探求教育に力を入れる日本大学豊山女子高等学校(東京都板橋区)は8月10日、探求教育の一環でドローンを学ぶ生徒がドローンの操作に初挑戦する様子をメディアに公開した。講習はドローンの指導やソリューション開発を手掛けるブルーイノベーション株式会社(東京)が担い、指導役オペレーター6人を含む10人以上のスタッフがサポートした。講習に臨んだ生徒たちはゲームのジョイスティックの操作性との違いを短時間でのみこみ、「楽しい」、「もっと飛ばしたい」を連発。2時間ほどの実践で機体先頭のカメラを円の中心に向けたまま周回させるノーズインサークルのコツをつかむ生徒もいた。生徒たちは今後、課題の解決に結びつけるなど実践の局面に進む。
ドローン操作に臨んだのは、ドローン部に所属する25人のうち、夏休みでも参加ができた18人。生徒たちが3人ずつ6班に分かれると、各班に配属されたブルーイノベーションの講師の指導に耳を傾け、電源を入れ、ひとりずつ操縦に挑戦した。
スティックの動かし方を学び、浮上、ホバリング、着陸を一巡したのち、前進と後退、左右移動、左右回転などをおりまぜて、四角形の4辺を進行方向に機体のアタマを向けながら移動させた。エルロンではゲームのコントローラーの勢いで舵を切り、機体が急に動くことを実感し「そっと、そっと動かさないといけないんですね」と目を輝かせた。
1年生のはまじんさん、たいにーさん、れんさんは、ドローンに触れたのは今回が初めてだったがみるみるコツをマスター。最初に操作をしたはまじんさんがいち早く四角形の周回をこなすと、それを見ていたたいにーさんが「もっとゆっくり動かしたほうがなめらかに動くかなと思って」とさらになめらかな動きを実践。すると、ふだんゲームでスティック操作に慣れているれんさんは「ぴったり90度に曲がることが簡単ではなくて、もっと練習が必要だと思いました」と精度を高める意欲を見せた。
ひととおりの課題をこなすと、3人とも「もっと飛ばしたい」と残り時間も積極的に操作。たいにーさんは、横移動と回転を同時にかけて、機体の鼻先を円の中心に向けたまま移動させるノーズインサークルの方法についててほどきを受けてさっそく実践すると、講師や関係者も「素質ありすぎじゃない」と驚くほどの初心者離れした操作をみせた。
操作の様子は、柳澤一恵校長や、探求教育の導入に尽力した黛俊行教頭も視察。柳澤校長は「生徒たちにはいろいろな経験をしてほしいと思ってこの取り組みをしました。経験が気づきを生み、社会にも還元できると思いますし、自身の人生を豊かにするとも思います。ドローンは社会に欠かせないものになると思います。社会に出る前にこの経験をしたことが、どんなふうに生きるか楽しみです」と目を細めた。
ドローン部はすでにドローンの特性や、地元である板橋区の社会課題などを学んでおり、今後、防災、防犯、地域の魅力化などのテーマごとに、ドローンの活用を検討する。
学校現場ではドローンの導入が広がっている。福島県立船引高校(福島県田村市)では、2016年12月以降、ドローン研究に力を入れる慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)によるドローン講習が続けられている。今年度は「プログラミング×AI×ドローン」が展開されている。湘南白百合学園中学・高等学校(神奈川県藤沢市)、聖光学院中学校・高等学校(横浜市)は、著名アーティストのライブの映像撮影実績を持つ船津宏樹氏がCEOとして率いるfly株式会社(東京)のてほどきで、STEAM教育の一環としてドローン講習を行った。徳島県立那賀高等学校も森林クリエイト科で2017年度からドローンのカリキュラムを取り入れており、学校でのドローン導入が加速しそうだ。
