通信インフラ大手株式会社ミライト・ワン(東京)のドローン事業を担う子会社、株式会社ミラテクドローン(東京)は1月24日、一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)と一般社団法人日本 UAS 産業振興協議会(JUIDA)が開発した高層ビルなどの外壁点検専門カリキュラム「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」の講習を開始した。このコースの開講の第1号となる。あわせてJUIDAの鈴木真二理事長がミラテクドローンの佐々木康之社長に開講証書を手渡した。コースではドローンを細いケーブルに係留させて飛行する方法などを学ぶ。都市部にある高層ビルなどの外壁点検で頭痛の種となっている時間、コストなどの課題の解決、負担軽減が期待される。修了者は「ドローン建築物調査安全飛行技能者」となる。
「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」が開講したのは、ミライト・ワンの人材育成拠点、みらいカレッジ市川キャンパス(千葉県市川市)。受講生3人が3日間のカリキュラムの初日の講座に臨んだ。2日目、3日目には実技講習が行われ、最後に確認テストが行われる。修了を認められた受講生には、手続きのうえJADA、JUIDAが「ドローン建築物調査安全飛行技能者証明証」を交付する。
ミラテクドローンは開講にあわせて報告とカリキュラムの説明会を実施した。佐々木社長は「人材育成に力を入れている中で、近年は応用コースの要望が増えており、特に建築関連の問い合わせが多い。開講したコースで貢献したい」とあいさつした。JADAの本橋健司会長は「昨年4月に施行された建築基準法12条の定期報告制度のガイドラインで、ドローンの活用が盛り込まれたが、従来の打診と同等の精度が求められる。このコースで、都市部でも外壁にドローンを接近させて、安全を確保しながら飛ばす方法を身に着けて頂くことで、外壁点検のコスト削減、合理化が図られたらいいと思っている」と述べた。
JUIDAの鈴木理事長は「2022年12月の改正航空法の施行でレベル4飛行を可能とする制度がスタートしたが、実際には都市部での飛行はハードルが高い。このコースは係留飛行させる技能を身につけることで都市部での点検にドローンを使うことに道を開く」と、都市部でのタワーマンションなどの外壁点検が抱える課題の解決を期待した。
コースの中心となる技術は、機体と地上の固定点とを細いケーブルでつなぐ「1点係留」と、ビル屋上からはりだしたつり竿と、地上の固定点との間にはったケーブルを、ドローンに取り付けたストロー状の中空のアタッチメントを通すことで、機体の暴走リスクを管理する「2点係留」を用いる方法。
JADAの宮内博之副会長は、「これにより安全技術を構築し、発注者の心配を抑える第三者視点の安全を両立できる」と説明した。コースでは機体操縦、安全管理責任者、係留操作者、補助者の4つの役割と、それぞれが協力しあうチームビルディングについても伝える。ドローンやカメラについて、要求される要件について伝えるものの、機体の具体的な制約はないという。
ミラテクドローンの谷村貴司取締役教育事業部長は、「座学で安全管理、撮影の知識、係留の知識、飛行計画書などを学び、実技で安全管理、筆耕技術、撮影技術、係留技術などを学ぶ。参加者は役割を交代しながらぞれぞれの責任を身に着けることになる」と説明した。
JUIDAの操縦技能証明証と安全運航管理者証明証を取得していて、JADAの建築ドローン安全教育講習を修了していることが受講条件。2022年12月に運用が始まった操縦ライセンスを取得している場合、JUIDAの操縦技能証明証にかえることが可能という。受講料はミラテクの場合、1人あたり39万6000円だ。
ドローンで外壁点検をする場合、建築基準法の要件を満たし「12条点検」であることが必要だ。要件を自力で満たす選択もあるが、ドローン建築物調査安全飛行技能者コースは12条の要件を身に着けられるようカリキュラムが組まれており、証明証の取得は、12条点検と認められる近道となる可能性がある。
国家資格であるドローン操縦ライセンスの教習所「登録講習機関」になるための申請手続きをめぐる現状について、申請者側の事情にも当局側の事情にも精通している黒沢怜央氏(株式会社ジーテック代表取締役・行政書士)に再び話を聞く。黒沢氏は前回、登録制度や手続きについて関係者間の情報錯綜があることが、申請しているドローンスクールの戸惑いにつながっている可能性を指摘した。しかし戸惑いの要因はそれに限らないらしい。スクールが受講者に実施する修了審査に使う機体の仕様や要件も、てこずる原因のひとつになっているという。(文中敬称略)
ーー登録講習機関が受講生を“卒業”させるために実施する「修了審査」では、使う機体の要件が決められていて、それも戸惑いの原因になっているようですね
黒沢 はい。要件を満たしている市販の機体を市場で見つけることは、現状では難しくなっていて、それが戸惑いを招いています。登録講習機関が使う機体のうち、「実地講習」に使う機体の要件については、「必要履修科目の講習を適切かつ安全に行うことができるもの」であればよいと比較的ざっくりしています。しかし「修了審査」で使用できる機体については細かく告示(※)で示されておりまして、これに適合する機体が現時点で販売されている製品が、ほとんどないといえる状況なのです。
(※)登録講習機関の教育の内容の基準等を定める告示
https://www.mlit.go.jp/common/001510312.pdf
ーー修了審査用の機体の要件とは
黒沢 多くの要件があります。主な要件の一つが、ATTIモードに手動で切り替えのできるものでなければならないことです。告示においては、「位置安定機能による水平方向の位置の安定を、送信機で解除可能であり、位置安定機能なしに飛行可能であること。」という記載があります。
