福澤知浩 の記事一覧:6件
  • 2024.1.11

    SkyDrive、インド・グジャラート州政府と戦略パートナーシップ 2027年の空クル社会実装目指す

    account_circle村山 繁
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    株式会社 SkyDrive((豊田市<愛知県>)は1月10日、インド北西部のグジャラート州政府と「空飛ぶクルマの社会実装を戦略的に推進させるためのパートナーシップ契約」を締結したと発表した。2027 年を目途に、同社が開発中の空飛ぶクルマ「SKYDRIVE(SD-05型)」について、インド国内での社会実装を目指す。

    基本合意締結先のスズキが得意とするインド市場に第一歩

     契約に基づき、SkyDrive とグジャラート州政府が管轄する科学技術省が2027年を目途に「SKYDRIVE(SD-05 型)」の社会実装を目指す。手始めに事業化調査を始める。

    ■株式会社SkyDriveの福澤知浩代表取締役CEOのコメント

    2022年以降、空飛ぶクルマの事業化を目指し、スズキ様と共にインド市場開拓およびユースケース開発を進めてきました。今回、モディ首相の出身地でもあり、国内で最も革新的な取り組みを推進する、グジャラート州との戦略パートナシップ締結により、政府と共に事業を推進出来ることは非常にありがたく思います。モビリティの排出ガスや都市渋滞等の社会課題の解決に向け、新しいモビリティが貢献できるよう、官民一体で進めて行きたいと思います。

    (なお、SkyDriveは「空飛ぶクルマ」について<空飛ぶクルマとは:電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段です。諸外国では、Advanced Air Mobility(AAM)や Urban Air Mobility(UAM)と呼ばれています>と説明している)

    戦略パートナーシップ契約の締結に調印した(左から)グジャラート州科学技術省ミッションディレクター Videh Khara 氏とSkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩氏

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2023.11.6

    Japan Mobility ShowでAAMやドローンが表舞台に トヨタ、ホンダ、SUBARU、米Joby、ドローンエンタメも

    account_circle村山 繁
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     東京・臨海部の大規模展示会場、東京ビッグサイトで10月26日から11月5日まで開催されたJapan Mobility Show2023は、AAM(次世代エアモビリティ、いわゆる空飛ぶクルマ)の、社会受容性を格段に引き上げた催事として記憶される可能性が高い。トヨタ、ホンダ、SUBARU、スズキなど大手自動車メーカーは空の移動を表舞台に載せ、今後の展望を来場者に印象付けた。米Joby Aviation、日本のSkyDriveはAAMの知名度や認知度を愛好家やマニアの水準から市民、生活者、消費者に拡大し、期待を引き上げた。期待先行の印象が強いAAM開発はまもなく、米アドバイザリ大手、ガートナー社が提唱する「ハイプサイクル」で指摘される「幻滅期」への準備も併行させる時期にさしかかる。

    トヨタ社長背後のスクリーンに出資先米Jobyの映像、Joby実機も  SUBARUはサプライズでコンセプト機体

    トヨタ佐藤恒治社長のプレゼンテーションではスクリーンに投影された映像の中でトヨタが出資するJobyS-4の映像が投影されトヨタの空への意気込みを印象付けた(10月25日)

     Japan Mobility Show2023は公開前日の10月25日に行われたメディア公開以降、メディアの報道、SNSでの拡散などで多くの市民の「行きたい展示会」に躍り出た。東京モーターショーの刷新で展示範囲を自動車関連から乗り物に拡大し、主役の自動車に加え、AAM関連のプロダクト、技術にも光が当たることになった。自動車産業そのものもAAM関連への関与や展望を打ち出し、来場者に近未来を強烈に印象付けた。

     トヨタ自動車の佐藤恒治社長は10月25日午前8時半、同社が設置した巨大ブースにステージに立ち、国内外からつめかけた人垣ができるほど大勢の報道陣を前に、「トヨタのブースで伝えたいのは多様性あふれるモビリティの未来です」と、バッテリーEV、IMV 0(アイエムブイ ゼロ)、KAYOIBAKOの3つを中心にプレゼンテーションをした。AAMへの直接の言及はなかったが、佐藤社長の背後の大型スクリーンに映し出されたコンセプト映像に、同社の出資先、米Joby AviationのeVTOLエアクラフト「S-4」の映像が投影される場面があり、トヨタのエアモビリティ分野への関心を印象付けた。

     JobyのS-4は、原寸大のモックアップが、トヨタのブースとは別の会場内のブースに展示され、来場者がスマホで撮影するなど存在感を放った。JobyはANAホールディングス株式会社とチームを組み、2025年4月に開幕する大阪・関西万博で、利用者を載せて飛行する4つの事業者グループのひとつに決定している。「S-4」はトヨタが駆動系の開発に参加しているほか、型式証明の交付を日本の航空局に申請がされていて、日本での飛行を待ちわびる視線を集めた。

     日本発AAMの現時点での代表格のひとつ、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)も型式証明を申請している「SD-05」の5分の1サイズモデルを展示し、来場者の足を止めた。展示された場所はスズキ株式会社(浜松市<静岡県>)が展開しているブースの一角だ。SkyDriveは6月にスズキとの協力関係について基本合意書を交わしていて、スズキグループの工場を活用して2024年春ごろに機体の製造に着手したい意向だ。SkyDriveは代表の福澤知浩氏の出身企業であり、SkyDriveへのスポンサーでもあるトヨタと縁が深いが、Japan Mobility Showではスズキとの連携を印象付けたことで、自動車業界をあげたエアモビリティ支援体制構築の進展が期待される。

     メディアの間で当初、最大の話題のひとつとなったのが、株式会社SUBARU(東京)のエアモビリティ発表だ。トヨタから1時間後の10月25日、午前9時30分にスバルのブースのステージに登壇した大崎篤社長CEOは「自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えていると言われ数年がたちます。本日は次世代モビリティとしてふたつのコンセプトモデルを披露します」と宣言。軽快な音楽とともに最初のコンセプトモデル「SUBARU SPORT MOBILITY Concept」が紹介された後、音楽が切り替わると、背後のパネルが中央からふたつに開き、奥からリフトアップされた機体がせり出した。メディアがいっせいにフラッシュをたくなか、せり出した機体はステージでファッションショーのモデルのように右左に動いたり、正面を向いたりして、洗練されたデザインをアピールした。

     大崎CEOはこの機体を「SUBARU AIR MOBILITY Concept」と紹介。「電動化、自動化技術が進歩し航空機の世界でも空の移動革命を実現する新たなエアモビリティへの期待が高まっている中、スバルが目指すより自由な移動の未来を示したコンセプトモデル。現在、自動車部門と航空宇宙カンパニーが協力し飛行実証を進めています」と紹介した。6つのローターを持つ電動機だが、スペックは今後詰めるという。