ドローンの災害活用を実践している「災害ドローン救援隊DRONE BIRD」は9月25日、千葉県柏市のショッピングモール、セブンパーク・アリオ柏でドローン体験会を開催した。「みんなの防災プロジェクト実行委員会」が運営する防災啓発活動活動「みんなの防災+ソナエ」の一環で、ショッピングに来た親子連れなどが列を作った。参加者の多くは初めてドローン7に触れる小学生以下の子供たちで、DRONE BIRDの古橋大地隊長(青山学院大学地域社会共生学部教授)らの手ほどきを受けて、手のひらサイズのドローンを飛ばして、フロアに広げられたシートに張り付けられたキャラクターのシールをカメラで撮影し、出発点に戻るミッションを楽しんだ。
DRONE BIRDはショッピングモール内のイースト・コートとよばれる屋内広場の一角を区切って体験ブースに仕立てた。区画内のフロアにドローンで撮影した俯瞰の風景写真を引き延ばして敷き、上空から見下ろした風景を再現した。その一か所に人気キャラクターのシールをはりつけた。ドローンは動く範囲を制限するためロープで係留した。
体験会は「被災地調査に出動! ドローンでGO‼」のタイトルで開催された。足元の風景は被災地、はりつけたキャラクターのシールは遭難者のかわりだ。体験する子供たちは、ドローンとプロポの簡単な説明を受けたあと、出発地点のランディングパッドで機体を離陸させ、左右レバーを操作しながらドローンを操縦させた。キャラクターのシールの上空まできたところで撮影をした。被災地に調査に出向き、遭難者を発見する作業の概略を体験したことになる。ドローンの操縦では、日頃子供たちが使っているゲーム機のジョイスティックとの使い勝手の違いに戸惑う子供たちも多く、指導員から助言を受けて修正しながら操縦していた。
DRONE BIRDの古橋隊長は「ドローンに親しみを持ってもらうだけでなく、捜索活動をなんとなくても体験してもらうことがこの活動の趣旨です。防災を考えるさいに、ドローンを使うことを思い浮かぶ人を増やしたいし、実際に使う人も増えてくれたら嬉しい」と話している。
古橋氏は体験会のほか、各地で練習会を開催したり、招かれた講演で防災へのドローンの利用の啓蒙をしたりと活動をしている。この2日前には静岡県御殿場市で開かれた「富士山ドローンデモンストレーション」(慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム内ドローンデモンストレーション実行委員会主催)で、ドローンの団体と自治体との連携の推進や、防災活用の意義などについて講演した。
「みんなの防災+ソナエ」は、体験を通じて防災意識の向上をはかるイベントで、開催地の地元自治体、警察、消防、看護、薬剤師の団体のほか、民間放送も複数参画し、全国各地で活動を展開している。この日の会場となったセブンパーク・アリオ柏でもDRONE BIRDのほかにも、心臓マッサージの体験や、消火活動体験、防災活動に活躍する車両の展示、紙芝居などが行われたほか、特設ステージでは、民放に登場する人気キャラクター、ガチャピン、ムック、そらジロー、BooBoが登場し、日本テレビの「お天気コーナー」で活躍している気象予報士で防災士の木原実さんの司会で防災に関係するクイズを出して、来場者を盛り上げた。
ドローンの研究、社会実装に力を入れる慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)は9月23日、静岡県御殿場市の御殿場市総合体育施設で「富士山ドローンデモンストレーション」を開催した。荒天のため飛行展示は中止となったが、体育館での展示、操縦体験会などが賑わいを見せ、ラトビア製、オランダ製などの珍しい機体に来場者が目を輝かせたほか、地面を走る自動走行車両に子供たちが歓声をあげた。ドローンを使った芸で知られるお笑いタレント、谷+1。(たにプラスワン)さんが、会場の一角で出展企業への公開インタビューを行ったり、DRONE FUND最高公共政策責任者の高橋伸太郎氏がフィギュアスケートソチ五輪日本代表の高橋成美さんとともに、ブース訪問取材を行ったりと会場を盛り上げた。コンソーシアムの古谷代表は「飛行展示が中止となったことは残念ですが、ご出展、ご来場のみなさまには充実した時間を過ごせるよう主催者が総力を結集します」などとあいさつした。
