大阪・関西万博の主催団体である公益社団法人2025年日本国際博覧会協会は2月21日、大阪・関西万博で利用者を乗せた航行の実現をめざすいわゆる「空飛ぶクルマ」の運航事業者が、ANAホールディングス株式会社とJoby Aviation Inc.のグループ、日本航空株式会社、丸紅株式会社、株式会社SkyDriveの4グループ5社に決定したと発表した。また万博会場内の離発着場となるポートの運営を担う協賛企業について、オリックス株式会社が決定したと発表した。運航事業者に選ばれたSkyDriveの 福澤知浩代表取締役CEOは「今後も事業開発、機体開発に推進してまいります」と話している。
運航事業者に決まった4グループはそれぞれが別々の機体を運航する。万博会場では彩り豊かな機体が運航する見込みだ。
ANAHDとJobyは、Jobyが開発する「S-4」、JALは提携する独Volocopterが開発する「VoloCity」、丸紅は、提携する英Vertical Aerospaceの「VX4」を運航する見込みだ。
丸紅は子会社の丸紅エアロスペース株式会社とともに英Vertical Aerospace社と業務提携し、今年1月に25機分をの前払いして購入予約済みだ。同社は空飛ぶクルマの運航を想定したヘリコプターでの模擬体験ツアーを実施するなど、社会実装を視野に入れた取り組みを加速させている。
日本から選定されたSkyDriveは、商用機として発表された「SD-05」を運航させる見通し。同社は万博開催の2025年の事業開始を目指している。
Volocopterには住友商事株式会社が出資を決めており、日本企業のエアモビリティ事業参入機運が加速している。(「住商がVolocopterに出資」の記事はこちら)
SkyDriveは以下のプレスリリースを発表している。
「空飛ぶクルマ」(※1)および「物流ドローン」を開発する株式会社SkyDrive(本社:愛知県豊田市、代表取締役CEO 福澤知浩、以下「当社」)は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)『未来社会ショーケース事業出展』のうち、「スマートモビリティ万博」における空飛ぶクルマの運航に係る事業者に選定されたことをお知らせいたします。
■2025年大阪・関西万博「未来社会ショーケース事業出展」応募の背景
当社は、「100年に一度のモビリティ革命を牽引する」をミッションに、「日常の移動に空を活用する」未来を実現するべく、2018年7月に設立し「空飛ぶクルマ」を開発しています。2019年に日本で初めて「空飛ぶクルマ」の有人飛行に成功し、2025年の大阪・関西万博開催時に大阪ベイエリアでのエアタクシーサービスの実現を目指して開発を推進してきました。
この実現に向け、大阪を舞台とした空飛ぶクルマの社会実装に向けた動きを加速させるため、大阪府が2020年11月に設立したラウンドテーブルに、当社も設立当初から構成員として参加し、様々なステークホルダーとの連携や事業検討のための議論、地域住民の理解促進や社会受容性を高めるための活動を行ってきました。また、2021年9月には更なる認知度や社会受容性の向上を目指し、大阪府、大阪市と連携協定を締結し、断続的な活動を行ってきました。
この度当社は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が実施した、大阪・関西万博の「未来社会ショーケース事業出展」の、会場内ポート及び会場外ポートをつなぐ2地点間での空飛ぶクルマの運航の実施を目指し、運航に係る事業者の募集に応募した結果、選定される運びとなりました。
航路や飛行頻度、機体の稼働台数、サービス提供価格等の詳細は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会を含む関係者の方々と、順次協議、決定してまいります。
■株式会社SkyDrive 代表取締役CEO 福澤知浩 コメント
当社はこれまで、2025年大阪・関西万博にて、現在設計開発中の空飛ぶクルマ「SD-05」を皆さまにお披露目し、未来を感じていただくことを目指してまいりました。この度、「スマートモビリティ万博」空飛ぶクルマ事業における参加企業に選定いただき、大変感慨深く感じます。これまで様々な形で応援・ご支援くださった関係者の皆さまと、大阪・関西万博を目標に共に励んできた社員の皆に、心より感謝申し上げます。
万博の場に向けた空飛ぶクルマへのご期待を改めて実感し、これからのチャレンジに奮い立つ気持ちでございます。10年後、20年後に当たり前となる「日常の移動に空を活用する未来」を体感し、楽しみにしていただける場となるよう、今後も事業開発、機体開発に推進してまいります。
万博協会のプレスリリースは以下の通りだ。
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)における「未来社会ショーケース事業出展」のうち、「スマートモビリティ万博」空飛ぶクルマの会場内ポート運営の協賛企業を決定しました。また、2022年12月27日より2023年1月20日まで募集(第1次)を行った空飛ぶクルマ運航事業について、参加企業を選定しました。
「未来社会ショーケース事業出展」の各事業については、引き続き多数の企業・団体と協議中であり、新たな協賛企業・団体については順次発表する予定です。
■協賛企業
オリックス株式会社(東京都港区 取締役 兼 代表執行役社長・グループCEO 井上 亮)
■協賛内容
万博会場内の北西に位置するモビリティエクスペリエンスに設置予定のポートの運営 (整備・維持管理・撤去を含む)を実施します。
■参加企業
・ANAホールディングス株式会社(東京都港区 代表取締役社長 芝田 浩二)及びJoby Aviation Inc. (アメリカ合衆国 カリフォルニア州サンタクルーズ CEO JoeBen Bevirt)
