国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月13日、情報漏洩や乗っ取りなどへの対策が講じられたドローンの技術基盤開発を目的とした委託事業、助成事業として開発している高セキュリティドローンの試作機を公表した。暗号化、相互認証などを施したうえ、セキュリティの性能は国際規格ISO15408に基づいて分析し評価する。ここまでの開発期間は実質8か月で、今秋に完成予定。2021年度中の市場投入を見込む。当面は、高い安全性を背景に、政府の調達に対応できる準備を整え、各省の入札への参加を目指す。
試作機はNEDOが2020、21年度で進めている「安全安心なドローン基盤技術開発事業」として進めている技術開発の一環だ。株式会社自律制御システム研究所(ACSL、東京)、ヤマハ発動機株式会社(静岡県)、株式会社NTTドコモ(東京)、株式会社ザクティ(大阪市)、株式会社先端力学シミュレーション研究所(ASTOM R&D、東京)の民間企業5社がコンソーシアムを組んでNEDOから委託、助成を受けた。
コンソーシアムリーダーを務めるACSL社長の鷲谷聡之氏は説明会で、試作機のセキュリティについて、ドローン、GCS、クラウドシステムとその間の通信にまたがる「一気通貫のセキュリティ」と説明。具体的には「すべてを明らかにするとセキュリティにならないので」と細部の言及を避けながら、「ドローン本体で撮った画像データや、それが送られる先となるコントローラー、GCS、クラウド、その間の通信でしっかりと暗号化なり相互認証なりを実施します。飛行データについても暗号化などをする概念で対応しています」と述べた。
セキュリティ性能の高さについては、通信機器のセキュリティ機能要件を定めた国際規格ISO15408に基づいて分析する手法を採用すると表明。これにより「事業の名称通り、安全安心を確保することにつながります」(鷲谷氏)と述べた。
試作機はNEDOの「安心安全」事業の「標準機」で、納品先が用途に応じて機能を追加したりアタッチメントを取り付けたりするカスタマイズが想定されている。そのため、開発は拡張性や使い勝手の高さなどを重視した。仕様も、老朽インフラ点検、自然災害災害対応、農業など公共部門で、情報漏洩の不安を抱えずに使える条件での使用に耐えることを念頭に置いて開発されいるため、政府調達を想定している。
具体的には、試作機は点検や災害の被災状況把握に使い勝手のよい小型空撮機で、製品化想定仕様としての重さは1.7㎏、飛行時間は30分、防塵・防水性能はIP43。カメラは4K動画の撮影が可能なスタンダードカメラのほか、人命救助などでの活用が期待される可視+IRコンボカメラや、植物の生育状況の把握に活用が期待されるマルチスペクトルカメラへの切り替えがワンタッチで可能な機構を備える。プロポ、GCSも使いやすさを追求し、ユーザーとなり得る省庁などのフィードバックを受けて開発を進めており、今後も直感性の高い仕様を目指す。
そのほかASTOM R&Dが開発した機体専用の静音プロペラや、Bluetooth5.0採用のリモートID、高密度バッテリー、3方向の障害物検知なども備える。ドコモとACSLがタッグを組んで開発した独自フライトコントローラーは、APIを公開、仕様部品のインターフェイスも公開することにしており、カスタマイズが可能だ。
事業はNEDOによる委託、助成事業。委託事業として開発した知的財産は国に帰属、助成事業は実施者に帰属する。期間は2020、2021年度で、予算は16億800万円。ただし、実際に開発に着手したのは2020年5月で、説明会開催の2021年4月13日まで、実質8か月でここまでの開発を進めた。
ここまでの開発状況の評価について、企画を立案した経済産業省製造産業局産業機械課次世代空モビリティ政策室長の川上悟史氏は、「昨年5月から1年も経ずない期間の間に、ACSLの鷲谷さんが文字通り奔走し、短間で、品質も申し分ないものが出てきたという感想です」と評価した。それを受けたコンソーシアムリーダーの鷲谷氏も「まだ開発途中ですが、ここまでは100点満点で120点だと思っています。緊急事態宣言中の5月に事業を開始し、全国各地にある5社がリモートワークを駆使して、実際のモノづくりを行ってきました。そのうえで難易度の高いお題をクリアしてきたと思っています。一方で、開発はまだ途中です。事業終了後の品質に持っていくこと、量産体制にもっていくことにはまだ高い壁が残っていると思っています」と自己評価をしたうえで手綱を引き締めた。
