ドローンの活躍がもたらす価値を誰もが享受できるドローン前提社会を実現するには、イノベーションが生まれやすい社会であることが望ましい。しかし日本は世界に比べて後れていると指摘される。そこで、イノベーション、国家戦略特区、クールジャパンなど新たな価値を生み出す取り組みに奔走している平将明元内閣府副大臣に、その背景や対応法についてインタビューを実施した。平氏は、日本でイノベーションが生まれにくい背景に「法体系」が関わっていると分析し、四つソリューションを提示した。インタビューには、高橋伸太郎氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師)が同席した。
――日本のイノベーションについて、現状認識を
ドローンや自動走行は以前から注目されていました。私が地方創生担当の副大臣だった頃(2014年9月~2015年9月)、国家戦略特区の担当でもあって、自動走行やドローン、遠隔医療にフォーカスしてベストプラクティスを作り出したいということで、「近未来技術実証特区」を私の発案で創設した経緯があります。でも世界のスピードはもっともっと早くて、ドローンにしても自動走行にしても、遅れ気味の現状があると思っています。
(参考:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/kaikaku/dai3/siryou9.pdf)。
問題は、規制の体系にあります。DXを進めている国の規制環境を見ると、いくつかに分類できます。中国のように政府主導で物事が決まる国家、英米法を採用するアメリカ、イギリス、イスラエル、シンガポールなどの国家。日本は、カッチリと法体系ができていて 規制が隅々まで整備される大陸法の国です。最近のイノベーションの潮流を見ると、速度としては中国が一番早いですよね。リーダーが決めれば進められる。データ・ドリブン・エコノミーの観点からも、個人情報と紐づけが容易です。そして次に早いのが英米法の国。シリコンバレーのアメリカがそうです。ベンチャー企業を多く輩出しているイスラエルでは、FinTechの導入も、ワクチン接種も対応が早かったですね。
私は大陸法の国が後れを取っていると分析しています。日本やドイツがそうです。これらの国はついこの間まで工業製品では世界を席巻していました。工業機械とか、自動車とか。ところがイノベーションの速い流れの中で、ドイツも日本も乗り遅れ、取り残されつつあります。ドイツはそれに気が付いてインダストリー4.0(製造業のオートメーション化、データ化、コンピュータ化を目指す技術コンセプト。ドイツ工学アカデミーと連邦教育科学省が2011年に発表した)を始めました。日本はものづくりの現場のみならず社会全体ということでソサエティ5.0(Society 5.0。日本が提唱する未来社会のコンセプト)と言い出しましたが、やはり規制の仕組みにぶつかっています。
――大陸法国家である日本で、イノベーションがぶつかっていることとは
英米法はネガティブリスト方式のルールです。何かを始めようとしたときに法律に禁止、と明記されていなければやれます。もしもやってみて問題が起きれば、そこでやり方を考える。または解決をする。
日本はポジティブリスト方式です。原則としてすべて禁止で、やっていいことがリスト化される。何かをやろうと思って法律を見に行くと、何をやっていい、それをやっていい、と書いてあるわけです。
ところが新しいことをやろうとしても、想定していないものは書いていない。書いていなければどうしていいか分からない。その時にどうするかというと、法律そのものを作るところから始めるのです。既存の法律に当てはめようとすることもありますが、無理やり当てはめるとグレーゾーンになってしまう。グレーゾーンになると、進まないのです。日本を代表するような大企業がイノベーションの先頭を走ればよいと思いますが、一方で、大企業はコンプライアンスに注意を払っています。グレーゾ―ンには踏み込めません。従ってそこでフリーズしてしまいます。
だからといって日本の法体系を全部、英米法に置き換えるわけにはいかない。部分的には可能でも、全部を置き換えることは現実的ではありません。中国やロシアのように政府主導でイノベーションを進める国や、英米法の国に比べ、日本はハンディキャップを抱えているということです。
ただ、それを嘆いていてもしょうがないわけです。
――考えられるソリューションは
