コンサートホールを備えるJR中野駅前の複合施設、中野サンプラザ(東京都中野区)で1月17日、ドローンを活用した外壁調査のデモンストレーションが関係者や報道陣に公開された。係留すれば一定の条件下で航空法上の許可・承認なしで飛行を認める昨年(2021年)10月施行の航空法改正を活用した。デモンストレーションでは建物の屋上から地面にポリエチレン製のフィッシングラインを張り、屋上、地面のそれぞれで固定した。機体には、予め糸を通してあるストロー状のアタッチメントを取り付け、離陸すると釣り糸をつたうように浮上した。中野区でのドローン飛行実現に取り組む加藤拓磨中野区議会議員は「ドローン活用が広がるには住民感情への配慮が大事です。今回の取り組みはその第一歩。今後も検証が進むことを期待したい」と話した。
デモンストレーションを実施したのは中野区、国立研究開発法人建築研究所、一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)。各団体の担当者と、開催に尽力した加藤区議会議員が飛行前の説明会で趣旨やデモ内容、用いる技術などについて説明した。また、釣り糸を張る技術は西武建設株式会社の「ラインドローンシステム」を利用した。
今回のデモンストレーションは、昨年改正された航空法が、一定条件下の係留飛行を許可・承認の適用除外とすることを盛り込んだことを受けて実施された。点検対象は中野サンプラザ西側壁面。西武建設の「ラインドローンシステム」で、屋上から地面までドローンの通り道となるフィッシングラインを張った。
屋上には、フィッシングラインのせり出し具合を調整するブラケット、フィッシングラインの張り具合を調整するリール、ブラケットが落下しないようにするための安全装置などが取り付けられた。また地面側ではフィッシングラインの取り付けられた離発着場(セイフティポート)が設置された。墜落したさいにフィッシングラインをたどって落下した機体の受け止める役割を果たす。この技術は、ドローンをつなぎとめるものではないが、JADAが「2点係留装置」として「墜落時にリスクを軽減できる」などとする評価書を交付している。なおこの日は汎用機を飛行させた。
デモでは、地面のポートを離陸したドローンが、フィッシングラインをつたって屋上まで浮上し、その後フィッシングラインをつたって離陸地点まで戻った。フィッシングラインがあるため、通信障害などで操縦不能な状況になっても、暴走する不安を与える状況は起こらなかった。この日の操縦は手動だが、「斜めにラインをはった場合は、ラインをつたうとはいえ、斜めに上昇させる操縦が必要」という。
加藤区議会議員は「技術はあるのに実装がされないという状況を数多く見てきた。ドローンがそうなってはいけないと思っている。今回の取り組みであればドローンは建物の周囲しか飛ばない。試金石になるのではないかと思う」と今後に期待した。
建築研究所の宮内博之主任研究員は「都市部における高層建築物の外壁点検の需要が高まっている。そのさい安全対策が不可欠で、2点係留はリスク軽減に役立つ」と評価した。
JUIDAの岩田拡也常務理事は「導入の要望が増えた場合に対応できるだけの人材を育てておく必要がある」と対策を講じる必要性に言及した。
中野区は、今回のデモンストレーションで会場提供や関連する道路の通行止めなどの調整を担った。今回の会場となった中野サンプラザも、運営会社の全株を中野区が保有しており調整が他の民間設備に比べ容易だった面がある。今後、区内でドローン飛行の要望があれば、会場提供などの調整を含めた対応を検討することになる。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は3月に発効した国際規格「ISO23665」を解説するセミナーを会員向けに動画で配信した。「ISO23665」はドローン運用関係者向けの操縦技能に関する国際標準で、JUIDAは日本国内の意見をまとめたうえで参加各国の賛同を取り付け、日本提案のISO化に中心的な役割を果たした。JUIDAは今後も活動を活発化させていく方針で、取り組みについて会員向けセミナーなどを通じ情報提供や広報活動を進める方針だ。
動画セミナーでは、日本の提案を統括した岩田拡也JUIDA常務理事と、岩田氏を強力に補佐した有人宇宙システム株式会社の馬場尚子氏が登壇し、経緯などを説明した。二部構成で、第一部で「ISO23665」を説明し、第二部で認定スクールや操縦士にとっての「ISO23665」が持つ意味を、会員からの質問に回答する形で紹介している。
