自動制御技術のブルーイノベーション株式会社(東京)は5月20日、一宮町(いちのみやまち、千葉県長生郡)で、津波避難広報システムの運用を始めた。津波警報などの発令を受けてドローンが自動で離陸して海岸に飛び、海岸にいるサーファーらに高台への避難を呼びかける。一宮町役場で完成記念式典が行われ、馬淵昌也町長は「サーフタウンとしてみなさまに安心して頂けるレベルがはるかに上昇すると大変うれしく思っています」などとシステムの運用開始を歓迎した。この日はドローンのデモ飛行も行われ、海上を飛びながら避難を呼びかける様子が公開された。

運用が始まった津波避難広報システムは、ブルーイノベーションが独自開発した制御システム、Blue Earth Plarform(ブルーアースプラットフォーム、BEP)をドローンポートの自動運用に適用した「BEPポート|防災システム」を一宮町向けに調整したシステムだ。同じ仕組みを使ったシステムが仙台市に導入されていて、一宮町での導入は津波避難広報システムとして2例目となる。
システムは国が緊急事態を知らせる「全国瞬時警報システム(Jアラート)」と連動していることが特徴だ。Jアラートのうち、大津波警報、津波警報、津波注意報の3種類の津波関連情報を受信すると、自動制御システムであるBEPが自動でドローンポートにドローンの飛行を指示し、ポートに待機していたドローンが自動で離陸する。
離陸したドローンは海岸に向かって飛行し、海岸線から10~20m程度の海上上空にたどりつくと、水面から25mほどの高さにまで飛行高度をさげて、機体に搭載しているスピーカーから「ただちに高台に避難を」などと海上のサーファーや周辺の人々に呼びかける。スピーカーのメッセージの種類はJアラートが受け取った津波情報によってBEPが使い分けを指示する。
システムは頭脳であるBEPと、ドローンポート、ドローン本体がセットになっている。採用されたドローンポートは「DJI DOCK」、ドローンは「DJI Matrice30T」。ポートと機体は一宮町役場の屋上と、町役場から直線で2.7㎞離れた一宮町立東浪見小学校にそれぞれ1組ずつ設置された。機体は視認しやすいように白い機体がオレンジ色で塗装されている。
BEPがJアラートを受信すると、ふたつのドローンポートを同時に制御し、それぞれのポートから自動でドローンが離陸する。一宮町の海岸は約7.5㎞あり、2機のドローンが呼びかけエリアを分担する。飛行時間に限りがあるドローンのバッテリー環境を健全に保ち、沿岸での呼びかけを終えるまでの時間を短縮する。
ドローンの飛行経路や、ドローンのカメラからとらえた映像はBEPでリアルタイム管理され、本部(町役場や災害対策本部、消防など)にいながらに確認できるため、職員が現場に向かう危険を回避することにもつながる。
システム導入までは、一宮町では防災無線が避難広報の中心的な役割を担ってきた。サーファーたちの心強い味方だが、固定された無線では呼びかけ効果に濃淡ができることや、建物の影になった場所への呼びかけなどが課題として指摘され、防災体制の強化が検討されてきた経緯がある。一宮町の馬淵昌也町長は「高台から光を照らして知らせるなどの方法も検討したが網羅性に課題があった」という。
完成記念式典で馬淵町長は「防災では災害情報を瞬時に正確にすべてにもれなくお知らせすることが大事です。今回のシステムはその一歩として期待していますし、サーフタウンとしてみなさまに安心して頂けるレベルがはるかに上昇すると大変うれしく思っています」と述べた。
式典では小関義明一宮町議会議長が「わが町の防災体制の向上に大きく寄与すると期待しています」とあいさつしたほか、一宮町サーフィン業組合長の鵜澤清永組合長の「今回のシステムはまさに命を守るための仕組みです。情報をいちはやく正確に必要な人にしっかり届けることは、早めの避難行動に直結し、被害を最小限に抑える力になります」と期待を寄せるメッセージや、プロサーファー岩見天獅さんの「海の上で危険をどう伝えるかは本当に大切。今回導入されるシステムは聞こえない、と必ず届く、に返す取り組みだと思います」というメッセージが紹介された。
