政府主導でドローンや空飛ぶクルマの社会受容性向上を目指す「第2回ドローンサミット」が9月7、8日、JR長崎駅西口直結の大型展示会場、出島メッセ長崎で開かれる。併催イベントとあわせ80の出展ブースが並び、講演、シンポジウム、デモンストレーションが行われる計画だ。9月8日には、五島市で島々の物流に使われているドローンが長崎市内に荷物を運ぶデモンストレーションを予定している。入場は無料で、現在公式サイトで入場申し込みを受け付けている。
第2回ドローンサミットは経済産業省、国土交通省、長崎県が主催する催事で、昨年(2022年)9月、内閣官房が主導し神戸市で開かれた第1回ドローンサミットに続く開催だ。会場の出島メッセ長崎は2021年のオープン時にこけらおとしイベントの一環としてドローンの体験会を開催するなどドローンと接点を持つ会場として知られる。
今回の開催は「ながさきデジタルDEJI-MA産業メッセ2023」、「ながさき半導体産学コネクト」が併催される。大分県ドローン協議会、京セラ株式会社、一般社団法人日本UAS産業振興協議会、豊田通商株式会社とそらいいな株式会社、株式会社シーエーシーがゴールドスポンサーとして開催を支えるほか、ヤマハ発動機株式会社、ブルーイノベーション株式会社など10機関がシルバースポンサーとして名を連ねる。
併催展を含め80のブースが準備される予定で、大分県ドローン協議会のブースには、協議会を構成する株式会社オーイーシー、ciRobotics株式会社、株式会社ノーベル、柳井電機工業株式会社、おおいたドローンプラットフォームXROSS、大分県がそれぞれの成果を展示する。テトラ・アビエーション株式会社が空飛ぶクルマの実寸モデルを展示するほか、そらいいなと豊田通商が五島列島で運用している医療用医薬品配送サービスに活用している米ジップライン社の機体を展示する。
そらいいなは2日目の9月8日、五島市の発着拠点から長崎市内まで海上航路を約100km飛行し、品物を届けるデモンストレーションも実施する予定だ。株式会社ACSLによるSOTENのデモフライトや、自律型洋上中継機の無人会場航走も計画されている。
ステージ関連では、九州各県がドローンの取り組みを披露するパネルディスカッション「九州・沖縄自治体最前線」や、空飛ぶクルマ開発のテトラ・アビエーション、株式会社SkyDriveの担当者が登壇するシンポジウム「空飛ぶクルマへのチャレンジ~如何にして“舞い上がる”か~」を、五島市の担当者がモデレーターを務め2022年度のNHKのドラマ『舞い上がれ』を連想させる仕立てが話題を呼びそうだ。ほかにもエアロネクスト、そらいいな、日本郵便株式会社と空の物流に取り組む事業者が登壇するセッション、長崎県の空クルにテーマをしぼったセッション、九州以外の自治体が登壇し社会課題解決を語るセッションなども展開される。
小学生から大学院生までを3部門に分け、牛肉など長崎県の特産品の獲得を目指すアイディアコンテストは2日目の9月8日に表彰式が行われる。
■ながさきデジタルDEJI-MA産業メッセ2023/第2回ドローンサミット/ながさき半導体産学コネクト(参加登録はこちら)
https://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/shigoto-sangyo/johoka-it/digital-dejima/
■「第2回ドローンサミット」
https://www.pref.nagasaki.jp/object/event-koza/event/624389.html
JUIDAが「出島メッセ長崎」でドローン体験会 長崎市の田上市長も操作に挑戦
「第1回ドローンサミット」開催 内閣官房ドローン室が地元・兵庫県と初主催
独自の創意工夫で移住、定住を推進し、成果をあげている境町(茨城県)は4月5日、フードデリバリー大手の株式会社出前館(東京)、ドローン技術開発の株式会社エアロネクスト(東京)と連携協定を締結した。この日は出前館のサイト上に、境町の商店が扱う食品、日用品などの商品を集約できるバーチャルショップ「SkyHub Delivery境町店」が開店し、配達エリアにいる利用者がアプリや電話で注文すると、ドローンやトラックを使い分けて効率よく注文の品物が届けられるサービスを受けられるようになった。この日は協定式と出発式が行われ境町の橋本正裕町長が最初の注文を実演し、出前館のロゴがついたエアロネクストの物流ドローン、AirTruckが地元で焼かれたピザを乗せて離陸した。境町にとっては町民生活の利便性向上を期待する取り組みで、境町は地元の商工会と連携して商店に加盟や商品登録を呼び掛けるほか、クーポンの活用など利用促進を図る方針だ。ITツールやドローンに不慣れな利用者が注文をしぶる“注文ハードル”の引き下げへの効果にも期待が寄せられている。