富士山ドローンデモンストレーションは、慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムドローンデモンストレーション実行委員会が主催し、御殿場市が共催、駐日ラトビア共和国大使館、一般財団法人防衛技術協会、防衛省南関東防衛局が後援して開催された。
開会式では主催者の古谷知之代表、共催した御殿場市の勝又正美市長が、出展者や来場者への感謝や、当日の抱負、今後の展望を織り込んだあいさつをした。来賓として参加した渡辺秀明・元(初代)防衛装備庁長官、佐藤丙午・拓殖大学海外事情研究所副所長が登壇してメッセージを寄せた。いくつか寄せられた電報のうち、新しい資本主義担当大臣の山際大志郎氏の文面が読み上げられた。進行は、フィギュアスケートソチ五輪日本代表で公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)理事の高橋成美さんが務めた。開会式の終了時には、勝又市長が谷+1。さんに促され、開会を祝うくす玉を割り、来館者から拍手があがった。
今回のドローンデモンストレーションは、前年までの「UAVデモンストレーション」から改称して開催された。対象が陸海空全体に広がったことに伴う改称で、会場には飛行技術以外の展示も並んだ。
制御技術のスタートアップ、炎重工株式会社(岩手県滝沢市)は、自動運転船舶ロボット「Marine Drone」の技術や取組をパネルで紹介し、操縦用のコントローラーを展示した。来場者が目を丸くしたのは、炎重工の操縦体験だ。展示会場の御殿場市から500㎞離れた岩手県大船渡市の海では、展示会にあわせて自動操船ロボットを浮かべて待機させていて、御殿場市の会場のコントローラーで操作する体験会を催した。体験者はブースのコントローラー前に座り、担当者の助言に従ってレバーを操作すると、岩手県に停泊する船舶ロボットが動く様子が、モニターに映し出した。
水中ドローンの運用に積極的な株式会社スペースワン(福島県郡山市)もノルウェイのBlueye Robotics社のたてがたに進む水中ドローン「blueye X3」や、日本で水中ドローン市場を構築するきっかけとなった中国CHASING社のフラッグシップ機、CHASING M2 PRO MAXなどを展示した。
海外製の機体が並んだことも特徴だ。ラトビアのアトラスダイナミクス社が開発した3本アームのトライコプター「Atlas PRO」(株式会社クリアパルス=東京=が出展)や、同じラトビアのエッジオートノミー社が開発した、カタパルトから射出する固定翼機「Penguin C」(株式会社JDRONE=東京=が出展)、オランダのエースコア社が開発したマルチコプター「ZOE」(ゾーイ)にSLAMレーザーHovermapを搭載した機体(株式会社みるくる=東京=が出展)、ドイツのクオンタム・シズテムズ社のeVTOL「Trinity F90 Plus」(みるくるが主展)、スイスのウィントラ社が開発したテールシッター型VTOL「Wintra One」(有限会社森山環境科学研究所=名古屋市=が出展)などが目をひいた。
航空工学の研究で知られる東京大学工学研究科土屋研究室は、NIST(米国標準技術研究所)が開発した小型無人航空機(sUAV, ドローン)の標準性能試験法(STM)であるNIST sUAV-STMで使うバケツを並べ、機体の性能評価や人材育成のユースケースを展示した。
会場では、株式会社バンダイナムコエンターテインメントのフライトシューティングゲーム「エースコンバット7」の体験会や、株式会社Kanatta(東京)が運営するドローンコミュニティ「ドローンジョプラス」の女性パイロットによる操縦体験会も、順番待ちの列をつくった。「災害ドローン救援隊 DRONEBIRD」の隊長でチームを運営する特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパンの古橋大地理事長(青山学院大学教授)は、会場内で講演し、ドローンの災害利用の有効性や、ドローンの団体、組織に地域との連携を呼びかけた。この中で古橋氏は「日本全国で100以上の災害協定と、数万人のドローン操縦者がポテンシャルとして存在します。地域と連携協定を結んでおくことで発災時に自治体からの指示や要請を待たず、初動に乗り出せますし、情報を公開することもできます」などと述べ、災害時のドローン活用の再確認を促した。
