国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月13日、情報漏洩や乗っ取りなどへの対策が講じられたドローンの技術基盤開発を目的とした委託事業、助成事業として開発している高セキュリティドローンの試作機を公表した。暗号化、相互認証などを施したうえ、セキュリティの性能は国際規格ISO15408に基づいて分析し評価する。ここまでの開発期間は実質8か月で、今秋に完成予定。2021年度中の市場投入を見込む。当面は、高い安全性を背景に、政府の調達に対応できる準備を整え、各省の入札への参加を目指す。
試作機はNEDOが2020、21年度で進めている「安全安心なドローン基盤技術開発事業」として進めている技術開発の一環だ。株式会社自律制御システム研究所(ACSL、東京)、ヤマハ発動機株式会社(静岡県)、株式会社NTTドコモ(東京)、株式会社ザクティ(大阪市)、株式会社先端力学シミュレーション研究所(ASTOM R&D、東京)の民間企業5社がコンソーシアムを組んでNEDOから委託、助成を受けた。
コンソーシアムリーダーを務めるACSL社長の鷲谷聡之氏は説明会で、試作機のセキュリティについて、ドローン、GCS、クラウドシステムとその間の通信にまたがる「一気通貫のセキュリティ」と説明。具体的には「すべてを明らかにするとセキュリティにならないので」と細部の言及を避けながら、「ドローン本体で撮った画像データや、それが送られる先となるコントローラー、GCS、クラウド、その間の通信でしっかりと暗号化なり相互認証なりを実施します。飛行データについても暗号化などをする概念で対応しています」と述べた。
セキュリティ性能の高さについては、通信機器のセキュリティ機能要件を定めた国際規格ISO15408に基づいて分析する手法を採用すると表明。これにより「事業の名称通り、安全安心を確保することにつながります」(鷲谷氏)と述べた。
試作機はNEDOの「安心安全」事業の「標準機」で、納品先が用途に応じて機能を追加したりアタッチメントを取り付けたりするカスタマイズが想定されている。そのため、開発は拡張性や使い勝手の高さなどを重視した。仕様も、老朽インフラ点検、自然災害災害対応、農業など公共部門で、情報漏洩の不安を抱えずに使える条件での使用に耐えることを念頭に置いて開発されいるため、政府調達を想定している。
具体的には、試作機は点検や災害の被災状況把握に使い勝手のよい小型空撮機で、製品化想定仕様としての重さは1.7㎏、飛行時間は30分、防塵・防水性能はIP43。カメラは4K動画の撮影が可能なスタンダードカメラのほか、人命救助などでの活用が期待される可視+IRコンボカメラや、植物の生育状況の把握に活用が期待されるマルチスペクトルカメラへの切り替えがワンタッチで可能な機構を備える。プロポ、GCSも使いやすさを追求し、ユーザーとなり得る省庁などのフィードバックを受けて開発を進めており、今後も直感性の高い仕様を目指す。
そのほかASTOM R&Dが開発した機体専用の静音プロペラや、Bluetooth5.0採用のリモートID、高密度バッテリー、3方向の障害物検知なども備える。ドコモとACSLがタッグを組んで開発した独自フライトコントローラーは、APIを公開、仕様部品のインターフェイスも公開することにしており、カスタマイズが可能だ。
事業はNEDOによる委託、助成事業。委託事業として開発した知的財産は国に帰属、助成事業は実施者に帰属する。期間は2020、2021年度で、予算は16億800万円。ただし、実際に開発に着手したのは2020年5月で、説明会開催の2021年4月13日まで、実質8か月でここまでの開発を進めた。
ここまでの開発状況の評価について、企画を立案した経済産業省製造産業局産業機械課次世代空モビリティ政策室長の川上悟史氏は、「昨年5月から1年も経ずない期間の間に、ACSLの鷲谷さんが文字通り奔走し、短間で、品質も申し分ないものが出てきたという感想です」と評価した。それを受けたコンソーシアムリーダーの鷲谷氏も「まだ開発途中ですが、ここまでは100点満点で120点だと思っています。緊急事態宣言中の5月に事業を開始し、全国各地にある5社がリモートワークを駆使して、実際のモノづくりを行ってきました。そのうえで難易度の高いお題をクリアしてきたと思っています。一方で、開発はまだ途中です。事業終了後の品質に持っていくこと、量産体制にもっていくことにはまだ高い壁が残っていると思っています」と自己評価をしたうえで手綱を引き締めた。
