「空飛ぶクルマ」についての3人談義の後編です。前編では空飛ぶクルマの開発を手掛ける株式会社SkyDriveの福澤知浩代表、小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発に携わった航空機開発に詳しいPwCコンサルティング合同会社の宮川淳一顧問(Aerospace&Defense担当)、ドローンや空飛ぶクルマ関連の業務・技術支援に携わるPwCコンサルティング合同会社の岩花修平ディレクターが、空飛ぶクルマ開発のきっかけや想定されるユースケース、普及までの工程について意見を交換しました。後編では、普及に向けた課題、新型コロナウイルス感染症の影響、取り巻く市場のイメージなどについて議論を深めます。
岩花氏:空飛ぶクルマの実用化、普及に向けて乗り越えるべき大きな課題は何でしょうか。安全性が気になるところだと思いますが、それ以外でもヨーロッパなどで注目されているものとして、社会受容性があります。騒音、燃費、二酸化炭素排出などへの意識も必要になるかもしれません。
福澤氏:そうですね。極論を言うと、社会受容性ありきだと思っています。日本ではそれが比較的低いのが現状です。例えば、空飛ぶクルマという単語そのものは知っている人が多いと思います。ただ、それがあと3年ほどで実現する、ということになると、95%ぐらいの方がご存じないでしょう。社会受容性を上げるには、まず事実を知ってもらうこと、次にそれをポジティブに捉えてもらうことが必要です。
岩花氏:社会受容性の重要性を指摘する声も増え始めました。
福澤氏:そうですね。実際、規制にも影響します。例えば国土交通省が規制を所管するのは、住民が困らないようにするための備えです。つまり、もとよりこの技術に対する住民の方々の受容性が高ければ、規制が和らぐ可能性があるのです。開発抑止的であってはいけない、という声も出てくるかもしれません。そうなれば私たちも資金を集めやすくなりますし、大企業からの認知度も高まり、提携の話も進むかもしれない、といった好循環が生まれます。より多くの人々が技術をポジティブに捉えることが最も重要なのではないかと思います。
岩花氏:空飛ぶクルマやエアモビリティと、ドローンとでは、社会受容性に違いがありますか。
福澤氏:エアモビリティのほうが、みなさんが気にする点や知らないことが多いと思います。講演会やセミナーなどでお話しをすると質問が山ほど飛んできます。もちろん全てにお答えするのですが、1時間ほど質疑応答を続けると、ちゃんと考えているんだね、安心したと言われます。情報が入ってくれば、見方や思いも変わってくるはずです。日本は欧米と比べると航空機を気軽に利用する習慣がないので、理解を深めていただくまでには時間がかかるかもしれません。FAQをウェブサイトに公表したり、講演などで懸念要素をできるだけ網羅して話したり、情報公開には注力していきたいと思っています。デモフライト(2020年8月25日に愛知県豊田市で公開有人飛行試験を実施。今後も順次開催予定)をご覧いただくのもその一環です。
宮川氏:飛行機の歴史そのものが、社会的受容性の克服の歴史ですからね。歩いて移動するしか方法がなかった人間が、ある時、馬に乗るようになり、やがて、自動車に乗ることになった。その延長線上に飛行機があります。社会受容性は、メリットが懸念を克服していくプロセスを経て醸成されるものだと思うんです。福澤さんは理解者を増やすとおっしゃいましたが、これもメリットが懸念を克服していくことで増えていくはずです。ある程度の時間はかかるでしょうが、そのメリットを享受した人が増えていけば、社会全体が変わっていきます。一方で、アメリカは飛行機に対する社会受容性は高いですが、飲酒操縦やガス欠に起因する事故があると聞きます。
岩花氏:社会受容性のほかにも、想定されている課題はありますか。
福澤氏:今ご指摘いただいたことは全て課題です。新しい機体、という観点でケアすべき話と、航空機全体に関係する話とがあります。当然セキュリティも重要度が高い課題で、無人操縦を想定している以上、自動運転を進めていくうえで避けて通ることはできません。ただ、私たちが自社で対応するというよりも、業界全体で取り組むべき課題であるとも思います。
岩花氏:衝突回避や高度な運航管理システムなど安全を確保する機能の実装、実証実験の繰り返しによる信頼性の向上、騒音の低減などを通じた社会受容性の向上が、普及に向けたポイントになりますね。機体だけでなく、ポートなどの地上支援システム、運航管理システム、管制、オペレーター、法規制、セキュリティ、関連サービスなど、さまざまな関係者が一体となって進めることが重要だと感じます。
岩花氏:ところで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響はありますか。
福澤氏:部品の到着が遅れるといった影響はあります。また、取引先がテレワークを苦手としていて会議が滞りがちになっています。大企業でもインフラ系の方々はテレワーク環境がなかったり、セキュリティの制限があったりするんですね。とはいえ、私たちはスタートアップなので、この程度の問題は社内外で常に経験していて、COVID-19もそのうちの一つに過ぎません。ただもう少し広い視点で見ると、移動に関する概念は10年ほど進んだ気がします。移動しなくても済むなら移動するのをやめよう。その時間で別の価値を生み出そう。本当に移動すべき場合にはちゃんと行こう。そんな考え方が増えたと思います。それに伴って、移動するならどんなモビリティに乗るか、という話も出てきます。本当に行くべきところに行く時には、定期輸送よりも、タイムリーに移動することが求められる、つまりMaaSに近づいてくるのではないでしょうか。こうしたことを考えると、空飛ぶクルマは、コンパクトかつパーソナルに移動できるという意味で、比較的COVID-19発生後の要請に答えていると感じます。
岩花氏:私もどちらかといえばチャンスであると捉えています。非接触で物を届ける需要が出てきたことでドローンへの注目度が高まっていますが、空飛ぶクルマも一定のペイロードを運べ、災害時には物資輸送もできる。また、オフィスに出勤しなければいけないという習慣が見直され、生活や働き方のリフォームが進む中で、地方で完結できる仕事も出てきました。そうなると、都市部と違って地方の移動手段には既存の交通体系では足りていない部分がありますから、そこを充足できるツールの一つとして育っていくのではないでしょうか。
