国交省航空局は1月6日、ドイツのAAM開発事業者、ヴォロコプターから受理している型式証明申請の手続きを当面、継続する方針を明らかにした。ヴォロコプターは昨年(2024年)末、裁判所に暫定的な破産手続きを申請しており、関係機関の対応に関心が寄せられている。航空局は、ヴォロコプターの破産を情報として把握しているものの、ヴォロコプター側から直接の報告や申請の取り下げなどの連絡は1月6日時点ではないという。航空局が申請者の財務状況を確認する決まりはなく、ヴォロコプターも事業継続姿勢を転換していないことから、当面は受理に従って手続きを進める。
航空局はヴォロコプターの破産について、同社による昨年12月30日の公表と、それをもとにした報道ベースで把握している。一方、破産に関する連絡や型式証明の取得申請に関する方針転換などの連絡はないという。航空局は「手続きにはリソース(労働、時間など)を投入しており、関心は持っている」ものの、ヴォロコプター側から方針を転換する意思表示などがないいため、「受理した状況が維持している前提で作業を続けることになる」という。
ただし、「型式証明の手続きは、航空局が一方的に行うものではなく、申請側(この場合はヴォロコプター)とやり取りをしあう」ため、その中で方針に関する意図が表明された場合には、改めて対応を検討する可能性がある。
ヴォロコプターは昨年(2024年)12月30日、4日前の2024年12月26日に、拠点のあるバーデン=ヴュルテンベルク州のカールスルーエ高等裁判所に破産手続きの開始を申請したことを公表した。裁判所は申請の翌日に暫定破産管財手続きを開始し、現在、管財人の下で対応を進めながら、事業を継続している。同社の公表文では「破産」に該当する英語をinsolvencyと表現していて、一般に資産を売却して、負債を返済しきれない債務超過の状態を示す。
日本では2023年2月21日に航空局がヴォロコプターからの型式証明の申請を受理したことを発表している。ヴォロコプターが申請した機体は「VoloCity(ヴォロシティ)」と呼ぶ2人乗りのeVTOL型AAMで、18 個の電動ローターを搭載し35㎞の航続飛行を想定している。同社は航空局に申請した翌月の3月8日、大阪・関西万博でエアタクシーとして運航を目指す機体として、実物大モデルをJR大阪駅に隣接する大規模複合施設「グランフロント大阪」で公開していた。2024年夏のパリ五輪会場の飛行を計画していたが欧州の航空当局EASA(欧州航空安全機関)から基準を満たさない個所があると指摘を受けたことなどから、ヴェルサイユ宮殿で「VoloCity」 の前のモデル「2X」を飛行させるなど計画変更を余儀なくされていた。その後、大阪・関西万博でVoloCityの飛行することになっていた日本航空、住友商事のチームが2024年9月に運用機体を変更することを表明していて、VoloCityは万博での飛行計画からはずれていた。
一方、市場投入を目指す姿勢は維持し続けていて、万博の飛行計画からはずれたさいも、引き続き商用運航を目指す方針を示していた。破産申請も事業継続をするための選択であったと言われており、同社は管財下で財務基盤の強化を目指しつつ事業継続を模索するとみられる。
<関連>
Volocopter破産申請:https://www.volocopter.com/en/newsroom/volocopter-files-for-insolvency-in-germany
航空局がTC申請受理(2023年):https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001588330.pdf
大阪で実物大モデル公開(2023年):https://dronetribune.jp/articles/22336/
ドローンの展示会Japan Droneのスピンオフ企画第二弾となる「Japan Drone/次世代エアモビリティEXPO 2024 in 関西」が12月18日、JR大阪駅に直結する複合施設、ナレッジキャピタルのコングレコンベンションセンターで開幕した。株式会社ORSO(東京)が開発した国家資格トレーニング用のマットを初公開したほか、白銀技研株式会社(岐阜県)の1人乗り機Beedol-0などを展示、飛行機好きの有志団体が開発したソーラー無人飛行機も展示されている。開催は19日まで。