一つは国家戦略特区です。TRONプロジェクトを進めた東大の坂村健先生(東京大学名誉教授)は、国家戦略特区について、大陸法というOSで動いている日本に英米法というアプリケーションを入れる作業だ、という話をしました。国家戦略特区を使って実験的にトライアンドエラーができるように、レギュレーションもデザインしやすくするようにして、ドローンや自動走行を実装してみる方法です。成長戦略としても、イノベーションを促進する観点からも重要な政策だったのですが、加計学園など政治の問題で止まってしまいました。これが残念で仕方がありません。
なにしろ、改革を進めるのはものすごく大変なのです。既得権との戦いですから。ドローンも一見、既得権と干渉しないように見えますが、そうではありません。例えばドローンを活用して遠隔医療を完結させるためには、遠隔での服薬指導を解禁しないといけない。そうでないと離島にドローンで薬を運べない。その、解禁させることがすごく大変な作業なのです。自民党はいろいろな団体、いろいろな人たちの利益を守る集合体です。改革のためには、国民、世論の後押し、マスコミの応援がないと戦い切れない。改革派の議員が動けるためにも、私は国家戦略特区を再起動させるべきだと思っています。
――国家戦略特区で現状打破を図ろうとする考えですね
それと、ベンチャーの人、アカデミアの人たちは、もっと我々のようなローメーカーとコミュニケーションをとるべきだ、というのが私の持論です。
全く新しい発想で、新しいサービスを社会実装させようとすると、それを想定していない時代に作られた法律や条例には書いてありませんからできないことになります。だからといって役人に話をしてもできるものではありません。彼らの仕事は現状のルールの通りにすることですから。ルールを変えないとできないことであれば、それは我々、ローメーカーの仕事です。ローメーカーである我々と意見交換をよくすれば、法律も作れるし、運用の方法をアドバイスすることもできます。法律を作る場合も、閣法(内閣提出法律案)で行くのか議員立法で行くのか、などオプションが多くあります。特に日本の勝ち筋となるような 技術力を持つ有望なベンチャーは、できるだけローメーカーや、政策を作る人たちと密にコミュニケーションをとる必要があると思います。
ただ、国会議員と話をしようとする人はなかなかいない。実際、旧来型の国会議員の所に行くと旧来型の陳情になりかねない。そうではなく、一緒に、実現させるためにどういうパスがあるかを考える。どういう風にレギュレーションを変えるのかを考える。そこから先は、通常国会なのか、臨時国会なのか、または野党も巻き込んで議員立法なのか。1回、党から出して閣法で出させるのか。そこが政治家のプロの仕事というわけです。
京都に株式会社メガカリオン(京都市下京区)という、iPS細胞を使って血小板を作る技術を持つベンチャー企業があります。メガカリオンが活躍すれば安全な血小板を世界中にデリバーできる。しかし、原料に血液を使うことが、日本の法律にひっかかりました。日本では献血で血液を集めることになっています。その血液は治療か研究開発にしか使えない。原材料としては使えないわけです。そこで私が副大臣のときに問題提起を行い、その地域を国家戦略特区として認めた経緯があります(2014年5月に京都府、大阪府、兵庫県を国家戦略特区に指定)。
よく日本のイノベーションが遅い理由について、「日本にはアニマルスピリットがない」とか、「日本人の元気がない」とか言う方がいらっしゃいますが、それは間違いです。もっと本質的な問題です。新しいアイディアとレギュレーションのデザインと、その両方の歩調を合わせて行かないといけない。それは法体系の問題だと思っています。嘆いてみても物事は進まないので、それを背負いながら前に進める方法を政治家として考えて、今のようなソリューションを出したわけです。
ほかに、立法事実問題があります。その解消が3つ目のソリューションです。
宇宙で資源開発をすることについて認定を受けた企業が、宇宙で資源開発をした時には、その資源に対する所有権を認める、という法律があります(「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」。2021年6月に成立)。これがなぜ必要か。
現在、世界中で宇宙開発が進んでいます。ベンチャーを含めいろいろな企業が宇宙に出て行こうとしています。企業が拠点を置く場所を考えるときに、法律が整備されている場所が選ばれます。たとえば月で資源開発をして他国と揉めたとすると、管轄裁判所をどこに設置するか、という話になります。その場合も、法律のある国に作りましょうということになりえます。国際ルールを作る時にも、法律のある国の発言権が強くなります。反対に法律がないと発言権が弱い。
日本でも宇宙開発ベンチャーが頑張っています。しかし放っておくと、他の国に成果を取られてしまう事態になりかねない。それでこれを作ろうとしたわけです。
