ANAホールディングスでドローン事業を推進するデジタルデザインラボドローン事業化プロジェクトリーダーの保理江裕己氏と、機体重心制御技術「4D GRAVITY」を開発した株式会社エアロネクスト(東京)の田路圭輔CEOは、両社が5月20日に発表した物流専用ドローンの共同開発についての取材に応じた。エアロネクストの田路CEOは「今回の提携の最大の理由は航空機レベルの性能を備えるドローンを作り、配送品質を追求するため」と述べた。
両社は5月20日、政府が2022年度の実現をめざしている有人地帯での補助者なし目視外飛行に対応する物流ドローンの共同開発に向けた業務提携を発表した。提携の意味について保理江氏は、「ANAには航空機やドローンの運航に関する経験や知見はありますが、ドローンの機体を作る機能はありません。最適な機体を開発するにはその技術を持つ企業と手を携える必要があります。エアロネクストはその技術を持っています」と述べた。
また田路CEOは、物流には一般的な産業用ドローンとは違い、専用ドローンの開発が必要だとの認識を披露。その理由について「モノを輸送することには、地点間を正確に、迅速に、安全に運ぶだけでは不十分です。点検や空撮などであればそれで十分なこともあります。しかし物流ではそうはいかないことがある。その不足部分を満たすためには、専用機が必要です。そのために組む相手としては、ANAしかないと当初から決めていました」と語った。
二人は物流専用機に求める機能のひとつが「搭載物が傾かないこと」という。ANAの保理江氏は、「実験を繰風が強い日にお寿司を運んださい、安全、正確に輸送したものの、中身がくずれかけていたことがあります。輸送では搭載物の品質が問われます。崩れないように運ぶ配送品質を追求しなければいけません」と述べた。崩れないことが求められる搭載物には、ケーキ、ピザ、おでんなどの汁もの、サンドイッチなどが例示された。
配送品質を追求した専用ドローンを開発するため、ANAは、実験で得られたデータをもとに、機体に求める性能を洗い出し、エアロネクストに知見を提供。エアロネクストは重心を制御し搭載物を傾かないよう維持する「4D Gravity」の技術を活用し、物流専用ドローンに最適化するよう設計、開発する。開発した機体は、エアロネクストが国内の製造業に生産を依頼し量産化体制を構築する。現在複数のメーカー話し合いを進めている。2020年度内のパートナーシップの締結も計画している。またANAの知見を搭載した試作機も3代目(Ver.3)を制作中で、「今年の夏には飛行させる計画」という。
開発する機体は6ローター機が基本という。「それがローターへの負荷なども考えると現時点では最もバランスがいい」(エアロネクストの田路CEO)ためだ。現時点の試作機では、6ローターの配置が、中心から放射状にアームを伸ばすスタイルではなく、6つのうち4つは、本体から進行方向の前に向かって2本、後ろに向かって2本の平行するアームの先端に配置されている。
これについて田路CEOは「ドローンは一般的に、ホバリングしたら前後左右どちらにも動けます。一方で、物流では原則、一方向に進めさえすれればよい。全方位に動けることよりもたとえば、直進時に受ける空気抵抗のほうが課題として重要。この平行アームを持つフレームを“フライングフレーム”と呼び、原則は、これをベースに開発する予定で、Ver.4でも活用するつもりでいます」 現在、保理江氏との間ではVer.7あたりまでの試作を構想済みという。
また運航時には、運航を管理するための「集中管理センター」開設も視野に入る。ANAの保理江氏は、「飛行地域にとって物流ドローンはインフラになりうると考えています」と話す。田路氏は「ある場所では上昇下降が頻繁に起こり、ある場所では速度の制御が重要になり、という具合にエリアごとに要請される飛行が異なります。それぞれに最適化な機体を作り地域や物流に貢献したいと考えています」と話している。
株式会社エアロネクストは12月4日、知財を経営にいかす“IP経営”を強化するため、経営法務の全般を担う役職「イノベーティブ・カウンセル」を社内に設置すると発表した。同社は飛行中のドローンが機体の姿勢を崩さないように重心を制御する技術「4D GRAVITY」を持ち、ライセンス事業としてビジネスを世界に展開している。新たな役職の設置でグローバル展開加速に伴って必要となる業務遂行力を強化する。「イノベーティブ・カウンセル」には、竹澤大格弁護士が就任する。
