ドローンのエンジニアを育成する事業を手掛けるドローン・ジャパン株式会社(東京)とソフトウェア開発のJapanDrones株式会社(長野県)は5月11日、ドローンなど自律移動機を独自に開発する事業者を対象に、開発支援と実証支援サービスを提供する新会社、アルデュエックス・ジャパン株式会社(東京)を合弁で設立すると発表した。発表当日に設立する。ドローンの動きを支えるソフトウェア、アルデュパイロット(ArduPilot)を使った独自開発の増加に伴い拡大している支援要請に答える。アルデュパイロットに精通したエンジニアチームが支援にあたり、アルデュパイロットのエンジニアとして世界的に知られるランディ・マッケイ氏が監修を担う。アルデュエックスの勝俣喜一朗社長(COO)は「日本で開発したドローンが世界に羽ばたくよう支援したい」と話している。
アルデュエックス・ジャパンは、ドローン・ジャパンとJapanDronesが50%ずつ出資する。ドローン・ジャパンの春原久徳会長が新会社CEO取締役会長に、JapanDronesのランディ・マッケイ社長がCTO取締役最高技術責任者に、ドローン・ジャパンの勝俣喜一朗代表取締役がCOO代表取締役社長にそれぞれ就任する。
提供するサービスは、自律移動機の動きを制御するためのソフトウェア、アルデュパイロットを活用した開発支援と実証支援に絞る。事業者のかわりに開発を請け負う代行サービスはしない。サービスの提供によって、事業者が開発を手掛けるドローンなどの機体が、事業者の思うような動を実現するように助言、提案、補助開発などを実施する。自律移動機は、高齢化や人手不足を背景に作業現場を中心に導入が広がっており、独自開発に乗り出す事業者が急増している。サービスはこうした事業者の要請に答える。
サービスでは最初に、アルデュパイロットの基礎を学ぶ勉強会を実施、事業者の要望、原稿、課題と対応法などを明確化するコンサルティングを実施、その後開発支援、実証支援を実施する。開発支援、実証支援にはアルデュパイロットに詳しく実績も豊富なエンジニアがあたる。サービス開始時点で7人のエンジニアでチームを編成する方針で、事業主の開発方針に応じて、その領域に強いエンジニアが担当する。全体についてランディ・マッケイCTOが監修する。
アルデュエックス・ジャパンが提供する開発支援、実証支援は以下の通り。
■自己位置推定
自律移動プロセスにとって始点となる自己位置推定(EKF:Extended Kalman Filter<拡張カルマンフィルタ>)の機体制御の適正化
■衝突回避
各機体や環境、目的に応じた衝突回避の実装
■非GPS環境での制御
各機体や環境、目的に応じたGPS・GNSSを利用しない機体制御の実装
■陸上走行・水上航行の安定的なナビゲーション
陸上型・水上型自律型移動ロボットに特化した安定性や精度を高める機体制御
■機体セキュリティ対策
乗っ取りなどの機体制御に関わる機体・送信機のセキュリティ実装
■冗長化対策
フライトコントローラー・電波・電源などの冗長化実装
■機体安定化のための機体チューニング支援
各機体の挙動安定のための各種パラメータの設定およびチューニング支援
アルデュパイロットは、プログラムが公開されているオープンソースのソフトウェアで、誰でも無料で開発に参加できる。多くの開発者が参加しているため不具合の修正や刷新に素早く対応するほか、不適切な改変が行われないなどの特徴を持つ。機体に搭載されたGPS、加速度、気圧、ジャイロ、磁気方位、超音波など機体に搭載されたセンサーが測定した情報を受け取り、機体の動きを左右するモーターの回転数を自動で加減するフライトコントローラーなどに広く用いられる。柔軟性も特徴で、回転翼を備えたマルチコプター型のドローンのほか、固定翼機や航空機、地面を移動するローバー(UGV)、水の中を潜って移動する水中ドローンなど、自律移動型のロボットの制御として広く疲れている。
ドローン・ジャパンとJapanDronesは、2016年5月からこれまで5年間、ドローンエンジニアを育成する「ドローンエンジニア養成塾」を開催しており、これまでに350人を輩出している。
アルデュエックス・ジャパンの社長に就任する勝俣喜一朗氏は「日本国内での開発需要が高まるにつれて、フライトコントローラーなどソフトウェアについての相談を多く受けるようになっています。今回、そうした相談に開発と実証支援のサービスを提供することでこたえて参りたいと思っています。事業者の開発意欲を尊重し、支援をすることで日本のドローンや自律移動型ロボットが世界に羽ばたいていく手助けとなればいいと思っています」と話している。
オープンソースのフライトコントローラーで日本のドローン産業を支える人材を育成しているドローンエンジニア養成塾。発表会レポートの最終回は、前回の6組に続き、塾長を務めるJapanDrones株式会社(長野県)のRandy Mackay代表のプレゼンテーションを含めた5組の発表とデモフライトを紹介する。(田中亘)
前回の②までに6組の発表をお伝えした。
続く7組目の藤川秀行氏による「捜索・点検用 親子ドローン」は、2台のドローンを組み合わせた探索への取り組みだ。
飛行中の5インチArduCopter(親機)からFPVマイクロドローン(子機)が飛び出し、被災家屋やプラント内部などの狭所を飛行する。2台を連携させることで、小型ドローンのバッテリーを節約し飛行エリアを拡大する。