18日午前9時20分から行われた開幕セレモニーでは、主催する一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の鈴木真二理事長のほか、経済産業省、国土交通省、総務省、大阪府などの来賓があいさつにたち、開催に期待を寄せたあと、登壇者によるテープカットが行われた。
展示会場では午前10時の開場とともに来場者が出展ブースを訪れた。
ORSOのブースでは開発してきた新製品「DRONE STAR トレーニングマット」を初披露。同社の小型練習機DRONE STAR TRAININGを飛行させて使い心地を試せる体験会も開かれ、来場者が次々と飛ばした。ドローン人材育成の第一人者として知られる株式会社Dron é motion(ドローン・エモーション、東京)の田口厚代表取締役が効果的なマットの使い方を伝授するトークセッションも行われ、多くの来場者が足を止めた。
田口氏のトークセッションは19日も午前11時30分から行われる。
白銀技研は1人乗りのパーソナルエアモビリティBeedol-0の実機と、機体の剛性を高めるために開発中のBeedol2号の1/4試験機を展示している。設置したモニターでは試験飛行の映像が見られる。
宇都宮市(栃木県)を拠点に飛行機好きが部活のように集まって活動している有志団体、飛行機研究所は固定翼にソーラーパネルをはりつけたソーラー無人飛行機を展示し客足を止めている。設計上は24時間の飛行が可能で、一昨年時点で7時間の航続飛行を達成している。今後24時間飛行への挑戦を目指している。
伴走するコンサルティングを展開する株式会社Suzak(東京)、上場したブルーイノベーション株式会社、株式会社Liberawareなども人垣を作っていた。
自動車整備用具の株式会社サンコー(東京)のブースには水の気化熱で空気を冷やす業務用冷風機「ECO冷風機」が展示してある。ドローンの「ド」の字も見当たらないため客足が止まりにくいが気になった来場者が展示の趣旨をたずねると「体育館など屋内練習施設で空調が未整備な場所に設置して頂くとお役に立てるかも」という発想だったことがわかり、感心して話し込む姿がみられた。
このほか講演、パネルディスカッションなどにも多くの来場者が詰めかけている。
主催は一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、共催は株式会社コングレ。総務省近畿総合通信局、農林水産省近畿農政局、経済産業省近畿経済産業局、国土交通省近畿地方整備局、国土交通省近畿運輸局国土交通省大阪航空局、大阪府、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会、公益社団法人関西経済連合会などが後援している。開催は19日まで。
次世代エアモビリティ(AAM)運航の株式会社Soracle(ソラクル、東京)と、AAM開発の米Archer Aviation Inc.(アーチャー・アビエーション社、米カリフォルニア州)は、戦略的関係構築に向けた基本合意書を締結した。アーチャーは11月7日付で、ソラクルは11月8日付でそれぞれ発表した。両者で商用運航実現に向けた協業の検討を始める。合意にはソラクルによるアーチャー製AAM「Midnight(ミッドナイト)」の最大100機(5億ドル)の購入権が含まれていて、開発の進捗状況に応じて機体の引き渡し前に一部の前払いを実施する。
ソラクルは今回の合意に沿って、日本国内における空港シャトル・地域内輸送・地域間輸送など国内外の利用者を想定して魅力的な路線を開拓し、新たな価値を創造する交通ネットワークの構築を目指す方針だ。合意はソラクルがミッドナイトを最大100機(約5億ドル)購入する権利も含み、開発の進捗状況に応じて前払いを行う。
アーチャー製AAMミッドナイトはパイロット1人を含めた5人乗りのeVTOL。回転角度を変えられるチルトローターと固定翼を併用する機体で、最高速度は240km/h、航続距離160km。すでに米国内で試験飛行を重ねていて2025年末までにFAA(米連邦航空局)から型式証明の取得、2026年の商用運航実現を目指している。日本国内でも航空当局である国土交通省航空局の認可取得を目指す。
