国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT=エヌアイシーティー)は4月11日、ドローン同士が直接通信するシステムを開発したと発表した。NICTはこのシシテムをドローンの飛行に応用する実証実験を実施し、先導するドローンに3機のドローンが一定の間隔を保つ追従飛行や編隊飛行、同一の空域で飛行する4機のドローンの自律接近回避に成功した。地上の操縦者やネットワークを経由せずに、ドローン同士の直接通信システムを使った群制御飛行や自律接近回避は世界初という。物流、災害対応など複数機の同時目視外飛行を実装するさいに活用が期待される。
NICTが開発したのは、ドローン同士が相互ブロードキャスト通信を行いGNSSで得られた位置情報を共有する「機体間通信システム」。このシステムをドローンに搭載し、各ドローン上で飛行制御装置に接続したうえで、追従飛行や自律的接近回避の飛行制御アルゴリズムを組み込んだ。
NICTの発表は以下の通り。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT=エヌアイシーティー、 理事長:徳田英幸)は、ドローン同士がそれぞれの位置情報などを地上の操縦者やネットワークを経由せずに直接通信するシステムを開発しました。
このシステムを応用して、先導するドローンに3機のドローンが一定の間隔を保って追従し、編隊飛行させる群飛行技術、及び同一の空域に4機のドローンが飛行しても自律的に相互の接近を回避するシステムの実証実験に世界で初めて成功しました。
本技術により、特に目視外まで飛行させる場合にドローン運用の効率化や電波の有効利用、及び空の安全・安心につながり、複数のドローンの同時飛行による物流や広範囲の農薬散布、災害対策など様々な分野への応用が期待されます。
【ポイント】
■ ドローン同士が直接通信して互いの位置を知らせることで、自律して飛行することが可能なシステムを開発
■ 4機のドローンによる、自動追従群飛行と自律接近回避の実証に世界で初めて成功
■ 多数のドローンが飛び交う時代における運用の効率化と空の安全性の向上に貢献
今回の成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO、理事長:石塚博昭)が進める「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」の中の「遠隔からの機体識別および有人航空機との空域共有に関する研究開発」において実施しました。
【背景】
近年、農業・測量・警備・物流・災害調査・点検など幅広い分野でドローンを活用する動きが活発化しており、たくさんのドローンが空を飛び交う時代がすぐそこまで来ています。国の規制緩和も進んでおり、今年度中には、「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が毎年取りまとめている「空の産業革命に向けたロードマップ」におけるレベル4と言われる有人地帯上空での目視外飛行も可能になります。
【今回の成果】
本研究開発では、ドローン同士が特定小電力無線局である920 MHz帯の電波(出力20mW、上空利用可能、無線局免許不要)を使って相互にブロードキャスト通信を行いGNSSで得られた位置情報を共有する「機体間通信システム」を開発しました。これを各ドローン上で飛行制御装置に接続することにより、ドローン同士が相互に連携することを可能にしました。
このシステムに、「先導するドローンに対して他のドローンが自動で追従する群飛行(離着陸を含む。)」や「自律的な接近回避」のための飛行制御アルゴリズムを組み込むことで、それぞれ4機での群飛行及び接近回避の飛行試験に世界で初めて成功しました。図1左のオレンジ色の線は各ドローンの飛行軌跡を示しており、黄色の先導機に追従して赤色の3機のドローンが編隊を維持しながら飛行できています。また、図2左に示すように、4機が方向を変えて接近を回避した後、図2右に示すように、予定していた経路にそれぞれ復帰することを確認しました。
なお、本システムは、ドローン間だけでなく、ドローンと有人ヘリコプターの間でも利用でき、数kmの距離を隔ててヘリコプターが接近した場合に、ドローンが自律的な接近回避をすることが可能になることも実証しています。
【今後の展望】
これらの技術によって、今後混雑が予想される上空での効率的で安全・安心なドローンの活用が可能となり、物流、農業、点検、防災といった様々なシーンでの利用が期待されます。
