• 2020.5.8

    「チーム藤沢」がフェイスシールドを医療に無償提供 ドローン関連の3Dプリンター技術で対コロナ支援

    account_circle村山 繁

     気ままな外出を控える日常が続く中、ドローン関係者の中にも医師、看護師、介護士などとして新型コロナウイルスと格闘していたり、こうした医療従事者を支える活動をしていたりする人々がいる。神奈川県藤沢市に拠点を構える「チーム藤沢」は、飛沫感染、接触感染を防ぐフェイスシールドを医療機関や介護施設など、感染者を受け入れる可能性がある施設を中心に無償で届ける活動を続けている。移動などに必要な資金は寄付頼み。届ける物資は協力者のボランティア。願いと善意に支えられた熱意と志の活動だ。

    PC修理やデータ救出で実績を積み上げ ドローン事業者も続々協力

    ある施設に届けるために梱包されたセットには、フェイスシールドがマスク、除菌剤とともに梱包された

    「チーム藤沢」は、災害時に支援物資を届ける有志の市民団体だ。運営母体の下田商会(神奈川県藤沢市)はPC修理専門店で、平成13年1月の設立以来、データ復旧、救出の高い技術、良心的な価格、厳密な情報管理、海上自衛隊出身の下田亮代表をはじめとするスタッフの誠実な仕事ぶりで全国の国公私立大学、研究機関、製薬会社、医療機関、陸海空自衛隊などから頼られ、実績と信頼を積み上げてきた。ドローン空撮事業部門「藤沢航空撮影隊」も持ち、NHKや民放のテレビ番組からも引き合いがあり、点検や研究用の撮影でも声がかかる。


     チーム藤沢は2016年の熊本地震のさいに、緊急支援、復興支援をするために発足させた。以来、地震や台風などの大規模な自然災害を中心に、被災地や避難所に救援物資を届けてきた。必要な救援物資は、全国の仲間に呼びかけて募る。広く厚い協力と善意が集まり、活動が支えられている。

     新型コロナウイルスに立ち向かう医療従事者向けに、フェイスシールドを届ける取り組みは、チーム藤沢で医療部門を担当する山崎脳神経外科クリニック(藤沢市)の山崎久美さんが提案したことがきっかけだった。それまでチーム藤沢では、マスク着用に伴う耳の負担を軽減するため、耳にかけるゴムを頭のうしろにまわしてとめられるようにする「イヤーガード」を3Dプリンターで出力していた。それを見た山崎さんが、飛沫感染や接触感染リスクを軽減できるフェイスシールドの製作を打診した。

     フェイスシールドは、顔をすっぽりと覆う、クリアファイルやラミネートなどのシールド材と、シートを支える頭にとりつけるフレームを組み合わせてつくる。大阪大学大学院医学系研究科の中島清一特任教授も提唱しており、フレームのデータも公開している。このデータを参考にフレームを印刷すれば、フェイスシールドをつくれる。医療現場では個人防護具(PPE)の不足や、それに伴う家用崩壊の恐れが深刻化していた。プロジェクトが動き出した。

     チーム藤沢内で、メンバーの所有する3Dプリンターで製作に入る一方、迅速に届けるため、全国の3Dプリンターを持つ仲間に呼びかけ、製作協力を呼び掛けた。すぐに全国から協力の申し出があった。

     ドローン関連事業でも、株式会社ジーエスワークス代表の河原暁氏、ジオサーフ株式会社の小路丸未来氏、Dアカデミー株式会社代表の依田健一氏、株式会社D-eyes代表の橋本健氏、株式会社JINSOKUTSU代表の南博司氏、ドローンかまくら代表の檜森晃治氏、Dig-it works株式会社代表の坂本政和氏、POC-DC株式会社の小神野和貴氏らが名乗りを上げた。

     続々とチーム藤沢にフェイスシールドが届き始めた。これに、使い方の説明や、医療従事者向けの手紙を添えて梱包した。

     届け先は地元、藤沢市内の医療機関からはじめた。やがて評判が口コミで広がり、フェイスシールドの要望は全国から届くようになった。クリニック、医師会、医大、訪問看護ステーション、歯科、整形外科、小児科など、届け先はすでに広範に及ぶ。届け先からは、「大変助かります」「本来発熱者とは無縁ですが、インフォームドコンセントの家族に微熱があり、PPEの必要性を実感しました」「内科以外でも必要と実感しています」などと感謝の声が届くようになり、活動が求められていることを実感した。

    寄贈先からはフェイスシールドを装着している様子が届く
    フェイスシールドを梱包
    中からフェイスシールドのフレームや説明所などが

    心無い言葉を受けても「大切なのは、やさしい気持ち」

     心無い仕打ちも受けた。ある医療機関からは無償で届けた同じ日に「装着したら頭が痛くなり使えない」とクレームが入った。「医療機関ではもっとちゃんとした製品を使う」「チーム藤沢という団体が怪しくて信用できない」などと言葉を浴びせられた。下田代表が届け先の医療機関に出向き、反論せずに詫びをいれ、提供した製品を回収した。それでもチーム藤沢は活動を停止させていない。むしろ無償提供活動を活発化させている。

     フェイスシールドを提唱した大阪大学の中島特任教授は、この直後に「医療従事者の皆様」とSNSに投稿した。その中で中島氏はフレームの不具合は「試作品をテストしてデザインを最適化する時間的余裕を持てなかった中島の責任」と責任を引き受け、「でも、フレームに正しくシールド材をつけて、正しく装用するかぎり、飛沫・接触感染を防ぐPPEとしてちゃんと機能することだけは、医療機器開発を長年主導してきた中島が保証します」と断言した。

     そのうえで最も大切なことを最後に付け加えた。「印刷協力者の皆さんには、何より敬意をもって接していただきたい。我々が自分達にしかない医療技術、医学知識、臨床経験でもってコロナに対峙するように、彼らも彼らにしかないスキルや知識、経験を駆使して、フレームを印刷する、という行為を通じてコロナと闘っているのです。彼らは我々の戦友なのです。戦友には礼節をもって接していただきたい」。チーム藤沢は、この投稿に勇気づけられた。

     チーム藤沢の下田代表が今、もっとも気になるのは、「やさしい気持ち」だ。下田代表は最近、SNSで「皆が自粛している時に仕事をするのは悪い事。その風潮がより一層と強くなるでしょう。今、一番怖いのは人の心です。だから、やさしい気持ちを忘れないで」と投稿した。クレームに反発しなかった理由が、ここににじむ。

     チーム藤沢を運営する下田商会はちょうど1年前の2019年5月8日、「藤沢航空撮影隊」として千葉県君津市で「3Dプリンターセミナー」を仲間の事業者とともに開催し、参加者にドローンで撮影した写真から3Dモデルを作製する方法を伝授していた。講習会では、この技術は社会に役立ててこそ生きることを強調していた。

     技術の役立て方は、これからも試されることになりそうだ。

    チーム藤沢は、3Dプリンター所有者の協力や仕上げ作業の補助、支援機などの協力や、支援金を募っている。支援金振り込み先は「かながわ信用金庫藤沢営業部、普通口座、2158228、口座名:チームフジサワ」。詳細はチーム藤沢の公式FBページ、または電話(0466・48・2386、下田商会内)で問い合わせを。

    フェイスシールドの装着を提唱した大阪大学大学区院の中島清一特任教授
    寄贈先は広範囲に及ぶ

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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