総務省消防庁は、全国の消防本部などの職員を対象に、ドローン運用の指導役を育成する「ドローン運用アドバイザー育成研修」を福島ロボットテストフィールド(RTF、南相馬市、浪江市)で開催した。アドバイザー育成研修は前年に続き2回目で、今回は、テレビ番組の撮影や調査向けの空撮のほか、消防本部向けの研修の実績もあるドローンのスペシャリスト集団、株式会社ヘキサメディア(埼玉県川口市)が指導を担当し、実践を重視した研修を実施した。研修には全国の消防職員が参加。研修は2日間の実技訓練を含めた4日間の日程で、修了者は「ドローン運用アドバイザー」として、各所属先で災害時にドローンを運用する際には、リーダーとしての役割が期待される。
研修参加者ドローンの運用経験を持つ消防職員で、消防庁の募集に応募した中から地域的な偏りが生じないよう考慮して決められた。研修カリキュラムは、消防の活動現場を想定して実戦に応用できるよう、消防庁とヘキサメディアが練り上げた。指導的立場となるアドバイザーの育成を目的としていることから、前年に開催された研修に参加し、すでに所属先でアドバイザーとして活躍している1期生の消防職員が、指導者として参加したことも特徴だ。
研修は初日に講義、2日目、3日目に実技が行われた。講義では、1期生が実際の災害現場でドローンを活用した際の映像を交えながら、運用上の留意事項を提示するとともに、土砂災害時の活用方法や、最新の映像伝送ツールが紹介されるなど、ドローンに関する幅広い内容が盛り込まれた。
実技では、3人ずつ5班に分け、5種類のカリキュラムを順番にこなした。5種類は「NIST/ATTI」、「自動航行」、「目視外高高度」、「捜索訓練」、「構造物飛行訓練」。それぞれについて1時間ずつ、各班ともすべてのカリキュラムをこなす。3日目は、2日目と同じカリキュラムを、運用の難易度を高めて、さらなる技能の向上を目指した。また、2、3日目の日没後には、全班合同で 夜間訓練も実施した。
実技はいずれもRTFの施設を有効活用した。
捜索訓練では住宅、ビルなどを再現した「市街地フィールド」と呼ばれるエリアで、要救助者にみたてたスタッフを上空から捜索する運用を実施。班の3人は指揮者、操縦者、補助者に役割を分担し、適切な飛行と、ドローンの飛行状況の確認と伝達、モニターから得られる被災現場の状況の確認と伝達を行った。また、1期生がこの訓練の指導にあたり、「現場では思っている以上に自分の役割に集中するもの。モニターに要救助者が確認できたのかどうかなど、お互いに声をかけあうことが重要」などの助言をしていた。
構造物飛行訓練には、6階建て高さ30メートルの試験用プラントが使われた。NISTの技能評価に使われる、底に円や文字が描かれた「バケツ」をあらかじめスタッフが設置。参加者はそのバケツをドローンで探し、描かれた文字を正確に読み取る。2日目と3日目では、バケツの設置する角度を変えてある。2日目では上空からバケツを探せば、文字が読み取れる角度に設置してあり、3日目はその角度を変更する。参加者は3日目には、2日目とは異なる飛行をしなければならなくなる。
ヘキサメディアの野口克也代表取締役は、「カリキュラムの検討は総務省消防庁と相談しながら進めました。検討時点では、いくつものカリキュラムを構想して、それを5つに凝縮、整理して提供したのが今回の研修です。火災現場の実践に活かせることと、指導法そのものを持ち帰っていただくという趣旨を重視しました」と語る。
参加した消防隊員の1人は「ドローンは普段から扱っていますが、災害現場を再現して訓練することは難しいうえ、災害現場で必要となる技能を体系的に修得できる機会はありません。今後ドローンは間違いなく必要な技能になるので、この機会に技能を身につけ、それを地元で生かしたいと思っています」と話した。
「ドローン運用アドバイザー育成研修」を企画した総務省消防庁消防・救急課の平田警防係長は、「参加者はある程度ドローンの操縦のスキルを持っています。今回はさらに一歩進んで、アドバイザーとして、研修で身につけた技術や、指導法を持ち帰って頂き、主導的な立場で所属する消防機関に還元してほしい。今回指導して頂いたヘキサメディアの指導法そのものも教材です。ヘキサメディアは、オーダーメイドで『消防がどう使うか』という視点に立って内容を練って頂いたので得るところは多いと思います。」と実践的な内容にこだわったことを強調。