    公開前日の10月25日に開催されたプレスデーの午前8時半、トヨタのブースにはこれだけの人垣ができた。全員メディア関係者だ。注目度の高さがうかがえる(10月25日)
    ステージ奥のパネルがわれ、中からせり出すように登場したSUBARUのエアモビリティコンセプト(10月25日)
    SUBARUのブースは一般公開日にも多くの来場者がカメラを向けた(11月2日)
    エアモビリティにも言及したSUBARUの大崎篤CEO(10月25日)
    トヨタのプレゼンテーション中の動画に登場したJobyのS-4はトヨタとは別のブースで実物大のモックアップが公開された。ANAホールディングスと連携し大阪・関西万博での飛行が期待されている
    スズキブースの一角に展示されたSkyDriveの「SD-05」の5分の1スケールモデル。米JobyのS-4とともに、大阪・関西万博での飛行が期待されるモデルのひとつ
    SkyDriveブースを訪れた同社の福澤知浩代表(10月25日)
    来場者の期待感を刺激する装飾も効果的だった(10月25日午前8時)
    一般公開後は入口前からスタッフが来場者の往来整理にあたった(11月2日午前11時)
    一般公開期間の午前中は入口にたどり着くまでに行列ができ、入場前に人気ぶりを実感できる(11月2日)

    ホンダ東氏「時短価値提供に向けターゲットレンジ400㎞へ」

    空モノへの力の入れようが伝わるホンダのブース(11月2日)

     本田技研工業株式会社(ホンダ、東京)のブースは、見る角度によっては自動車より飛ぶ乗り物が目立つほどに空への展開をアピールした。小型ビジネスジェット「HondaJet Elite II」の搭乗体験モデルの隣に、8つの揚力用ローター、2つの推進用ローターを搭載する開発中のAAM、「Honda eVTOL」の縮小モデルを展示した。

     Honda eVTOLは名称に電動を示す「e」が入るが、ガスタービンを搭載している。シリーズ式ハイブリッドと呼ばれる方式で、ガスタービンは電力の生産に使われ、その電力はバッテリーに溜めて機体を動かす。ガスタービンで得られた力を推進力には使われない。機体が電気で動くのでガスタービンを搭載していても「e」がつく。

      ホンダはHonda eVTOLの安全性、快適性、静粛性を前提としていて、利用者が感じる価値はその先にあると考えている。重視しているのは時短価値だ。

     開発プロジェクトリーダーを務める株式会社本田技術研究所(和光市<埼玉県>)先進技術研究所新モビリティ領域チーフエンジニアの東弘英氏は、DroneTribuneの取材に、「空港に行かなくてもより身近に空を体験して頂けることが新しい価値だと思っています。身近であるためには安全や静粛性は前提です。利用者が『いいね』と感じる価値はさまざまあると思いますが、われわれはその中でもまずは、時短価値が大事だと考えています。そのためにはショートレンジでは価値が出しにくい。たとえばクルマを使えば10分で行けるところにHonda eVTOLでは5分で行けたとしても時短価値は少ないと考えられます。ひょっとすると降りてから乗り換えるとさらに時間がかかる可能性すらある。ある程度のレンジがないと時短価値が出せない。ガスタービンの搭載もそのためです。ターゲットレンジは400㎞です」と話し、出発点から目的地までの移動時間の短縮に挑む。 

    縮小スケールで展示されたHONDA eVTOL。ガスタービンの搭載で400㎞航続を目指す(10月25日)
    HONDA eVTOLについてDroneTribuneの取材に応じる本田技術研究所の東弘英シニアチーフエンジニア(10月25日)
    HONDA JETも呼び物展示のひとつ。「東京モーターショー」から「Japan Mobility Show」への衣替えを象徴していた
    HondaJet Elite IIは内部の快適性やステイタス感がウリのひとつ。搭乗体験モデルには行列ができた

    「ドローンツアー」のFPVの臨場感体験に感激の声続出

    ドローンの操縦席に乗ることができたらどんな体験ができるか。そんな願いを叶えるために登場したドローンエンタテインメントとトムスのブースはFPVの臨場感に満足の声が続出した

     Japan Mobility Showの「飛ぶもの」はAAMにとどまらない。株式会社エアロセンス(東京)やブルーイノベーション株式会社(東京)などドローンに力を入れている企業や、気球で宇宙旅行を企画しているか株式会社岩谷(いわや)技研(札幌市<北海道>)、自律航行技術で知られ、ストレッチャーロボットが海外メディアでも取り上げられた株式会社アトラックラボ(三芳町<埼玉県>)なども数多く登場している。ブルーイノベーションはトヨタが開発したドローンポートシステムをUCCホールディングス株式会社(神戸市<兵庫県>)などのスペースで実演。ドローンから届いたコーヒーをポートに降ろしたのち自動走行のAGVに乗せ換えて届け先まで走行する様子を再現している。

     連日行列を作っていたのは、マイクロドローン関連事業を展開する株式会社ドローンエンタテインメントが株式会社トムスと連携して展開していた体験型ブース、「ドローンツアー」だ。球体型スクリーンの手前にシートが用意され、そこに座ると同社代表でドローンレーサー元日本代表の第一人者で横田淳氏が撮影した全国の名所の映像が流れる。映像にあわせてシートが振動したり傾いたりして、まるで映像の中を自分が飛ぶ感覚を味わえる。よりリアルな体験を楽しむ方法として、横田代表がその場で飛ばすFPVドローンのとらえた映像を浴びることもできる。球面スクリーンの隣に設置された特設フライトスペース内をドローンが飛ぶと、シートに座った来場者はそのドローンの操縦席にでもいるかのような臨場感が味わえる。

     一般公開期間中は連日、午前の予約開始直後に埋まる盛況ぶり。会場にはキャンセル待ちのレーンも用意され、そこにも連日、来場者がつめかけていた。

     一般公開日に3人組で参加した女性の一人は「報道で見て、知人から聞いて参加しました。期待していたよりも、ずっと楽しかったです。なにより、よく言われる臨場感ってこういうものか、と感じました」と感激した様子で話した。いっしょにいた女性も「有料でも乗ります。ほかで味わえないから。あの映像を味わえるようにドローンを操縦したくなりました」と話していた。

     Japan Mobility Show2023はAAMへの期待を高め話題性を作ることに成功した。社会実装にむけて実用局面に移行する。米ガートナー社が提唱する期待の増減を示すハイプサイクルによると、新しいテクノロジーは話題性とともに登場すると、一気に期待値があがるが、その後、期待と現実との落差を目の当たりにすることで一時的に急降下することになる。その後、真価の適切な評価を経て社会システムに採用され、実装に至る。AAMも急上昇した期待の社会実装への道筋を構築する局面に入ることになる。

    行列ができたドローンツアーの前で説明する株式会社ドローンエンタテインメントの横田淳代表
    連日、予約開始とともに席が埋まったドローンツアー。キャンセル待ちレーンも設けられた
    ドローンレースの元日本代表でもある横田淳さんがその場で操縦(右端)。横田さんのドローンにまるで乗っているかのような体験も満喫できる。
    UCCのコーヒーが無人で運ばれてくる体験。ドローンがポートにおり、荷物がAGVに渡され、AGVが運んでくる。ポートはトヨタが開発しブルーイノベーションが開発を支援した
    岩谷(いわや)技研が展示した宇宙旅行体験のできる気球のモデル
    雷からドローンで電気をとる実験の様子も再現

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2023.2.22

    大阪・関西万博の空飛ぶクルマ運航事業者にSkyDrive、丸紅、ANA&Joby、JAL

    account_circle村山 繁
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     大阪・関西万博の主催団体である公益社団法人2025年日本国際博覧会協会は2月21日、大阪・関西万博で利用者を乗せた航行の実現をめざすいわゆる「空飛ぶクルマ」の運航事業者が、ANAホールディングス株式会社とJoby Aviation Inc.のグループ、日本航空株式会社、丸紅株式会社、株式会社SkyDriveの4グループ5社に決定したと発表した。また万博会場内の離発着場となるポートの運営を担う協賛企業について、オリックス株式会社が決定したと発表した。運航事業者に選ばれたSkyDriveの 福澤知浩代表取締役CEOは「今後も事業開発、機体開発に推進してまいります」と話している。

