ドローン研究に力を入れている慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は12月5日、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構(福島県福島市)が開催した「『復興知』成果報告会」に登壇し、国の「復興知」事業に採択される前から福島県田村市で力を入れている一連のドローン事業の体系である「たむらモデル」を紹介した。南氏は「たむらモデル」を他の地域にも展開うる取組を進めており、報告会では「たむらモデルを福島県発の産業および地域社会のDX化手法として全国で展開したい」と述べた。
復興知は、福島・浜通り地域の復興支援に、知見や技術を動員する大学を支援する国の事業で、2018年度に20件、2019年度に28件、2020年度に23件が採択されている。事業が最終年度を迎え、これまでの取組の成果の報告会が企画された。報告会は、東日本大震災や原子力災害を伝承するため2020年9月に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町)で行われた。慶應義塾大学のほか、東京農業大学、郡山女子大学、福島大学、東京大学、東北大学(発表順)が報告を行った。
慶大・南氏の報告の演題は「ドローン人材育成から始まる地域産業の活性化。たむらモデルの高度化・普及事業」。田村市で構築してきた人材育成から産業化への循環について報告した。田村市産業部商工課の宗像隆企業立地係長も登壇し、南氏の報告の中で田村市の現状について紹介した。
報告の冒頭、南氏は、2016年12月に田村市と連携協定を結んだことや、それ以前の震災の東日本大震災の発災後に放射線の空間線量を測定するために福島県に関わってきた経緯などを説明。田村市で展開しているたむらモデルの特徴について、「第一に、長期的な視点にたって計画してきたこと、第二に、市役所が積極的にかかわったことがあげられます」と、長期視野で地元主導の取組であることを強調した。
田村市での取組について、南氏は「始まりは田村市も私どもも手弁当でした。つまり何の補助金もない状況でのスタートでした。 最初は私たちも田村のことを知りませんでしたし、田村の人たちもドローンを知らなかったと思います」と振り返った。
さらに「まず何をしたかと言うと人材育成です。人材育成がなぜ必要か。それは、産業を担う人を育成しないと産業が根付かないからです。また田村市としてドローンを業務に積極的に使っていただくことをお約束いただきました」と続けた。
ここで南氏は、田村市産業部商工課の宗像隆企業立地係長に登壇を促した。宗像係長は「連携協定を締結して今月で4年になりますが、4年前はドローンも今ほど身近ではなく、テレビで見たことがあるという程度の認識でした」と協定は市にとってもドローンについてゼロからのスタートだったと話した。
宗像係長は「連携協定を機にドローンの利活用を庁舎内で行いました。職員対象のドローンの体験会、職員による操縦士の講習などをしながら防災訓練でもドローンを活用しました。いまでは建設工事等での空撮や現場確認など、ドローンは無くてはならない身近なものになりました。市内の農家さんの協力を得て、ドローンを活用して農作物の生育状況を確認する実証事業も行って頂き、その連絡調整も市で行なっております。ドローンの普及と利活用のため企業、個人、行政がかかわるドローンコンソーシアムたむらという組織を平成30年3月24に設立しました。田村市は 阿武隈高地の中腹に位置する中山間地域です。大部分が緑豊かな自然が占めており、ドローンが活躍できる可能性が高いと考えております。地域の人々の生活の質の向上にドローンが寄与してくれるものと期待しております。市としても市民へのドローンの普及、利活用の推進に努めて参りたいと思います」と伝えた。
再び登壇した南氏は、ドローンコンソーシアムたむらの設立や、地元高校生による農薬散布機のライセンス取得などを通じた「みんなが支える農業」プロジェクトの推進などの取り組みを紹介。ドローンコンソーシアムたむらについては、会員向けの機会提供、情報提供が中心で、研究会では法制度、海外事例、地域の課題発見、解決などが行われていることを説明した。操縦技能についても、地域に必要な技能を受け継ぐ取り組みを目指すことなどが紹介された。
報告の中では、ドローンコンソーシアムたむらの佐原禅事務局長のコメントが動画で紹介された。佐原事務局長は「企業、個人含め50会員が加盟しています。目指すところはドローンの普及活動。若い方にドローンに触れて頂きたい。田村市は飛ばせる環境が整っておりますので、広大な敷地を利用して頂きたいと思っております。会員同士の情報共有、ビジネスチャンスにもつながればいいなと思っております」と、会員を募集していることも含めてPRした。