この日行われたデモフライトでは、一宮町役場の屋上に設置されたドローンポートから離陸したドローンが、一宮海岸の上空からスピーカーで呼び掛ける様子が披露された。
一宮町は昨年(2024年)11月に、ブルーイノベーションのシステム導入を発表し、その後、調整を続けてきた。この日の発表から実運用に入る。原則としてJアラートの発表がないとドローンは出動しないが、防災訓練などのさいに飛行を公開する可能性があるという。






ブルーのドローン津波避難広報システム、一宮町が導入 仙台市の導入を教訓に決定
公表されたプレスリリースは以下の通り
~Jアラートと連動、避難広報と状況把握を完全自動化。千葉県一宮町で2例目の社会実装~
ブルーイノベーション株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役社長:熊田 貴之、以下 ブルーイノベーション)は、自治体向けに開発した「BEPポート|防災システム」(以下 本システム)の本格提供を、2025年5月20日より開始しました。
同日、千葉県一宮町にて本システムを活用した津波避難広報システムの完成記念式典が開催され、津波対策としては2022年に導入された宮城県仙台市に続く2例目の社会実装となります。
本システムは、Jアラート(全国瞬時警報システム)と連動し、災害発生時の避難広報および現場の状況把握を自動化することで、迅速かつ的確な初動対応を可能にする次世代型の防災ソリューションです。ブルーイノベーションは今後、人に依存しない無人防災の実現を目指し、全国自治体への展開を進めてまいります。

■災害対応に求められる「初動対応」・「迅速な状況把握」・「確実な伝達」
地震・津波・豪雨・森林火災など、頻発する自然災害が懸念される中、自治体には迅速な「避難広報」と「被災状況の可視化」が求められます。しかし、実際の現場では「人手不足」や「安全確保」が課題となり、迅速な初動対応が困難なケースも少なくありません。
そこでブルーイノベーションは、自治体が抱える防災対応の課題に対し、「避難広報」と「状況把握」を自動化する次世代型防災ソリューションとして、「BEPポート|防災システム」を開発しました。
■「BEPポート|防災システム」の3つの特長
本システムは、ブルーイノベーションが開発したドローンポート情報管理システム「VIS(Vertiport Information System)」※1を基盤とし、Jアラートと連携することで、災害発生時にドローンが自動で発進。広域への避難広報とリアルタイム状況把握を実現し、自治体の防災力向上に大きく貢献します。
1.Jアラートと連動した自動避難広報
Jアラートを受信すると、ドローンポートからドローンが自動発進。上空からスピーカーで避難を呼びかけ、人手を介さず、迅速な避難指示を行います。
2.被災状況のリアルタイム把握
あらかじめ設定された飛行ルートを自動飛行しながらドローンが被災地の映像を取得。複数機の同時運航で広域をカバーし、映像はBEPポートサーバー(国内クラウド)へ自動保存。現場の状況を安全・確実に把握・共有できます。
3.職員の負担軽減と安全確保
遠隔からの状況確認により、職員の現地出動を最小限に抑えます。専用アプリによる簡単操作で自動運航できるため、ドローンの操縦スキルに依存せず、安全な初動対応が可能です。

■サーフィンの聖地、千葉県一宮町への導入
全国有数のサーフスポットとして知られる千葉県一宮町は、年間約60万人のサーファーや観光客が訪れ、海岸エリアには常に多くの人が集まる地域です。一方で、約7.5kmにわたる広域な海岸線を有する同町では、津波などの災害発生時における避難指示の迅速かつ確実な伝達が大きな課題となっていました。
この課題を解決すべく、一宮町では当社が開発支援を行った宮城県仙台市での津波避難広報ドローン事業の事例に着目し、本システムの導入を決定し、4月から稼働開始しました。津波注意報以上が発令された際には、一宮町役場と東浪見小学校の屋上に設置されたドローンポートからドローンが自動で発進。上空からの避難広報と現場映像の取得を同時に実施します。