    4グループの彩り豊かな機体が万博会場運航目指す

     運航事業者に決まった4グループはそれぞれが別々の機体を運航する。万博会場では彩り豊かな機体が運航する見込みだ。

     ANAHDとJobyは、Jobyが開発する「S-4」、JALは提携する独Volocopterが開発する「VoloCity」、丸紅は、提携する英Vertical Aerospaceの「VX4」を運航する見込みだ。

     丸紅は子会社の丸紅エアロスペース株式会社とともに英Vertical Aerospace社と業務提携し、今年1月に25機分をの前払いして購入予約済みだ。同社は空飛ぶクルマの運航を想定したヘリコプターでの模擬体験ツアーを実施するなど、社会実装を視野に入れた取り組みを加速させている。

     日本から選定されたSkyDriveは、商用機として発表された「SD-05」を運航させる見通し。同社は万博開催の2025年の事業開始を目指している。

     Volocopterには住友商事株式会社が出資を決めており、日本企業のエアモビリティ事業参入機運が加速している。(「住商がVolocopterに出資」の記事はこちら

     SkyDriveは以下のプレスリリースを発表している。

    SkyDrive、2025年大阪・関西万博『未来社会ショーケース事業出展』の 「スマートモビリティ万博」における空飛ぶクルマの運航事業者に選定

     「空飛ぶクルマ」(※1)および「物流ドローン」を開発する株式会社SkyDrive(本社:愛知県豊田市、代表取締役CEO 福澤知浩、以下「当社」)は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)『未来社会ショーケース事業出展』のうち、「スマートモビリティ万博」における空飛ぶクルマの運航に係る事業者に選定されたことをお知らせいたします。

    大阪・関西万博の会場イメージ図(提供:2025年日本国際博覧会協会)

    ■2025年大阪・関西万博「未来社会ショーケース事業出展」応募の背景

     当社は、「100年に一度のモビリティ革命を牽引する」をミッションに、「日常の移動に空を活用する」未来を実現するべく、2018年7月に設立し「空飛ぶクルマ」を開発しています。2019年に日本で初めて「空飛ぶクルマ」の有人飛行に成功し、2025年の大阪・関西万博開催時に大阪ベイエリアでのエアタクシーサービスの実現を目指して開発を推進してきました。

     この実現に向け、大阪を舞台とした空飛ぶクルマの社会実装に向けた動きを加速させるため、大阪府が2020年11月に設立したラウンドテーブルに、当社も設立当初から構成員として参加し、様々なステークホルダーとの連携や事業検討のための議論、地域住民の理解促進や社会受容性を高めるための活動を行ってきました。また、2021年9月には更なる認知度や社会受容性の向上を目指し、大阪府、大阪市と連携協定を締結し、断続的な活動を行ってきました。

     この度当社は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が実施した、大阪・関西万博の「未来社会ショーケース事業出展」の、会場内ポート及び会場外ポートをつなぐ2地点間での空飛ぶクルマの運航の実施を目指し、運航に係る事業者の募集に応募した結果、選定される運びとなりました。

     航路や飛行頻度、機体の稼働台数、サービス提供価格等の詳細は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会を含む関係者の方々と、順次協議、決定してまいります。

    ■株式会社SkyDrive 代表取締役CEO 福澤知浩 コメント

     当社はこれまで、2025年大阪・関西万博にて、現在設計開発中の空飛ぶクルマ「SD-05」を皆さまにお披露目し、未来を感じていただくことを目指してまいりました。この度、「スマートモビリティ万博」空飛ぶクルマ事業における参加企業に選定いただき、大変感慨深く感じます。これまで様々な形で応援・ご支援くださった関係者の皆さまと、大阪・関西万博を目標に共に励んできた社員の皆に、心より感謝申し上げます。

     万博の場に向けた空飛ぶクルマへのご期待を改めて実感し、これからのチャレンジに奮い立つ気持ちでございます。10年後、20年後に当たり前となる「日常の移動に空を活用する未来」を体感し、楽しみにしていただける場となるよう、今後も事業開発、機体開発に推進してまいります。

    SkyDrive式SD-05型のイメージ図

     万博協会のプレスリリースは以下の通りだ。

     

    2025年日本国際博覧会『未来社会ショーケース事業出展』「スマートモビリティ万博」空飛ぶクルマの会場内ポート運営及び運航事業について

     公益社団法人2025年日本国際博覧会協会は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)における「未来社会ショーケース事業出展」のうち、「スマートモビリティ万博」空飛ぶクルマの会場内ポート運営の協賛企業を決定しました。また、2022年12月27日より2023年1月20日まで募集(第1次)を行った空飛ぶクルマ運航事業について、参加企業を選定しました。

     「未来社会ショーケース事業出展」の各事業については、引き続き多数の企業・団体と協議中であり、新たな協賛企業・団体については順次発表する予定です。

    「空飛ぶクルマ」会場内ポート運営【スマートモビリティ万博】

    ■協賛企業

    オリックス株式会社(東京都港区 取締役 兼 代表執行役社長・グループCEO 井上 亮)

    ■協賛内容

    万博会場内の北西に位置するモビリティエクスペリエンスに設置予定のポートの運営 (整備・維持管理・撤去を含む)を実施します。

    「空飛ぶクルマ」運航事業【スマートモビリティ万博】

    ■参加企業

    ・ANAホールディングス株式会社(東京都港区 代表取締役社長 芝田 浩二)及びJoby Aviation Inc. (アメリカ合衆国 カリフォルニア州サンタクルーズ CEO JoeBen Bevirt)

    ・日本航空株式会社(東京都品川区 代表取締役社長執行役員 赤坂 祐二)

    ・丸紅株式会社(東京都千代田区 代表取締役社長 柿木 真澄)

    ・株式会社SkyDrive(愛知県豊田市 代表取締役CEO 福澤 知浩)

    ■事業内容

     万博会場内ポート及び会場外ポートをつなぐ2地点間での空飛ぶクルマの運航の実施を目指します。関係自治体や国の関係機関の協力を得て、具体的な取り組みを今後行っていく予定です。本事業の詳細については、今後関係者と協議の上決定します。

    <ご参考>▽未来社会ショーケース事業について

    未来社会ショーケース事業は、大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会」を支える技術・サービスを、2025年以降の未来を感じさせる「実証」と2025年の万博にふさわしい「実装」の形で、「未来社会の実験場」となる万博会場の整備、運営、展示、催事などに活用し、国内外の幅広い参加者や来場者に、体験として提供する事業群の総称です。

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2023.1.24

    SkyDrive、兵庫県と連携協定 斎藤知事「子供たちに夢を」

    account_circle村山 繁
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     いわゆる空飛ぶクルマなどの次世代エアモビリティなどを開発している株式会社SkyDrive(愛知県)は1月24日、兵庫県と、次世代空モビリティとして期待される空飛ぶクルマの早期実現に向けた取り組みを進めるため「連携と協力に関する協定」(連携協定)を締結した。兵庫県は提携の席上、空飛ぶクルマなどの社会実装を進めるため、2025年の大阪・関西万博での飛行実現も視野にいれながら、県として社会受容性の向上、ポート整備支援、事業開発支援の3つの切り口で取り組む方針を発表し、4月からの2023年度以降に「次世代空モビリティ会議」の運営を始める方針を明らかにした。齋藤元彦知事は、「取り組みを通じ、子供たちに夢をあたえたい」と述べた。

