乗用eVTOL開発の米ピヴォタル社(Pivotal、旧Opener)は、2024年1月9日をめどに米国で1人用パーソナル・エアリアル・ビークル(PAV)、ヘリクス(Helix)を販売すると発表した。ヘリクスの基本価格は19万ドル(約2850万円)でオプションやアクセサリーは今後、追加発表する。ヘリクスはバッテリーで動く軽量のeVTOL(電動垂直離着陸)機で、米国のルールで決められた条件下なら免許不要で飛ばせる。機体全体を傾ける設計が特徴的で緊急時に着水できる。PAVとしては米LIFT社のヘクサ(HEXA)が今年3月、大阪市の大阪城公園でGMOインターネットグループ株式会社(東京)の熊谷正寿グループ代表が搭乗した飛行を日本で披露しており、日本のPAV市場創出も期待される。
ピヴォタル社は、ヘリクスの発表にあわせ、従来の社名Openerの変更も発表した。ケン・カークリン最高経営責任者(CEO)は「Pivotalの名は飛行の力で移動を変えるという私たちの使命を反映している」と話している。
ピヴォタルが発表したヘリクスは、8つの固定ローターと2組のタンデム翼を持つシングルシートPAVのeVTOLだ。幅414㎝、長さ408㎝、高さ140㎝で、何も積まない状態での重さは約16㎏。米国の航空当局である連邦航空局(FAA)の基準では「パート103ウルトラライト」に分類される。ローターも翼も機体に固定されていてティルトさせることはできない。代わりに機体全体を傾けて浮上から巡行へに切り替えるティルト・クラフト・アーキテクチャを採用している。操縦士は体重約100㎏、身長約2mまでのパイロットが搭乗できる。飛行時の巡航速度は最大 55ノット(63 mph、時速約101㎞)だ。
ティルト・クラフト・アーキテクチャはピヴォタル社の機体の特徴で、Opener時代の主力機として知られる1人用PAV機、BlackFly(得意客向けに納入)からの設計思想を、量産機体であるヘリクスでも踏襲した。プラットフォームは2011年の初飛行以来、12年間改良を積み重ね現在は第五世代にあたる。機体にランディングギアはなく機体で着地する。機体にフロートを備えているため緊急時に着水ができる。限定的ではあるが水陸両用機だ。
ティルト・クラフト・アーキテクチャに加えシンプルなユーザー・インターフェースで操作性から複雑さを取り除いたほか、システムや機器の一部が故障しても、予備系統に切り替えるなど機能を保つフォールト・トレランスや、重のモジュール式冗長性を持たせ、安全性を追求した。
飛行は米国内のクラスGと呼ばれる管制されていないエリアでの日の出から日没までの間で可能(Class G airspace over uncongested areas in the daytime)で、個人の短距離移動や空中散歩などのエンターテインメント利用を想定している。
発売は同社公式サイトから。同社は45,000ドルの手付金を受け取った後、出荷予定日を設定する。購入者はその際、カリフォルニア州パロアルトにあるカスタマー・エクスペリエンス・センターで飛行のためのトレーニングを予約する。出荷は2024年6月10日を予定している。米国以外での購入についてのアナウンスはない。
日本国内でのヘリクスのような機体を飛ばすためのルールは現存していない。事例としては2023年3月15日に、大阪市の大阪城公園で同じパート103に該当する米LIFT社のヘクサ(HEXA)を実験として飛行させたことがある。HEXAに搭乗したGMOインターネットグループの熊谷正寿グループ代表は5月にドローントリビューンが行ったインタビューで「飛行そのものでは技術的には全然、問題のないレベルです。あとは規制と市民感情。規制は日本では大阪・関西万博をきっかけにずいぶん整備が進んでいますし、これからも進むと思います」と話しており、PAVの国内市場創出について、日本でもルールの検討と市民感情の期待感醸成が期待される。
GMO熊谷氏インタビューはこちら:https://dronetribune.jp/articles/22494/
PIVOTALの公式サイトはこちら:https://pivotal.aero
空飛ぶクルマ開発の株式会社SkyDrive(愛知県豊田氏)は6月7日、航空機用内装品メーカーの株式会社ジャムコ(東京都立川市)と「サポーター契約」を締結したと発表した。ジャムコも同日、同じ内容を発表した。ジャムコの航空機客室内装品開発のスペシャリストがSkyDriveに出向する。ジャムコはグループとしてFAA(米国連邦航空局)からの委任を受けて型式証明などの認証業務を代行する米国拠点を持ち、機体改造設計などで豊富な知識、経験を持つ。ジャムコの知見を空飛ぶクルマ開発に提供することなどを通じ、両者で2025年の大阪ベイエリアでのサービス開始と産業創出を目指す。
ジャムコは、旅客機の座駅、客室内装、厨房設備や航空機用炭素繊維構造部材のメーカーで、航空機の整備事業も行っている。グループでは、FAAの委任を受けて型式証明などの認証業務を代行する米国拠点も持つ。ジャムコは今回の協業を土台に、こうしたノウハウをSkyDriveに提供し、空飛ぶクルマの産業創造に力を合わせる。