これにより、サーファーや観光客、地域住民を問わず、広域かつ迅速な避難支援と状況把握が可能となり、一宮町はより強固な災害対応体制を実現しています。
■「BEPポート|防災システム」の全国展開へ
本システムは、津波災害に限らず、地震・洪水・火山災害・森林火災など、多様な災害への対応を想定した汎用性の高いソリューションです。
今後、全国の自治体や公共団体への導入を積極的に推進し、特に人手不足や高齢化が進行する地域において、人に依存しない「無人防災インフラ」の構築と社会実装を目指してまいります。
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仙台市が11月5日、ドローン使い津波避難訓練 ブルーのBEP技術活用 ドローンショー愛好家の間で、一般社団法人日本ドローンショー協会(東京)の公式サイトやメールマガジンが役立つと評判だ。公式サイトでは、ドローンショーの開催日程が確認でき、メルマガではドローンショーの地域活性化や観光振興などの側面からの価値の理解に役立てることができる。
日本ドローンショー協会は、「ドローンショーがもたらす新たな価値と可能性を追求し、日本の空から、未来の感動体験を届ける」を掲げ、ドローンショー事業者などが2024年7月に設立した。代表理事を、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で協会企画催事のプラチナパートナーとして参画した株式会社レッドクリフの佐々木孔明代表取締役/CEOが務める。
公式サイトの「イベント情報」では、ドローンショーの盛り込まれる催事の日程が紹介されている。たとえば2025年12月20日に神戸市中央区で開かれる「神戸メリケンクリスマス~希望の灯と海の光~」では、午後6時と午後8時の2回、500機を使ったドローンショーが行われることが予定されていることがわかる。運営するのはレッドクリフだ。
同じ12月20日には和歌山の「和歌山マリーナシティ ポルトヨーロッパ」でも500機を使ったドローンショーが開催されることが案内されている。音楽ユニットYOASOBIが今年8月に金沢で開催したライブで終了後に帰途に就く来場者に向けて感謝のメッセージをドローンショーで届ける演出や、7月に横浜市で行われたMrs. GREEN APPLEの野外ライブでバンドロゴなどを浮かび上がらせる演出を手がけた株式会社ドローンショー・ジャパン株式会社(金沢市<石川県>)が運営する。
また公式サイトの「活動報告」では、ドローンショーの第一人者が登壇したセミナーなどが報告されている。セミナー動画のアーカイブは入会すると見ることができる。
日本ドローンショー協会は11月12日にメルマガの創刊を発表した。あいさつの中で「ドローンショーは、エンターテインメントとしてだけでなく、地域活性や観光振興、広告・教育など多方面で注目を集めています。本メルマガでは、こうした広がりを『もっと身近に』『もっと分かりやすく』お伝えすることを目指します」と創刊理由を説明している。
創刊号では「ドローンショーイベントカレンダー」を公開したことや、第4回ドローンショーオープンセミナーのほか「業界初!ドローンショー運営ガイドライン 第1版発表へ」などが盛り込んでいる。とくに会員には、会員同士の情報交換に使われているSlackを補完する最新情報や活動の裏側を提供する方針で、今後も不定期配信ながら、開催レポート、技術トピック、安全対策、行政連携、会員企業の紹介などを盛り込む予定だ。
日本ドローンショー協会の公式サイトはこちら
日本ドローンショー協会の入会案内はこちら


KDDIスマートドローン株式会社(東京)は、同社の独自ネットワーク「KDDIスマートドローンパートナーズ」に名を連ねる事業者、企業が114社の一覧表を公表した。日本で長くドローンを取り扱っている企業や、講習で実績のあるスクールなどの顔ぶれもある。
KDDIスマートドローン株式会社の発表は以下の通りだ。
2025年11月20日
