反響の大きかった対談の後編をお届けします。対談者は、東京大学名誉教授・未来ビジョン研究センター特任教授の鈴木真二氏、小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発に携わった航空機開発に詳しいPwCコンサルティング合同会社顧問(Aerospace&Defense担当)の宮川淳一氏で、モデレーターとしてドローンや空飛ぶクルマ関連の業務・技術支援に携わるPwCコンサルティング合同会社ディレクターの岩花修平氏が参加して進行をリードしました。前回お届けした前編では、航空機業界以外の分野から参入したスタートアップ企業などがドローンの未来を切り開く次世代リーダーとなる可能性などの意見が話題になりました。今回の後編では過疎地などでの新しいモビリティとしてドローンや空飛ぶクルマを活用する「スマートビレッジ」の登場を展望し議論を深めます。(対談は外出自粛要請の前に行われました。本文中敬称略。写真・文:小島清利・村山繁)
岩花氏:鈴木先生はドローンの世界では欠かすことができない特別な存在となっていますが、無人航空機の研究を始めた経緯について教えてください。また、ドローンの活用拡大へ向けて、どのような使命感を抱いていますか。
鈴木氏:私のライフワークは墜落しない飛行機の研究で、それは飛行中の事故や故障でも墜落しないような飛行制御則を構築することです。その飛行試験は危険が伴うため、コンピュータ制御が可能な模型飛行機で飛行試験をしていたことがきっかけです。そうした体験から、無人航空機を設計、製作して飛行させることは学生の教育にはベストという思いを持ち、2006年から全日本学生室内飛行ロボットコンテストというものを毎年開催しています。今のドローンと呼ばれているマルチコプターが実用化してからは、産業利用を促進するための民間団体が必要ということで、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)という非営利団体を2014年に設立し、そこから、ドローンに本格的にかかわるようになりました。使命感と言う意味では、どうしても、ドローンというのは墜落リスクを避けて通れないので、私としては研究者の視点で、ドローンの安全性を高める取り組みで、貢献していきたいと考えています。
岩花氏:宮川顧問の専門は有人航空機ですが、そのころから、無人機であるドローンについても関わりがありましたか。
宮川氏:2007年に三菱リージョナルジェット(MRJ)へ異動するまで、三菱重工で防衛航空機の技術部門に在籍していました。当時から防衛航空と無人機は関連性があったので、大変関心を持っていました。2000年代初頭から、無人の戦闘機の出現を視野に、既に様々な議論がされていました。
岩花氏:有人航空機の業界にとって、無人航空機は脅威になりうると想定されますが、航空機メーカー、操縦士、関連サービス業などのそれぞれの立場として、無人航空機に対するスタンスはどのようなものが見られそうですか。
鈴木氏:脅威ではなく飛行領域を拡大するということが欧米の航空機会社の共通認識です。エアバスや、ボーイングはスタートアップ企業を取り込みその市場の制覇を狙っています。空港から空港まではこれまでの飛行機で良いのですが、空港からその周囲への空の移動手段と捉えています。一方、ヘリコプター会社は従来のガスタービンヘリよりも運用性、整備性、コスト、騒音について、劇的に改善することを狙っています。私も空飛ぶクルマは車でいうと、上級車ではなく、軽自動車にあたるものと思っています。軽自動車の使い方を見ればわかりますが、空飛ぶタクシーになるのは少し先かと思います。軽自動車や軽トラックは地方での移動手段として欠かせないものとなっていますので、そうした利用を最初は狙うべきだと思います。
岩花氏:有人航空機と無人航空機の棲み分けは進んでいくのか、協調しつつ進化していくのか、もしもお考えがあればご意見をいただけますでしょうか。
鈴木氏:そうですね。航空需要はますます増加することが確実視される中、カーゴ便を無人化することで、パイロット不足を解消しようとする流れはあると思います。お客を乗せたパイロットレスの大型機は現状では夢に近い存在です。おさるの電車に乗りますが、おさるの飛行機には乗る人はいないのです。レールの上を走る電車と空中を飛行する飛行機では求められる安全性に違いはないのですが、求められる機能に大きな違いがあるからです。