SkyDriveは4月27日、型式証明審査の適用基準(Certification Basis)を「耐空性審査要領第 II 部(第61改正)」ベースで構築することについて、2022年3月に国土交通省航空局と合意したことを発表し、認証工程がひとつ進んだことを公表した。審査対象は2025年の事業開始を目指す2人乗り機体「SD-05型機」で、2025年の実装に向けた取り組みを強化している。
4月28日にはボーイング、ボンバルディア、三菱航空機などで活躍したPhillip Sheen氏、Amar Ridha氏が開発に参画したことも公表しており、今回の競合も、2025年の実装を見据えた取組の一環と位置付けられる。
SkkyDriveによる発表は以下のとおり
「空飛ぶクルマ」(※1)および「物流ドローン」を開発する株式会社SkyDrive(本社:愛知県豊田市、代表取締役CEO 福澤知浩、以下「当社」)は、株式会社ジャムコ(本社:東京都立川市、代表取締役会長 大喜多治年、以下「ジャムコ」)とサポーター契約(※2)を締結し、ジャムコの航空機客室内装品開発のスペシャリストが当社に出向する形で、協業を開始する事をお知らせします。
■ 契約提携の背景
当社は、「100 年に一度のモビリティ革命を牽引する」をミッションに、「日常の移動 に空を活用する」未来を実現するべく、「空飛ぶクルマ」と 30kg 以上の重量物を運搬で きる「物流ドローン」を開発しております。2019年に日本で初めて『空飛ぶクルマ』の有人飛行に成功し、現在2人乗りの機体を開発しています。2025年に大阪ベイエリアにおいて『空飛ぶクルマ』を利用したサービスの開始を目指しています。
ジャムコは、旅客機の客室内装品(厨房設備、化粧室、座席等)の製造、航空機用炭素繊維構造部材の製造、各種航空機の整備事業を行っています。また、グループでは、FAA(米国連邦航空局)からの委任を受けて型式証明等の認証業務を代行する米国拠点を保有され、機体改造設計等の業務に関する豊富な知識、経験を有しています。
今後、ジャムコは航空機業界での実績を契機に、空飛ぶクルマの産業創造、モビリティの進化を応援するという意向の元、当社と「サポーター契約」を結ぶ運びとなりました。
当社が開発中の『空飛ぶクルマ』の実用化に向けて、ジャムコからは機体構造・内装設計業務、認証取得業務に資する航空機内装の設計開発技術、認証技術、航空機の運航・整備等に関する技術を当社へ提供いただき、エアモビリティ社会の実現を共に目指してまいります。
■ 株式会社ジャムコについて
「技術のジャムコは、士魂の気概をもって」の理念を基に、『航空機内装品製造事業』、『航空機シート製造事業』、『航空機器製造事業』、『航空機整備事業』の4つの事業を柱として、それぞれの領域・分野で”No1”を常に目指し、お客様に快適でラグジュアリーな空の旅を提供されています。
コーポレートサイト:https://www.jamco.co.jp/ja/index.html
※1 空飛ぶクルマとは:明確な定義はないが、「電動」「自動(操縦)」「垂直離着陸」が一つのイメージ。諸外国では、eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)や UAM(Urban Air Mobility)とも呼ばれ、新たなモビリティとして世界各国で機体開発の取組がなされている。モビリティ分野の新たな動きとして、世界各国で空飛ぶクルマの開発が進んでおり、日本においても 2018 年から「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催され、2030 年代の本格普及に向けたロードマップ(経済産業省・国土交通省)が制定されている。
引用元:国土交通省(令和 3 年 3 月付)
https://www.mlit.go.jp/common/001400794.pdf
引用元:経済産業省(令和 4 年 3 月付)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/008_01_02.pdf
※2 サポーター契約とは:株式会社 SkyDrive におけるサポーター契約とは、契約締結企業から部品割引や工数提供という形で支援をいただきながら、空の産業革命をともに創造していくプログラム。
近い将来、ドローンが街じゅうを飛び回り、荷物の運搬、工事現場や屋根裏の点検、更には気象や交通状況の観測、災害対応などあらゆる場面で活躍するようになるとき、既存の有人航空機と同様、人びとの安全と安心を守るための仕組みが必要となります。具体的には、全ての航空機およびドローンが迅速かつ確実にお互いを認識できる必要があります。そのためにFAA(米国連邦航空局)によって発表されたものが「リモートID」制度です。この制度により、ドローンメーカーやオペレーターだけでなく、誰にとっても透明性の高いドローンのオペレーションが可能になります。今回は、FAAのWebサイトなどに公開されている「リモートID」制度の概要をまとめました。(筆者:Tavis Sartin=DRONE FUNDグローバル・マーケティング・マネージャー )
