オープンソースのフライトコントローラーで日本のドローン産業を支える人材を育成しているドローンエンジニア養成塾。発表会レポートの最終回は、前回の6組に続き、塾長を務めるJapanDrones株式会社(長野県)のRandy Mackay代表のプレゼンテーションを含めた5組の発表とデモフライトを紹介する。(田中亘)
前回の②までに6組の発表をお伝えした。
続く7組目の藤川秀行氏による「捜索・点検用 親子ドローン」は、2台のドローンを組み合わせた探索への取り組みだ。
飛行中の5インチArduCopter(親機)からFPVマイクロドローン(子機)が飛び出し、被災家屋やプラント内部などの狭所を飛行する。2台を連携させることで、小型ドローンのバッテリーを節約し飛行エリアを拡大する。
藤川氏は「高所、低所、被災地など、人が近づけない場所からの飛行を可能にする」と説明する。開発における今後の課題としては、親機から飛び立った子機の回収、子機から伝送される映像の高画質化、中継機器の搭載、子機のオートパイロットなどがある。
屋外でのデモンストレーションでは、親機のパラメータ設定のトラブルなどで、残念ながら子機が離陸する様子は確認できなかったが、YouTubeには成功した動画が収められている。
8組目の松本威氏は、市販機での「ArduPlaneによるVTOL機製作」について発表した。
松本氏の製作したVTOL機は、市販機を改造したもの。狭い場所での離着陸と長距離飛行を両立させるVTOL機は、北海道で開催されている遭難者を探索するコンテストでの優勝を狙っている。松本氏は「市販のWingcopterのようなVTOL機は、約1千万円します。しかし、このArduPlaneによるVTOL機では、10万円で製作できます」とメリットを訴える。
直前のテスト飛行のさいにモーターが破損して煙を吹いてしまったことから、デモフライトは中止されたが、コスト面での利点は参加者に強烈な印象を残した。
9組目の山田義久氏は「OpenCVによる自動追尾オムニローバー」を発表した。
同ローバーは、前後の駆動輪をギヤボックスで連動し、右側または左側のモータを制御することで、オムニローバーのような動きを実現する。
4つのタイヤで移動するローバーでは、主に2つの制御方法がある。ひとつは、後輪に駆動用のモーターを、前輪にステアリング用のモーターを取り付けて、ラジコンカーのように前後に移動中にステアリングを操作して左右に方向を変える方法。もうひとつは、左右のタイヤに独立したモーターを取り付けて、移動と回転を同時に行うスキッドステアリングという技術。キャタピラで移動する重機などが、スキッドステアリングに近い。
山田氏はモーターコントローラのポート数の関係から、2つのモーターで4輪ローバーを制御するために、前後の車輪を連動させた。
MissionPlannerでプログラムされたコースを自動走行する計画をたてていたが、当日の会場では人工芝の摩擦抵抗が大きすぎて、オムニローバーは思うように前進できなかった。そこで、山田氏は、本体を手に持って、スキッドステアリングの動きに合わせて走り回り、コーナーでタイヤの回転が変化する様子を体現してみせた。
10組目の我田友史氏は、「ドローンキットプログラムによる『同時自動・陸海空ドローン』を紹介した。
我田氏は、マルチコプターとローバーをドローンキットプログラムにより、2台同時に制御するデモンストレーションを開発した。開発には、Pythonというスクリプト言語を利用し、2つのタイプが異なるドローンを同じコマンドで制御できるようにした。
2台のドローンを同時に制御できるメリットとして我田氏は「例えば、捜索などを想定したときに、ドローンで上空から海の遭難者を発見し、その位置情報を元に水上ドローンが救助に向かうという複合案が考えられます」と話す。その他にも、マルチコプターと水上ドローンとローバーを組み合わせて、テトラポットや堤防などの入り組んだ地形を複合的に捜索するアイディアも紹介された。
デモンストレーションでは、最初にマルチコプターがオートパイロットで飛行して、着陸した位置のデータが送信されると、その位置を目指してローバーが自動制御で走る予定だった。しかし、用意していたローバーにトラブルが発生し、動かないという物理的な問題に突き当たった。
そこで、4組目に登壇した高山氏の「ArduRover 無人自動散水車両」がピンチヒッターとして登場。同じ制御システムでオートパイロットが可能「な「ArduRover 無人自動散水車両」は、期待に応えて代打の役割を果たし、マルチコプターが着陸した地点に正確に移動してみせた。
