• 2025.11.20

    「国産化」の議論、再び活発化も 「自衛隊ドローンの国産化率は3割」

    account_circle村山 繁

    海外勢のシェアが高いドローンについて、国産化の議論が再び活発化するかもしれない。防衛省は11月18日の衆院安全保障委員会で、自衛隊が保有するドローンの国産化率が9月末時点で約3割だと明らかにした。日本維新の会の阿部司氏の質問に答えた。小泉進次郎防衛相は「日本が自前で国産ドローンをどこまで強化できるかは大事なところでしっかり防衛省としても取り組む」などと述べた。国産とは何か、国内で確立すべき技術は何か。

    ウクライナは96%が国産

    ドローンの国産化率として示された「3割」という数字は、大量のドローンを戦場に投入しているウクライナとは大きな開きがある。ウクライナのデニス・シュミハル首相はほぼ1年前の2024年12月、地元メディアのインタビューに対し「ドローン分野では国内生産が96%以上を占める」と述べている。

    「3割」の数字が飛び出したのは、衆院安全保障委員会での政府答弁だった。質問した日本維新の会の阿部司氏は、防衛装備品として使用するドローンが他国の技術に過度に依存すれば、有事での継続的な運用やサイバーセキュリティーの上で大きなリスクを抱えることを指摘した。これに対し小泉進次郎防衛相が「日本が自前で国産ドローンをどこまで強化できるかは大事なところだ。しっかり防衛省としても取り組んでいく」と応じた。

    防衛省は実際、ドローンを防衛力強化の柱のひとつとして位置付けていて、無人航空機(UAV)、無人水上艇(USV)、無人潜水艇(UUV)、無人地上車両(UGV)など「無人アセット防衛能力」に予算を重点配分する方針を掲げている。

    国産とは何か

    一方委員会では「国産」の意味や定義には言及していない。
    一般に工業製品については、産地を表示する食品などとは異なり「国産」に明確なルールがない。衣類などで、生地が外国製で縫製が日本国内の場合に「日本製」と表示できるのは、景品表示法で「実質的な変更」が加えられた国を「原産国」として表示することになっているためだ。「実質的な変更」は製品の特性や機能を決定づける重要な工程のことをさす。このルールは消費者保護の観点から設けられた。

    一方、数多くの部品を組み合わせてできあがる製品については公的なルールはない。このため海外製の部品を使って日本で組み立てた製品も「日本製」と言える反面、ユーザーが持つ日本製のイメージと乖離していて、「あれは日本製とは言わない」などと論争になることがしばしばおこる。

    民間企業は「日本製」と打ち出すことが競争上優位であれば、最終組み立てが日本国内で行われれば「国産」と打ち出す傾向がある。中には部品、モジュールなどできるだけ日本製でそろえ、より国産色を極める努力を重ねる企業もある。一方で、素材、部品、組み立てすべてを日本で完結することは難しい現実もある。現行の装備にも海外製の基幹部品やソフトウェアが組み込まれていることもあり「完成品としては国産でも、中身は国外技術に依存する」構造は残る。

    国産化を阻む要因

    日本でドローンの国産化率が伸びない背景には、複数の構造的な要因がある。

    最大の要因は、ドローンの心臓部に相当するフライトコントローラや通信方式などで海外メーカーが圧倒的な優位を持っている点があげられる。自衛隊が採用する多くの機体も国際市場で実績のある海外製コンポーネントを取り込み、性能要求を満たしていることが多いとみられる。

    また、国内企業が国防向けに投資を判断するには、量産規模の小ささや調達サイクルの長さが障壁になりやすい。さらに、暗号・認証といった安全性の基準を満たすには、ハードウェア開発にとどまらない継続的なソフトウェア対応が必要になる。実質的に海外技術への依存度が高止まりしている背景には、これらの条件が重なりあっている事情もある。

    国内で確立しておくべき中核技術

    安全保障上「国内で確立すべき」分野を考えるといくつか思い当たる。

    まず、GNSS妨害や通信妨害を検知し、回避行動を取るアルゴリズムを備えたフライトコントローラが挙げられる。自衛隊が運用するエリアはたいてい電波環境が厳しく、国外依存では対応が制限される懸念がある。

    次に指摘できるのは、暗号化・署名・鍵管理といったセキュア通信基盤だ。操縦信号や機体側ログを防護する仕組みが国外由来の場合、海外企業の設計思想や法制度の影響を受ける可能性があり、国防運用としての透明性を確保しにくい。

    さらに、飛行ログ解析や操縦AIなどソフトウェアの高度化がある。軍事運用のノウハウと直結するため、海外製をそのまま使うことには機能面でも情報面でも限界がある。これら中核領域の技術を国内で整備できれば、装備の自律性、運用上の独自性が高まると期待が寄せられている。

    政府が取るべき手立て

    こうした技術を国内で確立させるためには、政府による開発領域の明確化と調達計画の共有が重要だと考えられる。
    理由は民間企業が軍用市場に参入する際、最大の障壁になるのは「投資の回収可能性」だからだ。量産規模が小さい場合でも事業が成立するよう研究開発支援や共同開発の枠組みを整備すれば企業の参入ハードルが下がる。また、防衛省が採用する安全基準や暗号仕様を国内仕様として確立し、民生向け開発とも連動させることができれば、技術の汎用性を高められる。

    国防向け開発は市場規模が限られるが、要求性能が高いため民生技術へのフィードバックが大きい。飛行制御、セキュリティ、電波処理などの分野で高い技術が日本国内で育てば、物流・点検・災害対応やそのほかの民生分野の競争力向上につながり、結果として国内経済に波及効果をもたらす展望もある。
    「国産化率3割」をきっかけに、国産とは何か、取り組むべきことは何か、といった議論が活性化することを期待したい。

    国会議事堂(衆議院公式サイトから)

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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