    兵庫県が受容性、ポート、事業開発で取り組み加速 2023年度に「次世代空モビリティ会議」創設へ

    連携協定を締結し握手を交わす齋藤元彦・兵庫県知事(左)と福澤知浩・株式会社SkyDrive 代表取締役CEO(写真提供:中央復建コンサルタンツ株式会社・松島敏和氏)

     SkyDriveは、2025 年の大阪・関西万博開催にあわせて、大阪ベイエリアで空飛ぶクルマを使ったタクシーサービス(エアタクシー)の実現を目指していて、大阪府、大阪市とは2021 年 9 月に「空飛ぶクルマ」実現に向けた連携協定を締結している。これに基づき、社会受容性向上活動や、実証実験を進めている。飛行エリアを淡路島、瀬戸内エリアに広げることも展望していることから、今回兵庫県とも連携協定を結ぶことになった。
     連携協定の目的は、「空飛ぶクルマの開発と社会実装に取り組むことにより、科学技術の発展、イノベーションの創出、地域活性化、産業振興、防災・減災及び 2025 年大阪・関西万博に向けた機運醸成を推進すること」。①空飛ぶクルマの機体及び事業開発に資する実証②空飛ぶクルマの社会実装に向けた環境整備③空飛ぶクルマに係る情報発信など社会受容性の向上④空飛ぶクルマに関わる産業のエコシステム形成ーが内容だ。

     兵庫県は席上、空飛ぶクルマなどの実装に向けた取り組みを紹介した。短期目標を万博開催時の兵庫県での飛行、長期目標に県内での関連産業のエコシステム形成を掲げ、社会受容性向上、ポート整備支援、事業開発支援の3つの側面について、2023年度、2024年度、2025年度、2035年ごろまでの時系列で取り組み案を整理した。

     社会受容性向上について、2023年度内に「次世代ソラモビリティ会議」を設置して諸課題の検討を進める。ポート整備支援では2023年度に候補地を選定、2024年度には事業者の探索を展望する。事業開発支援では2023年度にメーカー以外の運航事業者、サービス事業者なども含めた事業モデルを調査するほか、ヘリコプターでの実証、デモ飛行などの十進を補助する取り組みを進める計画だ。

     2025年の万博開催時に大阪・兵庫間や兵庫県内の拠点間移動の実現を見据えるほか、2035年ごろにかけて、使途の多様化、飛行エリアの拡大、ビジネスのすそ野の拡大、開発製造、整備、人材育成などの拠点形成を含めたエコシステムの形成を目指す。

     斎藤知事は「社会に受け入れられる乗り物にしたい」と述べた。

    ■齋藤元彦・兵庫県知事のコメント

    兵庫にはベイエリアを中心とする海、山、川という多様なフィールドに加え、航空機産業の集積もあります。これまでのドローンの実証実験で培った知見を活かし、空飛ぶクルマの実現に向けた取組をこれから進めていきます。令和5年度には、空飛ぶクルマの社会実装に向けた予算を確保し、次世代空モビリティひょうご会議(仮称)を立ち上げ、社会受容性の向上、ポート整備支援、事業開発支援を行っていきます。SkyDriveさんとは万博 1000 日前イベントで縁ができ、連携協定締結に至りました。これからも共に歩んでいきます。

    ■福澤知浩・株式会社SkyDrive 代表取締役CEO のコメント

    兵庫県とは、これまで、実験機「SD-03」の展示や講演を通じて、空飛ぶクルマの社会受容性を高めるための活動を一緒に実施させていただいてきました。今回の協定で空飛ぶクルマの関西圏から淡路、瀬戸内へと広域化の実現に一歩近づくことができました。兵庫県は神戸空港やコウノトリ但馬空港もあります。ベイエリアから淡路島にかけては交通需要も見込め、空飛ぶクルマの運航に理想的な場所と感じております。空飛ぶクルマの実現により便利さと楽しさの提供に加え、防災機能の強化、地域活性化など、皆様の期待に応えられるよう推進して参ります。

    兵庫県の取り組みを発表する齋藤元彦知事(写真提供:中央復建コンサルタンツ株式会社・松島敏和氏)
    連携協定の展望を説明する兵庫県の斎藤知事(左)とSkyDriveの福澤CEO(写真提供:中央復建コンサルタンツ株式会社・松島敏和氏)
    抱負を述べるSkyDriveの福澤知浩代表取締役CEO(写真提供:中央復建コンサルタンツ株式会社・松島敏和氏)
    締結式会場となった「起業プラザひょうご」には大勢が集まった(写真提供:中央復建コンサルタンツ株式会社・松島敏和氏)

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2020.10.20

    【空飛ぶクルマ3人談義(後編)】SkyDrive・福澤知浩代表 & PwC・宮川淳一氏、岩花修平氏がコロナの影響や課題など意見交換

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     「空飛ぶクルマ」についての3人談義の後編です。前編では空飛ぶクルマの開発を手掛ける株式会社SkyDriveの福澤知浩代表、小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発に携わった航空機開発に詳しいPwCコンサルティング合同会社の宮川淳一顧問(Aerospace&Defense担当)、ドローンや空飛ぶクルマ関連の業務・技術支援に携わるPwCコンサルティング合同会社の岩花修平ディレクターが、空飛ぶクルマ開発のきっかけや想定されるユースケース、普及までの工程について意見を交換しました。後編では、普及に向けた課題、新型コロナウイルス感染症の影響、取り巻く市場のイメージなどについて議論を深めます。

    社会受容性が一番の課題

     岩花氏:空飛ぶクルマの実用化、普及に向けて乗り越えるべき大きな課題は何でしょうか。安全性が気になるところだと思いますが、それ以外でもヨーロッパなどで注目されているものとして、社会受容性があります。騒音、燃費、二酸化炭素排出などへの意識も必要になるかもしれません。

     福澤氏:そうですね。極論を言うと、社会受容性ありきだと思っています。日本ではそれが比較的低いのが現状です。例えば、空飛ぶクルマという単語そのものは知っている人が多いと思います。ただ、それがあと3年ほどで実現する、ということになると、95%ぐらいの方がご存じないでしょう。社会受容性を上げるには、まず事実を知ってもらうこと、次にそれをポジティブに捉えてもらうことが必要です。

     岩花氏:社会受容性の重要性を指摘する声も増え始めました。

     福澤氏:そうですね。実際、規制にも影響します。例えば国土交通省が規制を所管するのは、住民が困らないようにするための備えです。つまり、もとよりこの技術に対する住民の方々の受容性が高ければ、規制が和らぐ可能性があるのです。開発抑止的であってはいけない、という声も出てくるかもしれません。そうなれば私たちも資金を集めやすくなりますし、大企業からの認知度も高まり、提携の話も進むかもしれない、といった好循環が生まれます。より多くの人々が技術をポジティブに捉えることが最も重要なのではないかと思います。

