能登地震対応にドローン事業者が続々と参画している。イームズロボティクス株式会社(南相馬市<福島県>)は中型の「E6106FLMP2」、大型の「E6150TC」をあわせて4機を持ちこみ現地の需要に対応しているほか、石川県庁内に設置されたリエゾン拠点で業務調整にあたっている。ドローンが被災地で活躍するには、現地のニーズ、活躍できる事業者の選定、必要な申請など数々の業務調整が不可欠で、その調整役に経験のあるドローン事業者の知見や経験が役立っている。また株式会社SkyDrive も「SkyLift P300S」1機を含め4機を持ちこみ、ドローンの運用に定評のあるエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(NTTコミュニケーションズ、東京)は主に上空の通信環境整備を担う。株式会社スペースエンターテインメントラボラトリー(横浜市)、日本航空株式会社(東京)、ヤマハ発動機株式会社(磐田市<静岡県>)、日本DMC株式会社(御殿場市<静岡県>)、川崎重工業株式会社(東京、神戸市<兵庫県>)などが現地で被災地の支援の先頭に立っている。
ドローン事業者は主に輪島市、珠洲市で活動をしている。両市は一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)に支援を要請していて、要請を受けたJUIDAのもと、ドローン事業者が災害対応に奔走している。
イームズロボティクスは機体の運用のほか、石川県庁DMAT調整本部内に情報連絡のために設置されたリエゾン拠点で輪島市などで活動するJUIDAや、経産省、国交省、事業者との業務調整にあたっている。政府、国内ドローン事業者へのヒアリングシートを作成したり、政府と災害時のドローン飛行などについて定めている航空法138条92項の取り扱いや災害救助法適応についても協議した。事業者との調整では株式会社スペースエンターテイメントラボラトリー、双葉電子工業株式会社(茂原市<千葉県>)と連絡をとり事前調整にあたった。
また、国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研、つくば市<茨城県>)とは、オルソデータをアップロード出来るSIP4Dイームズロボティクスパイロットシステムを準備し、SIP4Dにアップされたオルソデータが災害対応機関が閲覧する災害情報サイト、ISUT-SITEに表示されるようにした。一般財団法人日本気象協会、株式会社ウェザーニューズとは活動支援用の特設サイトの準備を調整した。 ウェザーニューズにはドクターヘリ位置情報を輪島市でも確認出来るように、輪島市のDMAT本部にもシステムが設置されるよう調整した。NTTコミュニケーションズとは輪島市上空の電波状況について再計算を受ける調整をし、輪島市で活動するJUIDAチームとの共有を図った。
ドローンオペレーターとしては、輪島市、珠洲市からの撮影要望のある場所を持ちこんだ機体などを使い空撮し、オルソを作成したうえSIP4Dにアップロード した。佐川急便にも物流ニーズを確認したうえで物流用機体の準備を図った。
SkyDriveは1月8日から14日にかけて現地入り。物流、状況把握を担った。スペースエンターテインメントラボラトリー(横浜市)は水上飛行を調整し、日本DMCは飛行前のロケハンのためにドローンを運用した。
災害対応の現場では、業務調整が不可欠だ。結集した事業者や、それぞれの事業者が持つ知見は、適切に運用が図られてはじめて本領を発揮する。どこで、なんのために飛行することが求められているのか、そのためにどこに、どう申請するのか、飛行環境は整っているのか、など数々の業務調整が果たす役割は大きく、今回は、専門家とのつながりも含めた業務調整の蓄積が一定水準で機能したといえそうだ。災害対応はまだ続くが、ドローン事業者が災害対応のために集結し、それぞれが果たした役割や成果は、今後の検証事例やモデルケースになることは間違いない。