NEDOロボット・AI部統括主幹、金谷明倫氏は「NEDOにはもうひとつのドローン事業であるDRESSプロジェクト(「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」)があり、これと組み合わせることでシナジーが得られると考えています」と手ごたえを表明した。
公開された試作機が標準機として完成したあとは、市場に投入されることになる。NEDOの金谷統括主幹は「事業終了後に速やかに商品化を進めて頂き、2021年度中の市場投入を着実に実現して頂きたい」と市場投入を注文。「事業終了後に公開されるフライトコントローラーのAPI、部品のインターフェイスを活用頂くことで付加価値が高まる。高機能バッテリー、モーターによるカスタマイズや、このドローンが取得したデータを活用頂けることで、ビジネスのエコシステムが醸成されることを期待しています」と事業を拡大させる効果に期待した。
経産省の川上室長は「ACSL以外のドローンメーカーも、公開されたAPIを活用してドローンを開発して頂けることが、国のプロジェクトとして実施する意味だと思っています。機体も普及させ、技術も普及させたい」と述べた。
ドローンによる設備点検高度化を目指す電力会社のコンソーシアム、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合の神本斉士チーフエグエクティブオフィサーは「電力設備の高経年化、自然災害対策に取り組んでいるが、全国に43万期ある電力設備の点検の生産性を高めるには、複数の鉄塔を、一緒に、一度に、一気に見ることができないといけない。多種多様な形状があるので可能な限り近寄りたい。今回の機体はいろんな機能がついているので楽しみに思った次第です」と期待を表明した。
開発した5社は、事業終了後、政府調達に向けては年後半にもはじまる調達むけの入札に参加することを目指す。また、民間市場への販売にも力を入れる。コンソーシアム内での収益配分などは今後調整する。コンソーシアムリーダーの鷲谷氏は、「ACSLの立場としては、他のコンソーシアム参画企業と調整できれば、この機体をACSLブランドで発売したいと考えています。政府調達だけで投資回収ができるかといえばNO。ほかの民間企業、海外も含め、たとえばシンガポールやインドなど東南アジアを中心に積極的に販売したい」と表明した。
また、普及に必要な条件や要素について、経産省の川上室長は「価格」を指摘。「国が作ったものだから高いのではないかと見られていると聞いています。その予測を裏切りたいと思っています。政府機関だけでなく、民間にも多く使って頂きたい。機体も技術も普及することを通じ、ドローン市場の拡大につながることを期待しています」と述べた。
ACSLの鷲谷氏は、川上氏の「価格」という回答を受けて「台数が多く売れるほど部品などの調達コストの低減が図れるので、しっかりと製品の優位性を伝え、日本にも海外にも発信していきたいと考えています」と決意を表明した。
丸紅株式会社(東京)は7月8日、大阪・関西万博でデモフライトを披露する計画を公表している英ヴァーティカルエアロスペース社(Vertical Aerospace Group Ltd.)開発の5人乗りAAM「VX4」について実施を「見送る」と発表した。英国で行われているVX4試験機での有人飛行試験で判断したという。
丸紅は発表の中で「現在英国で行われているVertical社製VX4試験機による有人飛行試験の進捗状況から、大阪・関西万博でのデモフライトへの対応を見送ることとなりました」と伝えた。VX4のキャビンを再現したモデル空間は予定通り万博会場に出展し、8月から搭乗体験を実施する予定という。
また丸紅が万博で飛ばすもうひとつの機体、米LIFT AIRCRAFT社(以下、「LIFT社」)製の1人乗り機「HEXA」については、デモフライトを近く再開させる方向で調整中だ。HEXAは4月26日のデモフライト中に部品が落下したためデモフライトを中断して原因究明を続けている。
その結果「モーター搭載箇所の部品について、サプライヤーが仕様と異なる素材の部品を誤って供給していたことが判明」したと説明し、「当該部品の交換およびその他重要部品の再点検を完了した上で、再発防止策として、LIFT社において部品の受領・品質管理について包括的な監査を実施し、必要な工程について改善したことを確認しました。関係機関の許可を以て、今後大阪・関西万博でテストフライトを実施し、十分に最終確認を行った後、安全を最優先として関係機関および関係各社と協議・判断し、デモフライトの再開に関しては改めてお知らせいたします」と伝えている。
