ドローンを活用した災害対応事業を手掛ける株式会社テラ・ラボ(愛知県春日井市)は11月18日、福島県南相馬市の復興工業団地内に、新拠点TERRA LABO Fukushimaを竣工させた。新拠点は、福島ロボットテストフィールド(RTF)に隣接し、RTFの滑走路に直接のアクセスが可能だ。1万㎡超の敷地に建つ延べ床面積1320㎡の社屋は、製造格納庫、管制室、危機管理対策室を備える。この日行われた竣工式で松浦孝英代表は「地域の雇用創出や産業集積に貢献したい」とあいさつした。
新拠点TERRA LABO Fukushimaは800平方mの製造格納庫と管制室、危機管理対策室が整う、「世界でも類を見ない民間試験研究施設」(松浦代表)だ。事業としての正式名称は「長距離無人航空機の生産拡張に伴う製造・整備工場、及びデータ解析試験研究施設整備事業」で、整備に合計2億7千万円強が投じられた。
製造格納庫は工場としての機能を持ち、翌長4mの機体を40機格納できる。この日はアンテナ、発電機能を持つ中継、翼長8m機のモックアップなどが並べられた。管理室は送られたデータを解析する機能を備える。114パターンの映像レイアウトが可能。3次元データ解析システムを導入した。危機管理対策は解析したデータを踏まえ災害対策本部など外部と連携しながら迅速で適切な意思決定に導く。
現在はここを中心に、翼長4mの試験機で繰り返し飛行実験を進めている。松浦代表は「長距離高高度化が目標で、2万メートルの上空まで飛行の高さを引き上げて成層圏の近くまで情報を取りに行きたい」と話している。
この日の竣工式にはDRONE FUNDの大前創希共同代表パートナーら関係者、来賓などざっと200人が竣工祝に駆け付け、神事に参列し今後の発展を祈願した。竣工式では神事のあと関係者があいさつし、松浦代表の案内で施設の内覧会が行われた。
松浦代表はあいさつの中で「浜通り地域の課題はさまざまあります。この地域をイノベーションで活性化させたいし、南相馬というまちがロボットのまちであることを広く発信したい。そのためにも、地域の雇用創出や産業集積に貢献したい。この南相馬で、ベンチャーがメガベンチャーに変貌を遂げていきたいと思います」と力強くあいさつした。
南相馬市の門馬和夫市長は、「令和元年10月の台風19号の災害発生直後に、テラ・ラボ様はほかの機関とともに調査チームをつくり、画像情報収集で大変なご尽力を頂きました。そのおかげで復旧に役立てることができました。今回の竣工は、正確で迅速な情報把握、分析で防災、減災の実現に向けた大きな一歩と感じています。テラ・ラボ様がこの地で事業を拡大され、新工場を竣工されたことを大変喜ばしく、心強く思っています。これからも地元企業として、お手伝いをさせて頂きますので、末永いお付き合いをお願いします」と竣工を歓迎した。
竣工式終了後、松浦代表はドローントリビューンの取材に「防災はこれまで公共セクターが担ってきました。しかしこれからは民間のテクノロジーが重要になります。事業の整備には多くの補助金もつか和得て頂いていて、株式会社の役割そのものの見直しにもつながる可能性があると思っています。まずはここで事業を拡大させ、多くの人がこの工場で働き始め、ここに住みたいと思う人が増えればいいなと考えています」と話した。
施設概要 ◎事業名:長距離無人航空機の生産拡張に伴う製造、整備工場及びデータ解析試験研究施設整備事業 ◎所在地:福島県南相馬市原町区萱浜 南相馬市復興工業団地内 ◎敷地面積:10,754.18㎡(約3,259坪) ◎延床面積:1,320.00㎡(約400坪) ◎投資額:2億7700万円 ※自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金制度を活用
福島県は7月30日、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールド(RTF)で消防担当者向けに水中ドローン講習を行った。会津若松消防本部、須賀川消防本部、喜多方消防本部など福島県内の担当者らが知識と技能を身に着けた。講習は一般社団法人日本水中ドローン協会を運営する株式会社スペースワン(郡山市)が担った。参加した消防職員は所属先で身に着けた技能を活用する方策を探る方針だ。自治体が主導した水中ドローンの講習は珍しく、激甚災害が増える中でこうした講習需要が拡大する可能性がある。
