小菅村 の記事一覧:2件
  • 2024.4.22

    小菅村の「新スマート物流」協定3年半ぶりに更新 セイノーHD加わりエアロネクスト、NEXT DELIVERYと結束  

    account_circle村山 繁
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    「新スマート物流」実用化の原点である小菅村(山梨県)で4月17日、この取り組みの土台となってきた連携協定が、ほぼ3年半越しに新たな協定に更新された。新協定にはセイノーホールディングス株式会社(大垣市<岐阜県>)が加わり、小菅村、株式会社エアロネクスト(東京)、エアロネクストの子会社である株式会社NEXT DELIVERY(小菅村)を含む4者が小菅村役場で締結式に臨んだ。協定の有効期限は5年間。今後は結束して、新たなテクノロジーの導入も見据え、オープンイノベーションで地域物流の高度化にあたる。締結式では各代表が書面ではなく分厚い無垢材の協定書を受け取った。小菅村の舩木直美村長は「ここは人口減少の先進地。この村がなんとかなれば日本はなんとかなる」と決意を新たにした。

    舩木直美村長「小菅がなんとかなれば日本はなんとかなる」

    新協定は「ドローン配送事業を含む次世代高度技術の活用による新しい地域物流のビジネスモデルの構築に向けた包括連携協定」で、農業、観光などの産業振興から雇用、人材育成、環境負荷低減との両立、防災、新しいインフラ整備まで幅広く盛り込んだ。次世代高度技術について、「人、モノを区別した現在の移動の形は変わっていく必要がある考えています。ドローン、トラック以外に、自動運転なのか、ロボットなのか、あらゆるテクノロジーの活用を、みなさんの声を聞き、相談しながら検討したい」(エアロネクストの代表取締役CEOでNEXT DELIVERYの代表取締役も務める田路圭輔氏)や、「荷物をパケットに例えて革新的な物流をを示す『フィジカルインターネット』という言葉が物流の世界で幅広く使われているが、まだ具体例はない。高度技術が必要なフィジカルインターネットを進めたい」(セイノーHDの河合秀治執行役員)などと意欲を示した。

    新協定への期待について小菅村の舩木村長は「2024年問題もあり物流が滞ることになれば、ここは一番先に切られる可能性のある地域だと思っています。これまでなんとかみなさんのお力をお借りしてありがたくおもっています。うちの村は課題が多いので、課題解決のために、お知恵とお力を貸して頂き、新しいモデルを作って頂きたいしもうけにもつなげて頂きたい。そのためにどんどん小菅村を使って頂きたい」と展望を述べた。

    エアロネクストの田路CEOも「新スマート物流は全国で17の自治体と連携協定を結び、これまでに9地区、現時点では8地区で社会実装をしています。これは小菅村が原点。協定の更新ができ、ますますがんばりたいと気持ちが固まりました。次々と『日本初』の事例をここであみだしたい」と抱負を述べた。

    セイノーHDの河合秀治執行役員は「2023年8月に小菅村で始まった複数の物流会社が一本にまとまった共同配送は継続的に行われている全国でも非常に珍しいももっとも先進的な事例で、全国の過疎地で共同配送の検討が進みはじめていて、そのお手本となるプロジェクトとしてしっかり進めたい。モデル化して標準化することが重要で、継続できるビジネスにするためには環境負荷低減が不可欠。共同配送は5社分を1社で扱えば環境負荷も5分の1になるのでグリーンという領域も取り組みたい」と持続可能なモデルづくりに意欲を示した。