田村市での取組が復興地事業となったのは、2018年から。南氏は「手弁当で進めていたことが、その後ご支援を頂いて進めることができるようになりました。学生を20人ほどつれて田村市に入り、市内の魅力を映像として記録する活動をしたり、それを多言語に変換したりしました。また米国の機関の評価手法NISTを高校の部活動の中に取り入れました」などと紹介し「復興知として進めている取り組みの3つの柱は、ドローンを活用した人材育成事業、ドローンを活用した産業振興事業、ドローンによる地域課題の発見・解決事業」と整理した。
南氏は「慶應義塾大学は、知見や教育的リソース、技能を惜しみなく田村市に提供しており、ドローンコンソーシアムたむらは、共通基盤として様々な産業のインフラ」と役割を意義づけた。また、3本柱それぞれについて、34回の人材育成プログラムの提供(人材育成)、指導者向けノウハウの教材化(人材育成)、ホップ栽培におけるNDVI指標の撮影方法や、指標と生育の相関関係分析(産業振興)、ドローン担い手と農家による協業プログラム「みんなで支える農業のプログラムを導入」(産業振興)、ドローンをきっかけとする観光需要喚起プログラム「ドローンツーリズム」の試行(産業振興)、大学生によるフィールドワークと観光PR動画作成(課題発見・解決)、農林業者向け危険予測マップ作成(課題発見・解決)などの成果も報告した。今後、南相馬市との連携協定締結に向けた準備の中でも、これらの取り組みを進める方針だという。
また、今後の展望について、南氏は政府が2022年に実現を目指す「レベル4」と言われる目視外補助者なしの飛行形態に向けた田村市内の設備、制度の整備、地元人材による完全運用、スマート化技術・デジタル基盤による産業振興、地域担い手と役割分担微細化のマッチングによる課題解決を列挙。そして「一番言いたかったのはこれ」と伝えたのが、「福島県発の産業及び地域社会のDX 手法としてたむらモデルを全国で広く展開すること。今後もたむらモデルの発展と展開を目指します」と報告を結んだ。
このあと南氏は、東京大学先端科学技術センターの飯田誠特任准教授、東北大学未来科学技術共同研究センターの鈴木高広教授と3人でトークセッションに登壇。福島県企画調整部企画調整課の高橋洋平課長がコーディネーターとして「他組織と連携するうえで重要なことと、浜通りの発展につなげるための展望」を問いかけたのに対し、登壇した3人が各自の見解を披露した。
東大の飯田教授が「最初は僕らはよそ者だったんです。その意味では信頼関係とネットワークを作って意欲を持って取り組める環境作りが重要だったと思います。そしてそれを作るためには人、意欲、根気強さが重要かな、と思います。また、イノベーションコーストの各地に色がついてきましたが、この色を単色で終わらせるのではなくハーモニーにつなげるネットワークが必要ではないかと考えています」と発言。
南氏は「確かにわれわれはよそ者なんです。東京から来るとたいがい『補助金が後ろから出てくるんじゃないか』という目で見られます。その時に『そうではない』と見せるために、最初はノーガードで地元の方とお話をすることが大事。その後、カウンターパートがどなたになるのかが明らかになり、その方がどういうことをしてくれるかなどが明らかになって、しっかりとした体制を作れるようになります。もう一つは、手離れをよくすることが大事だと思います。その地域にいつまでも我々がいないと、取り組みが続かない、とならないよう、技術移管や、指導者養成など次のリーダーを作ることが大事だと思います」と述べた。
さらに、「これからの浜通りでの展開についてですが、先ほどのハーモニーというご意見とは少し違う観点で、オーケストレーションという言葉を使いたいと思っています。指揮者の立場の人が必要という意味です。、福島県はこうなるぞ、という強力なリーダーシップと、リーダーシップに基づいて作業をするファンクションを整える。他分野にまたがる共通言語を使える人間がドローンにはいます」と発言した。
東北大学の鈴木教授は「個別の取り組みに橋渡しをしてつなぎ、より大きなものにすることが大事だと思っています。どうやってその場所を光らせるかを考えることが重要」と指摘した。
参加者から、浜通りの未来につながるキーワードやビジョンは何か、と質問があがり、東大の飯田教授は「実現したい夢、実現する夢」、慶大・南氏は「リセット」、東北大鈴木教授は「逆転の発想」を挙げた。
慶応義塾大学を含め、参加した各大学の報告は以下の通り(報告順)。 東京農業大学 連携市町村:相馬市 事業名:浜通り地方の復興から地域創生への農林業支援プロジェクト 郡山女子大学 連携市町村:葛尾村 事業名:葛尾村におけるエゴマ産業の拡大と地域活性化 福島大学 連携市町村:南相馬市、川内村、飯館村、大熊町 事業名:福島発『復興知』の総合化による食と農の教育研究拠点の構築 東京大学 連携市町村:いわき市 事業名:CENTER for Wind Energy(Phase-Ⅲ) 慶應義塾大学 連携市町村:田村市 事業名:ドローン人材育成から始まる地域産業の活性化 ~たむらモデルの高度化・普及事業~ 東北大学 連携市町村:南相馬市、浪江町 事業名:モビリティ・イノベーション社会実装・産業創生国際拠点の構築
