いわゆる空飛ぶクルマや物流用ドローンを開発する株式会社SkyDrive(愛知県豊田市)は2022年12月27日、千葉県木更津市で、株式会社ダイヤサービス(千葉市)、株式会社ロックガレッジ(茨城県古河市)、合同会社房総山業(千葉県木更津市)、木更津猟友会と、害獣のAI検知や罠の運搬にドローンを活用するなどの実験を実施した。実験ではロックガレッジが開発したAI 検知システム「3rd-EYE Drone」やマッピング&モニタリングシステム「3rd-EYE Center」、SkyDriveの「SkyLift」の有効性を確認した。2023年度にかけてドローンやAIなどを活用した効率的な狩猟モデルを策定に取り組む方針だ。
実験はドローン運航事業を展開するダイヤサービスがプロジェクトオーナーとして推進する、千葉県の革新的デジタル技術開発、実証事業である「先進的デジタル技術活用実証プロジェクト」に採択されたプロジェクトの一環だ。SkyDriveのほか、AIを活用したドローンを開発する株式会社ロックガレッジ、有害鳥獣の捕獲、防護コンサルティングや資器材開発を手掛ける合同会社房総山業、狩猟教育・訓練の木更津猟友会が強みを持ち寄り、地域の効率的な害獣対策の実現を目指す。発表は以下の通りだ。
「空飛ぶクルマ」(※1)および「物流ドローン」を開発する株式会社SkyDrive(本社:愛知県豊田市、代表取締役CEO福澤知浩、以下「当社」)は、株式会社ダイヤサービス、株式会社ロックガレッジ、合同会社房総山業、木更津猟友会と、「先進的デジタル技術活用実証プロジェクト」(※2)として、ドローンやAIといった先端技術を活用した効率的な狩猟モデルを策定、千葉県の害獣駆除の推進に取り組むことをお知らせいたします。
■ プロジェクト推進の背景
日本の農林水産業は、国民の食料を安定に提供し、地域経済を支える重要な役割を担っています。しかしながら、鳥獣による農作物の被害が、農林業者の生産意欲を低下させる深刻な問題となっています。そのため、環境省・農林水産省は 2013 年に「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を共同で取りまとめ(※3)、「シカ・イノシシの生息頭数を 2023 年までに半減させる」ことを目標に掲げ、さまざまな活動をおこなってきました。この結果、農作物被害額は減少傾向にありますが、被害を受ける地域が広がる傾向となり、また狩猟者の高齢化が進んでいることもあり、目標未達の可能性がある状況です。
千葉県においても、高齢化による狩猟者の減少が進む中、相反するように捕獲頭数は増加傾向にあります。また、イノシシが県内を北上し、人口の多い地域へと増殖を続けていて、農作物被害に加えて人の危害の可能性も出てきて、狩猟者の負担が増すばかりの現状です。
このような中、ドローン運航会社の株式会社ダイヤサービス、AI を活用したドローンを開発する株式会社ロックガレッジ、有害鳥獣の捕獲、防護方法のコンサルティング、資器材の開発を行う合同会社房総山業、狩猟に関する教育・訓練を行う木更津猟友会と物流ドローンを開発する当社がそれぞれの強みを活かし、プロジェクトを推進することで、千葉県の害獣駆除の課題を解決できると考え、「先進的デジタル技術活用実証プロジェクト」を推進することとなりました。
■ プロジェクトの全体スケジュール
<2022 年度>
赤外線搭載ドローン自立飛行、AI によるイノシシの自動検知
検知できた場所へ大型ドローンによる「くくり罠」「遠隔通報機」を搬送
設置場所のシステムへのマッピング
<2023 年度>
仕留めたイノシシの大型ドローンによる麓への搬送
AI システムと大型ドローンの連携による自動飛行の実現
害獣 DX 千葉モデルの確立
<実証実験の流れ>
1.市販ドローンによる害獣のAI検知
2.物流ドローン「SkyLift」によるくくり罠・遠隔通報装置の搬送
3.狩猟者によるくくり罠・遠隔通報装置の設置
4.マッピングシステムによるくくり罠設置場所の監視
■実証実験に使用した物流ドローン『SkyLift』の基本仕様
全長:全長2.5m×全幅1.9m×全高1.0m(プロペラ展開時)
全長1.9m×全幅1.2m×全高1.0m(プロペラ折畳時)
機体重量:35kg (バッテリー20kgを除く)
最大ペイロード:30kg
20kg(ホイスト機構利用時)
飛行速度:36km/h
飛行可能距離:2km(最大積載時)
飛行時間:9~15分(積載重量による)
運搬方法:機体固定式ボックス・着陸せず荷物を昇降するホイスト機構
ドローンやその周辺技術の開発を手掛ける株式会社ロックガレッジ(茨城県古河市、岩倉大輔代表取締役)は1月26日、同社がドローン、スマートグラスなどを組み合わせた捜索活動支援システム「3rd-EYE」のデモンストレーションを、古河市の利根川河川敷で実施した。デモンストレーションでは、古河市など7市町で構成する茨城西南地方広域市町村圏事務組合消防本部の消防隊員が、システムの運用、ドローンのオペレーションなどすべてを実施。開発者の支援なく、遭難者の発見、関係者での情報共有、隊員への駆け付け指示、救助の作業と時間を大幅に削減し、円滑に救助できる可能性を示した。
