ドローン関連スタートアップへの特化型ファンドであるDrone Fundと、ドローン研究に積極的な慶應義塾大学SFC研究所・ドローン社会共創コンソーシアムは7月4日、慶應義塾大学三田キャンパスのホールで公開シンポジウム「ドローン前提社会とエアモビリティ社会に向けた未来像」を開催した。会場は立ち見が出るほどの盛況で、正午過ぎから夕方までの5時間、途切れることなく刺激に満ちた発言が飛び交った。メーカー、サービス事業者、研究者、金融、通信事業者、行政など立場の異なる第一人者が登壇して発言。ドローンが日常の選択肢になる社会の到来を待望し、多くがその実現を前提とした問題提起や意見の提示で、主催者の一人、Drone Fundの千葉功太郎代表パートナーは「きょうがキックオフ。ドローン前提社会は必ず実現する。研究開発、ハード、ソフトを含め日本で新しい産業をつくることに取り組む」と宣言した。
シンポジウムでは冒頭、慶大ドローン社会共創コンソーシアム代表の古谷知之慶大教授が「滞在した欧州では議論が盛んにおこなわれていた。日本でどう盛り上げるか。このシンポジウムをきっかけに考えたい」と会場の問題意識に働きかけた。
また衆議院議員で「無人航空機普及・利用促進議員連盟 (ドローン議連)プロジェクトチーム座長の今枝宗一郎衆院議員がビデオメッセージを寄せ、政府が6月21日に、2022年度に有人地帯で目視外飛行を実現する目標や、2023年度に空飛ぶクルマ(エアモビリティ)を実現する目標を盛り込んだ次世代モビリティに関する政策目標を閣議決定したことについて「政府としてコミットしたのは日本が初めて。この分野では日本が世界でナンバーワンになると確信している」と強調した。
閣議決定については、米山茂内閣官房副長官補室もあいさつの中で言及し、「ドローンについては、MaaSと並ぶ形で示されている」と政府としての優先度の高さを指摘。「今年度中に制度設計の基本方針を策定する」と、政府としての具体的に動くことを説明した。
Drone Fundの千葉氏は公式行事でのおなじみの着物姿で登壇。日本が気候変動による災害頻発や、人口減少、社会インフラの老朽化などの課題が押し寄せていることに言及し、「圧倒的な量の課題が押し寄せている。これをロボティクス、AI、IoTを使って解決する機会ととらえ、ソリューションを社会に実装し、グローバルに展開したい」と前向きなとらえ方を提案した。近未来の社会像について「ドローンが街の一角にたくさんあって、それを誰でも自由に、頭上を気にすることなく使えるようになる。小さいドローンが狭くて暗くて暑くて汚い空間で、人の代わりに働いてくれる。高所で危険な場所でも活躍してくれ、たとえば屋根点検ではAIを搭載して修理が必要な個所を指摘してくれる」と展望した。
また「ドローンはいまや空だけでなく、陸海空いずれの空間であれ、遠隔で、自律して動き、統合されて全自動で機能するもの」と説明し、2022年までに稲作の50%をIT化する農水省方針が示された農業や、株式会社エアロネクストの機体が傾いても積み荷が傾かない重視制御技術に期待が寄せられる物流などを例にあげ、産業全体での自動化、遠隔化、統合化に期待を示した。
成長戦略閣議決定にも言及し、「年号を決めて政府が実現目標にコミットしたのは日本が最初という話があった。日本は決して遅れていない」と高く評価した。
シンポジウムのハイライトは、ゲスト登壇者をまじえての3つのセッションだ。セッション1は「新しい産業・社会の創造」をテーマに、大和証券の中田誠司社長、KDDIの高橋誠社長、みずほ銀行の藤原弘治頭取が登壇し、千葉功太郎氏がモデレーターを務めた。
大和証券の中田社長は「コアの証券事業のほかに、IPOエコシステム構築に力を入れていて、リスクマネー供給、M&A機会の提供もしている。空の産業革命を応援しており、新しい産業を作る気持ちで取り組みたい」と決意を表明した。高橋KDDIの高橋社長は5Gの導入について「新規格が登場するたびに、動画がキラーアプリケーションになる、などと言われながら、これまでそうはなってこなかった。5Gでも同じようなことが言われているが、実際にはドローンが5Gのキラーアプリケーションになりうると考えている。トラステッドとイノベーティブのどちらもないと両方を大切にしたい」と述べた。
みずほの藤原頭取は「やりたいことはひとつ。日本企業をもう一度元気にすること。最近、金融機関はお金を貸しても感謝されない。なぜならお金の出し手はいっぱいいるから。そうであればいますべきことは知恵を出すこと。そして、イノベーションの全体像を描き、ベンチャーと大企業をつなぎ、必要な資金を供給する。そのときに忘れていけないのは、目の前にある課題を解決する、ということ」と起業家支援の姿勢を鮮明にした。