NEDOロボット・AI部統括主幹、金谷明倫氏は「NEDOにはもうひとつのドローン事業であるDRESSプロジェクト(「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」)があり、これと組み合わせることでシナジーが得られると考えています」と手ごたえを表明した。
公開された試作機が標準機として完成したあとは、市場に投入されることになる。NEDOの金谷統括主幹は「事業終了後に速やかに商品化を進めて頂き、2021年度中の市場投入を着実に実現して頂きたい」と市場投入を注文。「事業終了後に公開されるフライトコントローラーのAPI、部品のインターフェイスを活用頂くことで付加価値が高まる。高機能バッテリー、モーターによるカスタマイズや、このドローンが取得したデータを活用頂けることで、ビジネスのエコシステムが醸成されることを期待しています」と事業を拡大させる効果に期待した。
経産省の川上室長は「ACSL以外のドローンメーカーも、公開されたAPIを活用してドローンを開発して頂けることが、国のプロジェクトとして実施する意味だと思っています。機体も普及させ、技術も普及させたい」と述べた。
ドローンによる設備点検高度化を目指す電力会社のコンソーシアム、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合の神本斉士チーフエグエクティブオフィサーは「電力設備の高経年化、自然災害対策に取り組んでいるが、全国に43万期ある電力設備の点検の生産性を高めるには、複数の鉄塔を、一緒に、一度に、一気に見ることができないといけない。多種多様な形状があるので可能な限り近寄りたい。今回の機体はいろんな機能がついているので楽しみに思った次第です」と期待を表明した。
開発した5社は、事業終了後、政府調達に向けては年後半にもはじまる調達むけの入札に参加することを目指す。また、民間市場への販売にも力を入れる。コンソーシアム内での収益配分などは今後調整する。コンソーシアムリーダーの鷲谷氏は、「ACSLの立場としては、他のコンソーシアム参画企業と調整できれば、この機体をACSLブランドで発売したいと考えています。政府調達だけで投資回収ができるかといえばNO。ほかの民間企業、海外も含め、たとえばシンガポールやインドなど東南アジアを中心に積極的に販売したい」と表明した。
また、普及に必要な条件や要素について、経産省の川上室長は「価格」を指摘。「国が作ったものだから高いのではないかと見られていると聞いています。その予測を裏切りたいと思っています。政府機関だけでなく、民間にも多く使って頂きたい。機体も技術も普及することを通じ、ドローン市場の拡大につながることを期待しています」と述べた。
ACSLの鷲谷氏は、川上氏の「価格」という回答を受けて「台数が多く売れるほど部品などの調達コストの低減が図れるので、しっかりと製品の優位性を伝え、日本にも海外にも発信していきたいと考えています」と決意を表明した。
DJI JAPAN株式会社(東京)の呉韜代表取締役は5月26日、千葉・幕張メッセで開催された「第5回建設・測量生産性向上展」(CSPI-EXPO 2023)の「出展者による製品・技術PRセミナー」に登壇し、発表したばかりの空撮用ドローンのInspire3、産業機のMatrice350RTKなどを紹介した。呉代表がドローン経験者に挙手を求めたところほぼ全員の手が挙がって驚く場面もあった。セミナーは盛況で、会場に用意された座席数をはるかに上回る参加者が聴講し、座席の後ろなどのスペースには立ち見の聴講者があふれた。
DJI JAPANの呉代表が登壇したのは、「現場で活躍する最新の産業用ドローンの現状」の演題で開かれたセミナーの最初の10分間。後半では、同社のソリューションエンジニア、木田雄貴氏が登壇し、DJI機の具体的な活用例を紹介した。
