自律飛行ドローン開発を手掛ける株式会社自律制御システム研究所(ACSL、本社:千葉市美浜区) と、業務の完全自動化ソリューション開発を手掛ける株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区)は4月23日、業務提携を締結したと発表した。ハードウェア開発に強いACSLと、ソフトウェア開発に強いセンシンがそれぞれの専門性や知見を持ち寄り、産業向けのドローンソリューション構築や、社会実装に連携して取り組む。
提携により、利用者の求める課題解決のプロセスについてさらに広範な対応が可能になる。用途に適した機体やソフトウェアシステムを組み合わせたソリューションの構築から、効果検証、オペレーション導入、導入後のサポートまでの工程をシームレスに提供できる。すでにACSL の機体とセンシンの自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHT CORE』との接続を完了しており、屋内点検、物流の自動化、遠隔監視、遠隔管理の定期運用が可能だ。
センシンは、自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHT CORE』を中心に、ドローンなどのビジネス活用に必要な業務を自動化させるサービスを提供している。送電鉄塔やプラント施設、大型施設屋根などの点検、災害現場の被害状況把握など防災・減災対応、警備や監視に提供中だ。
ACSL は、業務の省人化や無人化に役立つ国産ドローンを開発している。画像処理AI のエッジコンピューティング技術を搭載した自律制御技術や、この技術を搭載したドローンを開発、提供しており、インフラ点検や郵便・物流、防災などで活用されている。1月には国産の小型産業用ドローン『Mini』を発表している。
昨年、四国電力伊方原子力発電所で行われた事故を想定した防災訓練では9機のドローンの編隊飛行を実現し、両者連携の有効性を実証した。こうした経験で得た知見を、発掘したエンドユーザーの課題解決に生かす。
ACSLの鷲谷聡之COOは今回の提携について、「センシンとACSLに共通するのは、プロダクトをプッシュするビジネスを展開していない点。何を欲しているのかを発掘し、その解決策を開発して提供している。今回の提携でさらに踏み込んだことができる。成果は来年、再来年と言わず、示していきたい」と意欲を見せた。
また北村卓也代表取締役も「お客様すら認識していない課題を見つけ、それを提示し、ハっとして頂いて、その課題の解決を実現させることがわれわれのビジネス。お客さまに伴走してBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、業務フローや設計の見直し)を実現させる。ソフトで解決できること、ハードで解決できること持ち寄って、ドローンの利活用が“幻滅期”を抜け出し、ドローン前提社会を実現させたい」と話している。
産業用ドローンなどを活用して業務用ロボティクスソリューションを提供する株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区)の北村卓也代表取締役が、DroneTribuneのインタビューに応じ、2020年の事業と展望を語った。
北村社長は、2019年の同社の活動について「当社が目指す『ドローンによる業務の完全自動化』を実現するコアテクノロジーとなる完全自動運用型ドローンシステム『SENSYN DRONE HUB』のサービス提供を開始したことが大きなトピックです」と振り返った。
「SENSYN DRONE HUB」は、ドローンの機体を格納し、自動での離発着や自動充電に対応する基地(ドローンポート)。ソフトウェアによる制御と組み合わせることで、事前に設定されたルートへの自動飛行や、画像などの撮影を自動化できる。先に行われた国営飛鳥・平城宮跡歴史公園(奈良市)での実証実験のように、定期的な施設の点検が可能になる。センシンロボティクスでは、ビル、工場、高層施設などの警備や監視業務をはじめ、津波、雪崩などの災害対策と定点観測や、鉄塔、陸橋、ダムなどの定期点検、さらに山間部、高所、災害危険地域などにおける業務に利用できると提案している。
北村社長は「当社のお客様は、鉄鋼、石油、電力、鉄道、道路、建設、通信などです。大きな工場の設備点検や、石油タンクなどの点検を行っています。すべての事業者に共通した課題が『人が足りない』という状況です。高所の点検などは危険が伴います。そのため、なかなか点検要員のなり手が増えません。こうした課題をドローンが解決していけます」と展望した。
始動した2020年の取り組みについて、北村社長は「今年は『SENSYN DRONE HUB』の実導入の年と位置づけ、様々な業種で、実運用に向けた試験導入を行ってまいります。具体的には、有人地帯における目視外飛行(レベル4)に向けた準備を進めていくことになります。現在は法規制の関係上、オペレーターの目視可能範囲(レベル3)での飛行検証を行っていますが、ドローンによる業務の完全自動化を実現するためには、目視外補助者なしでドローンにミッションを行わせる必要があり、ハードウェア・ソフトウェアの進化、社会的受容性の喚起を促進して参ります」と話す。
一方で、ドローンによるソリューションの提案先が抱える構造的な課題があると、北村社長は指摘する。いまの社会を支えている歴史ある重厚長大企業の本社の管理職や現場の責任者などが、積極的に未知の新しいソリューション導入に踏み切れないでいる現状だ。「少子高齢化や設備の老朽化に伴う課題やリスクへの対応は待ったなしと認識しつつも、自分が定年するまでは、点検などに大きな変化を起こしたくない」との心理的抵抗が大きいため、現場へのドローン導入がなかなか進まない。
こうした課題を解決するために、北村社長は「能動的な提案をぶつけるようにしています。お客様の課題を解決するひとつの手法として、ドローンやロボティクスがあることを提案しています。また、大きな事業所などでは、数多くの利害関係者が点検や検査に携わっているので、地域や地元の構図を理解した上で、ビジネスを推進しています」と取引先の事情を丁寧に向き合う姿勢を明確に打ち出している。実際、こうした取り組みが実を結び、これまでにドローンによる送電線点検や、警備サービスの強化などに導入されてきた。