講習は、水中ドローンの機体や運用に関する知識を身に着ける座学と、目的に応じた運用方法を学ぶ実技に分けて行われた。座学ではスペースワンのインストラクター、井東恭彦さんが講師を務め、水中ドローンの種類、歴史、ルール、用途、整備、今に水中ドローンにできること、できないこと、開発の状況などを体系的に整理して伝えた。
水中ドローンは空を飛ぶドローンと異なり、運用にかかわる法律は存在しないが、海上衝突予防法、河川法など運用場所に応じた法律があり、運用者はそれを確認、遵守しないといけないことが伝えられると、参加者はさっそくメモをとったり、配布された資料に線をひいたりした。
また参加者が消防職員であることから、運用現場を想定して、水面より上の空間で使えるGPSと、水中で機能するソナーを組み合わせて水中の対象物の位置を座標で推測する方法や、水中ドローンに備わっている機能をそのほかの通信技術と組み合わせることで、操縦者と他の地点とで映像を共有することが可能になる事例などが紹介された。
水中ドローンの動きについても実践を想定。「新しく開発された機種の多くは、機体の動きを6軸で制御できることをため、どの方向にも向けることができます。たとえば要救助者を確認するために機体を対象物に向けたまま維持することもできますし、海底の捜索をするため機体のカメラを真下に向けたまま移動をさせることもできます」と話すと、受講者が大きく首をたてにふるなど可能性を感じた場面も見られた。
さらに運用については原則3人体制であることを推奨していると説明。3人は操縦、補助、監視で、「補助者が非常に重要、ケーブルの出し入れ次第でトラブルの原因になりえます。ケーブルさばきが運用の巧拙が決まるといっても過言ではありません」とその理由が説明された。
また運用時に必要な準備も紹介した。そのうちのひとつがレジャーシートで井東さんが「機体は砂鉄をまきこんで錆びるとモーターがあっというまにダメになります。機体は砂浜におくとそれだけで砂鉄を巻き込みます。レジャーシートがあると、それを防げます。私も壊したことがあるので、利用をお勧めします」と体験談をまじえて分かりやすく説明した。
トラブル事例として、水槽の点検で、水槽内の突起物にケーブルがまきついてしまったことなどを紹介。具体例として映像で水中ドローンが航行中に海底の障害物にケーブルがからまったときの映像を投影した。映像では、別のドローンがアームを搭載して遭難ドローンに向かわせ、ひっかかっていたケーブルをとりはずして、救出に成功した。このほか養殖場で沈んだ魚を取り除く作業にも活躍する様子が紹介された。
また後半はRTFの屋内水槽試験棟に移動し、30m×12m×水深7mの大水槽で水中ドローンの操作を体験した。参加者は3班に分かれ、各班にスペースワンのインストラクターがつき、電源の入れ方、コントローラーの扱い方などのほか、空を飛ぶドローンと異なり、水中ドローンはケーブルにつながれた機体として操ることになるため、ケーブルの出し入れを管理する補助者が、操船の巧拙や、目的の遂行を大きく左右することなどの説明がされた。
ひととおりの扱い方を学んだあと、機体を進水。水槽の底に向かって沈ませる潜行をし、一定の深さに到達したらその姿勢を維持したままスライドするように横移動、その後右旋回をしたり、船の底を潜り込んで点検するように機首を水面にむけて仰がせたり、また、その姿勢を維持して移動をさせるなど、実践を想定した操作を体験した。その間、機体の深さを読み取るなど補助作業の重要性も体験した。
電波を通しにくい水中で、障害物や対象物を探り当てるときに役立つソナーの使い方も体験。ソナーの特性として、表面の固いものと柔らかいものとで反応が異なることを学んだ。
参加者の一人は「河川や湖沼などの水難事故で捜索などに役立つのではないかと感じた。所属先に戻ったあと活用法などを検討したい」と話した。スペースワンは「日本は海洋国家でもあり海を含む水中移動は災害対策、産業振興などに重要度が高まる見通しです。水中ドローンの普及や、運用できる人材の育成を通じて課題解決などに貢献していきたいと考えています」と話している。
国土交通省は4月1日付でドローンや空飛ぶクルマなどの事務を担う「次世代航空モビリティ企画室」を航空局安全部に設置すると発表した。活用ニーズを踏まえた安全基準の整備などの制度構築を推進する。大臣官房参事官の次世代航空モビリティ担当を新設し、22人の専従職員を配置する。安全基準の検討、登録制度の導入準備と運用、関連システムの整備と運用などを業務とする。