呉代表は冒頭に来場者に向けて「ドローンを活用している、という方、ぜひ挙手してい頂きたいと思います」と呼びかけた。会場では一斉に手が挙がると呉代表は「うわ。え。ほぼ100%じゃないですか」と目を丸くし、「数年前に同じ質問をしたところ1割もいない状況でした。短期間でここまで利用して頂けて嬉しいです」と感謝を述べた。
呉代表はDJIが2006年、日本支社が2013年に設立されたなどの歴史や、日本のスタッフは200人であり、研究買発、販売、生産まで担う、深圳の本社以外で世界最大のオフィスであることなどを説明した。また生産買発について、①個人向けのコンシューマ②Inspire3ほか映画、放送などプロフェッシショナル③農薬散布や直播、リモートセンシングなどの農業分野④産業ドローンの4つのラインナップで行われていることを紹介。産業分野で使われてる用途は53%と半分以上が土木・建設、測量であることを伝えた。
また産業機として5月18日にリリ-スされたMatrice350RTKを紹介。継続飛行は55分で、DJI JAPAN設立当初に主力機体だったPhantomが10分未満であったことと比べて、バッテリーなどの技術が進化したことなどをアピールした。このほか通信、衝突防止システムなどの機体の特徴や、サードパーティーを含めたペイロードの選択肢の豊富さを紹介したうえで、PR動画を投影した。
その後は、木田氏が活用事例として中電技術コンサルタント株式会社(名古屋市)と共同で実施した活火山である桜島(鹿児島県)の火山活動に伴う状況把握、地形変動量調査、土砂移動機構のメカニズム解明などの調査や、豊橋市(愛知県)の防災対策などが紹介され、来場者は しきりにメモを取っていた。
建設機械、測量機器の大規模展示会「第5回建設・測量生産性向上展 (CSPI-EXPO 2023、建設・測量生産性向上展実行委員会主催)が5月24日、千葉市の大型展示会場幕張メッセで開幕し、会場にはDJI JAPAN、アミューズワンセルフ、スペースワン、ジュンテクノサービス、セキド、エアロセンス、みるくる、ルーチェサーチなどのドローン、水中ドローンや関連技術が大量出展されている。DJIはドローンを格納するDJI Dockや、今月18日に発表されたばかりの産業機Matrice 350 RTKを初公開。ほかにも多くがこの日にあわせたコンテンツを披露している。開会前に行われたオープングセレモニーでは、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の鈴木真二理事長がテープカットに加わり、ドローンが建設測量分野で欠かせない技術であることを物語る中、ドローン関係事業者の熱の入った展示は5月26日まで続く。
にぎわいは開場前、会場外ですでに出来上がっていた。
会場である幕張メッセの玄関口前には、株式会社アミューズワンセルフのハイブリッドドローン「GLOW」を描いた巨大案内板が登場し、来場者は会場に入る前にドローンを目にすることになる。また24日午前10時の開場前に、会場ホール入場口前で行われたオープニングセレモニーでも、にぎやかさをアピールするかのように、テープカット用のテープが前後2列にはられ、主催者、業界代表ら33人がズラリとはさみを持って並んだ。JUIDAの鈴木理事長もその一人として加わった。谷鉄也実行委員長は「400社を超える出展企業で開催できた」とにぎわいを総括してあいさつしたほか、来賓として登壇した国土交通省のイノベーション担当の森下博之大臣官房参事官は「注力しているBIM/CIM、ICT施工、遠隔化・自動化などにとって、建設機械、測量機器、ドローン、AI、センサーなどは欠くことのできない主要な技術」と述べた。
展示でもドローンは主役である建設機械とともに彩を添えている。
DJI JAPAN株式会社はドローンの格納、充電、離着陸場となるDJI Dockを初出展した。手元のスマホで開閉する様子を実演し、その様子に多くの来場者の足をとめていた。機体を格納するときには離着陸台の左右から箱型の覆いが機体をつつむようせり出して閉じる。機体のプロペラは自動で向きが整えられDockに収まる態勢になる。またDockの周辺環境を監視するカメラも備わり、機体が離着陸するときの安全を確認する。早ければ6月中にも発売となる見込みだ。このほか1週間前に発表されたばかりのMatrice 350 RTKも展示されている。