    会見では、エアロネクストが開発した物流用ドローンが1月に発生した能登半島地震の被災地で活動した話題に展開。来賓としてあいさつした小菅村議会の青柳諭議長が「議会としても何度も見学をさせていただいたので、テレビで薬を配送しているのをみたときにすぐにわかりました。石川県に小菅のドローンが行ってると」と言及した。石川県でドローンの運航を担ったNEXT DELIVERYの青木孝人取締役が「小菅村での経験が役に立ちました。日頃から飛ばしていたことが現場力になることが証明できたと思っています」と応じた。一方、「課題も分かりました。みなさんが不慣れなので、ドローンを飛ばす前に、現地のみなさまや担当者にこのように飛んできて『置き配』をします、などと説明をしないといけなくい。機体も現地にないので、この小菅村から現地に20時間ほどかけて運びました。慣れていれば、現地にあれば、と感じました」と、小菅で得た機会がいきたこととと、教訓についても披露した。

    エアロネクストの田路CEOはこれを受けて、「青木さんの話からも、ドローンは配送手段でありながら社会インフラであることがわかります。震災は痛ましい出来事ですが、ドローンという日本の強靭性を担うインフラが存在することも証明したと思っています」とインフラとしてのドローンの認知の拡大と整備の推進に期待を寄せた。

    また、連携協定が継続できている背景については、登壇者全員が「信頼関係」と回答。小菅村の舩木村長は「人です。信頼関係あってこそ。私は田路さん、河合さんを会ったときから信じていますしかれらも信じてくれています」と話すと、田路CEOも河合執行役員もうなずいた。河合執行役員は「村長のイニシアチブがすごいし、支える役場のみなさん、ご担当のみなさん、議会のみなさんのサポートも非常に大きい。なにより小菅村への視察の数の多さがその証左」と応じた。

    4月27日には、先行で稼働している無人コンビニ「SkyHubスマートストアこすげ」が、村内の「道の駅こすげ」に正式にオープンし、連携協定による過疎対策がさらに充実する。

    プレスリリースにはこれまでの経緯や談話が掲載されている。内容は以下の通りだ。

    締結式で結束を確認した3人。左からエアロネクスト代表取締役CEO兼NEXT DELIVERY代表取締役の田路圭輔氏、舩木直美小菅村長、セイノーHDの河合秀治執行役員
    協定書は紙ではなく小菅村産の分厚い無垢材
    締結式では終始、笑顔が絶えなかった
    能登半島支援で医薬品を搬送した機体は小菅村で運航している機体だった
    能登半島支援のため現地に出向き医療物資搬送に尽力したNEXT DELIVERYの青木孝人取締役も締結式で小菅村での経験が生きたことなどについて話した
    関係者全員が登壇した記念撮影
    小菅村のドローンデポ
    4月27日に正式にオープンする無人コンビニ「Skyhubスマートストアこすげ」

    小菅村、エアロネクスト、NEXT DELIVERY、セイノーHDがドローンを含む次世代高度技術の活用による地方創生に向けた包括連携協定を締結

    ~地域課題の解決に貢献する新スマート物流の構築を目指して~

    山梨県小菅村(村長:舩木直美)と株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役CEO:田路 圭輔、以下エアロネクスト)、株式会社NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路 圭輔、以下NEXT DELIVERY)、セイノーホールディングス株式会社(本社:岐阜県大垣市、代表取締役社長:田口 義隆、以下 セイノーHD)は、2024年4月17日に、ドローンを含む次世代高度技術の活用による地方創生に向けた包括連携協定を締結いたしました。

    エアロネクストと小菅村は、2020年11月に、ドローン配送事業の実現化およびドローン配送導入による地域活性化に向けた連携協定を締結し、ドローン配送導入による産業振興、地域雇用・人材育成等への貢献および社会・インフラの整備を推進してまいりました。

    具体的には、小菅村ならびに村民の理解と協力のもと、2021年1月に小菅村内に設立した戦略子会社NEXT DELIVERYが、セイノーHDと連携し、既存の陸上輸送とドローン物流を繋ぎこんだ地域の新たな物流インフラ、新スマート物流SkyHub(R)を、日本で初めて2021年4月から試験的運用を開始し、2021年10月からは社会実装フェーズに移行させました。

     