福澤氏:これからは地方空港の活用が、コンパクトな航空機の利用も含めて中長期的に増えていくと思っています。空路利用が活性化し、移動に支障がなくなりさえすれば、地方に住んで仕事をするという選択肢がより身近になりますね。
岩花氏:そうですね。空飛ぶクルマをきっかけに、地方の見直しが進むはずです。安全に飛ばすという観点でも、人や建物が密集していない地方の方が相性は良いですし、課題を背景とした社会受容性も高いと想像できます。これまでの電車やバスが数時間に1本という状況を考えれば、オンデマンドで移動したいときに移動できるメリットが受け入れられやすい。
福澤氏:インフラ前提の都市計画が変わりそうですね。IT事業であれば都市部でなくてもできる業務は多いですし、その上で移動にこうした新しいモビリティを活用できるとなれば、仕事ができる場所がさらに広がります。
岩花氏:COVID-19の中で移動の考え方には2通りがあるように思います。1つは移動を極力せずに済むようにする。これは移動マーケットが縮小することを意味します。それだけであれば、空飛ぶクルマにとっては乗り越えるべき課題となるかもしれません。もう1つが、移動は前提でなく付加価値であるという考え方。これをどう発揮するかが、空飛ぶクルマにとって重要になるのではないでしょうか。
福澤氏:移動が少なくなっている点については同意しますが、国によって違いがあるとも思います。発展途上国であれば人口が増加しているので、当面は移動せざるを得ない仕事が多く、移動はどんどん増える。そこでの焦点は、「移動のパイ」のどこを取るかです。私たちは移動市場の全部を独占するつもりはありません。移動手段には新幹線もあればキックボードもある。移動市場は縮小傾向にあるとしても、私たちはその中に空飛ぶクルマを使うことが適切と考える層が一定以上いると想定しているので、その層に最適なサービスを提供することがゴールであると考えています。
岩花氏:A地点からB地点に移動する際に、駅を経由し、乗り換えをして、そこから歩く、といった経由前提の移動ではなく、ピンポイントでAからBに行けることの価値は高いですね。
福澤氏:オンラインフードデリバリーサービスも、当初は配送料が高く需要に見合わないと考えられていましたが、今では結構みなさん利用されていますよね。600円のお弁当に200円を上乗せして届けてもらっています。これはこれまでになかった価値を提供することによる新市場の創出ですが、移動においても、このモビリティがなければ生まれなかったという新たな市場が出てくると思っています。
宮川氏:COVID-19の影響で確かに移動が減ってはいますが、リモートが進むからこそ、実際に人と会うことの価値、移動することの価値が高まるのではないでしょうか。インドネシアで空港の仕事をしていた時に、人はどういう理由で移動するのかというアンケートをとったことがあります。移動理由の第1位は、ビジネスでも観光でもなく、家族や親族に会いに行くことでした。移動の欲求は減ることがないと私には思えます。
福澤氏:移動の欲求は確かに増えるかもしれませんね。これは、新しい通信機器が発売されるたびに「もう移動はいらないんじゃないか」という話が出てくるのと似ています。電話やメールやSNSがあるからわざわざ相手のところまで行かなくていい、となるかというと、やはり行きますよね。別に「移動した方がいい」というキャンペーンをするつもりはありませんが、結局はニーズはなくならないのだと思います。
岩花氏:ビジネスの視点から、空飛ぶクルマの市場をどう考えていますか。
福澤氏:市場予測は難しいです。10の機関があれば10通りの全く違う予想をします。私たちが間違いなく言えるのは、ルールが整備され、社会受容性が高まり、本来使うべき人が使う流れができれば利用者数は増えるだろうし、バッテリーの品質が向上すれば航続距離は伸びるということです。計画を立てるときには、これらをもとにしています。
岩花氏:グローバル市場と日本市場では、社会課題や消費者意識、地理的な環境などによって、想定されるユースケースも異なりますね。グローバルでは利益を上げられる領域が、必ずしも日本でもうまくいくとは限りません。日本独自の課題やニーズを見極めて日本の市場として形成できることが重要でしょう。先ほどMaaSの話もありましたが、ビジネスの選択肢としては、機体の販売もあれば、その先の離着陸場所であるポートの運営や、運航管理システムの構築、さらに、スマートシティ、エネルギーマネジメントなど、派生する事業がさまざまあると思います。事業領域としては、SkyDriveはどこまでを視野に入れているのでしょうか。また、ここまでは自社で手がける、ここからは他社と連携して取り組むといった構想があればお聞かせください。
福澤氏:まずはサービスだと思っています。「空を、走ろう。」という当社のキャッチコピーが示すような世界を実現することが第一です。機体開発を中心として、お客さまに快適にお使いいただけるサービスの提供までを担います。また、エネルギーマネジメントも必要になってきます。現在はバッテリーが機体価格の1/3ほどを占めており、重さも1/3程度、あるいはそれを上回る可能性もあり、事実上バッテリーを飛ばす会社、などと言われてしまいそうなので。戦略として取り組むというよりは、必然的に手がけざるを得ない、ということになります。
岩花氏:機体を操縦するパイロット、航空管制を行うオペレーター、運航管理業務に従事する専門家など、モビリティの運航に必要な人材の育成はどうされるのでしょうか。
福澤氏:操縦もオペレーションも運航管理も、機体によってやり方がだいぶ変わってくると思います。官民協議会の議論の中で統一ルールにすべきだという発案はありましたが、実際は機体ごとにだいぶ違います。そのため、どんな機体でどんな運航をするのかというパターンができてから、必要な人材を考えていくのが良いと思っています。
岩花氏:宮川さん、航空機の世界では、人材育成はどうなっているのでしょうか。
宮川氏:パイロットでいえば、航空機では操縦士免許に加えて機種ごとの免許があります。機種ごとでもさらに型式に対応するための試験を受けないといけない場合もあります。操縦は機体ごとにまったく別物ですし、繊細な課題だと思います。
岩花氏:慎重な対応が必要になりそうですね。