岩花氏:有人航空機の業界にとって無人航空機だけでなく、電動化や自律飛行が進んでいくという流れがありますが、ビジネスとしてどのようになっていくと想定されるでしょうか。
鈴木氏:これまでの機体製造だけではなく、新たな人材を必要とし、新たな業界との連携が求められます。自動車会社がIT企業とコラボするようなことが航空機業界にも求められ、業界の動きに大きな変化が訪れます。ただし、B737MAXで経験したように複雑化するシステムの設計開発時の安全設計、安全確認の仕組みを築いていくという大きな課題がありますので、単なる協業では済まないというのも事実です。
岩花氏:技術の発展に向けたハードルとして電動の場合のバッテリーなどが代表として挙げられるかと思いますが、その他大きなハードルとしてどのようなものが挙げられそうでしょうか。
鈴木氏:欧州でハイブリッド航空機の研究を推進するリーダーであるエアバスは、電気推進やハイブリッド推進に対する安全認証がない中で、国際的なルール作りをグローバルな産学官の連携で推進することを提案していました。要素技術とともに、認証技術を築き上げることを同時並行的に行わなければならないのです。
岩花氏:法規制の検討において例えば有人航空機との棲み分けや双方の識別をどうするかなど色々な課題が考えられますが、現状の法規制の検討上ハードルなどについてご意見をいただけますでしょうか。
鈴木氏:日本の場合、低高度を飛行するヘリなどの有人機の位置情報が、地上では把握できないという大きな課題があります。欧米ではADS-Bという発信機を小型機に装着することが進んでいますが、日本ではあまりその認識が進んでいません。小型軽量のADS-Bを開発して世界に提供できれば大きなビジネスにもなりますが、航空機の装備品産業は日本ではまだ限られた分野しか成熟していません。
岩花氏:今後の活用を広げていくためには、墜落や悪用、プライバシーなど想定されるリスクとその対処についてきちんと把握して適切な措置や対策をとることが、市場の発展のためには重要とPwCコンサルティングは考えています。ところで、リスク低減のために事故調査による事故原因の究明とそれによる改善といった取り組みも重要と考えておりますが、そこに向けた動きは見られるでしょうか。
鈴木氏:事故の原因を究明し、安全対策として活かしていくという方法は重要ですが、無人機の場合は未着手です。ボランティアベースでの検討は始まっていますが、制度化し、公的な機関が実施しなければ混乱をまねくばかりです。福島のロボットテストフィールドがその役割を担えればと思います。航空安全の向上は、厳密な事故調査とそれによる改善で築かれてきました。ドローンでもそれをどのように構築するかが課題です。
岩花氏:技術や法規制などの課題を乗り越えた先に利活用の大きな広がりが想定されますが、無人航空機が活躍する社会はどのように実現されるだろうと想定していますか。
鈴木氏:空飛ぶクルマは交通渋滞を解消するアーバンエアモビリティが想定されています。スタートアップ企業が取り組んでいる空飛ぶクルマは従来のドローンとあまり変わりません。空飛ぶタクシーが高級車であると位置づけると、空飛ぶクルマは軽自動車です。しかし、地方に行くと軽自動車は存在価値があり、重要な移動手段なのです。空飛ぶクルマは実は都市部で活用できるという以上に、過疎地で移動手段として重要な意味を持ってくると思っています。過疎地が暮らしやすいようにしないと、日本の人口減少に歯止めがかかりません。
この秋、福島ロボットテストフィールドに向かうため、仙台から福島・南相馬へ電車で移動していたら、大型の台風で電車が止まってしまいました。台風が過ぎ去った後に、電車運営会社はタクシーを呼んでくれたのですが、そこからが地獄でした。国道などの幹線道路は冠水してしまって進めません。しかし仙台から来たタクシーの運転手は道路事情に詳しくありません。立ち往生しそうになると、同乗された地元の人たちが親切に道の情報を教えて、何とかホテルにたどり着けたのです。もし、こうしたケースで、空飛ぶクルマがあれば、幹線道路の冠水も怖くありませんし、本当に便利だろうなと想像しました。スマートシティという言葉がありますが過疎地の交通を高度化する「スマートビレッジ」にこそ、空飛ぶクルマが求められているのではないかと思ったのです。