しかし閣法で出せません(注:国会では閣法を議員立法に優先して審議する)。なぜかと言うと「立法事実がない」と言われるからです。立法事実とは、たとえば「この人たちは公害で大変な被害を受けているから救済しましょう」といった立法の必要性や正当性の根拠となる事実です。国会では野党が「それは立法事実がないではないか」などとよく言います。
宇宙資源開発でいうと、確かに現時点で、宇宙で資源開発をしている会社はないわけです。だから立法事実がない、と言われることになる。でもこれをやらないとイノベーションが遅れる。そこで「将来こうなるから、こういう法律を作っておきましょう」ということになります。大陸法の国でも、先に法律を作っておけばいいのです。ドローンでも、自動走行でも、遠隔医療でも、「将来はこうなりますね」と見据える。将来を展望できるのであれば、現時点でサービスが始まっていなくても法律を作ればいい。ただ、それをしようとすると「立法事実がない」という指摘にぶつかるので、将来を見据えた展望を立法事実とすることができれば、対応しやすくなります。立法事実問題を解消したいというのはそのためです。
なお、宇宙資源開発法は議員立法で出さざるを得ませんでした。成立はしましたけれども。
――展望を立法の根拠として認めるという話ですね
そうです。将来を見据えて法律を作ることをローメーカー自身も自覚しないと日本のイノベーションは進まない。自民党にもそのようなローメーカーが出始めています。日本の活力を取り戻すためにどういうレギュレーションの変更が必要なのかを未来志向で考えるローメーカー。これは明るい兆しです。
もうひとつ、「首相のフルコミット」があります。私が3年かかると思っていたデジタル関連法案は1年でできました。デジタル庁も1年でできました。「10兆円ファンド」も今度できます。東大とか京大とかの研究者をしっかり支援をするために、年間3000億円ぐらい新規に出す事業で、私が副大臣の時にこれをやると言い出しました。これも1年です。財務省は大反対。ようやく話がつきました。首相のフルコミットは大きいと実感しています。この4つが、私が考えるソリューションです。
――今のままでは大変という話がありました
既得権と戦わざるをえないので大変なのです。政策立案をしてから何かに取り組もうと思うと、始めるまでにだいたい2年かかります。まずは自民党内を通さなければいけない。ここで問われるのが通す力です。政治家の評価として、政策立案ができるとか、切れ味がいいとかありますが、本当の専門性は通す力だと思います。自民党で言うと政調審議会があって、その上に自民党の総務会があります。この二つを通さないと法律案はできない。
さきほど国家戦略特区をソリューションとしてあげましたが、これがいい理由のひとつに「特区限定です」と言えるという側面があります。一律でひっくり返すことが難しいものでも「特区限定」であれば認められやすい。反対に特区がなければ多分、動かないです。
――本当なら一律でひっくり返したいところです
本当は、そうです。ただし特区で認めると、一律でひっくり返ることがあります。それは、今のレギュレーションが、体系としてはよくできていることと関係があります。もちろん時代に合っているかどうか、とか、ユーザーにとって良いかどうか、という話とは別ですが、体系として美しいわけです。
特区は、その“美しい”体系を崩すことになるわけです。役所の立場としては、体系に特区で穴を開けられることは屈辱的です。だから徹底的に抵抗する。一方で特区ができそうだ、となると「全体を変えます」ということがありえます。安倍晋三元首相がダボス会議で、岩盤規制に自分がドリルの刃先となって穴を開ける、と言いましたが、そんな意味があったのです(注:2014年1月22日、当時の安倍晋三首相がダボス会議で講演して言及)。
――イノベーションを進める体制として望ましい体制とは
内閣でいえば、若手の登用は大事ですが、一番大事なのはリーダー層の若返りです。トップがDXの感覚を持っていることが大事なのです。
デジタルを使いこなしている人は、デジタルで何ができ、何ができないかを分かっています。一方、デジタルが得意でない人は2種類に分かれます。一つは、デジタルが怖くて、とりあえずやめておこうと思っている人。もう一つは、デジタルで何でもできると思っている人。実際はどちらでもないわけです。さらに、デジタルと言っても、なんでもデジタルで進めるわけではない。アナログとデジタルと両方を組み合わせて生態系をぐるぐる回すわけです。リーダー層にはその感覚を持っていてほしいのです。
政治の場合、選挙などを通じて入れ替えが可能です。アナログのチューナーをデジタルの受信ができるチューナーに入れ替えればいい。すべてに精通している必要があるということではなく、感性さえあればいいのです。DXは経済、外交、内政など政策のすべてに関わります。DXの感性がないリーダーだと、すべての指示のピントが微妙にずれる恐れがあります。