協定式と出発式が行われた境町は、鉄道の駅がないことによる利便性の不足を、子育て補助、英語教育支援、自動運転バス運航など独自の創意工夫で補う意欲的な政策を打ち出していることで全国的に知られる。買い物に不便を感じる買い物弱者の増加を抑えるため、ドローンを使った配送の導入にも早くから前向きで、この日の協定で、その具体化の第一歩に踏み切った。
デジタルツールには初心者や高齢者が敬遠しがちと言われがちなことから、いわゆる「注文ハードル」を乗り越える期待も寄せられる。その中で今回の協定式と出発式は関係者が多く出席するなどにぎわいが演出され、初めての利用者が興味をひくとみられる。
境町役場内で行われた協定式では境町の橋本正裕町長、出前館の藤井英雄代表取締役社長、エアロネクストCEOで同社の物流子会社、株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)代表取締役を兼ねる田路圭輔氏が協定書に署名した。この様子を、境町幹部職員、町議会、境町商工会、昨年(2022年)10月3日に境町、エアロネクストとともに「ドローン、自動運転バスを含む次世代高度技術の活用に関する協定」に署名したセイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)の河合秀治執行役員、BOLDLY株式会社(東京)の星野達哉氏、株式会社セネック(東京)の和歌良幸副社長も見守るなど、会場には関係者が集結した。
協定式後の出発式は、境町役場から約2キロの道のりの旧ゲートボール場で行われ、協定式参加者に加え、来賓、地域関係者を含め100人を超える参加者が新サービスの門出を祝った。会場には式典用のテント、ランディングパット、神事用の八本足などの神具も設営された。式典では橋本町長をはじめ関係者のあいさつのほか、永岡桂子文部科学相、若宮健嗣前万博相の祝電が披露され彩を添えた。ドローンの安全祈願の神事が地元香取神社の神職も執り行われ、参加者の期待を高めた。
橋本町長は式典の最中、促されて着席のままタブレット操作して出前館での注文を実演すると、これを合図に地元のピザ店で焼かれたピザがトラックで運ばれ、容器ごとドローンに積まれた。離陸準備が整ったところで、協定式に調印した橋本町長、出前館の藤井代表、エアロネクストの田路CEOがボタンを押すセレモニーを行い、出前館のロゴの入ったドローン、AirTruskが離陸した。
境町の橋本町長は式典で「協定は、ドローンを使った配送サービスを取り入れることで、日々の生活に困らないようにするためです。かつて栄えていた場所で人口が減り、高齢化が進み、不便だから移ると言って他の自治体へ引っ越してしまう状況も出ています。今回の協定で、さまざまな物が届くようになります。課題を少しずつ解決し、住み続けたい町づくりを目指していきます」と述べた。子育て、給食費補助、英語教育、自動運転バス、効果的なふるさと納税など独創的な政策を次々と牛出してきた橋本町長の発言で、この事業は「住み続けたい町」の一端を担うことになった。
エアロネクストの田路CEOは、「今回の取り組みのコンセプトは“町まるごと出前館”で、このような取り組みは今回が日本で初めてです。これまで出前館の配送サービスは大都市中心でしたが、これからは校外の社会課題解決のサービスにもなります。今回の取り組みで地域の課題解決に役に立つとともに、出前館のサービス空白地域の解消に進んで参ります。境町が運航している自動運転バスとの連携も検討しています。ドローンの飛行も現在のレベル3ですが、レベル4への準備も進めています」と述べた。
出前館の藤井社長は「市街地以外もカバーすることで、高齢者や買い物難民に生活必需品を届けていきたいと考えています」と述べた。藤井社長は、機体価格が下がれば、郊外型ビジネスでも採算性が展墓できる可能性があると見込む。一方で、初心者や高齢者がIT機器を敬遠することなどが理由で利用をしぶる「注文ハードル」を課題にあげ、今後、引き下げへの対応を模索する考えだ。一問一答は以下の通り。