岩花氏:PwCコンサルティングでは、MaaSの取り組みも進めています。ドローンや空飛ぶクルマは決して万能ではなく、ケースバイケースで最適な交通機関があるはずです。自動運転の鉄道、バス、自動車などがある中で、ドローンや空飛ぶクルマが生きてくるはずです。全体最適で考えることが重要だと思います。
鈴木氏:島根県美郷町は過疎化が進み、赤字路線が廃線になりました。ドローンの活用に積極的な町なので、廃線になった線路を使って、自動走行車を走らせたり、ドローンを飛ばしたりすれば、新しいモビリティの可能性が広がるのではないかと感じました。モビリティは、飛行機や船、列車、バスなどそれぞれが単体で発展し、専門化しており、セクショナリズムになりがちです。しかし、それぞれの移動手段を単体で考えるのではなく、全体最適を目指したモビリティ同士の連携を考えていくべき時代になったと言えます。都心部よりもむしろ、過疎地でこそ有効な概念だと思います。まさに、スマートビレッジの考え方です。
宮川氏:無人機や空飛ぶクルマの社会実装には多くのステークホルダー(利害関係者)が関わる必要があると思います。インテグレータ、機体、地上操縦装置、通信ネットワーク、航空管制、法制度、社会受容促進など。経済価値の大きな特区を設定して、これらを実現し業界を主導するところにコンサルティングの活躍の場があるのではないでしょうか。
鈴木氏:中国でドローンが発展している背景には、ドローンの飛行を許容する特区の存在があります。もともと、中国では軍が空を支配しているので、そもそも、勝手に飛ばすことはできないのですが、特区を設け、そこだけは自由度を広げています。一方で、日本の問題としては、機体の開発環境が設備としても制度としても未成熟という現状があります。
最近、機体が行方不明になる事件が相次ぎましたが、例えば、福島ロボットテストフィールドでは“大きな鳥かご”と呼んでいる、網で覆われた試験設備があります。そうしたところで迅速な開発が行える制度も整備してゆく必要を強調したいと思います。もちろん、安全性は担保されなければなりませんが、自由にドローンを作って、飛ばして、落として、改善してということができる飛行環境を特区などで整える必要があると思います。私は福島ロボットフィールドをアメリカのキティホーク(ライト兄弟が世界で初めて飛行機による有人動力飛行に成功した町)のようにしてはどうかと提案しています。そうした自由な実験場でこそ、本当の革新的技術が生まれるのだと思います。
岩花氏:PwCコンサルティングではドローンや空飛ぶクルマ、MaaSビジネスなど無人航空機を活用した市場の活性化に使命感を持ち、市場、法規制、技術動向などの調査、事業化に向けたビジネスモデルの検討、事業性評価、実現性評価、オペレーション設計、プロジェクト管理、リスク管理、3次元データ活用などのプロジェクトを国内外で既に多数実施しており、実績が積みあがってきています。世界中のPwCメンバーファームと協力して海外制度をグローバルに分析し日本に紹介するような支援体制も有しています。
今回の対談では、鈴木先生が仰った日本版「キティホーク」構想がとても印象的でした。世界中の誰もが実現不可能と思っていた有人飛行をライト兄弟は成功させました。そんなライト兄弟のように、私たちも航空機産業の歴史の転換点に今立っているのではないでしょうか。これからも業界の中で中立的な立場を保ちつつ、無人航空機を活用した市場全体としての最適化を今後も継続して目指していきます。
本日はどうもありがとうございました。(完)
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GMO AI&ロボティクス商事株式会社(東京、GMO AIR)と日本科学未来館(東京)は8月25日、対話型AIロボットが来館者に案内をしたり科学の質問に答えたりする取り組みを始めた。対話型AIロボットは8月31日までの7日間、各日の午前11時から午後1時までと、午後3時から午後5時までの2回、日本科学未来館5階の常設展示、常設展示ゾーン「プラネタリー・クライシス」内で来館者を迎える。