セッションの中では、「いい投資家、悪い投資家」「会社の中での副業・兼業のありかた」などにも話題が及び、事前に想定されていない言葉も飛び出して、関係者がひやひやさせる一幕もあった。
また、藤原頭取は「日本経済の渋滞による損失は12兆円といわれる。空の産業革命にその解決を期待したい」とドローンへの高い期待を表明。米シリコンバレーに、現地経営者と面会するために訪れたさい、途中で渋滞に遭遇した経験を引き合いに、「シリコンバレーの経営者と面会をしたときにそのことを話したら、空の産業革命に取り組もうというときにプライベートジェットを使わないできたのか、と言われた。そこで、足元の(渋滞という)課題を解決することがスタートアップの役割ではないのかと言い返した」というエピソードを披露し、会場から喝さいを浴びた。
セッション2では、「フィールドロボットによる自動化」をテーマに、小説『下町ロケット』のモデル企業として話題になり、Drone Fundへの出資者でもある農業機械メーカー小橋工業株式会社(岡山市)の小橋正次郎社長、ドローンスタートアップとしては初めて昨年12月に上場した株式会社自律制御システム研究所(ACSL、千葉市)の太田裕朗社長、筑波大学発の水中ドローンメーカーFullDepth(東京)の伊藤昌平社長、農業ITを手掛ける株式会社農業情報設計社(北海道帯広市)の濱田安之CEOが登壇。モデレーターをDrone Fundの大前創希代表パートナーが務めた。
この中でACSLの太田社長は「われわれはドローンを制御系から作っている。作っているドローンには“大脳”に指令を与える目がついている。また、日本郵便が実施している配送事業ではわれわれの機体が使われているが、制御しているのは郵便局の職員であることに注目してほしい」と、専門家でなくても扱えることが可能であることを指摘した。FullDepthの伊藤社長は「実は水の中が分からない、という課題は多い。プラント建設のさい、足場がどうなっているのか、建設したさいにどんな影響があるのか。これが自動で確認できれば、水中で呼吸できない人が水に入らずに済む。そもそも潜水士も減ってきている。高コスト、危険、面倒を変えられる」という問題意識が開発の発端だったことを明かした。
農業情報設計者の濱田CEOは「(農業機械の)まっすぐ、等間隔、を研究している。労働費などの10%が無駄といわれていて、それを解消したい」と話し、開発したアプリが世界で10万ダウンロードされた事例をあげ、世界中に「まっすぐ、等間隔」の需要があると指摘した。小橋工業の小橋社長は「モノづくりをしたいと思ったときに、どこに行けばいいかわからない、量産したいときにどこに行けばいいかわからない、という状況で、日本のものづくりはすごい、と言えるのか」と問題提起した。討論の中では、濱田CEOが「耕すだけであれば自動化できるが、種がどれぐらい残っているかが分からないままではインテリジェンス化できていない。“機械化貧乏”という言葉もある。課題を解決しないといけない」と発言した。
またモデレーターの大前氏が「安全性の確保に努めている中、ロボットがダメージを与える可能性をどう考えるのか」と問題提起を。濱田CEOから「作物に子供が隠れていたら分かるのか、とか、走って飛び出して来たらどうするのか、とか聞かれることもある。どこまで対応すべきなのか」と現場経験を報告。大前氏は「リスク算定の面で地方が担う役割があるのではないか」と話した。
セッション3では、「次世代モビリティ社会への展望」をテーマに、慶大の古谷教授、経産省製造産業局総務課の伊藤貴之課長補佐、空飛ぶクルマを開発する株式会社SkyDriveの福澤智浩代用取締役が登壇。Drone Fundの高橋伸太郎最高公共政策責任者がモデレーターを務めた。
古谷教授は「いま考えないといけないことは社会課題をいかに解決し、それを子や孫に引き継ぐかということ。課題を解決できなければエアモビリティは消えていく。エアモビリティの部品メーカーのリスクも高くなる。それは、その部品を搭載した機体が重大な事故を起こすと、部品が問題視されるからだ。基準を満たした部品でも、大きな問題が起きれば、企業の存在が危ぶまれる事態さえ起こる。信頼性をだれが保証するのかといったことが大事になる」と問題提起した。
そのうえで、欧州赴任期間中に、自動運転やスマートシティの取り組みから学んだこととして「“日本初”は世界では意味がない」ことや、社会受容性、多様性、経済性の面では日本より海外のほうが研究環境が整っていること、研究開発のための実験は数年で飽きられること、事業性判断に必要な社会実験は数回で十分なこと、低廉化の迅速な実現の重要性などを列挙した。そのうえで「統合型近未来交通パッケージ戦略の策定が重要になる」と分析した。
