田村市 の記事一覧:6件
  • 2022.9.14

    【慶應×田村市】コンソーシアムたむら、講演会を開催 慶應・古谷氏「バックキャスト思考で社会実装を」

    account_circle村山 繁
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     地元主導でドローンの利活用を進めている多業種活動体、ドローンコンソーシアムたむら(福島県田村市)は9月14日、田村市役所で講演会と総会を開いた。慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムの古谷知之代表と、橋本綾子研究所員が講演した。下田亮研究所員も、質疑応答のさいに回答に応じた。古谷代表は講演の中で、「ヒトができないことをロボットで代替する発想だけでは限界がある」と、バックキャスト思考への発想の転換を促した。総会では役員案や事業案、予算案などを全員一致で承認した。

    古谷代表 ヒトのできないことの代替だけでは社会実装に限界

    参加者にプラットフォーマーになることを呼び掛ける慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの古谷知之代表

     慶應の古谷氏は、「自律移動ロボットの社会実装に向けて」をテーマに講演した。飛行するUAVのほか、水上、水中、陸上など活動場所を問わず自律的に移動する機体をドローンと表現する考え方が広がる中、古谷代表はそれらをまとめて「自律移動ロボット」と表現し、自律移動ロボットの社会実装に向けた取り組みの重要性を説いた。

     講演ではUAVや水中ドローンの活用が産業、防災など多方面に広がっていることを、海外の取組やコンソーシアムの実例などをあげて説明。水中ドローンについては環境対策への活用も進んでいることを紹介し「空に限らず、陸、海とも活用はさらに広がっていきます」と展望した。

     また、社会実装を進めるうえでは「人にできないことをロボットやドローンに代替させる、という範囲での発想、考え方だけでは可能性が限定的になるおそれがある」と指摘。「ドローンやロボットをどのように使うのか、妄想を働かせて、未来起点で逆算するバックキャスト思考で活用を進めることが重要だと提案しています」と発想の転換を提唱した。

     さらに、ロボットやドローンを意識的に活用を拡大することについても重要性を指摘。「海外がロボット前提社会になる中、日本がそうなっていなければ、産業競争力で日本は海外に負けてしまいかねません」と述べた。

     そのうえで「それを打開するためにも、みなさん自身がぜひ、プラットフォーマーになっていただければ」と積極的な活動を呼び掛けた。

    橋本研究所員 挑戦する高度人材を育成

    オンラインで講演した橋本綾子研究所員は田村市内にある県立船引高校での活動をベースに実例を報告した

     リモートで講演した橋本綾子研究所員は、田村市内にある福島県立船引高校で取り組んでいる活動を「ドローンを活用した高度人材育成について~船引高校の事例紹介」という演題で講演した。

     この中で橋本研究所員は、「人材育成というと、操縦技能に特化したカリキュラムになりがちですが、自分たちで課題を特定してその解決を模索したり、市販のドローンでは不可能なときにそのドローンにひと手間加えて、不可能だと思っていたことを可能にするドローンを自分で制作してみたりと、自分たちで考えることを重視しています」と紹介した。

     活動では1年次、2年次、3年次と体系化したカリキュラムを作り、それに沿って取り組んでいることや、地域課題の解決にも取り組んでいることを紹介。鳥獣害対策をテーマに活動で、地元の猟友会の経験談を間近で聞く機会を作ったことも報告すると、参加者が大きく場面もあった。

     ほかにも、田村市役所の屋上にRTK基地局を設置したり、それを活用して固定翼を飛行させたり、あるいは、物件投下に挑戦したりと、幅広く活動してきたことも伝えた。

     今後は、12月に運用がはじまる国家資格としての操縦ライセンスを想定したより高度な知識の修得を目指すほか、最近急増している行方不明者問題の対応としてドローンを活用した捜索活動にも取り組む。橋本研究所員は「高校生には楽しんで答えを見つける過程を大切にしてほしいと思っています。ドローンを活用した業務につきたい人材の母数を増やしたいと考えていますが、そのためには、ドローン関連の会社に就職するだけでなく、そうではない業種の企業に就職したうえで、そこで新たな手法としてドローンを取り入れるような挑戦ができる高度人材を育成したい」と抱負を述べた。

     講演後の質疑応答では、イノシシなどの鳥獣害対策へのドローン活用の展望について質問があがった。オンラインで参加した下田亮研究所員が、「イノシシについてドローンの取組は各地で行われてる一方で、イノシシが苦手とする周波数などはつきとめられておらず、まだ決め手がない。現在、取り組みが増えているので、やがて弱点がつきとめられれば、ロボットやドローンを使った有効な手立てが作れると考えています」などと回答した。

    会場からの質問には下田亮研究所員も回答に立った
    講演中の古谷氏
    講演中の古谷氏
    会場となった田村市役所内ホール前のはりだし

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2021.12.14

    【慶大×田村市】船引高校生、今度は獣害対策に挑戦 視察した市長「大変心強い」

    account_circle村山 繁
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     福島県田村市の福島県立船引高等学校(猪狩良一校長)ドローン科学探求部が、地域の農作物に深刻な影響を与えているクマ、イノシシなど鳥獣による農作物被害などについて、ドローンを活用した対策を講じる取り組みを進めている。12月11日には、地元の猟友会(福島県猟友会田村支部、同小野支部)を中心に構成する田村市鳥獣被害対策実施隊が部員に取り組みについて説明した。部員も鳥獣被害対策ドローンについての構成を発表した。船引高校ドローン科学探求部は今後、田村市と包括連携協定を結んでいる慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)の支援、助言を受けて、鳥獣害対策に適したドローンの開発も視野に活動を進める。この日の取り組みは田村市の白石高司市長も視察し、「高校生が地域の課題に正面から向き合い大変心強いです」と目を細めていた。

    生徒から独自ドローン案も 今後「対策ドローン」の開発も視野

    船引高校ドローン科学探求部員を巧みな話術で引き込む下田亮研究所員

     船引高校ドローン科学探求部が鳥獣害対策に取り組むのは、ドローンを地域の課題に役立てることができる期待が高まっているためだ。田村市では今年5月、市内でツキノワグマが捕獲されるなど鳥獣被害不安が深刻化している。また対策にあたる鳥獣被害対策実施隊の高齢化が進み、捕獲の効率化を必要だ。一方、船引高校では2016年12月以降、田村市と包括連携協定を結んだ慶應義塾大学の教員、研究所員が定期的にドローンの担い手育成に力を入れており、すでに防災、観光振興などドローンを活用した取り組みに実績がある。