さらに会場の一角では、ドローン芸人、谷+1。さんがインタビューコーナーを設置。デモフライトを計画していた出展者を中心に、展示の企画趣旨やプロダクトなどについて聞き出し、来場者が輪をつくる様子が見られた。
観光名所などでドローン空撮を楽しめるツアーを企画し、運営しているJMTドローンツアー株式会社の遠山雅夫代表は、谷さんとのインタビューの中でウクライナからの避難者が参加して笑顔を見せたさいのエピソードや、ドローンの経験が浅い参加者でもバディ制を活用することで気軽に飛ばせる工夫を凝らしていることなどを説明し、観覧車が感心したりうなずいたりしていた。同社は今後、改めてウクライナ避難者のためのツアーを企画する計画で、近く、クラウドファンディングで資金を募る計画だ。
またエアロセンスの今井清貴さんも谷さんとのインタビューに応じ、エアロセンスの企業の成り立ちや取り組み、当日展示した国産VTOL機「エアロボウィング」の性能などを分かりやすく説明。「年内に新たなペイロードに対応できるよう準備中です」と近い将来の“ニュース”を予告した。
来館者の1人は、「台風14号が通り過ぎたあとも天候が悪いことが予想されていたので、デモンストレーションの開催が難しいことは予想していました。それでも展示会を開催してくれた主催者には感謝しています。多くの技術、機体をまとめてみることができ、関係者と意見交換ができるのは貴重な機会で、とても充実した時間がすごせました」と話していた。
出展者の1人は「来館者とのコミュニケーションの質が濃いと感じています。飛行展示があればもっと華やかではあったのでしょうけれども、今回は今回として有意義です」と感想を述べた。
出展した事業者は以下の通り。
東京大学工学研究科土屋研究室、炎重工株式会社、エアロセンス株式会社、加賀市、株式会社ANA総合研究所、株式会社スペースワン、株式会社JDRONE、株式会社みるくる、クリアパルス株式会社、JMTドローンツアー株式会社Phase One Japan株式会社、株式会社Image One、有限会社森山環境科学研究所、小野塚精機株式会社、フジ・インバック株式会社、明治大学POLARIS、日本DMC株式会社。(順不同)
地元主導でドローンの利活用を進めている多業種活動体、ドローンコンソーシアムたむら(福島県田村市)は9月14日、田村市役所で講演会と総会を開いた。慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムの古谷知之代表と、橋本綾子研究所員が講演した。下田亮研究所員も、質疑応答のさいに回答に応じた。古谷代表は講演の中で、「ヒトができないことをロボットで代替する発想だけでは限界がある」と、バックキャスト思考への発想の転換を促した。総会では役員案や事業案、予算案などを全員一致で承認した。
慶應の古谷氏は、「自律移動ロボットの社会実装に向けて」をテーマに講演した。飛行するUAVのほか、水上、水中、陸上など活動場所を問わず自律的に移動する機体をドローンと表現する考え方が広がる中、古谷代表はそれらをまとめて「自律移動ロボット」と表現し、自律移動ロボットの社会実装に向けた取り組みの重要性を説いた。
講演ではUAVや水中ドローンの活用が産業、防災など多方面に広がっていることを、海外の取組やコンソーシアムの実例などをあげて説明。水中ドローンについては環境対策への活用も進んでいることを紹介し「空に限らず、陸、海とも活用はさらに広がっていきます」と展望した。
また、社会実装を進めるうえでは「人にできないことをロボットやドローンに代替させる、という範囲での発想、考え方だけでは可能性が限定的になるおそれがある」と指摘。「ドローンやロボットをどのように使うのか、妄想を働かせて、未来起点で逆算するバックキャスト思考で活用を進めることが重要だと提案しています」と発想の転換を提唱した。
