株式会社ACSLは2月21日、取締役会長の太田裕朗氏が退任する人事を内定した。3月 25 日開催の株主総会で正式に決定する。退任後は同社の顧問に就任する。
太田氏の取締役退任と顧問就任は、ACSLが同日発表した「役員の異動に関するお知らせ」の中で公表された。太田会長は2016年7月ACSLのCOOに就任し、2020年6月に代表取締役最高経営責任者(CEO)に就任した。21年6月に代表を退き、以降、取締役会長に就いている。
ACSLはこの間、2017年にVisual-SLAMで飛行する自律制御技術を開発して商用化したほか、2018年11月には日本郵便株式会社の郵便局間でのドローン輸送に機体を提供して話題を集めた。2018年12月には東京証券取引所マザーズに上場。ドローン専業のスタートアップとして国内で初めての上場企業となった。
この日公表された役員の異動には、鷲谷聡之代表取締役社長兼CООの再任を含む5人の名前が取締役内定者として連ねられている。新たに2021年5月から技術顧問を務める株式会社東芝出身の島津忠美氏が取締役に抜擢する。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月13日、情報漏洩や乗っ取りなどへの対策が講じられたドローンの技術基盤開発を目的とした委託事業、助成事業として開発している高セキュリティドローンの試作機を公表した。暗号化、相互認証などを施したうえ、セキュリティの性能は国際規格ISO15408に基づいて分析し評価する。ここまでの開発期間は実質8か月で、今秋に完成予定。2021年度中の市場投入を見込む。当面は、高い安全性を背景に、政府の調達に対応できる準備を整え、各省の入札への参加を目指す。
試作機はNEDOが2020、21年度で進めている「安全安心なドローン基盤技術開発事業」として進めている技術開発の一環だ。株式会社自律制御システム研究所(ACSL、東京)、ヤマハ発動機株式会社(静岡県)、株式会社NTTドコモ(東京)、株式会社ザクティ(大阪市)、株式会社先端力学シミュレーション研究所(ASTOM R&D、東京)の民間企業5社がコンソーシアムを組んでNEDOから委託、助成を受けた。
コンソーシアムリーダーを務めるACSL社長の鷲谷聡之氏は説明会で、試作機のセキュリティについて、ドローン、GCS、クラウドシステムとその間の通信にまたがる「一気通貫のセキュリティ」と説明。具体的には「すべてを明らかにするとセキュリティにならないので」と細部の言及を避けながら、「ドローン本体で撮った画像データや、それが送られる先となるコントローラー、GCS、クラウド、その間の通信でしっかりと暗号化なり相互認証なりを実施します。飛行データについても暗号化などをする概念で対応しています」と述べた。
セキュリティ性能の高さについては、通信機器のセキュリティ機能要件を定めた国際規格ISO15408に基づいて分析する手法を採用すると表明。これにより「事業の名称通り、安全安心を確保することにつながります」(鷲谷氏)と述べた。
試作機はNEDOの「安心安全」事業の「標準機」で、納品先が用途に応じて機能を追加したりアタッチメントを取り付けたりするカスタマイズが想定されている。そのため、開発は拡張性や使い勝手の高さなどを重視した。仕様も、老朽インフラ点検、自然災害災害対応、農業など公共部門で、情報漏洩の不安を抱えずに使える条件での使用に耐えることを念頭に置いて開発されいるため、政府調達を想定している。
具体的には、試作機は点検や災害の被災状況把握に使い勝手のよい小型空撮機で、製品化想定仕様としての重さは1.7㎏、飛行時間は30分、防塵・防水性能はIP43。カメラは4K動画の撮影が可能なスタンダードカメラのほか、人命救助などでの活用が期待される可視+IRコンボカメラや、植物の生育状況の把握に活用が期待されるマルチスペクトルカメラへの切り替えがワンタッチで可能な機構を備える。プロポ、GCSも使いやすさを追求し、ユーザーとなり得る省庁などのフィードバックを受けて開発を進めており、今後も直感性の高い仕様を目指す。
そのほかASTOM R&Dが開発した機体専用の静音プロペラや、Bluetooth5.0採用のリモートID、高密度バッテリー、3方向の障害物検知なども備える。ドコモとACSLがタッグを組んで開発した独自フライトコントローラーは、APIを公開、仕様部品のインターフェイスも公開することにしており、カスタマイズが可能だ。
事業はNEDOによる委託、助成事業。委託事業として開発した知的財産は国に帰属、助成事業は実施者に帰属する。期間は2020、2021年度で、予算は16億800万円。ただし、実際に開発に着手したのは2020年5月で、説明会開催の2021年4月13日まで、実質8か月でここまでの開発を進めた。