     岩花氏:空飛ぶクルマやエアモビリティと、ドローンとでは、社会受容性に違いがありますか。

     福澤氏:エアモビリティのほうが、みなさんが気にする点や知らないことが多いと思います。講演会やセミナーなどでお話しをすると質問が山ほど飛んできます。もちろん全てにお答えするのですが、1時間ほど質疑応答を続けると、ちゃんと考えているんだね、安心したと言われます。情報が入ってくれば、見方や思いも変わってくるはずです。日本は欧米と比べると航空機を気軽に利用する習慣がないので、理解を深めていただくまでには時間がかかるかもしれません。FAQをウェブサイトに公表したり、講演などで懸念要素をできるだけ網羅して話したり、情報公開には注力していきたいと思っています。デモフライト(2020年8月25日に愛知県豊田市で公開有人飛行試験を実施。今後も順次開催予定)をご覧いただくのもその一環です。

     宮川氏:飛行機の歴史そのものが、社会的受容性の克服の歴史ですからね。歩いて移動するしか方法がなかった人間が、ある時、馬に乗るようになり、やがて、自動車に乗ることになった。その延長線上に飛行機があります。社会受容性は、メリットが懸念を克服していくプロセスを経て醸成されるものだと思うんです。福澤さんは理解者を増やすとおっしゃいましたが、これもメリットが懸念を克服していくことで増えていくはずです。ある程度の時間はかかるでしょうが、そのメリットを享受した人が増えていけば、社会全体が変わっていきます。一方で、アメリカは飛行機に対する社会受容性は高いですが、飲酒操縦やガス欠に起因する事故があると聞きます。

     岩花氏:社会受容性のほかにも、想定されている課題はありますか。

     福澤氏:今ご指摘いただいたことは全て課題です。新しい機体、という観点でケアすべき話と、航空機全体に関係する話とがあります。当然セキュリティも重要度が高い課題で、無人操縦を想定している以上、自動運転を進めていくうえで避けて通ることはできません。ただ、私たちが自社で対応するというよりも、業界全体で取り組むべき課題であるとも思います。

     岩花氏:衝突回避や高度な運航管理システムなど安全を確保する機能の実装、実証実験の繰り返しによる信頼性の向上、騒音の低減などを通じた社会受容性の向上が、普及に向けたポイントになりますね。機体だけでなく、ポートなどの地上支援システム、運航管理システム、管制、オペレーター、法規制、セキュリティ、関連サービスなど、さまざまな関係者が一体となって進めることが重要だと感じます。

    移動の価値の再考を迫る新型コロナウイルス感染症

     岩花氏:ところで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響はありますか。

     福澤氏:部品の到着が遅れるといった影響はあります。また、取引先がテレワークを苦手としていて会議が滞りがちになっています。大企業でもインフラ系の方々はテレワーク環境がなかったり、セキュリティの制限があったりするんですね。とはいえ、私たちはスタートアップなので、この程度の問題は社内外で常に経験していて、COVID-19もそのうちの一つに過ぎません。ただもう少し広い視点で見ると、移動に関する概念は10年ほど進んだ気がします。移動しなくても済むなら移動するのをやめよう。その時間で別の価値を生み出そう。本当に移動すべき場合にはちゃんと行こう。そんな考え方が増えたと思います。それに伴って、移動するならどんなモビリティに乗るか、という話も出てきます。本当に行くべきところに行く時には、定期輸送よりも、タイムリーに移動することが求められる、つまりMaaSに近づいてくるのではないでしょうか。こうしたことを考えると、空飛ぶクルマは、コンパクトかつパーソナルに移動できるという意味で、比較的COVID-19発生後の要請に答えていると感じます。

     岩花氏:私もどちらかといえばチャンスであると捉えています。非接触で物を届ける需要が出てきたことでドローンへの注目度が高まっていますが、空飛ぶクルマも一定のペイロードを運べ、災害時には物資輸送もできる。また、オフィスに出勤しなければいけないという習慣が見直され、生活や働き方のリフォームが進む中で、地方で完結できる仕事も出てきました。そうなると、都市部と違って地方の移動手段には既存の交通体系では足りていない部分がありますから、そこを充足できるツールの一つとして育っていくのではないでしょうか。

     福澤氏:これからは地方空港の活用が、コンパクトな航空機の利用も含めて中長期的に増えていくと思っています。空路利用が活性化し、移動に支障がなくなりさえすれば、地方に住んで仕事をするという選択肢がより身近になりますね。

     岩花氏:そうですね。空飛ぶクルマをきっかけに、地方の見直しが進むはずです。安全に飛ばすという観点でも、人や建物が密集していない地方の方が相性は良いですし、課題を背景とした社会受容性も高いと想像できます。これまでの電車やバスが数時間に1本という状況を考えれば、オンデマンドで移動したいときに移動できるメリットが受け入れられやすい。

     福澤氏:インフラ前提の都市計画が変わりそうですね。IT事業であれば都市部でなくてもできる業務は多いですし、その上で移動にこうした新しいモビリティを活用できるとなれば、仕事ができる場所がさらに広がります。

     岩花氏:COVID-19の中で移動の考え方には2通りがあるように思います。1つは移動を極力せずに済むようにする。これは移動マーケットが縮小することを意味します。それだけであれば、空飛ぶクルマにとっては乗り越えるべき課題となるかもしれません。もう1つが、移動は前提でなく付加価値であるという考え方。これをどう発揮するかが、空飛ぶクルマにとって重要になるのではないでしょうか。

     福澤氏:移動が少なくなっている点については同意しますが、国によって違いがあるとも思います。発展途上国であれば人口が増加しているので、当面は移動せざるを得ない仕事が多く、移動はどんどん増える。そこでの焦点は、「移動のパイ」のどこを取るかです。私たちは移動市場の全部を独占するつもりはありません。移動手段には新幹線もあればキックボードもある。移動市場は縮小傾向にあるとしても、私たちはその中に空飛ぶクルマを使うことが適切と考える層が一定以上いると想定しているので、その層に最適なサービスを提供することがゴールであると考えています。

     岩花氏:A地点からB地点に移動する際に、駅を経由し、乗り換えをして、そこから歩く、といった経由前提の移動ではなく、ピンポイントでAからBに行けることの価値は高いですね。

     福澤氏:オンラインフードデリバリーサービスも、当初は配送料が高く需要に見合わないと考えられていましたが、今では結構みなさん利用されていますよね。600円のお弁当に200円を上乗せして届けてもらっています。これはこれまでになかった価値を提供することによる新市場の創出ですが、移動においても、このモビリティがなければ生まれなかったという新たな市場が出てくると思っています。

     宮川氏:COVID-19の影響で確かに移動が減ってはいますが、リモートが進むからこそ、実際に人と会うことの価値、移動することの価値が高まるのではないでしょうか。インドネシアで空港の仕事をしていた時に、人はどういう理由で移動するのかというアンケートをとったことがあります。移動理由の第1位は、ビジネスでも観光でもなく、家族や親族に会いに行くことでした。移動の欲求は減ることがないと私には思えます。

     福澤氏:移動の欲求は確かに増えるかもしれませんね。これは、新しい通信機器が発売されるたびに「もう移動はいらないんじゃないか」という話が出てくるのと似ています。電話やメールやSNSがあるからわざわざ相手のところまで行かなくていい、となるかというと、やはり行きますよね。別に「移動した方がいい」というキャンペーンをするつもりはありませんが、結局はニーズはなくならないのだと思います。

    まずはサービスの実現から。今後の課題は人材育成

     岩花氏:ビジネスの視点から、空飛ぶクルマの市場をどう考えていますか。

     福澤氏:市場予測は難しいです。10の機関があれば10通りの全く違う予想をします。私たちが間違いなく言えるのは、ルールが整備され、社会受容性が高まり、本来使うべき人が使う流れができれば利用者数は増えるだろうし、バッテリーの品質が向上すれば航続距離は伸びるということです。計画を立てるときには、これらをもとにしています。

