水中ドローンの普及、人材育成に取り組む一般社団法人日本水中ドローン協会(東京、代表理事・小林康宏株式会社スペースワン代表取締役)は2月6日、海の未来を考える「特別シンポジウム水中(ミズナカ)会議」を開いた。高額ガラスポートや水圧試験機を手がける有限会社アテナ工央(愛知県岡崎市)の平松卓三代表取締役、日本テレビ系『THE!鉄腕!ダッシュ!!』への出演で知られる特定非営利活動法人海辺つくり研究会(横浜市)の木村尚理事・事務局長が基調講演し、それぞれの立場から海を知るきっかけとしての水中ドローンの役割に期待を表明した。水産庁増殖推進部の岡本圭祐課長補佐は、水産庁が取り組む水産業のスマート化に水中ドローンが重要な役割を果たすと述べた。
シンポジウムはオンラインで開催され、約200人が同時視聴した。収録は水中ドローン協会のオフィスにスタジオを設営し、登壇者はスタジオで顔をそろえた。この日のテーマは「水中ドローン×ブルーエコノミー~私たちが水中ドローンで海の未来にできること~海と日本PROJECT」に設定。水産業の資源の供給元としての海が生活から遠ざかっていることへの危機感を主な話題に、水中ドローンを海について考えるきっかけにすることなどについて意見を出し合った。
また水中ドローン協会は、公益財団法人日本財団(東京)の「海と日本PROJECT」に採択された「水中ドローンで知る『私たちの海』」と名付けた小中学生向けの体験教室を全国8カ所で開催しており、シンポジウム冒頭で各地の活動状況が紹介された。
青森県では教えるカリキュラムにKJ法を取り入れるなどカリキュラムの工夫が練られていたり、神奈川県ではいけすの魚と振れあうなどイベント性が高かったり、富山県では堤防の内側にあった藻場がなくなってしまった現場を目の当たりにしたりしたなどの状況が報告された。水中ドローン協会の大手山弦事務局次長は「SDG‘sの目標14『海の豊かさを守ろう』と親和性が高い活動です。反響が大きく、うちでも開催してほしい、などの要望も寄せられており、今後拡大を検討しています」と報告した。
基調講演ではアテナ工央の平松代表が、ダイビング、釣り、カメラの趣味を通じて海やそこにすむ生き物の変化に気付き、水中ドローンを使って水中を調査しはじめた経緯を説明した。釣り針やルアーが岩や根株などに引っかかり放置されてしまう状況をみて「目の前で起きている事象は何を伝えているのかを考え、可視化しないといけないと思った」と、「根がかりプロジェクト」を発足させ、可視化に取り組みはじめた。
平松代表が海底清掃などの活動を通じて最も印象に残った光景は「大人が出したごみを子供が拾うこと」という。釣り関係者は根がかりによって海に残った釣り針などを「置き去り品」と呼び「ごみ」と区別するというが、平松代表は「豊かな海を守るために大事なことは、みんなで考えること」と話した。
そのうえで水中ドローンについて、高齢化するダイバーのかわりの活用できるなどの価値を列挙したうえで、「子供たちの前で使っているとみんな寄ってきて楽しそうに目を輝かせます」と水中ドローンの関心喚起の効果を強調。「海のことを考えるきっかけとしてとてもすばらしい」と指摘した。
海つくり研究会の木村理事は、海の美しさを引き合いに出し「人は見た目のきれいなものに騙されることがあります。騙されないためには本質を知ることが重要です」と注意を喚起した。木村理事が藻場づくりなど海の環境保全活動をする中で、人々の営みのしわ寄せが海にたどりつくことにもかかわらず、人々がその実感を持てないでいるのは、海に囲まれた国であるにもかかわらず、埋め立てによって、海に触れる機会が無くなっているからではないかと分析。「もう一度海と人、自然と人をつなぎ直さなくてよいのか」と問いかけた。
一方で、海をテーマにした討論はしばしば、大勢がごみを捨てる実態に警鐘を鳴らして終わることを逆手にとり、「それは大勢がごみを拾えばそのぶんきれいにできると考えられるのではないか」と呼びかけた。そのためには、実態を伝える水中ドローンへの期待は高く、「位置情報が取得でき、水が濁っていても撮影でき、水温、塩分、phが図れるなど機能が充実することを期待したい。たとえば藻場の面積が図れれば、そこに固定化できるCO2が算出できる」などと要望した。地球温暖化対策に関連して、「藻場の造成でCO2固定化を強化することよりも、排出を抑制することが先決」とくぎを刺した。
