君津市(千葉県)、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)、株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区)、株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)、KDDIスマートドローン株式会社(東京都港区)は2024年1月14日、君津市でドローン配送の実証実験を行った。実験をふまえセイノー、エアロネクストなどが進めるドローンや既存手段を融合させた新スマート物流の構築を進める。実験ではJR君津駅から13㎞南東の中山間地にある清和地域に住む住民の買い物支援のため、7㎞離れた宿原青年館との間で物流専用ドローンAirTruckを飛行させ、日用品やドリンクを運んだ。エアロネクスト、NEXT DELIVERYは能登地震の被災地でもドローン物流で災害対策を支援している。関係者が公表した発表資料は以下の通りだ。
千葉県君津市(市長:石井 宏子)と、セイノーホールディングス株式会社(本社:岐阜県大垣市、代表取締役社長:田口 義隆、以下 セイノーHD)、株式会社エアロネクスト(本社:東京都渋谷区、代表取締役 CEO:田路 圭輔、以下エアロネクスト)、株式会社 NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路 圭輔、以下 NEXT DELIVERY)、KDDI スマートドローン株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長: 博野 雅文、以下 KDDI スマートドローン)は、2024 年 1 月 14 日に、君津市の清和地区において次世代高度技術の活用により新しい物流サービスの構築を目指した「中山間地におけるドローン配送」の実証実験を実施し、報道関係者に公開しました。
昨年 11 月には君津市、セイノーHD、NEXT DELIVERY の親会社である次世代ドローンの研究開発スタートアップ、株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役CEO田路 圭輔、以下エアロネクスト)、株式会社テラならびに KDDI スマートドローンの 5 者は、ドローンを含む次世代高度技術の活用による地域共創に向けた連携協定を締結しており、新たな物流のビジネスモデルの構築をめざし、連携して活動しています。
今回の実証実験は、NEXT DELIVERY と KDDI スマートドローンが連携して、セイノーHD とエアロネクストが開発推進するドローン配送と陸上輸送を融合した新スマート物流*1”SkyHub®“
*2 の社会実装
の検討に向けて行われたもので、清和地域拠点複合施設に仮設のドローンデポを設置し、ドローンを活用し日用品のドローン配送サービスを実施しました。
1.背景と目的
君津市は、都心に隣接した立地でありながら、人口は平成7年の 93,216 人をピークに令和2年には82,206 人に減少しています。また、市の老年人口(65 歳以上)の割合は令和2年には 32.1%となっていますが、中山間地域の清和地区や上総地区では 50%を超え、今後もさらに上昇することが見込まれおり高齢者の買物支援が地域課題として挙げられています。さらに、物流の 2024 年問題の影響により、中山間地域における輸配送の質の維持が困難となり、地域住民の利便性の低下が危惧されています。
このような背景を受け、今回、清和地区において、地域課題の一つである中山間地域における買い物支援等の新たな取り組みに向け、住民の理解度向上、定期飛行に向けた課題の洗い出しを目的として実証実験を行いました。
2.実施内容
今回の実証実験では、買い物代行配送サービスを実施しました。
清和地区に住む、1世帯を対象に、子供が風邪をひいてしまった状況を想定し、お子様向けの緊急物資輸送の配送を実施しました。(お母さんが買い物に出かけられない状況を想定)住民の理解度向上、地域課題の洗い出しを目的として清和地域拠点複合施設を仮設のドローンデポ®*3 とし、宿原地区まで日用品のドローンで配送いたします。
今回のドローン配送の実証はエアロネクストが開発した物流専用ドローン AirTruck*4 を使用し、機体の制御には、KDDI スマートドローンが開発したモバイル通信を用いて機体の遠隔制御・自律飛行を可能とするスマートドローンツールズ*5 の運航管理システムを活用しました。