KDDIスマートドローン株式会社
KDDIスマートドローン株式会社は、日本全国のドローン事業者・関連企業とのパートナーシップネットワーク「KDDIスマートドローンパートナーズ」の”第二期”体制構築が完了し、新たに56社が参画したことをお知らせします。第一期の58社と合わせ、参画企業は全国114社となり、全国のお客様へ地域密着型での迅速かつ高品質なサービスを提供する体制を実現しました。
「KDDIスマートドローンパートナーズ」は、KDDIスマートドローンが提供する多様な商材・サービスを活用いただくことで、パートナー企業のドローンビジネスの成長を支援し、共に発展していくことを目指すプログラムです。
全国各地に拠点を有するパートナー企業と緊密に協働することで、ドローンの導入・運用における地域の課題やニーズに即応できる体制を構築。日本全国どこでも、地域に根差したきめ細やかなサポートと、「KDDIスマートドローン基準」の均一な高品質サービスを迅速に提供することが可能となります。



DJIはドローンが飛行禁止エリアに侵入しそうになると操縦者の意志や操作にかかわらず、飛行を強制的にそれ以上進めなくなる機能を事実上廃止する。欧米ですでに適用されている変更を、日本を含め世界各国に適用を広げる。これまでは「うっかり侵入」の防止に重宝されてきた一方、禁止エリア内での災害発生時などにドローンでかけつけることが制約があるなどの声もあった。方針転換により、操縦者のより厳密な管理と、禁止エリア管理者の監督強化が求められることになる。
DJIの発表は以下の通りだ。
DJI、GEOシステムのアップデートを未対応の国際市場へ拡大
2025年11月17日 – DJIは本日、GEOシステムのアップデート適用エリアを、欧州と米国に続き、未適用の国・地域へと拡大することを発表しました。これは、DJIが空域ガイダンスシステムを標準化し、世界中のドローンオペレーターに一貫した体験を提供するという継続的な取り組みにおいて、一歩前進したことを示しています。
2024年初頭に欧州で、2025年初頭に米国で導入されたアップデートを踏まえた今回のグローバル展開は、オペレーターが認識して責任を負う、という規制の原則に沿ったものです。このアップデートの一環として、世界中に残存する飛行禁止区域(NFZ)が強化警告区域(EWZ)に再分類されます。これにより、飛行体験が統一され、異なる管轄区域を横断して運航するパイロットの混乱が軽減されることになります。
今回のアップデートは段階的に展開される予定で、2025年11月17日にDJIのコンシューマーおよびエンタープライズの製品ラインから始まり、続いて同年12月にファームウェア・リリースを通じて農業ドローンにも順次適用されます。そして、2026年初頭にGEOロック解除申請サービスが終了することにより、一連のアップデート・プロセスが完了します。(以下略)
今回の転換は、操縦者や原発、空港など禁止エリア管理者にとって、より重要度が高いとみられうる。
飛行禁止区域(NFZ)が強化警告区域(EWZ)に切り替えられることで、Geofencing機能(ジオフェンシング機能、区域進入自動制御)が解除され、警告表示だけになる。緊急事態などによりGeofencingが機能している区域にドローンを飛行させる必要があるときには、当局ではなくDJIにGeofencing機能を一時的に解除する申請(GEO Unlock Request サービス=いわゆる解除申請サービス)をする必要があったが、これを「2026年初期」に廃止する。
パイロットのその区域に対する状況、法令、許可の有無の理解や確認、判断がより厳密に問われることになり、技術的な飛行ブロックがなくなるため「うっかり侵入」リスクも高まることになる。
施設管理側もより厳密に空域の管理が迫られることになりそうだ。


海外勢のシェアが高いドローンについて、国産化の議論が再び活発化するかもしれない。防衛省は11月18日の衆院安全保障委員会で、自衛隊が保有するドローンの国産化率が9月末時点で約3割だと明らかにした。日本維新の会の阿部司氏の質問に答えた。小泉進次郎防衛相は「日本が自前で国産ドローンをどこまで強化できるかは大事なところでしっかり防衛省としても取り組む」などと述べた。国産とは何か、国内で確立すべき技術は何か。