このあと、水産庁の岡本圭祐課長補佐を加えたパネルディスカッションでは、小林康宏代表理事が掲げたテーマにパネリストが発言する形式で行われた。「水中ドローンでSDG‘sに貢献できること」について、水産庁の岡村課長補佐は「水産庁の立場は海の豊かさを守ること。水中ドローンを含めさまざまな技術が活用可能な価格帯になってきており、魚の種類ごとに生態系の実態をデータとして取得し資源管理につなげたい」などと述べた。水中ドローンの活用法については、海つくり研究会の木村理事が「圧倒的に環境学習です。子供にも使えるので学習にはちょうどいい。ただし、見える、魚がいる、にさらに加える工夫が必要です。何かがいた、だけでなく、なぜいたのでしょう、何をしているのでしょう、と問いかける」などと提言した。
この答えにアテナ工央の平松代表が賛同し、「水中ドローンは考えさせるきっかけになります。なにより子供たちが夢中になります。魚に近づくにも水中ドローンが適しています。ダイバーとしてもぐると逃げる魚も、水中ドローンからは逃げません」などのエピソードを披露した。そのうえで「こっちでゴミ拾いをしているときに、隣でごみを投入している状況を、子供たちも、関係業界もみんなで考えて頂けたら」と述べた。
水中ドローン協会の小林代表は今後も海や水の課題解 決を進めるうえで、水中ドローンを役立てる考えを表明。小中学生を対象に実施してきた取り組みについては「事業が採択されれば、さらに拡大したい」と表明した。
水中ドローンの普及、産業振興を目指す一般社団法人日本水中ドローン協会(東京)は4月27日、事業、研究、行政などの第一線で活躍する関係者の話に触れることのできるオンラインセミナー「第1回水中会議(ミズナカカイギ)」を開催した。会議には、海上保安庁でウェブ情報サービス「海洋状況表示システム『海しる』」の開発、運用を担う吉田剛海洋空間情報室長、次世代潜水船の開発を手掛ける株式会社シーバルーンの代表、米澤徹哉氏が登壇し、それぞれの取り組みを披露した。発表後には水中ドローン協会の小林康宏代表をまじえてトークセッションが繰り広げられた。協会は今後も会議を開催し、海を経済の対象として扱う「ブルーエコノミー」の定着を目指す。
海上保安庁吉田氏は、海の事故、水面温度、藻場の場所などの情報を、海の地図上に表示する海洋状況表示シシテム「海しる」のおもしろさを紹介した。
発現の中で吉田氏は、海上保安庁の仕事を、戦場などで敵情を偵察する斥候になぞらえ「地図をつくること」と紹介、「まさに斥候部隊なんですよ」と話して興味を引いた。
日本の海の状況は、海外のほうが先に把握していた歴史や、日本海にある巨大な浅瀬、大和堆(やまとたい)は、それを発見した「特務艦大和」から名付けられたことなどの話題を次から次へと披露し、「海しる」が2019年に運用開始となるまでの経緯を話した。
海しるに掲載されている情報は海保独自の情報に限らず、気象庁、JAXAなど多くの他の情報機関からの提供を受けていることなどもあわせて紹介。「海の情報基盤として収集、連携を図り利活用に貢献したい。防災にも役立つので使って頂きたい。また、利用者の意見を寄せて頂きたい」などと話した。
また、水中ドローンの利用法について、打ち寄せた波が沖へ帰ろうとする離岸流によって起こる事故の予防などへの活用を提唱。「地元の人々が危険と知っていて近づかない岸に、それを知らない人が近づいて事故にあうケースが多い。水中沿岸部のデータをとりまくって提供したい」などと話した。
一方、シーバルーンの米澤氏は、海中旅行のすばらしさを一貫してアピール。深海に海中観光利用の潜水艇を開発している米トライトンと提携し、手軽に海中旅行ができる次世代潜水艇の開発と進めている取り組みを紹介した。
米澤氏は、トライトン社の潜水艇で改訂旅行を楽しんだ経験を「深くなるにつれて暗くなり海のグラデーションが美しく感動する」と説明。これまで特別な研究目的、資本家が特別なルートでしか楽しめなかった海中旅行が、一般に開放されることで、多くの人と感動を共有したいと期待した。
また潜水艇も、小さな窓からのぞきこむタイプではなく、透明なアクリルで覆われた視界が開けたタイプで、「海の魅力をコンテンツ化できれば一般利用が広がると思います」と展望した。早ければ2025年に、「安くはないけど手の届く価格」で海中旅行を提供することを目指している。「安全で快適な海中空間から、圧倒的な価値提供を通じてブルーエコノミーのひとつを形成したい」と抱負を述べた。
