ドローン運用や関連サービスを手掛ける株式会社ダイヤサービス(千葉市、戸出智祐代表取締役)は1月28日、千葉市花見川区の田畑の広がる地域で、収穫した地元の野菜をドローンで運ぶ取り組みを実用試験として実施した。3年後に地域でドローンを配送に用いる計画を策定する。実用試験は26日から3日間行われ、実用に必要な項目の検証を行い、28日にはその様子を関係者に公開した。野菜配送のほか、日用品配送、AI搭載システムと連動させた捜索活用も行った。戸出智祐代表は「今後もチャレンジを続ける」と表明した。
実用試験が行われたのはJR総武線新検見川駅から北に約2.5キロの田畑が広がるエリアにある、ダイヤサービスが運営する「HATAドローンフィールド千葉」とその周辺。地元の農業従事者にとっては農作物の集荷業務の効率化が課題のひとつだ。また地域を通る道路が橋で隣接地とつながるため、災害発生時に孤立するリスクも指摘されている。ドローンの実用には、この地域の生活の不安解消や生活環境の改善に直結する期待が寄せられている。
実用試験は「令和3年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」に採択された事業として行った。千葉市が共同事業者としてサポートし、五百部商事有限会、Innovexcite Consulting Service株式会社が試験の支援で参加した。
この日には関係者が見学することから、見学者の安全確保も含めた念入りな安全対策が取られ、各所に補助者を配置した。また試験開始前には、飛行チームが円陣を組んでチームの健康状況や段取りを確認する、同社が「ブリーフィング」と呼ぶ直前の打ち合わせの様子も公開された。
野菜配送の試験では、管制チームが離陸地点のチームと連絡を取り合い、離陸の合図をうけた。飛行合図から1~2分で、雑木林の陰からドローンが向かってくる様子が確認できた。ドローンの機体には、野菜を梱包する箱がそのまま積まれていることが確認できる。関係者や見学に訪れていた地元の住民が見守る中、目的の場所に着陸した。
箱に入っていたのは地元の名産であるネギとイチゴで荷物の重さは7キログラム。梱包した箱のままドローンに乗せてあった。使った機体は、機体開発で知られる五百部商事が開発した機体で、スイッチを1回操作すると、自動で目的地に向かう自律飛行機能を備えた機体で、配送現場で活用できる可能性を示した。
日用品の配送試験では、ハンドソープなど2キロを詰めた箱を、ダイヤサービスの自社開発機に乗せて飛行した。また捜索活用の試験では情報処理技術開発で知られる株式会社ロッグガレッジ(茨城県古河市)と共同開発した捜索活動支援システムを使い、飛行したドローンの映像をAI解析して要救助者の居場所を特定させた。解析結果は本部のモニターや、捜索活動に携わるオペレーターのスマートグラスに共有される。試験ではスマートグラスを装着したオペレーターが、表示された情報に従い要救助者のもとに駆け付け、本部と連絡を取り合いながら応急処置を実施できることを示した。このシステムは千葉市によるトライアル採用が決まっている。
今回、試験でドローンを運用したダイヤサービスは、ドローンの運用実績に定評があり、多くのドローン関係事業者から信頼を寄せられている。他の事業者のドローン配送や研究などに、ドローンの運用者として招かれて運用を担うなど、飛行実績は多い。また代表の戸出氏は地域の自治会長や防災会長を務めており、防災訓練でドローンを使っていることから住民のドローンに対する理解も高い。戸出氏は、日常的にドローンに触れ合っていることが、ドローンへの無用な警戒を解くと考えており、この日の試験に多くの住民が見学に訪れていたことが、それを証明した形となった。
共同事業者としてこの日の試験をサポートした千葉市は「ドローン宅配構想」を掲げ、実現に向けた試験を繰り返している。昨年(2021年)12月には、幕張ベイタウンの100m超のマンション屋上にドローンで緊急物資を配送する取り組みなどを実施している。この日の試験に臨席した千葉市総合政策局未来都市戦略部国家戦略特区推進課の吉野嘉人課長が「今回の取り組みは(臨海部ではなく)都市部内陸部で行われる非常に貴重な機会」とあいさつした。
試験終了後、戸出代表は「試験の結果、多くの成果が得られたと考えています。予定した通りにいかなかった部分も含めて今後の改善につなげて参ります。3年後にはドローンを平時の配送、有事の災害に活用に実装したいと考えています。今後もそこにむけてチャンレジを続けて参ります」とあいさつした。