     このため田村市は、船引高校ドローン科学探求部、慶応SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム、鳥獣被害対策実施隊と連携し、ドローンを活用した鳥獣被害対策に中長期的に取り組む方針を決め、12月に公表した。

     12月11日の活動では、慶応による特別講座を開催。講座の中で田村市鳥獣被害対策実施隊が、獣害駆除の方法を駆除に使う猟銃の実弾を見せながら説明した。説明の中では、駆除活動がいくつもの法令に従って行われていること、狩猟捕獲と有害鳥獣捕獲との違い、地域での捕獲実績のほか、実施隊の高齢化の実態などについて説明を受けた。

     この中で「どこにいるか分からないクマの所在が分かる、どこに向かって移動しているかが分かることは駆除にとって大切」などの話があると、聞き入っていたドローン科学探求部員がメモを取るなどしていた。

     ドローン科学探求部員は説明を受けたあと、ドローンを活用する場合の、「最善の方法」について班ごとに考えを発表。えさでおびき寄せて捕獲したり動物園に引き渡したりする案や、害獣の苦手な音や光を発して近寄らせないようにする案などと、そのために考えられるドローンの案を示した。

     中には、クマのエサとなるサカナをつりさげ、クマを誘導する水空両用ドローンを提案するユニークなアイデアもあった。提案した部員は「クマの走る速度より速く移動できる性能を持たせたい」などと説明し、見学していた市の担当者らものぞき込んでいた。

     発表を受けて、この日の講座の指導を担当した慶應の下田亮研究所員が「みなさんが考えたアイデアを具体的に形にするため、ドローンを開発していきましょう」と述べ、今後、中長期的にドローンの開発も含めた対策に取り組む方針を示した。

     この日の特別講座では、ドローンでカプセルを運ぶデモンストレーションも実施。3月の法改正で認められることになった、地上から1メートル以内の高さから積み荷であるカプセルを切り離す様子を示した。下田研究所員は「この方法は、ルールがかわるまではできませんでした。ルールはかわります。いまできないことでも、必要なことであればルールを変えることができます。ドローンがなかった時代のルールを、ドローンがある時代のルールに変えられる可能性も含めて考えていきましょう」と呼びかけた。

     この日の取り組みを見ていた田村市の白石高司市長は「大変心強い」と述べ、「ドローンには大きな期待を寄せています。空を使うことで解決できる課題や、叶えられる望みは多いと思うので、田村で進められることは進めていきたいと考えています」と話していた。

    地上1メートル以内の高さから切り離せばドローンを着陸させる必要がない
    ドローンに取り付けたカプセルを手にする慶應の下田亮研究所員
    ドローンに取り付けられたカプセル
    実施隊が見せた駆除につかう弾にドローン科学探求部員たちは真剣なまなざし
    参加したいる部員たちと積極的に交流
    活動の様子を見守る白石高司市長(後列机右端)
    生徒が発表した独自ドローン案のひとつ。水空両用。発表した生徒によると「時速70キロ」とあるのは「時速60キロで走るクマを終える性能を持つため」だという。
    カプセル切り離しのデモンストレーションについて説明
    班ごとに対策ドローンを発表
    校庭で切り離しデモンストレーション
    ドローンのデモンストレーションを見守る部員、見学者、慶応研究員ら
    12月11日の活動では鳥獣被害対策実施隊から、実際の取り組みの様子が説明された
    「これで捕獲します」と活動に使う弾を見せる実施隊

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2020.12.10

    【慶大×田村市】慶大・南氏が「『復興知』成果報告会」で「たむらモデル」紹介 「福島発のDX化手法として全国展開目指す」

    account_circle村山 繁
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     ドローン研究に力を入れている慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は12月5日、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構(福島県福島市)が開催した「『復興知』成果報告会」に登壇し、国の「復興知」事業に採択される前から福島県田村市で力を入れている一連のドローン事業の体系である「たむらモデル」を紹介した。南氏は「たむらモデル」を他の地域にも展開うる取組を進めており、報告会では「たむらモデルを福島県発の産業および地域社会のDX化手法として全国で展開したい」と述べた。

    「人材育成が地域に必要な理由は、産業を根付かせるため」

     復興知は、福島・浜通り地域の復興支援に、知見や技術を動員する大学を支援する国の事業で、2018年度に20件、2019年度に28件、2020年度に23件が採択されている。事業が最終年度を迎え、これまでの取組の成果の報告会が企画された。報告会は、東日本大震災や原子力災害を伝承するため2020年9月に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町)で行われた。慶應義塾大学のほか、東京農業大学、郡山女子大学、福島大学、東京大学、東北大学(発表順)が報告を行った。

     慶大・南氏の報告の演題は「ドローン人材育成から始まる地域産業の活性化。たむらモデルの高度化・普及事業」。田村市で構築してきた人材育成から産業化への循環について報告した。田村市産業部商工課の宗像隆企業立地係長も登壇し、南氏の報告の中で田村市の現状について紹介した。

     報告の冒頭、南氏は、2016年12月に田村市と連携協定を結んだことや、それ以前の震災の東日本大震災の発災後に放射線の空間線量を測定するために福島県に関わってきた経緯などを説明。田村市で展開しているたむらモデルの特徴について、「第一に、長期的な視点にたって計画してきたこと、第二に、市役所が積極的にかかわったことがあげられます」と、長期視野で地元主導の取組であることを強調した。

     田村市での取組について、南氏は「始まりは田村市も私どもも手弁当でした。つまり何の補助金もない状況でのスタートでした。 最初は私たちも田村のことを知りませんでしたし、田村の人たちもドローンを知らなかったと思います」と振り返った。

     さらに「まず何をしたかと言うと人材育成です。人材育成がなぜ必要か。それは、産業を担う人を育成しないと産業が根付かないからです。また田村市としてドローンを業務に積極的に使っていただくことをお約束いただきました」と続けた。

    田村市の宗像氏「ドローンはゼロからのスタート。今はなくてはならない身近なもの」

     ここで南氏は、田村市産業部商工課の宗像隆企業立地係長に登壇を促した。宗像係長は「連携協定を締結して今月で4年になりますが、4年前はドローンも今ほど身近ではなく、テレビで見たことがあるという程度の認識でした」と協定は市にとってもドローンについてゼロからのスタートだったと話した。