また現場での生かし方について平田氏は、「たとえば、試験用プラントにバケツを設置して底の円や文字を読み取る訓練は、適切な場所にドローンを飛ばし、カメラの向きを調整してこそ可能になります。細かい技術ですが、これが災害の第1次的な情報収集に役立ちます。建物火災の現場では火災原因調査のために写真を撮り、客観的な情報を収集してどのように燃えたのかを判断します。ただ、付近の状況によっては最適な角度から撮影ができない現場があり、そういった場合にドローンで最適な角度から撮る技術が役立ちます」と解説した。
さらに今回の研修の意義について、平田氏は「災害現場で必要とされる技能を訓練できる環境はなかなかありません。ここまで環境を整えた中で訓練に集中できることは非常に有効だと思っています」と述べた。
総務省消防庁は11月、RTFを管理する福島県、一般公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と、災害対応でのドローンの利用促進に関する協定を締結しており、今後も研修のバージョンアップを重ね、ドローンの活用を担う消防職員の拡大と、知識・技能の習熟を図ることで、各地域における災害対応力の向上を目指す方針だ。
福島県、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構福島ロボットテストフィールド(RTF)、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は4月6日、合成樹脂や合成繊維など石油化学製品を生産する石油化学プラントの点検にドローンを活用するさいの、現場作業の要領をまとめた実務マニュアル、要点をまとめたチェックリスト、点検に従事する人材の育成に向けた教育カリキュラムを作成し公表した。
公表したのは「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関する実務マニュアル」、 「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関するチェックリスト」 、「ドローンを用いたプラント点検事業者教育カリキュラム」の3点。プラント点検でドローン利活用を加速させることが目的で、RTFが「福島ロボットテストフィールドを活用した無人航空機利活用事業者認定とパブリックセーフティのあり方に関する調査事業」をJUIDAに委託していた。
「実務マニュアル」は、点検のためにドローンを飛行させるさいに共通する全般的な留意点と、「屋外俯瞰飛行」「屋内外近接飛行」「屋内暗所飛行」「屋内外目視外飛行」のそれぞれの飛行を行う場合の留意点を整理した作業現場での手引き。ドローン導入促進を後押しするとともに、事業者認定の基準となることも見込まれている。「チェックリスト」は留意事項を一覧にまとめた表で、運用時にもれなく確認するさいの活用を想定した。「教育カリキュラム」は点検を安全に遂行するために必要な技能と知識の体系で、RTFを利用した実技訓練方法が盛り込まれている。
石油化学業界は、事故防止、品質の維持・工場、生産効率の維持・向上のため、設備の点検は業務上不可欠で、多くの設備は点検を関連法で定めている。一方で人手不足、高い技能を持つ経験者の引退など保安力の低下懸念が指摘されている。点検の保安力を維持するため、新技術の活用が期待されていて、ドローンで安全にプラント点検が行うようにするための基準や運用方法が求められている背景がある。
このため総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省で構成する「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」は3月27日、カメラを搭載したドローンによる点検作業の指針となる「ガイドライン」を改訂して「ver2」を公表。ドローンの適用範囲を屋内にも拡大し、ドローンの点検が目視点検の一部を代替できることを明示した。
一方で、現場の状況に応じて飛行方法を使い分ける必要があり、今回飛行方法ごとの留意事項を整理した。
マニュアルには策定にあたってRTFで実施した実験の概要もまとめてある。
RTFの紹介ページ、
JUIDAの紹介ページ
