• 2025.1.28

    【寄稿:高橋伸太郎】日本の次世代エアモビリティ産業の展望〜持続的な発展に向けたエコシステム形成の重要性〜

    account_circle高橋伸太郎

    節目としての2025年

    2025年は日本の次世代エアモビリティ産業(空飛ぶクルマ、ドローン)にとって重要な節目の年になる。

    大阪・関西万博では、空飛ぶクルマのデモンストレーションが行われる。空の移動革命に向けたロードマップでも、万博は重要なマイルストーンとして位置付けられている。

    今年は、航空法で無人航空機が定義されてから10年を迎える。民生用マルチコプターの普及や首相官邸無人機落下事件(2015年4月)などを背景に、小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会の設立や改正航空法の施行など、日本でドローンのルール形成が本格化した。日本のドローン関連の団体は、この時期に創立したところが多い。

    次の10年に向けた展望

    次世代エアモビリティが産業として発展するためには、次の10年に向けたビジョン・世界観を共有していくことが重要である。次の10年間はAIなどのテクノロジーが私たちの経済活動、社会活動に溶け込むことになる。

    日本は、人口減少やインフラ老朽化、気候変動、大規模災害などのリスクに直面しているが、新しいテクノロジーの実装は持続的な経済成長の実現に貢献できる可能性がある。石破政権は地方創生2.0の中で新しい技術の活用を進める方針を示している。

    次世代エアモビリティは地域社会を支える新しいインフラや産業として、分散型ネットワーク社会の実現に貢献できる可能性がある。持続可能なエコシステムを形成するためには、(1)産業構造の構築や、(2)重要技術の研究開発、(3)グローバルとローカルでの事業展開、(4)制度設計・ルール形成の推進、(5)専門的な人材育成を進めることが柱として重要になる。

    (1)産業構造の設計

    業務用の次世代エアモビリティの産業構造として、セクターと提供する機能をベースに設計する方法が考えられる。

    セクターは、民間・学術・公共・防衛の四つに分類する。

     ・民間:事業者による活動(ドローンの利活用の例:点検、建設・土木、物流、農林水産業、警備、空撮、エンターテイメント、空飛ぶクルマの利活用の例:輸送)

     ・学術:教育機関による活動(例:実習・訓練、学術研究)

     ・公共:政府機関や自治体の活動(例:警察、消防、海上警備)

     ・防衛:自衛隊の活動(例:各種事態への対応、災害派遣)

    提供する機能は、サービス、アプリケーション、機体・ハードウェア、管制・通信・地上インフラ、周辺領域などのレイヤーで分類する。

    近年、日本でもデュアルユース技術への関心が高まっており、ドローンも重点分野の一つとして注目されている。そうした中で、具体的に市場を開拓していくためには、産業全体の構造を示した上で、各企業が強みとなる分野を成長させていくことが重要になる。

    (2)重要技術の研究開発

    次世代エアモビリティの事業化を進めるためには、安全性・経済性・環境性を満たすことが求められる。機体開発や運航管理などが技術開発の対象となる。

    航空産業は統合的なイノベーション産業としての側面があり、開発した技術は他の分野でも応用できる可能性がある。経済安全保障戦略としても重要性が高い分野である。

    日本で次世代エアモビリティ分野で研究開発するためには、航空やロボット分野の人材を中心に、製造業や社会インフラなど日本が強い分野の知見を活かすことや、グローバルな開発チームを編成することなどが考えられる。

    (3)グローバルとローカルでの事業展開

    日本の次世代エアモビリティ産業が成長するためには、グローバルとローカルでの事業戦略を考えていく必要がある。

    具体的な例として、エアロネクストは、モンゴルのウランバートル市内で、ドローンや次世代輸送配送管理システムを活用したスマート物流の都市型モデルの実装を進めている。国内では戦略子会社のNEXT DELIVERYが、小菅村モデルの普及に向け、ドローン配送の事業化を進めている。小菅村では、ドローンの活用や、物流倉庫への荷物の集約など、山間部における新しい物流の取り組みが行われている。

    新興国におけるインフラの構築と、人口減少社会における国内のインフラの再構築をセットで進めることは、日本の成長戦略として有力な選択肢になる。事業展開として、機体・システム事業者と、各地の社会インフラ事業者が連携し、サービス展開する方法がある。

    (4)制度設計・ルール形成の推進

    日本では次世代エアモビリティ分野の制度設計は、ロードマップに基づき進められている。空飛ぶクルマは「空の移動革命に向けたロードマップ」、ドローンは「空の産業革命に向けたロードマップ」が公開されている。

    空飛ぶクルマは万博に向けた準備、ドローンはレベル4(有人地帯における目視外飛行)の導入などが進められてきた。岸田政権ではデジタル技術の実装に向けた規制改革が行われた。

    次のステップとして、空飛ぶクルマについては商用運航に向けた制度(例:機体、技能証明、空域・運航管理、離着陸場)の具体化が重要になる。ドローンについては利活用の拡大に向けて、運航管理システム(UTM)の導入、ドローン航路の整備、機体・型式認証制度の運用改善、災害時における運用などが重要なテーマとなる。

    (5)専門的な人材の育成

    先端的な技術の開発や実装をするためには、人材育成を重点的に行なっていくことが求められる。21世紀に入り、デジタル技術の発展が進んでいるが、産業活動や社会活動においてどのように活用するかは人間が判断することが求められる。

    大学や高専などの高等教育機関は、学生向けの教育、企業との共同研究、社会人向けのリカレント教育、海外の教育機関との共同プログラムの展開をセットで行い、地方創生の拠点として発展を目指す方法がある。

    地域の産業活動を担う人材を育成するためには、専門高校(例:農業高校、工業高校、水産・海洋高校、商業高校)で、現場作業におけるフィールドロボットの利活用について実習を行うことも施策の候補になる。

    まとめ

    今回の記事では、日本の次世代エアモビリティ産業にとって2025年が重要な節目であることを示した上で、次の10年に向けたビジョン・世界観を共有することの重要性について提案を行った。

    次世代エアモビリティを産業として持続的に発展させるためには、産業構造の設計や、重要技術の研究開発、グローバルとローカルでの事業展開、制度設計・ルール形成の推進、専門的な人材の育成を行っていくことが重要になる。

    AUTHER

    高橋伸太郎
    DRONE FUND最高公共政策責任者/パートナー、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師、株式会社SkyDrive社外取締役などを務める。次世代モビリティやフィールドロボットに関連する分野では、産業構想・制度設計に関する提言活動や、スタートアップへの支援活動、産学官連携活動の推進、教育・研究プログラムの設計などを行う。
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