ソラクルは「eVTOLを用いた地球に優しく、より身近で新しい移動価値を創造することを目指し」て「eVTOLの社会実装の早期実現に向けた準備を加速」すると抱負を述べている。
アーチャーの事業開発担当シニア・ディレクター、アンドリュー・カミンズ氏は「私たちはソラクルとフライト新時代の先頭に立てることを誇りに思います。革新的で持続可能で便利な代替交通手段をもたらすことに全力を尽くします」とコメントしている。
ソラクルは今年(2024年)6月、住友商事株式会社と日本航空株式会社が50%ずつ出資して設立されたAAM運航を目指す合弁会社で、大阪・関西万博で独ヴォロコプター社(Volocopter)製AAMヴォロシティ(VoloCity)を飛行させる計画を進めてきた日本航空から事業を引き継いでいる。大阪・関西万博でデモフライトをする機体について、ヴォロシティからアーチャーのミッドナイトへの変更は9月26日に公表している。
ソラクルの発表内容は以下の通り。
~Soracle は大阪・関西万博デモンストレーション運航を契機に、eVTOL の社会実装を目指します~
株式会社 Soracle(以下「Soracle」)は、米国 Archer Aviation Inc.(以下「Archer 社」)と戦略的関係構築に向けた基本合意書を締結しました。
両社は、2024 年 9 月 26 日付で発表いたしました 2025 年日本国際博覧会(以下「大阪・関西万博」)でのデモンストレーション運航プログラムの実施に加え(※)、eVTOL の商用運航実現に向けた協業の検討を開始することに合意しました。
Soracle は、日本国内における空港シャトル・地域内輸送・地域間輸送など、様々なユースケースを想定した路線を開拓し、eVTOLを用いた地球に優しく、より身近で新しい移動価値を創造することを目指しています。今般 Archer 社との基本合意書には同社が開発・製造する eVTOL ”Midnight”の最大 100 機の購入権取得を含んでおり、eVTOL の社会実装の早期実現に向けた準備を加速して参ります。
Soracle は、2025 年 4 月から大阪・夢洲で開催される大阪・関西万博に、未来社会ショーケース事業「スマートモビリティ万博 空飛ぶクルマ」に、シルバーパートナーとして協賛いたします。本事業は、eVTOLをより身近に感じていただくことで、大阪・関西万博のコンセプトである「未来社会の実験場」を体現するものです。Soracle は Archer 社 eVTOL “Midnight”を用いた万博会場の周遊および会場と大阪ヘリポートを結ぶ2地点間のデモンストレーション運航を予定しています。
■Soracle 概要
社名 :株式会社 Soracle
事業内容:eVTOL による航空運送事業(許可取得予定)
設立 :2024 年 6 月
代表者 :代表取締役 太田幸宏・佐々木敏宏
所在地 :東京都中央区
ホームページ:https://www.soraclecorp.com/
■Archer 社概要
社名 :Archer Aviation, Inc.
事業内容:eVTOL 設計・開発・運航
設立 :2018 年
代表者 :Founder & CEO Adam Goldstein
所在地 :アメリカ合衆国カリフォルニア州
ホームページ:https://archer.com/
■Archer 社 eVTOL “Midnight” 概要
Archer 社が設計・開発する4人乗客(パイロット除く)ベクタードスラスト型のeVTOL。当該機は米国における試験飛行の実績を重ねており、2025年末までのFAA(連邦航空局)からの型式証明取得、2026 年の商用運航の実現を目指しております。
【運航性能(目標)】 最高速度 240km/h・航続距離 160km・最大積載量 454kg
(※) Soracle、JAL から大阪・関西万博 「空飛ぶクルマ」運航事業を承継
~Archer 社 eVTOL “Midnight”にて大阪・関西万博 デモンストレーション運航を実施~
https://www.soraclecorp.com/wp-content/uploads/2024/09/Press_240926.pdf