ここまでの開発状況の評価について、企画を立案した経済産業省製造産業局産業機械課次世代空モビリティ政策室長の川上悟史氏は、「昨年5月から1年も経ずない期間の間に、ACSLの鷲谷さんが文字通り奔走し、短間で、品質も申し分ないものが出てきたという感想です」と評価した。それを受けたコンソーシアムリーダーの鷲谷氏も「まだ開発途中ですが、ここまでは100点満点で120点だと思っています。緊急事態宣言中の5月に事業を開始し、全国各地にある5社がリモートワークを駆使して、実際のモノづくりを行ってきました。そのうえで難易度の高いお題をクリアしてきたと思っています。一方で、開発はまだ途中です。事業終了後の品質に持っていくこと、量産体制にもっていくことにはまだ高い壁が残っていると思っています」と自己評価をしたうえで手綱を引き締めた。
NEDOロボット・AI部統括主幹、金谷明倫氏は「NEDOにはもうひとつのドローン事業であるDRESSプロジェクト(「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」)があり、これと組み合わせることでシナジーが得られると考えています」と手ごたえを表明した。
公開された試作機が標準機として完成したあとは、市場に投入されることになる。NEDOの金谷統括主幹は「事業終了後に速やかに商品化を進めて頂き、2021年度中の市場投入を着実に実現して頂きたい」と市場投入を注文。「事業終了後に公開されるフライトコントローラーのAPI、部品のインターフェイスを活用頂くことで付加価値が高まる。高機能バッテリー、モーターによるカスタマイズや、このドローンが取得したデータを活用頂けることで、ビジネスのエコシステムが醸成されることを期待しています」と事業を拡大させる効果に期待した。
経産省の川上室長は「ACSL以外のドローンメーカーも、公開されたAPIを活用してドローンを開発して頂けることが、国のプロジェクトとして実施する意味だと思っています。機体も普及させ、技術も普及させたい」と述べた。
ドローンによる設備点検高度化を目指す電力会社のコンソーシアム、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合の神本斉士チーフエグエクティブオフィサーは「電力設備の高経年化、自然災害対策に取り組んでいるが、全国に43万期ある電力設備の点検の生産性を高めるには、複数の鉄塔を、一緒に、一度に、一気に見ることができないといけない。多種多様な形状があるので可能な限り近寄りたい。今回の機体はいろんな機能がついているので楽しみに思った次第です」と期待を表明した。
開発した5社は、事業終了後、政府調達に向けては年後半にもはじまる調達むけの入札に参加することを目指す。また、民間市場への販売にも力を入れる。コンソーシアム内での収益配分などは今後調整する。コンソーシアムリーダーの鷲谷氏は、「ACSLの立場としては、他のコンソーシアム参画企業と調整できれば、この機体をACSLブランドで発売したいと考えています。政府調達だけで投資回収ができるかといえばNO。ほかの民間企業、海外も含め、たとえばシンガポールやインドなど東南アジアを中心に積極的に販売したい」と表明した。
また、普及に必要な条件や要素について、経産省の川上室長は「価格」を指摘。「国が作ったものだから高いのではないかと見られていると聞いています。その予測を裏切りたいと思っています。政府機関だけでなく、民間にも多く使って頂きたい。機体も技術も普及することを通じ、ドローン市場の拡大につながることを期待しています」と述べた。
ACSLの鷲谷氏は、川上氏の「価格」という回答を受けて「台数が多く売れるほど部品などの調達コストの低減が図れるので、しっかりと製品の優位性を伝え、日本にも海外にも発信していきたいと考えています」と決意を表明した。
自律飛行ドローン開発を手掛ける株式会社自律制御システム研究所(ACSL、本社:千葉市美浜区) と、業務の完全自動化ソリューション開発を手掛ける株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区)は4月23日、業務提携を締結したと発表した。ハードウェア開発に強いACSLと、ソフトウェア開発に強いセンシンがそれぞれの専門性や知見を持ち寄り、産業向けのドローンソリューション構築や、社会実装に連携して取り組む。
提携により、利用者の求める課題解決のプロセスについてさらに広範な対応が可能になる。用途に適した機体やソフトウェアシステムを組み合わせたソリューションの構築から、効果検証、オペレーション導入、導入後のサポートまでの工程をシームレスに提供できる。すでにACSL の機体とセンシンの自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHT CORE』との接続を完了しており、屋内点検、物流の自動化、遠隔監視、遠隔管理の定期運用が可能だ。
センシンは、自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHT CORE』を中心に、ドローンなどのビジネス活用に必要な業務を自動化させるサービスを提供している。送電鉄塔やプラント施設、大型施設屋根などの点検、災害現場の被害状況把握など防災・減災対応、警備や監視に提供中だ。