宮川氏:SkyDriveが世界で勝負をしてどこで勝つかと考えると、勝てる面はいろいろとありますが、私はその一つが操縦だと思っています。航空機ではコントロールホイールやサイドスティックが使われますが、空飛ぶクルマの世界では人間の感性にぴったり合った操縦が可能になるでしょう。機体ごとに特性が違うのですが、今のフライトコントロールのソフトウェアの技術をもってすれば、そうした違いは克服できます。操縦が簡単になれば、パイロット免許も取得のハードルが低くなって、操縦できる人が増える。事故も少なくなるはずです。そうした優れた操縦方法を開発することが強みになると思いますし、それをSkyDriveが自社で担うのか、タイアップをして協業するのかについてもいくつかの選択肢がありそうです。
福澤氏:なるほど、ありがとうございます。
岩花氏:本日は、さまざまな角度からSkyDriveの事業についてお伺いし、今後が楽しみになってきました。PwCコンサルティングでは空飛ぶクルマの普及に向けて、物理的な安全の確保や社会受容性の向上に向けた取り組みを進めていますが、それだけでなく、大きなリスクとして懸念されるハッキングなどサイバーセキュリティへの対策や、空飛ぶクルマの運用・サービスで発生する多種多様なデータの分析など、従来の航空機やドローンの事業推進よりも高度なアプローチでチャレンジを行っているところです。最後に福澤さんからメッセージをお願いします。
福澤氏:これからデモフライトの実施や情報発信に注力していきますので、ぜひ注目していただければと思います。見て、知って、関心を寄せてもらえば、それが社会受容性を高めることにつながります。できるだけ多くの方に空飛ぶクルマのメリットや楽しさを享受してもらえるよう取り組んでいきます。
岩花氏:本日はありがとうございました。
<3人談義の参加者> ■福澤 知浩氏 株式会社SkyDrive 代表取締役 東京大学工学部卒業。トヨタ自動車株式会社にて自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンをし、原価改善賞受賞。2014年に有志団体CARTIVTORに参画し、共同代表に。2017年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社を設立。20社以上の経営改善実施。2018年に株式会社SkyDriveを創業、代表に就任し現職。 ■宮川 淳一氏 PwCコンサルティング合同会社 顧問 40年以上にわたり、主に航空機開発に従事。B7J7(後のB777)主翼空力設計、JRリニア先頭車両形状設計、防衛省先進技術実証機基礎設計等の先端技術開発・製品開発や、民間航空機開発では50年ぶりとなるMRJ(SpaceJet)の事業化、基本設計、海外セールス取りまとめなどで責任者を歴任。三菱重工業執行役員フェローを経て現職。 ■岩花 修平氏 PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 大手監査法人系コンサルティング会社、外資系統計解析ソフトウェアベンダーを経て現職。前職では、主に電力を中心としたエネルギー、自動車を中心とした製造業の企業に対する統計解析技術、アナリティクスを活用したソリューションの提供やIoTアナリティクスチームの立ち上げなどに携わる。現在は、デジタルテクノロジーを活用した新規事業の推進や企業の業務改善を支援しており、主にドローンや「空飛ぶクルマ」など無人航空機に関連するビジネスやMaaS(Mobility as a Service)などモビリティ関連ビジネス、IoTや人工知能(AI)、データサイエンスなどの領域を中心に従事。 (※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。9
<PWCコンサルティングのサイト> 空飛ぶクルマの未来展望(後編) https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/flying-car02.html エマージングテクノロジー コラム・対談 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights.html エマージングテクノロジー https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/disruptive-technology.html ドローンテクノロジー/ソリューション https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/disruptive-technology/drone-powered-solutions.html モビリティ(MaaS・自動運転) https://www.pwc.com/jp/ja/industries/mobility.html トピック解説/コラム/対談 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column.html ナレッジ https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge.html PwC Japanトップ https://www.pwc.com/jp/ja.html
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は1月30日、東京・丸の内の総合宴会場、東京會館で「JUIDA新春パーティー2023」を開催した。会場での開催は2020年以来3年ぶりの会場開催で、会員、産業関係者、中央府省庁、国会議員らが賀詞を交換した。JUIDAの鈴木真二理事長は2023年のスローガンとして「レベル4実現元年」を掲げ、「レベル4実現させるべくJUIDAとしても貢献したい」と抱負を述べた。またレベル4で義務付けられる飛行日誌に関する情報管理サービスを準備しており、JUIDA会員に無料で提供すると発表した。
新春パーティーでは、鈴木理事長のほか、国会議員関係で無人航空機普及・利用促進議員連盟の田中和德元復興大臣、同議連顧問の山東昭子元参院議長、同議連副会長の櫻田義孝元東京オリンピック・パラリンピック担当相、同議連事務局長の山際大志郎前経済再生担当相、同議連幹事長の鶴保庸介元内閣府特命担当大臣が出席してあいさつをしたほか、同議連幹事の牧島かれん元デジタル相、同議連幹事の大野泰正国土交通大臣政務官がメッセージを寄せ会場で代読された。中央省庁関係では経済産業省製造産業局次世次世代空モビリティ政策室の宇田香織室長、国土交通省航空局の新垣慶太次長があいさつした。