第一部では、国際標準は任意で適用されるものであることについて念を押し、発行された時点で法律のように強制的に適用されるわけではないことを説明した。ただし、入札の条件として国際標準に準じていることを条件とされる場合があり、その意味でルールなどの目配りのときに国際標準が重要なカギを握ることに言及した。
また操縦トレーニングをまとめた「ISO23665」は、日本とは別の参加国も独自に提案をしていたことが明かされた。その国は自国内の適用例を準用した提案となっていたという。日本提案は、日本の講習団体などの要件をベースにしながら、参加各国の教習事情を調査医し、それを反映させたことから、各国の納得を得やすかったという。ISOが要求していることは高度な技能ではなく、責任を持つ人を決めること、教習の品質をフィードバックを受けて高めていく姿勢を持つこと、など当たり前のことを決めたものだと説明している。
なお、本文とアネックスと呼ばれる付属書の二部構成になっていて、現時点では発行時点では回転翼の目視内飛行のカリキュラムが「アネックスA」として例示されている。今後、機体の種類、用途ごとに「アネックスB」「アネックスC」が追加されていく見込みという。すでに簡易な飛行のための「アネックスB」の作成作業に入っているという。
第二部では、寄せられた質問に登壇者2人が回答。「いまのスクールがISOに適合することは難しいか」には「ISOの認証取得は簡単とは言えないが、突破すると国際水準の教習提供スクールとなる」「求められているのは高難度の技能ではなく、教習品質の確保。たとえば講習者とは別に、独立した安全管理者の確保などで、これは大きな会社でないといけないということでも、特別に難しい品質管理をしなければいけないということでもない」などと回答した。
このほか、「スクールの整備」「誰でも適合できるのか」「アネックスAを履修すると何ができるのか」「海外では高い技能が求められるのか」などの質問に回答をした。
また今後の展開として、すでにエアタクシーを見据えた教習の必要性を提示している国があることを紹介し、市場の創出にルール整備が追い付いていない状況の中、今後もルール整備が急がれる展開を予想した。
全国にドローンスクールのネットワークが拡大し、国土交通省航空局のホ-ムページに「講習団体」として掲載されているだけでも、2019年8月1日現在、543にのぼる。そのスクールの講師はどんなふうに誕生するのか。今回、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の講師養成講座に潜入させてもらう機会を得た。休憩を含め8時間、8本の講座が詰まっていた。
見学したのはJUIDAが毎月1回のペースで、東京で開催している「認定スクール講師養成講座」。全国にあるJUIDA認定スクールで講師を務めるさいに受講する必要がある。JUIDAの「操縦技能証明証」「安全運航管理者証明証」を取得済みで、認定スクールで講師を務める資格の取得を目指す12人が、8月6日、東京・虎ノ門で行われ講座に参加した。講座は午前10時過ぎから午後6時半まで。途中、休憩をはさみながら、45分~60分の講座8本を受ける丸1日のコースだ。
この日行われた8本の講座とこの日の担当者は以下の通りだ。
1、安全運航管理(JUIDA、岩田拡也常務理事)
2、リスクアセスメント演習(有人宇宙システム株式会社、志村譲二氏)
3、バッテリー(マクセル株式会社、岩本章氏、山本善彦氏)
4、気象(日本気象株式会社、平尾正樹氏)
5、電波と無線(一般社団法人日本ドローン無線協会、戸澤洋二氏)
6、目視外飛行の法制度の動向(JUIDA、千田泰弘副理事長)
7、有人機と無人機の飛行の安全について(DRONE CONCIERGE CAPTAIN330、山村寛氏)
8、講師の心構えと効果的なインストラクション(有人宇宙システム株式会社、志村譲二氏)
講座は、参加者が講師となったさいに必要となる考え方、情報、知識、方法論を詰め込んである。