JUIDAは発災直後から内部で調整を進め、1月4日以降、活動を具体化させ、1月5日にはブルーイノベーション株式会社(東京)、株式会社Liberaware(千葉市)とともに支援を始めた。被災地では1月2日に緊急用務地域に指定され(1月5日に改定)ている。現在の航空法では緊急用務地域では国か地方、または現地災害対策本部の要請を受けていない場合、原則としてドローンの飛行は禁止されている。JUIDAは輪島市、珠洲市の要請を受け活動をしており、ドローン事業者も原則として、JUIDAの統括のもとで運用している。
JUIDAが公表している活動報告
狭小空間点検技術開発の株式会社Liberaware(リベラウェア、千葉市)は1月11日、輪島市<石川県>での能登半島地震の災害対応活動の様子を報告した。リベラは1月6、7日に輪島市内でJUIDAに合流し、狭小空間点検ドローンIBISを使い、倒壊家屋の内部や床下を調査したと報告している。同社は「今後も必要なタイミングで支援する」と話している。
リベラは、狭くて、暗くて、危険な屋内空間の点検、計測に向けた小型ドローンIBISシリーズの開発で知られる。今回もIBISの、GPSの届かない空間への進入が可能な特徴を活用し、輪島市内の倒壊家屋内部や、倒壊リスクがあるため人が立ち入れない設備の内部を調査した。これによりドローンがなければ確認できなかったり、危険を冒して分け入るしか状況把握の手段がなかったりする屋内の様子を把握でき、作業に貢献した。
リベラは活動を以下のように報告している。
(以下発表より引用)
■支援活動について
期間:2024年1月6日(土)~2024年1月7日(日)
場所:石川県輪島市内各所
内容:・倒壊した家屋内部の現状調査
・家屋床下の現状調査
・倒壊リスクのある大型商業施設内部の現状調査
(引用以上)
リベラは「この度の令和6年能登半島地震により、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。今後も、2次災害抑止のための被災地域の建造物内部調査など必要なタイミングでの支援を継続し、当社のミッションである『誰もが安全な社会を作る』ことに向け邁進してまいります」と話している。
ブルーイノベーション株式会社は1月11日、輪島市(石川県)での災害対応活動について報告した。同社は輪島市でのJUIDAの災害対策活動に1月6日、7日に合流し、ドローンで孤立地域の情報収集や仮設住宅設置予定地域の被災状況の確認を行った。輪島市内では建物の倒壊で瓦礫が積もっていたり、道路が地割れを起こしで通行できない場所が多く、ドローンによる調査で、現地で活動する自衛隊員が危険を冒して情報収集にあたる作業の軽減に貢献した。
1月6日には、石川県輪島市光浦町の孤立地域の情報収集のため現地を撮影した。光浦町は日本海に面した地域で、市の中心地から直線距離で1㎞、陸路では約2㎞の道のりだ。しかし海岸沿いの道路が土砂崩れで道路が崩落するなどアクセスが困難で、孤立生活を送る人々の支援の方策を練るための情報が極端に不足していた。このためブルーイノベーションは自衛隊と連携し、寸断された道路の先に孤立者が残っていないかどうかをドローンで捜索したほか、現地の状況把握を支援し、作業員の人手による情報収集労力の軽減に寄与した。
7日には、輪島市の中心街から南西に約19㎞の石川県輪島市門前町の仮設住宅設置予定地域の被災状況を確認した。調査場所は輪島市が災害時に備えて確保している仮設住宅設置可能地域で、実際に仮設住宅を設置するにあたり土地が使用可能かどうか、周辺の道路が寸断されていないかなどをドローンで状況確認を行った。
ブルーイノベーションはドローンの運航事業を事業の柱のひとつに据えており、輪島での活動には、ELIOS3,Matrice30,Skydio2+、Evo2 Pro V3などを持ちこみ、求められる現場に応じて機体を使い分けた。
ブルーイノベーションは「今後も、状況把握や捜索、避難物資の輸送など現地の要望に合わせたサポートを行うとともに、被災地の一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます」と話している。