業務にあたり福島ロボットテストフィールド(RTF、福島県南相馬市、浪江町)や航空機技術審査センター(TCセンター、愛知県西春日井郡豊山町)との連携を図る。RTFには4月に職員を派遣し、飛行試験などでの規制面のサポートをし、技術開発の促進を支援する。TCセンターとは安全審査の円滑な遂行や、製造事業者などへの助言で連携する。
ドローンについては2022年度を目途にレベル4飛行実現に向けて、機体認証制度や操縦ライセンスの導入を柱とした航空法の改正案が閣議決定された。空飛ぶクルマも2023年の事業開始を目標とするロードマップが定められていて、実現のための取組が進んでいる。次世代航空モビリティ企画室」はこれらに向けて制度設計、運用などを担う。
ドローン関連技術の研究開発を手掛ける株式会社ロックガレッジ(茨城県古河市)は、ドローン、AI、MRを組み合わせ、災害時の捜索活動で迅速、確実な遭難者発見を支援する技術を開発し、1月8日、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドで実証実験を行った。実験では自動飛行したドローンが人影を検知すると、参加者が装着するウェアラブルディスプレイに人の形をした半透明の3Dオブジェクトの映像で浮かび上がる様子が披露され実験の見学者、参加者をうならせた。映像は複数のディスプレイに同時に投影することが可能で、複数の捜索隊員がディスプレイを装着すれば、見過ごしや伝言ミスなどの見逃しリスクの解消にも期待が高まる。
実験は、福島ロボットテストフィールドの市街地を再現した「市街地フィールド」で行われた。想定したのは、津波などで周囲に水があふれ、住民1人がビル屋上に避難し救助を待っている状況だ。ビルの外から屋上の避難者は確認できない。
実験開始後、ドローンがビルから離れた場所で離陸し自動飛行でビルに向かった。ドローンのカメラがとらえた映像はサーバーに送られAIで解析される。参加者とスタッフがウェアラブルディスプレイを装着しドローンを目視で追った。ドローンがビル上空にたどり着くとしばらくして、ドローンを見上げていた視界に、ドローンがとらえた画像と、人の形をしたオブジェクトが浮かび上がった。画像は枠で囲まれ、そこから延びる引き出し線が、ビルに伸び検知した場所を示した。また、表示には「倒れている」と検知した人の様子を文字でも表示した。情報は、ディスプレイ装着者全員が共有しており、隊員同士では「出ましたね」で通じる。視野を共有できれば捜索現場で「今、人影を検知しました」「あのビルのあそこです」など言葉で伝達する手間と誤解リスクを省ける。視野が共有できる安心感を体感できた。
試験は昼間に3フライト、日没後に2フライト行われた。日没後もドローンは自動飛行し、AIは人影を検知し、MRは検知結果を映像としてディスプレイに表示した。
ロックガレッジの岩倉大輔社長は今回の実験した技術について「コンセプトは“未来の捜索”です。未来の捜索では、捜索隊がウェアラブルデバイスを装着し、要救助者を肉眼で直接確認することができなくても、そこにいることを把握できるものと考えています」と説明した。
この技術が求められる背景について、岩倉氏は大規模自然災害では、足場が悪いなど捜索隊の現場入りが困難だったり、現場入りする捜索隊の安全を確保が難しくなったりすることがあることや、捜索を始めるとすぐに夜になり活動の中断を余儀なくされもどかしさを感じる声があること、ドローンが取得した情報を分かりやすく共有する必要があることなどを挙げ、「生存率が下がってしまう被災後72時間の壁があります。一人でも多く、一秒でも早く被災者を把握する手段としてこのシステムを提案しています」と説明した。
さらに、最近広がりを見せている捜索活動でのドローンの活用でも、「タブレットの映像を確認した人が、救難に向かわせる人や向かう人、責任者などに確認情報を伝える時点で情報のロスが発生する恐れがありますし、そもそも伝える手間も効率化できたほうがいい」と指摘する。
今回実験した技術について岩倉氏は「まだ発展途上」という。「近いうちにディスプレイが産業利用されたることが当たり前になり、それがレスキューにもつかわれると思っています。言葉による伝達をしなくても人間の視覚の拡張で、担当者全員が共有できるようになることが当たり前になっていくと思っています」と述べ、今後も研究を続ける。また、MR技術の現場利用についてトライアルや研究開発協力も募っていく方針だ。
株式会社ロックガレッジ:https://www.rockgarage.tech/
(以下、更新情報)
