海で溺れるなど水難事故が起きたときに海岸から空を飛んで現場に急行する海難レスキュードローンの実証実験が2月13日、鎌倉市(神奈川県〕の材木座海岸で行われた。実験ではライフセイバーが溺れた遭難者役として海岸から離れた水面に漂い、ドローンが急行して救命浮環や、海水を着色できるシーマーカーなどの封入したカプセルを投下した。カプセルにはGPSが搭載されていて、陸上で現場の場所を特定できるため、海岸からボートなどでかけつけるさいに役立つことが確認できた。実験を主催した神奈川県産業振興課の高橋敦課長は「ドローンが新しい救助の道具として活用できることで海の安全安心につながることを期待しています」と話した。
レスキュードローンは田村市(福島県)に本社を構える株式会社manisonias(マニソニアス)が、「Quick」(クイック)ブランドで国内のドローン開発を数多く手掛ける五百部商事有限会社(鹿沼市<栃木県>)の機体をベースに、レスキュー機「SAKURA」にカスタマイズした。サイズは1.18m×1.18m×0.60mで機体重量は20㎏。最大離陸重量は24kg。機体からカプセルを投下するための筒を4つ搭載していて、膨張型救命浮環を複数備えて飛べることが大きな特徴だ。水難者が複数人いた場合に、一度の飛行で救命浮環をそれぞれに届けられる可能性が高まる。
この日の実験では離岸流により沖合に流された人を救助するため空からドローンがかけつけるケースを想定した。実験は2度行われ、はじめに1人のライフセイバーが溺れ役として海上に待機し、レスキュードローン「SAKURA」が海岸から急行。現地の上空20メートルあたりからシーマーカーを投下した。パラシュートがついたシーマーカーの入ったカプセルが風に流されながらも現地に近い海面に着水する様子が確認できた。二度目は溺れ役が二人になり、ドローンはそれぞれぞれの上空から、今度は膨張型救命浮環を投下させた。飛行と投下はひとつのコントローラーで操作可能だ。
なおレスキュードローン「SAKURA」はスピーカーが備えてあることも特徴だ。ライフセイバーによると、水難者への救助には声掛けが重要な要素になるという。たとえば救命浮環へのつかまり方を水難者に伝えることができる。また「SAKURA」の着陸用の脚にはフロートがついている。救命浮環を投下しきっても、まだ水難者がいる場合などに、機体そのものを着水させると、水難者がつかまって救命浮環がわりになる。ただし水につかったあとの機体が再浮上できる期待は薄く、「人命を第一として万が一の場合の活用法として準備した」(manisoniasの開発責任者、下田亮さん)という。
実験を主催した神奈川県は2024年度に新規事業としてドローンの開発支援に乗り出しており、今回の実験はその一環だ。実用化、実装のために有望なプロジェクトを県内事業者に限らず広く募集し、33件の中から開発2件、実験2件を採択していた。manisoniasは開発として採択されていた。田村市の事業者だが、鎌倉市、藤沢市など湘南海岸の沿岸パトロールなどで6年間の実績がある。今回の神奈川県の採択を受けて、「既存機体でできなかった複数救命浮環搭載などの要素をつめこんだ」という。
海で溺れる水難事故が発生した場合、海岸からライフセイバーがかけつけるが、現場にかけつけるまでに一定の時間がかかる。ドローンが急行し救命浮環を投下することができれば、ライフセイバーがかけつけるまでの救命につながる。このためライフセイバーにもドローンに期待する声は多い。
今回の実験では、電波の干渉を受けるケースがあることも分かり、manisoniasは「今後の改善すべき点を発見することができた」と今後の開発につなげる考えだ。
ドローンでパトロール、ライフセーバーと連携ー!湘南を代表する海岸のひとつ、神奈川県藤沢市の片瀬西浜で7月18日、ドローンとライフセーバーが連携し、遭難者を救助する安全確保のデモンストレーションが行われた。ドローンが遭難者に救命器具を届け、連絡を受けたライフセーバーが現場に急行して救助する。最初のデモンストレーションが行われた7月18日の午前中、参加者、見学者が傘を差しながら見守る雨脚が強い中で行われたが、この日使われたドローン、MATRICE 300RTKは晴天時と変わらない安定した飛行を見せたうえ、パイロット、補助者、ライフセーバーの連携による救助も円滑で、藤沢型パトロールが安全確保に強力な支援となることを証明した。
デモンストレーションはこの夏の海水浴場の開設中止に伴う安全確保策の一環として行われた。
神奈川県は新型コロナウイルス感染拡大対策として、県内25か所の海水浴場の開設を取りやめた。海水浴場開設時の安全対策が取れなくなる中、水難事故などトラブル対策として、神奈川県が日本ライフセービング協会と包括協定を締結し、藤沢市が海水浴場組合、神奈川ライフセービング協会、藤沢市サーフィン協会などと協議し「夏期海岸藤沢モデル2020(藤沢市夏期海岸ルール)」を定めていた。ドローンを積極的に活用することはこうした対策の中に盛り込まれており、この日、ドローンとライフセーバーの連携という日本初のデモンストレーションが開催されることになった。
ドローンの運用について、慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は、原則として8月末までの週末、祝日を中心に日中に1時間おきに15分のフライトをさせるプランを説明した。