ドローンの国産化率として示された「3割」という数字は、大量のドローンを戦場に投入しているウクライナとは大きな開きがある。ウクライナのデニス・シュミハル首相はほぼ1年前の2024年12月、地元メディアのインタビューに対し「ドローン分野では国内生産が96%以上を占める」と述べている。
「3割」の数字が飛び出したのは、衆院安全保障委員会での政府答弁だった。質問した日本維新の会の阿部司氏は、防衛装備品として使用するドローンが他国の技術に過度に依存すれば、有事での継続的な運用やサイバーセキュリティーの上で大きなリスクを抱えることを指摘した。これに対し小泉進次郎防衛相が「日本が自前で国産ドローンをどこまで強化できるかは大事なところだ。しっかり防衛省としても取り組んでいく」と応じた。
防衛省は実際、ドローンを防衛力強化の柱のひとつとして位置付けていて、無人航空機(UAV)、無人水上艇(USV)、無人潜水艇(UUV)、無人地上車両(UGV)など「無人アセット防衛能力」に予算を重点配分する方針を掲げている。
一方委員会では「国産」の意味や定義には言及していない。
一般に工業製品については、産地を表示する食品などとは異なり「国産」に明確なルールがない。衣類などで、生地が外国製で縫製が日本国内の場合に「日本製」と表示できるのは、景品表示法で「実質的な変更」が加えられた国を「原産国」として表示することになっているためだ。「実質的な変更」は製品の特性や機能を決定づける重要な工程のことをさす。このルールは消費者保護の観点から設けられた。
一方、数多くの部品を組み合わせてできあがる製品については公的なルールはない。このため海外製の部品を使って日本で組み立てた製品も「日本製」と言える反面、ユーザーが持つ日本製のイメージと乖離していて、「あれは日本製とは言わない」などと論争になることがしばしばおこる。
民間企業は「日本製」と打ち出すことが競争上優位であれば、最終組み立てが日本国内で行われれば「国産」と打ち出す傾向がある。中には部品、モジュールなどできるだけ日本製でそろえ、より国産色を極める努力を重ねる企業もある。一方で、素材、部品、組み立てすべてを日本で完結することは難しい現実もある。現行の装備にも海外製の基幹部品やソフトウェアが組み込まれていることもあり「完成品としては国産でも、中身は国外技術に依存する」構造は残る。
日本でドローンの国産化率が伸びない背景には、複数の構造的な要因がある。
最大の要因は、ドローンの心臓部に相当するフライトコントローラや通信方式などで海外メーカーが圧倒的な優位を持っている点があげられる。自衛隊が採用する多くの機体も国際市場で実績のある海外製コンポーネントを取り込み、性能要求を満たしていることが多いとみられる。
また、国内企業が国防向けに投資を判断するには、量産規模の小ささや調達サイクルの長さが障壁になりやすい。さらに、暗号・認証といった安全性の基準を満たすには、ハードウェア開発にとどまらない継続的なソフトウェア対応が必要になる。実質的に海外技術への依存度が高止まりしている背景には、これらの条件が重なりあっている事情もある。
安全保障上「国内で確立すべき」分野を考えるといくつか思い当たる。
まず、GNSS妨害や通信妨害を検知し、回避行動を取るアルゴリズムを備えたフライトコントローラが挙げられる。自衛隊が運用するエリアはたいてい電波環境が厳しく、国外依存では対応が制限される懸念がある。
次に指摘できるのは、暗号化・署名・鍵管理といったセキュア通信基盤だ。操縦信号や機体側ログを防護する仕組みが国外由来の場合、海外企業の設計思想や法制度の影響を受ける可能性があり、国防運用としての透明性を確保しにくい。
さらに、飛行ログ解析や操縦AIなどソフトウェアの高度化がある。軍事運用のノウハウと直結するため、海外製をそのまま使うことには機能面でも情報面でも限界がある。これら中核領域の技術を国内で整備できれば、装備の自律性、運用上の独自性が高まると期待が寄せられている。