イノベーティブ・カウンセルは法務に関する専門知識、技能を、同社の事業全般にわたり経営の立場でいかすポジション。就任する竹澤弁護士は、日本と米国ニューヨークの弁護士事務所で活動したのち、2014年12月から汐留総合法律事務所の所長を務め、経営法務や企業買収法務を専門にしている。田路圭輔CEOが株式会社IPGの代表取締役社長だった当時、同社の法律顧問として知財戦略と独自のライセンススキームでビジネス基盤の構築と発展に貢献した経緯がある。
エアロネクストは、重心制御技術「4D GRAVITY」を産業用ドローンの標準技術にすることに力を入れている。自社生産はせず、メーカーなどに技術をライセンスとして提供することを事業の柱にしており、ライセンスなどの知財は同社の基盤となる経営資源だ。このため社内に知財とライセンスの専門家であるCIPO(Chief IP Officer)とライセンス担当役員を置くなどの体制を構築。「権利化からライセンスまで」を一貫して内製化できる体制を整えるなど、“IP経営”を進めている。
他方、同社はグローバル化を加速させていて、今年、中国・深圳に現地法人を設立、6月には中国の産業ドローン大手MMC、ドローン物流スアートアップSMDと相次いで業務提携を結んだほか、今月には世界的に注目度を高めている深圳の南方科技大学と共同で研究開発ラボ“SUSTECH(SIR)-AERONEXT Flying Robots Technology Shenzhen Lab” を設立することを決めた。グローバル展開の加速に伴い、増加が見込まれる契約、申請など関連業務への対応や、業務遂行力の強化のため、「イノベーティブ・カウンセル」の設置で体制を強化する。
エアロネクストは、2017年4月の会社創立からこれまでにすでに約250件の特許を出願。これらを経営の中心にすえてグローバルにライセンス展開するビジネスモデルは各方面から高い評価を受け、国内外で多くのアワード、コンテストで優勝、入賞を果たしている。
ドローン技術の発明、開発と実装を手掛ける株式会社エアロネクスト(東京都、田路圭輔代表取締役CEO)は、千葉・幕張メッセで開催中のIoTの祭典「CEATEC 2019」で、人が乗るドローン「Next MOBILITY®」の3分の1サイズの試作機を公表し、コンセプトを発表した。人々が手軽にドローンによるフライトを娯楽感覚で味わう『空飛ぶゴンドラ』で、田路CEOは「移動などの利便性を主目的とする従来のエアモビリティの概念とは一線を画し、空を飛ぶ楽しさや解放感などの飛行体験を提供する機体」と説明した。10月15日に展示ブースで行われた発表会には来場者や報道陣など約30人が訪れ説明に耳を傾けた。
Next MOBILITY®は、回転翼と固定翼の特徴をあわせもつハイブリッド型の VTOL(垂直離着陸機)で、同社独自の重心制御技術「4D GRAVITY®」と、新開発のVTOL向け重心制御技術「ティルトボディ®」を搭載したことが特徴。人が乗り込むキャビン部分に、機体の傾きが伝わらないように「分離結合」してあり、ボディが傾いても、キャビンは水平を維持する。
公表された3分の1サイズのモデルは、全幅1,380mm×全長1,400mm×全高700mm、重量8,200g 定員は1名。ドアは2面両開き。実運用機は複数人が乗ることを想定しているという。
発表会で田路代表は、「従来のエアモビリティや空飛ぶクルマのコンセプトは、やや遠い未来を議論している印象があり、移動革命の手前に実際の運用の回答があるのではないかと考えてきました。実際、エアモビリティには機体の基本性能のほか、バッテリー、飛行時間、規制などの難題があり、中でも一番の難関が一般の人々が、『クルマが空を飛ぶ』という概念を受け入れられるかだと感じています」と述べ、従来コンセプトと異なるアプローチの必要性を指摘した。
そのうえで「私は、利便の前に、空を飛ぶ体験が必要。観覧車のゴンドラが空を飛ぶという拡張体験が移動革命の最初の一歩と考えました。『分離結合』構造があれば、キャビンが傾かず、飛行機とも違う快適なゴンドラで空の旅を実現できます」と、飛行体験を主目的にした機体の意義を説明した。
実運用については「2023年がターゲット。政府が閣議決定をしたエアモビリティの社会実装の年度。多くの人が空を飛ぶ体験を果たし、その次に空での移動の夢が結実するのが移動革命だと思っています」と述べた。
同社の展示ブースでは、6月に提携を発表した中国の産業ドローン大手MMCと共同開発した「Next INDUSTRY®」の最新機、日本国内で量産体制を作り製造した物流用途の産業用ドローン「Next DELIVERY®」の最新機体も初公開。田路CEOは「物流機は最速でマーケットへの投入を考えています」と話し、来場者の関心を集めた。