     岩花氏:グローバル市場と日本市場では、社会課題や消費者意識、地理的な環境などによって、想定されるユースケースも異なりますね。グローバルでは利益を上げられる領域が、必ずしも日本でもうまくいくとは限りません。日本独自の課題やニーズを見極めて日本の市場として形成できることが重要でしょう。先ほどMaaSの話もありましたが、ビジネスの選択肢としては、機体の販売もあれば、その先の離着陸場所であるポートの運営や、運航管理システムの構築、さらに、スマートシティ、エネルギーマネジメントなど、派生する事業がさまざまあると思います。事業領域としては、SkyDriveはどこまでを視野に入れているのでしょうか。また、ここまでは自社で手がける、ここからは他社と連携して取り組むといった構想があればお聞かせください。

     福澤氏:まずはサービスだと思っています。「空を、走ろう。」という当社のキャッチコピーが示すような世界を実現することが第一です。機体開発を中心として、お客さまに快適にお使いいただけるサービスの提供までを担います。また、エネルギーマネジメントも必要になってきます。現在はバッテリーが機体価格の1/3ほどを占めており、重さも1/3程度、あるいはそれを上回る可能性もあり、事実上バッテリーを飛ばす会社、などと言われてしまいそうなので。戦略として取り組むというよりは、必然的に手がけざるを得ない、ということになります。

     岩花氏:機体を操縦するパイロット、航空管制を行うオペレーター、運航管理業務に従事する専門家など、モビリティの運航に必要な人材の育成はどうされるのでしょうか。

     福澤氏:操縦もオペレーションも運航管理も、機体によってやり方がだいぶ変わってくると思います。官民協議会の議論の中で統一ルールにすべきだという発案はありましたが、実際は機体ごとにだいぶ違います。そのため、どんな機体でどんな運航をするのかというパターンができてから、必要な人材を考えていくのが良いと思っています。

     岩花氏:宮川さん、航空機の世界では、人材育成はどうなっているのでしょうか。

     宮川氏:パイロットでいえば、航空機では操縦士免許に加えて機種ごとの免許があります。機種ごとでもさらに型式に対応するための試験を受けないといけない場合もあります。操縦は機体ごとにまったく別物ですし、繊細な課題だと思います。

     岩花氏:慎重な対応が必要になりそうですね。

    世界で勝てるポイント

     宮川氏:SkyDriveが世界で勝負をしてどこで勝つかと考えると、勝てる面はいろいろとありますが、私はその一つが操縦だと思っています。航空機ではコントロールホイールやサイドスティックが使われますが、空飛ぶクルマの世界では人間の感性にぴったり合った操縦が可能になるでしょう。機体ごとに特性が違うのですが、今のフライトコントロールのソフトウェアの技術をもってすれば、そうした違いは克服できます。操縦が簡単になれば、パイロット免許も取得のハードルが低くなって、操縦できる人が増える。事故も少なくなるはずです。そうした優れた操縦方法を開発することが強みになると思いますし、それをSkyDriveが自社で担うのか、タイアップをして協業するのかについてもいくつかの選択肢がありそうです。

     福澤氏:なるほど、ありがとうございます。

     岩花氏:本日は、さまざまな角度からSkyDriveの事業についてお伺いし、今後が楽しみになってきました。PwCコンサルティングでは空飛ぶクルマの普及に向けて、物理的な安全の確保や社会受容性の向上に向けた取り組みを進めていますが、それだけでなく、大きなリスクとして懸念されるハッキングなどサイバーセキュリティへの対策や、空飛ぶクルマの運用・サービスで発生する多種多様なデータの分析など、従来の航空機やドローンの事業推進よりも高度なアプローチでチャレンジを行っているところです。最後に福澤さんからメッセージをお願いします。

     福澤氏:これからデモフライトの実施や情報発信に注力していきますので、ぜひ注目していただければと思います。見て、知って、関心を寄せてもらえば、それが社会受容性を高めることにつながります。できるだけ多くの方に空飛ぶクルマのメリットや楽しさを享受してもらえるよう取り組んでいきます。

     岩花氏:本日はありがとうございました。

     

     

    <3人談義の参加者>
     
    ■福澤 知浩氏
    株式会社SkyDrive 代表取締役
    東京大学工学部卒業。トヨタ自動車株式会社にて自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンをし、原価改善賞受賞。2014年に有志団体CARTIVTORに参画し、共同代表に。2017年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社を設立。20社以上の経営改善実施。2018年に株式会社SkyDriveを創業、代表に就任し現職。
     
    ■宮川 淳一氏
    PwCコンサルティング合同会社 顧問
    40年以上にわたり、主に航空機開発に従事。B7J7(後のB777)主翼空力設計、JRリニア先頭車両形状設計、防衛省先進技術実証機基礎設計等の先端技術開発・製品開発や、民間航空機開発では50年ぶりとなるMRJ(SpaceJet)の事業化、基本設計、海外セールス取りまとめなどで責任者を歴任。三菱重工業執行役員フェローを経て現職。
     
    ■岩花 修平氏
    PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
    大手監査法人系コンサルティング会社、外資系統計解析ソフトウェアベンダーを経て現職。前職では、主に電力を中心としたエネルギー、自動車を中心とした製造業の企業に対する統計解析技術、アナリティクスを活用したソリューションの提供やIoTアナリティクスチームの立ち上げなどに携わる。現在は、デジタルテクノロジーを活用した新規事業の推進や企業の業務改善を支援しており、主にドローンや「空飛ぶクルマ」など無人航空機に関連するビジネスやMaaS(Mobility as a Service)などモビリティ関連ビジネス、IoTや人工知能(AI)、データサイエンスなどの領域を中心に従事。
    (※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。9
    
    SkyDriveの福澤知浩代表
    PwCコンサルティングの宮川淳一顧問
    PwCコンサルティングの岩花修平ディレクター
    <PWCコンサルティングのサイト>
    空飛ぶクルマの未来展望(後編)
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/flying-car02.html
    エマージングテクノロジー コラム・対談
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights.html
     エマージングテクノロジー
    https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/disruptive-technology.html
    ドローンテクノロジー/ソリューション
    https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/disruptive-technology/drone-powered-solutions.html
    モビリティ(MaaS・自動運転)
    https://www.pwc.com/jp/ja/industries/mobility.html
    トピック解説/コラム/対談
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column.html
    ナレッジ
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge.html
    PwC Japanトップ
    https://www.pwc.com/jp/ja.html

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2020.10.19

    【空飛ぶクルマ3人談義(前編)】SkyDrive・福澤知浩代表 & PwC・宮川淳一氏、岩花修平氏があれもこれも意見交換

    account_circle村山 繁
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     「空飛ぶクルマ」をとりまく環境が賑わいを増し、議論が活発化しています。空の移動革命に向けた官民協議会が議論を深め、企業による公開実験も進む中、開発動向や、活用の可能性、そして将来を見据えたアクションについて専門家による対談を企画しました。臨んだのは、空飛ぶクルマの開発を手掛ける株式会社SkyDriveの福澤知浩代表、小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発に携わった航空機開発に詳しいPwCコンサルティング合同会社の宮川淳一顧問(Aerospace&Defense担当)、ドローンや空飛ぶクルマ関連の業務・技術支援に携わるPwCコンサルティング合同会社の岩花修平ディレクター。3人の対談を詳しくお伝えして参ります。