福島県、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構福島ロボットテストフィールド(RTF)、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は4月6日、合成樹脂や合成繊維など石油化学製品を生産する石油化学プラントの点検にドローンを活用するさいの、現場作業の要領をまとめた実務マニュアル、要点をまとめたチェックリスト、点検に従事する人材の育成に向けた教育カリキュラムを作成し公表した。
公表したのは「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関する実務マニュアル」、 「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関するチェックリスト」 、「ドローンを用いたプラント点検事業者教育カリキュラム」の3点。プラント点検でドローン利活用を加速させることが目的で、RTFが「福島ロボットテストフィールドを活用した無人航空機利活用事業者認定とパブリックセーフティのあり方に関する調査事業」をJUIDAに委託していた。
「実務マニュアル」は、点検のためにドローンを飛行させるさいに共通する全般的な留意点と、「屋外俯瞰飛行」「屋内外近接飛行」「屋内暗所飛行」「屋内外目視外飛行」のそれぞれの飛行を行う場合の留意点を整理した作業現場での手引き。ドローン導入促進を後押しするとともに、事業者認定の基準となることも見込まれている。「チェックリスト」は留意事項を一覧にまとめた表で、運用時にもれなく確認するさいの活用を想定した。「教育カリキュラム」は点検を安全に遂行するために必要な技能と知識の体系で、RTFを利用した実技訓練方法が盛り込まれている。
石油化学業界は、事故防止、品質の維持・工場、生産効率の維持・向上のため、設備の点検は業務上不可欠で、多くの設備は点検を関連法で定めている。一方で人手不足、高い技能を持つ経験者の引退など保安力の低下懸念が指摘されている。点検の保安力を維持するため、新技術の活用が期待されていて、ドローンで安全にプラント点検が行うようにするための基準や運用方法が求められている背景がある。
このため総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省で構成する「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」は3月27日、カメラを搭載したドローンによる点検作業の指針となる「ガイドライン」を改訂して「ver2」を公表。ドローンの適用範囲を屋内にも拡大し、ドローンの点検が目視点検の一部を代替できることを明示した。
一方で、現場の状況に応じて飛行方法を使い分ける必要があり、今回飛行方法ごとの留意事項を整理した。
マニュアルには策定にあたってRTFで実施した実験の概要もまとめてある。
RTFの紹介ページ、
JUIDAの紹介ページ
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は12月11日、実験環境が整う福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)で、ドローンによるプラント点検を想定した実験を実施した。実験結果は、3月に公表を予定している産業用ドローン運用ガイドラインに盛り込む。
実験は公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構からJUIDAが受託した事業で、ブルーイノベーション株式会社が運用するELIOS2を、同社のオペレーターが運用して行った。
実験にあたりJUIDAの鈴木信二理事長はこの実験について「ドローンの具体的な使用法を検討する実験」と位置付けるコメントをビデオメッセージで寄せた。また熊田知之事務局長も「RTFを有効に活用し、ドローンの発展につながるガイドラインをまとめたい」とあいさつし、作業を請け負ったブルーイノベーションの熊田貴之社長は「屋内で飛ばせるドローンの開発に力を入れてきたのでガイドライン作成に有効な成果をあげたい」と抱負を述べた。
実験は福島RTFの「プラント棟」と「試験用トンネル」で行われた。点検の作業員が肉眼で行うひびわれなどの損傷の有無やねじのゆるみなど不具合の有無を確認する作業について、実験チームがドローンで代行。得られた結果をガイドライン作成に反映させる。今回は、狭小空間での点検、近接点検、目視外飛行による点検をテーマにした。
「プラント棟」の1,2棟では、はりめぐらされた配管の損傷確認を、ドローンで実施。プラントの配管内に人が立ち入らないで作業することを想定し、操縦者は離れた場所から遠隔操作で、配管設備に進入し、手すりや配管の間を縫うように飛行。ねじの取り付け部分に接近して確認したり、あらかじめはりつけられたひびわれの大きさを確認するためのクラックスケールをカメラでとらえたりした。