Q 今回は校外での事業となるが、境町での事業の意義は
藤井社長 「コストの中では機体金額が占める比率が大きいので、電気自動車が出たころのリチウム電池に似ている状況かと思います。当初は高かったものが下がってきました。機体の金額も下がれば運航コストが下がります。そこはエアロネウストさんが試算しています。現状では配送は人海戦術です。自転車やバイクで運んで頂き、お1人あたる500円とか600円とかをお支払いしているのが現状ですが、ドローンだと機体の金額を含めても100円とか200円とかになることが見込めます。時代が進めばコスト効率は良くなると思います。それ以外に規制緩和も含めて、われわれとして取り組まないといけないことは多くあります。市街地では自動配送ロボットの利用などが検討要素になるかと考えています」
Q 幅広い選択肢から選ぶ基準は
藤井社長 「まずは安全性。あとは考えられるハードルが低いものをテストして決めて行くことになると思います」
Q 定着には利用者が実際に注文するかどうかが重要と聞きます
藤井社長 「これも今回を含めてテストしてみていくことになります。今回、配送時間帯を一日に2回に設定している理由には、そういった意味もあります。今後クーポンを使って利用者が使いやすくなるかどうかも見ていきたい。スマートフォンに慣れていない地域もあって、最初の注文ハードルさえ下げていけば、その後も注文して頂けるのではないかということは、いままでの実験で実証できている部分があります」
Q 境町の取り組みの印象は
藤井社長 「橋本町長のリーダーシップで、商工会も含め幅広い団体の方にご参加頂けました。加盟店リストにある地元の名店は、自治体が入っていなければなかったでしょう。私たちの営業だけでは難しかったと思います。つながりの強い地域では特に自治体と連携する強みを感じます。今回も橋本町長がきっかけを作ってくれたと聞いています。境町での取り組みは、ここでスタートさせたことをある程度パッケージ化して、他の地域にも展開していければよいかなと考えております。他地域に導入するさいのスピードもあがると思います」
Q 出前館のサービスとしてラインナップに入る可能性もある?
藤井社長 「そうですね。私たちがこれまでサービスエリアにできなかったところをエリアにできる、ということが、ビジネスの観点ではあります。コロナをこえて一過性のサービスではダメだです。わたしたちのサービスが継続的に拡大できるようにするには、ユーザー、自治体、事業者のみなさまに、選ばれて愛されるサービスでないといけないと本質的には思っています。その中で社会課題解決にわれわれのサービスが寄与することはすごく重要だと思います。とくに自治体さまとは、その地域の課題解決になるソリューションの一部として、われわれのパッケージをお届けできたらいいなと考えています」
ドローン配送をトラックや鉄道など既存交通手段と組み合わせて、効率性、利便性の向上と環境負荷の低減を図る「新スマート物流」の実証実験が、群馬県安中市で行われた。市内の3カ所にドローンの離着陸地点を設置し、ドローンが3地点を巡回し、荷物を届けては受け取り、次の目的地に届けた。野菜を届けた先では医薬品を積み込むなど空荷にならない配送の効果を検証した。あわせて群馬県外の漁港で水揚げされたアンコウをタクシー、新幹線とリレーして、調理施設のある拠点に運び、調理した弁当をドローンで届ける配送も試した。ひとつの実験としては多くの要素をぎゅっと詰め込んでおり、関係者は「目標としていたことをすべて遂行できた」と話した。今後、成果や課題を洗い出す。
実験は安中市、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)、株式会社エアロネクスト(東京)が実施。実験の拠点会場となった旧九十九小学校の講堂には「安中市ドローン配送実証実験出発式~10 年後、 20 年後の未来の為に」と書かれた横断幕が掲げられ、あいさつに立った安中市の岩井均市長らが実験の趣旨を強調した。3者は2022年 10 月 4 日にドローンを含む次世代高度技術活用で地域課題の解決に貢献する新スマート物流の構築に向けた包括連携協定を結んでいる。この実験は協定に基づく取り組みの第一弾だ。国土交通省の「CO2 削減に資する無人航空機等を活用した配送実用化推進調査事業」を活用した。