こうした技術を国内で確立させるためには、政府による開発領域の明確化と調達計画の共有が重要だと考えられる。
理由は民間企業が軍用市場に参入する際、最大の障壁になるのは「投資の回収可能性」だからだ。量産規模が小さい場合でも事業が成立するよう研究開発支援や共同開発の枠組みを整備すれば企業の参入ハードルが下がる。また、防衛省が採用する安全基準や暗号仕様を国内仕様として確立し、民生向け開発とも連動させることができれば、技術の汎用性を高められる。
国防向け開発は市場規模が限られるが、要求性能が高いため民生技術へのフィードバックが大きい。飛行制御、セキュリティ、電波処理などの分野で高い技術が日本国内で育てば、物流・点検・災害対応やそのほかの民生分野の競争力向上につながり、結果として国内経済に波及効果をもたらす展望もある。
「国産化率3割」をきっかけに、国産とは何か、取り組むべきことは何か、といった議論が活性化することを期待したい。

経営再建を目指すドイツのAAMメーカー、ヴォロコプター(Volocopter)は2025年11月18日、AAMの開発について、実運用に近い環境を再現する「サンドボックス・プログラム」と呼ぶ試験運用プログラムを2026年に欧州で開始すると発表した。対象機体は「VoloCity」と「VoloXPro」(「2X」から改称)で、型式証明取得と商用航開始を視野に入れた重要な工程と位置づけている。今回の発表は、昨年末の破産公表から今年3月の経営体制刷新を経て、改めて開発姿勢を示した形だ。
ヴォロコプターの発表によると、サンドボックス・プログラムは都市部と地域間を想定した実飛行で構成され、離着陸場での地上オペレーション、乗客体験、ポイント-ツー-ポイント(Point-to-Point)ミッション遂行手順など、商用運航を見据えた要素を盛り込む計画だ。運用データを蓄積し、同社が目指す型式証明取得に向けた準備を進める。
今回の取り組みにはドイツの救急航空を担うADAC Luftrettungがパートナーとして加わり、将来的な医療用途への展開可能性も含めて評価を進めるとみられる。
対象機体の一つであるVoloCityは、同社が都市空間でのエアタクシー運用を想定して開発するeVTOL型AAMで、乗客輸送を中心に据えたモデルである。もう一つのVoloXProは、600kg級の軽量eVTOLで、これまで「2X」の名前で公開されてきた機体をリブランディングした機体だ。同社はこれまでエアタクシーとしての都市内移動サービスを目指しており、都市内の短距離移動から郊外連絡まで幅広いミッションに対応する見込みだ。両機とも今回の試験で運航準備性の確認を進める。
ヴォロコプターは2030年までに複数の機体をサービス投入する方針を掲げてきたが、経営体制の変化によりAAMの発部隊に登場する機会が減っていた。今回の発表は改めてAAMの開発計画を進める意向表明で、2026年以降の事業計画の軸を明確化した形となった。実運用を想定したサンドボックス・プログラムを通じ、欧州でのエアタクシーサービス実装につなげる方針だ。
ヴォロコプターは昨年(2024年)12月26日に破産申請し、今年(2025年)3月14日、中国の自動車部品・機器製造で航空部門も持つ浙江万豊汽車有限公司(ワンフェン・オート・ホイール)のグループ会社でオーストリアの軽飛行機メーカー、ダイヤモンド・エアクラフト・インダストリーズが統合すると発表した。日本では2023年3月にVoloCityのフルスケールモックが大阪市で公開されたほか、同年12月12日には2X(現VoloXPro)が大阪・北港緑地でデモフライトを披露している。現在、経営再建とAAMの社会実装を目指している。
(参考)
DroneTribune記事「ヴォロ、中国系オーストリア社が統合」