さらに、ロボットやドローンを意識的に活用を拡大することについても重要性を指摘。「海外がロボット前提社会になる中、日本がそうなっていなければ、産業競争力で日本は海外に負けてしまいかねません」と述べた。
そのうえで「それを打開するためにも、みなさん自身がぜひ、プラットフォーマーになっていただければ」と積極的な活動を呼び掛けた。
リモートで講演した橋本綾子研究所員は、田村市内にある福島県立船引高校で取り組んでいる活動を「ドローンを活用した高度人材育成について~船引高校の事例紹介」という演題で講演した。
この中で橋本研究所員は、「人材育成というと、操縦技能に特化したカリキュラムになりがちですが、自分たちで課題を特定してその解決を模索したり、市販のドローンでは不可能なときにそのドローンにひと手間加えて、不可能だと思っていたことを可能にするドローンを自分で制作してみたりと、自分たちで考えることを重視しています」と紹介した。
活動では1年次、2年次、3年次と体系化したカリキュラムを作り、それに沿って取り組んでいることや、地域課題の解決にも取り組んでいることを紹介。鳥獣害対策をテーマに活動で、地元の猟友会の経験談を間近で聞く機会を作ったことも報告すると、参加者が大きく場面もあった。
ほかにも、田村市役所の屋上にRTK基地局を設置したり、それを活用して固定翼を飛行させたり、あるいは、物件投下に挑戦したりと、幅広く活動してきたことも伝えた。
今後は、12月に運用がはじまる国家資格としての操縦ライセンスを想定したより高度な知識の修得を目指すほか、最近急増している行方不明者問題の対応としてドローンを活用した捜索活動にも取り組む。橋本研究所員は「高校生には楽しんで答えを見つける過程を大切にしてほしいと思っています。ドローンを活用した業務につきたい人材の母数を増やしたいと考えていますが、そのためには、ドローン関連の会社に就職するだけでなく、そうではない業種の企業に就職したうえで、そこで新たな手法としてドローンを取り入れるような挑戦ができる高度人材を育成したい」と抱負を述べた。
講演後の質疑応答では、イノシシなどの鳥獣害対策へのドローン活用の展望について質問があがった。オンラインで参加した下田亮研究所員が、「イノシシについてドローンの取組は各地で行われてる一方で、イノシシが苦手とする周波数などはつきとめられておらず、まだ決め手がない。現在、取り組みが増えているので、やがて弱点がつきとめられれば、ロボットやドローンを使った有効な手立てが作れると考えています」などと回答した。
ドローン研究と社会実装に力を入れている慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)は、静岡県御殿場市の総合体育施設で9月23日(金)にドローンの実演展示会「富士山ドローンデモンストレーション」を開催する。会場の体育施設のうち陸上競技場では、一般市民が出展者によるドローンの飛行を見学できる。デモンストレーションを前に、デモンストレーションの意義や展望について、御殿場市の勝又正美市長と、慶應ドロコンの古谷知之代表が対談した。DroneTribune編集長の村山繁が進行した。
――御殿場市にとって「富士山ドローンデモンストレーション」の開催の意義とは?
勝又市長 とても楽しみにしています。昨年もこのデモンストレーション(※2021年は「富士山UAVデモンストレーション」として開催)に立ち会わせて頂きました。富士山の麓の高原都市でドローンが飛ぶ姿は素晴らしく、とても絵になります。慶應義塾大学のみなさまが、この御殿場の地で研究開発、人材育成などを通じてドローンの進化に取り組んでおられることが、御殿場のまちづくりの支えにもなっていて、とても感謝しております。その意味でデモンストレーションの開催は広く、大きな意義があると理解しておりますし、大変うれしく思っています。
――慶應ドロコンにとって御殿場市で開催する意義は?