同じプラント棟の5階にある試験用煙突では、作業中に途絶しがちな電波を電波増幅アイテムの設置で途絶回避の可能性を探った。試験用トンネルでは内部の照明を落とした中で、ドローンが飛行できるかどうかを確認。ドローンはクラックスケールの数字を読み取ったり、トンネル内の空気の対流を促すジェットファンの取り付け具合を確認したりした。なおジェットファンは通常、秒速30メートルの強風を送り出すが、試験用トンネルでは運用はしていない。また、トンネルでの作業ではあったが、有毒ガスの発生が見込まれる密閉空間の状況をドローンで確認することなども想定した。
実験後にはドローンが撮影した映像を確認。配管、煙突、トンネルなどでドローンが目的の映像を撮影していた。国土交通省道路局国道・技術課が平成31年3月にまとめた「橋梁定期点検要領」では、コンクリートのひびについて、0.2ミリ以上を「大」、0.1以上、0.2ミリ未満を「中」、0.1ミリ未満を「小」と分けている。映像では点検要領の「小」にあたる、クラックスケールの0.1ミリは明瞭に確認でき、それよりも小さい0.08ミリ、0.06ミリ、0.04ミリ、0.03ミリも確認できた。ただし、「どの程度見えることが『見えた』ことになるのか、議論の分かれる余地もあるので今後、事業者とのすりあわせも必要になる」と、慎重に判断する方針だ。
一連の作業の結果は、その他の実験結果などとあわせて3月に公表するガイドラインでまとめる。作業では「ELIOS2」ではないドローンを使うこともあるため、ガイドラインでまとめるさいには標準の要件となるように詰めていくという。実験を見学した中央官庁からはプラントやプラントを持つ企業の声も反映させるよう要望があり、今後検討していく方針だ。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は11月13日、福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)で、ドローンの用途別運用ガイドラインを作成するための実証実験を行った。この日は、救急医療輸送の一環としてAEDを(自動体外式除細動器)をドローンで届ける実験などを実施した。14日も一般財団法人総合研究奨励会・日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)が参画し、警備やセキュリティーの実験を行う。
実験は公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構の委託事業として、オリンピックなどの大規模イベントでドローンを活用するさいのガイドラインを作成するために必要な知見、データを取得する目的で行われた。作成されるガイドラインは来年3月ごろ公表される見通しだ。
この日の実験では、東京・お台場でのトライアスロン競技に参加中の選手が倒れ、心肺停止になったというシナリオで行われた。近くに居合わせた人が大会本部に連絡しAEDの搬送を要請。そのさい、ドローンの飛行支援サービスSORAPASSで、自己位置の緯度・経度も伝える。連絡をうけた本部が、AEDをドローンに取り付けて、要請者から連絡のあった位置まで飛行し、ウインチでAEDを下ろす。要請者が、AEDを受け取り、倒れた選手に手当を施す。
検証では、要請から手当てまでを3分以内で納めることを目指し、実際にAEDが届けられた2回のケースでは、2分36秒、2分40秒と目標を達成した。ただし1回は、ウインチのモーターが動かなくなるトラブルがおこり、ウインチでAEDをおろすことができなかった。関係者によると、モーターが冷えたためにおきたトラブルで、こうしたことの対策もガイドラインに反映させる考えだ。
この日はこのほか、カヌーやサーフィンなど海上で競技する選手を、ドローンで撮影することを想定した検証も実施。陸上にいるパイロットが、目視外でドローンを会場で飛行させ、FPVゴーグルで競技者を追うことを想定した。検証では、ロボットテストフィールドにある500メートルのドローン用滑走路を使い、自動車を海上の競技者に見立てて走らせ、それをドローンで追いながら空撮した。主催者は「風の中でも被写体を修めるためのポジションや、安全管理の方法などの知見を得られた」という。
実験には綜合警備保障株式会社(ALSOK)、ブルーイノベーション株式会社、Team ArduPilot JAPAN、イームズロボティクス株式会社が参画。福島県、福島県南相馬市が協力した。
公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構理事で、福島ロボットテストフィールド所長の鈴木真二所長は「ロボットテストフィールドはさまざまな現場を再現していて、空のドローンだけでなく、水上、水中ロボットも活用できる。運用のガイドライン策定の検証には役立つと思う」とテストフィールドの活用を歓迎した。
JUIDAの千田泰弘副理事長は「今回の検証内容はかなり意欲的。典型的な難しい事例をガイドラインにまとめるので期待してほしい」と意義を強調した。
検証は14日も開催され、住居への侵入者を検知するセンサーなどを使った機械警備とドローンの連携などが行われる。