対話型AIロボットの来館者対応は、GMO AIRと日本科学未来館の共同実証実験で、AIがロボットに組み込まれた場合に顧客体験価値を創出するかどうかなどを確認する。GMO AIRにとっては昨年(2024年)6月の設立以来初めて、また日本未来科学館にとっても未来館を実験フィールドとして提供する「未来をつくるラボ」の活動を掲げて初めての実証実験となる。
初日の8月25日は来館者が訪問する前の時間帯に説明会が行われ、取り組みの概要やロボットの特徴が紹介され、デモンストレーションが行われた。
GMO AIRの内田朋宏氏代表取締役社長は「AIにバーチャルな印象を持たれる方もいらっしゃいます。ロボットに組み込むことで身近に感じていただけると思います。この取組を通じて老若男女にAIを感じてもらい、未来への想像を膨らませて頂きたいと考えています。将来的にはヒューマノイドに搭載することも考えたいと思っています」とあいさつした。
実験概要についてはGMO AIRの金明源(きむ・みょんうぉん)氏が「この実証実験では『プラネタリー・クライシス』の中を案内し、かつ科学に関する一般的な質問に答えます。目的は新しいコミュニケーションツールとしての実用の可能性の検証と、来館者と触れ合うことを通じた新しい顧客体験価値の発見です」と説明した。
活用するロボットはGMO AIRがメーカーから仕入れた。仕入れたままでは展示の説明などはできないため、GMO AIRがソフトウェアとアプリケーションを開発した。これについて金氏は「開発業務のプログラミング部分は80%をAIが自動生成しました。また4か国語に対応すること、インタラクティブにコミュニケーションがとれることが特徴です」などと説明した。
またRAG(Retrieval Augmented Generation)を採用したことも紹介され、来館者の音声質問をテキストに変換して、大規模言語モデル(LLM)が外部情報源と照合して回答を生成し音声変に換する。実験で使われているロボットは、来館者から質問を受けて5秒ほどで音声で回答する。展示関連の質問に加え、一般的な科学に関するやりとりにも対応できる。
日本科学未来館科学コミュニケーション室の樋口貢介調査役は「日本科学未来館は一般の人に先端的な研究開発にふれ、参加していただく活動に注力しています。その一環で『未来をつくるラボ』というコンセプトを今年度から打ち出し、研究開発や実証実験のフィールドとして使っていただく事業を展開しています。AIについてもロボティクスをかぶせることで実現するリアルの可能性と社会受容性の検証を行います。AIとロボットの組み合わせでどういうコミュニケーションできるのか、その可能性を探りたいと思っています。今回が初めてのトライで、今後もさまざまな取り組みを企画しています」と未来館としての取り組みを紹介した。
デモではAI対話型ロボットに話しかけて対応を確認した。
ロボットは自律走行の機能がついていて、人を検知すると話しかけたり止まったりする。話しかけると声の方向を向く。ロボットの顔にあたる部分にマイクボタンがあり、声をかけるときにはそこをタップする。
来館者 あなたはなにができますか」
AI対話ロボ 「プラネタリー・クライシスの案内や解説、館内の安全な移動サポートができます。展示内容や科学知識についてご質問があればわかりやすくお答えします」
――プラネタリー・クライシスについて教えてください
「地球環境の危機をテーマにした展示です。気候変動や生物多様性の減少、汚染などについて学び、自分たちについて考えるきっかけになります」
――地球温暖化について知りたいです
「地球温暖化は二酸化炭素などの温室効果ガスが増えることで地球の気温が上がる現象です。人間の活動が主な原因とされ、異常気象や海面上昇などさまざまな影響があります
――気候変動についての展示はありますか
「進行する気候変動、の展示があります。ご案内しましょうか」
――はい、案内してください
「ご案内します。どうぞこちらへ」(そのまま展示パネルまで移動する)
このほか、展示内容に関わる質問、展示にはない質問にも答える様子が紹介された。
また「おなかがすいた」と話しかけると、レストランや飲食可能な休憩スペースの場所を紹介し、韓国語で訊ねると韓国語で回答した。
関係者は「来館者の関心は幅広いのでどんな関心を持つのか、どんな対応を求めてくるのか、どう対応すると満足度が高まるのか、いろいろなケースを実験で確認してみたいと思っています」と話している。