経済産業省、厚生労働省、消防庁で構成する「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」は3月27日、カメラを搭載したドローンによる化学プラントの点検作業の指針となる「ガイドライン」を改訂した。プラントを点検するさいのドローンの適用範囲を従来の「屋外」から「屋外及び屋内」に拡大したことや、ドローンの点検が目視点検の一部を代替できることを明示したことが柱。3省庁は今後、関係法令の見直しも含め、ドローンによるプラント点検の拡大を後押しする方針だ。
3省連絡会議がまとめたのは、ドローンによる点検の安全な運用の指針となるガイドラインの改訂版「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドラインver2」と、指針のベースとなる先行事例を分析し、紹介した「プラントにおけるドローン活用事例集ver2」。それぞれ、昨年3月の公開版を見直して改訂した。
また新たにドローンによる点検の利点と課題を、実証実験をふまえて整理した「プラント保安分野における目視検査の代替可能性に関する考察」も公開した。
改訂ガイドラインは、タンク、ボイラー、トッパー、フレアスタックなどのプラント設備点検に、ドローンの活用に期待が高まっていることを背景にまとめられた。化学プラントでは、設備の性格上、高い防爆対策が求められることもあり、標準的な運用方法の指針を求める声にこたえる意味がある。
改訂ガイドラインでは、屋内特有の要件があることを明記し、対応可能な業者を選定する必要性に言及。ドローンのプラント屋内飛行については、GPSに頼らず、目視外での飛行が必要なケースが想定されることから「十分に技量を要する操縦者でなくてはならない」と盛り込んだ。また使用機体についても、「衝突回避機能を有することや、ガードなどの機構を有することで設備等に損傷、破損を生じない機構を有する必要がある」と指摘した。
さらに飛行計画書作成段階で、「日常的に人が入ることができない空間や高所において活用する場合は、設備の目印、突起物などの障害物の有無などに十分な確認を行う」ことや、飛行時の安全確保のため「安全運航管理者に加え、操縦以外のアドバイス(たとえば自己位置確認、カメラ及び照明の角度等)を行う補助者の少なくとも3人以上の体制が望ましい」ことも追記した。
あわせてリスク要因も「高温または低温の場合、電子機器が故障し操縦困難になること」「ドローン自身に起因する気流の乱れにより操縦が困難になること」など9点を列挙。これに対応するため、「温度条件による飛行中止基準を設ける」「視界不良による飛行中止判断基準を設ける」「飛行中止判断者の配置」など操縦不能への対策や、「アセスメント飛行の実施」「衝突回避機能の搭載」など、設備を破損させないための対策、「屋内の突起物や狭小部の事前確認」といった突起物や狭小部に拘束されないための対策などを列記した。
プラント点検は、作業の迅速化、効率化、簡素化、労働災害撲滅などの観点からカメラを搭載したドローンの活用に対する期待が高まっている。一部で試験的導入は始まっているものの、本格的な導入には安全な運用のための指標が必要であるとを求める声があり、経産省など3省が昨年3月、ガイドラインを策定した。今回はドローンの活用を従来屋外から拡大し、屋内での有効性、目視の代替可能性を認めたことで、プラント点検へのドローン導入の加速が期待される。
一方で、点検には、プラントごとに作業に関わるきまりが、それぞれのベースとなる法令に基づいて定められている。原油タンクの点検は消防法、ボイラーであれば労働安全衛生法、原油を異なる沸点をもつ留分ごとに分類するトッパー(常圧蒸留装置)は高圧ガス保安法などに基づいて決められていて、点検は作業員による目視を前提としている。
今回、カメラによる目視の代替が可能であることが確認できたことから、3省はカメラを搭載したドローンによる点検を可能にするための関係法令の見直しに着手する方針だ。また、余剰ガス償却塔であるフレアスタックなど、カメラによる点検を目視代替になることが認められているプラントについても、ドローンの活用による迅速化、効率化、労働災害撲滅を後押しする方針だ。
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