自律制御技術の株式会社ACSL(東京)は1月7日、輪島市(石川県)で6日から活動しているブルーイノベーション株式会社(東京)、株式会社Liberaware(リベラウェア、千葉市)、JUIDA(一般社団法人日本UAS産業振興協議会、東京)の災害活動チームに合流する。「令和6年能登半島地震」の被災地で物資運搬などを担う。同社の物流用ドローン、PF2-AE Deliveryを持ちこむとみられる。
ACSLは輪島市内でJUIDAなどに合流し、避難生活者らに医薬品などの緊急支援物資を空から届ける役割を担うとみられる。同社のPF-2 AE DeliveryはLTEに対応し目視の範囲を超えた距離の飛行が可能で、1.5㎏までの荷物を搭載できる。ドローンは運搬した積み荷を、ドローンが目的地に着陸したさいに現地で人手を使うことなく切り離せる。ドローンは積み荷を切り離したあと再離陸し出発点に帰還する。また、同社の空撮ドローンSOTENの開発で培った堅牢な情報漏洩対策も施されている。
石川県などによると石川県内の能登半島地震による死者は6日までに127人にのぼる。そのうち輪島市は69人と最も多い。また安否不明者が石川県内で210人(輪島市内が140人)いて、被害はさらに拡大する恐れがある。ACSLは輪島市で活動するJUIDAなどの災害対策チームに合流し、避難生活者の支援や、捜索活動などにあたることになる。
現地ではリベラが超狭小空間点検機IBIS2(アイビス2)で倒壊した家屋の隙間から内部を確認するなど被災地の状況確認にあたっている。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA、東京)は2024年1月5日、輪島市(石川県)にブルーイノベーション株式会社(東京)、株式会社リベラウェア(Liberaware)と共に機材やパイロットを派遣し、1月6日に輪島市内でドローンによる捜索、状況確認等の災害時活動を始めると発表した。JUIDAの協力申し出を輪島市が受け入れたことに基づく。ブルー、リベラとも狭小空間、屋内空間で活動するドローンの運用を手がけており、被災状況把握への貢献が期待される。
輪島市で活動に臨むのは、各社のパイロットとドローンの機体と周辺機器など。ブルーイノベーション、リベラウェアともドローンの運用実績は豊富で、ともに屋内飛行用の機体の運航実績を積む。ブルーイノベーションは空間専用ドローン「ELIOS」シリーズの運航を手掛け、リベラウェアは20cm大の超狭小空間点検ドローン「IBIS2」の開発で知られる。輪島市と連絡をとっているJUIDAが総合的な管理を担い、1月6日に捜索、被災状況確認に着手する。
活動現場となる輪島市は「令和6年能登半島地震」で甚大な被害を受けた自治体のひとつ。日本三大朝市で知られる朝市通りを中心に4000平方メートルが焼け、石川県内で5日午後6時までに判明した94人の死者うち55人の死者が輪島市に集中する。石川県が5日午後2時に公表した222の安否不明者リストにも120人以上の輪島市出身者名が載るなど状況は深刻で、活動には大きな期待が寄せられる一方、難航も予想される。
国交省航空局は1月5日19時、輪島市を含め、珠洲市、穴水町、能登町、七尾市、志賀町、中能登町でドローンの飛行を原則禁止する空域に指定する「ドローンの飛行を禁止する無人航空機の飛行禁止空域の指定(令和5年度緊急用務空域 公示第6号)を公示した。1月2日に公示した「公示第5号」を「6号」に改めた。適用は6日午前7時。「6号」が公示する空域は輪島市、珠洲市、穴水町、能登町では地上から地上600mまで、七尾市、志賀町、中能登町では地上30mから地上600mまで。「6号」の指定により、七尾市、志賀町、中能登町では1月2日以降、飛行が禁止されていた地上から地上30mまでの頭上空域が飛行禁止の適用がはずれた。
緊急用務空域に公示された空域では国、自治体、または自治体などから依頼された事業者など、航空法132条92の適用を受ける場合を除き、ドローンの飛行は原則禁止だ。JUIDA、ブルー、リベラが活動する輪島市も引き続き飛行禁止の緊急用務空域に該当するが、輪島市から依頼を受けているため、依頼目的のための活動は認められる。
なお「公示空域」指定をめぐっては、ドローンによる災害支援活動の機動性を損なう恐れが指摘されており、今後、見直しを含めた検討を求める声が高まる可能性がある。