ーーATTIモードに手動に切り替えができるものであれば、それなりにありそうです
黒沢 はい、DJIやその他のメーカーの機体でもそれなりにあります。ドローンスクールにおいても、ATTIモードに手動で切り替えて講習を行っているところも多くありますので、この要件がただちに戸惑いの要因になるとは言えないかと考えます。
ーーではスクールにとって障壁となっている部分はどこでしょうか
黒沢 告示の記載をまず見ていただきたいのですが、
「無人航空機と組み合わせる送信機の機能により、修了審査を受ける受講者が操縦する間においても、当該修了審査を行う審査員及び修了審査員を補助する者が、受講者の保持する送信機とは異なる送信機を用いて、受講者に代わり操縦を行うこと(以下「オーバーライド」という。)ができること。ただし、当該受講者、修了審査員及び修了審査員を補助する者並びに修了審査を行う空域周辺の安全を確保できる場合は、この限りでない。」
となっています。この記載のとおり、プロポの機能によって、審査員のプロポで受講生の代わりに操縦が行えるようにオーバーライドできる仕様になっている必要があります。これは無線でも有線(トレーニングケーブル)でもどちらでも構いません。ただ機体メーカー側はオーバーライド機能が重視されることを見込んでいなかったためか、対応している機体が多く出回っていない実情があります。しかも先ほどお伝えしたATTIモードに手動で切り替えができることが前提です。
ーーATTIモードに手動で切り替えられる機体でオーバーライドできる送信機に対応している必要があるということですね。
黒沢 そうです。デフォルトの仕様で要件を満たす機体は、実際に現在発売されているものとしてはかなり限られそうです。ドローンスクールで利用されているものですと、Phantom 4 Pro V2.0があります。ただし、すでに生産が終了しています。また蒼天など国内メーカーの製品もありますが、産業用として開発された機体で、スペックや価格面でスクールによっては難しさを感じるかもしれません。この修了審査機の要件が公表されてから、Phantom 4 Pro V2.0は中古市場でも手に入りづらくなっています。
ーーちなみに25kg以上の機体でも同じ条件でしょうか?
黒沢 はい、マルチローターにおいては同様の機体要件になっています。25kg以上の機体においては、オーバーライド機能が標準で装備されているものがほとんどありませんから、余計に修了審査で使用できる機体は限られると思います。プロペラガードもつけなければなりませんが、これも大型機になりますと純正のものが販売されていないケースが多いように思います。
ーー告示を見ますと、「ただし、当該受講者、修了審査員及び修了審査員を補助する者並びに修了審査を行う空域周辺の安全を確保できる場合は、この限りでない。」と記載があり、安全が確保できればオーバーライド機能は不要なのではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか?
黒沢 はい。私もこの点は航空局の担当官とも話をしましたが、まず屋外においては例え係留装置を用いたとしても認められないということです。航空局が公表しているFAQにも
「係留措置は安全確保の一部となる可能性はありますが、オーバーライドを不要とするためには不足していると考えております。告示で述べている安全を確保できている場合とは、修了審査員、受験者及び修了審査員補助者の安全が確保出来る他、機体の試験場外の空域への飛行を防ぐことを想定しております。一方、係留による措置では、機体の試験場外の空域への飛行を防ぐことは可能かと思いますが、修了審査員、受講者及び修了審査員補助者の安全は必ずしも確保できないと考えます。」
と記載があります。ですから、係留装置を用いてもダメということですね。この安全確保ができる場合というのは、屋内で完全にネットで囲われている状態で、受講者、修了審査員及び修了審査員の補助者がネットの外にいる状況が想定されているとのことです。そのような場合には例外的に機体がオーバーライド機能を有していないとしても認められるということです。
ーーでは、この基準は二等登録講習機関にのみ利用できるということですか
黒沢 そうです。一等の場合は必ず屋外で修了審査を行わなければなりませんから、二等で修了審査を屋内で行う場合に限られています。
ーー登録申請にあたり、必要な機体を揃えることも要件を満たすうえで難題になっていることが分かりました。今後の展望などもお聞かせください。
黒沢 はい、今回、国内初の無人航空機の操縦ライセンスを構築するにあたり、規制官庁も現状に合わせるということではなく、レベル4飛行が実運用されることを見据えて、安全性をどのように担保するかという視点で設計しているものと思います。示された要件に適合する機体を各メーカーが開発して流通するようになるまでは、そう長くはかからないのではないかと思いますので、少しだけ先を見据えつつ、登録講習機関の登録申請も進めていただけたらと思います。
黒沢 怜央 Kurosawa Reo 株式会社ジーテック 代表取締役 Academic works 行政書士事務所 代表行政書士 ドローンやシェアリングエコノミー、FinTech、スマートシティといった先端領域の法規制を専門とする。2018年1月、行政領域におけるITソリューションを軸とした(株)ジーテックを設立、代表取締役に就任。民泊許可・届出手続のクラウドサービス「MIRANOVA(ミラノバ)」やドローンの飛行許可・承認手続のクラウドサービス「DIPSコネクト」等を展開。現在、行政手続のデジタル化に向けて、デジタル庁、デジタル臨時行政調査会への提言や地方公共団体におけるDX推進アドバイザー等も行う。