ドローンによる業務の完全自動化を目指す株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:北村卓也、以下センシンロボティクス)と、産業用ドローンを開発する株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役 CEO:田路 圭輔、以下エアロネクスト)は9月30日、産業用ドローンの次世代コンセプト「空飛ぶロボット(Flying Robots)」の具現化に向けた戦略的業務提携を締結したと発表した。エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローン大手、MMCが生産した機体も完成し、両社は新たな段階を迎える。
今回の背景には、日本が抱える社会課題がある。少子高齢化による労働人口の減少や高騰する人件費、危険区域での作業者の安全確保などの課題に対して、両社が提携して開発する「空飛ぶロボット」という産業用ドローンで解決していく。日本の社会が抱える「物流」、「農業」、「警備」、「設備点検」、「災害対策」といった様々な分野での課題を「空飛ぶロボット」で対応していく取り組みだ。
両社が提携を推進した理由として、エアロネクストの田路圭輔CEOは「ドローンは、写真や動画の撮影など、用途がいわば『人間の目』としての役割に絞られ、しかも、短時間、短距離、また良好な時のみの、限定的な条件下で使用されている状況です。現在の産業用ドローンが『空飛ぶカメラ』という領域であるとすれば、次世代の産業用ドローンに求められるのはその機能を活用して人間の代わりに複数の何らかの仕事を行う『空飛ぶロボット』であり、自動航行プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』と重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載した産業用ドローンを組み合わせることで、次世代コンセプトの『空飛ぶロボット』を現実化できる。両者がこの考えで一致して、今回の提携に至りました」と話す。
また、センシンロボティクスの北村卓也社長は「当社は、日本が抱える社会課題に対して、自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHTCORE』を中心に、『ドローンの操縦や撮影された映像の確認作業を行うためのオペレータ(人力)の不足』や『その育成・確保にかかる工数』といった問題を解決するための様々なドローンソリューションを展開しています。センシンロボティクスが得意とする送電線、鉄塔、ダムなど広域にわたる社会インフラの保守・点検分野において、既存の産業用ドローンでは対応できなかった複雑な用途でも、エアロネクストが開発した『4DGRAVITY®︎』搭載ドローンを活用すれば、センシンロボティクスの顧客の具体的な要望に応じた提案・開発を行うことが可能になります」と提携の理由を語る。
エアロネクストが展開する重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載する産業用ドローンは、複数のペイロードを搭載でき、ペイロードの搭載位置が本体の側面や上部であっても安定的な飛行が可能になる。安定性によるエネルギー効率の改善により、長時間、長距離の飛行も可能にする。そのため、一度の飛行中に『写真や動画を撮る』ほかに、複数の仕事をこなせる。だからこそ、重心制御技術「4D GRAVITY®︎」搭載の産業用ドローンで、次世代コンセプト「空飛ぶロボット」が現実化できるという。
センシンロボティクスの北村卓也社長と、エアロネクストの田路圭輔CEOは、お互いをベストなパートナーシップであると位置づけている。エアロネクストの田路氏は「産業用ドローンには、ニーズに応じた柔軟な機体が求められています。空撮に特化した機体では、様々な要求に対応できません。センシンロボティクスのサービスが求める機体を開発することで、『空飛ぶロボット』の実現を加速できるのです。われわれの技術でその開発を可能にしたいと考えています」と話す。
また、特別な知識や技術がなくてもドローンによる業務自動化を簡単に実現させる総合プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』を提供するセンシンロボティクスの北村卓也社長は「産業用ドローンには、空撮だけではなく、叩く、つまむ、吹く、持っていくなど、様々な機能が求められています。こうしたニーズに対して、重心制御技術の4D GRAVITYを搭載した産業用ドローンで、パラダイムシフトを実現したいと考えています」と展望を述べた。
エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローンメーカー、MMCが生産した機体がすでに完成するなど、両者の目指す「空飛ぶロボット」の具現化への体制が急ピッチで整っており、今回の戦略的業務提携はドローンのビジネスを新たな段階に導くきっかけになりそうだ。
中国・深圳で開催中のドローンの大規模展示会「Shenzhen International UAV Expo2019」に参加中の株式会社エアロネクスト(東京)は6月20日、中国の有力企業2社との提携を相次いで発表した。産業機大手のMMCと、物流スタートアップのSMDとの提携で、どちらの提携でも機体開発などを共同で進め世界市場を目指す。
MMC(深圳市科比特航空科技有限公司、MicroMultiCopter Aero Technology)は、産業用ドローンの大手で高い機体開発力を備える。今後、世界進出を目指すうえで有益な連携関係を模索していて、重心制御技術4D gravityを持つエアロネクストとの提携は同社の戦略に有益だと判断、今回の提携が実現した。
エアロネクストの田路圭輔CEOはMMCとの提携発表の中で、「素晴らしいハードウェアシステムがMMCの強み。お互いの技術を持ち寄るなど手を携えることで世界市場にアピールしたい」と話した。
MMCの卢致辉(Zhihui Lu)董事長も、「技術力の強いエアロネクストと連携することにより連携して一緒に海外市場に進出していきたい。深圳はドローンの聖地と言われ、世界中のドローンの約90%を生産している。エアロネクストと連携することで、その深圳でも代表となれるレベルとなると確信している」と応じた。
具体的な開発計画は今後検討するが、橋梁点検分野での活用を視野に、開発を進めることになる見込み。中国国内にも日本国内と同様、点検作業が必要な橋梁が多く、技術、精度、速度、費用などの面でドローンに対する期待が高い。しかし実用には至っておらず、共同開発でドローンによる橋梁点検の実装に結び付けたい考えだ。
また、物流スタートアップSMD(深圳智航无人机)は物流へのドローン活用で知られるスタートアップで、中国の民間物流大手、SF Express(順豊速運)と提携するなど、業績を拡大している。垂直離着陸が可能な固定翼のVTOLに強みを持ち、経験も多い。今後、世界に進出を目指すうえでドローンによる運送が可能な対象荷物の拡大などを目指していていて、エアロネクストの4D Gravityに着目、同社との提携が実現した。
田路CEOは「4D Gravityは物流に特徴を発揮する技術。とりわけ積み荷の重さが変化しても、機体の安定性が求められる場合などに相性がいい。SMDは物流で実績のある企業で、提携して世界にアピールさせたい」と述べた。
SMDの 金良( Edward Jin)董事長も、「SMDは物流向けのドローンの開発で豊富な経験を持つ。エアロネクストは、物流において荷物の安定性の維持で非常に高い技術を持っている。例えば液体を輸送するには、こぼれたり漏れたりしないために積み荷の安定性が必要で、エアロネクストの技術は有効だと考える。今後、我々のVTOLへの4D Gravityの搭載をともに考えたい。物流でのシェア拡大を目指し、安定性が必要な災害時の荷物搬送にも活用したい。今後、両者それぞれの特徴を生かしながら世界のドローン産業の発展に貢献したい」と述べた。
エアロネクストは世界市場を目指すため5月に、深圳に現地法人、天次科技(深圳)を設立し、事業の具体化させる準備を進めていた。今回、中国の有力企業2社との提携が実現したことで、共同開発の道筋が整ったことになり、今後、世界市場を目指す事業が本格化する。
この日の2件の発表はいずれもEXPO会場内の一角に設けられた専用のスペースで行われた。2件とも発表時間があらかじめ、割り当てられていて、エアロネクストの発表時間前になると来場者が集まりはじめ、発表がはじまると用意された席が埋まり、スペース周辺に足を止めて聞き入る姿がみられるなど、話題性の高さを示した。
会場内のエアロネクストのブースにはこの日、2件の発表が行われたこともあって、多くの来場者が立ち寄り、展示された機体を興味深そうに見入る姿が多くみられた。立ち寄った来場者からは「どのぐらいの重さの荷物が運べるのか」といった具体的な質問が寄せられることが増え、関心の高さがうかがえた。登壇を終えた田路CEOや川ノ上総経理も、ブースに戻ると、来場者の質問に答えたり、メディアの取材に応じたりと、来場者のたえないにぎわいとなった。