丸紅は大阪・関西万博でのAAM運航事業者4グループのひとつだ。
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英ロックバンド、オアシスの再結成後初のコンサート会場となるウェールズの首都カーディフのプリンシパリティ・スタジアムで現地時間7月2日、ドローンで形作られた「OASIS」のロゴが浮かび上がった。ツアーは7月4日に始まり、11月まで世界各国をまわる。ツアー初日を翌々日に控えたドローンの演出はオアシスの公式アカウントで公開されている。
ドローンのロゴは公演開始前に上空に描かれ、オアシスの再結成ツアー開催を祝福し、喜ぶファンの気分の高揚に貢献した。
オアシスは1991年にマンチェスターで結成され、7000万枚以上のアルバムを売ったロックバンドだ。2009年に解散したが昨年2024年に再結成した。再結成後初のコンサートツアーが7月4日にはじまり、北米、南米、オーストラリア、韓国など各地をまわる。2025年は11月23日のサンパウロ公演で幕を閉じる予定だ。日本公演も10月に予定されている。チケットはいったん予定枚数の販売を完了したが、機材席の解放による追加販売が決定し、7月12日正午に抽選の受付を開始する予定だという。
音楽シーンとドローンとは、MV撮影、ライブ映像撮影、演出としての屋内ドローンショーなどの例があるなど縁があり、今後も活用の幅が広がる可能性がある。
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AAM開発の米ジョビー・アビエーションは6月30日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでパイロットが搭乗し、垂直離着陸の固定翼飛行を実施した。ジョビーは「2026年に最初の乗客を運ぶ」と2026年のサービス開始を目指している。ジョビーは開催中の大阪関西万博で「運航事業者」にもなっている。
ジョビーによるドバイでの飛行は、「piloted, vertical-takeoff-and-landing wingborne flights」で、パイロットが乗り、垂直離着陸をしたうえで、機体の固定翼で移動した飛行で、「eVTOL分野では初めての取り組み」としている。ジョビーはこの飛行を通じて、ドバイ地域での商用市場準備の取り組みを開始したことも明らかにした。ジョビーは直接運航、航空機販売、地域パートナーシップを商業化戦略の3本柱と位置付けていて、今回の試験飛行が「重要な一歩」と話している。
試験飛行はドバイ道路交通局、ドバイ民間航空局、UAE民間航空総局と連携して実施された。またドバイ道路交通局長官兼理事会会長のマタール・アル・タイヤー会長が立ち会った。
ジョビーは、ドバイ国際空港(DXB)、ペルシア湾の人工島であるパーム・ジュメイラ、現在建設が進められている世界第2の面積の人工のマリーナであるドバイ・マリーナ、超高層ビルブルジュハリファで知られるドバイ・ダウンタウンでの商業サービス導入を目指している。バーティポートはすでに建設が進められている。
ジョビーはDXBからパーム・ジュメイラまでをエアタクシーサービスで移動した場合、移動時間は12分で、45分かかる車での移動時間が大幅に短縮されると見込んでいる。
ジョビーがエアタクシーサービスで使う機体は電動で、パイロット1人と最大4人の乗客を乗せ、最高時速200マイル(約320km)で輸送できる設計と説明していて、ジョビーは「短時間の通勤、小旅行、地域間のシームレスな移動のために、より速く、より静かで、より便利な空の旅を提供します」と話している。
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東京株式市場グロース市場で7月2日、ACSL株がストップ安となった。午前9時29分にいったん1187円で寄り付いたがその後も売りが殺到し、再び取引の成立したない売り気配で推移した。ACSLは前日の7月1日、前CEOによる不適切取引判明を発表していて嫌気を誘ったとみられる。
ACSL株は取引き開始前から売り注文を集めていて、取引開始がはじまったしばらく値が付かないまま推移した。午前9時29分に値幅制限いっぱいいの、前日終値比300円安のストップ安となる1187円で取引が成立したが、その後も売りは止まらず、再び取引が成立しない展開が続いた。