(更新情報1)株式会社ロックガレッジは1月12日、実験した技術開発を周知するプレスリリースを発表した。システムの名称は「3rd eyeドローンシステム」。プレスリリースはこちら。
(更新情報2)ソフトウェア開発などを手掛ける株式会社mofmof(東京都渋谷区)も1月12日、「3rd eyeドローンシステム」でMR技術開発に協力したことを発表した。株式会社mofmofのサイトはこちら。プレスリリースはこちら。
総務省消防庁は、全国の消防本部などの職員を対象に、ドローン運用の指導役を育成する「ドローン運用アドバイザー育成研修」を福島ロボットテストフィールド(RTF、南相馬市、浪江市)で開催した。アドバイザー育成研修は前年に続き2回目で、今回は、テレビ番組の撮影や調査向けの空撮のほか、消防本部向けの研修の実績もあるドローンのスペシャリスト集団、株式会社ヘキサメディア(埼玉県川口市)が指導を担当し、実践を重視した研修を実施した。研修には全国の消防職員が参加。研修は2日間の実技訓練を含めた4日間の日程で、修了者は「ドローン運用アドバイザー」として、各所属先で災害時にドローンを運用する際には、リーダーとしての役割が期待される。
研修参加者ドローンの運用経験を持つ消防職員で、消防庁の募集に応募した中から地域的な偏りが生じないよう考慮して決められた。研修カリキュラムは、消防の活動現場を想定して実戦に応用できるよう、消防庁とヘキサメディアが練り上げた。指導的立場となるアドバイザーの育成を目的としていることから、前年に開催された研修に参加し、すでに所属先でアドバイザーとして活躍している1期生の消防職員が、指導者として参加したことも特徴だ。
研修は初日に講義、2日目、3日目に実技が行われた。講義では、1期生が実際の災害現場でドローンを活用した際の映像を交えながら、運用上の留意事項を提示するとともに、土砂災害時の活用方法や、最新の映像伝送ツールが紹介されるなど、ドローンに関する幅広い内容が盛り込まれた。
実技では、3人ずつ5班に分け、5種類のカリキュラムを順番にこなした。5種類は「NIST/ATTI」、「自動航行」、「目視外高高度」、「捜索訓練」、「構造物飛行訓練」。それぞれについて1時間ずつ、各班ともすべてのカリキュラムをこなす。3日目は、2日目と同じカリキュラムを、運用の難易度を高めて、さらなる技能の向上を目指した。また、2、3日目の日没後には、全班合同で 夜間訓練も実施した。
実技はいずれもRTFの施設を有効活用した。
捜索訓練では住宅、ビルなどを再現した「市街地フィールド」と呼ばれるエリアで、要救助者にみたてたスタッフを上空から捜索する運用を実施。班の3人は指揮者、操縦者、補助者に役割を分担し、適切な飛行と、ドローンの飛行状況の確認と伝達、モニターから得られる被災現場の状況の確認と伝達を行った。また、1期生がこの訓練の指導にあたり、「現場では思っている以上に自分の役割に集中するもの。モニターに要救助者が確認できたのかどうかなど、お互いに声をかけあうことが重要」などの助言をしていた。
構造物飛行訓練には、6階建て高さ30メートルの試験用プラントが使われた。NISTの技能評価に使われる、底に円や文字が描かれた「バケツ」をあらかじめスタッフが設置。参加者はそのバケツをドローンで探し、描かれた文字を正確に読み取る。2日目と3日目では、バケツの設置する角度を変えてある。2日目では上空からバケツを探せば、文字が読み取れる角度に設置してあり、3日目はその角度を変更する。参加者は3日目には、2日目とは異なる飛行をしなければならなくなる。
ヘキサメディアの野口克也代表取締役は、「カリキュラムの検討は総務省消防庁と相談しながら進めました。検討時点では、いくつものカリキュラムを構想して、それを5つに凝縮、整理して提供したのが今回の研修です。火災現場の実践に活かせることと、指導法そのものを持ち帰っていただくという趣旨を重視しました」と語る。
参加した消防隊員の1人は「ドローンは普段から扱っていますが、災害現場を再現して訓練することは難しいうえ、災害現場で必要となる技能を体系的に修得できる機会はありません。今後ドローンは間違いなく必要な技能になるので、この機会に技能を身につけ、それを地元で生かしたいと思っています」と話した。