――多様性のある社会モデルの重要性について
多様性の中でいろいろな価値観がぶつかり合って全く新しい価値が生み出されることには合意ができます。イスタンブールという都市は、ヨーロッパとアジアの結節点で、多様な人々が混ざり合って活気を生み出しているわけですが、私は「アナログとデジタルのイスタンブール状態」をつくりたいと思っています。それはなぜか。日本のアナログの価値は、世界一だと思っているからです。
アナログの価値が高いことは、日本でデジタルの浸透が遅れた理由にも関わります。わざわざ標準化しなくても、日本の人々はみんな仕事にプライドや誇りを持っている。だから、ちゃんと仕事をする。海外にはそうはいかない国もあります。リーダーシップ層はモラルが高いけれど、従業員はそれほどでもないといったことがあります。標準化をしないと仕事にならないから、標準化の必要があるのです。日本はみんな仕事をするから、あえて標準をしなくても済んできた。デジタル化が進んでこなかった理由のひとつがこれです。
一方で芸術、観光、豊かな自然、食文化、伝統文化、サブカルなど、日本はアナログの宝庫です。こうしたアナログの価値はデジタルで生かせます。
デジタルの美術品をノンファンジブルトークンで本物であることを示してオークションにかけると、ものすごく高額が付くことがあります。アニメでもそうです。アナログの価値はデジタルで最大化できます。アナログの素材を日本はふんだんに持っているわけですから、 DXはアナログ大国の日本にこそチャンスなのです。アナログとデジタルのイスタンブール状態をつくることが、日本の勝ち筋だと、私は思っています。なんとなく思っている日本人は多いと思いますよ。アナログなら日本は負けないと。
――アカデミアと政治家の関係性について
アカデミアの方々と話をしていておもしろいと思ったことがあります。それは、政治家同士で話をしている中での一番の悪口は「お前、学者みたいだな」ということ。でも学者同士で話をしていると一番の悪口は「お前、政治家みたいだな」なのだそうです。日本ではアカデミアと政治は、相性が悪いです。しかし、わが国のリソースは限られています。中国と比べてもはるかに少ない。だからこそ、もっとコミュニケーションを取っていきたいと思っているのです。
毎月、いろいろな意見交換をしています。それを政府の仕組みに落とし込むのが大事です。今は有志で行っていますが、硬直化しないように政府の仕組みに落とし込むことができればいいと思っています。こういうことを通じて、イノベーションを前に進めることができる体制を作っていきたいと思っています。
平 将明(たいら まさあき) 元内閣府副大臣、自由民主党内閣第2部会長。イノベーション、デジタル改革、IT政策、クールジャパン戦略、宇宙政策などを担当。経済産業大臣政務官兼内閣府大臣政務官、自民党副幹事長、衆議院環境委員長を歴任。家業である大田青果市場の仲卸会社の3代目社長。1967年2月21日生まれ。東京都出身。
高橋 伸太郎(たかはし しんたろう) 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師。DRONE FUND最高公共政策責任者。ドローン、次世代エアモビリティ、海洋モビリティ分野の産業構想に関する研究や政策提言を推進。
防災、事業継続、セキュリティなど危機管理に関連する技術を紹介する「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2024」(株式会社東京ビッグサイト主催)、テロ対策技術を紹介する「テロ対策特殊装備展(SEECAT)’24」(東京都主催)、新技術、新製品を御披露目する「エヌプラス(N-Plus)2024」の「特別企画展フライングカーテクノロジー」(エヌプラス実行委員会 、 フライングカーテクノロジー実行委員会主催)が10月9日、東京ビッグサイトで始まった。ドローンやエアモビリティの関連技術、製品も展示され、セミナーなどステージ企画も多くの来場者を集めている。いずれも11月11日まで。SEECATへの入場は完全事前登録制だ。
RISCONは危機管理技術のトレードショーで、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA、東京)、株式会社JDRONE(東京)、株式会社Liberaware(千葉市)など多くの関連事業者が技術を持ち寄っている。ステージ企画でもドローンやエアモビリティ関係の第一人者が登壇し、初日の9日には、株式会社manisoniasの下田亮氏が能登半島地震で被災した沿岸部海底を調査した経緯やそのときに仕様した技術などを紹介した。