日本は領海と排他的経済水域を合わせた面積が447万平方キロメートルと国土の12倍の面積を持ち、世界第6位の海洋国家。技術開発の進展で海の利用に関心を持つ企業、研究者が増えていることから、今後海の利活用が、空域の利用のように進むとみられている。ドローン事業も手掛けている小林康宏代表理事は、「空のドローンは、何がどう撮影できるか想像できるが、水中ドローンは沈めてみないと何が撮影できるか分からない未知のものとの出会いがわくわくさせる。協会として海の豊かさを持続可能にし、ブルーエコノミーの普及、定着に向けて取りくみたい」と表明した。
第2回を7月15日に開催する予定で、国立研究開発法人、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、水中ドローンで調査などの事業を手掛ける株式会社ジュンテクノサービス(埼玉県川越市)が登壇を予定している。
■「海しる」はこちら
■SEA BALOONはこちら
水中ドローンの普及に力を入れている株式会社スペースワン(福島県郡山市)は9月26日、重さ1・3キロの小型水中ドローン「CHASING DORY」(チェィシング・ドリー)を11月に発売すると発表した。中国・深圳の水中ドローンメーカーCHASING-INNOVATION TECHNOLOGY(以下CHASING社)の新製品で、発表会にはCHASING社のAlex Chang CEOもかけつけ、新製品をアピールした。発表会は「しながわ水族館」で開催され、水中ドローンと水槽の生き物との共演も披露された。
CHASING DORYの最大の特徴は小型、軽量であることによる携帯性の高さだ。重さは1.3キログラムとノートパソコン並みで、全長24・4センチ、幅18・8センチとバッグに入れて運びやすい。重さ、大きさとも従来の同社の主力機、「GLADIUS mini」のほぼ半分だ。
本体は水の中を軽快に動くため5つのスラスターを備えている。操縦者から15メートル離れても通信が可能なベースステーションと呼ばれるブイを浮かべ、本体はそこからのびる15メートルのテザーロープにつながれている。操縦者からは水平方向に15メートル、水深15メートルまでの範囲で動き回れる。F1・6のレンズを備え1920×1080、30Fpsの動画撮影が可能だ。カメラの向きを上下させるためには、本体そのものを傾ける必要があり、上下それぞれ45度まで傾けた姿勢を維持できる。タブレット端末やスマートフォンで専用アプリをダウンロードして操作する。
発表会ではスペースワンの小林康宏社長が「水中ドローンの普及で新しい水の中の風景を気軽に楽しんでもらえると期待している」と話し、CHASINGのCEO、Alex氏が「水中ドローンではリーディングカンパニーであると自負している。発表会に登壇できて光栄だ」とあいさつした。スペースワンのドローン事業部、植木美佳さんがCHASING DORYの特徴を動画をまじえて紹介したあと、「実際に動いているところも御覧いただきます」と、水族館のデモンストレーションに来場者を誘導した。デモンストレーションでは、60種の900点の生き物が泳ぐトンネル水槽をCHASING DORYが自在に動く様子を確かめた。
スペースワンは、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)認定のドローンスクールを運営するほか、水中ドローンのエキスパートを養成や普及を推進するための、一般社団法人日本水中ドローン協会(東京)も運営しており、水中ドローンの操縦技術を習得希望者に向けた水中ドローンスクール「GLADIUS CAMP」の運営も管理している。小林氏は「海に囲まれている日本で水中ドローンが根付けばもっと楽しく豊かになると思う」と水中ドローンの普及に力を入れる方針だ。
CHASING DORYの価格は5万9800円(税込み)。
・CHASING社HP:https://www.chasing.com/jp
・一般社団法人水中ドローン協会:https://japan-underwaterdrone.com/
水中ドローンを手掛ける中国CHASING Innovation社の代理店、株式会社スペースワン(福島県)の小林康宏代表が5月13日、神奈川県藤沢市の慶應義塾大学SFCキャンパスで、慶大ドローン社会共創コンソーシアムの代表を務める古谷知之総合政策学部教授の先端モビリティ研究会に登壇し、水中ドローンを紹介、実演した。デモンストレーションでは居合わせた学生や教員らも集まり注目度の高さを示した。同社は研究活動に生かしてもらうため、グラデフィウスミニを1機を、実演用のプールとともにコンソーシアムに寄贈した。