SkyDriveはアブダビ首長国の政府機関である交通統合センター(ITC)とAAM(いわゆる空飛ぶクルマなどの先進的エアモビリティ)の社会実装に向けた協力覚書(MOU)を結んだと発表した。空飛ぶクルマ「SKYDRIVE」(SD-05型)の導入可能性を調査し、離着陸場や充電設備などのインフラ整備、エコシステム構築、事業化検討を進めることが盛り込まれた。アブダビはすでに複数のAAM企業と提携を拡大しており、SkyDriveにとっても今回のMOUをUAE展開の加速につなげたいところだ。
SkyDriveがアブダビのITCとのMOUの調印式は、2025年11月11日にアブダビで開催された自動運転技術、ドローン、スマート交通インフラをテーマとした国際的なイベント・展示会「DRIFTx 2025」で行われた。今回のMOUでSkyDriveは同社の「SKYDRIVE(SD-05)」をアブダビの都市交通に活用する可能性を探る。離着陸場としてのヴァーティポート整備や充電インフラの検討、AAMのエコシステム形成、需要調査を含む事業化の検討などが中心となるとみられる。SkyDriveはITCと協力してAAMの導入に必要となる制度面の調整や技術要件の整理も進めていく姿勢を示している。
SkyDriveの福澤知浩代表取締役CEOは、「世界の中でも空飛ぶクルマの早期商用化を目指し、インフラや規制の整備を先進的に進めているアブダビ首長国と提携できることを光栄に思います。今回の提携は『日常の移動に空を活用する』という、われわれの目標を現実のものにするために、非常に重要な一歩となると考えております。今後、ITCと協力しながら、アブダビ首長国の住民の方、ビジネスや観光で訪れる方に、革新的で持続可能な移動体験を提供できるように活動をおこなってまいります」とコメントした。
ITCのDr. Abdulla Hamad AlGhfeli氏は「われわれは、未来のモビリティへの移行を加速させるため、国内外での戦略的パートナーシップを進めています。今回の合意は、スマートで統合的な交通システムを構築し、最新の自動運転や先進的な航空モビリティの技術を導入するという、アブダビの強いコミットメントを示すものです。今後、人々の生活の質を高め、アブダビ首長国を先進モビリティシステムの世界的な中心地にするという、政府の統合交通インフラのビジョン実現に貢献します」と期待を示している。
SkyDriveは今回の合意以前からUAEでの事業展開を進めてきた。2023年にはAAMのインフラ開発を手掛けるカナダのVPortsと協力し、ドバイに設置が進む「AAMインテグレーター・ワールドセンター」を活用する覚書を締結している。また、2025年にはドバイのヘリコプターチャーター会社AeroGulf Servicesと同社の「空飛ぶクルマ」の導入を検討するMOUを交わした。今回のITCとの連携はこうしたUAEでの活動の延長線上と位置づけられる。ドバイの観光市場、アブダビの都市交通政策が現時点でのUAEでのAAM展開だ。
アブダビ政府はAAMを都市交通戦略の柱として掲げ、多くの国際企業と協力関係の構築を進めている。Joby Aviationとは飛行運航、訓練、製造拠点の検討を含む包括的MOUを締結しており、Archer Aviationとはアブダビ空港やEtihadトレーニングなど複数機関との協力関係の枠組みを構築している。また英Skyportsとはヴァーティポートネットワーク整備に関する協力が進むなど、AAM実装に向けたパートナーはすでに多岐にわたる。
アブダビは複数企業との連携を通じてAAM運用の実証基盤を整備する段階に入りつつあり、SkyDriveの参画はAAM実装の選択肢を広げる役割を担う。SkyDriveにとってもUAEでの実装に向けた取り組みが進む契機となる可能性がある。
一方、Joby、Archer、EHangなど主要プレーヤーも、アブダビの都市間移動、観光需要、物流用途などの領域でAAMの活用を見据える。SkyDriveを含む各社は今後、実装への道筋をかけて都市のニーズに合わせた運用モデル構築に取り組むことになる。SkyDriveは軽量機体をいかした短距離移動や観光用途に強みがあり、UAE市場で他社とは異なる運用領域を打ち出せる可能性がある。