清和公民館から宿原青年館までの片道約 7 kmの距離を約 21 分で、子供の風邪を想定した日用品、ドリンクなどの詰め合わせをドローン配送いたしました。ドローンにより配送された荷物を受け取った眞板高子さんは、「すごく楽しかった!自分の住んでいるところも孤立する可能性があるので、その時は本当に助かると思う。色々な課題が解決できるといい。」とコメントしています。
今後も地域住民への理解促進及び地域課題の解決へ向けドローンをはじめとする次世代高度技術を活用しドローン配送と陸上配送を融合した新スマート物流”SkyHub®“の社会実装に向けた検討を進めてまいります。
※本実証実験は、一般社団法人環境普及機構により、令和4年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金交付対象事業(社会変革と物流脱炭素化を同時実現する先進技術導入促進事業)として採択されています。
*1 新スマート物流
物流業界が共通に抱える人手不足、環境・エネルギー問題、DX 化対応、等の課題を、デジタルやテクノロジーを活用しながら解を探究し、人々の生活に欠かせない生活基盤である物流を将来にわたって持続可能にするための官民での取り組み。ラストワンマイルの共同配送、陸送・空送のベストミックス、貨客混載、自動化技術、等々、業界内外の壁を越えたオープンパブリックプラットフォーム( O.P.P.)による共創で実現を目指す。
*2 新スマート物流 SkyHub®
エアロネクストとセイノーHD が共同で開発し展開する、既存の陸上輸送とドローン物流を繋ぎこみ、地上と空のインフラが接続されることで、いつでもどこでもモノが届く新スマート物流のしくみ。ドローン配送が組み込まれた、オープンかつ標準化したプラットフォームで、ドローンデポ®を拠点に、車とドローンを配送手段として、SkyHub®TMS をベースに、SkyHub®Delivery(買物代行)、SkyHub®Eats(フードデリバリー)、SkyHub®Medical(医薬品配送)、異なる物流会社の荷物を一括して配送する共同配送など、地域の課題やニーズに合わせたサービスを展開、提供する。SkyHub®の導入は、無人化、無在庫化を促進し、ラストワンマイルの配送効率の改善という物流面でのメリットだけでなく、新たな物流インフラの導入であり、物流 2024 年問題に直面する物流業界において、物流改革という側面から人口減少、少子高齢化による労働者不足、特定過疎地の交通問題、医療問題、災害対策、物流弱者対策等、地域における社会課題の解決に貢献するとともに、住民の利便性や生活クオリティの向上による住民やコミュニティの満足度を引き上げることが可能になり、地域活性化を推進するうえでも有意義なものといえる。
*3 ドローンデポ®
既存物流とドローン物流との接続点に設置される荷物の一時倉庫であり配送拠点。
*4 物流専用ドローン AirTruck
株式会社エアロネクストが株式会社 ACSL と共同開発した日本発の量産型物流専用ドローン。エアロネクスト独自の機体構造設計技術 4D GRAVITY®*6 により安定飛行を実現。荷物を機体の理想重心付近に最適配置し、荷物水平と上入れ下置きの機構で、物流に最適なユーザビリティ、一方向前進特化・長距離飛行に必要な空力特性を備えた物流用途に特化し開発した「より速く より遠く より安定した」物流専用機。日本では各地の実装地域や実証実験で飛行しトップクラスの飛行実績をもち、海外ではモンゴルで標高 1300m、外気温-15°Cという環境下の飛行実績をもつ(2023 年 11 月)。
*5 スマートドローンツールズ
KDDI スマートドローン株式会社が提供する、ドローンの遠隔自律飛行に必要な基本ツールをまとめた「4G LTE パッケージ」に、利用者の利用シーンに合った「オプション」を組み合わせて利用できるサービス。「4G LTE パッケージ」は、全国どこからでもドローンの遠隔操作・映像のリアルタイム共有を可能とする「運航管理システム」や、撮影したデータを管理する「クラウド」、データ使い放題の「モバイル通信」、どのエリアでモバイル通信を用いた目視外飛行が可能か、事前に確認できる「上空モバイル通信エリアマップ」などのツールをまとめて提供している。
*6 機体構造設計技術 4D GRAVITY®