鈴木理事長はあいさつの中でJUIDA会員が法人、個人あわせて24,845、操縦技能証明取得者が26,192人、安全運航管理者証明の取得者が22,828人となり「最近の伸びが大きい。ことがわかります」と説明した。
また鈴木理事長は昨年(2022年)12月5日の改正航空法施行に伴い整備された国家資格としての操縦ライセンスに関連し、「JUIDA認定スクールの中で、国家資格取得のための登録講習機関に登録を希望するスクールに対して、JUIDAも支援しています」と支援体制を構築している乗用を報告した。そのうえで「国家資格はクルマでいえば普通免許。業務に適用するには専門分野ごとの教育が必要になりその部分を充実させていきます」と、専門教育に力をいれる方針を述べた。
JUIDA会員向けのサービスとして、飛行日誌サービスを会員に対して無料で提供する準備をしていることも報告した。2023年のスローガンには「レベル4実現元年」を掲げ、「JUIDAとしても貢献したいと考えております」とレベル4実現を展望した。
会場では出席者が旧交を温め、情報交換をしたり談笑したりし、3年ぶりの開催を祝った。
衛星ブロードバンド「Starlink」を活用したモバイル通信のドローン配送が1月26日、埼玉県秩父市で始まった。場所はモバイル通信が困難な奥秩父・中津川のエリア。昨年(2022年)9月の土砂崩れ以降、通れなくなっている埼玉県道210号線の崩落現場を挟んで中津川の上流側に住む6世帯に、日用品などを毎週1回、Starlinkで通信環境を確保してドローンで定期配送する。ドローンは崩落場所の手前から向こう側の着陸地点まで2.8㎞を5~7分で飛ぶ。初日のこの日は7分で飛び、荷物をおろして帰還した。生活に不便をきたした住民を支える災害対応の重要なモデルケースになる。秩父市の北堀篤市長は「通信環境に恵まれない山間地域のみなさんに希望を与える日本初のハードル高きミッションに取り組んでいただいきました。期待大です」と述べた。当面う回路の凍結リスクがなくなる3月末まで行う予定だ。
取り組みは秩父市、株式会社ゼンリン(福岡県北九州市)が2022年10月25日に締結した「緊急物資輸送に関する連携協定」を軸に、KDDI株式会社(東京)、KDDIスマートドローン株式会社(東京)、株式会社エアロネクスト(東京)、生活協同組合コープみらい(埼玉県さいたま市)、株式会社ちちぶ観光機構(埼玉県秩父市)、ウエルシア薬局株式会社(東京)の6社が参加して「&(あんど)プロジェクト」を発足させ、遂行している。プロジェクト名には「地域に安堵を届ける」の願いを込めた。ほかにドローンへの電源供給などでサンセイ磯田建設株式会社(秩父市)が協力企業として名を連ね、秩父市大滝国民健康保険診療所(秩父市)も、オンライン診療や服薬指導に対応する。
ドローンは、現在通行止めになっている埼玉県道210号線の崩落場所の近くから離陸する。道路を落石から守る半トンネル状の覆い「大滑(おおなめ)ロックシェッド」の手前に離発着点と、Starlinkを通信網のバックホール回線として利用するau基地局を設置して環境を整えた。機体には重心制御技術を持つ株式会社エアロネクスト(東京)が自律ドローン開発の株式会社ACSL(東京)と共同開発し、日本各地で配送の実用に使われているAirtruckを採用。機体にKDDIスマートドローンが開発したドローン専用のノイズ耐性運航の高い通信モジュール「Corewing01」を搭載し、機体制御にKDDIスマートドローンの運航管理システムを用いることにした。
KDDIスマートドローンの博野雅文代表取締役社長は「林道が閉鎖の可能性もあり飛行先に作業員を配置しない前提で、離発着、荷下ろしを遠隔で行える機体、システムを使う必要がありました。またStarlink導入のau基地局設置で、山間部でも島嶼部でもモバイル通信の提供が可能な環境も整えました。被災地域に導入する初の事例です。被災地のみなさまの生活に安堵を届けたいという関係者のみなさまの思いにこたえる貢献したいという思いです」とあいさつした。
プロジェクトを先導してきたゼンリンの古屋貴雄執行役員も「秩父市とは2018年から協定を結んで取り組んできました。ドローン配送はそのひとつです。9月13日に崩落が起き、住民の日常生活の支援、安全対応として通信確保、安全に飛べるドローンの確保のために各社の参画を頂いた経緯があります。社会的意義の高い取り組みでもあると思います。社会に貢献すべく、しっかり進めて参ります」と述べた。
土砂が崩落した現場は、国道140号線から埼玉県道210号に分岐して約3.5㎞進んだ場所だ。中津川と急峻な斜面との間を縫うように走る道路だが、中津峡にさしかかる手前で土砂崩落があり、道路を約20mにわたってふさいだ。2022年9月13日に崩落が見つかって以降、県道は通行止めとなっている。通行止めの向こう側にいまも住み続けている6世帯の必需品は、大回りする林道が頼りだが「片道2時間半から3時間かかる」うえ、冬季は凍結し閉鎖される可能性がある。
冬になるまでは、地元の宅配業者など事業者が各社個別に大回りをして届けてきた。頭の下がる努力だが、冬の凍結期を乗り越え、さらに持続可能性を高めるために、代案の構築が急務だった事情がある。今回の取り組みでは、地元商店の配達品をひとまとめにする、という工程をはさむ。これにより各事業者がそれぞれで配送していた手間を軽減することができ、持続可能性が高まる。これは配送の枠を超え、注文を受けてから、注文者の手元に届くまでの一連の流れを集約、整理、最適化した取り組みでもあり、被災地の生活支援の側面と、それを支える側である事業者の支援との両面がある。
現地では土砂崩落の復旧作業が続いていた。道路に積もった土砂を取り除けばよいのだが、実は積もった土砂の上にさらに土砂が積み重なっている。現時点ではざっと1万8000立方メートルの土砂が積もっているとみられている。狭い場所での作業で選択肢も限られる。現在は、斜面の土砂崩落やその可能性のありそうな場所に網をかける作業が進んでいる。そのための工事用モノレールが建設され、作業員が昇っていく様子も見られた。網をかけ、落石被害の危険を減らす。その後、路面に近い土砂を撤去する。上から流れ落ちてくる土砂も撤去する。当面、片側一車線の開通を目指しており、完全復旧のめどはたっていない。