     宗像係長は「連携協定を機にドローンの利活用を庁舎内で行いました。職員対象のドローンの体験会、職員による操縦士の講習などをしながら防災訓練でもドローンを活用しました。いまでは建設工事等での空撮や現場確認など、ドローンは無くてはならない身近なものになりました。市内の農家さんの協力を得て、ドローンを活用して農作物の生育状況を確認する実証事業も行って頂き、その連絡調整も市で行なっております。ドローンの普及と利活用のため企業、個人、行政がかかわるドローンコンソーシアムたむらという組織を平成30年3月24に設立しました。田村市は 阿武隈高地の中腹に位置する中山間地域です。大部分が緑豊かな自然が占めており、ドローンが活躍できる可能性が高いと考えております。地域の人々の生活の質の向上にドローンが寄与してくれるものと期待しております。市としても市民へのドローンの普及、利活用の推進に努めて参りたいと思います」と伝えた。

     再び登壇した南氏は、ドローンコンソーシアムたむらの設立や、地元高校生による農薬散布機のライセンス取得などを通じた「みんなが支える農業」プロジェクトの推進などの取り組みを紹介。ドローンコンソーシアムたむらについては、会員向けの機会提供、情報提供が中心で、研究会では法制度、海外事例、地域の課題発見、解決などが行われていることを説明した。操縦技能についても、地域に必要な技能を受け継ぐ取り組みを目指すことなどが紹介された。

     報告の中では、ドローンコンソーシアムたむらの佐原禅事務局長のコメントが動画で紹介された。佐原事務局長は「企業、個人含め50会員が加盟しています。目指すところはドローンの普及活動。若い方にドローンに触れて頂きたい。田村市は飛ばせる環境が整っておりますので、広大な敷地を利用して頂きたいと思っております。会員同士の情報共有、ビジネスチャンスにもつながればいいなと思っております」と、会員を募集していることも含めてPRした。

    「ドローンコンソーシアムたむらは地域のインフラ。たむらモデルを全国に」

     田村市での取組が復興地事業となったのは、2018年から。南氏は「手弁当で進めていたことが、その後ご支援を頂いて進めることができるようになりました。学生を20人ほどつれて田村市に入り、市内の魅力を映像として記録する活動をしたり、それを多言語に変換したりしました。また米国の機関の評価手法NISTを高校の部活動の中に取り入れました」などと紹介し「復興知として進めている取り組みの3つの柱は、ドローンを活用した人材育成事業、ドローンを活用した産業振興事業、ドローンによる地域課題の発見・解決事業」と整理した。

     南氏は「慶應義塾大学は、知見や教育的リソース、技能を惜しみなく田村市に提供しており、ドローンコンソーシアムたむらは、共通基盤として様々な産業のインフラ」と役割を意義づけた。また、3本柱それぞれについて、34回の人材育成プログラムの提供(人材育成)、指導者向けノウハウの教材化(人材育成)、ホップ栽培におけるNDVI指標の撮影方法や、指標と生育の相関関係分析(産業振興)、ドローン担い手と農家による協業プログラム「みんなで支える農業のプログラムを導入」(産業振興)、ドローンをきっかけとする観光需要喚起プログラム「ドローンツーリズム」の試行(産業振興)、大学生によるフィールドワークと観光PR動画作成(課題発見・解決)、農林業者向け危険予測マップ作成(課題発見・解決)などの成果も報告した。今後、南相馬市との連携協定締結に向けた準備の中でも、これらの取り組みを進める方針だという。

     また、今後の展望について、南氏は政府が2022年に実現を目指す「レベル4」と言われる目視外補助者なしの飛行形態に向けた田村市内の設備、制度の整備、地元人材による完全運用、スマート化技術・デジタル基盤による産業振興、地域担い手と役割分担微細化のマッチングによる課題解決を列挙。そして「一番言いたかったのはこれ」と伝えたのが、「福島県発の産業及び地域社会のDX 手法としてたむらモデルを全国で広く展開すること。今後もたむらモデルの発展と展開を目指します」と報告を結んだ。

    南氏「復興知を生かすため、リーダーシップ伴う“オーケストレーション”を」

     このあと南氏は、東京大学先端科学技術センターの飯田誠特任准教授、東北大学未来科学技術共同研究センターの鈴木高広教授と3人でトークセッションに登壇。福島県企画調整部企画調整課の高橋洋平課長がコーディネーターとして「他組織と連携するうえで重要なことと、浜通りの発展につなげるための展望」を問いかけたのに対し、登壇した3人が各自の見解を披露した。

     東大の飯田教授が「最初は僕らはよそ者だったんです。その意味では信頼関係とネットワークを作って意欲を持って取り組める環境作りが重要だったと思います。そしてそれを作るためには人、意欲、根気強さが重要かな、と思います。また、イノベーションコーストの各地に色がついてきましたが、この色を単色で終わらせるのではなくハーモニーにつなげるネットワークが必要ではないかと考えています」と発言。

     南氏は「確かにわれわれはよそ者なんです。東京から来るとたいがい『補助金が後ろから出てくるんじゃないか』という目で見られます。その時に『そうではない』と見せるために、最初はノーガードで地元の方とお話をすることが大事。その後、カウンターパートがどなたになるのかが明らかになり、その方がどういうことをしてくれるかなどが明らかになって、しっかりとした体制を作れるようになります。もう一つは、手離れをよくすることが大事だと思います。その地域にいつまでも我々がいないと、取り組みが続かない、とならないよう、技術移管や、指導者養成など次のリーダーを作ることが大事だと思います」と述べた。

     さらに、「これからの浜通りでの展開についてですが、先ほどのハーモニーというご意見とは少し違う観点で、オーケストレーションという言葉を使いたいと思っています。指揮者の立場の人が必要という意味です。、福島県はこうなるぞ、という強力なリーダーシップと、リーダーシップに基づいて作業をするファンクションを整える。他分野にまたがる共通言語を使える人間がドローンにはいます」と発言した。

     東北大学の鈴木教授は「個別の取り組みに橋渡しをしてつなぎ、より大きなものにすることが大事だと思っています。どうやってその場所を光らせるかを考えることが重要」と指摘した。