飛行中の姿勢、状態、動作によらないモーターの回転数の均一化や機体の形状・構造に基づく揚力・抗力・機体重心のコントロールなどにより空力特性を最適化することで、安定性・効率性・機動性といった産業用ドローンの基本性能や物流専用ドローンの運搬性能を向上させるエアロネクストが開発した機体構造設計技術。エアロネクストは、この技術を特許化し 4D GRAVITY®特許ポートフォリオとして管理している。4DGRAVITY®による基本性能の向上により産業用ドローンの新たな市場、用途での利活用の可能性も広がる。
管理が難しい繊細な和牛の受精卵を、冷凍も冷蔵もせずにドローンで移植先の農家まで運ぶ実証実験が北海道上士幌町で始まった。実験を実施したのは北海道上士幌町、JA上士幌町、株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)で、7月の実験では移植に耐える状態で受精卵を運搬することに成功し、乳牛への移植も無事に行われた。ドローンで受精卵を運ぶ試みは世界でも報告がなく、今後、運んだ受精卵が運搬中に受けた振動の影響などを検証するほか、気候の違う時期にも実験を行う予定だ。日本では和牛の飼養農家の戸数が年々減少続けている半面、産出額は右肩上がりで生産拡大が期待されている。牛肉の輸出額も2021年には537億円と、畜産物輸出全体の62%を占める主力品目となっており、2030年には輸出額を3600億円に引き上げる目標が掲げられている。旺盛な需要に対応するためにも、輸出目標達成のためにも、和牛生産の拡大と効率化は急務で、受精卵の安全な運搬は畜産業界に欠かせない技術のひとつとなっていて、国を挙げた強い期待がドローンに寄せられている。ドローン産業にとっても、繊細な管理が求められる資源の輸送に活用範囲を広げる一歩となりそうだ。
7月の実験では、JA全農ET研究所(上士幌町)で採卵した受精卵を、振動による損傷を防止するため検卵液層と空気層と設けた水筒に納めた。温度変化による悪影響にも備え、ウシの体内の温度である30~35度を維持するように調整して運搬用の容器に入れてドローンに積んだ。ドローンはNEXT DELIVERYが山梨県小菅村ほか各地でスマート物流に活用している揺れに強いAirTruckを使った。
AirTruckは移植するためのメス牛が待つ、7.1キロ離れた町内の熊谷牧場まで13分で飛んだ。到着先の熊谷牧場では、運ばれた受精卵を、受精卵移植操作の資格の保有者である家畜受精卵移植師が注入した。受精卵の移植は、家畜改良増殖法に基づき、この資格を持つ移植師か獣医師しかできないことが定められている。また移植を受けたのは肉用牛ではなく、乳用牛だ。和牛の生産拡大をめぐっては、子牛供給の計画的な拡大のため、乳用牛に肉用の和牛の受精卵を移植して生産する「借り腹」が期待されていて、政府も肉用牛生産基盤強化のため、乳用牛への和牛受精卵移植技術を活用した、酪農家由来の和子牛生産拡大の支援を打ち出している。この日の移植では、受精卵が牧場に到着から10分で終えることができた。
和牛の受精卵は、広域流通を可能にするため、移植器具であるストローに納めて凍結させる方法が知られている。凍結により遠方の牧場への運搬が可能になった一方、移植前の融解のさいに、受精卵が損傷を受けるリスクの高い温度をできるだけ速やかに通り抜ける技術が必要になるなど、作業には独自の技術が必要になる。凍結受精卵には融解の段階で、温度変化で損傷をきたすリスクもあり、畜産業界では受胎率を高める移植方法を模索し続けている。凍結リスクを回避するためにチルド冷蔵保存する方法も模索されていて、この方法だと1週間の管理が可能だ。
一方、移植までに冷凍もチルド冷蔵もせず、自然卵のまま運ぶことができれば、受胎率を引き上げられる期待があり、今回、新鮮卵のまま運搬する方法のひとつとして、ドローンによる運搬が試された。AirTruckは、特に飛行時に機体の進行方向の加減速に伴う揺れが、積み荷に伝わることを防ぐ4D GRAVITYと呼ぶ独自技術を使った機構が採用されている。今回の実証実験では温度管理、振動、配送後の移植に問題はなかったことが確認された。移植した牛が期待通り着床するかどうかは年内に判明する見通しで、今後も検証を続けることになる。
和牛は生産基盤の強化が大きな問題となっている。肉牛の飼養農家は、2014年の約5万7500戸から2022年の4万400戸まで8年間で3割減った。一方、肉牛の需要は急増しており、産出額は2010年の4639億円から10年間で、7385億円と59.2%増加した。このため一戸あたり飼養頭数も増加しており、買う、増やす、などの畜産事業を体系化し、育成部門を外部化するなど増頭を可能にする環境づくりを進めている。酪農家由来の肉牛の生産の拡大も、和牛生産基盤の拡大の重要施策で、受精卵移植に必要な技術として、ドローンの移動技術が期待を集めている。
