千葉市は7月10日、ドローンで医薬品を目的地まで運び、上空で待機したまま荷物をおろし、無着陸で離陸地に引き返す実証実験を、習志野市(千葉県)から千葉市にかけて東京湾沿岸で実施した。運航の実務はエアロダインジャパン株式会社(東京)、株式会社エアロジーラボ(AGL、箕面市<大阪府>)などが担った。AGLが開発したハイブリッド機AeroRangeG4-Sが、往復約25㎞をほぼ自動航行で飛行した。医薬品配送は厚生労働省のガイドラインの基づいたほか、強風が予測されたため実施時刻やコースを変更するなど、安全を優先する適切で柔軟なオペレーションの実演を兼ねた。千葉市は今後、実験結果を検証し、実装に向けた課題の洗い出し、解決策の検討などを進める。
実験は、千葉市美浜区の沿岸にある高齢者施設に、習志野市にある日本調剤谷津薬局(調剤薬局チェーン大手、日本調剤株式会社(東京)の薬局)が準備した医薬品をドローンで届ける筋書きで行われた。
離陸地点は習志野の埋立地、茜浜(あかねはま)の南端。ドローンは茜浜を離陸後、海上に出てほぼ海岸線に沿って、千葉市の高齢者施設まで片道約12㎞を飛んだ。飛行高度は80m前後、速度は秒速12m/秒(約時速43㎞)。目的地あたりまで飛行すると上空で待機したまま、ワイヤーロープにつるした医薬品の入った容器をウィンチでおろし、接地したところで容器を切り離してロープをまきあげた。その後ドローンは向きをかえ、往路とほぼ同じコースをたどって引き返した。往路とほぼ同じ20分ほどで離陸地点に戻り、安定した姿勢のまま着陸した。飛行距離は往復で約k25㎞だった。着陸時には運航関係者が安堵の表情を浮かべた。飛行はほぼ自動航行で、目的地上空でのみパイロットが介入した。
医薬品配送にあたっての医薬品の取り扱いは、厚生労働省が策定した「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」に基づいた。医薬品は、品質を損なわないように開発された容器におさめられ、スマホで暗証番号の通知を受けた関係者がロックを開錠して受け取った。また配送中の位置をリアルタイムで特定できる仕組みも取り入れ、追尾できることも確認した。実施にあたって配送のための事業計画を作成し、医療関係者とも事前に調整した。
目的地の高齢者施設の隣接地では、ドローンは着陸しなかった。荷物をワイヤーロープで降ろす間、ドローンは上空で待機した。これは着陸して荷物をおろした場合の再離陸時にも原則として離陸前点検が義務付けられることに関係する。無着陸運用で再離陸時の点検義務を回避した。一方で上空待機には一定の時間が必要でこの間もエネルギーを使うが、長時間の飛行が可能なハイブリッドドローンG4-Sには懸念材料にはならなかった。
またこの日の実験では、天候要因により直前に計画を変更した。当初は船橋市内を離着陸地点に計画していたが、強風が予測される事態になったことから、習志野市を離着陸地点にするなどルートを変更した。また実施時刻も、当初の正午過ぎの実施から午前中の実施に繰り上げた。ドローンの運航には天候要因による変更や中止など安全を優先した柔軟な対応が求められるが、この日はルート、時刻の変更で柔軟な対応を示した。なお千葉市は当初、市長による視察を計画していたが、実施時間の変更により視察は見合わせることになった。
エアロダインジャパンの鹿谷(しかたに)幸史代表取締役は「本実証では、医薬品配送を含め、都市部でのドローン物流に求められる要素を多く盛り込み、技術的に実現可能であることを確かめることができました。一方、規制による制約条件やコスト増要因など、ドローン物流の実用化に向けた課題も浮き彫りになりました。今後、飛行に要したコストを分析しコスト低減レバーを特定するとともに、エアロダイングループの45カ国でのオペレーションネットワークを活用し、安全性を向上させる技術等の開発・輸入や、諸外国での運用実態の情報提供等による規制緩和の働きかけ、インフラ整備の活動を通じて、日本におけるドローン物流の実用化に向けた貢献を続けていきます」と話している。
経済産業省は6月29日、「スマート保安官民協議会」の第1回会合を開き、プラントの監視、点検にドローンなどのテクノロジーを活用する「スマート保安」の具体的な検討に着手した。会合では発電、石油化学プラントなどの産業プラントを取り巻く環境の変化を受け、保安力向上、競争力強化のためにスマート保安の推進を図る重要性を出席者が共有。今後、民間は新技術の実証などを積極的に進め、国はスマート保安推進を阻害する規制、制度を年内をめどに洗い出す。必要に応じて法改正も視野に入る。また先進事例の発信、シンポジウムの開催、「インフラメンテナンス大賞(経済産業大臣賞)」の創設などに取り組み、スマート保安に対する理解を広め、推進を後押しする。