    橋立地区の閉店した商店の建物内を整えて新スマート物流SkyHub(R)の拠点、ドローンデポ(R)とし、現在は、SkyHub(R)Delivery(買物代行)、SkyHub(R)Eats(フードデリバリー)、SkyHub(R)Store (オンデマンドドローン配送)を展開しています。昨年8月からは、異なる物流会社の荷物を一括して配送する共同配送も開始するなど、小菅村の課題やニーズに合わせた配送サービスを提供しています。

    さらに、住民の利便性、ならびに地域活性化による関係人口の増加に貢献するため、4月27日には、SkyHub(R)スマートストアこすげ(無人コンビニ)を道の駅こすげの物産館横に正式にオープンいたします。

    なお、小菅村における新スマート物流SkyHub(R)の取組みは、デジタル田園都市国家構想の優良事例に採用され、全国で横展開が進んでいます。

    本協定は、今後もさらにこのドローンをはじめとする次世代高度技術を活用した活動を推進し、相互の連携・協力により、地域発展に資する施策の推進を目的に締結するものです。

    写真向かって左より写真向かって左よりエアロネクスト代表取締役CEO兼NEXT DELIVERY 代表取締役 田路圭輔、小菅村長舩木直美、セイノーHD 執行役員 河合秀治
    2023年8月に実施した共同配送出発式の様子 (道の駅こすげ)
    2024 年4月27日に正式オープン予定の「SkyHub(R)スマートストアこすげ」(道の駅こすげ)

    <連携協定の概要>

    1.締結日

    2024年4月17日

    2.協定の内容

    ドローンをはじめとする次世代高度技術の活用により、以下の事項において連携・協定する。

    (1)農業・観光・産業・経済の振興に関する事項

    (2)地域雇用、人材教育、人材育成および産業基盤整備に関する事項

    (3)カーボンニュートラルと利便性が両立した持続可能な地域交通・物流の確保と住みやすい環境づくりに関する事項

    (4)地域防災への貢献および新しい社会インフラの整備に関する事項

    (5)その他、全ての当事者間にて協議し必要と認める事項

     

    4月17日に実施された連携協定締結式において、代表三者が以下のとおりコメントしています。

    <小菅村長 舩木 直美のコメント>

    2020年11月より株式会社エアロネクストと連携協定を締結し約3年半が経過しましたが、その間多くの皆様のお力をお借りし、小菅村を取り巻く諸課題の解決にご尽力いただきました。その中心的な役割を担っていただいておりました株式会社NEXT DELIVERY、セイノーHDの皆様方と、改めて包括連携を締結できることを大変嬉しく、また心強く感じております。小菅村は全国の過疎、少子高齢化の先進地であります。小菅村がなんとかなれば日本は何とかなる。その想いで4者が今まで以上に強固な連携を図り、課題解決に取り組んで参ります。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

    <エアロネクスト代表取締役CEO/NEXT DELIVERY代表取締役 田路 圭輔のコメント>

    2020年11月に連携協定を締結させていただき、2021年1月にNEXT DELIVERYを設立して以来、小菅村とは二人三脚で新スマート物流SkyHub(R)︎の社会実装を進めてきました。小菅村との出会いがなければエアロネクストグループの成長はもっと限定的なものになっていたと思いますし、感謝してもしきれない恩を感じています。この度、光栄にも連携協定を更新し、次のステージに進めることを心より嬉しく思います。しっかり小菅村の皆さまに寄り添って、新しい社会インフラの創造でお役に立つことができればと思います。

    <セイノーHD執行役員 河合 秀治のコメント>

    セイノーHDは、幹線輸送の強みを活かしたラストワンマイル配送領域において、生活様式の変化や構造変化に対応すると共に、買い物弱者対策、生活困窮家庭対策等の社会課題解決型ラストワンマイルの構築を積極的に推進・拡大しております。小菅村においては、物流2024年問題にいち早く対応し、昨年8月より、地域の物流各社様と中山間地域における物流の効率化、持続性の確保という共通認識のもと、小菅村におく旧商店を活用したデポ(集約拠点)に各社の荷物を集め、共同で配送するしくみを構築してまいりました。今後も同じ課題をもつ全国の地域にこの小菅モデルを展開し、住民の皆様が持続的に安心して暮せる環境づくり、住民サービスの維持、向上を進めてまいります。