地域自主組織や地元事業者と連携し、地元の課題を解決することが特徴で、採算性の検討を軸に、貨客混載、オンライン診療の有効性を検証した。
実施したのは2月8日、安中市内の廃校となった旧・九十九(つくも)小学校、碓氷病院、ゴルフ場THE RAYSUMを結ぶルートを設定して行われた。旧九十九小学校を配送拠点みたて、周辺で収穫された野菜を積み、ゴルフ場に配送。野菜を届けて空いた荷物室にゴルフ場のクラブハウスにあるキッチンで調理した弁当を積んで、碓氷病院に届けた。碓氷病院では届けられた弁当を自転車で近所のスーパーに運んだ。また碓氷病院で弁当をおろして空いた荷室に、病院が院内薬局で処方した医薬品を乗せ、遠隔診療をした患者の待つ旧九十九小まで届けた。
なお、ゴルフ場THE RAISUMには、九十九小学校から運ばれた野菜とは別に、新潟県糸魚川市から、地元特産のアンコウも届いた。アンコウは糸魚川で水揚げされ鮮魚店で並んでいたもので、スタッフが地元のタクシーを使ってJR糸魚川駅までお運び、そこから安中榛名駅まで新幹線で運び、駅からゴルフ場まではセイノーグループが運んだ。ゴルフ場に届いたアンコウは、ゴルフ場内のクラブハウスのシェフがキッチンで調理して唐揚げにして、弁当おかずに加わった。
また、ゴルフ場では、クラブハウス前から、場内のあずまやまでできたてのラーメンを運ぶ実験も実施した。ラーメンはラップをかけて容器にいれて、ドローンに納められた。あずまやに届けられたラーメンは安中市の岩井均市長が試食し、「ラーメンはあんかけのサンマーメンで、あたたかくできたてそのものでした」と感想を述べた。
エアロネクストの田路圭輔CEOは「住民の利便性向上にどの程度貢献できるのかをこれからも注視していきたい。また地域の活性化には、CO2削減など環境負荷の低減を伴うことが重要だと思っていて、こちらも地道に取り組みたい」と話した。
セイノーホールディングスの河合秀治執行役員は、ドローンが到着する様子を幼稚園児たちが見物していたときの様子について「あの子たちが大きくなったときに、ドローン配送が職業として成り立っている可能性があり、それを選ぶ子もいるかもしれないと想像していた。実際に見ることも、実証実験を行う意味のひとつだと思う」と目を細めた。
ドローンを取り入れた配送サービスを展開する株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)が茨城県境町で住民向けに配送のデモンストレーションを実施した。デモンストレーションでは町内の飲食店のラーメンや弁当を配達車両とNEXT DELIVERYの親会社、株式会社エアロネクストが主に開発した物流専用ドローンAirTruckとでリレー配送をして注文者に届けた。境町は自動運転バスの運航や、2023年度中に運用開始を見込む「境町ドローンラボ・ドローンフィールド」(仮称)の設置など、住民の利便性向上にテクノロジーを生かす取り組みに積極的で、NEXT DELIVERYは、地元の利便性向上を図りながら、物流業界の課題解決やCO2削減を目指す。発表は以下の通りだ。
株式会社NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路圭輔、以下 NEXT DELIVERY)は、2023 年 2 月 28 日に、茨城県境町にてドローンを活用した新スマート物流「SkyHub」 始動に向けた取組みとして、住民向けのドローン配送サービスのデモンストレーションを実施しました。
2022 年 10 月 3 日に、境町、セイノーHD、エアロネクスト、BOLDLY 株式会社、株式会社セネックが締結した「ドローン、自動運転バスを含む次世代高度技術の活用に関する協定」を基に、セイノーホールディングス株式会社(以下 セイノーHD)と株式会社エアロネクスト(以下 エアロネクスト)が開発推進するドローン配送と陸上輸送を融合した新スマート物流SkyHubの拠点となる『ドローンデポ境町』を、2023 年 2 月 3 日に開所しており、今回のデモンストレーションはその具体的な活動の一環となります。
NEXT DELIVERY は、エアロネクストの子会社で、ドローン運航や『ドローンデポ境町』運営を含む、新スマート物流SkyHubの実質的な実施推進をしています。
【実証実験概要】
1.背景と目的