古谷代表 今年もドローンデモンストレーションを御殿場市で開催させて頂くことになり、市の皆様のご協力、ご尽力に感謝申し上げます。御殿場市とわれわれ慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムとは2019年に、ドローンを中心とする先端技術活用と地域活性化に関する包括連携協定を締結させて頂き、それ以来、ドローン、自動運転などをテーマに、さまざまなロボティクス技術の実用化に関する研究をさせて頂いております。今回のドローンデモンストレーションもその一環です。勝又市長のお話のように、富士山を背景に飛ぶドローンは非常に絵になります。加えて御殿場市は、首都圏に地理的に近いうえ、近隣各都県とも高速道路でつながるアクセスのよさも備え、多くの企業が立地しています。このため産業界のみなさまに声をかけることができ、ロボティクス技術のマッチングを生み出しうる絶好の環境です。デモンストレーションは、実際にマッチングを生み出すきっかけとなるイベントとして、御殿場で開催する意義を強く感じています。
――今回のデモンストレーションへの期待とは
勝又市長 御殿場市では民間企業のドローン活用が増えています。教育面では小学生、中学生がプログラミングをはじめ科学に触れる機会があり、それもデモンストレーションが刺激になっています。総合防災訓練ではドローンをいかした取り組みも行っています。そこで感じるのは、ドローンの進歩の速度が目覚ましいことです。毎年、形も中身も進化し、活用法も広がっています。今回のデモンストレーションでその進歩を見ることと、市民のみなさま、全国のみなさまにも御覧頂きたいと思っています。それが、地域産業の活性化、持続可能なまちづくりに生きることを期待しております。子供たちが技術の進歩を目の当たりにすることで、教育効果が高まることも期待しております。
古谷代表 今回、タイトルを「UAVデモンストレーション」から「ドローンデモンストレーション」に一新しました。今後、空を飛ぶドローンに加え、水中、地上など陸海空のドローンをご覧いただける機会となります。幅広い可能性を感じて頂きたいと期待しております。そのうえで、ドローンをまちづくりや課題解決につなげるために、自治体と地場産業、研究機関と企業とのマッチングが成立すればいいと感じています。是非、地元の皆様、産業会の皆様、多くの皆様にお越し頂き、きっかけとなることを期待しております。
――古谷代表がマッチングへの期待を表明しましたが、御殿場市にとってよい効果はありそうですか?
勝又市長 マッチングは地元経済の活性化を考えるうえで私が一番期待しているところです。農林業にも防災にも幅広く活躍しますので、それを市民や企業、研究者など多くのみなさまにご覧いただき、マッチングが成立すれば、経済効果は高まります。大いに期待したいところです。
――熱意の高い地域でデモンストレーションが開催されることは、主催として開催効果を考えるうえでも好ましいのでは?
古谷代表 その通りです。御殿場市は私どものキャンパス(神奈川県藤沢市)から近いこともありますが、いつ相談に寄っても、市長をはじめみなさまに親身になって頂けることを実感しています。ご相談をもちかけるたびに「御殿場市内にはこういう場所があります」「こういう施設が使えます」とご紹介、ご提案を頂けることもありがたいです。そういった機会も活用させていただきながら、今後も御殿場市で活動を展開させていただきたいなと常々、頃考えております。
――御殿場市にとって慶應義塾大学と手を携えることへの今後の期待は?
勝又市長 大いに期待しております。御殿場市は国策にもなっておりますデジタル田園都市国家構想への取り組みを進めており、先行モデル地域となることを目指しております。また、まちづくりに対し科学の進歩やドローンが生かせるところが多くあるとも思っています。まさに慶應義塾大学との連携がいかせるところであると思っております。ドローンを使った取り組みも各方面にアピールしていきたいと考えています。実際、ドローンを使った活動をされる方が市内でも増えてきたことを実感しておりますし、市役所の中にも資格を持つ者が出てまいりました。市内に立地する企業の中にも興味を持っていただくところが増えていて、防災訓練に参加して頂いたところもあります。空からみた渋滞情報は実際に使って訓練をしております。自衛隊にも協力させて頂いております。新しい試みが色々と出てきたと実感しております。
――慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムはドローンをはじめ自律移動ロボットの社会実装を目指して活動しておりますが、御殿場の取り組みは社会実装やまちづくりへの生かし方について、モデルケースになる可能性があるように思えます
古谷代表 その通りだと思います。特にロボティクス産業を御殿場市と一緒に展開させることで、モデルケースとなりそうです。たとえば御殿場市は、産業立地に強みがあり、それを実際に活かしておられます。私どもが申し上げるまでもなく、さまざまな企業が立地していることからがそれを証明しています。ロボティクス、AI、データ産業など含めてデジタルという観点からも新たな産業誘致を一緒に進め、ロボティクス産業を盛り上げるモデルケースができるのではないかと考えています。物を作り、実験をする取組に参加する自治体は増えてきました。これからは、地域の産業を活性化させ、地域の課題を具体亭に解決する社会実装に局面が移り変わる段階です。社会実装を加速していくエリアとして御殿場市は魅力あるエリアです。また今回のデモンストレーションを開催するにあたり、多くの学生からボランティアとして参加表明がありました。御殿場という場所が魅力的であることもあり、我々の教育の研究拠点としても、新型コロナの感染状況などを横目で見ながら、御殿場市 と取組を進めたいと思っています。
――古谷代表は、講演やセミナーなどでドローンを実証実験から社会実装に移すカギとなる要素として、人材育成とインフラ投資を上げています。御殿場市は人材育成とインフラ投資の対象として魅力的だと感じますか?