同社のブースには、株式会社テクノシステム、株式会社kiipl&napなど関係の深い企業がそれぞれの技術をブース内ブースのような形式で展示している。たとえばテクノシステムはUAV支援システム「ランドステーソンUAV」を紹介。ドローンで取得したデータをもとに、作業規定準則などに定めるフォーマットにそった帳票を作成することができ、入力作業を軽減する。
ドローンの販売や人材育成などを手掛ける株式会社セキドは、中国CZIのドローン用のミッションペイロードを紹介している。音声を届けるためのスピーカーなどデジタルボイスブロードキャスティングシステムやライトなどが来場者の興味を引いていた。
NORTEKジャパン合同会社は、手のひらサイズの高精度水中ナビゲーションセンサパッケージ、Nucleus1000を紹介している。音波を出して距離を測る音波発受信部を持ち、圧力計、水温計、超音波式距離計やAHRSセンサーを備え、深度、水底や壁面などまでの距離、姿勢、方位、対地速度などを割り出す水中ドローン向けのアプリケーションだ。油田開発に用いる探査ロボットなどに使われてきたが、ドローンに使えるように応用、調整した。
株式会社スペースワン、ジュンテクノサービスも水槽を用意し水中ドローンを中心に展示している。スペースワンはCHASNGの「CHASING M2 S」を日本で初めて公開した。またジュンテクノは水中ドローンの活用事例を紹介したり、ポータブル電源を開発する中国、エコフローテクノロジー社のポータブル電源や、12分あれば18個の氷が作れるポータブル冷蔵庫GLACIERなどを紹介したりしていて、いずれも多くの来場者でにぎわっていた。
ドローンを使った構造物の高密度測量で知られるルーチェサーチ株式会社は、既存構造物の点群から3DCADに変換するソフトウェア「PINO」を展示している。点群をモデル化するさい、最前面でない点群をつかみ、ゆがんだモデルになってしまう事態を避けるため、簡単な作業で奥の点をつかまずに済むよう工夫してある。同社の尾原保弘技術営業部長は「図面のない構造物が多くあり、その現状を再現することに貢献したい」と話す。
また古河産業株式会社は、最大49㎏までの重量物を運べ、飛行中につり荷の横揺れを防ぐ機能を搭載した「EAGLE 49」を展示。株式会社FLIGHTSは高性能でありながらリーズナブルな次世代いLiDAR「FLIGHTS SCAN」を紹介している。株式会社カナモトはレンタルや運用サービスで活用しているFreeflySystems社製マルチコプターALTA X(アルタエックス)を展示し、都心部での送電線作業をこの機体で遂行している様子を動画で紹介している。エアロセンス株式会社は、200haを30分でレーザー計測できる、YellowScanのLiDARを搭載したVTOL機「エアロボウイング」をアピールしている。NTTコミュニケーションズ株式会社もAIドローン開発で知られる米Skydio社の機体やソリューションを紹介している。
ほかにも株式会社みるくる、株式会社テラドローンなど多くのドローン関連企業が、建設機械メーカーなどとともに会場を盛り上げていた。25日にはJUIDAの鈴木理事長が「ドローン、空飛ぶクルマが拓く未来」の演題で「特別セミナー」での登壇を予定してる。26日にはDJI JAPANの呉韜代表取締役が「現場で活躍する最新の産業用ドローンの現状」について、製品・技術PRセミナーとして講演することになっているなど、ドローンの存在感が高い3日間となりそうだ。
ドローンの国家資格を満たす知識や技能を受講生に提供する「登録講習機関」が5月20日現在、300機関を超えた。ひとつの機関が複数のスクールを設置しているケースも含めると、スクール数は460校となった。昨年(2022年)12月5日の航空改正法施行によりスタートした国家資格制度は、講習機関の設立が相次いでいる。国家資格制度以前に、国交省のホームページに掲載を認めていた民間スクールである「講習団体」は1000件を超えていたため、今後も従来スクールから講習機関への転換や新規開設が続くとみられる。