8月10日には以下の発表資料が公表されている。
北海道上士幌町(町長:竹中貢)と JA 上士幌町(代表理事組合長:小椋茂敏)、株式会社 NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路圭輔 以下 NEXT DELIVERY )は、JA 全農 ET 研究所(北海道上士幌町、以下 ET 研究所)の協力のもと、7月1日(金)に上士幌町でドローンを活用した世界初の牛の受精卵配送の実証実験を実施しました。
具体的には、ET研究所で採卵された牛の受精卵(冷凍保存されない新鮮卵)をドローンによって上士幌町内の農家宅へ配送し、移植をする実証を実施し、成功いたしました。牛の受精卵のドローン配送は世界初の取り組みです。
なお、本取り組みは、国の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」(※1)を活用した取り組みです。
<本実証実験の詳細>
1.背景と目的
日本の肉牛生産においては、生産基盤の縮小に伴う構造的な子牛供給不足が深刻化する中、和牛の子牛共有の手段として、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植(Embryo Transfer)による子牛生産の重要性が増しています。ET 研究所は、早くからこの世界に類を見ない受精卵供給体制を構築し、JA と一体となり和牛生産基盤を支えており、ET 妊娠牛を全国に供給しています。
一般的な受精卵移植は、凍結・保存した受精卵を使用しますが、凍結や解凍の過程で受精卵が損傷を受ければ、受胎率は低下すると考えられます。一方で新鮮卵は、冷凍受精卵よりも安定した受胎率は得られますが、採卵当日に移植を行う必要があり、採卵・流通・利用の関係上、広域流通は困難となっています。
本実証は、新鮮卵の受胎率や広域流通の可能性を検証するもので、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況の評価と、従来のナイタイ高原牧場へ牛を運び新鮮卵を移植する方法、あるいは農家が自ら研究所まで受精卵を車で引き取りに行く方法と、ドローンを活用し農家庭先に輸送する方法を比較し、輸送にかかる農家の手間やコストなどを比較して、ドローン配送の有効性の検証を行いました。なお、今回の実証を含め今年度中に計4回の実証を予定しています。
2.実施概要と結果
■ポットに入れられた受精卵が、ET 研究所から熊谷牧場(熊谷肇さん経営)まで片道約 7.1km の距離を約 13 分でエアロネクストが開発した物流専用ドローン AirTruck(※2)で配送され、移植師に手渡された。受け取った移植師は、直ちに発情同期化させた乳牛(ホルスタイン育成牛)に移植処置を行い、約 10分後に移植を完了した。
■実証の結果、今回のドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況は問題ないレベルであり、実用に耐えうることが確認できた。
■実験に協力した JA上士幌町の小椋茂敏組合長のコメント
「輸送時間が短く、振動が少ないほど、受胎率は向上する。運んだ受精卵が今後、どのような和牛や肉質になるのか追跡し、進めていければと思う。」
■受精卵が配送された熊谷牧場を経営する熊谷肇代表のコメント
「今は士幌町にある施設まで片道15分以上かけて受精卵を取りに行っている。ドローン配送は、迅速かつ安全に輸送でき、牛の供給不足解消や仕事の効率化にもつながると思う。家畜防疫上も良い。」
各分野においてデジタル・トランスフォーメーションが進行する中、畜産業界においても、少子高齢化による担い手不足という深刻な課題に直面しており、各テクノロジーの活用が求められています。
上士幌町では昨年 11 月にドローンを活用した牛の検体(乳汁)のドローンと陸送によるリレー配送の実証を日本で初めて実施し成功させ、乳汁に限らず、デジタルを活用した新たな配送の可能性も見据えたドローン配送を含む新スマート物流の社会実装に向けて推進しています。
この度、配送等の課題の多い畜産業界で、特に細心の管理体制での実施が必須である受精卵の配送において、新スマート物流の実装可能性を検証することができたのは大変大きな成果となりました。