経産省の伊藤氏は官民協議会を開催した背景に「社会受容性の醸成という意味もあった。言い換えれば、納得して飛ばせる社会をどう作るか。これからも開催したい」と表明した。SkyDriveの福澤氏は、空飛ぶクルマの開発の狙いを「1秒でも早く移動できる自由、道路がなくても移動できる自由、意のままに移動できる自由を獲得したいから」と説明。「通勤ラッシュ、渋滞、乗換え待ちをなくしたい」と語った。
モデレーターの高橋氏は「ドローン前提社会は、未来でなく今、起きつつある。実際、成長戦略実現のためには今年度内に制度設計を策定する必要がある。航空機も自動車も、事故で亡くなった命があり、そのうえに今の技術があることを認識しなくてはいけない。フューチャーモビリティーがもたらす安全、安心、快適を享受できる時代を構築するうえで、安全の確保は大事だ」と問題提起した。さらに、古谷教授が「国際的なシンポジウムをすべきだ」と提案すると、伊藤氏が「同じことを言おうと思っていた」と応じるなど、早くも次のシンポジウムを模索する発言が飛び出した。
シンポジウムで出された意見は、ドローン前提社会が実現することを前提とした意見ばかりで、関係者の思考が、「どう実現させるか」から「実現したあと」にシフトしつつあることを印象付けた。
株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)は、山口県山口市で重ねてきたリハーサル飛行を収めた動画を公開した。
リハーサル飛行は、山口県山口市の「山口きらら博記念公園」内に設けた飛行試験場で春から行われていて、動画には大阪・関西万博のデモフライトに使われるSD-05が離陸し、移動し、向きを変えて飛行するなどの様子が納められている。
大阪・関西万博では7月31日から8月24日まで、火、水曜以外の原則週5日の予定で、来場者の前で飛行する様子を公開する。
建設設備大手の三機工業株式会社(東京)は7月11日、グループ会社、有限会社キャド・ケンドロ(仙台市)と共同で狭小空間ドローン開発の株式会社リベラウェア(Liberaware、千葉市)のドローンとレーザースキャナを併用した既存設備の3Dモデル化するデジタル化手法を確立したと発表した。Liberawareも同日、三機工業に「IBIS2」を「導入した」と発表した。
三機工業は設備更新や模様替えなどのさいに、現場を3Dモデリングし、現状を把握してから取り組む。完成後の更新や追加工事で現状が図面通りになっていないことが多く、作業の妨げになるおそれがあるためだ。しかし天井裏などでダクトや配管が込み入っている場合に、すべての設備にはレーザーが届き切らずに十分な3Dモデルができあがらない場合がある。こうした課題を乗り越える手法の開発を進めているところ、今回、ドローンとレーザースキャナを併用してデジタル化する手法を開発した。
同社が実施した実用化検証では、IBIS2とレーザースキャナを併用した場合、従来の3Dスキャン手法と比べ、機械室などの天井の無い空間の場合、認識できた建築部材が約135%、天井の一部が解体された天井裏空間で約400%向上したという。
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丸紅株式会社(東京)は7月8日、大阪・関西万博でデモフライトを披露する計画を公表している英ヴァーティカルエアロスペース社(Vertical Aerospace Group Ltd.)開発の5人乗りAAM「VX4」について実施を「見送る」と発表した。英国で行われているVX4試験機での有人飛行試験で判断したという。
丸紅は発表の中で「現在英国で行われているVertical社製VX4試験機による有人飛行試験の進捗状況から、大阪・関西万博でのデモフライトへの対応を見送ることとなりました」と伝えた。VX4のキャビンを再現したモデル空間は予定通り万博会場に出展し、8月から搭乗体験を実施する予定という。
また丸紅が万博で飛ばすもうひとつの機体、米LIFT AIRCRAFT社(以下、「LIFT社」)製の1人乗り機「HEXA」については、デモフライトを近く再開させる方向で調整中だ。HEXAは4月26日のデモフライト中に部品が落下したためデモフライトを中断して原因究明を続けている。
その結果「モーター搭載箇所の部品について、サプライヤーが仕様と異なる素材の部品を誤って供給していたことが判明」したと説明し、「当該部品の交換およびその他重要部品の再点検を完了した上で、再発防止策として、LIFT社において部品の受領・品質管理について包括的な監査を実施し、必要な工程について改善したことを確認しました。関係機関の許可を以て、今後大阪・関西万博でテストフライトを実施し、十分に最終確認を行った後、安全を最優先として関係機関および関係各社と協議・判断し、デモフライトの再開に関しては改めてお知らせいたします」と伝えている。