    きっかけはモビリティでのイノベーションの乏しさ

     岩花氏:空飛ぶクルマをめぐる動きがこのところ活発になってきています。今回は、開発の原点や活用法、市場の可能性などについて、大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)への展望から、そこで想定されるユースケース、その後に普及した際、どのような市場や世界が広がっているのかといった将来の展望まで、多角的に理解を深めたいと思います。まず空飛ぶクルマの開発を手掛けている株式会社SkyDrive代表の福澤知浩さんに、原点である開発の動機やきっかけについて伺います。

     福澤氏:私はもともとモビリティについて、イノベーションが少ない分野だと思っていました。この何年間かを見ても、IT、またはIoTと呼ばれる分野や、スマートフォンなどの領域ではイノベーションが進んでいますが、モビリティはそれほどでもない。それを残念だと感じていました。ここにイノベーションをもたらしたらどうなるか、というのが発想の原点です。何か画期的なモビリティを作りたいと思い、最初はボランティアで開発をスタートしました。大企業であれば、細分化されたタスクからスタートして、大規模に展開するまでに時間がかかってしまいがちです。画期的なモビリティとはいっても、できるだけ時間をかけずに実現するにはどんなものにすればいいか、といったところから考え始め、そこで空飛ぶクルマが良いのではないかという結果になりました。

     岩花氏:画期的なモビリティ、の発想から、空飛ぶクルマが出てきたのですね。その後、海外からも同様の話題が持ち上がりました。

     福澤氏:そうなんです。そのころにちょうど、空飛ぶクルマを利用する可能性や現実味が世界で広がり始め、盛り上がってきていました。中でもインパクトが大きかったのは、2016年に米国の主要プレーヤーが公表したホワイトペーパーでした。その内容からは、空飛ぶタクシーの稼働率を上げていくと採算が取れるようになり、道路を走るタクシーよりもむしろ安くなる、という展望が読み取れました。スマートフォンなどの普及によるスケールメリットでセンサーやチップ(半導体集積回路)の値段が下がってきていましたし、ドローンが普及して安価に飛べる形が出てきたという時代背景もあります。そうなると、「これはもう事業化するしかない」と考えるようになりました。事業化をするとモビリティだけではなく、人々の生活スタイルも変わっていきます。移動に地上のインフラを使い、遠回りをして渋滞に巻き込まれたり、満員電車を我慢したりする生活は、もう必要ではないのではないか。そう思い始めました。

     岩花氏:米国の企業は既存のライドシェア事業を活用した陸と空の移動の連携も構想しているようです。SkyDriveにはそういったユースケースのイメージはありますか。また、連携できそうな事業者と相談することはあるのでしょうか。

     福澤氏:あります。ただ、当初は“妄想段階”だったので「いつかこんなことにも使えると思う」というレベルでした。リアルなPL(損益計算書)を作るよりも、「確かにコストパフォーマンスは良さそうだよね」という程度の感覚でさまざまな事業者に相談していました。ボランティア時代にいろいろな企業とタイアップをすることもありましたので、そうした相談をする機会も多かったと思います。

     岩花氏:そこからどうやって具体化させていったのですか。

     福澤氏:ボランティア時代に1/5スケールを最初に作った時には、DIY・ものづくり系の展示会などに出展していました。専門業者だけでなく、個人も出展できるのですが、さまざまな人が見に来てくれて、とても有意義なフィードバックをいただきました。専門家は「事業化なんて絶対できない」で終わってしまうのですが、個人の方々は「できるかどうかはわからないけれど、おもしろいね」と言ってくれました。投資家の方は「このレベルにしないと事業化は難しいよ」というアドバイスを下さったり、大学教授の方は専門的な見地から感想を述べたりと、いろいろな意見をいただきました。

     岩花氏:幅広くお話を聞かれたのですね。

     福澤氏:はい。また、当時は自動車会社に勤めていたので、そこでハイブリッド車など画期的なクルマを生み出した主要メンバーから、どうやってそれらを生み出したのかを聞くことができました。そういった話の中に、こう進めると新しいモビリティができるのか、と腹落ちしたことはあったと思います。

    2023年に実用化し、2025年の大阪・関西万博を迎える

     岩花氏:次に今後の方向性について伺います。大きな節目として2025年の大阪・関西万博に向けた取り組みを教えてください。

     福澤氏:万博の前の2023年にサービスの提供を開始したいと考えています。いきなり都会の空を飛ぶのは難しいので、ステップを踏むつもりです。その最初のステップは大阪地域を中心としたサービス展開で、飛ぶ場所は海や川の上に限定します。機体はどこか1カ所故障してもすぐに墜落するものではありません。クリティカルな事象が発生したらすぐに緊急着陸をするという前提で、その場合でも、第三者や生活をしている人たちがいる場所に降りることはなく、海や川の上に着地します。2023年にサービスインし、2年後の2025年には実用化できている状態で、国内外から大阪・関西万博を訪れた方々に利用してもらえるという姿を目指しています。

     岩花氏:導入のスケジュールが示されると、一気に現実味も楽しみも高まります。大阪・関西万博では、どのようなユーザーが、どういった目的で使うことを想定していますか?

     福澤氏:会場のある大阪の湾岸部には大規模施設が集積しているので、各施設を行き来する需要を取り込むことを想定しています。この地域は道路網の利便性に欠ける面があり、2拠点間の移動に時間がかかることがあります。万博に向けて最寄り駅の開設を含めた鉄道整備の話はありますが、空を使えば既存の交通より早く移動できると思っています。車で15分、20分かかるところを、5分程度に短縮できるでしょう。

     岩花氏:移動の利便性を享受できそうです。

     福澤氏:こうした利便性の向上に加えて、空を飛んで楽しい時間を過ごすといった、移動手段以外の価値も提供できます。空には遊覧の楽しみ方もあります。この地域は景色が良く、すでにヘリコプターなどによる遊覧飛行のサービスが行われています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を除けば、年間に数百万人の来訪者がありますし、その半分がインバウンドです。ここで空飛ぶクルマを使った遊覧飛行サービスを提供すれば、いろいろな方に楽しんでいただけると見込んでいます。料金も最初は数万円ほどと想定しているので、まずはエンタテイメントの一環として使う方々が多いと思います。将来的には、関西国際空港に到着したら空飛ぶクルマに乗り継ぎ、目的地まで行くといった使い方をしていただき、交通機関として機能させることを目指しています。

     岩花氏:2025年の大阪・関西万博後の普及期でのユースケースのイメージはどのようにお考えでしょうか。

     福澤氏:空飛ぶクルマは、MaaS(Mobility as a Service)の領域に入ると想定しています。パーソナルモビリティで、かつネットワークにつながっているとなると、定期的な航路で大人数を輸送するよりも、タイムリーな輸送で活躍することが多いでしょう。また、都会と地方のMaaSの使い方には違いがあると思っています。都会では渋滞を回避して、タイムリーに行きたい時に移動を可能にするという需要があります。一方、地方では道路の老朽化が進んでいて、インフラのメンテナンス費用の負担も大きい、といった課題への対策となり得ます。現在インフラに投じている費用を一部転換する方法でもいいかもしれません。MaaSのニーズが高い都会ではビジネスとして、地方ではインフラの一環としてという2パターンがあると感じています。