今後実用化に向けて、今年度中に違う季節における複数回の実証を予定しており、引き続き、連携して検討を重ねる予定です。また、畜産業界のみならず、その他の産業界への応用、拡大の可能性も広がります。
株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区)と株式会社自律制御システム研究所(東京都江戸川区、ACSL)は、8月31日、エアロネクストの機体構造設計技術であるエアロネクストの特許群のライセンス契約を締結したと発表した。ACSLは4D GRAVITYにとって初のライセンシーとなった。両者はすでに共同開発を進めており、今回のACSLによる特許実施、利用権取得で開発の加速が期待される。
今回の契約によりACSLは、4D GRAVITY搭載ドローンを開発、製造、販売する権利を獲得することになった。当面はACSLが力をいれる「用途特化型機体」のうち、物流特化機体の開発を進める。その後点検、防災など用途特化型機体に4D GRAVITYの搭載を広げる。
ライセンス契約を結んだのはACSLが4D GRAVITYの活用で、飛行安全性や耐風性能を改善できると判断したため。エアロネクストとACSLは2019 年10 月に4D GRAVITYを搭載した産業用ドローンの新機体の開発に着手したことを発表し、研究開発を進めている。ライセンス契約により共同開発にはずみがつくことが期待される。
両者は「エアロネクストとACSLは、今後もドローン市場の拡大とドローン産業の発展に寄与していく」と談話を発表した。
エアロネクストは、同社のコアテクノロジーである4D GRAVITYについて、ライセンスビジネスを事業の柱と位置付けており、ACSLとの契約はエアロネクストにとって最初の事例となった。
またACSLは8月14日に発表した中期経営方針「ACSL Accelerate 2020」で、今後3年間の事業の柱に「用途特化型機体販売」「用途特化型機体のつくりこみ」を位置付けている。特に、小型空撮機体、中型物流機体、煙突点検機体、閉鎖環境点検機体の4つを念頭に置いており、今回のライセンス契約で開発の促進に期待がかかる。
ANAホールディングスでドローン事業を推進するデジタルデザインラボドローン事業化プロジェクトリーダーの保理江裕己氏と、機体重心制御技術「4D GRAVITY」を開発した株式会社エアロネクスト(東京)の田路圭輔CEOは、両社が5月20日に発表した物流専用ドローンの共同開発についての取材に応じた。エアロネクストの田路CEOは「今回の提携の最大の理由は航空機レベルの性能を備えるドローンを作り、配送品質を追求するため」と述べた。
両社は5月20日、政府が2022年度の実現をめざしている有人地帯での補助者なし目視外飛行に対応する物流ドローンの共同開発に向けた業務提携を発表した。提携の意味について保理江氏は、「ANAには航空機やドローンの運航に関する経験や知見はありますが、ドローンの機体を作る機能はありません。最適な機体を開発するにはその技術を持つ企業と手を携える必要があります。エアロネクストはその技術を持っています」と述べた。
また田路CEOは、物流には一般的な産業用ドローンとは違い、専用ドローンの開発が必要だとの認識を披露。その理由について「モノを輸送することには、地点間を正確に、迅速に、安全に運ぶだけでは不十分です。点検や空撮などであればそれで十分なこともあります。しかし物流ではそうはいかないことがある。その不足部分を満たすためには、専用機が必要です。そのために組む相手としては、ANAしかないと当初から決めていました」と語った。
二人は物流専用機に求める機能のひとつが「搭載物が傾かないこと」という。ANAの保理江氏は、「実験を繰風が強い日にお寿司を運んださい、安全、正確に輸送したものの、中身がくずれかけていたことがあります。輸送では搭載物の品質が問われます。崩れないように運ぶ配送品質を追求しなければいけません」と述べた。崩れないことが求められる搭載物には、ケーキ、ピザ、おでんなどの汁もの、サンドイッチなどが例示された。
配送品質を追求した専用ドローンを開発するため、ANAは、実験で得られたデータをもとに、機体に求める性能を洗い出し、エアロネクストに知見を提供。エアロネクストは重心を制御し搭載物を傾かないよう維持する「4D Gravity」の技術を活用し、物流専用ドローンに最適化するよう設計、開発する。開発した機体は、エアロネクストが国内の製造業に生産を依頼し量産化体制を構築する。現在複数のメーカー話し合いを進めている。2020年度内のパートナーシップの締結も計画している。またANAの知見を搭載した試作機も3代目(Ver.3)を制作中で、「今年の夏には飛行させる計画」という。