北村社長は「これまでの実績が口コミで伝わることで、いろいろな部署や新規の事業者からも、問い合わせが増えています。ドローンによるソリューションは、最初の信頼を築くまでは苦労も多く事業化へのハードルも高いと思います。しかし、ひとつの実績が評価されると、わらしべ長者のように新しいビジネスへとつながっていきます。今年から、様々なシーンでドローンの社会実装が加速していくと考えています。当社が注力する設備点検、警備監視、防災・減災対応においても、産業用ドローンの市場はさらに大きく拡大していくものと想定されます。我々はドローンサービスのリーディングカンパニーとして市場を牽引して参りたいと考えております」と2020年に向けた抱負を語る。
ドローンによる業務の完全自動化を目指す株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:北村卓也、以下センシンロボティクス)と、産業用ドローンを開発する株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役 CEO:田路 圭輔、以下エアロネクスト)は9月30日、産業用ドローンの次世代コンセプト「空飛ぶロボット(Flying Robots)」の具現化に向けた戦略的業務提携を締結したと発表した。エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローン大手、MMCが生産した機体も完成し、両社は新たな段階を迎える。
今回の背景には、日本が抱える社会課題がある。少子高齢化による労働人口の減少や高騰する人件費、危険区域での作業者の安全確保などの課題に対して、両社が提携して開発する「空飛ぶロボット」という産業用ドローンで解決していく。日本の社会が抱える「物流」、「農業」、「警備」、「設備点検」、「災害対策」といった様々な分野での課題を「空飛ぶロボット」で対応していく取り組みだ。
両社が提携を推進した理由として、エアロネクストの田路圭輔CEOは「ドローンは、写真や動画の撮影など、用途がいわば『人間の目』としての役割に絞られ、しかも、短時間、短距離、また良好な時のみの、限定的な条件下で使用されている状況です。現在の産業用ドローンが『空飛ぶカメラ』という領域であるとすれば、次世代の産業用ドローンに求められるのはその機能を活用して人間の代わりに複数の何らかの仕事を行う『空飛ぶロボット』であり、自動航行プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』と重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載した産業用ドローンを組み合わせることで、次世代コンセプトの『空飛ぶロボット』を現実化できる。両者がこの考えで一致して、今回の提携に至りました」と話す。
また、センシンロボティクスの北村卓也社長は「当社は、日本が抱える社会課題に対して、自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHTCORE』を中心に、『ドローンの操縦や撮影された映像の確認作業を行うためのオペレータ(人力)の不足』や『その育成・確保にかかる工数』といった問題を解決するための様々なドローンソリューションを展開しています。センシンロボティクスが得意とする送電線、鉄塔、ダムなど広域にわたる社会インフラの保守・点検分野において、既存の産業用ドローンでは対応できなかった複雑な用途でも、エアロネクストが開発した『4DGRAVITY®︎』搭載ドローンを活用すれば、センシンロボティクスの顧客の具体的な要望に応じた提案・開発を行うことが可能になります」と提携の理由を語る。
エアロネクストが展開する重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載する産業用ドローンは、複数のペイロードを搭載でき、ペイロードの搭載位置が本体の側面や上部であっても安定的な飛行が可能になる。安定性によるエネルギー効率の改善により、長時間、長距離の飛行も可能にする。そのため、一度の飛行中に『写真や動画を撮る』ほかに、複数の仕事をこなせる。だからこそ、重心制御技術「4D GRAVITY®︎」搭載の産業用ドローンで、次世代コンセプト「空飛ぶロボット」が現実化できるという。
センシンロボティクスの北村卓也社長と、エアロネクストの田路圭輔CEOは、お互いをベストなパートナーシップであると位置づけている。エアロネクストの田路氏は「産業用ドローンには、ニーズに応じた柔軟な機体が求められています。空撮に特化した機体では、様々な要求に対応できません。センシンロボティクスのサービスが求める機体を開発することで、『空飛ぶロボット』の実現を加速できるのです。われわれの技術でその開発を可能にしたいと考えています」と話す。
また、特別な知識や技術がなくてもドローンによる業務自動化を簡単に実現させる総合プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』を提供するセンシンロボティクスの北村卓也社長は「産業用ドローンには、空撮だけではなく、叩く、つまむ、吹く、持っていくなど、様々な機能が求められています。こうしたニーズに対して、重心制御技術の4D GRAVITYを搭載した産業用ドローンで、パラダイムシフトを実現したいと考えています」と展望を述べた。
エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローンメーカー、MMCが生産した機体がすでに完成するなど、両者の目指す「空飛ぶロボット」の具現化への体制が急ピッチで整っており、今回の戦略的業務提携はドローンのビジネスを新たな段階に導くきっかけになりそうだ。