     岩花氏:サービスの形態としては、オンデマンドでその都度料金を支払う場合もあれば、プライベートジェットのように自家用機として購入する場合もあると思います。空飛ぶクルマを駐車できる住宅を考えている住宅メーカーもあると聞いています。いずれは「一家に一台、空飛ぶクルマ」といった世界が来るのでしょうか。

     福澤氏:多くの人が何を求めるのかはなかなか読みづらいものですし、どんどん変わっていきます。COVID-19の影響も受けるかもしれません。私たちはオンデマンドも自家用機もどちらもあり得ると思っていますが、最初のサービスは機体販売よりも、都度払いの定期航路にするつもりです。その方が安全の確保もしやすいのです。その後は所有していただくパターンもありますし、あくまでもサービスのみというパターンもあります。現時点では両方想定していて、ニーズに合わせて臨機応変に対応できます。個人的には販売はハードルが高いのではないかとは思っています。リースやレンタルという選択肢もありますね。最終的には、スマートフォンで呼び出せば機体が充電基地から飛んで来て、それに乗って移動するという形を思い描いています。

     岩花氏:富裕層向けの高額サービス、あるいは大衆向けのサービス、どちらかに特化するといった考えはありますか。

     福澤氏:最終的には大衆車向けサービスを目指していて、幅広く日常的に使っていただけるようにしたいです。乗用車の価格もかつては月給20数カ月分だったところから徐々に下がった経緯がありますし、初期段階では必然的に高所得者層が利用することが多くなるでしょう。モノの購入ではなくサービスの利用であることを想定していますので、例えば万博に出かけた際のように特別なハレの日であれば、1回2万円といった多少高額の料金でも利用されることがあると思います。富裕層以外の方にも「私たちには関係ない」というものにはせず、多くの方が利用できるもの、もしくは、5年後には乗れるかもしれないと思っていただけるものにしたいです。

     宮川氏:機体の開発者の立場から話をすると、欧米ではまず富裕層に購入してもらい、機体をカスタマイズするなどの段階を経て、その後コモディティ化させて市場を伸ばしていくという方法をとりがちですね。

     福澤氏:そうですね。高級な自動車メーカーがタイアップしているのはまさにそのような富裕層の購入を狙ったケースですね。また、オーストラリアのある会社はレースに特化していて、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing:電動垂直離着陸機)レース用の機体を作って、レースを開催しています。私たちは、まずは安全に飛ぶ技術をきちんと確立するのが第一で、富裕層に購入をアピールするのはそれからかなと考えています。

    用途や地域を段階的に拡大。移動手段としてのポテンシャルは高い

     宮川氏:今後の市場発展のステップの話はとても興味深いですね。現在の取り組みでは、万が一機体が落下しても地上被害が起きないように水上での飛行のみとする、その後の展望としてエンタテイメントや観光としての運航を考えている、という点で、市場の照準の定め方としては非常に地に足がついていると思います。一方でそこから、最終的に都心の上空をくるくると飛ぶ将来構想フェーズまで、あるいはその先のコモディティ化までの話との距離が大きいとも感じます。その中間段階をより具体的に示せるとおもしろいのではないでしょうか。例えば、過疎地や離島での活用などです。過疎地や離島は人口も経済力も大きくはないので、それほどスケールメリットは出ませんが、だからこそ、そこでの活用によってこの先のステップを描いて、みんなが手の届く世界であると納得してもらえれば、爆発的に市場が拡大するのではないでしょうか。私はこの中間段階の絵を描くことがとても重要だと思っています。

     福澤氏:そうですね。ドローンはそれに近いですよね。最初はホビーとして使われていましたが、その後、点検や監視などの用途で産業に広がりが出て来ましたね。空飛ぶクルマの場合は、物流がこの中間段階にあたると思います。都心部の第三者上空での物流が次に目指すところです。それが実現できれば、視界が広がってきます。

     宮川氏:物流が中間段階の役割を果たすのですね。

     福澤氏:また、エアモビリティとしてどう発展させていくかという話もあります。大阪で取り組みを始めることのメリットは、エアモビリティでA地点からB地点にモノを運ぶのが比較的容易な地形であることと、移動に困っている地域であるためニーズがあることです。東京にもそういうところがありますよね。お台場を含めた港湾部は移動が難しかったり、公共交通機関の料金が割高だったりします。単なるホビーではなく、役にも立つ。そういった角度から開拓していくべきですし、移動を担うサービスとして使われるポテンシャルは高いと感じます。

     宮川氏:その場合、どんな段階が考えられますか。

     福澤氏:まずはクリティカルではない移動で使われ始めて、徐々に通勤手段に代わり、新幹線に代わりといったように、レベルを上げていくことになるでしょう。最初は比較的人が少ないところや、海上、川上を飛ぶ。そこから少人数がいる場所を飛ぶようになって、最後に人が混雑している場所を飛ぶ、という3段階だと思っています。レベル1、レベル2、レベル3、と非連続に切り替わるよりも、連続的に変わっていくイメージです。

     宮川氏:なるほど。面白いですね。(後編につづく)

    <後編では空飛ぶクルマの普及に向けた課題や、新型コロナウイルス感染症の影響、取り巻く市場をどう考えるか、といったテーマで意見を深めます>

     

    (左から)福澤 知浩氏宮川 淳一氏、岩花 修平
    <3人談義参加者>
     ■福澤 知浩氏(写真左)
    株式会社SkyDrive 代表取締役
    東京大学工学部卒業。トヨタ自動車株式会社にて自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンをし、原価改善賞受賞。2014年に有志団体CARTIVTORに参画し、共同代表に。2017年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社を設立。20社以上の経営改善実施。2018年に株式会社SkyDriveを創業、代表に就任し現職。
     ■宮川 淳一氏(写真右)
    PwCコンサルティング合同会社 顧問
    40年以上にわたり、主に航空機開発に従事。B7J7(後のB777)主翼空力設計、JRリニア先頭車両形状設計、防衛省先進技術実証機基礎設計等の先端技術開発・製品開発や、民間航空機開発では50年ぶりとなるMRJ(SpaceJet)の事業化、基本設計、海外セールス取りまとめなどで責任者を歴任。三菱重工業執行役員フェローを経て現職。
     ■岩花 修平氏(写真中央)
    PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
    大手監査法人系コンサルティング会社、外資系統計解析ソフトウェアベンダーを経て現職。前職では、主に電力を中心としたエネルギー、自動車を中心とした製造業の企業に対する統計解析技術、アナリティクスを活用したソリューションの提供やIoTアナリティクスチームの立ち上げなどに携わる。現在は、デジタルテクノロジーを活用した新規事業の推進や企業の業務改善を支援しており、主にドローンや「空飛ぶクルマ」など無人航空機に関連するビジネスやMaaS(Mobility as a Service)などモビリティ関連ビジネス、IoTや人工知能(AI)、データサイエンスなどの領域を中心に従事。
    <PWCコンサルティングのサイト>
    空飛ぶクルマの未来展望(前編) ~未来のモビリティが創る新しい社会基盤~
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/flying-car01.html
    エマージングテクノロジー コラム・対談
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights.html
     エマージングテクノロジー
    https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/disruptive-technology.html
    ドローンテクノロジー/ソリューション
    https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/disruptive-technology/drone-powered-solutions.html
    モビリティ(MaaS・自動運転)
    https://www.pwc.com/jp/ja/industries/mobility.html
    トピック解説/コラム/対談
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    ナレッジ
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    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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