ブルーイノベーション株式会社(東京)は屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」に、作業を一時中断して出発地点まで戻っても中断した位置に自動で最適ルートで戻って作業を再開できる「レジューム機能」が備わったと発表した。ソフトウェアのアップデートで使える。バッテリー交換などで離陸地点に戻ったあとの作業再開時などの活用を想定している。
レジューム機能はELIOS3を開発するスイスのドローンメーカー、Flyability SAが開発した。屋内空間などの点検作業のために飛行しているさいに「Smart RTH」機能で離陸地点に戻りバッテリー交換をしても、自動で点検地点に復帰させることができる。ブルーイノベーションによると、復帰位置はSmart RTHの作動地点から水平方向、高さともに10cm未満で復帰できるという。
復帰途中に新たな障害物が生じてもリアルタイムで回避ルートを再計算し復帰を実現するため「複雑な屋内環境においても、作業者は操縦ではなく点検業務そのものに集中できます」と話している。
東日本旅客鉄道株式会社(東京、JR東日本)は8月23日、高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)一体型の都市開発エリア、TAKANAWA GATEWAY CITYで300機のドローンを使った「ドローンショー in Summer」を開催した。幹線道路と鉄道とビルにはさまれた都心の夜空に、高輪のイノベーションの歴史を物語る汽車のモチーフや開業情報、JR東日本のロゴなどが浮かび、招待者やエリアに居合わせた人が約10分間のショーを楽しんだ。主催したJR東日本の出川智之マネージャーは「まちづくりへのメッセージは伝えられたと思います」などと話した。
ドローンショーは、開発中の敷地内に離発着のための専用スペースを設けて行われた。専用スペースに株式会社レッドクリフが開発した300機の専用ドローンが並べられ、光を放ちながら離陸すると、地表から40~60mの空域を中心に、最も高いところで80mの高さまでの間で広がり、文字、モチーフ、ロゴなどを浮かびあがらせた。ショーの運用はレッドクリフが行った。
描かれたのは、「TAKANAWA GATEWAY CITY」の文字やロゴマーク、150年前のイノベーションの象徴である蒸気機関車、山手線の車両、「100年先の未来へ」のメッセージ、「イノベーション」「共創のまち」、「地球益の実現」などのJR東日本が目指すまちづくりのコンセプト、近々開業する施設の告知、ドローンで再現された花火、JR東日本のロゴなどだ。午後7時からと、午後8時半からの2回、それぞれJR東日本の募集に応じて招待を受けた200人が、この日のために用意された観覧席で「すごいね」「よく許可がおりたね」などと感心しながら見守り、終了後には各回とも拍手があがった。
また招待客でなく一般の通行人や周辺の利用者も駅前や広場でドローンショーを見上げた。高輪ゲートウェイ駅の改札を抜けた広場からもビルと駅舎の間にドローンショーを見ることができ、建物の間にはさまれるように浮かぶ都心ならではのドローンショーを堪能した。予期せぬドローンショーをスマホで収める姿が見られたほか、タイミングよく通った山手線などの電車の車内や、近隣の居住者や利用者にも光のショーを届けた。
JR東日本マーケティング本部まちづくり部門品川ユニットTAKANAWA GATEWAY CITYの出川智之マネージャーは今回のドローンショーの目的と、達成具合について、「JR東日本として力を入れているモビリティー領域のひとつとしてドローンを物流、設備点検などいろいろなところに活用したいと考えていまして、それを多くの人に伝えるメッセージとしてドローンショーを企画しました。その目的は達成できたのではないかと思っています。実際、今回のドローンショーの開催を知らせるプレスリリースを発表したときには、その数時間後には満席になり関心の高さを感じることもできました。観覧席にお越しいただいたみなさまにもそのメッセージを伝えられたと思っています」と述べた。