    この連携協定により、4者が相互に連携、協力し、村の課題や住民のニーズに沿って、ドローンを含む次世代高度技術の活用により、小菅村における地域の課題解決と地方創生に寄与してまいります。

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2021.9.1

    小菅村の牛丼配送が住民を笑顔に エアロネクストの新スマート物流、定着へまた一歩【DF】

    account_circle村山 繁
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     ドローンの姿勢制御技術を持つ株式会社エアロネクスト(東京)が、ドローン配送サービスの定着、普及に向けた取り組みを広げている。山梨県小菅村では昨春に開設した定期運航の配送ルートは7月までに5本に拡大した。7月21日には、100フライト達成記念と、協力をしてくれた住民への感謝の意味をこめて、株式会社吉野家(東京)と組んで牛丼をドローンで運んでふるまった。小菅村には吉野家の店はなく、盛り付けたばかりの牛丼を受け取った村の人々は満面の笑みで喜びを表現した。昨年(2020年)11月の小菅村でのドローン配送実験以降、エアロネクストの取り組みは「浮揚普及」を加速している。

    移住3年目の酒井さん 温かい牛丼に大喜び

    温かい牛丼を受け取り笑顔の酒井江見さん

    「ここでは食べられないんです。温かい牛丼」

     小菅村で仕事をしながら幼い子供2人を育てる村に住む酒井江見さん(34)は、青空に映える白い機体のドローンが運んできた牛丼弁当をエアロネクストのスタッフから手渡されると、表情をほころばせた。手にした牛丼弁当は、少し離れた場所に停められたキッチンカー「オレンジドリーム号」で、数分前に盛り付けられたばかりのあつあつだ。小菅村に牛丼チェーンの店はない。食べるとしたら宅配でレトルトを取り寄せ、自宅で温めて食べることになる。「温かさが伝わります」と牛丼を眺めながら喜びをかみしめた。

     酒井さんは3年前、夫の仕事の都合で、それまで住んでいたさいたま市から小菅村に移り住んだ。移住前にも小菅村には来たことがある。そのときの印象は、自然が豊かで美しいまちだった。そして、移住して、それは実感となった。人もやさしい。景色もいい。空気がきれいで、野菜も豊富だ。「子供が風邪ひとつひかないのは、そのおかげかもしれません」と酒井さんは目を細めた。

     一方で別の実感も頭をもたげた。引っ越すまでに当たり前だったことが、ここでは当たり前ではない。そのひとつに買い物がある。

     3年前までは、スーパーもコンビニも外食も身近だった。仕事帰りに思い立ったら外食も、弁当を持ち帰ることもできた。いまは自宅で料理をすることが基本だ。その料理に必要な食材や日用品の調達の方法も限られる。宅配サービスか、引き売りか、買い出しだ。買い物にはクルマで30分ほどの、最寄りの中心的な市街地である大月市まで出かける。未就学の子供を連れて、ほぼ1日がかりのお出かけだ。毎日はできないし、仕事帰りにもいけない。以前と比較すると、たぶん不便だ。

     そんな中、エアロネクストがドローンで牛丼を運ぶと耳にした。楽しみにならないはずがない。

     「温かいものが温かいままで届けられることはまずありません。今日はこうして温かい牛丼が届きました。特別なありがたさを感じます」

     牛丼を受け取った笑顔の酒井さんの傍らで、娘のふみちゃんも終始、笑顔をたやさない。酒井さんは「笑顔なのは、ドローンを待ち受けるスタッフの方がいたり、取材の方がいたりと、いつもと違う光景が楽しいのだと思います。豊かな自然が豊富なかわりに、変化が少なめな生活をおくっているので、こんなことが刺激になっているのかもしれません」と分析した。