準備に奔走したゼンリンの深田雅之スマートシティ推進部長も「昨年9月13日の朝に秩父市から土砂崩落の連絡があり、その日の午後に現地に入りました。それからドローン配送の検討を進めてきました。当初12月に開始の目標をたてていましたが実際には想定していたより過酷な状況で、今日まで検討を続け、やっと先週、今週になって可能な状況ができました。私たちは2018年に秩父市と提携してドローン配送の取り組みをしてまいりました。2019年には国内2例目のレベル3と呼ばれる飛行も実現し、その後も経験を重ねてきました。今回の取り組みはこれまでの経験で蓄積したノウハウを毛州させました。『&プロジェクト』は『地域に安堵を』がコンセプト。あきらめずに中津川のドローン配送実現を推進し、安堵に貢献したい。安堵とは、安全、安全がすべて確保し終えたあとにたどり着くものだと思っています。冬を乗り越え、林道閉鎖のリスクがなくなる春が来るまでやりきります」と宣言した。
秩父市産業観光部産業支援課の笠井知洋主席主幹は「(中津川の)みなさんが寂しい思いをされてきました。ところが(中津川の)みなさんにドローン配送がはじまると説明をしてから明るい気持ちになっています。この『&プロジェクト』をほかの地域にも展開できるよう願っています」と切望した。関係者によると、中津川の人々に説明を開いたさい、ドローン配送が可能になった場合に注文したいものは何か、という話題をふると、はじめのうちは買い置きでだいぶ我慢できる、という様子だったみなさんが、そのうち「たばこはほしいかな」「ビールもいいのかな」などと嗜好品をあげるようになり、表情がやわらかくなったという。
発表会や登壇の様子を見守っていたエアロネクストの田路圭輔代表取締役CEOは「このプロジェクトに参加しているみなさんはあたたかくて本気のいい人ばかり。取り組むみなさんの思いが結実し、多くのみなさんに届けば素晴らしいと思っています。われわれも全力で貢献したいと思っています」と話した。
発表は以下の通り
秩父市、株式会社ゼンリン(以下、ゼンリン)、KDDI株式会社(以下、KDDI)、KDDIスマートドローン株式会社(以下、KDDIスマートドローン)は、株式会社エアロネクスト(以下、エアロネクスト)、生活協同組合コープみらい(以下、コープみらい)、株式会社ちちぶ観光機構(以下、ちちぶ観光機構)、ウエルシア薬局株式会社(以下、ウエルシア)らとともに、2023年1月26日から、土砂崩落の影響が続く秩父市中津川地内で、Starlinkを活用したモバイル通信のもと、ドローンによる物資の定期配送(以下、本取り組み)を開始します。
本取り組みは、2022年9月に土砂崩落が発生し、物流が寸断された秩父市中津川地内の地域住民への冬季期間の生活支援を目的としています。2022年10月25日に秩父市とゼンリンが締結した「緊急物資輸送に関する連携協定」をもとに、賛同企業6社が加わり「&(アンド)プロジェクト」として連携・実施します。 ドローン定期配送の実現により、中津川地内へ食品や日用品、医薬品などを短時間で配送することが可能となります。
現在、ドローンによる物資の配送先となる中津川地内へアクセスするには、一部の緊急車両などの通行のみ許可されている森林管理道金山志賀坂線(※1)を通行する必要がありますが、冬季は降雪や凍結のため通行が非常に困難となります。また、当該地域の地形の特性上、モバイル通信が不安定な環境であるため、衛星ブロードバンドサービス「Starlink」を活用してauのモバイル通信環境を確保し、ドローンの遠隔自律飛行による物資の配送を実施します。食品や日用品など最大約5kgの物資をドローンで複数回配送し、中津川地内の住民のみなさまの冬季期間の暮らしに貢献します。
■ドローン定期配送の概要
■関係者・体制図
全国各地でドローン物流の実証・サービス実装を行うゼンリンが、プロジェクトの全体統括を担当し、技術面・配送面のノウハウを持つ各社と共に、体制を構築しました。
■配送フロー
(1)住民は、電話などで事前に商品を注文。
(2)コープみらい・ウエルシア秩父影森店、ファミリーマート道の駅大滝温泉店が、注文商品をピックアップ。
(3)各社トラックで道の駅大滝温泉まで配送。
(4)ちちぶ観光機構が、各社の注文品を個人ボックスごとに箱詰め。
(5)注文商品をドローン離陸地点まで配送。
(6)注文商品をドローンで配送。
(7)中津川地内の区長が注文商品を受け取り、各世帯まで商品を配送。
■「&プロジェクト」の命名に込めた想い
プロジェクト名には、“決して(A)あきらめずに、(N)中津川地内の(D)ドローン配送の実現を推進し、住民生活の安全・安心の確保を支援し、地域の安堵(AND)に貢献する”という想いを込めています。今回、このビジョンに賛同する8者が連携し取り組みをスタートすることになりました。
■Starlinkを活用したモバイル通信とドローン配送のシステム構成
中津川地内のドローン離発着地点には、操作者などの作業者を配置できず、また、崩落地手前の地点からは中津川地内の離発着地点を目視で確認することが出来ません。そのため、中津川地内までの飛行、機体の離発着、荷下ろしのすべてを遠隔操作で実施する必要があります。
そこで、本取り組みでは、以下の製品・サービスを組み合わせたシステムの構築を行いました。
1.Starlinkの活用
衛星ブロードバンドの「Starlink」を活用した、「どこでも、素早く、広い範囲」にauエリアを構築するソリューション「Satellite Mobile Link」により、映像を用いたドローンの遠隔制御も可能にするauのモバイル通信環境を確保しました。
2.スマートドローンツールズとAirTruckの活用
「スマートドローンツールズ」の運航管理システムと物流専用ドローン「AirTruck」を組み合わせることにより、遠隔制御による機体の飛行、離発着、荷下ろしを可能としました。
・スマートドローンツールズ
KDDIスマートドローンが開発した、ドローンの遠隔制御や自律飛行、映像のリアルタイム共有を可能とするシステム。
・AirTruck
エアロネクストがACSL社と共同開発し、ペイロード5kgに対応した日本発の量産型物流専用ドローン。物流用途に特化してゼロから開発した「より速く、より遠く、より安定した」機体。エアロネクストの空力特性を最適化する独自の機体構造設計技術4D GRAVITY®により、荷物の揺れを抑え安定した飛行を実現。遠隔操作による荷物の切り離し、荷物の上入れ下置きの機構など、オペレーション性にも優れる。日本経済新聞社主催の「2022年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞」を受賞。
■今後の展望