     参加者から、浜通りの未来につながるキーワードやビジョンは何か、と質問があがり、東大の飯田教授は「実現したい夢、実現する夢」、慶大・南氏は「リセット」、東北大鈴木教授は「逆転の発想」を挙げた。

    慶応義塾大学を含め、参加した各大学の報告は以下の通り(報告順)。
    東京農業大学
     連携市町村:相馬市
     事業名:浜通り地方の復興から地域創生への農林業支援プロジェクト
    郡山女子大学
     連携市町村:葛尾村
     事業名:葛尾村におけるエゴマ産業の拡大と地域活性化
    福島大学
     連携市町村:南相馬市、川内村、飯館村、大熊町
     事業名:福島発『復興知』の総合化による食と農の教育研究拠点の構築
    東京大学
     連携市町村:いわき市
     事業名:CENTER for Wind Energy(Phase-Ⅲ)
    慶應義塾大学
     連携市町村:田村市
     事業名:ドローン人材育成から始まる地域産業の活性化
          ~たむらモデルの高度化・普及事業~
    東北大学
     連携市町村:南相馬市、浪江町
     事業名:モビリティ・イノベーション社会実装・産業創生国際拠点の構築
    「復興地」成果報告会に登壇したむらモデルに関わる取り組みを説明する慶大・南氏
    トークセッションで見解を披露する南氏
    田村市との連携協定は2016年12月。復興地がスタートする2018年より前から取り組んでいた
    地域人材が担う「たむらモデル」
    トークセッションには3人が登壇
    報告会の会場風景。双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で行われた
    会場のほかオンラインでも参加した
    復興地事業の開始。右上は船引高校でNISTを取り入れた活動風景。右下は学生を引き連れて田村市でフィールドワークを挙行したさいのひとコマ。南氏が右下の場面を「リア充のように見えるかもしれませんが」と紹介すると会場が笑いに包まれた
    田村市の宗像氏(右)も登壇しドローンが市にとって不可欠になっていることを紹介した
    報告会会場を示す表示板。秋にできたばかりの真新しい伝承館で行われた
    郡山女子大学が葛尾村と連携して取り組んだエゴマメニューの開発も会場で話題になった

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2020.10.28

    【慶大×田村市】船引高校で米国流技能評価手法NISTにチャレンジ

    account_circle村山 繁
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     慶應義塾大学と包括連携協定を結んでいる福島県田村市の県立船引高校で10月24日、ドローン特別講座が開かれ、ドローン科学探求部のメンバーがアメリカ国立標準技術研究所(NIST)の技能評価手法にチャレンジしました。初挑戦のメンバーもゲーム感覚で楽しみながら、上手な生徒をはやしたてたり、自分の操縦の課題を発見したりしていました。この日も指導役の慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表が、チャレンジの内容や目的をていねいに伝え、生徒たちのいきいきとした表情を引き出していました。

    楽しみながら技能を修得させる“南流” ドローンでバケツのぞき込み「もうちょっと左」

     NISTの評価手法は、文字が書かれたバケツ型の被写体を取り付けたツリーを使うところが特徴です。バケツは内側の底に円が縁どられ、その中にアルファベットが描かれています。正面からのぞきこむと円と文字が読み取れますが、のぞき込む位置がずれたり、距離を取り誤ったりすると、文字が読み取れなかったり、縁取りの円の一部が欠けたりします。バケツの大きさや向き、高さ、角度は予め決められています。技能評価では、時間や飛行方法の条件が与えられ、ドローンを飛ばし、カメラでバケツ内の文字や円をとらえられるかどうかを判定することになります。

     船引高校には昨年秋、この評価のためのツリーが1セット導入されました。この評価はドローンの技能の評価として世界に広まりつつあります。船引高校は、これに沿った練習ができるきわめて珍しい高校といえます。ただ導入後には、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策の一環で活動休止が余儀なくされていました。今年秋以降、感染状況をにらみながら、活動を少しずつ再開したところで、この日は2020年度にはいって初めて、ツリーを使った練習となりました。

     4月に新入部員となった生徒にとっては、ツリーを使った練習は初めてでした。初めてであったり、久しぶりであったりしながら、好奇心も手伝って作業はするすると進み、生徒たちは体育館に機材を持ち込み、ツリーを組み立てるところまで約10分で準備を終わらせました。背の低い株ふたつと、高さ3メートルのツリーひとつを並べたコースができると、まずは小型のカメラ付きドローンで、3チームに分かれて、バケツの中の文字をとらえる練習で腕をならします。あちこちから「読めた!」「円が欠けてる!」と声があがります。「もうちょっと左」などと励ます声も混じり、体育館の中は練習が進むにつれて活気が満ちてきました。

     この日のハイライトは、決められたバケツの文字を読み取ったうえで、離陸から着陸までの時間をできるだけ1分に近づける「1分チャレンジ」でした。機体は学校で持っているPhantom4です。このチャレンジでは、初心者であるなど不慣れなチャレンジャーほど、ゴールまで急ぐことに専念しがちですが、実は早ければいいというわけでもないところがキモです。器用に読み取れる操縦者にとっては、着陸までの時間を1分に近づけるためには、同じペースを保てるかどうかが重要になります。

     準備が整ったところで順番を決めて、チャレンジをスタートさせると。最初の生徒が離陸からなめらかに操縦し、文字もとらえ、無事に着陸させて、いきなり1分2秒の好タイムをたたきだしました。順番待ちの生徒から「おおっ」「うますぎるっ」などと声があがりました。実際、これが、この日の最高タイムとなりました。ただ、そのほかの生徒も実はかなり手馴れていました。この日の二番手の成績は1分8秒。それに1分10秒台も複数いました。最も時間がかかった生徒でも2分を超えることはなく、練習量が多く確保できない中でも、この先さらに上手になる可能性を実感できました。

     練習の最後に南氏は、この日の取り組んだNISTの評価手法が、現在、世界中に広まりつつあることや、飛ばし方にいくつもの種類があることを説明しました。その中で、「世界中に広まりつつある方法であるということは、これで獲得した技能評価は世界中どこにいっても通用するということになる可能性があるということです。またツリーを使う飛ばし方には、オービット、スパイラルなどいろいろありますが、今回チャレンジしてもらったのは、並べられたツリーの外側を周回するトラバースという方法です。時間があればいろいろな方法で練習をしてみると楽しいと思います。最後の1分間チャレンジでは、より速くということよりも、どれだけ滑らかに動かせるか、というところが重要です。そんなことも頭に入れながら練習してみてください」。と伝えました。