「ドローン運用アドバイザー育成研修」を企画した総務省消防庁消防・救急課の平田警防係長は、「参加者はある程度ドローンの操縦のスキルを持っています。今回はさらに一歩進んで、アドバイザーとして、研修で身につけた技術や、指導法を持ち帰って頂き、主導的な立場で所属する消防機関に還元してほしい。今回指導して頂いたヘキサメディアの指導法そのものも教材です。ヘキサメディアは、オーダーメイドで『消防がどう使うか』という視点に立って内容を練って頂いたので得るところは多いと思います。」と実践的な内容にこだわったことを強調。
また現場での生かし方について平田氏は、「たとえば、試験用プラントにバケツを設置して底の円や文字を読み取る訓練は、適切な場所にドローンを飛ばし、カメラの向きを調整してこそ可能になります。細かい技術ですが、これが災害の第1次的な情報収集に役立ちます。建物火災の現場では火災原因調査のために写真を撮り、客観的な情報を収集してどのように燃えたのかを判断します。ただ、付近の状況によっては最適な角度から撮影ができない現場があり、そういった場合にドローンで最適な角度から撮る技術が役立ちます」と解説した。
さらに今回の研修の意義について、平田氏は「災害現場で必要とされる技能を訓練できる環境はなかなかありません。ここまで環境を整えた中で訓練に集中できることは非常に有効だと思っています」と述べた。
総務省消防庁は11月、RTFを管理する福島県、一般公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と、災害対応でのドローンの利用促進に関する協定を締結しており、今後も研修のバージョンアップを重ね、ドローンの活用を担う消防職員の拡大と、知識・技能の習熟を図ることで、各地域における災害対応力の向上を目指す方針だ。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は石油化学プラント点検へのドローン活用技能を備えていることを証明する専門ライセンス「JUIDAプラント点検スペシャリスト」の提供を開始した。ライセンスは所定の講習を受け、講習内で行われる試験に合格すると授与される。第1回の講習は12月2日から行われ、3人が受講した。12月3日には、福島ロボットテストフィールド(RTF、福島県南相馬市)で行われた実技講習の様子が公開された。講習はブルーイノベーションが担当した。受講生は3人で、受講者はこのライセンスの初の所有者になる見込みだ。また今回の受講者は、講習の評価、手順の確認も担う。講習はこれらのフィードバックもふまえ、第2回以降に反映される。第2回以降は、広く受講者を募り、プラント点検へのドローンの担い手養成事業が本格化する。
提供が開始されたライセンス「JUIDAプラント点検スペシャリスト」は今後、本格運用に入る。12月下旬に第2回の講習を予定しており、以降、毎月開催される見込みだ。座学、実技のそれぞれが行われ、実技講習はRTFが会場となる。座学は動画が配信されるなどオンライン受講となる見込みだ。
12月3日に公開された実技講習は、RTFの設備のうち、「試験用プラント」「試験用トンネル」などを使って行われた。
「試験用プラント」は、径の異なる配管や模擬ボイラ、ポンプ、計器、表示機、模擬タンク、径の異なる煙突3本、垂直梯子などを備えた5階、高さ30メートルの模擬プラントで、内部にはSGP500A、300A、200A、100A、50Aの配管がはりめぐらされ、プラントで採用されているものと同じ計器、表示機が設置され、溶接部、サビなどが実物のように再現されている。
実技では、試験用プラントを外部、内部からそれぞれドローンを使って確認をすること想定した操作法や注意点を学ぶ。外からの確認では、DJIのMatrice210を使い、サビの有無、ネジのゆるみの確認、ひび割れの有無などを確認する作業を学んだ。そのさい2人1組で、1人が飛行、1人がカメラを操作するオペレータに役割を分担。カメラ担当者が確認したい個所をカメラでとらえるために、ドローンを最適な場所に動かすようパイロットに指示する。パイロットは指示に従って位置をカメラオペレータに確認しながら微妙に位置を調整する。適切な場所にたどりつくと、カメラオペレータがカメラの向きを調整、ズーム使用の適否を判断するなどして、該当箇所をモニターにうつしだされた画像で確認する。
実技講習の中で、煙突を上空から確認する作業を実施したさいには、煙突内にはれれた網に画像の焦点があたり、網の内部が見にくい状況が発生。講師が「マニュアルフォーカスに切り替えて、網の奥に焦点をあたるよう調整してください」などと伝授した。