下田氏は空のドローン、水中ドローンを使い分けてデータを取得し、それらを組み合わせて地形図を作るなどして、地震による海底被害の調査に取り組んだ。下田氏は「調査した海底では、あるはずの海藻が根こそぎ引きはがされていた。魚などの産卵場所が少なくなっていることが考えられ、調査結果は漁業者が対策を相談するさいの資料になると思う」などと、調査の意義を報告した。また、光が乏しい水中の画像を鮮明化する技術を、同社の海上自衛隊OBが新たに「ivcs」として開発したことも紹介し、この技術を使う前後の画像を比較して示したりした。会場は多くの来場者が詰めかけ、講演を時間より早めに終えたあと会場からの質問も受け付けるなど盛況だった。
N-Plusの特別企画展フライングカーテクノロジーでも多くの展示、講演が企画され初日から多くの来場者が詰めかけた。
「空飛ぶクルマの現状と課題」を演題にした基調講演では、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)顧問の中野冠フライングカーテクノロジー実行委員長がコーディネートし、株式会社SkyDriveの福澤知浩代表取締役CEO、テトラ・アビエーション株式会社の中井佑代表取締役が登壇した。
中野氏は、通説を疑ってみることを提唱し、「空飛ぶクルマ」に関わる騒音、利便性、環境などいくつもの「疑わしい通説」を列挙し盲目的に信じ込むことに警鐘を鳴らした。SkyDriveの福澤氏は開発している機体を大阪・関西万博でフライトさせる目標に向けて活動を続ける中で、「万博では飛行場でもない場所で複数の機体、それも2種どころではない機体が飛ぶことが予定されていて、そうなれば世界で初めてです。商用運航ができないことがニュースで大きく取りあげられていますが、実は世界でも画期的なことをしようとしているのです」と万博での飛行の意義を強調した。テトラの中井氏は「移動時間を短くすることを目指し開発をしている。現在開発中の機体は今年度末に試作機が出来る予定」などと計画が進んでいることを説明した。
10日以降も多くの来場者が見込まれる。
東京都内に竣工した大規模物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」に、ドローンの実証実験が可能な施設「板橋ドローンフィールド(板橋DF)」が誕生し、10月2日にお披露目された。LOGIFRONT東京板橋は三井不動産株式会社、日鉄興和不動産株式会社が開発した地元と協議を重ねて竣工した「街づくり型物流施設」でドローンフィールドは物流施設に寄せられる新産業創出機能に対する期待を担う。ドローンフィールドは一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、ブルーイノベーション株式会社が監修した。飛行用ネットフィールドやドローンポートが備わり、稼働中の物流施設を使った実験も可能で、都心の実験場の開設で、高頻度の実験が可能になる。会員制コミュニティも運用し共創を加速させる。
LOGIFRONT東京板橋と板橋DFは9月30日に竣工し、10月2日に竣工式典と説明会が行われた。説明会では日鉄興和不動産の加藤由純執行役員、三井不動産の篠塚寛之執行役員、板橋区の坂本健区長が参加した。加藤氏、篠塚氏が施設を説明し、坂本区長があいさつをした。施設内では内覧会でドローンのデモフイライトが行われ、ここでは三井不動産ロジスティクス事業部の小菅健太郎氏が概要を説明、JUIDAの鈴木真二理事長があいさつをした。ブルーイノベーションの熊田貴之代表取締役社長も登壇した。
板橋DFはドローン飛行用のネットフィールド、ドローン事業者用R&D区画、交流スペースを備える。物流施設に併設していることから、施設を実験会場として活用することも想定していて、施設の外壁を使った点検や配送などの垂直飛行、屋上にはりめぐらされた太陽光パネルの点検、接地されているドローンポートの活用、AGV(自動搬送車)との連携などが想定されている。ドローンオペレーター輩出で実績をもつドローンスクール、KDDIスマートドローンアカデミー(東京)が東京板橋校を構え、人材育成にあたることも発表された。
このうちネットフィールドは、敷地内の広場に整備された広さ約650㎡、高さ14mのネットに囲まれた設備で、この中では申請をせずにドローンを飛ばせる。KDDIスマートドローンアカデミー東京板橋校の講習会場にもなる。敷かれている芝はフットサルコート仕様で、時間帯によって地域住民の健康増進にも開放される。
ネットフィールドに近い入り口から建物に入るとすぐ、ネットフィールドをのぞむ位置にドローン事業者の交流を目指して設置された交流施設「ドローンラウンジ」がある。大型モニター付きのミーティングルームなどが備わり、ネットワーキングイベントにも使える。