     また、「学期の終わりあたりで実際に技能レベルを測ってみたいと考えています」と、生徒たちのチャレンジ精神を刺激しました。また田村市の美しい紅葉を撮影してみることや、学校を撮影してみることなども提案しました。

     船引高校のドローン活動は2016年12月にスタートして、あと少しで丸4年になります。船引高校の地元である田村市と、慶応義塾大学との連携協定をきっかけに人材育成の一環として始まった活動は、船引高校の大きな特徴のひとつとなり、地元の田村市の人々や、周辺自治体から一目も二目も置かれるようになりました。DroneTribuneは、船引高校をはじめ田村市の取組を折に触れて見て、伝えて参りました。これからも田村市や船引高校の取組に声援を送ってまいります。

    船付記高校生が1分間チャレンジ
    NISTのバケツツリーを使った技能評価につて説明する慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹特任助教
    ツリーを組み立てるドローン科学探求部の生徒たち
    うまくバケツの底の文字を読み取れるか
    画面の見方、スティックの動かし方を南氏が直接指導
    並べられたツリーを周回するトラバースに挑戦

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2020.10.13

    【慶大×田村市】ドローン科学探求部の1~3年生が参加 慶大・南氏が直接指導

    account_circle村山 繁
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     慶應義塾大学と包括連携協定を結んでいる福島県田村市にある福島県立船引高校で、9月10日、「ドローン特別講座」が開催され、船引高校でドローンに関連する活動を展開している「ドローン科学探求部」の1~3年生が、ドローンの操縦訓練に励んだ。この日も、慶應義塾大学SFC研究所・ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表が直接手ほどきをした。中には南氏の短い助言でコツを飲み込み短時間で上達する生徒もいて、ドローンの取組に積極的な田村市での担い手育成がまた一歩、進み始めた。

    1~3年生がトイドローンで「〇」を描く練習 すぐにコツを飲み込む生徒も

     この日は同校の体育館を会場に、ドローンの操作に親しんだ。講師の南氏が参加者に与えたテーマは「〇を描く」。体育館の床に描かれたバスケットボールのコートなどを利用して、トイドローンが円を描くように飛ばすことを求めた。初心者は空中に停止させるところから、手元のプロポの左右スティックの倒し方や、スティック操作に応じた機体の反応を理解させていった。

     経験者には、「ノーズ・イン・サークル」や「8の字」などの飛行を求め、技量の向上を促した。

     講座の途中で、周囲と距離を取る必要性や、その距離の確認方法など、飛行させるために知っておくべき基礎知識もまじえた。

     トイドローンのあとには、Phantom4も操作。屋外で撮影をするなどの活動により近い飛ばし方について指導を受けた。この日は、過酷な現場でドローンを運用している専門家も南氏の補佐として学校を訪れ、生徒の指導を手伝った。

    学校案内の表紙にドローンで撮影した学校の写真 船引高校の特徴に

     福島県立船引高校は、慶大が田村市と2016年12月に協定を締結して以来、ドローン指導を取り入れている。南氏を中心にドローンの専門家が学校に出向き、直接、指導をする「ドローン特別講座」を提供しており、これまでに映像クリエイター、ドローンレーサーら第一線で活躍する専門家が指導に関わってきた。

     船引高校はそれ以外にも、独自にドローンの練習をしたり、撮影をしたり、交流希望を受け付けたりと活動の場を増やしてきた。田村市内で開催された音楽フェスで飛行させたり、市内の総合防災訓練で撮影を請け負ったりとか領域も拡大させてきた。卒業生が県内のドローン関連企業に就職したり、農薬散布の資格を取得したりと、社会に役立てる道筋も描き始めている。

     船引高校の高校案内の表紙が、平成30年、令和元年、令和2年とドローンで撮影した写真が採用されているのも、ドローンが特徴であることを示しており、船引高校のドローン活動が地域の特徴を形作り、住民の誇りとなるなど、さらに地元の活性化に貢献することが期待されている。

    オローン特別講座でPhantom4の使い方を始動する慶應義塾大学SFC研究所・ドローン社会共創コンソーシアム副代表の南政樹氏
    南氏からこの日のテーマやその狙いが示され、耳を傾ける生徒たち
    桜の時期にドローンで撮影した校舎を表紙にあしらった船引高校の学校案内

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2020.4.20

    【みなみの部屋】ゲスト:横田淳さん レース、エンタメの現状と展望としたいこと

    account_circle村山 繁
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     「ドローン前提社会」の実現を目指す慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムの副代表として、人材育成、研究、開発、社会実装など幅広い活動をこなす南政樹氏が、いま気になるキーパーソンを迎えて気の向くままに、自粛、忖度ほぼ抜きでしゃべりつくすヒヤヒヤものの企画「みなみの部屋」をスタートさせることにしました。今回のゲストは、ドローンレーサー元日本代表で、株式会社ドローンエンタテインメントの代表、横田淳さん。全国の桜を空撮し日本の素晴らしさを世界に発信する「桜ドローンプロジェクト」の活動にも精力的です。好奇心の塊のような2人による、縦横無尽、自由奔放なエンタメ論議をお届けします。(対談は外出自粛要請前に行われました)。

    ■レースをとりまく環境、実は日本も世界もほぼ同じ

    対談する南政樹氏(左)と横田淳氏

     南氏 本日はよろしくお願いします。ドローンのエンタメとしての可能性を考えるときに、日本のドローンレースをけん引してきた横田さんにお話をしたいと思っておりました。一番知りたいのは、ぶっちゃけ、ドローンレースってどうなんですか?というところです。

     横田氏 こちらこそよろしくお願いします。

     ぼくが感じるのは、世界の事情はほぼ一緒である、ということです。よく日本では収益になっていない、と言われますけど、どの国でもほぼ同じです。日本に限らず世界の多くで収益にはなっていないし、収益を生む市場も形成されていないと思っています。どのレースも開催は協賛頼みで、そこが主催者やオーガイナーザーの悩みです。ぼくはレーサーとしてレースに参加したり、最近までJDRA(一般社団法人日本ドローンレース協会)に参画したりしていて、世界の団体と交流し、ディスカッションをしてきましたが、途中で退場した団体もありますし、課題はどこでも山盛りです。

     南氏 競技人口が増えない要因としては何が考えられますか?