発表会の最後は、Randy Mackay塾長による2つのデモンストレーションが紹介された。ひとつめは、ローバーによる衝突回避システム。ローバーの前方に取り付けたカメラの映像をリアルタイムに解析して、障害物を検知してプログラムされたルートを自動で回避する。
デモンストレーションの会場では、次々と前方に立ちはだかる人物を検知して、停止か回避の行動をとっていた。
もうひとつのデモンストレーションは、T265センサーを使って、非GPS環境下で周辺の障害物などを認識しながら飛行することを想定した。塾長はT265が屋内環境で物質のエッジなどを捉えて認識するため、光量が強く目立った構造物のない屋外では、正確に周囲を認識できない恐れがあると分析。屋外で検証したところ、事前の分析通り、マルチコプターは安定した飛行を示さなかった。
デモンストレーションは仮説通りの動作を示したものや、仮設通りには動作しない要因を発見する機会になったものなど、多くの成果をあげた。塾長と塾生は、今後も日本のドローン産業や技術を盛り上げていくために、新たな研究や開発に取り組んでいく。
日本で実力をつけてきた「ドローンエンジニア養成塾成果発表」レポート①
日本で実力をつける「ドローンエンジニア養成塾成果発表」レポート②
日本で実力をつけていく「ドローンエンジニア養成塾成果発表」レポート③
軽井沢で開催された「ドローンエンジニア養成塾」の成果発表会&デモイベントの様子を、前回に続いてお届けする。発表会には1期から9期までの卒業生から選ばれた10組と、塾長のJapanDrones株式会社(本社:長野県)のRandy Mackay代表を合わせた11組が成果を披露した。各組は午前に屋内会場で発表を行い、午後に屋外でデモフライトに臨んだ。本稿では前半6組の発表内容とデモフライトを紹介する。(田中亘)
1組目の扇拓矢氏による発表は、「ArduPlane&Boatによる海洋ゴミ回収プロジェクト」。手作りの水上ドローンを使い、池や堀などに投棄された水面のゴミを回収する取り組みだ。
水上ドローンは、2つのスクリューで走行する。船体の方向転換は、左右スクリューの推力差(Skid Steering)で実現する。会場ではボディボードを切断して浮力にした本体が展示された。今回は、会場での水上ドローンのデモンストレーションは行われなかったが、発表会では実験の様子を動画で紹介した。
扇氏は、JAXAのイノベーションプロジェクトに応募したことを報告。「計画は、プレーンで上空から海上のゴミの場所を検索し、そのマップ情報をもとに、船やローバーで回収にかけつける、という内容です。採択されたらみなさん手伝ってください」と塾生に呼びかけていた。
続く川村剛氏は、「世界初Web版MissionPlannerを開発! &T265での愉しみ方!?」を発表した。
MissionPlannerは、ArduPilotで飛行するドローンなどをPCで制御するアプリケーション。川村氏は、そのアプリケーションをWeb版に移植した。Web版のMissionPlannerは、通信回線さえあればタブレットで利用できるメリットがある。
用意されている機能は、自動航行のミッションアイテムの一覧、通常のマップ上にオリジナルマップの重ね合わせ、機体のパラメータ確認などだ。また、ログの一覧を確認したり、任意のログをダウンロードしたりすることもできる。さらに、Intel RealSenseのトラッキングカメラT265ストリーミングに対応し、ドローンに搭載したカメラからの映像を単独の画面で確認できる。川村氏は、「今後はストリーミングと障害物検知の組み合わせに挑戦したいと考えています」と話す。
養成塾の調べでは、Web版のMissionPlannerは世界初という。
3組目に登壇した小宮光裕氏は、「パロット社DiscoのArduPilot化」を発表した。
1期卒業の小宮氏は、過去にもDJI製ドローンのフライトコントローラーをArduPilot化するなど、既製品の高性能化や、オリジナルVTOL機の作成にも取り組んできた。
今回のパロット社Discoは、デルタ翼のドローンで、7万円前後で購入できるホビー機。45分の連続飛行が可能で、機体の前方に装備されているカメラの映像をゴーグルで見ながら、鳥のような飛行体験が得られる。しかし、パロット社の提供しているフライトコントローラーは、コントローラーでの操作を基本にしたもので、飛行の自由度は低い。そこで、小宮氏はArduPilotのファームで運用できるように改造し、自由度の高い飛行制御を可能にした。