また、今回の成果を基に、更に多くのドローンが同一の空域内を飛行する場合に対応した通信制御方式や飛行制御方式についての検討や、飛行する環境に応じた編隊の隊形にするなどの群飛行技術や通信技術の高度化を進め、本方式の実用化を目指していく予定です。
ドローンを活用した災害対応事業に取り組む株式会社テラ・ラボ(愛知県)が、ドローン開発の株式会社ACSL(東京)のコーポレートベンチャーキャピタル「ACSL1号有限責任事業組合」と、ドローンや関連技術専門のベンチャーファンド、DRONE FUNDのそれぞれから出資を受けたと発表した。ACSLも出資したことを発表した。災害対策に力を入れ、実績も持つテラ・ラボと、国産機の開発を加速させるACSLの組み合わせは、災害対策DXの促進やドローンの災害利用の普及促進に貢献することになりそうだ。
テラ・ラボは、防災、減災に注力し、南海トラフの危険性が指摘される愛知県に本社を置き、東日本大震災で被災した福島県南相馬市に長距離無人航空機の整備・製造や、データ解析の機能を持つ試験研究施設「TERRA LABO Fukushima」を構える。2021年7月に熱海で発生した伊豆山土砂災害ではいち早く現場に駆けつけて空から把握した被災状況を、地元や関係機関に提供した。
長距離無人航空機「TERRA Dolphin」の開発、広域災害対策情報支援プラットホーム「TERRA Cloud」の社会実装を進め、防災・減災の強化を目指している。
ACSLは2022年2月28日に公表した中期経営方針「ACSL Accelerate FY22」の中で事業戦略のひとつとして、事業を通じた社会課題の解決と持続可能な世界の実現を掲げていて、防災・災害領域で消防庁、自衛隊などと連携し災害時のドローンによる支援の無償化などに取り組んでいる。またDRONE FUNDからの出資は二度目になる。
出資を通じ、テラ・ラボが自治体と築いてきた広域災害対策情報支援プラットホームと、ACSLのの情報管理が強化された国産ドローンとの組み合わせが強固になり、災害対策のデジタル化が促進され、両社が目指す防災・減災が強化された社会に向けた取り組みが加速することが期待される。
■出資者からのコメント
・ACSL取締役CFO早川研介氏
「株式会社ACSLはドローンメーカーとして、ドローンを活用した社会課題の解決に向けた取り組みを進めており、その一つとして防災・災害分野における災害状況把握等に利用するドローンを提供してまいりました。テラ・ラボ社がこれまで様々な自治体と連携し作り上げてきた広域災害対策情報支援プラットフォームと、ACSLのドローンを組み合わせることで、災害対策DXがより発展し、テラ・ラボ社とACSLが目指す防災・減災が強化された社会が実現できるものと考えております。今後も自治体や警察・消防等へのドローンの供給を通して、 テラ・ラボ社との連携を深めてまいります」
・DRONE FUND代表 大前創希氏
「私どもDRONE FUNDは、2020年5月、株式会社テラ・ラボ社にVCとして初参画し、成長を加速していく支援を重ねてきました。その中で国内の数多くの災害発災時におけるテラ・ラボ社の活動内容から、ドローン技術の発災時運用の重要性を改めて強く認識し、今後の災害対策DXの発展を確信するに至りました。そのなかで、テラ・ラボ社が開発を進める長距離無人航空機は、 今後、 国土情報のデジタル化に欠かせない技術技術になり得ると考えており、引き続き、強く支援していく所存です」
株式会社センシンロボティクス(東京)は8月2日、災害や事故の発生時などに、同社のドローンの自動運用プラットフォーム「SENSYN Drone Hub」が有効に機能するかどうかを確認する実証実験を北海道更別村で6月に行ったと発表した。事故想定の実験では現場に差し向ける緊急車両の台数の判断などに役立つことを確認し、災害想定の実験では災害現場の速やかな3Dマップ作成で適切な避難誘導に有効であることが分かった。更別村の西山猛村長は「多様性のある活用ができることが分かりました」などとコメントしている。更別村は、スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定を目指しており、採択された場合にはSENSYN Drone Hubの導入が視野に入る。
実験は更別村で6月23、24日に、ドローンの自動離着陸、自動充電、取得データの自動転送を特徴とする「SENSYN Drone Hub」が、事故発生時、災害発生時などに、有効に機能するかどうかを確認するために行われた。「SENSYN Drone Hub」が想定通り機能すれば、作業員が現地に赴く必要がなくなるなど、効率的で安全な業務遂行が可能となるため、災害、建設、工場などの点検や監視の現場などでの活用が期待されている。今回は、更別村が取り組む災害などでの緊急時対応、農業分野での対応について実験した。