     横田氏 複合的なものだと思います。まずドローンの特性として、物理的に飛ぶ、という点が挙げられます。バーチャルのeスポーツにはない危なさがドローンレースにはあって、それがきっかけとなりにイベントの開催を躊躇する声はよく耳にします。

     何よりも大前提となる遊ぶ人が少ない。時間があればタイニーウープで遊ぶ、とか、聞かないじゃないですか。DRL(The Drone Racing League)や、DCL(Drone Champions League)などの大会はあるんですけど、これはドローンレース競技のピラミッドでいえば頂点です。日本のレーシングチーム「RAIDEN」が海外に進出していますが、それも頂点の話です。頂点が先行しているのです。この頂点の層の活発化と並行して進めるべきなのが一般の層の広がりです。実際に、「このままだと裾野が広がらない。」と、いろんな団体が気づきだして、いま教育に力を入れ始めている状況です。なんとか母数を増やそうと取り組んでいます。

     南氏 裾野という意味でいうと、田村市(福島県の市。慶応義塾大学SFC研究所は同市と2016年12月にドローン活用に関する連携協力協定を結び、ドローン利活用のために大学と自治体が連携協定を締結する先駆けとなった)で高校生や小中学生にドローンを教えていると、レースをやりたいっていう生徒、児童は多いんですよ。でもアマ4(第4級アマチュア無線技士)を取らなきゃいけないという理由で、ここで離脱が起きる。海外の状況とかを考えると、これは由々しき事態だな、と思っていて、どうにかしたいと常々思ってきました。それと、ピラミッドの頂点ができたのちに、アニメで人気に火がついて裾野が広がるという形もあります。段階的なアプローチもあっていいのかもしれない。

    もっとシンプルに! 分かりやすく!

     南氏 エンタメを考えるときに、これはドローンレースに限らないのですが、どうしても収益につながらないと運営が難しい面がありますよね。産業利用であれば収益と一体なので分かりやすいのですが。横田さんはXFLAG PARK(ゲーム、音楽、スポーツなど幅広いステージやアトラクションを融合させたLIVEエンターテインメント。2019年は千葉・幕張メッセで開催され、ドローンシューティングが初導入された)にも関わりましたが、そういう発想だったのですか?

     横田氏 イベントの関係者とは2015年からレースを一緒に開催してきた間柄です。ドローンレースはどれだけ派手に演出しても、あるいはどれだけ盛り上げるMCを入れても、結局のところ、ルールが理解されないと、オーディエンスは「やりたい」とは思わないし、あの人を応援したい、とも思わないんです。ほかのスポーツのように感情移入しにくいんです。そこでちょっと趣向を変えてみようか、といって、やってみたのがあれです。

     南氏 なるほど

     横田氏 いったんゼロベースで考えることから始めました。みんながドローンを使った遊びで楽しめるものはなんだろう? というところからスタートして、その中で、操縦してもらおう、とか、どう操縦させるのか、みたいなことを考えて、UFOキャッチャーがいいんじゃないか、とかいろいろなアイディアが出た中で、シューティングバトルにたどり着きました。シンプルにドローンを撃ち落とすゲームです。ゲームのシンプルさがとても重要だなと思ったんです。万人が理解できて、多くの人が「これ、おもしろね」って思ってくれて、その中でドローンレースも盛り込んで、「ドローンレース、ヤバい!」ってなる。そんな順番を考えました。

     実際、手ごたえはありました。たとえばバスケットボールは初めて見た人でも、「あのゴールにボールが入れば得点になるんだな」って分かるじゃないですか。ドローンレースにもそのシンプルさがあるといい。はやるものってたいていシンプルですよね。ドローンでも渋谷の道玄坂の上からスクランブル交差点をゴールにして直線だけのスピードレースができたら熱いんじゃないかな、などと考えてます。

     南氏 スピードを単純に競う、みたいな?

     横田氏 そうそう。最後、ゴールでは壁に激しく爆音でぶつかる前提(笑い)。緊張感も高まるし、そのときの風だとか運が左右するという要素もあるし、声援がプレッシャーになるという要素もある。シンプルで深い。

     南氏 エアレースのような最近話題になっているエクストリームスポーツも分かりやすいですよね。

     横田氏 その分かりやすさが、大事なんだと思うんです。ぼくはどっぷりドローンレースにつかっているので偏っているかもしれませんけど、新しく始める人や、それまでにまったく関わったことのない人には、ドローンは相当ハードルが高いもののはずなので。ただ、ホントは調べれば分かるんですけどね。「どこで飛ばせばいいんだろう」とか。

     南氏 それはそれでありますね。おもちゃのドローンを買って「どこで飛ばしていいですか」という質問はよくぼくも受けますね。許可がないことを気にする人も多い。二極化しているかもしれませんね、やってみる人と。やらずに手っ取り早く答えを知りたがる人と。調べれば分かるんだけど。

     横田氏 調べない人、いますよね。一方で彼らは、「おもしろい」とか「いいな」と思えば突き進むんですよ。ということは、ドローンが生み出す魅力は、彼らにとってはまだ小さい、ということかもしれない。ぼく自身は「おもしろい」から突き進んだのですが、ほかの人にはそうでもないということはあり得る。ぼくにはドローンで撮影した映像はすごくおもしろいんですけど、そう思わない人は、その映像をみても「で?」みたいな感じになる(笑)

    「桜ドローンプロジェクト」の経緯

     南氏 「おもしろさ」や「すごさ」の感じ方には差がありますね。

     横田氏 ありますね。ぼくはいま、全国の桜を撮影する「桜ドローンプロジェクト2020」という企画を進めているんです。

     <桜ドローンプロジェクト2020=日本全国の桜を4Kドローンで撮影し世界に発信するプロジェクト。「桜を鑑賞する」という日本の独自文化をドローンの活用でそれまでにない視点で表現することを通じ日本にある地方の美しさを発信する>

     横田氏 幅広い年齢層のクリエイターと一緒に作業をすることがあるのですが、20代前半の方とか15歳の動画クリエイターに動画作ってもらったりするのですが、「桜って別に興味ないっスよ」みたいな(笑)。桜を撮りに「ここ行くよ」って言っても、「ぼくはだいじょぶです」って(笑)。そのギャップを実感しています。

