1187円で寄り付いたがその後も売りが殺到し、再び取引の成立したない売り気配で推移した。ACSLは前日の7月1日、前CEOによる不適切取引判明を発表していて嫌気を誘ったとみられる。
ACSL株は取引き開始前から売り注文を集めていて、取引開始がはじまったしばらく値が付かないまま推移した。午前9時29分に値幅制限いっぱいいの、前日終値比300円安のストップ安となる1187円で取引が成立したが、その後も売りは止まらず、再び取引が成立しない展開が続いた。
ACSLが7月1日に発表した「お知らせ」はこちら
株式会社ACSLは7月1日、今年4月30日に退任した鷲谷聡之前代表取締役CEOが不適切な取引を行っていたとして、全容解明のため外部の弁護士と社外取締役の4人で構成する特別調査委員会を設置したと発表した。ACSLは業績に与える影響は精査中で、過年度業績への影響はないと見込んでいる。特別調査委員会7月中旬をめどに最終報告書をまとめる見込みだ。
ACSLによると前CEOによる「個人的な経済状況に関する懸念」が3月に浮上し、4月に社内調査に着手した。調査で「(前CEOが)代表取締役の立場を個人的に悪用して、2025 年3月から、一部業者との間で実態のない不適切な取引を行っていた事実が判明」したという。ACSLは全容解明、厳正な対処、再発防止策構築を目的に7月1日の取締役会で特別調査委員会設置を決議した。
ACSLは「特別調査委員会による調査に全面的に協力し、早急に調査を進めてまいります。また、特別調査委員会による調査の結果、明らかとなった事実関係等につきましても、受領次第速やかに開示いたします」とコメントしている。
ACSLの発表はこちら。