実験会場の更別村は、スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定を目指している自治体のひとつで、北海道からは唯一、提案書を提出した自治体だ。「100歳になってもワクワク働けてしまう奇跡の農村」を掲げた「SUPER VILLEGE」構想をまとめていて、この中に「ヒトモノコトの自動移動、IoTヘルスケア、世界No.1生体認証の実装」を盛り込んでいる。特に「ヒトモノコトの自動移動」はドローンや空飛ぶクルマの実装を想定している。5G基地局の整備を北海道で最初に進めるなどテクノロジーへの理解も深い。
事故の発生を想定した実験では、ドローンを現場に急行させ、現場の映像を取得。村役場、事故現場、東京に伝送し状況確認や適切な初動対応の判断に機能するかどうかを確認した。飛行にSENSYN Drone Hub、飛行制御にSENSYN COREを使い、ルート設計と自動航行にSENSYN CORE Pilot、映像伝送にSENSYN CORE Monitorの機能を使った。伝送された映像から、現場に倒れている人物の認識が可能で、地図上のドローンの位置を表示させたり、飛行予定ルートを確認したり、遠隔拠点からカメラを操作したりすることもできることが確認できた。とかち広域消防事務組合とかち広域消防局更別消防署署長が「災害が起きた際に周辺住民に緊急車両を何台用意するかを判断する、初動の戦略に用いることができる」と有効性を評価した。
また河川氾濫を想定した実験では、ドローンを被害状況の調査にどこまで活用できるかを確認した。具体的には搭載したカメラで撮影した土砂堆積物のデータから土砂の流出量を算出したほか、災害エリアの3Dマップを作成した。「SENSYN Drone Hub」はLTEネットワーク経由で、取得データをリアルタイムにクラウドサーバーにアップロードし解析するため、実験参加者は、データをフライトごとに取り出し、PCに取り込む作業から解放されることの意義を体感した。クラウドへの自動アップロードから解析レポート作成までをひとつの作業で済ませられ、3D化は「半日程度」で完了したという。これにより、災害発生時の避難行動の適切な呼びかけなどに貢献できる可能性が高まった。
なお、今回の実験ではLTE通信の空中使用では、総務省関東総合通信局に申請したうえで実施している。
このほか農作物の生育状況確認、鳥獣害駆除対策についても確認を実施。それぞれに「一次確認に有用である」ことが分かったという。
センシンは、「発災直後の身動きが取れない状況でもSENSYN Drone Hubがあれば、その間にもドローンが必要なデータを収集することが可能になります。今後も業務の効率化・高度化を進め、社会課題でもある人手不足の解消や作業者の安全確保に貢献できるソリューションを開発してまいります」と話している。
また、更別村の西山猛村長は、「更別村ではスーパーシティ構想の指定を目指しており、その一環として今回、『SENSYN Drone Hub』での実証試験を行い、災害などで人の立ち入りが困難な場所の確認や被害状況の把握や農作物の発育状況の確認など、多様性のある活用ができることが分かりました。人々の生活を豊かにしていく、災害に備え安心安全な暮らしを守る、被害を予想して対応策を組み立てるという点で有効であると考えています。更別村、ひいては十勝全体の農業の活性化や災害に対する備えなど、すばらしい村づくりに向けて尽力してまいります」とコメントしている。スーパーシティ構想に採択された際には、更別村はSENSYN Drone Hubの導入を視野に入れて検討する方針だ。
(※【DF】センシンロボティクスはDRONE FUNDの投資先企業です)
6
神戸市の市街地でアナウンスドローンが活躍している。神戸市は外出自粛要請を呼びかける啓蒙活動の一環として繁華街での上空からの呼びかけに取り組んでおり、ITインフラ事業を手掛ける日本コンピューターネット株式会社(NCN、大阪市北区)と拡声放送機器大手のTOA株式会社(神戸市)が、拡声器搭載のスピーカードローンを三宮の繁華街上空で飛行させた。
スピーカードローンが飛んだのは1月30日。JR、阪急、阪神三宮駅から徒歩10分の生田神社(神戸市中央区)境内にある生田神社会館の屋上を起点に、午後2時から20分間、午後4時から20分間の2回に分けて飛行した。ドローンは繁華街上空から、搭載したスピーカーを通じ、女性の声で「健康を守るための行動をお願いします」などと呼びかけた。呼びかけは地上でもはっきりと聞き取れた。
