自治体単位で、空飛ぶクルマ、ドローン、エアモビリティの取組が加速している。兵庫県は4月27日、兼松株式会社、中央復建コンサルタンツ株式会社、株式会社パソナグループ、株式会社BUZZPORTと連携要諦を結び、大学生、高校生が空飛ぶクルマの利活用を研究する「HYOGO 空飛ぶクルマ研究室」を創設すると発表した。バーチャル研究室を作り、学生研究員の取り組みを協定として支援し、空飛ぶクルマの産業振興、社会受容性の醸成、担い手となる人材育成を図る。発表会では兵庫県の齋藤元彦知事が、「2025年の大阪・関西万博を前に(空飛ぶクルマを実装する社会の)未来像を示したい」と話した。
発表会には、齋藤元彦知事のほか、協定に参加した兼松の城所僚一・上席執行役員車両・航空部門長、中央復建コンサルタンツの兼塚卓也・代表取締役社長、BUZZPORTの江藤誠晃代表取締役、パソナグループの山本絹子・取締役副社長執行役員が登壇した。公民連携による空飛ぶクルマ事業の第一弾で、今後も随時、事業を拡張する。協定の連携事項は①空飛ぶクルマによる地域創生に関すること、②空飛ぶクルマを活用した観光開発に関すること、③高校生・大学生の研究活動へのメンタリング、協同活動の実施に関すること、④空飛ぶクルマの社会実装に向けた受容性向上のための活動に関すること、⑤その他、空飛ぶクルマによる県民サービスの向上、地域の活性化に関すること、と紹介された。
「HYOGO 空飛ぶクルマ研究室」はバーチャルラボで、県内在住または県内の大学に通う大学生の選抜メンバーで構成する「空飛ぶクルマゼミ」を運営したり、全国の高校生を対象とした観光甲子園内「空飛ぶクルマ部門」を開催したりすることを構想している。
説明会では事務を担ってきた兵庫県企画部地域振興課の高橋健二・公民連携班長がこれまでの経緯を説明した。それによると兵庫県は昨年6月から空飛ぶクルマの連携事業の構想を開始。地元発祥の兼松、淡路島にオフィスを構えるパソナなど連携の枠組みを作り20回以上の協議を重ねてきた。大阪・関西万博を当面を目標に設定して空飛ぶクルマの実装に向けた協議を重ねている大阪府の「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」にも参加して知見も獲得。その中で、地域創生、観光開発、受容性向上など兵庫県民の豊かな生活の実現に貢献することで合意し、具体策を練ってきたという。
実際、兵庫県では多自然地域と呼ぶ山間部で生活の利便性向上や不便、不安の解消にドローンを役立てる取り組みを進めるなど、ドローンの利活用には積極的だ。空飛ぶクルマは「パッセンジャードローン」とドローンの派生形ととらえられ、空域利用や遠隔・無人操縦などで議論が共通することも多く、兵庫県のように自治体でドローンや空飛ぶクルマの利活用を進める動きが広がりを見せている。
発表会で兼松の城所上席執行役員は「(空飛ぶクルマの離発着場となる)バーティポート開発を手掛ける英スカイポーツ社と業務資本提携を締結しており、神戸にルーツを持つ企業として地域に尽くしたい」と決意を述べた。パソナの山本副社長は「地方の企業にとって距離は不利益です。でも空飛ぶクルマの実装で、不利益は利益になるかもしれないと思いました。なにより若い方々のベンチャー精神に期待しています」と期待を寄せた。
齋藤元彦知事は「空飛ぶクルマの実装には、先んじて取り組むことが大事だと思っています。9月1日には県と内閣官房が主催するドローンサミットも開催されることになっていて、2025年の大阪・関西万博を前に(空飛ぶクルマを実装する社会の)未来像を示していきたいと思っています」と抱負を述べた。
兵庫県と大阪公立大学は、多自然地域等でのドローン利活用の可能性を探る共同研究の一環として、兵庫県猪名川町でドローンを使った見守りや呼びかけ、オンライン診療機器の配送などの実証実験を行った。実証実験ではスピーカーを搭載したドローンを飛行させ音声が住民に届けられることや、住宅の新聞受けに配達された新聞がたまっていないかどうかが判別できることを確認した。主催した兵庫県は、「一定の有効性が確認できました。ドローンに求めたい性能もあり、今後も活用を見据えながら検証を続けたいと考えていきます」と話している。
実験は、兵庫県が研究機関や民間企業などと連携して課題解決にあたるために設置した「公民連携プラットフォーム」を通じて、大阪公立大学都市科学・防災研究センターと共同で実施した。実験には猪名川町、ドローン運用も手掛ける日本コンピューターネット株式会社(大阪市)、音響技術のTOA株式会社(神戸市)、医療機器のニプロ株式会社(大阪市)が協力した。
会場は兵庫県猪名川町の山間部で、「消防防災広場」と「上肝川」のバス停周辺エリアとの区間の約1.0 ㎞を、Matrice300RTKが、高精細カメラ、または、スピーカー、あるいは、③オンライン診療関連機器などを積んで飛行した。高精細カメラを搭載した飛行実証では、地域の住宅の郵便受けに新聞なため込まれた状態を再現し、ドローンで住宅の異変を検知することができるかどうか確認した。カメラでズームをすることで新聞のたまり具合を見ることができ、ふだんと違う乗用である場合、空からドローンで確認できる可能性を示した。