「安全運航管理」は、スクールの受講生に対し、講師が安全運航管理を教える難しさを念頭に、どうすれば教えられるかを伝授する内容だった。この講座を担当したJUIDAの岩田常務理事は、「心構え、知識、手法の順番で伝えて頂ければ、受講生にわかりやすく入っていく」と伝授。心構え、知識、手法のそれぞれについて解説を加えた。講義の中で、JUIDAのライセンスである「安全運航管理者」が必要な理由について「新しいものが社会に出現すると、歓迎されるか、排除されるか、どちらかの道をたどる。ドローンの利便性を多くの人に感じてもらい、社会で市民権を得るには、安全が第一だ。その安全を管理するのが安全運航管理者」などと説明した。
また「安全」を「社会が許容できるレベルにリスクを抑えこんだ状態を保持し続けている状態」などと定義を示し、「航空の安全3原則」などについても言及した。
「リスクアセスメント演習」では、ドローンによる撮影を依頼された場合を想定し、天候、時間帯、人の往来などの「危険源」を列挙し、それが与える危害の深刻度、発生確率などから点数化し、防護策を講じたり、優先順位をつけたりすることの重要性をワークを織り交ぜて説明。担当した有人宇宙システムの志村氏は「みんなで心配事を洗い出し、防護策考えるという作業そのものが大事」と話した。
「バッテリー」では、マクセルの岩本氏、山本氏が、バッテリーの事故は充電のさいに起こるケースが圧倒的に多いことを説明。「適切に管理すれば多くは未然に防げる」と取り扱いの重要性を強調した。この中で、落下して衝撃を受けたバッテリーは使わないこと、バッテリーの使用回数を本体に、たとえば「正」の字を書き足して管理することなどを助言。2つのバッテリーをペアで使うときにはペアごとにで管理し、ひとつだけを交換することがないように助言した。
「気象」では、日本気象の平尾氏が、天気図から強風が起こる可能性を読み取る方法を解説。冬型の気圧配置、日本海低気圧など6つのパターンを伝えた。海と陸の温度差が大きくなるときに発生する海陸風、高層ビル街で起こるビル、ダウンバーストなど予想が難しい風もあることを紹介し注意を促した。天候の急変を招く積乱雲のでき方についても説明し、「天気予報などで、大気の状態が不安定、と言われることがあるが、これは軽く暖かい空気が低いところにあり、冷たく思い空気が高いところにあり対流を起こしやすい状態のこと。この言葉を聞いたら要注意」などを説明した。
「電波」では、日本ドローン無線協会の戸澤氏が、ドローンのフライトに使われている電波の特徴や、課題を解説。フライトでは操縦者の真上が電波の死角になっていることなどを説明し、注意を促した。「目視外飛行の法制度の動向」では、JUIDAの千田副理事長が、航空法の改正が間近に迫っている現状や、2022年の有人地帯での目視外飛行実現に向けて、2019年度中に制度設計の基本方針を策定する必要がある現状を説明。「目視外飛行が認められる世界では、目視内では操縦者個人が追っていた責任から、システム全体の責任になる可能性があり、そのため機体登録の義務化がありうる。このため認証を受けた機体についての知識を持っている必要がある」などと述べた。
「有人機と無人機」では、山村氏が航空機パイロットの経験をふまえ、「航空機から有人機は見えない。ぶつかったら命にかかわる。航空機とドローンの事故を防ぐには、ドローン側が気を付けないといけない。プロポを持つ指先は命を預かっていると認識しないといけない」と説明した。またドクターヘリ、防災ヘリ、軍用ヘリは、上空150メートルと定められている「最低安全高度」の適用除外指定を受けているため、「ドローンを150メートルより低い空域で飛ばしていても、こうしたヘリが現れることがあるので油断は大敵」と注意を促した。
「インストラクション」では、有人宇宙システムの志村氏が、今後、講師として活躍するにあたっての心構えや、効果的なインストラクション技術、伝え方、進行手順などを、途中に自身の経験もまじえて伝授した。最後に申請の方法などの案内があり、講師養成講座は終了した。
組まれた講座は多彩で、それぞれ独立して深く掘り下げることができる印象だ。実際に講座によっては、それぞれの講師が何時間、何日間にわたって提供しているセミナーの導入部であることもある。今回の講座参加者は、第一線の講師の講義に触れたことで、自身が講師として登壇するさいの判断材料になるだろうし、その後の自己研鑽にもつながる可能性もある。
担当者によると、講師養成講座の内容は随時更新されていて、カリキュラムの数は増加傾向にあるという。たとえば「有人機と無人機」は2019年に追加された新設講座だ。幅広い情報に、第一線の講師から直接触れる機会を得た講師が、日本のドローンの普及や、ドローン前提社会の実現を引き寄せることを期待したい。