小宮氏によれば「自由度の低いフライトコントロールをAruduPilotにすることで、様々な機能を実行できるようになる」という。実は、パロット社では、自動航行などの高性能な飛行性能を備えたeBeeという産業向けのデルタ翼ドローンも販売している。eBeeの価格は、RTKモデルで約400万円。Discoとの価格差は大きい。小宮氏は「7万円のDiscoで、400万円のeBeeと同じ運用ができたらいいな」と考えて、ArduPilot化に取り組んだ。
午後のデモンストレーションでは、ArduPilot化されたDiscoのデモフライトが行われた。小宮氏の手から飛び立ったDiscoは、プログラムされた周回軌道を自動航行で飛行した。会場の広さに制約があったため着陸は小宮氏がコントローラーで行った。
参加者は、Discoの自動航行に感心するだけではなく、ドローンパイロットとしても超一流の小宮氏の操縦テクニックにも魅了されていた。
(ArduPilot化さ
4組目の高山誠一氏は、「ArduRover 無人自動散水車両」を発表した。
市販のトラック型ラジコンを改造し、荷台の上に水を入れたタッパーウェアを置いて、USB電源で動くモーターを組み合わせた給水システムを配管。走行時に穴を開けたビニール管から水が滴り落ちる構造だ。高山氏は「ベースはタミヤの1/24 RCヘビーダンプというラジコンカー。そこにPixhawk miniを搭載しました」と説明した。
開発において高山氏は「なかなか真っ直ぐに進まないので苦労しました。将来的には、広い面積を自動で散水できるようなローバーを設計したいので、みなさんに見てもらい、フィードバックをもらえたら」と話した。
デモンストレーションでは、会場の人工芝がArduRoverのタイヤにとって抵抗が大きく、思うように進まない場面もあった。それでもあらかじめプログラムされた経路を自動で散水する動きが確かめられ、今後の可能性の大きさを証明した。
中島幸一氏は「ドローン用自動充電装置」を発表した。ドローンを自動で充電する給電ステーションで、ドローンが着陸すると、センサーが感知して自動でドローン側に設けた電極に充電器を接続させる仕組みだ。
充電装置はすり鉢状の構造になっていて、IR-Lockによりドローンは正しい向きで着陸する。ドローンには専用の脚が取り付けられていて、着陸するとすり鉢の溝と脚が連動して、正確な位置に滑り落ちて固定される。着陸を感知すると、充電用の電極を備えた装置が開いて、ドローン側の電極に接続される。一連の動作は自動化されているので、ドローンの充電ポートとしての利用が期待できる。一方で中島氏は「ドローン側に電極を取り付ける位置が限定される点が課題」と説明した。
(すり鉢状の給電ステーションは左側の電極がドローンの着陸後に自動で開いて充電する)
6組目の野口克也氏は、「離島物資輸送、緊急物資搬送用ドローン」を紹介した。
野口氏は農薬散布用の大型ドローンを改修して、Ardupilotで運用できる物資輸送のプラットフォームドローンを開発した。その特徴は、自動で貨物を切り離せる構造を備えた長吊りシステムで、目的地への物資輸送を可能にする。切り離し装置は、機械式になっていて、フックに吊り下げられた荷物が地面に降ろされて負荷がなくなると、自動で開いて紐などをリリースする。
フライトコントローラーには、ADS-B搭載のPixhawk2.1 Cube Orangeを搭載し、オートパイロットも目指している。デモフライトは行われなかったが、会場では機体を披露しながら機能と活用場面などについて説明した。
次回は残る5組の発表内容を紹介する(続く)
JapanDrones株式会社(本社:長野県、代表:Randy Mackay氏)とドローンジャパン株式会社(本社:東京、代表:勝俣喜一朗)が協働で運営しているドローンエンジニア養成塾は2020年7月19日、同塾の塾生から選ばれた代表者による成果発表会&デモイベントを軽井沢で開催した。会場では養成塾の1~9期生から10組が集まり研究成果を発表し、屋外でデモンストレーションを披露した。日本で実力をつけてきたドローンエンジニアの研究の最前線である発表会とその成果が目の前で見られるデモンストレーションの様子をレポートする。(田中亘)
発表会の冒頭、ドローンジャパンの春原久徳取締役会長が登壇し、「ドローン業界におけるArduPilot」と題した挨拶を行った。