日本では、過疎化が進む地方における、公共交通の維持、物流業界の人手不足、高齢者を含む買い物難民の問題が深刻化しています。このような状況を踏まえ、地上輸送とドローン配送を連結させた新スマート物流システムである SkyHubの導入により、物流人手不足の問題を解消し、高齢者や買い物難民などの利便性向上や地域経済の活性化を図ることを目的としています。また、従来の物流手段に比べてCO2 の排出量が少なく、環境負荷の軽減にもつながります。
2.実施内容
今回の実証実験は、市街地から地上輸送とドローン配送を連結させ、境町金岡地区の住民に、『ドローンデポ境町』の並びにある山田屋のラーメンと地元の食事処 割烹ひさしの牛サーロイン弁当をドローンデポから車で約5分の旧ゲートボール場まで軽バンで運び、ドローンに搭載し、約3kmの距離をエアロネクストが開発した物流専用ドローン AirTruck で約5分飛行し、注文者の元に届けられました。
出来立てのラーメンやお弁当を受け取った稲垣さんは「ラーメンは湯気が出ていて熱々で、お店の味が畑で食べられて嬉しい。畑にも出前をしてくれるといいな」と今後への期待も込めたコメントをしています。
今後もNEXT DELIVERYは、境町において、ドローンや自動運転バスを活用した効率的な物流システムをベースに、境町の課題や市民のニーズに沿ったサービスを展開することで、物流業界の課題解決や CO2 削減を図るとともに住民の利便性向上や地域経済の活性化を目指します。
衛星ブロードバンド「Starlink」を活用したモバイル通信のドローン配送が1月26日、埼玉県秩父市で始まった。場所はモバイル通信が困難な奥秩父・中津川のエリア。昨年(2022年)9月の土砂崩れ以降、通れなくなっている埼玉県道210号線の崩落現場を挟んで中津川の上流側に住む6世帯に、日用品などを毎週1回、Starlinkで通信環境を確保してドローンで定期配送する。ドローンは崩落場所の手前から向こう側の着陸地点まで2.8㎞を5~7分で飛ぶ。初日のこの日は7分で飛び、荷物をおろして帰還した。生活に不便をきたした住民を支える災害対応の重要なモデルケースになる。秩父市の北堀篤市長は「通信環境に恵まれない山間地域のみなさんに希望を与える日本初のハードル高きミッションに取り組んでいただいきました。期待大です」と述べた。当面う回路の凍結リスクがなくなる3月末まで行う予定だ。
取り組みは秩父市、株式会社ゼンリン(福岡県北九州市)が2022年10月25日に締結した「緊急物資輸送に関する連携協定」を軸に、KDDI株式会社(東京)、KDDIスマートドローン株式会社(東京)、株式会社エアロネクスト(東京)、生活協同組合コープみらい(埼玉県さいたま市)、株式会社ちちぶ観光機構(埼玉県秩父市)、ウエルシア薬局株式会社(東京)の6社が参加して「&(あんど)プロジェクト」を発足させ、遂行している。プロジェクト名には「地域に安堵を届ける」の願いを込めた。ほかにドローンへの電源供給などでサンセイ磯田建設株式会社(秩父市)が協力企業として名を連ね、秩父市大滝国民健康保険診療所(秩父市)も、オンライン診療や服薬指導に対応する。
ドローンは、現在通行止めになっている埼玉県道210号線の崩落場所の近くから離陸する。道路を落石から守る半トンネル状の覆い「大滑(おおなめ)ロックシェッド」の手前に離発着点と、Starlinkを通信網のバックホール回線として利用するau基地局を設置して環境を整えた。機体には重心制御技術を持つ株式会社エアロネクスト(東京)が自律ドローン開発の株式会社ACSL(東京)と共同開発し、日本各地で配送の実用に使われているAirtruckを採用。機体にKDDIスマートドローンが開発したドローン専用のノイズ耐性運航の高い通信モジュール「Corewing01」を搭載し、機体制御にKDDIスマートドローンの運航管理システムを用いることにした。
KDDIスマートドローンの博野雅文代表取締役社長は「林道が閉鎖の可能性もあり飛行先に作業員を配置しない前提で、離発着、荷下ろしを遠隔で行える機体、システムを使う必要がありました。またStarlink導入のau基地局設置で、山間部でも島嶼部でもモバイル通信の提供が可能な環境も整えました。被災地域に導入する初の事例です。被災地のみなさまの生活に安堵を届けたいという関係者のみなさまの思いにこたえる貢献したいという思いです」とあいさつした。