今回のドローンショーを開催するうえで乗り越えた点について「ポイントは難易度の高い場所での開催です。このエリアは人口密集地域で、羽田航路の直下で、線路と国道にはさまれたかなりタイトな場所でもあり、Wi-Fiですとか携帯電話ですとかの干渉リスクも気にしなくてはならない場所です。そばを電車が走っていますし、電車の鉄が磁気化されてしまう課題もあります。こうした環境の中でデータ転送をして飛行させる、いわば過酷な環境の中でのドローンショーがひとつのポイントでした。また演目にJR東日本がTAKANAWA GATEWAY CITYをどのようなまちにしたいかというメッセージも加えて、御覧頂く方に伝えさせて頂きました。ここは150年前、日本ではじめて汽車が走った場所で、海の上に堤を築いて線路を敷設したという、当時としては画期的な、いまでいうイノベーションの象徴のような場所です。その記憶を継承して100年先の未来に向けて新たなイノベーションを起こしていく。それが地球にとってもよい効果をもたらす。そんな『地球益』の実験を目指す、というメッセージを込めさせて頂きました。夏らしく花火を盛り込んだり、JRのロゴを入れたり、JRならでは、この場所ならではの演目にできたのではないかなと思っています。今後は今日の反響や、歩道、車道での状況などもふまえて検討をしたいと考えております」とコメントした。
3月のまちびらきイベントで実施したサプライズでのドローンショーにも言及し、「ドローンショーの一般公開にあたり3月に同じ演目で、高輪のまちを正面にして一部の方に公開した実証などを行ったことも生かされました。データ転送、フライトに関する実験は3月の実施で大丈夫と確認できたことが意義を持ちました。3月からこの8月までの5カ月で、新たなシーンを追加するなどの調整をして実施しました。ただ3月のショーのさいにはその1年前、つまり昨年3月ごろから事業者の選定や、実際に飛ばす場所、実地調査などかなりの準備を進めました。航空行政、駅、警察、消防などの行政まわりへの連絡や、技術的な諸条件を整えることは3月のさいにできていたので、それをふまえて今回、いよいよお客さまをお迎えして飛ばすことに取り組みました」
今後の展望について「空飛ぶクルマを小岩井(=小岩井農場。JR東日本は2026年春に雫石町<岩手県>の小岩井農場にJR東日本の新ブランドホテル「AZUMA FARM KOIWAI」を開業する)で飛ばす計画を発表しておりますが、そういったものに取り組んでいきたいという思いはあります。ドローン事業というところではすでに子会社が合弁で設立したCalTa株式会社(東京)がドローンを使った設備点検に取り組んでいまして、ある意味ですでにドローン事業に取り組んでいます。ドローンショー事業についてはすぐにということはないと思いますが、今回のレッドクリフさんのほかにもいろいろなドローンショー事業者さんがいらっしゃるのでいろんな方との取り組みも可能性があると思っています」などと述べた。
株式会社ドローンショー・ジャパン(金沢市)が、音楽ユニットYOASOBIのライブ会場で、メンバーから参加者けメッセージをドローンショーで夜空に投影した。8月5日に兼六園に近い「本多の森北電ホール」(金沢市)で行われたライブ終了後、ホールから出て帰路につく来場者の頭上に、「ありがとう I♡石川 いくら」「石川ありがとう YOASOBI あやせ」のメッセージが浮かび上がらせ、来場者に感動の余韻を残した。
ドローンによるメッセージが投影されたのは、7月に熊本でスタートした全国ツアー『YOASOBI HALL TOUR 2025 WANDARA』のうち、8月5日に「本多の森北電ホール」で4日間にわたって開催されたの金沢市でのライブの初日。ライブの終了後に会場を後にしようとした参加者の頭上に、このツアーのキービジュアルである犬のキャラクターのモチーフや、メンバー2人から来場者への感謝を伝える直筆のメッセージを再現した映像が投影され、来場者へのサプライズとなった。
メッセージの投影はドローンショー・ジャパンの特別協力で行われ、同社が開発した専用機「DSJ MODEL-X」500機が使われた。
YOASOBIは新型コロナ感染症拡大期の2021年7月に開催し配信ライブ『SING YOUR WORLD』でもFPVドローンを駆使した映像をまじえるなど、ドローンの活用に前向きなことで知られる。