丸紅は大阪・関西万博でのAAM運航事業者4グループのひとつだ。
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英ロックバンド、オアシスの再結成後初のコンサート会場となるウェールズの首都カーディフのプリンシパリティ・スタジアムで現地時間7月2日、ドローンで形作られた「OASIS」のロゴが浮かび上がった。ツアーは7月4日に始まり、11月まで世界各国をまわる。ツアー初日を翌々日に控えたドローンの演出はオアシスの公式アカウントで公開されている。
ドローンのロゴは公演開始前に上空に描かれ、オアシスの再結成ツアー開催を祝福し、喜ぶファンの気分の高揚に貢献した。
オアシスは1991年にマンチェスターで結成され、7000万枚以上のアルバムを売ったロックバンドだ。2009年に解散したが昨年2024年に再結成した。再結成後初のコンサートツアーが7月4日にはじまり、北米、南米、オーストラリア、韓国など各地をまわる。2025年は11月23日のサンパウロ公演で幕を閉じる予定だ。日本公演も10月に予定されている。チケットはいったん予定枚数の販売を完了したが、機材席の解放による追加販売が決定し、7月12日正午に抽選の受付を開始する予定だという。
音楽シーンとドローンとは、MV撮影、ライブ映像撮影、演出としての屋内ドローンショーなどの例があるなど縁があり、今後も活用の幅が広がる可能性がある。
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AAM開発の米ジョビー・アビエーションは6月30日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでパイロットが搭乗し、垂直離着陸の固定翼飛行を実施した。ジョビーは「2026年に最初の乗客を運ぶ」と2026年のサービス開始を目指している。ジョビーは開催中の大阪関西万博で「運航事業者」にもなっている。
ジョビーによるドバイでの飛行は、「piloted, vertical-takeoff-and-landing wingborne flights」で、パイロットが乗り、垂直離着陸をしたうえで、機体の固定翼で移動した飛行で、「eVTOL分野では初めての取り組み」としている。ジョビーはこの飛行を通じて、ドバイ地域での商用市場準備の取り組みを開始したことも明らかにした。ジョビーは直接運航、航空機販売、地域パートナーシップを商業化戦略の3本柱と位置付けていて、今回の試験飛行が「重要な一歩」と話している。
試験飛行はドバイ道路交通局、ドバイ民間航空局、UAE民間航空総局と連携して実施された。またドバイ道路交通局長官兼理事会会長のマタール・アル・タイヤー会長が立ち会った。
ジョビーは、ドバイ国際空港(DXB)、ペルシア湾の人工島であるパーム・ジュメイラ、現在建設が進められている世界第2の面積の人工のマリーナであるドバイ・マリーナ、超高層ビルブルジュハリファで知られるドバイ・ダウンタウンでの商業サービス導入を目指している。バーティポートはすでに建設が進められている。
ジョビーはDXBからパーム・ジュメイラまでをエアタクシーサービスで移動した場合、移動時間は12分で、45分かかる車での移動時間が大幅に短縮されると見込んでいる。
ジョビーがエアタクシーサービスで使う機体は電動で、パイロット1人と最大4人の乗客を乗せ、最高時速200マイル(約320km)で輸送できる設計と説明していて、ジョビーは「短時間の通勤、小旅行、地域間のシームレスな移動のために、より速く、より静かで、より便利な空の旅を提供します」と話している。
ジョビーの発表はこちら
東京株式市場グロース市場で7月2日、ACSL株がストップ安となった。午前9時29分にいったん1187円で寄り付いたがその後も売りが殺到し、再び取引の成立したない売り気配で推移した。ACSLは前日の7月1日、前CEOによる不適切取引判明を発表していて嫌気を誘ったとみられる。
ACSL株は取引き開始前から売り注文を集めていて、取引開始がはじまったしばらく値が付かないまま推移した。午前9時29分に値幅制限いっぱいいの、前日終値比300円安のストップ安となる1187円で取引が成立したが、その後も売りは止まらず、再び取引が成立しない展開が続いた。
ACSLが7月1日に発表した「お知らせ」はこちら