プロジェクトを先導してきたゼンリンの古屋貴雄執行役員も「秩父市とは2018年から協定を結んで取り組んできました。ドローン配送はそのひとつです。9月13日に崩落が起き、住民の日常生活の支援、安全対応として通信確保、安全に飛べるドローンの確保のために各社の参画を頂いた経緯があります。社会的意義の高い取り組みでもあると思います。社会に貢献すべく、しっかり進めて参ります」と述べた。
土砂が崩落した現場は、国道140号線から埼玉県道210号に分岐して約3.5㎞進んだ場所だ。中津川と急峻な斜面との間を縫うように走る道路だが、中津峡にさしかかる手前で土砂崩落があり、道路を約20mにわたってふさいだ。2022年9月13日に崩落が見つかって以降、県道は通行止めとなっている。通行止めの向こう側にいまも住み続けている6世帯の必需品は、大回りする林道が頼りだが「片道2時間半から3時間かかる」うえ、冬季は凍結し閉鎖される可能性がある。
冬になるまでは、地元の宅配業者など事業者が各社個別に大回りをして届けてきた。頭の下がる努力だが、冬の凍結期を乗り越え、さらに持続可能性を高めるために、代案の構築が急務だった事情がある。今回の取り組みでは、地元商店の配達品をひとまとめにする、という工程をはさむ。これにより各事業者がそれぞれで配送していた手間を軽減することができ、持続可能性が高まる。これは配送の枠を超え、注文を受けてから、注文者の手元に届くまでの一連の流れを集約、整理、最適化した取り組みでもあり、被災地の生活支援の側面と、それを支える側である事業者の支援との両面がある。
現地では土砂崩落の復旧作業が続いていた。道路に積もった土砂を取り除けばよいのだが、実は積もった土砂の上にさらに土砂が積み重なっている。現時点ではざっと1万8000立方メートルの土砂が積もっているとみられている。狭い場所での作業で選択肢も限られる。現在は、斜面の土砂崩落やその可能性のありそうな場所に網をかける作業が進んでいる。そのための工事用モノレールが建設され、作業員が昇っていく様子も見られた。網をかけ、落石被害の危険を減らす。その後、路面に近い土砂を撤去する。上から流れ落ちてくる土砂も撤去する。当面、片側一車線の開通を目指しており、完全復旧のめどはたっていない。
準備に奔走したゼンリンの深田雅之スマートシティ推進部長も「昨年9月13日の朝に秩父市から土砂崩落の連絡があり、その日の午後に現地に入りました。それからドローン配送の検討を進めてきました。当初12月に開始の目標をたてていましたが実際には想定していたより過酷な状況で、今日まで検討を続け、やっと先週、今週になって可能な状況ができました。私たちは2018年に秩父市と提携してドローン配送の取り組みをしてまいりました。2019年には国内2例目のレベル3と呼ばれる飛行も実現し、その後も経験を重ねてきました。今回の取り組みはこれまでの経験で蓄積したノウハウを毛州させました。『&プロジェクト』は『地域に安堵を』がコンセプト。あきらめずに中津川のドローン配送実現を推進し、安堵に貢献したい。安堵とは、安全、安全がすべて確保し終えたあとにたどり着くものだと思っています。冬を乗り越え、林道閉鎖のリスクがなくなる春が来るまでやりきります」と宣言した。
秩父市産業観光部産業支援課の笠井知洋主席主幹は「(中津川の)みなさんが寂しい思いをされてきました。ところが(中津川の)みなさんにドローン配送がはじまると説明をしてから明るい気持ちになっています。この『&プロジェクト』をほかの地域にも展開できるよう願っています」と切望した。関係者によると、中津川の人々に説明を開いたさい、ドローン配送が可能になった場合に注文したいものは何か、という話題をふると、はじめのうちは買い置きでだいぶ我慢できる、という様子だったみなさんが、そのうち「たばこはほしいかな」「ビールもいいのかな」などと嗜好品をあげるようになり、表情がやわらかくなったという。
発表会や登壇の様子を見守っていたエアロネクストの田路圭輔代表取締役CEOは「このプロジェクトに参加しているみなさんはあたたかくて本気のいい人ばかり。取り組むみなさんの思いが結実し、多くのみなさんに届けば素晴らしいと思っています。われわれも全力で貢献したいと思っています」と話した。
発表は以下の通り