ACSLが7月1日に発表した「お知らせ」はこちら
株式会社ACSLは7月1日、今年4月30日に退任した鷲谷聡之前代表取締役CEOが不適切な取引を行っていたとして、全容解明のため外部の弁護士と社外取締役の4人で構成する特別調査委員会を設置したと発表した。ACSLは業績に与える影響は精査中で、過年度業績への影響はないと見込んでいる。特別調査委員会7月中旬をめどに最終報告書をまとめる見込みだ。
ACSLによると前CEOによる「個人的な経済状況に関する懸念」が3月に浮上し、4月に社内調査に着手した。調査で「(前CEOが)代表取締役の立場を個人的に悪用して、2025 年3月から、一部業者との間で実態のない不適切な取引を行っていた事実が判明」したという。ACSLは全容解明、厳正な対処、再発防止策構築を目的に7月1日の取締役会で特別調査委員会設置を決議した。
ACSLは「特別調査委員会による調査に全面的に協力し、早急に調査を進めてまいります。また、特別調査委員会による調査の結果、明らかとなった事実関係等につきましても、受領次第速やかに開示いたします」とコメントしている。
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スイスのドローンメーカーフライアビリティ社(Flyability SA)は、屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」用の新しい大容量バッテリーを発表し、6月26日に販売を始めた。日本でも同社の正規販売代理店ブルーイノベーション株式会社(東京)が6月27日に発売を発表した。新しい大容量バッテリーを使うと1回の充電で、Rev 6 LiDARを搭載した場合の飛行時間が13分30秒となり、標準バッテリーの9分10秒から47%増えるという。
発表によると、ELIOS3用の新しい大容量バッテリーの容量は187Wh(8200mAh)と標準バッテリーの99Whから増強された。LiDAR搭載時の飛行時間を9分10秒が13分30秒に増やすことで作業効率を高める。なお、ペイロードがない場合の飛行時間は17分(標準バッテリーでは12分50秒)、UTペイロードを搭載した場合は11分30秒(標準バッテリーでは7分30秒)だ。また推奨充電サイクル(推奨充電回数)も標準バッテリー(50回)の2倍の100回になる。充電時間は大容量バッテリー専用の充電器を使えば、標準バッテリーと同じ1時15分だ。
一方、使用可能な周囲の気温は従来の45度から35度にかわるので注意が必要だ。
利用にあたって利用者はユーザーマニュアルを理解することとファームウェアのアップデートが義務付けられる。
ELIOS3は、コンピュータービジョン、LiDARテクノロジー、NVIDIAのグラフィックエンジンを独自に組み合わせた「Flyaware」と呼ぶSLAMエンジンを搭載する屋内点検ドローンで、屋内を飛行中に自己位置を高い制度で推定し、リアルタイムで3Dマップを作成したうえパイロットの手元のタブレットにもリアルタイムに表示するなど屋内点検に求められる機能を集めている。GeoSLAMsソフトウェアパッケージとの統合で三次元データ化も可能だ。Flyabilityが英Cygnus Instruments(シグナス・インスツルメンツ社)との提携で開発され、2024年5月に導入された「UT 検査ペイロード」を使えば、立ち入り不可能な空間内の高い場所や狭小空間で、超音波による壁面の厚さ測定も可能だ。
フライアビリティ社は大容量バッテリーを、フライト最適化への取り組みを強化する技術と位置付けている。今年(2025年)4月に搭載したスマートRTH(Smart Return-to-Home)から始まっていて、最短の安全なルートで出発点に戻る機能や、バッテリー交換後にElios 3が自律的にスマートRTH発動地点に正確に戻りミッションを再開、継続するという。フライアビリティは「これにより飛行時間が短縮され、運用効率が向上し、パイロットはバッテリーや飛行時間の管理ではなく、最も重要なデータ収集に集中することができる」と発表している。
ブルーイノベーションも「これにより、パイロットはより余裕をもった飛行計画を立てることができ、点検業務の安全性と効率性が大幅に向上します。さらに、充電可能回数が従来の2倍に増加したことで、バッテリーの交換頻度と運用コストの削減にも貢献します」とコメントしている。
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