小林代表はウェブサイト制作、通信販売などとともにドローン事業を展開。コンサルティングやスクール運営を手掛けるほか、全国の自動車学校によるドローンスクール進出の足掛かりとなった全国自動車学校ドローンコンソーシアム(ジドコン)の構築を支援してきた。中国CHASING社のパートナーとなって以降、水中ドローン「グラディウスミニ」などの普及のほか、水中ドローン安全潜航操縦士の講習やライセンス発行を通じて、安全確保にも取り組んでいる。
この日の研究会には、履修している学生のほか、南政樹ドローン社会共創コンソーシアム副代表が主催する自主活動「ドロゼミ」の参加学生、関係者らも参加。古谷教授のあいさつのあと、小林代表が自社の取り組みなどを説明した。その中で小林代表は自動車学校のドローン参入の背景にある免許取得人口の急減などに言及し、「自動車教習で培ってきた教習のスキルがドローンにも生かせる。垣根をこえた安全意識と質の高い教育が必要」と指摘した。
また小林代表は、民間調査機関の水中ドローン市場の拡大予測を紹介しながら、海の活用について言及。「海の平均水深は3800メートルと富士山が浸かるぐらい」、「マリアナ海溝の最深部を目撃したのは世界に3人しかおらず、そのうちの1人が映画監督のジェームズ・キャメロン氏」などと豆知識をおりまぜて講演し、海の中が「まだまだ解明されていないことだらけでおもしろい領域。日本は海に囲まれた海洋国家でもあり、水深100メートル以内のところでビジネスチャンスがあると思っている」などと、水中ドローンの可能性んも高さを指摘した。
水中ドローンへの期待は世界的に高まっていることについても言及。大規模展示会のブースを示しながら「次年度は水中ドローンのメーカーのブースが増えるうえ、1社あたりが拡大する見込みだ」と述べた。
この日、小林代表が持ち込んだのはスペースワンが扱っている水中ドローン「グラディウスミニ」。機体の色は、かつて一世を風靡したイギリスのSF人形劇特撮「サンダーバード」に登場する潜水マシンサンダーバード4号を思わせる印象的な黄色で、最近では大規模展示会、JapanDrone2019で2部門で表彰されるなど話題の機体だ。4Kカメラを搭載していて、陸上で操作をしながら搭載したカメラがとらえた映像をリアルタイムで確認できる。カメラの角度は、機体そのものの角度を調整することで可能で、その角度をたもつなど姿勢を保つことができる。空中のドローンのように、定められた位置に静止することができるなど多くの特徴を持つ。
このため、漁業関係者が船底に操船の邪魔になる貝がついていないかどうかといった、通常ならダイバーが潜って行う確認作業をグラディウスでできることを映像で紹介。荒天時の定置網の保全や、養殖場の管理、ビル蓄熱施設、ダム給水口などで用途が考えるほか、「被災地の海水浴場では、水面が穏やかに戻っているように見えても、海底には撤去されないまま沈んだ構造物の瓦礫などが残っている場合もある。近く、その作業にも出向く」などと、用途が拡大している実態を伝えた。
このほか、世界では未来のモビリティのひとつとして人が潜水を楽しむための乗り物も研究されていることを紹介。「2050年にはさまざまなモビリテフィが誕生すると思う」と展望した。
教室で講演したのち、キャンパス内にあらかじめ設置した小型プールでグラディウスミニを実演。小林代表が手に持ったプロポを操作すると、プールに浮かべた黄色い機体のプロペラがまわってしぶきをあげながら姿勢をかえずにもぐり、プールのまわりに集まっていた学生から歓声があがった。プロポの画面で機体搭載のカメラがとらえた映像が確認できた。学生たちも捜査を体験し、「これはきれい」「いろんなところで使いたい」の声があがった。また捜査の方法や機体の性能について、学生や見学者から活発に質問があがり、小林代表や、小林代表に同行したスペースワンの植木美佳さんがていねいに対応した。
デモの途中からは、別に持ち寄った中国パワージビジョン社製の海洋ドローン、パワードルフィンも投入。2機のドローンの競演に、通りがかった学生、教員、関係者、事務員らが足を止め見入っていた。
デモのあとに、小林代表が慶大ドローン社会共創コンソーシアムに、グラディウスミニをデモ用のプールとともに贈呈。「研究に生かしていただければうれしい」とあいさつした。