秩父市、株式会社ゼンリン(以下、ゼンリン)、KDDI株式会社(以下、KDDI)、KDDIスマートドローン株式会社(以下、KDDIスマートドローン)は、株式会社エアロネクスト(以下、エアロネクスト)、生活協同組合コープみらい(以下、コープみらい)、株式会社ちちぶ観光機構(以下、ちちぶ観光機構)、ウエルシア薬局株式会社(以下、ウエルシア)らとともに、2023年1月26日から、土砂崩落の影響が続く秩父市中津川地内で、Starlinkを活用したモバイル通信のもと、ドローンによる物資の定期配送(以下、本取り組み)を開始します。
本取り組みは、2022年9月に土砂崩落が発生し、物流が寸断された秩父市中津川地内の地域住民への冬季期間の生活支援を目的としています。2022年10月25日に秩父市とゼンリンが締結した「緊急物資輸送に関する連携協定」をもとに、賛同企業6社が加わり「&(アンド)プロジェクト」として連携・実施します。 ドローン定期配送の実現により、中津川地内へ食品や日用品、医薬品などを短時間で配送することが可能となります。
現在、ドローンによる物資の配送先となる中津川地内へアクセスするには、一部の緊急車両などの通行のみ許可されている森林管理道金山志賀坂線(※1)を通行する必要がありますが、冬季は降雪や凍結のため通行が非常に困難となります。また、当該地域の地形の特性上、モバイル通信が不安定な環境であるため、衛星ブロードバンドサービス「Starlink」を活用してauのモバイル通信環境を確保し、ドローンの遠隔自律飛行による物資の配送を実施します。食品や日用品など最大約5kgの物資をドローンで複数回配送し、中津川地内の住民のみなさまの冬季期間の暮らしに貢献します。
■ドローン定期配送の概要
■関係者・体制図
全国各地でドローン物流の実証・サービス実装を行うゼンリンが、プロジェクトの全体統括を担当し、技術面・配送面のノウハウを持つ各社と共に、体制を構築しました。
■配送フロー
(1)住民は、電話などで事前に商品を注文。
(2)コープみらい・ウエルシア秩父影森店、ファミリーマート道の駅大滝温泉店が、注文商品をピックアップ。
(3)各社トラックで道の駅大滝温泉まで配送。
(4)ちちぶ観光機構が、各社の注文品を個人ボックスごとに箱詰め。
(5)注文商品をドローン離陸地点まで配送。
(6)注文商品をドローンで配送。
(7)中津川地内の区長が注文商品を受け取り、各世帯まで商品を配送。
■「&プロジェクト」の命名に込めた想い
プロジェクト名には、“決して(A)あきらめずに、(N)中津川地内の(D)ドローン配送の実現を推進し、住民生活の安全・安心の確保を支援し、地域の安堵(AND)に貢献する”という想いを込めています。今回、このビジョンに賛同する8者が連携し取り組みをスタートすることになりました。
■Starlinkを活用したモバイル通信とドローン配送のシステム構成
中津川地内のドローン離発着地点には、操作者などの作業者を配置できず、また、崩落地手前の地点からは中津川地内の離発着地点を目視で確認することが出来ません。そのため、中津川地内までの飛行、機体の離発着、荷下ろしのすべてを遠隔操作で実施する必要があります。
そこで、本取り組みでは、以下の製品・サービスを組み合わせたシステムの構築を行いました。
1.Starlinkの活用
衛星ブロードバンドの「Starlink」を活用した、「どこでも、素早く、広い範囲」にauエリアを構築するソリューション「Satellite Mobile Link」により、映像を用いたドローンの遠隔制御も可能にするauのモバイル通信環境を確保しました。
2.スマートドローンツールズとAirTruckの活用
「スマートドローンツールズ」の運航管理システムと物流専用ドローン「AirTruck」を組み合わせることにより、遠隔制御による機体の飛行、離発着、荷下ろしを可能としました。
・スマートドローンツールズ
KDDIスマートドローンが開発した、ドローンの遠隔制御や自律飛行、映像のリアルタイム共有を可能とするシステム。
・AirTruck
エアロネクストがACSL社と共同開発し、ペイロード5kgに対応した日本発の量産型物流専用ドローン。物流用途に特化してゼロから開発した「より速く、より遠く、より安定した」機体。エアロネクストの空力特性を最適化する独自の機体構造設計技術4D GRAVITY®により、荷物の揺れを抑え安定した飛行を実現。遠隔操作による荷物の切り離し、荷物の上入れ下置きの機構など、オペレーション性にも優れる。日本経済新聞社主催の「2022年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞」を受賞。
■今後の展望