ドローンは搭載したカメラの映像で異常の有無を確認する。また搭載したスピーカーで遊泳自粛などを呼びかける。要救助者を確認した場合には、詰所に控えているスタッフがスピーカーを通じて声をかけたり、必要に応じて救命具を投下したりする。あわせてライフセーバーに連絡をとり、ライフガードチューブなど必要な救助活動につなげる。
この日のデモンストレーションでは、ドローンが水面で救助を求める遭難者の上空まで飛び、ライフガードチューブを投下させた。遭難者は救命具をつかむことができた。同時に、連絡を受けたライフセーバーが出動、遭難者を海岸まで誘導した。ドローンの運用は、株式会社JDRONE(東京)、災害復興支援のチーム藤沢(藤沢市)、慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムなどで結成したレスキューチーム「FLYING BEACH GUARDIANS」が担当。チームメンバーでUAV環境調査研究所の前場洋人代表がパイロットを、株式会社ドローンママの飯原夏子代表が救命器具の投下を担当した。一般的にはドローンのフライトには不向きな天候の中、オペレーターの2人はドローンの正確で安定した飛行と、救命具の確実な投下で期待に応え、ドローンがポートに着陸したさいには大きな拍手が送られた。
ドローンとライフセーバーの連動による安全確保は、8月23日まで週末、祝日を中心に続けられる。
神奈川県は9月2日、ドローン前提社会の実現に向けた取り組みを推進する産学公連携型のコミュニティ、「かながわドローン前提社会ネットワーク」の第1回会合を開催する。市町村や企業等と連携し、テクノロジーの力を活用して、高齢化の進展で顕在化する社会的課題の解決に向けて実践的な取組を進める。第1回は千葉大学名誉教授で一般財団法人先端ロボティクス財団の野波健蔵理事長、慶応義塾大学SFC研究所ドローン共創コンソーシアムの南政樹副代表の講演などが行われる。県が「ドローン前提社会」の実現を掲げて具体的な取り組みを進めるのは全国でも神奈川県が初めてだ。
かながわドローン前提社会ネットワークは、ドローンが日常で当たり前の選択肢となるドローン前提社会の実現に向けて、市町村や企業、大学、研究機関などのアカデミアと連携し、ドローンの社会実装を促し、地域の課題解決と経済振興を図ることを目的として活動するコミュニティ。勉強会や交流会等を通じ、ドローンを活用した社会的課題の解決に向けたニーズとシーズのマッチング等を推進するほか、県民理解の醸成、規制の緩和、ルールづくり等環境整備を図る。
アカデミア、企業・団体、市町村などで構成し、会費は無料。神奈川県政策局未来創生課が事務局機能を担う。
第1回会合は、9月2日、14時30分から16時30分まで、神奈川県庁で開催。黒岩祐治知事のあいさつ、神奈川県の取組についての説明、先端ロボティクス財団の野波健蔵理事長、慶応義塾大学SFC研究所ドローン共創コンソーシアムの南政樹副代表による講演、取組事例の紹介などが行われる。
ネットワークへの参加は随時申し込みを募集していて、県の応募フォームに必要事項を記入して申請する。神奈川県政策局未来創生課の問い合わせフォームから、問い合わせができる。
神奈川県が“ドローン前提社会“の実現に向けてモデル事業の募集を始めた。県内のフィールドを活用した、ドローンのさらなる活用や 県民の理解促進を図る事業の提案を募る。対象となる事業は災害、環境保全、物流など社会課題解決につながる事業で、実施期間はモデル事業として採用されてから令和2年3月31日まで。採用された事業には、県が事業を実施のためのフィールド提供、手続きの確認や関係機関への橋渡し、実施結果のメディア等を通じたPRなどを実施する。一次募集は9月12日まで。なお9月2日にはネットワーキングの会合も予定されている。
神奈川県がドローン前提社会の実現に向けたモデル事業を募集するのは、高齢化の進展などで顕在化している社会的課題を解決するため。「Society5.0」の考え方も取り入れ、市町村、企業、大学や研究機関などのアカデミアとも連携し、テクノロジーを活用した取組みを推進する。受付期間は第1期が9月 12 日(木)まで。その後再募集を予定している。
対象事業は県内で行われる社会課題解決を目指す取り組みで、災害関係では、火山活動の監視や災害時の協力体制強化のための訓練への活用、環境関係では、現地調査が困難な斜面地等での農地の現況調査への活用、物流関係ではレジャー施設などでの物品の運搬への活用がそれぞれ例示されている。このほか、点検・監視関係、観光関係なども列挙されている。
要件を満たした法人であれば、県内に拠点を構えていなくても応募可能。応募必要な提出書類を神奈川県政策局未来創生課未来創生グループに提出する。
神奈川県内ではドローンの取り組みが活発で、昨年6月には県立湘南海岸公園で「湘南UAVデモンストレーション2018」が開催され、珍しいドローンがお披露目されて話題になったほか、国家戦略特化の枠組みを活用して開業した「農家レストラン いぶき」の開業式典でもその様子をドローンで記録撮影されたりしている。藤沢市内にはドローン研究に積極的な慶應義塾大学が湘南藤沢キャンパスを構えており、全国に先駆けた取り組みが期待されている。
詳細や応募方法などは神奈川県のホームページで:
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/k8d/prs/r7488163.html?fbclid=IwAR0cu8oGF919XxBscwc0WfMRT-O3lbLEKNnl6ud2aI_sjXpQREkV4uBfdW0