ドローンの利活用に力を入れる福島県田村市にある福島県立船引高校で11月16日、ドローン特別講座が開かれ、受講した高校生が機体を空中で回転させるピルエットなどの基本練習に励んだ。指導をしたのは田村市と連携協定を結んでいる慶應義塾大学SFC研究所・ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表。南副代表は次回以降、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の技能評価にそった練習を進めることを伝え、受講生たちは気を引き締めていた。
この日の講座では前半、体育館でトイドローンを使ってピルエットを中心とした基本技能の練習をした。そのさい南副代表は、体育館床面のバスケットボール用のフリースローサークルをなぞるように飛ばして90度ごとに静止させて、その場で回転させる、などの訓練メニューなどを示した。センサー類が機体の姿勢維持を助けてくれる産業用の機体とは違い、練習用は操縦者の腕が試される。生徒たちは楽しみながら機体を操縦した。
その後、指が慣れたのを見計らって、ピルエットをさせながら機体を上昇させたり、下降させたりと派生操作の練習に取り組んだり、生徒ひとりひとりがオリジナルの動きを編み出すように取り組ませたりと、楽しみながら自在に操ることができるための練習メニューをこなした。
後半は、校庭でPhantomを活用した実践向けの練習を実施した。3班に分けて、班ごとに校庭にあるサッカーゴール、タイヤなどのターゲットを設定。それぞれのターゲットをノーズ・イン・サークルなどの方法で被写体を中心にとらえて撮影する訓練を実施した。生徒たちはかわるがわるプロポを手に取り、画面の中心に被写体をおさめる撮影に取り組んだ。
練習終了後、南氏は次回以降、アメリカ国立標準技術研究所(以降、NIST)の技能評価にそった練習を実施することを伝えた。南氏はこの方法が、空撮で事業などを展開する株式会社ヘキサメディア(埼玉県川口市、野口克也代表)が日本で初めて、10月28日に埼玉県川口市で消防隊員、救助隊員を対象にした訓練で取り入れたことを伝え、「高校でこれを取り入れた訓練をしているところは、おそらくないでしょう。今後、国際的なルールになると思われるので、みなさんには日本の高校生の先駆けとして、これに取り組んでほしいと思っています」と話すと、高校生は気を引きしめた。
この日の特別講座は船引高校ドローン部の部員らが受講し、その様子を菅井友宏副市長はじめ、田村市職員、船引高校関係者、自治体関係者らが見守った。生徒たちの練習に様子を見守っていた学校関係者は「うまくなりましたよね」と目を細めていた。
ドローン部には現在13人が在籍している。ドローン特別講座は慶應義塾大学と田村市が産業振興、地域活性化などについて2016年12月に包括的な連携協定を締結したことをきっかけに、人材育成の取り組みの一環としてスタートした。当時は部活動でなかったが、近隣のドローン事業を展開する企業に就職した卒業生もいるなど、市内ではドローンに取り組む学校としての認知度が高まっている。
これまでに防災訓練、地域の祭り、音楽フェスなどの行事の記録撮影を引き受けたり、最近では、市内の標高718.6メートルの片曽根山で秋色に色づいた風景を空撮したりと、対外的にも精力的に活度している。
船引高校ドローン部の部長、赤石沢響さん(3年)は、ドローンをやっていてよかったかどうかをたずねると、迷いなく「よかった」と答える。「大人からドローンについて聞かれることも増えました。どう飛ばすのか、どこで飛ばせるのか。そういう質問に答えることで会話が増えることもあります」とその理由も明確だ。近く、2年生に部長を引き継ぐことになるが「今は1年生もがんばってくれています。これからも船引高校のドローンがこれからもずっと続いてほしいと思います」と話していた。
船引高校での特別講座に限らず、田村市では慶大と提携して以降、地元でドローンに取り組む活動隊「ドローンコンソーシアムたむら」が創設されるなど取り組みが広がっている。コンソーシアムでは、NPOや企業などが取り組みを進めるなど、地域主体での活動が活発化している。
ドローンの利活用をめぐっては、利用促進と乱用防止のそれぞれの観点から着地点を模索する議論や意見交換が続いているが、田村市ではドローンの利用を歓迎する風土が広がりつつある。慶大との連携協定の締結が、地元による自律的な利活用につながる一連の循環を創出する流れは「たむらモデル」と呼ばれ、今後、社会受容性を育むモデルとしても重要な参考例となりそうだ。