開発する機体は6ローター機が基本という。「それがローターへの負荷なども考えると現時点では最もバランスがいい」(エアロネクストの田路CEO)ためだ。現時点の試作機では、6ローターの配置が、中心から放射状にアームを伸ばすスタイルではなく、6つのうち4つは、本体から進行方向の前に向かって2本、後ろに向かって2本の平行するアームの先端に配置されている。
これについて田路CEOは「ドローンは一般的に、ホバリングしたら前後左右どちらにも動けます。一方で、物流では原則、一方向に進めさえすれればよい。全方位に動けることよりもたとえば、直進時に受ける空気抵抗のほうが課題として重要。この平行アームを持つフレームを“フライングフレーム”と呼び、原則は、これをベースに開発する予定で、Ver.4でも活用するつもりでいます」 現在、保理江氏との間ではVer.7あたりまでの試作を構想済みという。
また運航時には、運航を管理するための「集中管理センター」開設も視野に入る。ANAの保理江氏は、「飛行地域にとって物流ドローンはインフラになりうると考えています」と話す。田路氏は「ある場所では上昇下降が頻繁に起こり、ある場所では速度の制御が重要になり、という具合にエリアごとに要請される飛行が異なります。それぞれに最適化な機体を作り地域や物流に貢献したいと考えています」と話している。
ドローンによる業務の完全自動化を目指す株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:北村卓也、以下センシンロボティクス)と、産業用ドローンを開発する株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役 CEO:田路 圭輔、以下エアロネクスト)は9月30日、産業用ドローンの次世代コンセプト「空飛ぶロボット(Flying Robots)」の具現化に向けた戦略的業務提携を締結したと発表した。エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローン大手、MMCが生産した機体も完成し、両社は新たな段階を迎える。
今回の背景には、日本が抱える社会課題がある。少子高齢化による労働人口の減少や高騰する人件費、危険区域での作業者の安全確保などの課題に対して、両社が提携して開発する「空飛ぶロボット」という産業用ドローンで解決していく。日本の社会が抱える「物流」、「農業」、「警備」、「設備点検」、「災害対策」といった様々な分野での課題を「空飛ぶロボット」で対応していく取り組みだ。
両社が提携を推進した理由として、エアロネクストの田路圭輔CEOは「ドローンは、写真や動画の撮影など、用途がいわば『人間の目』としての役割に絞られ、しかも、短時間、短距離、また良好な時のみの、限定的な条件下で使用されている状況です。現在の産業用ドローンが『空飛ぶカメラ』という領域であるとすれば、次世代の産業用ドローンに求められるのはその機能を活用して人間の代わりに複数の何らかの仕事を行う『空飛ぶロボット』であり、自動航行プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』と重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載した産業用ドローンを組み合わせることで、次世代コンセプトの『空飛ぶロボット』を現実化できる。両者がこの考えで一致して、今回の提携に至りました」と話す。
また、センシンロボティクスの北村卓也社長は「当社は、日本が抱える社会課題に対して、自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHTCORE』を中心に、『ドローンの操縦や撮影された映像の確認作業を行うためのオペレータ(人力)の不足』や『その育成・確保にかかる工数』といった問題を解決するための様々なドローンソリューションを展開しています。センシンロボティクスが得意とする送電線、鉄塔、ダムなど広域にわたる社会インフラの保守・点検分野において、既存の産業用ドローンでは対応できなかった複雑な用途でも、エアロネクストが開発した『4DGRAVITY®︎』搭載ドローンを活用すれば、センシンロボティクスの顧客の具体的な要望に応じた提案・開発を行うことが可能になります」と提携の理由を語る。