通信不感地域におけるドローン定期配送の運用ノウハウを蓄積し、中山間地域や災害時などの通信環境が不安定な状況においても、ドローン配送を実現可能とするソリューション構築を検討していきます。これにより、全国の様々な地域・環境下でのドローン配送の社会実装を目指します。
ドローン配送と陸上輸送を融合させた「新スマート物流Skyhub」と呼ばれる物流サービスの運用が千葉県勝浦市でも始まった。1月18日、JR外房線上総興津(かずさおきつ)駅前に、SkyHub(スカイハブ)の拠点となる「ドローンデポ勝浦市興津」がオープンし、地元商店関係者、事業者らがかけつけた。当面はカタログに載せた商品の注文を受け、環境配慮型のEVバンで配送するサービスを周辺住民に提供する。準備中のECサイトや、ドローン配送の寛容が整えば、早ければ2月にもSkyHubの融合サービスがはじまる。勝浦でのSkyhubには地元商店街組織が積極的に関わった経緯があり、地元商店街のにぎわいの創出に期待が寄せられる。Skyhubの運用は、山梨・小菅村、北海道・上士幌町、福井・敦賀市に続き4例目となる。
Skyhubは、株式会社エアロネクスト(東京)、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)が中心となって構築し、実装を進めてきた、ドローン配送と陸上輸送を融合させ、物流の諸課題の解決を図る取り組みだ。導入地域の特性や事情にあわせて地域に役立つよう調整されている特徴がある。勝浦市での取り組みは、勝浦市商店街活性化推進協議会の「新たな配送サービス構築による商店街等にぎわい創出事業」から、エアロネクストの子会社、NEXT DELIVERY(山梨県)が受託して進められた経緯があり、勝浦市商店街活性化推進協議会の目指す「商店街等ECモールサイト構築・運営」がベースになっている。ECサイトは現在構築中で、サービス開始は印刷したカタログの商品を選ぶ形でスタートした。
取り扱い商品は初日時点500品目。コンビニ、文具店、飲食店など地元商店街に参加する7店が参加し、Skyhubを通じた商品提供に賛同した。商品の一覧を掲載したカタログが対象エリアに配布されていて、注文が入ると加盟店に連絡をするとともに、待機していたEVバンでピックアップし、注文主に届ける。構築中のサイトが完成すると、参加店舗や掲載商品の拡大が期待される。利用者にはタブレット経由での注文が期待されるが、当面は電話、LINEなどの注文も併用する。タブレット利用促進のため、地域住民に使い方を教える教室を開く構想もある。
またドローンの発着場「ドローンスタンド」も整備中だ。現在、域内の「大沢地区」に届け先となるドローンスタンドを1か所確保している。離発着上の拡大で航路を整備できれば、小菅村のようなドローンの配送の組み合わせも可能になる。
1月18日には、集会所でサービス開始の記念式典とドローンの離陸場面のお披露目が行われた。商店街の活性化に取り組み、今回のSkyhub実装の旗を振った勝浦市商店街活性化推進協議会の小髙伸太会長(勝浦市商工会会長)や、照川由美子勝浦市長、セイノーHD執行役員、NEXT DELIVERY取締役の河合秀治氏、エアロネクスト執行役員でNEXT DELIVERY取締役の伊東奈津子氏、ドローンの運航管理システムなどを提供するKDDIスマートドローン株式会社代表取締役社長の博野雅文氏、EVバンや住友商事航空事業開発部長の多々良一郎氏ら関係者が謝辞、祝辞、抱負を述べた。概要説明ではオンデマンド配送、買物代行、フードデリバリーなどのサービスを展開、拡大しつつ、健康、防犯・防災などへの転用を見据え、商店街のにぎわい創出、域内物流の効率化・最適化、地域のカーボンユートラル推進などを図る展望が披露された。
勝浦市では昨年(2022年)2月11日、ご当地グルメ「勝浦タンタンメン」を集会所から1.7㎞離れた市内の別荘地「ミレーニア勝浦」まで運ぶ実証実験を行って以降、関係者と地元で実装に向けた課題の洗い出しや検証を進めてきた。
地元商店関係者は「できるテクノロジーがあり、それを使える機会がある。デジタルが苦手だといった声もあるし、不安や課題もあるが、やってみて経験を積むことに価値があると思うし、地元ではそういう声が高まっている。せっかく取り組む以上、より多くの賛同を得て、取り組みの輪を広げたい」と話している。
昨年(2022年)の勝浦でのタンタンメン配送の様子はこちら