     南氏 桜への思い入れの強さは、卒業の回数が影響するかも。年齢が高くなってから思うことが出てくるかもしれない。

     横田氏 年齢だったり、それまでの経験だったり。

     南氏 そういう層も含めてどうアテンションをとるのか、ですね。たとえば300メートル上空まで一気に上昇させるまでの時間を競うとか。速いと「すごい」と思ってもらいやすくないか。どう測るかは考えないといけませんけど。あと、絶対に自分じゃマネのできない神業を組み合わせないとクリアーできないレースとか。

     横田氏 ぼくはドローンについては、大きくゲームチェンジする必要があると思っています。ふたつ軸がありまして、ひとつは、新しいことをやる。もうひとつが、圧倒的に認知数を増やす。特に認知が不足していると感じます。いま手掛けている「桜ドローンプロジェクト」も、そういう思いの中で企画しました。全国各地に関わって頂いて、それを世界に発信して、話題を作りたい。一方、レースはレースでやります。やっぱり、おもしろいから。ただ、ピラミッドの裾野を広げるのは今のドローンレースではない。

    「見る、する、支える」の「見る」に工夫の余地 目標としてのライセンス化

     南氏 運動会ぐらいシンプルな競技があればいいんですけどね

     横田氏 そうそう。

     南氏 最近の運動会は、危ない、という理由で競技がなくなっているものもあるんですが、たとえば棒倒しとか騎馬戦とか。でもあれ、シンプルですよね。勝ち負けがはっきりすると、見る人も「がんばれ」とか感情移入をしやすくなる。

     スポーツって、見る、する、支えるのキーワードがあるんですけど、「見る」の部分がもうひとつ欠けていることがあるのではないかな、という気がしています。特にドローンレースではドローンが小っちゃいし速いしで、慣れている人や視力のいい人じゃないと何が起きているのか分からない。画面を用意してたくさん工夫を重ねておられることも存じ上げてはおりますが。それとは別に、シンプルに、「よーい、ドン!」で一斉にバーンっとスタートして、100メートル先のゴールに飛び込んで、勝ち!みたいな、そういうシンプルな種目があると違うんじゃないかと。

     横田氏 そうですね。それに加えるとすると、「努力すればトップになれるんじゃないか」っと思えればなおいいと思います。ぼくももともとは目視でドローンを飛ばしていて、FPVはやっていなかったんです。やりたいな、と思ってシミュレーターをやりまくったんですね。そしたらある日シミュレーターで「世界ランク1位」みたいなのが出たんです。まだ実機で飛ばしたことがないのに。それで実際のレースに出てみたらそこで4位。その次の大会で1位。そこで「あれ? もしかしたらいけるな」って思えたんです。そのとき、ぼくですら、やったらいけるんだ、と思えたんです。動体視力がいいわけでも、ゲームをやっていたわけでもないですし、ラジコンをやっていたわけでもないぼくですら、という意味です。運動会の棒倒しとか玉投げにしても、工夫したら俺うまいことできるんじゃないか、って思えるじゃないですか。

     ――レースには「あこがれが足りない」という話を耳にします。ファンがふえるための戦略ってなんでしょう?

     横田氏 いまぼく「新日本ドローンレース協会」をたちあげようとしているんです。

     南氏 イノキ的な響き・・・(笑)

     横田氏 もともとぼくがやりたかったことのひとつに、「ライセンス化」があります。いまのドローンレースでは、トップを目指そう!と声をかけてみても、初心者にとってはトップまでが果てしなく遠くて、目指しにくいな、って感じちゃうんです。集まってくるとしたら、お金や時間に余裕がある人。子供たちが「ぼくもやりたい」って思える環境じゃない。そこで、目標を作ることが重要だと思って、そのためにライセンスがあればいいと思っているわけです。

     自動車のモータースポーツでも、国内の競技会やレースに出るにも、世界のレースに出るにも必要です。それがいったん目標点になります。まずは国内のB級を取って競技会に出場して、次に国内Aを取ると国内のレースに出られて、となります。そのあと国際を取ろうとなる人もいるし、海外には興味がないから日本でやりたい、という人もいます。そのまま踏襲するつもりはないけど今の時代にフィットさせた環境をドローンレースでも作りたいとぼくは思っています。

     ライセンスは国交省の認定も取れればいいとも考えています。自作機にも、バッテリーの保護カバーや、プロペラガードをつけるなどの安全基準を設ける。自作しようとしても、レギュレーションが任意に設定されているために、特定のパーツや機体を買わないとできないような状況を変えたいんです。マニアにはいいかもしれないですけれど、一般に広げるには国交省認定などを設けたほうが分かりやすい。

     裾野を広げるという意味では、アニメがもたらす波及効果も大きいと思っています。ドローンレースはよくミニ4駆に例えられるんですが、ドローンは社会的、産業的、教育的な価値を考えるとそれ以上だと思っています。それに、ミニ4駆がはやったときと今とでは、拡散させる力もテクノロジーも全く違います。

     南氏 先ほどもちょっと触れましたが、ぼくもアニメによるdeployの可能性にはずっと注目しています。実際にアニメがきっかけではやったものも、スポーツでは多いですよね。野球、サッカー、バスケも。あらゆるスポーツが通ってきた道だと思います。産業にも結び付けやすいし、パイロットのセカンドライフにもつながる可能性があります。その意味でもやっぱり、分かりやすさは大事だと思うんです。

     100メートル競走みたいなものは機会があればぜひいっしょにやりませんか? たとえば、ぼくらが毎年開催している「UAVデモンストレーション」というイベントがあります。屋外で産業機を飛ばすショー仕立てのイベントです。出場チームは、たとえば30分の時間をさしあげて、その時間の使い方について自分たちでシナリオを作ってもらいます。おぼれている人を助ける、というシナリオなら、うち(慶應義塾大学)のライフガードのメンバーの学生を動員して、かれらを水難者にみたてて救命胴衣を適切な場所に落としてみる、といった具合です。そういう場で、やってもらえると本当にありがたい。UAVデモンストレーションの趣旨は「ドローン前提社会に向けた理解と共感」を得ることです。単にビジネスショーとしてメーカーの機体のデモを見るだけじゃなくて、ギネス記録にチャレンジとかメーカーが本気出してスピード競争に挑戦してみるとか、ドローンの可能性を認知してもらうイベントにしたいと思っています。