通信不感地域におけるドローン定期配送の運用ノウハウを蓄積し、中山間地域や災害時などの通信環境が不安定な状況においても、ドローン配送を実現可能とするソリューション構築を検討していきます。これにより、全国の様々な地域・環境下でのドローン配送の社会実装を目指します。
いわゆる空飛ぶクルマなどの次世代エアモビリティなどを開発している株式会社SkyDrive(愛知県)は1月24日、兵庫県と、次世代空モビリティとして期待される空飛ぶクルマの早期実現に向けた取り組みを進めるため「連携と協力に関する協定」(連携協定)を締結した。兵庫県は提携の席上、空飛ぶクルマなどの社会実装を進めるため、2025年の大阪・関西万博での飛行実現も視野にいれながら、県として社会受容性の向上、ポート整備支援、事業開発支援の3つの切り口で取り組む方針を発表し、4月からの2023年度以降に「次世代空モビリティ会議」の運営を始める方針を明らかにした。齋藤元彦知事は、「取り組みを通じ、子供たちに夢をあたえたい」と述べた。
SkyDriveは、2025 年の大阪・関西万博開催にあわせて、大阪ベイエリアで空飛ぶクルマを使ったタクシーサービス(エアタクシー)の実現を目指していて、大阪府、大阪市とは2021 年 9 月に「空飛ぶクルマ」実現に向けた連携協定を締結している。これに基づき、社会受容性向上活動や、実証実験を進めている。飛行エリアを淡路島、瀬戸内エリアに広げることも展望していることから、今回兵庫県とも連携協定を結ぶことになった。
連携協定の目的は、「空飛ぶクルマの開発と社会実装に取り組むことにより、科学技術の発展、イノベーションの創出、地域活性化、産業振興、防災・減災及び 2025 年大阪・関西万博に向けた機運醸成を推進すること」。①空飛ぶクルマの機体及び事業開発に資する実証②空飛ぶクルマの社会実装に向けた環境整備③空飛ぶクルマに係る情報発信など社会受容性の向上④空飛ぶクルマに関わる産業のエコシステム形成ーが内容だ。
兵庫県は席上、空飛ぶクルマなどの実装に向けた取り組みを紹介した。短期目標を万博開催時の兵庫県での飛行、長期目標に県内での関連産業のエコシステム形成を掲げ、社会受容性向上、ポート整備支援、事業開発支援の3つの側面について、2023年度、2024年度、2025年度、2035年ごろまでの時系列で取り組み案を整理した。
社会受容性向上について、2023年度内に「次世代ソラモビリティ会議」を設置して諸課題の検討を進める。ポート整備支援では2023年度に候補地を選定、2024年度には事業者の探索を展望する。事業開発支援では2023年度にメーカー以外の運航事業者、サービス事業者なども含めた事業モデルを調査するほか、ヘリコプターでの実証、デモ飛行などの十進を補助する取り組みを進める計画だ。
2025年の万博開催時に大阪・兵庫間や兵庫県内の拠点間移動の実現を見据えるほか、2035年ごろにかけて、使途の多様化、飛行エリアの拡大、ビジネスのすそ野の拡大、開発製造、整備、人材育成などの拠点形成を含めたエコシステムの形成を目指す。
斎藤知事は「社会に受け入れられる乗り物にしたい」と述べた。
■齋藤元彦・兵庫県知事のコメント
兵庫にはベイエリアを中心とする海、山、川という多様なフィールドに加え、航空機産業の集積もあります。これまでのドローンの実証実験で培った知見を活かし、空飛ぶクルマの実現に向けた取組をこれから進めていきます。令和5年度には、空飛ぶクルマの社会実装に向けた予算を確保し、次世代空モビリティひょうご会議(仮称)を立ち上げ、社会受容性の向上、ポート整備支援、事業開発支援を行っていきます。SkyDriveさんとは万博 1000 日前イベントで縁ができ、連携協定締結に至りました。これからも共に歩んでいきます。
■福澤知浩・株式会社SkyDrive 代表取締役CEO のコメント
兵庫県とは、これまで、実験機「SD-03」の展示や講演を通じて、空飛ぶクルマの社会受容性を高めるための活動を一緒に実施させていただいてきました。今回の協定で空飛ぶクルマの関西圏から淡路、瀬戸内へと広域化の実現に一歩近づくことができました。兵庫県は神戸空港やコウノトリ但馬空港もあります。ベイエリアから淡路島にかけては交通需要も見込め、空飛ぶクルマの運航に理想的な場所と感じております。空飛ぶクルマの実現により便利さと楽しさの提供に加え、防災機能の強化、地域活性化など、皆様の期待に応えられるよう推進して参ります。
通信インフラ大手株式会社ミライト・ワン(東京)のドローン事業を担う子会社、株式会社ミラテクドローン(東京)は1月24日、一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)と一般社団法人日本 UAS 産業振興協議会(JUIDA)が開発した高層ビルなどの外壁点検専門カリキュラム「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」の講習を開始した。このコースの開講の第1号となる。あわせてJUIDAの鈴木真二理事長がミラテクドローンの佐々木康之社長に開講証書を手渡した。コースではドローンを細いケーブルに係留させて飛行する方法などを学ぶ。都市部にある高層ビルなどの外壁点検で頭痛の種となっている時間、コストなどの課題の解決、負担軽減が期待される。修了者は「ドローン建築物調査安全飛行技能者」となる。
「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」が開講したのは、ミライト・ワンの人材育成拠点、みらいカレッジ市川キャンパス(千葉県市川市)。受講生3人が3日間のカリキュラムの初日の講座に臨んだ。2日目、3日目には実技講習が行われ、最後に確認テストが行われる。修了を認められた受講生には、手続きのうえJADA、JUIDAが「ドローン建築物調査安全飛行技能者証明証」を交付する。
ミラテクドローンは開講にあわせて報告とカリキュラムの説明会を実施した。佐々木社長は「人材育成に力を入れている中で、近年は応用コースの要望が増えており、特に建築関連の問い合わせが多い。開講したコースで貢献したい」とあいさつした。JADAの本橋健司会長は「昨年4月に施行された建築基準法12条の定期報告制度のガイドラインで、ドローンの活用が盛り込まれたが、従来の打診と同等の精度が求められる。このコースで、都市部でも外壁にドローンを接近させて、安全を確保しながら飛ばす方法を身に着けて頂くことで、外壁点検のコスト削減、合理化が図られたらいいと思っている」と述べた。