国交省が公開している一覧表によると、登録講習機関は5月19日現在で309件。機関によって地域別スクールなどを複数設置しており(一覧表では「事務所」)、スクールは全国で461校を数える。一覧表には各スクールが対応できる8つの項目ごとに「〇」が表示してあり、全項目対応校は96校だ。
今年(2023年)2月までは一定の条件を満たすと認められた民間スクールが「講習団体」として国交省のホームページに掲載されており、それぞれの講習団体が上位組織の策定したカリキュラムに準拠するなど管理を受けている場合もあり、講習団体を管理する「管理団体」も掲載されていた。
国家資格制度に移行後は、講習団体、管理団体の区別はなく、国家資格の知識、技能を提供する機関は「登録講習機関」に統一されている。準拠する講習内容は国が定めている。
一方、ひとつの機関が複数のスクール(一覧表のうえでは「事務所」)を運営するケースはあり、一般社団法人農林水産航空協会は32校、一般社団法人DPCAが31校、日本無人航空機免許センター株式会社(JULC)は28校、日本ドローン機構株式会社は8校、株式会社先端技術無人航空機トレーングセンターは8校、一般社団法人ドローン大学校は6校、株式会社モビリティテクノは6校を展開している。なお旧管理団体が引き続き指導、管理、手ほどきしているケースも多いが、旧管理団体自身が講習を行わない場合には登録講習機関に名を連ねておらず、一覧表には表示されていない。
旧管理団体の中には、傘下のスクールの登録講習機関への登録手続きを支援し、管理団体自身は講習機関には登録ない団体もある。国家資格創設の環境整備を支援するなどいわば裏方業務をこなしてきた団体も多く、中央省庁や民間スクール、産業界の中には、今後も旧管理団体の活動に期待を寄せる声も多い。
大阪・関西万博での実現が期待される、いわゆる「空飛ぶクルマ」などのエアモビリティへの関心が高まる中、DroneTribuneは、3月に米LIFT社が開発した1人乗りエアモビリティ、HEXA(ヘクサ)を操縦する様子を公開したGMOインターネットグループの熊谷正寿グループ代表にインタビューした。飛行機やヘリコプターの操縦の資格を持ち、空を飛ぶことに詳しい熊谷氏は、HEXAの操縦体験について不安を感じることは一切なかったと明言し、そのうえで「われわれは空飛ぶクルマをお守りする」と、サイバーセキュリティ、情報セキュリティを手がける企業グループとしての使命感を鮮明にした。また3月に行った飛行の公開も、可視化しにくいセキュリティを、身をもって示す意味があったと明かした。
空飛ぶクルマなどエアモビリティの実現が期待される大阪・関西万博は4月13日に開幕まで2年となる節目を迎え、プレ万博など地元を中心に機運を高める催事が企画されている。GMOの熊谷氏はこれに先立つ3月15日、大阪城公園で丸紅株式会社が主催したHEXAの飛行デモンストレーションに、日本人で初めてライセンスを取得した操縦者として参加し、自身が飛行する様子を公開した。万博開幕まで2年を切り、エアモビリティへの関心がますます高まっていることから、熊谷氏に尋ねる機会を得た。インタビューは、都内のGMO本社で行われた。
――空飛ぶクルマやエアモビリティの現時点での話題には、安全、安心がついてまわります。操縦者の立場としてどう感じますか
熊谷氏 「私は飛行機で双発エンジン航空機の免許を持っており、ヘリコプターでも同じように双発エンジンの免許を持っております。その意味で空飛ぶ乗り物のライセンスは、今回のHEXAで3種類目となり、空の安全は常に意識しています。どの観点から論じるか、による面がありますが、まず申し上げたいのが動力の数の観点です。HEXAはこの点で飛行機やヘリコプターと比べると最も安心できる乗り物と言ってよいと思います。なぜなら、飛行機の動力の数は2つ、ヘリコプターも双発の場合で2つなのに対し、HEXAは小型のプロペラが18基あり、ローターのひとつひとつに動力であるモーターがついています。ひとつの動力が失われた場合も安全性に問題はありません。ここは安全を語るうえでお伝えしたい点です。このほか空域の観点もあります。
――それはどんな?