慶大ドローン社会共創コンソーシアムは9月13日、福島県田村市役所で9月10日から取り組んできたフィールドワークの成果を発表した。学生ら16人が4グループに分かれ、それぞれのテーマで、テレビコマーシャルフィルム風の15秒の動画と、それよりも少し長い1分の動画に仕立てた。当日は発表を聞きつけた市民ら約25人が参観に訪れた。田村市からみれば“よそ者”の学生が作った映像は田村市への愛情にあふれ、来場者からは「すばらしい作品」「感動した」などの声が相次いだ。映像作品は今後、市の玄関口であるJR船引駅前のディスプレーで公開するほか、地元のドローン活動隊「ドローンコンソーシアムたむら」がSNSを活用するなどして、海外からの渡航者に対し「ドローンツーリズム」をアピールし呼び込みに力を入れる。
今回の発表会を企画した慶大ドローン社会共創コンソーシアムは、ドローンを活用した地域の産業振興に取り組んでいる。田村市では人材育成、農業への活用などを多角的に進めてきた。田村市がドローン関係者の間で、ドローンに理解のある受容性の高いまちとしての認知度が高まり、関係者が田村市を訪れる機会が増えているのもこうした地道な取り組みの積み重ねの成果でもある。慶大はこうした産業振興のサイクルを「たむらモデル」と位置づけ、地域振興の体系化に取り組んでいる。
発表会の冒頭、慶大ドローン社会共創コンソーシアムの古谷知之代表が、「短期間ではありますが田村の各地に協力を頂きました。学生もそれをありがたく感じて、一生懸命動画を作りました」と経緯を説明した。実際、学生たちは発表当日の午前4時ごろまで編集作業に没頭していたという。南政樹副代表は一連の取り組みを「ドローンツーリズム」と位置づけていることを説明。田村市で取り組んできた人材育成、農業に次いで、ドローンを観光振興に役立てる取り組みであると伝え、「田村のみなさんには、こうした取り組みが続けていることを頭の片隅に置いて頂けると大変助かります」と地元の理解と協力を求めた。
発表では参加大学生が4つのグループに分かれて実施。A班は海外からの渡航客誘致を目指し、ふたつの動画を製作した。ひとつは「景色」に焦点をあて、自作したBGMを背景に15秒でテレビのコマーシャルのインパクトを狙った作品で、もうひとつが、「見る人が“楽しい”を想像できるように」SNSでの拡散も念頭に1分に編集した動画だ。それぞれを発表したあと、「事前アポ。交流風景が取れたのではないか」と反省点をあげることも忘れなかった。
ここで田村市の菅井友宏副市長が会場を訪れて登壇し、「慶應大学の学生のみなさんには、おこし頂き、ありがとうございました。田村市の名所、施設を見て頂きました。編集作業に少しだけ立ち会いましたが、真剣に議論を重ねておられました。住んでいるわれわれにさえ気づかない田村の魅力を気づかせてもらえるのではないかと期待しています」とあいさつした。
このあと、B班は、ドローンのほかに小型カメラ、360度カメラも活用して、「ユニークなまち」と「人とのふれあい」を表現するように1分間に編集した作品を発表した。発表時に披露できなかったVR映像を、発表後に体験できることを説明し、声をかけてもらうよう会場に呼びかけた。C班は滝、川など「田村市の水」の魅力に絞って編集。班員がそれぞれの視点でまとめた。滝の勢い、穏やかさなど、水の表情を「ふだん見ている人では気づかない視点を見せられるように」15秒や1分の動画にまとめた。なおC班では石原匠さん(1年)が同じ素材を使いながら、市民や班員の笑顔をちりばめた作品に仕上げた。D班は外国から訪問者が抱くと推測される感情を「まだ見ぬ物語」として15秒にまとめることを試みた。映像から漏れたメイキング動画もBGMをつけて紹介した。タイ語のテロップを入れたものも作り、海外への拡散も意識した作りを強調した。
これらの映像では、赤いそばの実がなる畑、神社、田んぼアート、食事どころ、天文台、鍾乳洞、風車、滝など多くの田村市の見どころが紹介され、観覧した市民からは「これをたった2,3日で作るなんて驚いた。どれも素晴らしい作品ばかり」、「一生懸命に取り組んでくれたことが映像からあふれていた。田村への愛情を感じて感動しました」などと話していた。
会場からは「動画で魅力を発信する先鞭になるかもしれません」「田村市民でもよさをすべて知っているわけではありません。地元の子供たちが地元の良さを知り、やがて広くPRすることにつながると思いました。教育面でも活用を考えたい」などの発言があった。