JUIDAの鈴木理事長は「2022年12月の改正航空法の施行でレベル4飛行を可能とする制度がスタートしたが、実際には都市部での飛行はハードルが高い。このコースは係留飛行させる技能を身につけることで都市部での点検にドローンを使うことに道を開く」と、都市部でのタワーマンションなどの外壁点検が抱える課題の解決を期待した。
コースの中心となる技術は、機体と地上の固定点とを細いケーブルでつなぐ「1点係留」と、ビル屋上からはりだしたつり竿と、地上の固定点との間にはったケーブルを、ドローンに取り付けたストロー状の中空のアタッチメントを通すことで、機体の暴走リスクを管理する「2点係留」を用いる方法。
JADAの宮内博之副会長は、「これにより安全技術を構築し、発注者の心配を抑える第三者視点の安全を両立できる」と説明した。コースでは機体操縦、安全管理責任者、係留操作者、補助者の4つの役割と、それぞれが協力しあうチームビルディングについても伝える。ドローンやカメラについて、要求される要件について伝えるものの、機体の具体的な制約はないという。
ミラテクドローンの谷村貴司取締役教育事業部長は、「座学で安全管理、撮影の知識、係留の知識、飛行計画書などを学び、実技で安全管理、筆耕技術、撮影技術、係留技術などを学ぶ。参加者は役割を交代しながらぞれぞれの責任を身に着けることになる」と説明した。
JUIDAの操縦技能証明証と安全運航管理者証明証を取得していて、JADAの建築ドローン安全教育講習を修了していることが受講条件。2022年12月に運用が始まった操縦ライセンスを取得している場合、JUIDAの操縦技能証明証にかえることが可能という。受講料はミラテクの場合、1人あたり39万6000円だ。
ドローンで外壁点検をする場合、建築基準法の要件を満たし「12条点検」であることが必要だ。要件を自力で満たす選択もあるが、ドローン建築物調査安全飛行技能者コースは12条の要件を身に着けられるようカリキュラムが組まれており、証明証の取得は、12条点検と認められる近道となる可能性がある。
ホバーバイク開発で知られ、運航管理システム開発を手がけるA.L.I.Technologies(東京)は、2022年12月、ドローン2機の同時遠隔管理を、千葉・幕張新都心と千葉・船橋沿岸の物流拠点の間で実験した。株式会社エアロジーラボ(大阪府)の2時間超の航続飛行が可能なハイブリッド機「Aero Range Quad(エアロレンジクアッド)」を、A.L.I.の運航管理システム「C.O.S.M.O.S.(コスモス)」と連携させ、C.O.S.M.O.S.の監視のもとで安全に飛行させることができるかどうかを確かめた。ルートには往来のある道路にかかる橋やJR京葉線があり、飛行中に安全確認のために上空で一時停止をさせた。また、互いに距離をとったすれ違いをする場面も組み込まれ、安全を確保して飛行できることを確認した。A.L.Iとエアロジーラボは正式に業務提携も発表し、今後、レベル4飛行を安定して安全に可能にする方法をさらに検証する。
飛行実験は2022年12月に行われた。ルートは船橋市の沿海部にあるSBSロジコム株式会社⻄船橋⽀店の屋上と、千葉市の幕張新都心にある若葉3丁⽬公園を、海岸線や河川をつたって結ぶ約13㎞。ルートの途中には、千葉市美浜区の花見川河口に架かる道路橋、美浜大橋や、JR京葉線を縦断する場所がある。
飛行実験では、船橋側と幕張側とそれぞれからAero Range Quadが同時に離陸し、もう一方を目指して飛行させた。上下線は安全な距離を保ち平行して設定された。このため海岸線を飛行中に、両機がすれ違う場面ができた。また、美浜大橋、JR京葉線の上空を通過するさいには、安全確認をするため上空で一時停止し、若葉3丁目公園に設置された管理センターに待機しているオペレーターが、C.O.S.M.O.S.のリアルタイム画像で、往来を確認した。人の往来や電車の通行がないことを確認して上空を通過することが可能なことを確認した。
またA.L.I.は実験のさいに、上空LTEの電波干渉や電源の入らないブラインドスポットを把握するため、航路を設定する予定の空域で電波を実測している。今後、人の往来のあるエリアでの上空についても実測をすすめ、物流などのためにドローンを活用できるネットワークの構築を目指す。
今回の飛行に使われたAeroRangeQuadは、ハイブリッドドローン開発のエアロジーラボの主力機で、混合ガソリンを燃料とする空冷2サイクルエンジンを発電機として電力を供給する、4ローターのマルチコプターだ。積み荷がない場合で140分の長時間航行ができる。また5㎏までの荷物の搭載も可能で、その場合も120分の飛行ができる。国内で組み立てられた国産機であるという特徴も持つ。ローター間の長さは1280mmで、折りたたむと810mmになる。同社はハイブリッド機を「AeroRange」ブランドでシリーズ展開しており、より重い積み荷の搭載が可能なAeroRangeProも注目されている。
今回の実験ではAeroRangeQuadを活用。飛行中に安全確認のため空中で一時停止をしても、航続時間に余裕がある状態で目的地に到達できた。
エアロジーラボの谷紳一代表取締役CEOは「遠隔制御を実現させるために、今後は運航管理システムとの連携が必要になると考えていて、今後進めていきます。この実験では、社会実装をするうえで機体に求められる能力として、上空でどれぐらい待機できるかが重要であると再認識しました。地上、通信など上空待機が要求される場面は織り込まなければなりません。長い航続時間は社会実装に重要になると思います」と話している。
機体と連携させたC.O.S.M.O.S.はA.L.I.の独自開発したシステムだ。登録済みの機体について、機体所有者や⾶⾏位置の情報をリアルタイムでチェックできる。将来的には遠隔操作でドローン⾶⾏を制御できる機能の搭載も目指し、今後の⽬視外⾶⾏を前提としたドローンの社会実装を⽀えるシステムとなることを目指している。
A.L.I.の片野大輔代表取締役社長は、「事故なく終えることができ、都心で当たり前に飛ぶ姿を打ち出せたことが成果だと感じています。今後、社会受容性を高めるうえでのマイルストーンになると思います。今回は川の上空だけでなく、内陸にまで飛ばしたこともあり、地元からも実際に意味のあるルートで飛行させるところまで来た、という評価を聞くことができました。JR上空を飛行させるさいに、リアルで電車が通っているかどうか確認することもでき、今後の開発や実装に貴重な経験になったと考えています」と話した。