またドローンショー・ジャパンは7月26日、27日に開催されたMrs.GREEN APPLEの野外ライブでバンドロゴを浮かび上がらせるなどライブでの演出活動が話題になっている。(参考記事はこちら)
ドローンショーの企画・運営を手がける株式会社レッドクリフ(東京)は、秋田県大仙市で8月30日(土)に開催される開催の第97回全国花火競技大会「大曲の花火」をドローンショーで盛り上げる。約1300機のドローンで夜空にシンガーソングライター、KANさんの代表曲『愛は勝つ』の歌詞を投影し、来場者が合唱する。この取り組みは大塚製薬株式会社(東京)の炭酸栄養ドリンク「オロナミンCドリンク」発売60周年記念特別プロジェクト「元気ハツラツ!大空大合唱」の一環で、ドローンショーではたて225m、横65mのオロナミンCボトルも登場する。
「大曲の花火」は、JR大曲駅から直線距離で約1.5㎞での雄物側河川敷で開催される。レッドクリフがドローンショーを手がける大塚製薬の特別プロジェクト「元気ハツラツ!大空大合唱」は8月30日午後6時半ごろからの開催が見込まれる。大会の主役である花火は午後6時50分ごろから打ち上げが始まる予定だ。観覧席はいくつもの種類があるが完売している席が多い。
「元気ハツラツ!大空大合唱」では、光を放つドローンがオロナミンCのボトルを音符に見立てた『愛は勝つ』の楽譜や、歌詞を投影する。会場では『愛は勝つ』を流し、参加者、来場者、関係者らで合唱する。合唱中はドローンがカラオケのテロップのように、歌うべき歌詞を光らせて参加者を歌いやすいように導く。プロジェクトを主導する大塚製薬の主力製品、オロナミンCの巨大ボトルも浮かび上がらせる。
レッドクリフのドローンショーは「元気ハツラツ!大空大合唱」の一環で実施される。7月27日に開催された北海道小樽市の小樽港第3号ふ頭基部で開催された「第59回おたる潮まつり大花火大会」で実施したときの動画はオロナミンCドリンク公式SNSで8月4日時点で、総再生数が1350万回超を記録するなど大きな反響を呼んだ。大曲の花火は約75万人の来場実績があり、今回も大合唱が期待される。
「元気ハツラツ!大空大合唱」は小樽、大曲に続き、10月18日には八代市<熊本県>の球磨川河川緑地で開催される「第38回やつしろ全国花火競技大会」でも開催される計画だ。実は7月の「第72回安倍川花火大会」(静岡県)でも開催の計画があったが荒天により河川が増水した影響で花火大会とともに中止になっていた。
またレッドクリフは、日本三大花火大会のうち今回の「大曲の花火」と「長岡花火大会」でドローンショーを実施した実績があるほか、全国各地の花火大会をドローンで盛り上げている。大阪・夢洲で開催中の大阪・関西万博でも連日、ドローンショーを開催し来場者を楽しませ、ギネス世界記録の達成への挑戦も続けている。
株式会社エアロネクスト(東京)は8月15日、ドローンでフードデリバリーの試験飛行を 実施したと発表した。6品、約2.5㎏を有人地帯での補助者なし目視外飛行(日本ではレベル4に該当)で、地元モンゴルの有力企業と連携して実施した。
エアロネクストのモンゴル国でのフードデリバリは7月25日に行われた。同社の「モンゴル展開パートナー」である モンゴルを代表する投資会社Newcom Group(ウランバートル市)、同社の子会社、Mongolian Smart Drone Delivery LLC(ウランバートル市)、モンゴル国フードデリバリー最大手、Tok Tok LLC(ウランバートル市)と組んで実施した。エアロネクストの調べでは、7月時点でモンゴル国内では初めての取り組みという。
試験飛行では、アプリ「TOK TOK」を通じて注文を受けたレストラン KIBO の料理6品、2,420gを、ウランバートル市内からウランバートル郊外の研修・保養施設まで片道約 16.5km、株式会社ACSL(東京)製の「PF4」で運んだ。動画にはTOK TOKのロゴの入ったデリバリボックスをPF-4が運ぶ様子や、都心部を飛行する様子、受け渡しの様子がおさめられている。
エアロネクストはすでにウランバートル市内で定常運航として血液製剤の配送を実施しており、6月には郵便輸送も実施している。フードデリバリは第3のユースケースとなる。
(モンゴル郵便とのドローン配送試験運航の実績についてはこちら