熊谷氏 「飛ぶ空域が異なるということです。飛行機の場合は3万から4万、5万フィート。プライベート機がより高く、民間機だと3万3000フィートあたり、ヘリなら都内だと2000フィートとか3000フィートといった具合です。それに対し空飛ぶクルマはそれよりずっと低い。陸上交通の場合は電車も自動車もほぼ地上を動きますので、その観点からも議論できるかもしれません。航空管制の整備はこれからですが、日本の場合は特にしっかりしています。議論の最中の型式などルールづくりの中で出てくる論点もあると思います」
――快適性などは
熊谷氏 「HEXAはFAA(米連邦航空局)が『Part103』と呼ぶウルトラライト級に位置付けられています。ものすごく軽くてとにかく飛ぶことを最優先した機体です。小回りがきく分、扉がなくて、夏はいいんでしょうけど、冬は寒いとか。快適性はこれから解決していくことになるかもしれません」
――総合的にはいかがでしょうか
熊谷氏 「飛行そのものでは技術的にはもう全然、問題ないレベルです。あとは規制と市民感情の問題があると思っています」
――熊谷代表はHEXAを操縦したとき上空から手を振っていましたが率直に、こわくないものですか
熊谷氏 「パイロットなのでシートがあってハーネスがあって操縦桿を握っていればこわくないのです。ただ、ギャグみたいな話なんですが、基本的に高所恐怖症でして。いや、ホントです。飛行機の免許をとる前に、ここ(東京・渋谷のセルリアンタワーにあるGMOのオフィス)から外を眺めて、ふと『ここを飛ぶのか』と思ってビビったことがあるんです。子供のころから空を飛びたいと思っていたのですが、ホントに取ろうと思ったときに、やっぱりちょっと高いところはこわいよな、と思ったんです。そのうえで、空飛ぶクルマですが、まったく、こわくない。これは私がパイロットだから、とか、高所恐怖症を克服したから、ということよりも、一番大きいのは機体が安定したから、ということだと思っています。HEXAはパイロットが機体を安定させるためにすることはほとんどなくて、コンピューターがプロペラを制御してくれています。これだけ安定していればなにもこわくない」
――操縦士ががんばらなくても機体が安定しているのですね
熊谷氏 「ふつうならパイロットはいつも風を計算して飛びます。私もスマホにパイロットのアプリをいくつも入れていますが、たえず風向きを気にしています。羽田空港も風向きによって着陸の滑走路が違います。ヘリも飛行機も、正面から風を受けていないといけないのですが空飛ぶクルマは、機体によって多少差はあるかと思いますが、少なくともHEXAは風向きを気にすることはありませんでした。飛行条件が整っていれば、どっちから風が吹いてくるからどっちに向いて飛ぶ、ということはなかったです」
――HEXAや空飛ぶクルマの普及イメージは
熊谷氏 「普及の障害は、住民感情と規制だと思っています。テクノロジーの障害はほぼない、とIT業界に身を置くものとして、思っています。規制は日本では大阪・関西万博をきっかけにずいぶん整備が進んでいますし、これからも進むと思います。経済産業省、国土国交省主導で空飛ぶクルマを普及させようとしていますし、万博終了後も定期航路を残そうとしていますね。非常によい動きです。残る最大級の問題が、離発着場です。空からみるとHマークやRマークがありますが、実際には使われていません。まずはそこをなんとかしないと離発着できません。あとは飛行許可。ヘリですら飛行のたびに国土交通大臣の許可が必要です。それが空飛ぶクルマの離発着についてどうなるのか。いまの日本の状況では都度、国土交通大臣の許可が必要、という話になりやすいので、規制緩和ができるかどうかが普及には重要だと思います。あとは住民感情です」
――乗り越えるための対応が必要だと言われています
熊谷氏 「われわれGMOは空飛ぶクルマをお守りしています。GMOはテクノロジーとしてセキュリティの領域に強みを持っています。情報セキュリティとサイバーセキュリティ、つまり、暗号化で読み取られないようにする部分と、ハッキングされないようにする部分です。空を守ることに貢献するため経済産業省の担当部署にもパートナー(従業員)を派遣しておりますし、空飛ぶクルマの開発企業に技術協力をしております。セキュリティは可視化が難しいので、そのために何ができるかをわれわれはいつも考えております。3月に大阪城公園をHEXAで飛びましたが、あれも私が身をもって安全ですよ、と示すため、という文脈です。ただ空が好きだから飛んだ、というわけではなかったんです。6月に開催されるドローンの展示会『JapanDrone2023』にも出展してご理解いただけるようにアナウンスもするつもりでおります」(注:GMOインターネットグループはJapanDrone2023のメインスポンサーでブースも出展する)
ーー空の産業利用に大きな可能性を感じていることが伝わります