またA.L.I.とエアロジーラボは2022年12月28日、業務提携を正式に発表した。配送利用について当面の主戦場になるとみられる中山間地域や離島間などの過疎地域での社会実装を促進するため、長時間飛行の強みを持つエアロジーラボの機体と、遠隔管理が可能なA.L.I.のC.O.S.M.O.S.との連携を強化する方針だ。
自律ドローン開発の株式会社ACSL (東京都江戸川区)は、国連の専門機関、万国郵便連合(UPU)の諮問委員会(CC)にドローン企業として世界で初めて参加することになったと発表した。UPUもACSLをCCのゴールドメンバーになるための申請を承認したと発表した。UPUは世界192か国の郵便当局が加盟する、国連で2番目に歴史のある専門機関で、ACSLは今後、CCのミーティング参加などを通じて、UPUに対して提言することになる。UPUCCはUPUの共通の利益のために提言する民間企業など非政府組織で構成され、日本の参加者は現時点ではACSLが唯一だ。またドローン開発の企業もACSLだけで、今後、世界の郵便行政に対するACSLのプレゼンス拡大が期待される。
ACSLがゴールドメンバーとして参加が認められたのは、UPUが民間の見解を募るために組織したCCと呼ばれる諮問委員会だ。現在、世界で16の民間企業や団体の参加が認められている。承認の要件には各国の郵便当局や事業者の推薦が含まれ、ACSLは日本郵便株式会社とのドローン配送など連携した取り組みが豊富なことから、要件を満たしたとみられる。UPUの公式サイトは現時点で、CCの新メンバーを紹介する「New Member announcement」欄の筆頭でACSLを紹介している。なお日本郵便は民間企業だが、郵便当局としてUPUの本体に加盟している。
CCメンバーは、①政策・規制②貨物・輸送③税関と製品安全④宛名書きとダイレクトマーケティング⑤電子商取引⑥郵便金融サービスなどのテーマに沿って、郵便セクターの利益に貢献する提言が期待される。ACSLは日本郵便株式会社(東京)と連携して配送サービスの実証実験や実装を推進しており、今後はこうした経験や成果をふまえた提言が期待される。
CCメンバーはゴールド、シルバー、ブロンズの3クラスがあり、ゴールドメンバーには全メンバーに認められるCC総会(CC General Assembly)への参加に加え、UPUの文書、出版物、データベースへのアクセスや、大会イベントやレセプションのスポンサーになる権利が認められている。なお次のCC総会は、2023年5月1日から12日に開催が予定されている。
ACSLの発表は以下の通りだ。
■ 万国郵便連合は192カ国の加盟国を持つ国際機関で、ACSLはドローン関連企業としては世界で初めて加盟
■ 世界各国における郵便・物流サービスのシステムやガイドラインなどの標準化や、ラストワンマイル配送などの課題解決に、唯一のドローン企業として貢献していくことを目指す
国産ドローンメーカーの株式会社ACSL (本社:東京都江戸川区、代表取締役社長:鷲谷聡之、以下、ACSL)は、本日、国連専門機関である万国郵便連合(Universal Postal Union、以下、UPU)の諮問委員会(Consultative Committee)に、ドローン関連企業として世界で初めて加盟しました※ので、お知らせします。
UPUは192カ国の加盟国を持ち、郵便業務の効果的運営によって諸国民の通信連絡を増進し、文化、社会及び経済の分野における国際協力に寄与することを目的とする国連専門機関です。ACSLは、2018年に航空法が改正された際に、日本郵便株式会社と一緒に日本で初めてレベル3飛行(補助者なし目視外飛行)を実現し、2022年12月にはレベル4での運用を前提とした新たな物流専用ドローンを発表するなど、ドローンを活用した郵便・物流の課題解決に積極的に取り組んできました。
そうした取り組みが評価され、この度、UPUにドローン関連企業としては世界で初めて加盟を認められました。本加盟により、世界各国におけるドローンを活用した郵便・物流サービスに関するシステムやガイドラインなどの標準化、日本がこれまで実施してきたドローンを活用した郵便・物流サービスに関する実証を、連携しながら各国へと展開していくこと、そして、世界各国での郵便・物流サービスの動向に関する情報収集や日本での活動に関する情報発信が可能となります。
今後、共通で抱える課題であるラストワンマイル配送へのドローンの活用など、ACSLが持つ技術や経験を活かして課題解決に貢献できるよう、目指してまいります。
※UPU Consultative Committee
https://www.upu.int/en/Universal-Postal-Union/About-UPU/Bodies/Consultative-Committee
UPU事務局長 目時 政彦氏 コメント
国際郵便の可能性を広げる手段として、ドローンには非常に期待をしています。そして、日本においてドローンデリバリーを日本郵便社と連携しながら実装に向け取り組むACSLには、実証実験による知見が多く蓄積されており、これから国際郵便における各種課題の早期発見や対策の検討などに一緒に取り組んでいける存在としてとらえております。事務局長として、今回のACSLの加入を大いに歓迎いたします。
代表取締役社長 鷲谷 聡之 コメント
ACSLが国際的な機関であるUPUへの加盟できたこと、目時事務局長をはじめ、関係各位に感謝申し上げます。
加盟にあたり、スイスのベルンにあるUPU本部に訪問させていただきました。昨今のeコマースの発達と普及により、世界各国が抱えるラストワンマイル配送の課題は、決してそれぞれの国だけの課題ではなく、国際的な課題として捉えて、解決に取り組んでいかなければいけないと感じました。そして、ドローンを活用することによって、そうした課題の解決に貢献できるのではないかという手ごたえも感じることができました。ACSLは、UPUに加盟する世界初のドローン関連企業として協力体制を構築し、公正で開かれた国際的な郵便・物流サービスへの貢献はもちろんのこと、日本国内の技術・サービスの発展にも貢献したいと考えております。
【株式会社ACSLについて】 https://www.acsl.co.jp/
ACSLは、産業分野における既存業務の省人化・無人化を実現すべく、 国産の産業用ドローンの開発を行っており、特に、画像処理・AI のエッジコンピューティング技術を搭載した最先端の自律制御技術と、同技術が搭載された産業用ドローンを提供しています。既にインフラ点検や郵便・ 物流、防災などの様々な分野で採用されています