第1回会合は6月29日午前、東京・霞が関の経産省会議室で行われた。民間側からプラントを抱える電力、石油、鉄鋼など9つの業界団体や、2つの保安関連団体から代表者が出席した。梶山弘志経産相のあいさつのあと、「スマート保安推進のための基本方針」(案)が示され、出席者が同意した。基本方針には、産業インフラが高齢化、激甚災害増加、新技術登場などの構造変化や環境変化に見舞われる中、事業継続のための対応が必要であることを明記。官民それぞれが技術導入や規制見直しなどの創意工夫によるスマート保安推進で保安力向上、競争力強化を通じ、国民の安全・安心の向上を図ると盛り込んだ。出席者から基本方針案に賛同する発言が相次ぎ、異論は出なかった。
具体的な取り組みとして、スマート保安の技術導入を促進する規制、制度見直しのためのアクションプランを策定する。アクションプラン策定のため電力安全分野、高圧ガス保安分野など分野別の部会を設置する。
民間の取り組みは、新技術の開発、実証、導入や人材育成が中心となる。この中で「巡視におけるドローンの活用やIoT、AIによる常駐監視、異常検知など新技術の開発、実証、導入に向けた先進的な取り組みを進める」とドローンにも言及された。またスマート保安に精通した人材の育成に取り組むことが書き込まれた。
国はスマート保安促進の仕組みづくりや支援が取り組みの柱となる。規制、制度の見直しのほか、新技術の信頼性の担保のあり方、社会受容性を向上するための方策を検討するほか、民間の新技術導入開発、実証、導入や人材育成を支援する。先進事例を発信するほか、「スマート保安シンポジウム」(仮)を開催して国民の理解を深め、投資を呼び込む。イノベーションを促すため「インフラメンテナンス大賞(経済産業大臣賞)」での表彰に実施する。
梶山経産大臣が「スマート保安への期待が高いことが確認できた。今後いっそう進むことを期待したい」と述べた。
プラント点検へのドローンの活用について、経産省は今年3月、総務省消防庁、厚生労働省と3省合同で組織する「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」で、「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドラインver.2」、「プラントにおけるドローン活用事例集ver.2」、「プラント保安分野における目視検査の代替可能性に関する考察」をとりまとめて公開している。(関連サイトはこちら)
この中で、ドローン活用の有効な場所について、従来のプラントの屋外から、屋外、屋内の両方に拡大されている。また専門の点検員による目視点検を、ドローンが代替できる可能性にも言及している。
プラントは厳密な防爆措置などが必要であるため、点検にはプラントごとに作業に関わるきまりが、それぞれの法令に基づいて定められている。原油タンクの点検は消防法、ボイラーであれば労働安全衛生法、原油を異なる沸点をもつ留分ごとに分類するトッパー(常圧蒸留装置)は高圧ガス保安法などに基づいている。法令は、有資格者が実施することが定めていることもあり、ドローンやほかのIoTデバイス、AIなどで作業を代替する場合には妨げになる可能性があり、スマート保安推進の作業の中で、見直しが必要になる可能性がある。
経産省は、年内をめどに規制、制度の洗い出しを進める。必要に応じて法改正も視野に入る。また、官民協議会や部会の議論の中で、ドローン、IoT、AIなどの知見が必要となった場合には、航空法など、検討範囲外の法律がテーマとなった場合には、関係者の参加を求める場合もあるという。
プラントの点検を有資格者による目視から、データによるモニタリングに移行させる「スマート保安」の議論が本格的にはじまったことで、試行的に導入されているレベルにとどまるプラント点検分野でのドローン、IoT、AIの実装に、はずみがつく期待が高まっている。
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福島イノベーション・コースト構想推進機構・福島ロボットテストフィールド(福島県)は5月15日、ドローンの活用が期待される分野での事業者認定や安全運用のためのガイドライン、教育カリキュラムを策定し、機体認定事業を実施したと発表した。今回策定したのは4分野で、4月に公表したプラント点検のガイドラインなどとあわせて、5分野が策定されたことになる。その一部は公開された。それぞれ運用事業者認定のさいの標準化を視野に入れており、今後テキストや育成コースの開発、認定スキームの策定を検討する。