ACSL は、業務の省人化や無人化に役立つ国産ドローンを開発している。画像処理AI のエッジコンピューティング技術を搭載した自律制御技術や、この技術を搭載したドローンを開発、提供しており、インフラ点検や郵便・物流、防災などで活用されている。1月には国産の小型産業用ドローン『Mini』を発表している。
昨年、四国電力伊方原子力発電所で行われた事故を想定した防災訓練では9機のドローンの編隊飛行を実現し、両者連携の有効性を実証した。こうした経験で得た知見を、発掘したエンドユーザーの課題解決に生かす。
ACSLの鷲谷聡之COOは今回の提携について、「センシンとACSLに共通するのは、プロダクトをプッシュするビジネスを展開していない点。何を欲しているのかを発掘し、その解決策を開発して提供している。今回の提携でさらに踏み込んだことができる。成果は来年、再来年と言わず、示していきたい」と意欲を見せた。
また北村卓也代表取締役も「お客様すら認識していない課題を見つけ、それを提示し、ハっとして頂いて、その課題の解決を実現させることがわれわれのビジネス。お客さまに伴走してBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、業務フローや設計の見直し)を実現させる。ソフトで解決できること、ハードで解決できること持ち寄って、ドローンの利活用が“幻滅期”を抜け出し、ドローン前提社会を実現させたい」と話している。
自律飛行ドローン開発を手掛ける株式会社自律制御システム研究所(本社:千葉市、ACSL)は1月23日、屋内外での運用に対応した自律飛行ドローン「Mini」の発売を発表した。同社主力機より大幅に軽量化、小型化し、無積載の場合は48分の継続飛行が可能なほか、通信、センシングなどに関わる主要技術、モジュールを日本開発、日本製でそろえた“日本品質”を前面に押し出した。価格は税、オプションを含めず80万円。同社の鷲谷聡之COOは「1年半前から会社をあげて全力で開発を進めてきた産業用途のドローン」と紹介した。またブルーイノベーション株式会社が提供する複数デバイスを連携して遠隔制御する「ブルー・アース・プラットフォーム(BEP)」とも連携し、ソリューションを提供する方針だ。
「Mini」は、プラント、倉庫といった屋内の点検、撮影、状況確認に適した機体の要望が高かったことから1年半ほど前から開発に着手した機体。広いスペースがとりにくい屋内空間を想定し、プロペラ回転域を含めた縦、横の寸法を70.4センチと、同社の主力機「PF-2」の117.3センチより4割の小型化を実現した。重量もバッテリー1本を搭載して3.15キロと、PF-2が飛行に必要なバッテリー2本搭載の7.7キロに比べて半分以下に軽量化させた。バッテリーも見直し、無積載であれば48分、カメラ、ジンバルを搭載しても最大33分と、トップクラスの継続飛行が可能だ。
またGPSの届かない屋内での利用を可能にするため、機体自身が飛行しながら自己位置を推定したり周辺地図を作製したりする技術、Visual SLAM(ステレオカメラ)を採用したほか、前方カメラと6つのセンサーで上下、左右、前後の障害物を検知し、衝突回避を徹底した。屋外でもGPSで自己位置の座標を取得して飛行できるため、1機で屋内外対応が可能な2役のドローンを目指した。屋外では秒速10メートルの風の中での飛行が可能で、IP43の防水防塵機能を備えていて「雨の中でも飛ばせる」という。
さらに工場、倉庫、研究室などの施設を抱える事業主は、点検、状況確認で取得したデータの取り扱いには繊細に注意を払うため、Miniの開発ではセキュリティ対応を特に重視。通信、画像解析などにかかわる部品や技術は、ACSLの自社開発を中心に、国内で開発した技術、日本製の部材、モジュールを採用した。フライトコントローラーも自社開発の「ACSL AP3」だ。
そうした「国産」、「安全」、「小型トップクラスのスペック」に加え、「使い勝手の良い機体設計」も特徴として説明した。
ジンバルを本体の上下に取り付け可能なうえ、プロペラもねじ止めではなく、押し込んでまわすだけのワンタッチで脱着できる機構を採用した。発表会ではACSLの六門(むかど)直哉事業開発本部長が、説明しながら脱着の様子を実演した。
Miniは産業用途のうち、送電線の点検、トンネルの壁の亀裂の有無確認、災害時の状況確認などセンシングの利用を主に想定している機体だ。それぞれの用途によって求められるセンサー、カメラなどが異なることを考慮し、多用なセンサーに対応できる用にしたことも開発のポイント。利用者が積載するセンサー、カメラの需要の範囲を考慮し、最適な小型化を両立したことが、Miniの特徴ともいえる。
この日の発表会にはブルーイノベーションの熊田貴之社長も登壇。同社が開発、展開している複数デバイスを遠隔制御する技術ブルー・アース・プラットフォーム(Blue Earth Platform、BEP)との連携について言及。「これまでもACSLと協業を模索してきた経緯がある。Miniを軸に、ソリューションの開発を検討する。春先には紹介できるようにしたい」と述べた。
鷲谷COOは「ドローンの可能性は無限大。『技術を通じて人をもっと大切なことへ』を掲げて開発している。これからもタフな要望やミッションに、日本品質にこだわってこたえていきたい」と話した。