この日はデモフライトも行われ、施設内では物流施設内で照明を落とし、光が届きにくい場所で球体ドローンELIOS3などの機体を飛行させる様子や、建物の外壁を点検するような飛行を公開した。
説明会では、東京大学と三井不動産の産学共創協定に基づく「三井不動産東大ラボ」が主体となる共同研究としてGPSに依存しないドローン位置特定技術、高層マンションなどでの垂直配送実現性検証や、ブルーイノベーションが主体となる長距離、長時間、自動航行に対応する高性能ドローンポートの開発などが含まれることが紹介された。
三井不動産の篠塚執行役員は「都心での高頻度な実験が進みにくい課題を解決することが可能となります。ドローン技術のイノベーションが起こることを期待しています。またここで検証された技術が配送、建物管理、災害時対応などの分野で課題解決につながることを期待しております」と述べた。
監修を担当したJUIDAの鈴木真二理事長は「ドローン産業の発展に少しでもお役にたてることを期待しております」とあいさつした。
板橋DFの入るLOGIFRONT東京板橋は、三井不動産、日鉄興和不動産が手掛ける大規模街づくり型物流施設で、物流拠点として高い機能と豊かなデザインを備えながら、地元の要望を取り入れた街に開かれた施設で、三井御不動産の篠塚執行役員は「街づくり型物流施設の集大成」と位置付けた。
板橋区との協議では、災害に強いまちづくり、地域に開かれた憩いの場の整備、新産業機能の要望を取り入れ、近くを流れる荒川、新河岸川の氾濫などの災害を想定し、住民の対比場所の確保、支援物資の補完場所の確保なども設けていることが特徴だ。あいさつした板橋区の坂本健区長は「防災力向上に多大な貢献を頂いております」と謝辞を述べた。
開発したのは日本製鉄の製鉄所があった場所で、フロアプレート約36000㎡、屋上に設置した太陽光パネルは4MV、敷地の河川敷として公開空地を設定して地域にも開放した。
ドローンフィールドとの相乗効果について、今回の説明会で物流用途や防災用途でのグ遺体的な実装計画には触れられなかったが、大型物流施設に併設されたフィールドであり、大型河川の流域に位置し、防災に高い問題意識を持つ板橋区にあることなどから、ドローンの実装にも高い期待がかかりそうだ。
第3回ドローンサミットが10月1日、札幌札幌コンベンションセンターで開幕した。会期は2日間。32の関連ブースが来場者を迎える。講演などのステージ催事も多く催される。初日の10月1日は北海道内外から多くのドローン関係者が訪れた。会期は2日まで。
第3回ドローンサミットは経済産業省、国土交通省、北海道が主催。地元北海道のデジタル技術見本市、「北海道ミライづくりフォーラム」と同時開催となる。ドローンサミットは2022年に神戸、2023年の長崎に続く開催。展示のほかデモフライト、識者や事業者による講演、セミナーなども開催される。
初日にはSkyDriveや大阪府などが登壇する「空飛ぶクルマのミライ~大阪・関西万博とその後の社会実装の展望~」、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)による「能登半島地震における災害時支援報告と今後に向けて」などが行われた。2日目も全国新スマート物流推進協議会などによる「ドローン物流を組み込んだ新たな社会インフラの現在地と今後の展開」、DRONE FUNDや北海道大学、NEDOなどが登壇する「北海道の空の未来とは ~エアモビリティ前提社会に向けて~」などいくつものステージが会場を彩る。
(写真はいずれも田口直樹氏が撮影)
トレーニング用の小型ドローンとコントローラーがセットになった新・練習機セット「DRONE STAR TRAINING」を開発した株式会社ORSO(東京)が、開発中の「実地試験トレーニングマット」の試作品の使い勝手を試せる「特別試操会」を9月27日、東京・内神田で開いた。国家資格の実地試験対策を想定した試験コースを約3分の1サイズでプリントしたマットと、操縦技能修得を成否を分けると言われる「8の字」に特化したマットの2種類の試作品が用意され、スクール講師、事業者、愛好家らがDRONE STAR TRAININGを操縦しながらマットの使い勝手を試した。参加者からは「受講生向けの自宅練習にいい」「講習の空き時間にも使える」「科学教育でも導入できそう」などの感想や意見が相次いだ。ORSOは今回の意見や感想も参考にして製品化を進め、11月中の発売を目指す。
