次世代エアモビリティ開発の独ヴォロコプター社は9月3日、経営体制の刷新を実施した。同社のアドバイザリーボード(諮問委員会)は、アドバイザリーボードのチェアマンに、前ダイムラーCEOのディーター・ツェッチェ(Dieter Zetsche)博士を任命した。またジーリーテクノロジーズ(Geely Technology Group=吉利科技集団)CEOのジーハオ・シュウ(Zhihao Xu)博士が新たにアドバイザリーボードのメンバーに加わった。ヴォロコプターの経営を2年間率いてきたダーク・ホーク(Dirk Hoke)CEOは本人の申し出により2025年2月に退任する。ホーク氏の後任CEOは今後、公表される見通しだ。
ディーター・ツェッチェ新チェアマンは任命を受け、ただちに就任した。ツェッチェ氏は就任にあたり「ヴォロコプター社とともに都市交通革命構築を支え、ドイツが21世紀もモビリティの先進地であり続けることに貢献することを楽しみにしています」とコメントした。ステファン・クローク(Stefan Klocke)前チェアマンや、マジド・ムフティ氏(NEOM Investment FundのCEO)は引き続きアドバイザリーボードメンバーにとどまる。
新たなボードメンバーとなったジーハオ・シュウ氏がCEOを務めるジーリーテクノロジーズは、中国の自動車製造大手、吉利汽車や、スウェーデンのボルボ・カーズ、ドイツのメルセデス・ベンツ・グループを傘下に持つ持株会社、ジーリーホールディンググループ(Zhejiang Geely Holding Group=浙江吉利控股集団有限公司)のグループ会社で、ダイムラーとともにヴォロコプターの株主でもある。「未来のモビリティは、道路上と空中とで生じます。相乗効果は明らかで、だからこそ、私の豊富な経験を提供できることを嬉しく思っています」とコメントしている。
ヴォロコプターは8月、オリンピック開催中のパリで、都市部での実践的な運用をためす運用ヴァリデーションフェーズの検証活動キャンペーンを終え、重要な段階を乗り越えた。パリで飛行した機体は「2X」で、今後、大阪万博での飛行が期待されるエアタクシー用「VoloCity」の開発を完了させ、欧州連合の航空当局、EASA(欧州連合航空安全機関)の認可取得を目指すことになる。
2年間経営を率いてきたホークCEOは「私のキャリアの中でこれほど短期間にダイナミックな会社の発展を経験したことはありません」「素晴らしい従業員を抱える偉大な新興企業を率いることができたのは光栄なことでした。2025年2月末までは、EASA認証の取得に全精力を注ぎ、ヴォロコプターの将来に不可欠なビルディングブロックを作り上げるつもりです」などと話している。本人が退任を申し入れ、アドバイザリーボードが受け入れた。
同社の発表はこちら:https://www.volocopter.com/en/newsroom/volocopter-to-undertake-leadership-changes
ドイツのAAM(またはIAM)開発大手、ヴォロコプターは8月11日、世界遺産ヴェルサイユ宮殿の敷地内でeVTOLの試験飛行を実施した。同社は8月8日に、サン=シール=レコール飛行場に設けられたバーティポートを使った有人飛行を実施しており、11日のヴェルサイユ宮殿での飛行試験により、数日間にわたる一連のパリ地域での運用ヴァリデーションフェーズの検証活動を終えた。ヴェルサイユ宮殿は2024年パリオリンピックで馬術と近代五種の会場として使用され、日本から出場した佐藤大宗選手が近代五種で銀メダルを、総合馬術の団体で銅メダル獲得した。日本でのいわゆる「空飛ぶクルマ」の話題作りにも貢献しそうだ。
ヴォロコプターは公表文の中で「As dawn broke over Versailles(以下略、原文はこちら)」と伝えていることから、飛行させたのは現地の日の出時刻である午前6時40分ごろとみられる。宮殿内のシャトー、グラン・トリアノンと庭園を背景に飛行したという。ヴォロコプターは2024年内にパリ中心部で飛行させることを目指す。
ヴォロコプターのダーク・ホーク(Dirk Hoke)CEOは「ヴォロコプター・チームの献身的でプロフェッショナルな姿勢に感激しています。新しい場所や飛行のたびに、われわれ自身、パートナー、当局のみなさまの多大な努力が必要です。持続可能な空の移動コミュニティはまだスタートラインに立ったばかりですが、この特別な環境での今日の飛行は、われわれの夏の締めくくりにふさわしいセレモニーとなりました。すぐパリに戻ります。それが楽しみです」とメッセージを寄せた。
ヴォロコプターが完了させた運用ヴァリデーションフェーズは、理論通りに適切に運用できるかどうかを確認するための検証段階のことで、運用方法に関する公式見解が未確立の新技術などの分野で用いられる。医薬品製造、プログラミングなどでも使われる方法で、医薬品では目指す品質に合った製品を常に製造できるかどうかを証明する品質管理の方法として、医薬品製造業者に実施が義務付けられている。
ヴォロコプターは、パートナーを組むフランスの空港運営会社、Groupe ADP(ADPグループ)の協力を得てサン=シール=レコール飛行場にEvtol専用離着陸場を設置してパリ管区内での試験環境を整えていた。また欧州内での飛行に必要なEASA(欧州連合航空安全機関)の型式証明(TC)は未取得ながら、DGAC(フランス民間航空局=La Direction générale de l’Aviation civile)から支援を受けて飛行許可も取得した。これにより、大都市上空での電動飛行を広めるために必要な段階を踏むことを可能にした。
今年6月20日のパリ国際航空ショーでは、ヴォロコプターとGroipeADPは2024年のオリンピック・パラリンピックに合わせてパリでeVTOL飛行させることを目指すと抱負を表明していた。