     小菅村では昨年11月に実験を開始して以来、ドローンが飛ぶ様子も、酒井さんにとってはちょっとした「刺激」だ。子供たちと指をさしたりする。「怖いと思ったことですか? いいえ一度もありません」(酒井さん)。

     小菅村は、全国に820ある過疎関係市町村のひとつだ。人口は約700人。高齢化が進み、過疎に起因する課題は多い。その課題のひとつである買い物の問題を、エアロネクストはドローンを組み込むことで解決しようと奮闘している。「こうした取り組みは心強いです」と酒井さんはその成果を楽しみにしている。

    酒井さんの待つ場所に牛丼を積んだドローンが到着
    ドローンが届けた牛丼を酒井さんが受け取る瞬間。メディアのカメラもこの瞬間を狙う

    ドローンが離陸したら、見守っていた人々が立ち上がった

     小菅村でドローンを使った牛丼配送の取り組みは、7月21日、エアロネクストと吉野家が、ドローン配送の社会実装を進める山梨県小菅村でスマート物流を確立する取り組みの一環として行った。エアロネクストが次世代物流ソリューションを提供するために設立した子会社、株式会社NEXT DELIVERYの拠点を構えた小菅村橋立地区に、吉野家のキッチンカー「オレンジドリーム号」が乗り入れ、調理した牛丼を、そのまま村内にドローンに積んで配送した。

     ドローン配送は、エアロネクストが物流大手、セイノーホールディングス株式会社と業務提携をして進めている既存物流とドローン物流を融合させる新スマート物流「SkyHub」推進活動のひとつだ。橋立地区に拠点倉庫となる「ドローンデポ」を構え、今年4月に600メートル離れた川池地区に離発着場である「ドローンスタンド」を設置することが認められた。4月24日からはデポとスタンドの間を定期航路として試験配送を始めた。その後定期航路は5本に拡大。試験配送は7月1日に100回を数えた。飛行には目視外飛行も取り入れた。2021年中には小菅村の8つの集落すべてにスタンドを設置する方向だ。

     7月21日に行われた牛丼配送は、このうちの4航路で行われた。配送は定期航路開設や運用に協力した村の人々への感謝を込め「ドローン配送100回達成記念」と位置付けた。

     この日は午前中から、デポに近いスペースにテーブル、イスを並べ、吉野家ののぼりもたてて、仮説の食事処を準備した。集まった村の人たちはその場で食べられる。キッチンカー「オレンジドリーム号」は、デポ最寄りのスタンドスペースで待機し、その目の前でエアロネクストが株式会社ACSL、株式会社ACCESSと共同開発した配送専用の機体の調整が進められた。

     機体には牛丼弁当4つを載せられる。ドローンは離陸後、目的地に進むために前傾姿勢を取る。その傾きを荷室に影響させないための技術「4D GRAVITY」がエアロネクストの強みだ。

     準備が進み、首都圏や地元のメディアも集まった午前10時半すぎ、エアロネクストの田路圭輔代表取締役CEOがあいさつに立った。セイノーホールディングス株式会社と物流に関わる課題解決に向けた取り組みを進めていることを紹介したうえで、「全国の過疎地では、商店が失われるなど人々が買い物に不便な思いをしている。このため宅配やECに頼ることが増え運ぶ荷物が増えているが、ドライバーのなり手不足の問題もある。毎日荷物が届かないこともある。小さなお子さんを抱えているご家庭では夜間の救急診療への不安は大きい。これをドローンで解決できないかというのがわれわれの取り組みです」と配送実験の先に、社会課題の解決を見据えていることを伝えた。