ドローンの運用を担当したNCNは技術で地域に貢献する理念を掲げ平成9年に創業したIT企業。沖貴博代表は「音声が地上で聞き取れるように改良を重ねてきました。かなり聞き取れるようになったと感じております。これからも防災や災害対応などにお役にたてる活用を進めて参ります」と話している。
神戸市が今回の緊急事態宣言に伴う呼びかけを実施したのは、1月20日に続き2度目。また前回、昨年4月7日から出された緊急事態宣言下のさいも、ドローンを活用して上空からの呼びかけに取り組んでいた。
(プレスリリースをそのままお届けします)石川県加賀市(市長:宮元陸)と株式会社Spectee(本社:東京都千代田区、代表取締役:村上建治郎、以下スペクティ)は、加賀市における、安全で快適な地域づくりを推進するため、AI等の技術を活かした防災・減災のためのシステムの提供と研究、そのための実証フィールドの提供などに関する連携協定を、2020年12月14日に締結しました。
加賀市は、市民の日常生活における様々な課題をAIやロボット、ビッグデータなどの先端技術を活用することにより解決し、安心・安全で便利な社会「スマートシティ加賀」を実現することを目指しており、その基盤整備として、MaaS(AI等により様々な交通手段の最適な組み合わせた新たな交通サービス)の推進や、ドローン(小型無人機)の自動運転のベースとなる市内の3D地図の整備などを推進しています。
スペクティは、AI等の技術を活用したデータ解析をもとに、防災技術の開発を進めており、ツイッターやインスタグラムなどSNS上の情報を解析し、災害・事故など緊急性の高い情報を、正確にかつリアルタイムに伝える『Spectee Pro』や、カメラの画像解析による道路の路面状態の自動判定システム、河川での水災害発生検知・予測システム、ドローンやAIによる自動音声技術を活用した避難誘導・避難情報提供システムの開発など、「AI x 防災」の様々なソリューションの開発及び提供を行っています。
今回、加賀市が整備してきたスマートシティの実現に向けた基盤を活用した防災・減災面での先進的な仕組みづくりや、SNS解析を通じた災害情報検知や災害時におけるドローンの活用の研究・実証などの面で、加賀市・スペクティ相互のデジタル基盤や新しい技術を活かして、防災・減災システムの研究、実証を行うことについて合意に至り、連携協定を締結することになりました。
■ 連携の骨子
(1) AIによるSNS解析に基づいた防災システムの活用と精度の向上
(2) AIを活用した防災・減災の新たな仕組みの構築
(3) ドローン、道路・河川のエッジAIを搭載したカメラの画像解析、IoTセンサーを活用したデータ解析等の先端技術を活用した防災・減災の新たな仕組みの構築
(4) 上記(1)から(3)までの取組みのための実証フィールドの利用
(5) その他上記に関連する事項に係る相互の協力
■ 株式会社Specteeについて
400社以上(2020年7月時点)の企業や多くの自治体で導入実績をもつ、AI防災・危機管理ソリューションの『Spectee Pro』を中心に、AI等の最先端の技術を活用したビッグデータ解析を通して、災害関連情報や企業のリスク情報などをいち早く検知・通知したり、被害の予測解析などの提供を行っています。「危機を可視化する」をスローガンに、すべての人が安全で豊かな生活を送れる社会の創造を目指しています。
『Spectee Pro』無料トライアル・資料ダウンロード >> https://spectee.co.jp
<会社概要> 会社名 : 株式会社 Spectee (スペクティ) 代表取締役 : 村上 建治郎 会社設立年 : 2011年 資本金 : 約7億円(資本準備金含む) 事業概要:AI等の最先端技術を活用した災害・危機管理情報サービス 本社所在地 :東京都千代田区五番町 12-3 ホームページ: https://spectee.co.jp
総務省消防庁は、全国の消防本部などの職員を対象に、ドローン運用の指導役を育成する「ドローン運用アドバイザー育成研修」を福島ロボットテストフィールド(RTF、南相馬市、浪江市)で開催した。アドバイザー育成研修は前年に続き2回目で、今回は、テレビ番組の撮影や調査向けの空撮のほか、消防本部向けの研修の実績もあるドローンのスペシャリスト集団、株式会社ヘキサメディア(埼玉県川口市)が指導を担当し、実践を重視した研修を実施した。研修には全国の消防職員が参加。研修は2日間の実技訓練を含めた4日間の日程で、修了者は「ドローン運用アドバイザー」として、各所属先で災害時にドローンを運用する際には、リーダーとしての役割が期待される。