古谷代表 とても魅力的です。まず無人機を持ち込んで人材育成をしたい、と話を持ち掛けたときに、御殿場市はきちん共通言語で会話が成立する自治体です。我々にとってとてもありがたい環境です。御殿場市は市長をはじめ市の皆さんが熱意をもっていることの表れと受け止めています。学生に学んでもらうにも適した環境ですし、インフラの整備についても市の皆さんと検討することができたらいいと思います。
――御殿場市が慶應と手を携えるうえでの、今後の抱負をお聞かせください
勝又市長 まず今の古谷代表の言葉は大変ありがたく受け止めました。実はコロナが2年以上続く中で、社会の閉塞感について大変気になっております。特に若者が元気になってこそ街の活性化が進みます。大学生が御殿場で科学技術に取り組む姿を、小、中学生、高校生が目の当たりにすると、閉塞感を打破して元気になるのではないかと期待します。また御殿場市は「御殿場市エコガーデンシティ構想」を策定し、環境をキーワードとした循環社会の実現を目指しています。1/3が山林の高原都市ですので、山林整備が重要で、そこにドローンの技術への期待は高まってまいります。まちづくり、地域活性化、教育の面でも、環境の面でも精力的に取り組んで、古谷代表との枠組みで培った経験を生かして参りたいと思っております。
――古谷代表にも、今後、御殿場市との取り組みでの抱負を
古谷代表 我々だけですべての課題の解決できるわけではありませんので、市長をはじめ市のみなさま、そのほかの研究機関、大学のみなさまにも広くお声掛けができたらいいと思っています。ある意味で日本の知の集積地として、御殿場市という地域をうまく使わせていただき、いろんな研究者が集うアカデミアの交流の場にしてなればありがたいと思っております。我々も技術開発も含めて努力して参ります。
――9月23日にはドローンデモンストレーションが御殿場市総合体育施設の陸上競技場と体育館で開催されます。ドローンが飛行する様子を一般市民が見学できる珍しいイベントだと認識しております。開催に向けたメッセージをお願いします。
勝又市長 これまでもデモンストレーションを開催頂いておりますが、回を重ねるたびに関心が高まっていると感じます。新型コロナに向き合わなければいけない時代になり、その関心の高まりはますます強まっているようにも思えます。市民の間でもドローンのデモンストレーションへの期待が高くなっていることを実感しています、特に若い世代の方、ドローンに関係する企業のみなさま、幅広い層のみなさまに、ドローンの可能性、科学の進歩、 将来性を感じて頂きたいと思っています。ぜひ高原都市、御殿場に足を運んでください。
古谷代表 ドローンが飛ぶところをぜひ、多くの方に直接ご覧頂きたいと思っています。我々のデモンストレーションは、展示するほかに、実際に動いているところを見られるところが大きな特徴です。体験会もご用意しておりますので、ご家族お誘い合わせのうえお越しください。企業、経済界、産業界のみなさまで、これまでドローンと接してこられなかったみなさまにも、どう使えるのか、どう使ったらいいのかなどご相談いただける環境も準備しておりますので、ご関心を持たれた方はぜひお気軽にご来場頂ければありがたく存じます。大勢の方にご来場頂けることを願っております。勝又市長、当日はよろしくお願いします。
勝又市長 こちらこそよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
ドローンの普及に取り組む慶應義塾大学は2月23日、神奈川県小田原市の相模湾を望む斜面に広がるミカン農園で、収穫したミカンをドローンでかごごと吊るし、トラックが待機する集荷場所まで運ぶ実証実験を行った。ドローンは着陸せず、上空でホバリングしている間に機体からワイヤーをおろし、地上の作業員がミカンのかごを吊るした。集荷場所でもドローンはホバリングしたままミカンのかごをウインチで下ろした。この間、ドローンは決められたルートを自動飛行した。関係者は今後、環境、機体性能、作業負担など実装に向けた課題と改善点を洗い出す。実験会場となった矢郷農園(小田原市)の矢郷史郎代表は「ドローンには作業負担の軽減を期待して、以前から注目しています。実験を間近で見て、現実味が高まったと感じます」と話した。