エアロネクストが展開する重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載する産業用ドローンは、複数のペイロードを搭載でき、ペイロードの搭載位置が本体の側面や上部であっても安定的な飛行が可能になる。安定性によるエネルギー効率の改善により、長時間、長距離の飛行も可能にする。そのため、一度の飛行中に『写真や動画を撮る』ほかに、複数の仕事をこなせる。だからこそ、重心制御技術「4D GRAVITY®︎」搭載の産業用ドローンで、次世代コンセプト「空飛ぶロボット」が現実化できるという。
センシンロボティクスの北村卓也社長と、エアロネクストの田路圭輔CEOは、お互いをベストなパートナーシップであると位置づけている。エアロネクストの田路氏は「産業用ドローンには、ニーズに応じた柔軟な機体が求められています。空撮に特化した機体では、様々な要求に対応できません。センシンロボティクスのサービスが求める機体を開発することで、『空飛ぶロボット』の実現を加速できるのです。われわれの技術でその開発を可能にしたいと考えています」と話す。
また、特別な知識や技術がなくてもドローンによる業務自動化を簡単に実現させる総合プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』を提供するセンシンロボティクスの北村卓也社長は「産業用ドローンには、空撮だけではなく、叩く、つまむ、吹く、持っていくなど、様々な機能が求められています。こうしたニーズに対して、重心制御技術の4D GRAVITYを搭載した産業用ドローンで、パラダイムシフトを実現したいと考えています」と展望を述べた。
エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローンメーカー、MMCが生産した機体がすでに完成するなど、両者の目指す「空飛ぶロボット」の具現化への体制が急ピッチで整っており、今回の戦略的業務提携はドローンのビジネスを新たな段階に導くきっかけになりそうだ。
中国・深圳で開催中のドローンの大規模展示会、International UAV EXPOで、日本から出展している株式会社エアロネクスト(東京)の深圳法人、天次科技(深圳)の川ノ上和文総経理が6月21日、サブフォーラムに登壇し、エアロネクストの技術を紹介した。中国を中心に世界各国の経営者、研究者ら約50人が川ノ上氏の発言に耳を傾け、スライドが投影されるたびにスマホのシャッターが切られるなど関心の高さを示した。
川ノ上氏総経理は、エアロネクストがドローンの課題をハードウェア技術で解決する企業であることを説明。一般にドローンは、飛行時に加速したり、向きを変えたりすると機体を傾けるが、同社の重心制御技術4D Gravity®を搭載すると、飛行中にドローンの機体が傾いても、積載した荷物は安定した姿勢を保ち続けることができることを、映像やデータを使って説明した。これにより、ラーメンの入ったどんぶりも、スープをこぼさずに運ぶことが可能になったり、橋梁の下にもぐった点検が容易になったりするという事例を紹介した。
川ノ上氏は、この技術がすべてのドローンに搭載可能であることを強調。インテルが多くのコンピューターメーカーに採用され、マシンの信頼性を支えているように、4D Gravity®が、すべての機体の安定性維持、向上に貢献できることが目標であると語った。
登壇後は、エアロネクストのブースにはつめかけた来場者に対応。サブフォーラムで関心をもった来場者がブースを訪れ、展示してある4D Gravity搭載のNext INDUSTRY,、Next DELIVERYの実機を直接、確かめたり、川ノ上総経理にあいさつをしたりしていた。
川ノ上氏は5月に、エアロネクストが深圳の現地法人を設立したのに伴い総経理に就任。今月開催された家電見本市、CES ASIAでも、ドローン大手YUNEEKのCEOとともにパネルディスカッションに登壇している。
エアロネクストは前日の6月20日も、田路圭輔CEOが中国の大手産業用ドローンメーカーMMC、有力物流ドローンスタートアップSMDとの提携を会場で発表していて、中国勢が9割を占める出展社の中で連日、日本企業の話題を提供し続けている。
UAV EXPOは6月23日まで、深圳の大規模展示場「会展中心(Shenzhen International Convention & Exhibition Center)」2号館で開催。