    ■認知の機会を増やして「ドローン前提社会」を

     南氏 ドローンが危ないものであると思われがちなのも、ドローンをよく知らないからということが大きいと考えています。福島県の南相馬でドローン物流の実験が行われたときには、初日こそ地元のおじいちゃんが指をさしてドローンが来た、みたいな反応をしていたんですが、二日目からは反応を示さなくなってきたというんです。当たり前になるから。そうなってくれればいいなと思うんです。そのためにも飛ばす機会を増やしたい。

     横田氏 ほかの産業に比べてドローンは認知してもらう機会が極端に少ないですね。

     南氏 ドローンで農薬散布をすると今でも毎回、通報されます(笑い)。そのたびに顔なじみのおまわりさんがやってくるので「おれだよ」ってあいさつをさせて頂きます(笑い)。飛ぶ回数が増えれば慣れてくるかな、とは思うんですけど。とにかく目に触れさせるということをやらないといまのまま変わらない。ぼくらは田村市(福島県)ではドローンの体験会をしたり、小学校向けにドローンを使ったプログラムを教えたりしているんですけど、その中では経年変化を追いたいと思っています。今は、「ドローンを見たことがある人?」って言うと、パッと手が挙がる。「触ったことがある人?」って聞くと、それが半分ぐらいになって、「持っている人?」で1人とか2人とかが残る感じです。これがどう変わるのか興味があります。

     田村市ではドローンが当たり前になりつつあります。昨年(2019年)10月に各地に大きな災害をもたらした台風19号がありましたが、市の職員が率先して「ちょっとドローン、持ってくわ」って言って、被災状況の調査に出かけたんです。

     横田氏 いいですね。

     南氏 ぼくも「すごいね、それ」って言ったんですけど、当事者はそのすごさは認識しておられないんです。田村市は「ドローン前提社会」をつくるため、実験的に取り組んでいるところがあるのですけど、そのたむらモデルを大都市、東京とか、神奈川とかでも応用、活用できたらいいな、と思っていまして。

     横田氏 ドローンの遊びって全てにおいて「善」なんですよ。

     映像作品を作るにしても、ドローンレースをするにしても、子供たちがドローン体験をするとかにしても、やってると勝手に良い事につながる。産業にも、教育にも、レースにもつながります。その意味ではセカンドジョブも作りやすい。だから「あとから良いことが勝手についてくるから絶対にやったほうがいい」っていろんな子供や大人に言ってます。

     桜ドローンプロジェクトも最初は「成功したら絶対面白い!」から始まったプロジェクトなのですが、40を超える自治体と協力して魅力を世界に発信しよう!っていつのまにか地方創生・日本文化の世界発信プロジェクトになっているんです。

     ドローンレースにしたって、過去にぼくらが開催するマイクロドローンレースにほぼすべて参加してきた小澤諒祐くんは中学生で米津玄師のPVまで撮っちゃって。こういうことが起きるのは当然本人の努力が一番だけど、「楽しい!が仕事になるっていうこと」を体現しているよい例だと思ってます。

    楽しみ方の開発を ベッティングという発想 パイロットはカッコよく

     ――いろんな話が出ましたね。

     南氏 まとめ、というわけでもないですけど、ぼくはとにかく、子供たちに、たくさん、飛ばしてもらいたい。ドローンが当たり前社会になると言い続けている以上、子供のころから当たり前にしないとダメだと思っています。これをやりたい。今も小学生向けのプロジェクトを進めているのですが、そういったものを横につなげるようなことを、大学というファンクションがせっかくあるので、やれたらいいかな、と改めて強く思いました。それと、イベントごとはひとつ、ぜひ、お手伝いしたい。ドローンレースをやって頂くことも考えられるし、UAVデモンストレーションで会場となる陸上競技場のトラックをひたすらまわるでもいいですし、一定の高さまでビューンっ!と急浮上するのもいいし、シンプルなものを、産業機の航空ショーと組み合わせることができたらいいな、と思います。

     あとエンタメとしては、ドローンレースの楽しみ方には開発余地があることを実感しました。見方、楽しみ方が分かると、愛好者は増えます。ラグビーもそうでした。「ジャッカル」という言葉がこれほど一般に浸透したことは過去にないと思います。ナビゲートをしてくれる優秀な実況役がいるとわかりやすいかもしれませんね。

     横田氏 分かりやすいMCって大切ですね。ぼくがやりたいなと思っているのはスポーツベッティング。従来とは異なる応援のインセンティブを生み出せると思っていますし、ドローンレースはテクノロジーを使っているメリットがうまく生かせます。たとえば、加速度とか、スピードとか、進んだ距離は測れるし、そうしたデータを可視化できます。変換すれば会場のイスをゆらすとか、選手の感覚を体験できたり、一体となって応援できたり、選手の心拍数がリアルタイムで伝わるとか仕掛けがあったり。そういうしかけをやりたいですね。

     子供って、ほんとにきっかけ次第じゃないですか。なのでそれを大事にしたいなと思っています。以前、子供の前でドローンを飛ばしたときに、関係者がぼくのことをトップドローンレーサーであると紹介してくれたみたいで、それに感動した子供たちが「サインください」って言ってきたことがあったんです。子供たちにとっては、それがあこがれになるかもしれないし、今後の自分の夢を考えるきっかけになるかもしれない。少なくともポジティブな思い出をつくることができる。だからレーサーは、あこがれの存在になる努力をもっとしないといけないと思います。もっとカッコをつけていい。というかカッコつけないと。服装もおじさんクサい人、多いし(笑)。ぼくはもう2~3年で、ドローンレースの時代が来るって思っています。おもしろいし、役に立つし、ドローンの遊びはすべてが善だと思っているので、やったほうが良すぎるぐらい。

     南氏 ドローンがインターネットと似てるのは、ひとつきっかけがあるとさっと広がる感覚がある点です。インターネットはWindows95で市民権を得て広がりました。日常的にドローンが使われる場面を見聞きしているとか、操縦機会があるとか、ドローンに置き換えたらこんなに便利になったという体験とか、そういうことが見えてくると、とたんに広がるのではないかと思うんです。デザインの仕方次第かな、とも思っています。タレントが出てくるということかもしれないし、ライセンスの話もありましたけれど、それが話題になることがあってもいいし、そういうことが複合的に効果を発揮すれば、この2年ぐらいで一気に開ける可能性があると感じます。

     きょうはありがとうございました。

     横田氏 ありがとうございました。ぜひ一緒にやりましょう。(完)

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。