乗用eVTOL開発の米Pivotal社(ピヴォタル、旧Opener)は1月9日、米国で1人用パーソナル・エアリアル・ビークル(PAV)、Helix(ヘリクス)の販売を始めた。基本価格は「パッケージ1」で19万ドル(約2800万円)、外装、装備を充実させたパッケージ2が24万ドル(3400万円~)、デジタルフライトパネルなどを備えるフライトデッキを装備し自在な外装を楽しめるパッケージ3が26万ドル(3800万円)などとバリエーションがある。ヘリクスはバッテリーで動く軽量のeVTOL(電動垂直離着陸)機で、米国内で所定の条件下で当局の免許不要で飛ばせるパート103ウルトラライト級にあたる。早ければ6月に納品される。
米PivotalのHelixは、Pivotalの前身Opener社時代に開発していた一人乗りPAV、「BlackFly」をベースに新たなシート素材を採用したほか、モバイル対応の先進的なビュースクリーンを搭載し、キャノピーのアップグレード、カスタム外装など、数々のデザイン改良を取り入れた刷新モデルだ。
8つの固定ローターと2組のタンデム翼を持つシングルシートPAVで、ローターも翼も機体に固定されていてティルトさせることはできない。代わりに機体全体を傾けて浮上から巡行へに切り替えるティルト・クラフト・アーキテクチャを採用している。幅414㎝、長さ408㎝、高さ140㎝。何も積まない状態での重さは約16㎏だ。
3 つあるシステムのいずれかに障害が発生した場合でも、他の 2 つのシステムで障害をカバーするトリプルモジュラー冗長性を備えるほか、短時間で確実に展開するバリスティックパラシュート、緊急時に水上に降りられるためのフロートなど水上機能、確実な着陸を支援する下向きの着陸カメラ、ADS–B(送型自動従属監視、Automatic Dependent Surveillance–Broadcast)も搭載する。
購入できるのは米国の18歳以上で、体重が220ポンド(約100㎏)以下、立っている時の身長が6フィート5インチ(約196㎝)以下、座っている時の身長が3フィート3インチ(99㎝)以下の希望者。米国内の空港から離れた混んでいない場所など定められたエリアで、海抜5,000フィート(約8,000メートル)までの上空で飛べる。米国には、クラスGと呼ばれる航空管制の管理外の日の出から日没までの間であれば飛行可能(Class G airspace over uncongested areas in the daytime)というルールがあり、これに準拠する。個人の短距離移動や空中散歩などのエンターテインメント利用を想定している。
パッケージ1からパッケージ3までのライイナップがあり、基本のパッケージ1(19万ドル)は、ピュアホワイトとカーボンファイバーの外装仕上げで、カスタム航空機マーキング、透明または着色キャノピー、標準フライトデッキ、HD着陸カメラ、レベル1充電器、ビークルカート、包括的なパイロットトレーニング、標準保証が含まれる。
パッケージ2(24万ドル)にはトレーラーとデュアルウィングカートがつく。2つの充電器、4Kランディングカメラ、ADS-B航空管制システム、統合プロポ、延長保証が含まれている。具体的には、グロスホワイトとストライプのカーボンファイバー外装、カスタム航空機マーキング、透明または着色キャノピー、標準フライトデッキ、着陸支援、録画、共有機能付き4Kカメラ、統合された航空またはGMRS無線セット、ADS-BインおよびリモートID航空交通システム、レベル1およびレベル2充電器、カスタムカップリングケーブル、デュアルウィングカート付き輸送トレーラー、ビークルカート、包括的なパイロットトレーニング、保証がセットになる。外装は胴体上部がグロスホワイトで、胴体下部にストライプ状のブラックカーボンファイバーを組み合わせる。
パッケージ3(26万ドル)ではスタイルのデザイン性を高めたことが特徴だ。グロスホワイトとカーボンファイバーで仕上げ、さらにティール、コッパー、シルバーのアクセントカラーを選べる。また、外装をフルカスタムすることも可能だ。このほかの具体的な内容は、カスタム航空機マーキング、透明または着色キャノピー、オプションのキャノピーセラミックトップサイドコーティング、プレミアムフライトデッキ、着陸支援、録画、共有機能付き4Kカメラ、ビーコンライト、統合型航空無線またはGMRS無線セット、ADS-Bイン、ADS-Bアウト、リモートID航空交通システム、統合型緊急探知機(ELT)、レベル1およびレベル2充電器、カスタム・カップリング・ケーブル、デュアルウィングカート付き輸送トレーラー、ビークルカート、総合操縦訓練、ゲスト向けの包括的パイロット・トレーニング、保証などとなっている。