トレーニングマットはドローンを飛ばすコースがプリントされたマットで、新・練習機セット「DRONE STAR TRAINING」を使って、国家資格取得に必要な技能を効率的に習得することを主な目的としてORSOが開発している。6月に開催されたドローンの展示会JapanDroneでDRONE STAR TRAININGを公開したさいに会場に設置したところ、DRONE STAR TRAININGとともに「あのマットも欲しい」という声が相次いで寄せられ、市販化に向けて開発を進めることになった。
この日はAタイプとBタイプの2種類の試作品がお披露目された。Aタイプは国家資格の実地試験コースをイメージしたもので、約3分の1に縮小したコースがプリントされている。ふたつに分かれているマットをマジックテープでつなげて使う仕様で、広げると4.8m×2.5mになる。収納や運搬のさいには、ふたつに分けて丸めれば、折り目をつけずに1.3mの筒に収まる。素材はDRONE STAR TRAININGの機体を飛ばしたさいにダウンウォッシュで浮き上がることなく、それでいて、持ち運びのさいにかさばり過ぎないようなものを選んだ。
スクエア飛行、8の字飛行、異常事態における飛行などに対応し、パイロンが置かれる場所なども図示されている。数字がふられていて試験や練習で想定される「『3』から『4』に移動してください」などの指示に従う練習も可能だ。特別試操会を主催したORSOの高宮悠太郎DRONE STAR事業部長は「エレベーター、エルロンを同時に動かす練習などにいかしてもらうことを想定しました」と説明した。
またBタイプは、操縦技能の習得で難関とされる「8の字」部分を抜き出したコースがプリントされているマット。3m×1.5mとAタイプよりひとまわり小さく、計算上は江戸間の6畳におさまる。高宮部長は「さらに小さい場所に設置できるよう、難しいといわれる部分の練習に特化したタイプです」と説明した。長方形をたてに3分割されていて、すべてをつないでも、中央を抜いて左右をつないでも使える。左右をつなげることで円周上を飛ばす練習に使うことができる。また3つに分割したマットをまるめれば、1.1mの筒に収納できる。
いずれのマットも実地試験コースの3分の1サイズになっているのは、DRONE STAR TRAININGの機体サイズが、国家資格の試験に使われる機体のたて、よこともに3分の1程度であることなどを考えたためだという。
試操会では、約10人の参加者が次々とAタイプ、Bタイプのマットの上で飛行し使い勝手を試した。参加者からは「受講生に課題を与えるさいに使いやすい」「自宅練習用に貸し出すこともできそう」「講習の効果を高めやすい」などと、国家資格取得に向けた効果を期待する声が多く聞かれ、ORSOスタッフがメモをしたり掘り下げるための質問をしたりした。中には「プログラミングなどサイエンスの講習にも使えそう」など、使い勝手の向上や用途の拡大につながりそうな改善点や意見、感想もあった。
高宮部長は「今回みなさまから頂いた意見を参考に試作品を製品化し、11月の発売を目指します」と話した。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が能登半島の豪雨災害への対応を開始した。自衛隊と連携し孤立集落へのドローンによる物資配送などにあたる。株式会社NEXT DELIVERY(小菅村<山梨県>)、株式会社ACSL(東京)がすでに現地入りし、株式会社エアロジーラボ(AGL、箕面市<大阪府>)、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)が近く合流する。ブルーイノベーション株式会社(東京)も一両日中に加わる。
JUIDAは9月23日に被害の大きい輪島市に入った。翌9月24日にはNEXT DELIVERY、ACSLが合流した。株式会社エアロジーラボ(箕面市<大阪府>)、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)も9月25日中に現地入りし、ブルーイノベーション株式会社も追って合流する見通しだ。
このうち事業者として現地にもっともはやく合流したNEXT DELIVERYは小菅村、小松市(石川県)のそれぞれから現地で運用していた物流用機Air Truckを持ちこんだ。2機を持ちこんだのは、孤立集落への物資配送の輸送頻度が高くなることが見込まれるためだ。1月に発生した能登半島地震の震災対応のさいには小菅村の機体を持ちこみ、医薬品の輸送で被災地を支援した。同社はドローン配送を平時と有事の両面で活用するフェーズフリー活用に取り組んでいる。
輪島市中心部では9月21日午前9時10分までの1時間に120ミリの大雨が記録され、気象庁が輪島市、珠洲市、能登町に大雨特別警報を発表した。その後22日午前10時10分、気象庁金沢地方気象台が大雨特別警報を大雨警報に切り替えたと発表した。