熊谷氏 「空は現時点では最後の産業的なフロンティアです。 だって、地上はいっぱいじゃないですか。それに対して空は、ヘリが飛ぶ高さより下の低空域はガラガラです。そこを安全に産業的に利用すべきだと考えています」
ーーGMOインターネットグループとしての空飛ぶクルマへの取り組みとは
熊谷氏 「強みがないことをやっても仕方がないと思っています 空飛ぶクルマの産業を強みである情報セキュリティ、サイバーセキュリティなどセキュリティの面から応援し、お守りし、普及を支えようと思っています 安心安全の空の利活用を応援して普及をするようにグループを挙げて努めてまいります」
――ありがとうございました
関連記事/パイロット搭乗の空クルが大阪城公園を飛行
https://dronetribune.jp/articles/22370/
関連記事/ GMO代表・熊谷正寿氏が米LIFT社の“空クル”操縦資格を日本人初取得
https://dronetribune.jp/articles/22235/
ドローン販売や産業ソリューションの提供を手掛ける株式会社WorldLink & Company(京都市)は、産業用UAVデモフライト会「SkyLink Drone Days」を5月23日に千葉・君津で開催すると発表した。ギリシャVelos rotors社のヘリコプター型ドローン「VELOS V3」やRTKキット搭載のソニーの「Airpeak S1」、バックパック運用が可能なUAV向け小型高性能レーザースキャナ「3DT scanfly」の実演などを予定している。関連デバイスも展示を予定している。事前申し込みが必要で入場は無料だ。
「SkyLink Drone Days」は、同社が2022年に始めたデモンストレーションと展示会で、これまでに実施した2回はいずれも来場者に好評だった。3回目となる今回は千葉・君津で開催。5月24~26日に千葉・幕張メッセで「第5回建設・測量生産性向上展 (CSPI-EXPO 2023)」が開催され、多くの関係者、感心層が千葉に出向くことを念頭に、CSPI初日の前の日に、建設や測量用途への関心にこたえる模擬飛行や展示を計画している。
ギリシャVelos rotors社「VELOS V3」は最大積載重量10kgの多用途なヘリコプター型ドローンで、予定通りフライトが実施されれば日本では初の一般公開となる。ソニー「Airpeak S1」はRTKキットなど産業用途向け新ユニットを搭載した飛行を披露するよてだ。イタリア3DT社のバックパック搭載可能なUAV向け小型高性能レーザースキャナ(LiDAR)「3DT scanfly」も実演する。
このほか、米Aurelia Technologies社の70分飛行可能なマルチコプター「Aurelia X6 Pro」、ラトビアFixar社の360度カメラと組合せて広域点検業務を支援するVTOL「FIXAR 007」、スマートフォンに装着するスイスPix4D社の小型3D計測スキャナ「viDoc RTK rover」などが展示される予定だ。
入場は無料で事前登録が必要。荒天などの場合に備え、翌日の5月24日を予備日として設定している。
開催概要は以下の通りだ
■名称:『SkyLink Drone Days 〜産業用UAVデモフライト会〜』
■日時:2023年5月23日(火)12:00〜15:00 (荒天時の予備日5月24日)
■場所:千葉県君津市 (詳細は申込者に連絡)
■入場無料(事前申込制)
■申し込みはこちら
(※締切 2023年5月16日(火) 16:00)
AIドローン開発の米Skydoの日本法人、Skydio 合同会社は5月1日付で日本オフィスを移転した。事業拡大に伴う人員増加や、日本の顧客やパートナー企業へのサポート強化に伴う移転で今後、米国本社からのエンジニア派遣も強化する。
新オフィスは、東京メトロ銀座線外苑前駅に近いビルの6階に構えた。Skydioは日本を注力市場と位置付けており今後、米国本社からエンジニアを日本に派遣する「ローテーション・プログラム」を本格化させる予定だ。このプログラムは、顧客やパートナー企業の技術支援をオンサイトで行うもので、ドローン技術の普及と発展に力を入れる。
Skydioは、2020年10月に日本法人を設立し、日本国内の建設、土木、電力、通信、自動車などの産業を主な対象に自律飛行型ドローンの導入を進めてきた。建設・電力業界では、インフラの老朽化対策や保守点検業務の生産性向上を果たすため、SkydioのGPSが届かない場所や障害物の多い場所でも安全に飛行できるドローンに高い需要がある。
Skydio社日本で「Skydio 2+」や「Skydio X2」などの製品やサービスの提供を進めているほか、「Skydio Dock and Remote Ops.」などのソリューションで人手不足やコスト削減などの課題対応を提案している。