研修参加者ドローンの運用経験を持つ消防職員で、消防庁の募集に応募した中から地域的な偏りが生じないよう考慮して決められた。研修カリキュラムは、消防の活動現場を想定して実戦に応用できるよう、消防庁とヘキサメディアが練り上げた。指導的立場となるアドバイザーの育成を目的としていることから、前年に開催された研修に参加し、すでに所属先でアドバイザーとして活躍している1期生の消防職員が、指導者として参加したことも特徴だ。
研修は初日に講義、2日目、3日目に実技が行われた。講義では、1期生が実際の災害現場でドローンを活用した際の映像を交えながら、運用上の留意事項を提示するとともに、土砂災害時の活用方法や、最新の映像伝送ツールが紹介されるなど、ドローンに関する幅広い内容が盛り込まれた。
実技では、3人ずつ5班に分け、5種類のカリキュラムを順番にこなした。5種類は「NIST/ATTI」、「自動航行」、「目視外高高度」、「捜索訓練」、「構造物飛行訓練」。それぞれについて1時間ずつ、各班ともすべてのカリキュラムをこなす。3日目は、2日目と同じカリキュラムを、運用の難易度を高めて、さらなる技能の向上を目指した。また、2、3日目の日没後には、全班合同で 夜間訓練も実施した。
実技はいずれもRTFの施設を有効活用した。
捜索訓練では住宅、ビルなどを再現した「市街地フィールド」と呼ばれるエリアで、要救助者にみたてたスタッフを上空から捜索する運用を実施。班の3人は指揮者、操縦者、補助者に役割を分担し、適切な飛行と、ドローンの飛行状況の確認と伝達、モニターから得られる被災現場の状況の確認と伝達を行った。また、1期生がこの訓練の指導にあたり、「現場では思っている以上に自分の役割に集中するもの。モニターに要救助者が確認できたのかどうかなど、お互いに声をかけあうことが重要」などの助言をしていた。
構造物飛行訓練には、6階建て高さ30メートルの試験用プラントが使われた。NISTの技能評価に使われる、底に円や文字が描かれた「バケツ」をあらかじめスタッフが設置。参加者はそのバケツをドローンで探し、描かれた文字を正確に読み取る。2日目と3日目では、バケツの設置する角度を変えてある。2日目では上空からバケツを探せば、文字が読み取れる角度に設置してあり、3日目はその角度を変更する。参加者は3日目には、2日目とは異なる飛行をしなければならなくなる。
ヘキサメディアの野口克也代表取締役は、「カリキュラムの検討は総務省消防庁と相談しながら進めました。検討時点では、いくつものカリキュラムを構想して、それを5つに凝縮、整理して提供したのが今回の研修です。火災現場の実践に活かせることと、指導法そのものを持ち帰っていただくという趣旨を重視しました」と語る。
参加した消防隊員の1人は「ドローンは普段から扱っていますが、災害現場を再現して訓練することは難しいうえ、災害現場で必要となる技能を体系的に修得できる機会はありません。今後ドローンは間違いなく必要な技能になるので、この機会に技能を身につけ、それを地元で生かしたいと思っています」と話した。
「ドローン運用アドバイザー育成研修」を企画した総務省消防庁消防・救急課の平田警防係長は、「参加者はある程度ドローンの操縦のスキルを持っています。今回はさらに一歩進んで、アドバイザーとして、研修で身につけた技術や、指導法を持ち帰って頂き、主導的な立場で所属する消防機関に還元してほしい。今回指導して頂いたヘキサメディアの指導法そのものも教材です。ヘキサメディアは、オーダーメイドで『消防がどう使うか』という視点に立って内容を練って頂いたので得るところは多いと思います。」と実践的な内容にこだわったことを強調。
また現場での生かし方について平田氏は、「たとえば、試験用プラントにバケツを設置して底の円や文字を読み取る訓練は、適切な場所にドローンを飛ばし、カメラの向きを調整してこそ可能になります。細かい技術ですが、これが災害の第1次的な情報収集に役立ちます。建物火災の現場では火災原因調査のために写真を撮り、客観的な情報を収集してどのように燃えたのかを判断します。ただ、付近の状況によっては最適な角度から撮影ができない現場があり、そういった場合にドローンで最適な角度から撮る技術が役立ちます」と解説した。
さらに今回の研修の意義について、平田氏は「災害現場で必要とされる技能を訓練できる環境はなかなかありません。ここまで環境を整えた中で訓練に集中できることは非常に有効だと思っています」と述べた。
総務省消防庁は11月、RTFを管理する福島県、一般公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と、災害対応でのドローンの利用促進に関する協定を締結しており、今後も研修のバージョンアップを重ね、ドローンの活用を担う消防職員の拡大と、知識・技能の習熟を図ることで、各地域における災害対応力の向上を目指す方針だ。