リモートID制度は、既存のドローン登録制度などとは異なり、オペレーターのもつ全てのドローンのID情報(詳細は以下)を付与することを必須としています。これにより、飛行中のドローンの飛行情報や位置情報などを、安全な空域管理のために地上から識別することができます。
リモートID情報は、ドローンが活用するほとんどの電波帯を用いて送信されます。業務用電波帯のみならず、Wi-FiやBluetoothなどでも送受信されるよう検討されています。そして、送信される情報には、UA ID(機器のシリアル番号またはセッションID)、フライト情報(GPS情報、高度、速度など)、コントロールステーションまたは離陸場所の位置、タイムスマーク、そして緊急事態の状況などが含まれます。
しかし、パイロットの個人情報やその他の情報は、パイロットの身元を保護するために、送信データには含まれません。これらの情報へのアクセスはFAAに限定され、必要に応じて権限のある法執行機関に提供されます。
リモートIDはFAA、その他行政機関、および私たち一般市民が、ドローンとその操縦場所または離着陸地点に関する情報を特定するのに役立つ重要なツールとなります。道路や水上の乗り物にナンバープレートや所有者の情報が紐づいているのと同様に、当然空中の機体にも、機体の識別等のためデータを管理者に送信する方法が必要です。
2021年1月15日、FAAはリモートIDに関する新しい制度の最終版を公開しました。これらの制度は2021年4月21日から適用される予定です(当初は3月16日から適用される予定でしたが、3月10日にその延期が発表されていました)。
ドローンメーカーは、4月21日から18か月以内に、新制度への適合を確認する必要があります。オペレーターはさらに1年間をかけて、下記の3つの方法のいずれかで運用要件を満たす必要があります。
リモートID制度では、FAAへの登録を必要とする全てのドローンが、リモートIDに関する情報を地上に送信できるようにすることが求められます。ドローンオペレーターは、以下3つのうち、どれか1つの方法を満たすことで、新しいリモートID制度のもとでドローンを飛行させることができます。
1つ目は、リモートIDの送信機能を内蔵したドローンを飛ばすという方法です。ドローンから直接リモートID情報の送信を行います。離陸から着陸までの間、ドローンは以下の情報を送信します。
・ドローンID(UA ID) ・ドローンの位置と高度 ・速度 ・コントロールステーションの位置と高度 ・タイムスタンプ ・緊急時の状況
2つ目は、リモートIDモジュールを後付けで装着したドローンを運用するという方法です。これによってオペレーターは、リモートID機能を内蔵しないドローンを、今回の新しいリモートID制度に準拠させることができます。
ただしオペレーターは、リモートIDモジュールのシリアル番号を機体の登録情報に追加する必要があります。また、リモートIDモジュールを使用して飛行する際には、目視内飛行(VLOS)に制限されます。
離陸から着陸までの間、リモートIDモジュールは以下の情報について送信を行います。
・ドローンID(UA ID) ・ドローンの位置と高度 ・速度 ・離陸地点の位置と高度 ・タイムスタンプ
パイロットはリモートIDを搭載していないドローンを、FAAが認めた特定の指定地域内でオペレーションすることができます。地域に根ざした組織、初等・中等教育機関、その他FAAが認めた組織がFRIAの設立を申請することができます。
・ドローンのセルフテストをし、リモートIDが機能していない場合はドローンを離陸させることはできません。
・リモートIDはオペレーターが無効にすることはできません。
・リモートIDは免許の不要な無線周波数帯(例:Wi-FiまたはBluetooth)でも送信しなければなりません。
・リモートIDドローンおよびリモートIDモジュールは、送信したIDを受信できる範囲が最大になるようメーカーが設計する必要があります。
最後に
新しいリモートIDの制度は、ドローン・エアモビリティ前提社会の実現に向けた重要な一歩となります。有人機と無人機が空を共有する未来のためには、空域の状況を明確に把握する事が重要です。また、これらの規則は、ドローンやその他の新しいエアモビリティ技術に対する社会的な信頼を積み上げていくことに役立ちます。
このリモートID制度の最も重要な意義は、行政、専門家、メーカー、そして私たち一般市民が一体となって、安全で確実なドローンの運用を実現するため、適切な規則を作り上げられることを示している点にあります。
FAAは、2019年12月31日から60日間にわたって「リモートIDに関する提案型制度メイキング(NPRM)」のパブリックコメントを実施しました。これにより、業界の専門家、一般の人々からリモートIDに関する具体的な内容について、53,000件以上のコメントが寄せられました。最終案には、それら多くのコメントが反映されることとなりました。
このように様々なステークホルダーによって実現した制度メイキングの事例は、ドローン・エアモビリティ前提社会実現に向けて、大きな一歩だと考えます。
リモートIDに関するFAAの資料(英語)は以下をご覧ください。