     また、今後の展開についても言及した。「本日使う機体は共同開発した試作機で年内に量産試作にたどりつき、来年には量産化を始める予定です。また、小菅村の物流拠点をここ、ドローンデポに設置していて、原則として首都圏や他のエリアから村内への荷物はここに集まります。そして、ここから各家庭に配達します。現時点では原則、クルマで配達していますが、それを将来的にドローンに置き換えていきます。年内に村内8つの集落すべてにドローンスタンドを開設しようと思っています。ほかにも村にお住まいの方から、自分の家の庭をドローンスタンドとして提供したい、という声も頂いています」。

     現在、実験として実施しているサービスを有償サービス化する取り組みも始める。買い物代行や、オンライン診療の一環として医師の処方箋が必要な医療用医薬品の配達も実現させていく。

     「こうした小菅の取り組みがさまざまなメディアを通じて他の自治体にも知られるようになりました。すでに全国から多くの自治体が視察に訪れています。来年(2022年)以降、このドローンデポ、ドローンスタンド、SkyHubのモデルが、他の自治体でも導入される見込みです。村のひとに感謝を伝えるという意味でも本日の企画を成功させたいと思っています」。田路CEOは、他自治体への展開の展望に触れてあいさつを結ぶと、集まった村の人々から拍手があがった。

     小菅村の船木直美村長もかけつけてマイクを持ち、「今回の企画は吉野家さんとのコラボと伺いました。小菅で牛丼を食べるのは初めてなので楽しみです」とあいさつ。あいさつのあとに、キッチンカーにむかって「つゆだくで~」と声をかけて場を沸かせる場面もあった。

     午前11時過ぎ、キッチンカーで盛り付けられた牛丼弁当4つが、ドローンに収められた。ドローンが離陸すると、見守っていた村の人々が立ち上がって期待を見上げた。機体が小さくなるまで指で動きを追い、目の前で繰り広げられている様子を焼き付けた。

     キッチンカーは、周辺で見守っていた人にも牛丼弁当をふるまった。キッチンカーから直接、牛丼とみそ汁を手に取った利用者は、感染対策のマスクを器用にはずしながら牛丼を口に運び、口々に「あったかい」「おいしい」と笑みをたたえながら話していた。

     エアロネクストはこれからも、小菅村に住む人々と二人三脚で新スマート物流「SkyHub」の開発を進め、村の物流の課題解決に取り組む。

    ※【DF】エアロネクストはDRONE FUNDの投資先企業です)

    ドローンデポの前であいさつをするエアロネクストの田路圭輔CEO
    小菅村の船木直美村長もかけつけあいさつした
    吉野家のキッチンカー「オレンジドリーム号」を前に、牛丼配送に使用する機体の説明をするエアロネクストの田路圭輔CEO
    牛丼ができる
    この日の運航サポート、前場洋人さんが4つの牛丼弁当が入った箱を機体に乗せる。機体の上から納めることができる設計がこの機体の特徴のひとつだ。前場さんのていねいな作業に、温かさを届けたいという思いが表れている
    牛丼を乗せたドローンが離陸した
    ドローンの様子を見守っていた村の人々は、離陸をすると立ち上がって期待を見送った。指をさしながら空を見上げる人も
    離陸の様子を見守っていた村の人々にも牛丼がふるまわれ、おいしそうに食べていた
    メディアの質問に応じるエアロネクストの田路圭輔CEO
    エアロネクストの田路圭輔CEOは身振りを交えて事業の内容、目的、展望を丁寧に説明した
    拠点であるドローンハブに掲げられている実績の看板。この日の牛丼配送で、ドローン配送の回数が書き換えられた
    新スマート物流Skyhubの拠点となるドローンデポ。ここに小菅村あての荷物を集約する仕組みを構想している
    ドローンの離発着点となるドローンスタンド
    この日の拠点は「橋立下」のバス停留所の近くに設けられた。オレンジ色ののぼりが雰囲気を盛り上げた
    小菅村に拠点を構えたNEXT DELIVERYの拠点

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。