PAVとしては米LIFT社のヘクサ(HEXA)が2023年3月、大阪市の大阪城公園でGMOインターネットグループ株式会社(東京)の熊谷正寿グループ代表が搭乗した飛行が披露されている。日本では一人乗り、個人用途のエアモビリティ市場や制度整備は着手できていないが、2025年の大阪・関西万博で旅客用としてのエアモビリティ(いわゆる空飛ぶクルマ)の運用が現実味を帯びる中、一人乗りの手軽なエアモビリティ、PAVの注目度は高まりそうだ。
Helixの公式サイト
大阪・関西万博での実現が期待される、いわゆる「空飛ぶクルマ」などのエアモビリティへの関心が高まる中、DroneTribuneは、3月に米LIFT社が開発した1人乗りエアモビリティ、HEXA(ヘクサ)を操縦する様子を公開したGMOインターネットグループの熊谷正寿グループ代表にインタビューした。飛行機やヘリコプターの操縦の資格を持ち、空を飛ぶことに詳しい熊谷氏は、HEXAの操縦体験について不安を感じることは一切なかったと明言し、そのうえで「われわれは空飛ぶクルマをお守りする」と、サイバーセキュリティ、情報セキュリティを手がける企業グループとしての使命感を鮮明にした。また3月に行った飛行の公開も、可視化しにくいセキュリティを、身をもって示す意味があったと明かした。
空飛ぶクルマなどエアモビリティの実現が期待される大阪・関西万博は4月13日に開幕まで2年となる節目を迎え、プレ万博など地元を中心に機運を高める催事が企画されている。GMOの熊谷氏はこれに先立つ3月15日、大阪城公園で丸紅株式会社が主催したHEXAの飛行デモンストレーションに、日本人で初めてライセンスを取得した操縦者として参加し、自身が飛行する様子を公開した。万博開幕まで2年を切り、エアモビリティへの関心がますます高まっていることから、熊谷氏に尋ねる機会を得た。インタビューは、都内のGMO本社で行われた。
――空飛ぶクルマやエアモビリティの現時点での話題には、安全、安心がついてまわります。操縦者の立場としてどう感じますか
熊谷氏 「私は飛行機で双発エンジン航空機の免許を持っており、ヘリコプターでも同じように双発エンジンの免許を持っております。その意味で空飛ぶ乗り物のライセンスは、今回のHEXAで3種類目となり、空の安全は常に意識しています。どの観点から論じるか、による面がありますが、まず申し上げたいのが動力の数の観点です。HEXAはこの点で飛行機やヘリコプターと比べると最も安心できる乗り物と言ってよいと思います。なぜなら、飛行機の動力の数は2つ、ヘリコプターも双発の場合で2つなのに対し、HEXAは小型のプロペラが18基あり、ローターのひとつひとつに動力であるモーターがついています。ひとつの動力が失われた場合も安全性に問題はありません。ここは安全を語るうえでお伝えしたい点です。このほか空域の観点もあります。
――それはどんな?
熊谷氏 「飛ぶ空域が異なるということです。飛行機の場合は3万から4万、5万フィート。プライベート機がより高く、民間機だと3万3000フィートあたり、ヘリなら都内だと2000フィートとか3000フィートといった具合です。それに対し空飛ぶクルマはそれよりずっと低い。陸上交通の場合は電車も自動車もほぼ地上を動きますので、その観点からも議論できるかもしれません。航空管制の整備はこれからですが、日本の場合は特にしっかりしています。議論の最中の型式などルールづくりの中で出てくる論点もあると思います」
――快適性などは
熊谷氏 「HEXAはFAA(米連邦航空局)が『Part103』と呼ぶウルトラライト級に位置付けられています。ものすごく軽くてとにかく飛ぶことを最優先した機体です。小回りがきく分、扉がなくて、夏はいいんでしょうけど、冬は寒いとか。快適性はこれから解決していくことになるかもしれません」
――総合的にはいかがでしょうか
熊谷氏 「飛行そのものでは技術的にはもう全然、問題ないレベルです。あとは規制と市民感情の問題があると思っています」
――熊谷代表はHEXAを操縦したとき上空から手を振っていましたが率直に、こわくないものですか