試験用プラント内部では、Flyability社のELIOS2で点検する運用を学んだ。配管のひび、サビ、傷などの劣化の有無の確認や、計器の読み取り、フランジ、ネジなどの劣化、ゆるみなど不具合の有無の確認をする作業をELIOS2で実施する方法だ。ELIOS2は、機体がガードで覆われ、確認したい個所に接触させて撮影することもできる。受講生は確認したい場所に機体を接近させる運用について指導を受けた。また、プラント内部では操縦者が機体の位置を目視で確認できないことが一般的であるため、講習でもパイロットが後ろ向きになり、機体を見ずに手元の画面をみて操作するFPV操作に慣れる練習も行った。
講習ではこのほか、煙突内での点検や、試験用トンネルの出入り口をふさぎ、光のないところで点検作業などの講習を受けた。
講習は最大4人1組で、1か月に2組まで受け入れる見込み。第2回は12月22、23日に予定している。
「JUIDAプラント点検スペシャリスト」は、JUIDAが9月に創設を明らかにしていた石油化学プラントのドローンによる点検技能を証明するライセンスで、日本の基幹産業である素材産業の生産を支える生産設備の保守、点検に関わる品質確保、効率性向上、作業員の安全性確保などを目的につくられた。創設にあたっては、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と連携した。講習はブルーイノベーション株式会社が担うが、ブルーイノベーションだけが担うものではなく、要件をみたしていれば他の事業者も講習側になれる。発表時には別名称だったが、その当時から提供時の名称変更の可能性を示唆しており、今回、提供を開始するにあたり「JUIDAプラント点検スペシャリスト」に整理した。
講習内容は、JUIDAが公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構・福島ロボットテストフィールドから委託を受けてとりまとめた「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関する実務マニュアル」、 「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関するチェックリスト」 、「ドローンを用いたプラント点検事業者教育カリキュラム」が土台となっている。
背景には総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省で構成する「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」が3月27日に、カメラを搭載したドローンによる点検作業を「目視点検」の一部について代替ができるとガイドラインに明示した経緯があり、新ライセンスは3省の合意に基づいているといえる。
受講には、JUIDA小型無人機操縦技能証明証、安全運航管理者証明証を取得している必要がある。
石油化学設備の維持管理の方法は、高圧ガス保安法、消防法、労働安全衛生法、石油コンビナート等災害防止法の「保安4法」で管理されていているが、こうした動きを背景にr-ルの見直しがすすめられていて、高圧ガス保安法ではドローンを目視に代替することが可能となった。
「JUDAプラント点検ライセンス」は、RTFを実技講習の会場に指定している。RTFにとってライセンス授与の指定会場になるのは今回が初めてだ。
RTF技術部技術企画課の持田佳広課長は、「試験や訓練も含めて教育のために役立てて頂けることがありがたいと思っています」という。また、「試験用プラントは実際のプラントを模していて、有事、平時を想定した試験が可能です。経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するWorld Robot Summit(WRS)では競技会場にもなります。研究開発、性能評価など人に近いものを作るさいに使って頂けるとありがたい。地元福島復興と発展に役立ちたいと思っています」とRTFの担う役割を解説した。
また技術企画課担当の中村泰拓さんはRTFで利用希望の多い施設として滑走路をあげた。敷地内に500mの滑走路がある(ほかに13キロ離れた場所に400mの浪江滑走路がある)。「ドローンや空飛ぶクルマの研究開発などを目的とした利用とみられます。広いエリアを飛ばすことができますので、活用をご検討頂きたいと思います」と話し、ドローンや空飛ぶクルマの開発関係での利用拡大を呼び掛けた。