藤川氏は「高所、低所、被災地など、人が近づけない場所からの飛行を可能にする」と説明する。開発における今後の課題としては、親機から飛び立った子機の回収、子機から伝送される映像の高画質化、中継機器の搭載、子機のオートパイロットなどがある。
屋外でのデモンストレーションでは、親機のパラメータ設定のトラブルなどで、残念ながら子機が離陸する様子は確認できなかったが、YouTubeには成功した動画が収められている。
8組目の松本威氏は、市販機での「ArduPlaneによるVTOL機製作」について発表した。
松本氏の製作したVTOL機は、市販機を改造したもの。狭い場所での離着陸と長距離飛行を両立させるVTOL機は、北海道で開催されている遭難者を探索するコンテストでの優勝を狙っている。松本氏は「市販のWingcopterのようなVTOL機は、約1千万円します。しかし、このArduPlaneによるVTOL機では、10万円で製作できます」とメリットを訴える。
直前のテスト飛行のさいにモーターが破損して煙を吹いてしまったことから、デモフライトは中止されたが、コスト面での利点は参加者に強烈な印象を残した。
9組目の山田義久氏は「OpenCVによる自動追尾オムニローバー」を発表した。
同ローバーは、前後の駆動輪をギヤボックスで連動し、右側または左側のモータを制御することで、オムニローバーのような動きを実現する。
4つのタイヤで移動するローバーでは、主に2つの制御方法がある。ひとつは、後輪に駆動用のモーターを、前輪にステアリング用のモーターを取り付けて、ラジコンカーのように前後に移動中にステアリングを操作して左右に方向を変える方法。もうひとつは、左右のタイヤに独立したモーターを取り付けて、移動と回転を同時に行うスキッドステアリングという技術。キャタピラで移動する重機などが、スキッドステアリングに近い。
山田氏はモーターコントローラのポート数の関係から、2つのモーターで4輪ローバーを制御するために、前後の車輪を連動させた。
MissionPlannerでプログラムされたコースを自動走行する計画をたてていたが、当日の会場では人工芝の摩擦抵抗が大きすぎて、オムニローバーは思うように前進できなかった。そこで、山田氏は、本体を手に持って、スキッドステアリングの動きに合わせて走り回り、コーナーでタイヤの回転が変化する様子を体現してみせた。
10組目の我田友史氏は、「ドローンキットプログラムによる『同時自動・陸海空ドローン』を紹介した。
我田氏は、マルチコプターとローバーをドローンキットプログラムにより、2台同時に制御するデモンストレーションを開発した。開発には、Pythonというスクリプト言語を利用し、2つのタイプが異なるドローンを同じコマンドで制御できるようにした。
2台のドローンを同時に制御できるメリットとして我田氏は「例えば、捜索などを想定したときに、ドローンで上空から海の遭難者を発見し、その位置情報を元に水上ドローンが救助に向かうという複合案が考えられます」と話す。その他にも、マルチコプターと水上ドローンとローバーを組み合わせて、テトラポットや堤防などの入り組んだ地形を複合的に捜索するアイディアも紹介された。
デモンストレーションでは、最初にマルチコプターがオートパイロットで飛行して、着陸した位置のデータが送信されると、その位置を目指してローバーが自動制御で走る予定だった。しかし、用意していたローバーにトラブルが発生し、動かないという物理的な問題に突き当たった。
そこで、4組目に登壇した高山氏の「ArduRover 無人自動散水車両」がピンチヒッターとして登場。同じ制御システムでオートパイロットが可能「な「ArduRover 無人自動散水車両」は、期待に応えて代打の役割を果たし、マルチコプターが着陸した地点に正確に移動してみせた。
発表会の最後は、Randy Mackay塾長による2つのデモンストレーションが紹介された。ひとつめは、ローバーによる衝突回避システム。ローバーの前方に取り付けたカメラの映像をリアルタイムに解析して、障害物を検知してプログラムされたルートを自動で回避する。
デモンストレーションの会場では、次々と前方に立ちはだかる人物を検知して、停止か回避の行動をとっていた。
もうひとつのデモンストレーションは、T265センサーを使って、非GPS環境下で周辺の障害物などを認識しながら飛行することを想定した。塾長はT265が屋内環境で物質のエッジなどを捉えて認識するため、光量が強く目立った構造物のない屋外では、正確に周囲を認識できない恐れがあると分析。屋外で検証したところ、事前の分析通り、マルチコプターは安定した飛行を示さなかった。
デモンストレーションは仮説通りの動作を示したものや、仮設通りには動作しない要因を発見する機会になったものなど、多くの成果をあげた。塾長と塾生は、今後も日本のドローン産業や技術を盛り上げていくために、新たな研究や開発に取り組んでいく。
日本で実力をつけてきた「ドローンエンジニア養成塾成果発表」レポート①
日本で実力をつける「ドローンエンジニア養成塾成果発表」レポート②
日本で実力をつけていく「ドローンエンジニア養成塾成果発表」レポート③