株式会社自律制御システム研究所(ACSL、本社・東京都江戸川区、鷲谷聡之代表取締役社長)は、農薬散布機、災害対応機などの開発を手掛ける東光鉄工株式会社(本社・秋田県大館市、虻川東雄代表取締役会長)と、防災・減災対策ドローンの開発・販売に向けた協業を開始したと発表した。東光鉄工は主要技術、主要部品を日本製でそろえた災害対応のレスキュードローン「TSV-RQ1」を開発しており、ACSL製のフライトコントローラーの搭載することは既定路線。今年2月の展示会でも注目されており、今回の協業で実装にはずみがつくことになりそうだ。
東光鉄工の災害対応ドローン「TSV-RQ1」は、ローター間1100ミリのクアッドコプター。折りたたむと520ミリ×570ミリになる。水を浴びても影響を受けないIPX5の防水性能、秒速15メートル以上の風速に耐える耐風性能を備える。スピーカー、投下装置、8000lmのサーチライト、高感度カメラを備え、状況確認、避難勧告、救援物資の投下、捜索など災害現場に必要な作業に対応することを視野に入れている。今年2月に東京ビッグサイトで開催された展示会「ロボデックス」では同社のブースの中央に展示され、多くの来場者が足を止めていた。
同社は「TSV-RQ1」について、災害対応の前線で活躍する官公庁や、消防、海上保安庁、自治体などの利用を見込んでおり、厳格な要求にこたえるため、フライトコントローラーをはじめ、主要技術、部品の大半を国産でそろえる。フライトコントローラーにはACSL製を搭載する。
両社は、国産の防災・減災対策ドローンの実装に向けて、開発・販売面の協力を緊密にしていく。
国立研究開発法人防災科学技術研究所(茨城県つくば市、以降、「防災科研」)は、自然災害発生時に、地域住民がドローンを運用するための体制づくりを考察して「ドローンを用いた災害初動体制の確立~神石高原町における地産地防プロジェクトの取り組み」として「研究報告第84号」で発表した。広島県神石高原町(じんせきこうげんちょう)で、地域住民や高校生をまじえた取り組みが反映されており、地域住民の参加の有効性を確認し、体制構築や運用の課題や展望も整理した。ドローンの災害活用の関心層には一読に値する。
研究報告は神石高原町の防災アドバイザーを務める防災科研の内山庄一郎氏のほか、慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム副代表の南政樹氏、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社の城純子氏、三沢努氏、神石高原町の梅岡康成氏、株式会社自律制御システム研究所の奥村英樹氏、ドローン・ジャパン株式会社の勝俣喜一朗氏、出口弘汰氏、楽天株式会社の谷真斗氏、株式会社アイ・ロボティクスの我田友史が執筆陣に名を連ねた。
ドローンの運用による情報収集には実績の蓄積があり、迅速性や、高分解能性の高さが確認されている。一方、ドローンの運用は主に専門家が行っていて、手法として有効であるとしても、専門家以外の層が活用しない限り普及しにくいなどの課題がある。研究報告ではドローン運用の普及には、非専門家による運用、法的制限、社会受容性を乗り越える必要があると指摘している。またドローンの飛ばし方を知っているだけでは災害時の情報収集活動での即戦力にはなりにくいことも指摘。災害運用に求められる技術の体系化と、その実装も求められる。
研究報告では、広島県神石高原町が組織した「神石高原町ドローンコンソーシアム」の取り組みである災害運用の実証実験「地産地防プロジェクト」を踏まえ、これらの課題の対策を講じるさいの論点を整理した。
プロジェクトは3テーマを設定して行われた。それぞれ①担い手育成(運用技術の習得、マップ作成、物資配送)、②マップ作成(オルソ画像作成、自治体との情報共有、比較アプリによる災害前後の被害把握)、③物資配送(災害時の物資配送、目視外および電波途絶状態でのドローン運用)で、研究報告では、それぞれの実施内容や結果、考察、課題が整理されている。
プロジェクトの担い手として、ドローンの専門家ではない、地域の5人が参加。5人はドローンスクールで民間ライセンスを取得したのち、マップ作成や配送のトレーニングを受けた。マップ作成に使ったドローンはMavic2 Enterprise、オルソ画像作成ソフトはDroneDeploy。災害前後の状況を比較できるアプリケーションも開発し、状況把握に活用した。また、物資配送は標高差が85メートルある2地点間で、電波途絶への対応を検討しながら行われた。
一連のトレーニングを受けた担い手は、災害時に求められる地図的映像、遠隔地の状況把握をドローンで撮影。オルソ画像も作成した。標高差のある場所への配送でも、通信途絶への対応として電波中継ドローンを飛ばしたうえ、ウインチでひもを繰り出して荷下ろしを実施した。航空法で禁止されている目視外飛行への対応と離陸地点、荷降ろし地点の2か所に操縦者を配置した。
研究報告は課題として社会的課題、技術的課題に分けて整理。社会的課題には、平時の飛行環境の整備、トレーニングが与える担い手の負担、標高差のある場所への荷物配送時にたちはだかる補助者配置などの航空法対応を列挙した。
また、「ふだん使っていないものは災害時にも使えない」という視点から、「ドローンの日常化に向けた運航体制づくりが求められる」と提起。地域住民の担い手による自律的なドローン運航について、「ドローンが情報収集インフラとして機能する可能性を示した」としめくくっており、担い手拡大の環境を整える議論を深めるきっかけになりそうだ。
研究報告「ドローンを用いた災害初動体制の確立ー神石高原町における地産地防プロジェクトの取り組みー」はこちら。
ドローンスタートアップ特化型のベンチャーファンドDrone Fundは、一般財団法人先端ロボティクス財団(ARF)が2020年6月28日から7月5日に開催予定の協議会「第1回先端ロボティクス・チャレンジ(ARC)」に参画し、Drone Fund Awardを提供すると発表した。出場チームから最大3チームを選抜し、起業準備に50万円、起業が実現したら500万円の資金を提供するほか、Drone Fundから専門スタッフを6か月間メンターとして派遣するなど、経営的、財政的に支援する。
先端ロボティクス・チャレンジは大規模地震の発生を想定し、ドローンなど飛行ロボットを使って人命救助に取り組む災害対応の競技会。救急車のルート確保、SOS発信者の発見と救難物資の配送、倒壊家屋の要救助者の捜索など、部門ごとに協議する。応募して参加が認められたチームには200~300万円が助成され、優勝すると1000万円の賞金が授けられる。
主催する先端ロボティクス財団の野波健蔵会長は、競技会開催の目的を「若手の人材育成、スタートアップ文化の醸成、ドローン産業の振興。技術があるのにお金がないから出られないとは言わせたくない」と説明。12月20日まで参加を受け付けていて、1月に選抜審査のためのプレゼンテーションを実施する。
今回提供されるDrone Fund Awardでは、Drone Fundが競技会に出場するチームを独自に審査し、起業を目指すチームを選ぶ。Drone Fundが最大3チームに、財政的、経営的なサポートするほか、大企業への橋渡しまで一気通貫で提供する。参画する目的についてDroneFundの千葉功太郎代表パートナーは「ドローンのエコシステムを強化し、起業前から若手人材を支援したい。大学、研究室などにイノベーティブな出口戦略を提供、支援したい。“まだ研究段階”というところを掘り起こしたい」と述べた。
DroneFundの大前創希共同代表パートナーは「競技会で出てきた企業がDroneFundファミリーになって頂ければありがたい」と今回の参画に期待を表明した。野波氏は「日本の沈滞ムードに風穴を開けたい」と意気込みを述べた。