参加した学生の一人でドローンのサークルに所属している中村光一さん(環境情報学部2年)は「ドローンを飛ばしていると地元の人が寄ってきて『それいくらなの』と声をかけてくれ、とても暖かく感じました。ドローンについては、まだ特別な思いを持っている人もいるかと思いますが、触れる経験を重ねていけば特別なものではなくなると思っています。ネガテフィブな印象を持っている人がいらっしゃることも知っていますが、今回のような取り組みを重ねることで、特別なものから一般的なものにできると思っています」と述べた。発表前はほとんど眠れていなかったというが、「とても楽しい4日間。ぜひまたきたいです」と声をはずませた。
那須蘭太郎さん(環境情報学部2年)も「飛ばせる場所が多いことはとてえがたい経験でした。ほかでも飛ばせますよ、というところはあるのですが、そこが気兼ねなく飛ばせる場所か、といえば、必ずしもそうでないことも多いのです。気を使ったフライトで撮影すると、映像にもダイナミックさが出なかったりすることがあります。でも田村市は違いました」と、ドローンに理解のある町ならではの価値を感じていた。また、ドローンを使える人を増やすために「ドローンは、機械に詳しくなくても、ITの知識がなくても、スマホと同じように使えることを伝えたいと思っています。ドローンが特別なものでく一般的なものになれば、楽しくて豊かになると思います。楽しいって大事なことなので、ぜひ『楽しい』を多くの人に味わってほしい」と話していた。
編集作業の最終局面で笑顔に切り替えた石原さんは、「田村ではふだんできない経験ができました。もともと笑顔の力を発信したいということが自分もここ最近のテーマで、思い切って途中で切り替えました。笑顔の力を伝える方々が世の中にいらっしゃいますが、この機会にこの動画を創れたことで、そんな人に一歩でも近づければと思っています」と充実した表情を見せた。
田村市は今後、動画をFBやHPほか、PRに活用できる場所で公開していく予定だ。
慶應義塾大学でドローン研究に取り組む学生と引率の教員らが、福島県田村市で、地元の見どころを探索し、映像にまとめて発信する取り組みにチャレンジしている。映像にはドローンも活用し、ドローンの利活用に力をいれる田村市らしさが表現される。本稿が公開される9月13日(金)の午前10時から、田村市役所でその成果を発表する。発表の様子は市役所でだれもが見ることができる。
参加しているのは、慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムの代表、古谷知之さんのゼミ生、南政樹副代表が率いる自主活動グループ「ドロゼミ」の学生ほか総勢15人。一行は福島県田村市の観光宿泊施設「スカイパレスときわ」を拠点に9月10日から活動している。
初日の10日には田村市役所から、撮影に適しているとみられる珍しい花が咲く畑、地元に伝わる街道沿いの魔除け人形、400メートル続く杉並木、パノラマの絶景地、鍾乳洞、風車などの31のスポットの説明を受けたあと、グループごとにテーマや、取材計画、編集方針などを話し合った。
夕方には、ドローンの初心者、経験者も含めて、南ドロコン副代表から、操作の手ほどきや、撮影技法についての講義が行われた。ひととおりの知識を備えたところで、スカイパレスときわのテラスで、腕試し替わりにドローンをフライトさせ、操作の感触を確かめ、ドローンができることを確認した。
一行は翌11日、12日と、グループごとに立てた計画にそってフィールドワークを実施。現地からの報告だと、とりためた映像の編集作業など、発表の準備は12日の深夜まで続けられたという。成果は本日13日、市役所で公開される。
田村市は2016年12月に、慶大とドローンの利活用に関する連携協力協定に締結した。慶大がドローンの利活用で自治体と連携協定を締結する第1号が田村市だ。締結後は、市内にある県立船引高等学校でドローンの担い手を育成する「特別講座」を開催したり、市で開催された音楽フェスでドローンの腕を磨いた高校生が公式に撮影する活動の場を提供したり、地元の名産品のひとつでビール主原料のひとつであるホップの生育状況確認などの農業利用の実験をしたりと、田村市内でのドローンの取り組みを広げてきた。地元主導でドローンを普及させる「ドローンコンソーシアムたむら」も設立されて活発に活動をしているほか、今回の活動の拠点となっている「スカイパレス」も、株式会社ドローンエモーション(東京)が展開しているドローンのフライトエリア登録サービス「そらチケ」に登録されているなど、田村市はドローン関係者の間では、日本を代表するドローンを歓迎してくれる町として知られ始めている。
子供向けのドローン体験会が各地で開催されている。福島県では7月13日、須賀川市の公民館が開催している子供向けの体験学習プログラム「こども探検隊」でドローン体験が行われ、専門家の指導を受けた。田村市では市総合体育館で行われた「子ども未来プロジェクト おしごとスイッチ」(主催:一般社団法人Switch)の会場で、地元田村市を中心としたドローン活動隊ドローンコンソーシアムたむらが体験会を開き、子供たちの歓声が響いた。
