日本発のドローン系スタートアップ特化型のファンド、DroneFundが創設されて6月1日で2年になります。2017年5月30日、個人投資家の千葉功太郎さんが創設を発表し、翌々日である6月1日にDroneFundが正式に発足しました。現在、DroneFundはドローンのエコシステムにとって重要なだけでなく、日本経済にとって重要となっています。経済の血液である資金が、ドローンのエコシステムに注がれる流れを築いたインパクトは大きく、6月1日は、日本のドローン経済記念日いっても過言ではありません。DroneFundの2年を振り返りました。(DronTribune編集長 村山繁)
DroneFund(正式名称:千葉道場ドローン部1号投資事業有限責任組合)の設立発表は2017年5月30日、東京・永田町のホールで開催され多くの報道陣が集まりました。当時(たった2年前ですが)は、ドローンのエコシステム作りへの関心は高まりつつあったものの、リスクを引き受けて資金を提供する動きが活発ではなく、刺激剤の登場を求めている状況でした。そこにさっそうと登場したのがDroneFundでした。集まった報道陣の多さに注目度の大きさを示していました。
DroneFund創設を発表した千葉功太郎さんは、その年の春、ドローン関係者が集まった合宿で、6月のファンド創設を予告していました。それまでとそれ以降、準備を入念に重ねて臨んだ発表会でした。
発表会で語られた内容は、2017年度中に10億円の積み上げを目指すこと、知財管理に力を入れること、ファンドの運用を通じて実現した未来の姿など、いずれも誰かの頭の中にしかなかったものが、言葉、イメージ、金額、組織として具体的に示された画期的な発表でした。投資ステージごとにアーリー、シードなら1000万円~5000万円レベルなど基準が明確で、専門家集団のアドバイザリーボードがあり、特許の共同出願など知財管理をたばねる「Drone IP Lab」もあり、居合わせた多くの報道陣が納得の表情を浮かべていたことを思い出します。そして肝心のファンド規模は結局、翌2018年2月に、目標を大幅に上回る16億円でファイナルクローズしたことが公表されました。
DroneFundの挑戦はここからさらに加速します。
16億円のファイナルクローズを発表してから半年たらずの2018年7月31日、千葉さんは「DroneFund2号の設立する」という発表をしました。発表会場は、茨城県龍ヶ崎市にある川田工業が所有する、龍ヶ崎飛行場。バスをチャーターしたうえで報道陣の足回りも確保してまで開催した発表会に、報道陣は千葉さんの「2号」に寄せる強い思いを会場到着前から強く感じとる機会となりました。(ちなみにバスの中で、乗り合わせたササモモさんとずーっとしゃべりっぱなしであったことは秘密です。なにしろササモモさんがずーっとしゃべっていたので、誰かが聞いてあげないと気の毒でしたので。はい)
発表はやはり、異次元でした。
会場である空港は貸し切り、千葉さん個人所有する飛行機が置かれ、DroneFundや慶応義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムなどが提唱している「ドローン前提社会」をイメージしたイラストが次々と表示されて世界観を想像しやすくする工夫がなされ、イラストに登場する高校生の公式キャラクター「美空かなた」ちゃんに扮した俳優でモデルの諸江雪乃さんがMCをつとめ、ファンドのアドバイザリーボードのメンバーで、マイクロソフトエバンジェリストの西脇資哲さんが発表会をサポートする手厚い体制で発表会が行われました。
発表された2号の概要も、まずその規模で発表会参加者の度肝を抜きました。総額は「30億円~50億円」。1号ファンドが半年前に16億円でファイナルクローズしたばかりのタイミングで、その2倍以上の資金を集めるという高いハードルを課す挑戦的な目標を設定し、公表したわけです。そしてもうひとつ、1号からの変化がありました。それは出資によって実現する世界観に「エアモビリティー社会」が加わったことです。「空飛ぶクルマ」や「ドローンタクシー」など、移動の自由に貢献する手段を幅広く支援しようとするファンドの姿勢をさらに明確にしたことで、未来像をぐっと引き寄せる効果をもたらしました。
ここから資金集めと出資の快進撃が続きます。出資、資本提携先としては、米クラウドサービスDroneDeploy、ノルウェーのGRIFFアビエーション、マレーシアのソリューションカンパニー、エアロダイン(Aerodyne)グループ、エネルギーデバイスのスペースリンク、農業用ドローンのナイルワークス、空飛ぶクルマのSkyDrive、テトラ・アビエーションと続き、つい最近、今年5月28日には水中ドローンのFullDepthへの出資も公表されました。そして2号ファンドが調達総額は今年2019年5月7日、「52億円となった」と公表されました。龍ヶ崎飛行場での異次元発表会で示した「30億円~50億円」の高い天井を超えた金額をまとめあげたことになります。