実験の場所は、相模湾から300mほど内陸の丘陵地の斜面に広がる矢郷農園の一角で、農園内にミカンを収穫して積み込むポイントを設けたほか、農地に接する場所にドローンの離発着場所、トラックが待機する集荷場所を設定した。
実験ではドローンは離発着場所を離陸したあと、収穫ポイントに向かって自動飛行。収穫ポイントでは上空でホバリングして静止し、ウインチでフックのついたワイヤーを地上におろした。地上の作業員が、収穫したミカンの入ったかごをワイヤーのフックに掛けると、ウインチ作業員がワイヤーを巻きあげた。一連の荷積み作業が完了すると、かごを吊るしたドローンはトラックの待機する集荷場所まで飛行。ここでも着陸せず、上空でホバリングしたままウインチを使ってかごを下ろし、みかんを届けた。収穫地からトラック待機場所までの距離は約120mで、高低差は約30m。ミカンを積んでから集荷場でおろすまでは、上空での待機時間を含めて数分で修了した。
ドローンが着陸することなく、ホバリングしたままで荷物の積み下ろしをする方法が実用化できれば、ドローンの運用で最も不安定な時間を減らすことができる。また、斜面の多い土地で着陸場所を確保する課題も解消できる。
ミカン農園では通常、作業員が収穫したミカンを足元に置いたコンテナに入れる。コンテナがいっぱいになると作業員は徒歩でトラックまで運ぶ。20㎏ほどのコンテナを運ぶのは重労働で、特に高齢の農業従事者にとって、農業の継続をあきらめる大きな要因になっている。
矢郷農園の矢郷代表によると、農園経営では収穫したミカンのほかにも、イノシシ対策の柵や、苗木など多くの運搬作業が伴う。「広大な敷地を持つ農園では、運搬用のモノレールを敷いているところもあり、みなさんそれぞれに工夫をしているのですが、悩みは尽きません。モノレールは保守、点検が必要ですし、レールが痛んでも車両が傷んでも使えません。レールの場所は一定なので、収穫場所が変わってもそこまで近づいてきてはくれません。ドローンであれば、収穫場所のポイントまで飛行できます。きょうのように着陸せずに運搬できるのであれば、負担軽減につながると思います。ドローンなら移設できない設備と違って貸し借りができます。理想をいえば、作物を収穫した場所から集荷場までの運搬をドローンに任せられればありがたいです。そうなると、農業をやめずに続ける方が増えると思います」と話した。
実験ではこのほか、農地内に収穫ポイントを複数個所設定し、ドローンが自動で集荷場を往復できるかどうかについても確認した。ドローンは最初の収穫ポイントから集荷場所に飛び、そのまま次の収穫ポイントに向かい、再び集荷場所に向かう、といった具合に、設定したルート通りに、設定した複数の収穫ポイントを経由して飛行し、最後は離発着場に帰還した。
実験は、一般財団法人環境優良車普及機構(LEVO)の事業で学校法人、慶應義塾が代表事業者として請け負った。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)が遂行を統括した。また神奈川県が共同事業者に名を連ねた。実験で用いた試験機は徳島大学発のベンチャー、株式会社MMラボ(徳島市)が開発した小型電動ウインチを備えた物流機で、6本のアームを備え、機体の重さはバッテリーを含め9.5㎏。最大ペイロードは24㎏だ。また、RTK・GPS技術はジオサーフ株式会社(東京)が技術を提供し、同社の基地局ユニットを現地に設置した。
実験の全体を指揮した下田亮研究員は、「実験は多くの方の協力があってできます。せっかくの実験ですので、今回の実験から課題の洗い出しや改善を繰り返して、利用者が使いやすい方法を導き出したり、それに適したドローンの開発を進めたりして、ドローン前提社会の実現に近づく取り組みを進めていきたいと思います」と話している。