春原氏は、2014年にビジネスとしてドローンに関わってきた自身の歴史を振り返り、2015年にドローンコードで有名だった3D Roboticsのクリス・アンダーセン氏と知り合い、軽井沢に住むカナダ人のRandy Mackay氏を紹介された経緯を語った。Mackay氏の快諾により、2016年からドローンエンジニア養成塾はスタートした。春原氏は、塾の経緯を語ったあとに、ドローンエンジニア養成の中心となるArduPilot(アルデュパイロット)について説明した。
まず、春原氏はドローン関連のプログラムの種類について整理した。大きく3つに分けられ、それぞれ、ドローンの飛行そのものを司る「機体制御」、ドローンの航行を管理する「機体管理」、ドローンで集めたデータを処理する「情報処理」だ。
このうち、「機体制御」に不可欠な、オープンソースのフライトコントローラーがArduPilotだ。
ArduPilotは、ドローンに搭載されたPixhawkなどのオンボードコンピュータで動作するソフトウェア。Pixhawkのコネクタを介して、モーターの回転を制御したり、GPS機器からの位置情報などを処理したりする。また、各種センサーやコンパニオンコンピュータなどと連動して、より安全な機体制御や衝突回避を行う。
一方の「機体管理」では、Mission Plannerに代表される航行管理ソフトによって、ドローンの自律飛行を支援する。ドローン養成塾では、オープンソースで誰もが自由に利用できるArduPilotやMission Plannerの技術を教えることで、日本のドローン技術者の育成やスキルの底上げに貢献してきた。春原氏は「ArduPilotの魅力は、ソースコードがオープンなので、技術者がテクノロジを理解しつつ、自由にドローンソフトウェアが開発できる点にあり、技術者のワクワク感を喚起します」と話した。
その成果を塾生同士で実感してもらうために、1~9期の卒業生の中から10組とRandy氏が発表会に参加した。
発表者と内容は以下の一覧の通りだ。
続いて、ArduPilotの技術概要と最新動向を伝えるために、塾長のRandy Mackay氏が登壇した。
Mackay氏は、ArduPilotの利活用を促進する最新デバイスとして、高性能なフライトコントローラーの最新機器を紹介した。その特長について Mackay氏は「最新のフライトコントローラーは、メモリとCPUが、5倍から10倍に進化しています。そのおかげで、開発言語のC++だけではなく、Lua Scriptが使えるようになりました」と説明した。Lua Scriptは、汎用スクリプト言語で、Perl、Python、Rubyと比較して高速に動作する。
Mackay氏が紹介したフライトコントローラーの多くは、CPUにSTM H7を採用し、衝突回避や非GPS下でのナビゲーションを可能にしている。加えて、ADSBによる有人飛行機の確認や、高信頼のIMUによる自律飛行のサポートなどが特徴だ。
次にMackay氏は、GSFというソフトウェアを紹介した。GSFは、複数のコンパスから得られた情報を判断して、正しい方向を見出す技術。単一のコンパスで飛行しているドローンは、地面に金属が置かれていたり、強い磁力が発生したりすると、方向を見失う危険がある。それに対して、GSFを利用すると、複数のコンパスから収集される情報を判断して、正しい方向を計算する。その様子を紹介した動画が映し出された。
さらに、飛行の安定性に貢献する最新デバイスとして、UBlox F9 RTK L1/L2 GPSが紹介された。
従来のGPS機器では、3m前後の測位ミスが起きてることがある。しかしこのUBloxF9 RTK L1/L2 GPSでは、GPSだけで75cm以下の精度があり、RTKを組み合わせると10cm以下の精度が得られる。特筆すべきは価格で、3万円から購入することが可能だ。それまで40万円以上が相場だった高精度GPSが、各段と安価で手に入れられるようになった。
最後にMackay氏は、インテル製の3Dカメラを紹介した。
そのひとつ、Intel D435 Depth Cameraは、深度計測が可能なカメラで、もうひとつのIntel T265 3D Cameraは物体の距離や位置を3次元に計測できるカメラだ。これらのカメラを活用することで、非GPS下でも飛行ナビゲーションや衝突回避が可能になる。実際に海外のエンジニアがD435カメラを搭載して屋内で衝突を回避する様子が動画で紹介された。
成果発表会はRandy Mackay氏の講義に続き、参加10組のプレゼンテーションに移った。それぞれがこれまでに力を入れてきた研究成果を披露した。
その様子は次回にお届けする。(続く)