熊谷氏 「パイロットなのでシートがあってハーネスがあって操縦桿を握っていればこわくないのです。ただ、ギャグみたいな話なんですが、基本的に高所恐怖症でして。いや、ホントです。飛行機の免許をとる前に、ここ(東京・渋谷のセルリアンタワーにあるGMOのオフィス)から外を眺めて、ふと『ここを飛ぶのか』と思ってビビったことがあるんです。子供のころから空を飛びたいと思っていたのですが、ホントに取ろうと思ったときに、やっぱりちょっと高いところはこわいよな、と思ったんです。そのうえで、空飛ぶクルマですが、まったく、こわくない。これは私がパイロットだから、とか、高所恐怖症を克服したから、ということよりも、一番大きいのは機体が安定したから、ということだと思っています。HEXAはパイロットが機体を安定させるためにすることはほとんどなくて、コンピューターがプロペラを制御してくれています。これだけ安定していればなにもこわくない」
――操縦士ががんばらなくても機体が安定しているのですね
熊谷氏 「ふつうならパイロットはいつも風を計算して飛びます。私もスマホにパイロットのアプリをいくつも入れていますが、たえず風向きを気にしています。羽田空港も風向きによって着陸の滑走路が違います。ヘリも飛行機も、正面から風を受けていないといけないのですが空飛ぶクルマは、機体によって多少差はあるかと思いますが、少なくともHEXAは風向きを気にすることはありませんでした。飛行条件が整っていれば、どっちから風が吹いてくるからどっちに向いて飛ぶ、ということはなかったです」
――HEXAや空飛ぶクルマの普及イメージは
熊谷氏 「普及の障害は、住民感情と規制だと思っています。テクノロジーの障害はほぼない、とIT業界に身を置くものとして、思っています。規制は日本では大阪・関西万博をきっかけにずいぶん整備が進んでいますし、これからも進むと思います。経済産業省、国土国交省主導で空飛ぶクルマを普及させようとしていますし、万博終了後も定期航路を残そうとしていますね。非常によい動きです。残る最大級の問題が、離発着場です。空からみるとHマークやRマークがありますが、実際には使われていません。まずはそこをなんとかしないと離発着できません。あとは飛行許可。ヘリですら飛行のたびに国土交通大臣の許可が必要です。それが空飛ぶクルマの離発着についてどうなるのか。いまの日本の状況では都度、国土交通大臣の許可が必要、という話になりやすいので、規制緩和ができるかどうかが普及には重要だと思います。あとは住民感情です」
――乗り越えるための対応が必要だと言われています
熊谷氏 「われわれGMOは空飛ぶクルマをお守りしています。GMOはテクノロジーとしてセキュリティの領域に強みを持っています。情報セキュリティとサイバーセキュリティ、つまり、暗号化で読み取られないようにする部分と、ハッキングされないようにする部分です。空を守ることに貢献するため経済産業省の担当部署にもパートナー(従業員)を派遣しておりますし、空飛ぶクルマの開発企業に技術協力をしております。セキュリティは可視化が難しいので、そのために何ができるかをわれわれはいつも考えております。3月に大阪城公園をHEXAで飛びましたが、あれも私が身をもって安全ですよ、と示すため、という文脈です。ただ空が好きだから飛んだ、というわけではなかったんです。6月に開催されるドローンの展示会『JapanDrone2023』にも出展してご理解いただけるようにアナウンスもするつもりでおります」(注:GMOインターネットグループはJapanDrone2023のメインスポンサーでブースも出展する)
ーー空の産業利用に大きな可能性を感じていることが伝わります
熊谷氏 「空は現時点では最後の産業的なフロンティアです。 だって、地上はいっぱいじゃないですか。それに対して空は、ヘリが飛ぶ高さより下の低空域はガラガラです。そこを安全に産業的に利用すべきだと考えています」
ーーGMOインターネットグループとしての空飛ぶクルマへの取り組みとは
熊谷氏 「強みがないことをやっても仕方がないと思っています 空飛ぶクルマの産業を強みである情報セキュリティ、サイバーセキュリティなどセキュリティの面から応援し、お守りし、普及を支えようと思っています 安心安全の空の利活用を応援して普及をするようにグループを挙げて努めてまいります」
――ありがとうございました
関連記事/パイロット搭乗の空クルが大阪城公園を飛行