須賀川市の体験会は、東公民館が毎年この時期に開催している体験学習プログラム「こども探検隊」に組み込まれた。こども探検隊は、市内在住の小学4~6年生を対象に、体験を通じて見聞を広めるための講座で、社会科見学、伝統文化体験を含めて、6月から12月まで、土曜日を中心に11回で構成されている。「ドローン体験」は7月13日(土)の「第2回こども探検隊」で行われ、12人が参加した。
会場となった東公民館の「体育室」にはこの日、午前10時を前に続々と子供たちが集まった。講師役は、株式会社スペースワン(福島県郡山市)が運営する一般社団法人日本UAS産業振興協議(JUIDA)の認定スクール「福島ドローンスクール」で、ドローンのインストラクターの鴫原力三さんが務めた。鴫原さんは地元、須賀川市の出身だ。このほか同社の社員2人が補佐についた。
講座では鴫原さんがドローンの基礎を簡単に説明するところからスタート。ドローンの名前がオスバチに由来することや、ドローンにできる役割、飛ばすためのルールなどについて、動画を使いながら、わかりやすい言葉をつかって説明した。ドローンの役割としては、空撮、配送の様子を動画で紹介したほか、水難事故のさいに救命具を投下する動画を紹介して「ひとを助けることもできるんだよ」と子供たちの興味をひいた。
飛行ルールについては「夜間飛行原則禁止」を「太陽が出ている時間に飛ばさないといけません。どうしても飛ばしたいときには特別な許可が必要なんですよ」、目視外飛行を「目で見えるところで飛ばさないとだめですよ」とかみくだいて説明。第三者上空での飛行については、地元、須賀川市で毎年夏に行われ、子供たちも楽しみにしている行事「きうり天王祭」を例に出して、「ああいう人がたくさん集まるところでだまって飛ばしたらいけません」と伝えた。話のあとには、「ここで聞いたことを、おうちの人にも教えてあげてくださいね」と促した。
話が20分ほどで終わると、準備されたトイドローン2機を使ってドローンの操縦体験。2チームに分かれて、補佐役の2人がドローンの機体と、プロポを見せながら「ここを押すと、飛びます。このスティックを前に倒すと前に進みます。でもこっちのスティックを前に倒すと上に上がります」などと教えると、子供たちは真剣に聞き入った。扱い方を学んだ参加者たちは、さっそく、スタート地点から5メートル離れた場所に用意した直剣70センチほどの輪をゴールに見立て、ドローンを近づけて、輪をくぐらせて、スタート地点に戻す操作を体験した。何度か動かすと「わかった、わかった」という声もあがるようになった。
一通りの操作ができるようになったところで、チーム対抗のレースの開催を決定。スタートの合図とともに、ドローンを操作して、決められたコースを通りスタート地点に戻ったところで、ドローンをホバリングさせたまま、プロポを次の順番の選手に渡し、最後の選手がランディングパッドにドローンを着陸させたら終了、というリレーの形式で行うことに決めた。レース中には、上手に輪をくぐり抜けることができて拍手がおきたり、輪の縁に機体をぶつけてしまい、再スタートになったりと手に汗を握る展開となり、ゴールの瞬間、勝ったチームは手を挙げて歓声を響かせた。2度目、3度目のレースでは1度目のレースで負けたチームが連勝するなど、最後まで生徒たちの好奇心が途切れないプログラムとなった。
レースのあとには、タブレットでプログラムを組むとその通りにドローンが動く様子を見せてプログラミングについて簡単に触れ、そのあと、練習やレースの様子を撮影した映像をみて、この日の「体験会」は終了した。参加者は口々に「おもしろかった。もっとやりたい」と話していた。
田村市では総合体育館で市内の仕事を地元の子供たちに体験できるブースが設置され、ドローンコンソーシアムたむらもブースを出した。
ドローンコンソーシアムたむらは、田村市がドローンの研究に積極的な慶應義塾大学とドローンの活用で包括連携協定を締結して以降の地元の活動の中から生まれた、地元主体のドローン活動体だ。セミナー、体験会、市内の観光名所のドローンによる撮影など、市内の行事や事業にドローンを積極的に取り入れる活動を推進し、田村市のドローンによる地域活性化に大きく貢献している。
この日もコンソーシアム活動の一環で、ブースにはドローンを初めてみる子供たちが列をつくり、ドローンの操作体験を楽しんだ。担当者は100人を超える体験希望者の対応に追われたが、来場者が自由に使えるメッセージボードに「パイロットになりたい」「ドローンになりたい」といった感想が関係者を喜ばせた。