また、スピーカーを積んだ飛行実証では、上空から発した音声が地上に届くかどうかを確認した。ドローンは「地域の見守りの実証をしています」などのメッセージを流した。実証では地上でも明瞭に聞こえることを確認した。オンライン診療器具の配送実証では、血圧計を住民に届けるなどを実施した。
兵庫県と大阪公立大はこれまでもドローンを使った実証を重ねてきており、兵庫県は、「実証を通じて山間部の社会課題につきまとう“距離”の問題を、ドローンで埋め合わせることができることが見えてきました。十分に手を差し伸べるにはさらに長距離飛行が必要となるので、LTEやバッテリー技術の向上が図られることを期待したいと思います。コストも重要なので検証しないといけないと考えています。課題を洗い出したうえで社会に実装することを見据えて、これからも取り組みを進めたいと考えてます」と話している。
兵庫県と大阪市立大学は3月10日、多自然地域等でのドローン利活用の可能性を探る共同研究の第一弾として、兵庫県猪名川町大島地区でドローンを使って医療品を運ぶ実証実験を行った。ドローンは小学校と交流施設の区間の往復で4キロを自動航行で飛行し、約1㎏の荷物を運んだ。実験の様子は、地域の関係者や実験会場となった小学校の児童が見守った。
実験は、兵庫県地域創生戦略の地域プロジェクトの一つ、「多自然地域一日生活圏維持プロジェクト」の取り組みの一環。兵庫県が大阪市立大学都市防災教育研究センター(CERD)と連携し、多自然地域などでの積載率の低い非効率な輸配送や、買い物弱者などの課題解決、住民サービスの向上のための方法をドローン利活用で模索する。
実験には猪名川町、日本コンピューターネット株式会社(NCN)、ドローン・テクノサポート株式会社、エアロセンス株式会社、一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)が協力した。エアロセンスの自律航行が可能なマルチコプター「AS-MC03-T」を、LTEで飛行させた。積み荷は560グラムの医療用の点滴2袋だった。
実験会場となったのは、猪名川町立大島小学校の校庭と、町の交流施設である猪名川町猪名川町環境交流館。ドローンは2地点をつなぐように流れる猪名川の上空を飛行ルートとして自動航行で往復した。当日の風の強さ、向きなどから当初予定していたルートを反対にし、小学校を離陸し交流館に立ち寄ったのち小学校に帰還させた。
ドローンが飛行した猪名川町大島地区一帯は緑が豊かな一方、20年で人口が31%減少するなど過疎化が進む。日常の買い物を支える核となる店舗が域内になく、買い物の利便性を含めて日常生活の利便性を向上させることが課題となっている。買い物弱者対策のひとつとして、ドローンの活用の可能性を探ることになった。
ドローンの離陸前には、小学校の全校生徒約40人が見学。ドローンを間近で取り囲んだり、担当者に質問をしたりと関心の高さを示した。離陸の瞬間には「飛んだ」と歓声があがった。
ドローンの運用を指揮した大阪市立大学都市防災教育研究センター(CERD)の吉田大介准教授(大阪市立大学大学院工学研究科准教授)は、「ドローンで荷物を運ぶことの可能性を探るとともに、飛行中の機体カメラ映像をリアルタイムで中継するなど地域の見守りに使えないか、などの可能性を模索できる可能性があります。今回の実験で蓄積した知見を還元していきたいと思っています」と実験の意義を述べた。兵庫県企画県民部地域創生局の高橋健二企画官も「住み続けたい町であり続けるための取り組みだと思っています」とまちづくりに生かす抱負を語った。
兵庫県と大阪市立大学は3月18日に兵庫県宍粟市波賀地区で第2弾の実証実験を行う予定だ。
神戸市は4月17日、神戸市中央区の三宮の繁華街に隣接する生田神社でスピーカーを備えたドローンを飛ばし、新型コロナウイルス感染拡大防止のため外出を控えるよう空から呼びかけた。ドローンの運用は一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)が担った。
神戸市がドローンを飛ばしたのは、兵庫県には4月7日に特措法第32条第1項に基づく緊急事態宣言が発令されたにも関わらず、県内最大の繁華街の玄関口、三ノ宮駅周辺の人手が目標ほどに減っていない事態を重くみたため。この日は、DPCAのパイロットが生田神社からスピーカーを装備したMavicを飛ばし、上空50メートルほどの高さから「兵庫県には緊急事態宣言が出ています。みだりに外出しないようにしましょう」と女性の声で呼びかけた。
呼びかけた声は地上で明瞭。関係者は「ドローンからであれば呼びかけが広範囲に届く。地上でもはっきりと聞き取れる。新型コロナウイルス感染症対策での一環としてドローンをもっとうまく使うべきだと思う」と話し、この日のドローンの有効活用への手ごたえを感じていた。
新型コロナウイルス感染症への対策としては、世界各国でもドローンが殺菌剤などの散布、監視、輸送、呼びかけなどで活用されている。DPCAはこうしたドローンの有効活用を、災害協定を締結している自治体などに提案しており、賛同を表明した神戸市で今回の取り組みが実現した形だ。
この日は兵庫県や県の要請をうけた神戸県警も外出自粛を呼びかける活動を展開。夕方には三宮の繁華街で制服姿の警察官が通行人に外出自粛を促した。今後、福原エリア(神戸市兵庫区)や神田新道エリア(尼崎市)、魚町リエア(姫路市)などの歓楽街でも、同様の活動を実施するという。