新たに策定したのは①警備関連(福島浜通り地域における無人航空機による警備)②催事での空撮とAED搬送関国際イベント等の催し物等における小型無人機による空撮やAED 搬送)③催事保安関連(国際イベント等の催し物等におけるパブリックセーフティ確保)④機体認定(RTFにおけるJUAV機体認定事業第1号)の4分野。それぞれガイドライン、チェックリストなどで構成されている。すでにプラント点検関連(小型無人機を用いたプラント点検分野)については4月にマニュアル、ガイドライン、チェックリストを4月に公表済みだ。
策定されたガイドラインは関連業務でドローンを運用する事業者を認定するさいの指針となることを見込んでいる。公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構・福島ロボットテストフィールドが、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)、一般社団法人日本産業用無人航空機工業会(JUAV)と協力して策定した。
警備分野については、「警備分野における無人航空機の安全な運用方法に関するガイドライン」が策定された。策定の目的はドローンの導入による警備事業の省人化、効率化が期待される中で、「警備サービスにおける無人航空機活用を健全に推進すること」で、「無人航空機運用にあたり留意すべき事項を整理し」てある。
その中の「概要」では、航空法、小型無人機等飛行禁止法、電波法などのほか、警備業法の適用範囲の適用範囲について言及していて、ドローンの活用に関わる規定がないことや、警備業が扱う施設警備、雑踏警備、警備輸送、身辺警護の4業務のうち、ドローンの活用が可能と考えられる範囲はその一部であることなどを説明している。またそれをふまえ、ガイドラインでは施設警備だけを扱っていることを断っている。そのうえで「第43条では機械警備業務における即応体制の整備について規定されているが、『現場における警備員による事実の確認』を無人航空機単独で代替することはできない」などと注意が記されている。ドローンを活用するさいのフローも図解されている。
また活用方法として「常駐警備業務」と「機械警備業務」に分けて説明がつけられている。ここでは常駐警備での飛行前、飛行時、飛行後の作業を列挙してあるほか、警備業務に活用する機体に求められる要件や、ドローン、関連機材の選定についての記述もある。「無人航空機、搭載カメラ等の機材選定にあたっては、RTF を活用し性能試験および運用テストを行うことが望ましい」などの表現もみられる。「機械警備業務」については「基本的な考え方は常駐警備業務での無人航空機活用と同じ」としたうえで、「人的リソースが制限される」など常駐警備との違いを指摘するにとどめている。
警備分野については、ドローン警備事業者育成カリキュラムも公表された。座学は19項目あり、「警備運用におけるリスク」「対策方法」「緊急時対処方針の策定」などリスクに関連する3項目などが含まれている。実技も警備の現場に基づき7項目が設定されている。あわせて、「警備分野における無人航空機の安全な運用方法に関するチェックリスト」も策定、公表された。
国際イベントなどを想定した催事空撮やAED搬送については、「国際イベント等の催し物における空撮・救急医療分野での無人航空機の安全な運用方法に関するガイドライン」、「国際イベント等の催し物における空撮・救急医療分野での無人航空機の安全な運用方法に関するチェックリスト」「国際イベント等の催し物における空撮・AED搬送事業者教育カリキュラム」が公表された。
このほか、「国際イベント等の施設周辺に飛来する無人航空機の識別を含めたパブリックセーフティの確保のための無人航空機の安全な運用ガイドラインとチェックリスト」と「無人航空機の安全性に係る機体認定試験のあり方を検討するための、RTFの施設・設備を用いた飛行審査の実証実験」が策定、実施され、「ガイドライン」が公開された。「チェックリスト」と、機体認定試験関連の資料は非公開扱いとなっている。
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