「3rd-EYE」はドローン×AI×XRを融合させた捜索支援システムだ。ドローンで空から情報収集した映像をAIで解析し、助けを求めている人物の有無、人物の位置、姿勢、性別などを判定し、判定結果をわかりやすく、捜索活動の本部のモニター「HQタブレット」に集約されるとともに、現場の隊員が装着しているスマートグラスの映像内でも空間表示される。
捜索では指揮を執る本部と、捜索に向かう現場とで分かれて活動をするため、本部と隊員との意思疎通や情報共有が捜索活動の成果に大きく影響する。「3rd-EYE」は指揮本部と隊員が同じ情報を共有できるため、意思疎通や情報共有の大幅な効率化につながる。指揮本部はこの映像をもとにより的確な指示を隊員に出せる。現場の隊員は装着しているスマートグラスに、目指す要救助者までの距離、方位などが示され、要救助者を探し当てるまでの作業が大幅に効率化する。
指揮本部と隊員間の意思疎通も、映像を共有できるためより円滑化し、精度も向上する。ロックガレッジが消防隊との協議、訓練を重ね、捜索に求められる一連の情報処理を自動化することで効率的な情報共有ができるシステムとして開発した。
デモンストレーションでは、西南広域消防の3人が本部の指揮役、4人が現場の捜索隊役となった。情報収集のために飛行させたローンはAI、自動飛行システム統合したドローン自動飛行システムを搭載してあり、これも消防隊員が飛行を担った。
デモは大規模災害が発生し、河川敷に要救助者がいる想定で、現場にドローンを飛行させるところからスタート。本部のモニターにドローンからの映像とAIで解析された情報が共有された。あらかじめ要救助者にみたてた人形3体を設置してあり、その人形をシステムを活用して迅速に発見し、現地に駆け付け、救助することがデモのミッションとなった。
本部のモニターに映し出されたドローンの映像とAI解析結果には、映し出されている映像内に救助すべき人がいると判断した場合に、人の形をしたアイコンが該当箇所に表示される。検知した人が、倒れているのか、立っているのか、おぼれているのか、といった姿勢に関する情報や、距離も映し出される。本部のモニターに加え、現場に向かう隊員が装着しているスマートグラスにも情報が共有される。また別のモニターにはスマートグラスを装着した隊員の見ている映像が表示される。複数のスマートグラスを装着した隊員がいる場合、それぞれを切り替えられる。スマートグラスの映像は、ドローン映像のAI解析結果と連動していて、助けを求めている人のアイコンが、スマートグラスの映像に反映される。同時に、方位や距離も示され、装着した隊員は、それを頼りに捜索に向かうことができる。
本部はこれらの映像を見ながら、複数の要救助者のうち、どこに向かうかを判断し、隊員に指示。隊員は、指示された要救助者の救出に向かう。このさい、スマートグラス内に示された映像を照らし合わせる。隊員が救出に向かい、要御救助者の人形に近づくと、映像内に示される人形までの距離の数字が小さくなり、近づいていることを理解できる。この様子は、隊員のスマートグラスと、本部のモニターとで共有されている。本部と現場の意思疎通は音声で行われる。映像や情報を共有しているため、本部からの指示の内容が的確に伝わり、隊員からの報告も本部が理解しやすくなる。
デモンストレーションでは、3体の人形を河川敷、河川内、茂みの中に設置したが、いずれも最短ルートで発見し、救出ができた。
今回のデモンストレーションは、茨城県が取り組む「DXイノベーション推進プロジェクト」に採択された「ドローン×AI×拡張/複合現実による要救助者空間表示システムの実用化」の一環として行われた。この日のデモンストレーションを含め、複数回の試験が売り返され、システムの実用化に向けた性能の検証、利便性の評価が行われている。開発の特徴は利用者の使い勝手を踏まえた改善。ロックガレッジは西南広域勝消防の日頃の訓練の成果をいかし、能力を引き上げるために、活動に必要な要素を優先して実装する開発を繰り返してきた。
システムの運用をすべて消防が行ったことも特徴のひとつ。システムの専門家の手を借りずに、利用者が使えるように仕上げた。ロックガレッジの大畑令子取締役は「われわれの出番がいらないほどに完全に使いこなしておられます」と目を細めていた。
参加した西南広域消防の隊員の1人は、「災害発生時に助けを求めている現場では、どれだけ短い時間で救助できるかが人命救助の成果を左右します。われわれは日々、その訓練をしていますが、このシステムは要救助者の発見、情報の共有、医師の疎通などの作業に必要な時間の短縮に大きな力を発揮してくれます」と話した。
ロックガレッジの岩倉大輔代表取締役は「吸い上げた情報のすべてを垂れ流すように提供することはできますが、それでは現場が混乱することをわれわれは学んできました。指揮する皆さんや現場に向かうみなさんが、最も必要な情報を、最も使いやすく適切な形で提供する方法とその仕組みを、意見交換や試験を繰り返しながら検討してきました。今回、ここまでの成果をお示しできました。これを役立てて頂ける現場でお使い頂き、成果に親羽立板出ればありがたいと思いますし、これからも改善を続け、さらに使い勝手のよい、より役立つものにしてまいりたいと考えています」と話した。
「3rd-EYE」は災害利用のほか、山岳遭難、徘徊者の捜索、警備、害獣調査などへの応用が可能で、ロックガレッジは今後、このシステムの普及と利便性向上を続ける考えだ。