国土交通省は9月22日午後3時に輪島市、珠洲市、穴水町、能登町を国土交通大臣による航空法第132条の85による緊急用務空域公示第2号に指定した。ドクターヘリや救急搬送などの活動を妨げることにならないよう、国、地方などの要請を受けていないドローンは現地での飛行させることができない。一方、孤立集落への物資搬送などにドローンの活用は期待されていて、石川県は9月24日、JUIDAに対し支援を要請した。
JUIDAは石川県の要請より前に現地への急行を準備し、9月23日には現地に入りし、自衛隊など関係機関と調整を開始。24日の石川県からの要請を受けて具体的な取り組みを進めることになった。25日にはひとつの孤立集落への物資輸送を開始する準備を進めていたが、幸いにもこの集落への陸路が開通したためこの集落への配送は陸路にまかせ、ドローン配送は別の集落への取り組みに切り替えることを決め、次の対応を練っている。
JUIDAのもとにはドローン事業者から協力の申し入れも届いており、JUIDAが現地の需要とすりあわせながら、対応を検討している。
能登地方では9月25日も不明者の捜索が続けられ、この日輪島市で3人がみつかり、いずれも死亡が確認されたことから、豪雨の死者は計11人となった。午後4時現在、5人の行方がわかっていない。また輪島市、珠洲市、能登町の16カ所の集落が孤立し、157人が取り残されている。
山梨県は、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海での夜間パトロールにドローンを活用する取り組みを始めた。自殺防止対策の一環で、ドローンの運用は海岸警備や夜間警備の実績を持つ株式会社JDRONE(ジェイドローン、東京)が担う。9月18日は富士河口湖町の景勝地、富岳風穴の隣接地にドローンやモニターを設置し、自動飛行のデモンストレーションや最初の取り組みを行った。国の天然記念物である青木ヶ原樹海は、観光名所が多く海外からの観光客も多く訪れる。一方で自殺多発地帯としても知られ、山梨県は見回りなどの対応を強化している。ドローンでの見回りは夜間の見回りと人影を発見したさいの声掛けを担う。
初日の9月18日には、富岳風穴の隣接地に拠点を整備した。見回り用にサーマルカメラを搭載したドローンDJI Matriceシリーズを用意し、自動充電ポートDJI Dock 2、DJI Dock 1に配備。スピーカーなど防災対応の装備をJDRONEが独自にカスタマイズしたセキュリティ用ドローンも待機させた。またドローンから届いた映像を受信するモニターなども準備した。
デモンストレーションではで見回り用ドローンがDJI Dock 2から離陸し、樹海上空を飛行した。この日はデモンストレーション用に樹海内をスタッフが歩きまわっていた。モニターにはドローンから送られてきた映像が温度の違いで白、黒の濃淡で表示された、とくに温度の高いところは赤で示された。ドローンの離陸から数分で、モニター内に不自然に動き回る白く動く点が確認できた。今度はスピーカーを備えたセキュリティードローンが離陸し、白い点が見えた地点に向かって上空から、散策路をはずれないよう促すメッセージなどを流した。メッセージは山梨県が専門家に相談したうえで練った。また上空から流す音声は入力を切り替えることで、肉声で呼びかけることができるようにもなる。
今回のプロジェクトでドローン運用の実務を担うことになったJDRONEは、海水浴客の不測の事態を警備するパトロールなどドローンを使った警備で実績を持つ。また2023年に吸収合併した当時の株式会社ヘキサメディアは、2021年に甲州市で果実盗難対策として不審者、不審車両を上空からドローンで発見、特定し盗難抑止につなげる取り組みを実施している。今回もこうした豊富な経験が生かせる。
山梨県によると、この事業の目的は「自殺企図者の保護」だ。県は対策として日中の時間帯には365日、パトロール員が自動車での巡回と遊歩道の徒歩での巡回を行っていて、保護の実績もあがっている。ドローンは、パトロール員の巡回が終了した夜間の見回りを担う。自殺企図者を発見したさいにはパトロール員に連絡をとって保護にあたる。必要に応じ警察とも連携する。
2023年に山梨県内で自殺とみられる死者が発見されたのは215人。人口10万人あたりの自殺者数26.8で2年連続全国最悪だ。3割は居住地が山梨県外であることもわかっている。
山梨県健康増進課の知見圭子課長は「ドローンによるパトロールを含めて様々な方面からアプローチし、自殺防止に取り組んでいきたいと考えています。青木ヶ原は自然が多様で名所も多く魅力あふれる場所です。こうした魅力で知られることを期待しています」と話している。