・日本航空株式会社(東京都品川区 代表取締役社長執行役員 赤坂 祐二)
・丸紅株式会社(東京都千代田区 代表取締役社長 柿木 真澄)
・株式会社SkyDrive(愛知県豊田市 代表取締役CEO 福澤 知浩)
■事業内容
万博会場内ポート及び会場外ポートをつなぐ2地点間での空飛ぶクルマの運航の実施を目指します。関係自治体や国の関係機関の協力を得て、具体的な取り組みを今後行っていく予定です。本事業の詳細については、今後関係者と協議の上決定します。
<ご参考>▽未来社会ショーケース事業について
未来社会ショーケース事業は、大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会」を支える技術・サービスを、2025年以降の未来を感じさせる「実証」と2025年の万博にふさわしい「実装」の形で、「未来社会の実験場」となる万博会場の整備、運営、展示、催事などに活用し、国内外の幅広い参加者や来場者に、体験として提供する事業群の総称です。
ロボット技術の集積を目指している埼玉県は2月14日、遠隔操作ロボットをテーマにした「第14回埼玉ロボットビジネス交流会」を新都心ビジネス交流プラザ(さいたま市中央区)で開催した。遠隔コミュニケーション技術「AVATAR(アバター)」で話題を集めるANAホールディングスの深堀昴氏が、大分市の大分県立美術館「OPAM」と同時中継でつなぎ、さいたま市にいながらOPAMを歩き回る実演をまじえ、「物理駅距離からの解放」について紹介した。このほかドローン開発の株式会社エンルート(埼玉県朝霞市)を創業し(その後退任)、現在は株式会社アトラックラボ(埼玉県三芳町)の代表をつとめる遠隔ロボット技術開発の第一人者、伊豆智幸氏らが登壇した。
埼玉県がロボットビジネス交流会を企画したのは、県として先端事業に力を入れているためだ。平成26年度から、ナノカーボン、医療イノベーション、ロボット、新エネルギー、航空・宇宙の5分野を中心に産業集積を目指す「先端産業創造プロジェクト」を推進していて、交流会はその活動の一環として企画された。
埼玉県産業労働部先端産業課長の高橋利男さんは「遠隔技術は高齢者の見守り、遠隔教育、スポーツなどで使われ始めており、今後は遠隔医療などとして社会課題の解決に期待が寄せられている。来年度は先進的な技術を埼玉県、あるいは日本の社会課題を解決するイノベーションの創出支援に取り組む」と表明し、県としての意気込みの強さを示した。
講演では、ANAの深堀ディレクターが、ANAがAVATAR技術に乗り出している背景について、ANAがヘリコプター2機で航空事業に参入したベンチャーだった成り立ちがあることや、人類にとって移動は歴史的に課題であり続け、その克服がイノベーションにつながってきたこと、ANAとして目指している世界中をつなぐというビジョンの達成は、エアライン利用者が世界の6%にとどまる中、実現が困難なことなどを紹介した。非営利組織XPRIZE財団が主催するコンペティションをきっかけに、ANAの事業として全社的に力を入れているという。
そのうえで移動できる台座、ディスプレイやカメラなどから構成される独自開発のAVATARロボット「newme(ニューミー)」を紹介。大分県立美術館にあらかじめ置いてあるnewmeに、さいたまにいるユーザーがログイン(AVATAR-INという)し、美術館に待機していたスタッフに案内を受けて見回る体験を披露した。またこの技術を可能にする超低遅延データ転送システムについて、2020年5月に提供をはじめると話した。
深堀さんは「アバターには誰でも入れるが、入るとロボットに個性そのものになる。単身赴任している父親が家庭に置いてあるnewmeにAVATAR-INすると、うちにいる娘さんはnewmeを“パパ”と認識する。おもしろいことにペットもそう認識する。この技術を通じ、ANAは2050年までに物理的距離と身体的限界をゼロにする瞬間移動手段となることを目指す」と話した。
次に登壇した月面探査ロボYAOKIを開発した株式会社Dymon(ダイモン、東京)のCEOでロボットクリエイターの中島紳一郎さんは、手のひらサイズのYAOKIの実物を持参。「超小型軽量で月への打ち上げコストを10分の1以下にした。転んでも倒れても走行不能にならないことから、“七転八起”でYAOKIと名付けた」と説明した。20201年には月面探査を実施し「水が存在することは確認できているがそれを洞窟探査する」と表明した。
アトラックラボの伊豆智幸さんは、無人移動ロボットで使われる技術と用途についてLidarやAIを活用して農業などに転用できる技術を紹介。「3万円ほどで購入できるセンサーなどを使うことで、人がいれば避けることもできるなど可能性が広がってきた」と紹介。地面に落ちている栗を、小石、工具などと見分けて拾うロボットを紹介。「お金持ちのお客さんにはゼロをひとつふたつ足しますが、そうでなければ技術を開放したい」と会場の笑いを取りながら説明した。
触感や身体感覚を共有する技術、“BodySharing”の開発を手掛けるH2L株式会社の岩崎健一郎さんは、手首にパルスメーター状のデバイスをまくと、コンピューターから信号を受けて、手首を動いたり、指が曲がったり伸びたりする技術をデモンストレーション。「VR、AR、ロボティクス、ヘルスケア分野で活用が見込まれる」と紹介。すでに、配電盤の作業員向けに、危険な作業をしてしまう場合に刺激を受ける研修に用いられていることなどが紹介された。岩崎さんは「リモートワークで身体を使う業務ができるようになる」と、活用を拡大したい考えを表明した。
このあと参加者をまじえての懇親会で、登壇者を中心に、それぞれの技術を活用する提案などの議論が盛り上がった。埼玉県は今後も、ロボット先端産業に力を入れる考えだ。