https://dronetribune.jp/articles/22370/
関連記事/ GMO代表・熊谷正寿氏が米LIFT社の“空クル”操縦資格を日本人初取得
https://dronetribune.jp/articles/22235/
大阪・関西万博開幕の2025年春までちょうど2年となった2023年4月13日、大阪万博機運を醸成するイベント、「咲洲プレ万博」がアジア太平洋トレードセンター(ATC、大阪市住之江区)で始まり、こけら落としイベントの「ATC OSAKA MIRAI EXPO」では、ドローンやいわゆる空飛ぶクルマに関する展示が中心的な存在感を示した。ATC OSAKA MIRAI EXPOの初日の13日には橋下徹元大阪府知事も行われ、多くに来場者でにぎわった。ATC OSAKA MIRAI EXPOで開幕した咲洲プレ万博は、今後年間50以上の催事を予定している。
ATC OSAKA MIRAI EXPOは、ATC OSAKA MIRAI EXPO実行委員会の主催、咲洲プレ万博実行委員会の共催で行われ、大阪府、大阪市、大阪府教育委員会、大阪市教育委員会、公益社団法人2025年日本国際博覧会が後援した。13~16日の4日間が会期で、平日の13、14日には「Business Day」として、先端技術の社会実装を見据えた展示や商談会、セミナーなどが行われた。
展示の中心はドローンやいわゆる空飛ぶクルマなどの関連技術だ。エアロファシリティ株式会社(東京)は、いわゆる空飛ぶクルマが着陸するためのポートを提案していて、豊富なヘリポート設置実績を生かしてポートの情報や、ヘリポートにも使えるゴム製マット「パズルマット」を告知、来場者にはつなげて使うマットのサンプルを見せたりした。同社は大阪・関西万博でっ会場内離着陸場運営協賛者に選ばれたオリックス株式会社(大阪市)や関西電力株式会社と協定書を締結している。
機体開発のスカイリンクテクノロジーズ株式会社(SLT、神戸市)も会場にブースを設け、同社が開発する6人乗りのチルトウイング型のリフト&クルーズ機の実物の6分の1の模型を展示した。会場では森本高広CEOも来場者を迎え、問い合わせや相談にていねいに応じていた。
販売プラットフォームなどのサービス開発を進めるエアモビリティ株式会社(東京)は機体メーカーと部品メーカーとを結ぶeコマースサイト「AeroMall」(https://aeromall.jp)などを来場者に紹介した。同社は販売プラットフォームの開発を手掛けていて、スイスの機体メーカー、デュフォー社(Dufour Aerospace社、チューリヒ)と日本市場での代理店契約を締結したことを発表している。
大阪府もVRゴーグルを装着して空飛ぶクルマのバーチャル乗車体験ができるブースを設置。多くの来場者がVRゴーグルをかけて歓声をあげていた。
そのほか、公益財団法人新産業創造研究機構(ナイロ、神戸市)が兵庫県と共同でブースを設置しこれまでの取り組みを紹介。過去に41の事業を実現させた実績がありブース内には連携した企業の名前が掲げられている。KDDIスマートドローン株式会社(東京)。TOMPLA株式会社(新潟市)、セブントゥーファイブ株式会社(東京)、日本化薬株式会社(東京)など、ドローンや空飛ぶクルマに関わる企業の名前も多くみられた。
また一般社団法人MASC(岡山県倉敷市)などが、中国EHang(イーハン)社のEHang216を展示し、来場者が写真におさめたり乗り込んだりしていた。
なお講演では橋下徹元大阪府知事が登壇。万博をテーマとしながら、空飛ぶクルマについても「大いに期待していますよ。推進しなきゃいけない立場ですからね」と述べた。
講演では少子高齢化への対応についての危機感を中心に言及し、「高度成長のリニア型の時代はすばらしいものを作ればよかったが、これからは成熟時代でサーキュラー型。すでにあるすばらしいものを、つなげて、まわして、付加価値にすることが大切」「万博はイベントではなくソリューション。今後、世界の各国も高齢化に突入することを考えると、日本は先取りして取り組んでいることになる。日本の取り組みは輸出できる。少子高齢化を強みに。一市民として無責任に言えば、人口減省のドバンテージを実験的につなげてソリューションとして提供していければいいと思う」などと持論を展開し、会場から拍手を浴びた。