古河電工グループの古河産業株式会社(東京)と測量、空撮などオペレーションの実力者集団として知られる有限会社KELEK(ケレック、東京)、機体技術、開発で豊富な実績を持つ五百部商事有限会社(栃木県)で構成するドローン開発チーム「FDS」は9月29日、49㎏までの荷物を運ぶドローン試作機のバージョン3(第三世代機)を完成させた。バージョン3は8ローターを水平に配置した回転翼機で、旧バージョン機からモーターを変更し、積み荷の運び方も見直した。完成当日には、工業用の塗料の入ったスチール製の一斗缶を模擬した砂充填一斗缶2つをくるんだうえで機体に吊るして浮上させるなど、要求されている性能を備えていることを確認した。今後、苗や塗料の運搬など主に山の中などの現場向けに向けて運用試験に入る。現場への商用実装を目指しながら、さらなる性能向上を目指して開発を続ける。
機体は栃木県鹿沼市の五百部商鹿沼工場(栃木県鹿沼市)で9月29日に完成し、午後に試運転を実施した。向上敷地内のフライトエリアで、初飛行を実施した。1辺2.5メートル四方の躯体に回転翼8つを水平に配置した機体を、初めは無積載で、次に約20㎏の一斗缶ひとつを積載し、そして積載するものを一斗缶ふたつに増やして飛行させた。
荷物は機体から吊り下げる方法で持ち上げた。荷物であるふたつの一斗缶をくるんでワイヤーをくくりつけ、機体に取り付けられた吊り具にかける。機体が浮上するにつれてワイヤーがピンとはり、そのまま荷物をぶらさげるように吊り上げて浮上した。この間、機体の飛行は滑らかで、まだ十分な余力があるように見えた。試運転を終え機体が着陸すると「バージョンアップ、完成!」「イケますね!」などの声が上がった。
機体は、この日の実験のような塗料の運搬や、林業での苗木運搬など、山の中での重労働を強いられる現場での運用を想定している。塗料運搬は電量会社の点検作業方面から要望があるという。また山荘への物資運搬も視野に入る。今後、自治体などと実証実験を重ね、実用を目指す。来年度には、「濃密な」実験も予定されているという。
49㎏運搬ドローン開発は古河産業が企画した。同社新規事業統括部門共創プロジェクト推進部の佐々木慶部長は、「山の中で重いものを運搬しなければいけない仕事があって、かなり苦労をされています。林業として苗木を運んだり、電力会社が塗料を運んだり。力自慢の作業員に頼ってきた作業も、高齢化が進み難しくなりました。ヘリに運搬を頼むこともあるのですが、コスト面で折り合いにくい。そんな話を聞いていたので、機体開発の五百部商事に相談をしたら、機体は作れるという。オペレーションのKELEKとも話をして、重いものを運ぶ運搬機のプロジェクトを始めることにしました。この3社がFDS(Future Drone Systems)として活動しています」という。
試作の初号機は、ワゴン車で運搬できるようにプロペラを上下に重ねるようにした8発機だった。しかし山特有の風が飛行に影響を与えがちなため、機体の安定性を高める必要性があると確認できた。このためプロペラの配置を水平に変更するなどして揚力を高めた。荷物も当初は、中央に抱えるようにしていたが、長さのあるものを運ぶと揺れが制御に影響することが判明し、吊り下げる形へ変更した。荷物を取り付けたり切り離したりする吊り具を工夫したり、モジュールの位置を見直したりと改善を重ね、この日完成したバージョン3は、高出力モーターも搭載した。
バージョン3の飛行の様子を見た佐々木さんは、「機能を十分に発揮できると思います」と現場での運用に期待を寄せた。
古河産業など手掛ける機体は、山の中で重いものを運ぶ場面で活躍することを見据えている。佐々木さんはその理由を「運搬のボリュームゾーンはBtoCであったり長距離配送であったりするとは思います。でもそこにはAmazonや楽天が取り組まれると聞いています。一方で、ボリュームゾーンではなくても、山の中には明確なお困りごとがあります。そのお困りごとを解決して、本当に喜んで頂ける機体を作るほうが、数ある選択肢のひとつになるよりも私には充実感があるようです」と笑う。
そして「これは仲間がいて初めてできること。やりたいことが共有できる仲間がいることがとてもありがたいこと。この機体で成果を出しつつ、さらに改善していきます」と次の展開を見据えている。フル積載時の飛行時間の拡大など、望みは高い。