この間、DroneFundは新体制を発表。ファンド創設時から手を携えてきた大前創希さんが千葉さんと同格の共同代表パートナーとなり、Fundも千葉さんもさらに機動的に活動できるようになりました。千葉さんは2018年12月、ホンダのビジネスジェット機、ホンダジェットエリートの最初の顧客となる発表会で空域移動の重要性を訴え、出資先である自立制御システム研究所(ACSL)の上場を見届け、空の異動革命に関わる官民協議会に出席してエアモビリティー実現の工程表公表に参画するなど、空への参画を強めています。
日本では令和に時代が切り替わり、ドローンへのリテラシーの高い層が着実に増えてきました。これからさらに増えることが予想され、日本のドローン経済はこれから成長期を迎えます。政府は5月24日に発表した月例経済報告で総括判断の表現を「弱さがみられるものの緩やかに回復」と引き下げました。景気全体に活気が乏しくても、ドローン経済は周囲とは異なる成長を遂げ、日本経済全体の機体を担う立場になることが展望できます。
DroneFund設立記念日である6月1日を前に、これまでを振り返ってみました。DroneTribuneはこれからもドローン前提社会を構築する動きを歓迎します。
DroneFund: http://dronefund.vc/
AAM(アドヴァンスト・エア・モビリティ)運航事業を手掛け、大阪・関西万博の運航事業者にも名を連ねる株式会社Soracle(ソラクル、東京)が、2027年中にも大阪・関西エリアで旅客運航を目指す計画を明らかにした。9月10日に大阪府、大阪市と連携協定を結んでおり、その席で計画を明らかにした。米Archer Aviation(アーチャー・アヴィエーション)のパイロット1人を含めた5人乗りのeVTOL型AAM、Midnight(ミッドナイト)を使うことを想定しているという。
Soracleは2026年にも大阪府内で実証飛行を実施し、必要な審査をふまえ27年にも大阪ベイエリアでの遊覧飛行などを始める。周回して出発点に戻る運航のほか、離陸地点から別の場所に移動する二地点間飛行も想定する。
大阪府と大阪市との連携協定は、ソラクルの事業環境を整えることや、運航網整備に必要なインフラ整備に向けた調査、制度の整備、関連ビジネスの展開支援などの事業環境整備に向けた取り組みを進める。締結式では太田幸宏CEOが、大阪に来れば全国に先駆けて空飛ぶクルマに乗ることができる未来を実現し、中長期的には関西・瀬戸内海地点を結ぶ観光体験を創ると抱負を述べた。
吉村洋文知事は「さまざまな課題はあろうかと思いますが、Soracleさんと協力し、大阪府・市も全面的に当事者として取り組むことで、2027年に商用運航を、そして大阪に来れば空飛ぶクルマに乗ることができるということをめざしていきたいと思います。大阪・関西から、空の移動革命を実現していきましょう」と述べた。
Soracleの公式発表はこちらにあります
スウェーデン航空ベンチャーJetsonは、同社が開発した1人乗り用のパーソナルeVTOL型AAM「Jetson ONE」を米カリフォルニア州で購入者に初めて納入したと公表した。引き渡しを受けたのは経験豊富な航空愛好家パーマー・ラッキー氏で、50分ほどの地上訓練を受けたのちその場で飛行に挑み、低高度での飛行を楽しんだ。同社が公開した動画にその様子が納められている。納品時にはJetson創業者兼CTOのトマシュ・パタン氏(Tomasz Patan)とCEOのステファン・デアン氏(Stephan D’haene)が開封と飛行前点検を手伝った。
Jetson ONEは機体重量が86㎏で、飛行そのものについて航空当局のライセンスの有無の制約を受けず、機体のトレーニングを受ければ引き渡しを受けられるウルトラライトクラスに当たる。同クラスのパーソナルAAMには、米LIFT Aircraft社の「HEXA」や米Pivotal社の「Helix」がある。
日本ではこのうちHEXAが2年半前の2023年3月に、大阪城公園でデモフライトを行っている。このさいAAMの普及に力を入れているGMOインターターネットグループ株式会社(東京)の熊谷正寿代表が、日本国内で日本の民間人とし初めて搭乗し、披露の様子を公開した。現在開催中の大阪・関西万博では「空飛ぶクルマ」のひとつとして飛行が披露された。
なお日本でのAAMの議論の中心は操縦士が搭乗して旅客運航する「商用運航」などが中心で、個人用AAMの導入環境に関する議論は大きな進展を見せていない。一方で米国で飛行経験を積むことはいまでも可能だ。
今回、米国で購入者に納品されたJetson ONEは、アルミとカーボンファイバーのフレームに8つのローターを備え、ジョイスティックで操作するタイプの機体で、最高速度102㎞で20分まで飛行できる性能が公表されている。主に個人利用向けの機体だが、救助訓練に参加した経験も持つ。ポーランドとスロバキアの国境にまたがるタトラ山脈では、ポーランド山岳救助隊(GOPR)と連携して緊急時を想定した訓練に2機のJetson ONEが2機用いられたことが今年7月に公表されている。ルバニ山(標高1211m)頂上など遠隔地への迅速対応ミッションを含む訓練で、目的地まで4分未満で到着するなど、現場に迅速に到着し、応急対応を実施したり、状況を把握したりする「ファーストレスポンダー」としての役割を果たす可能性を示した。
Jetson ONEは税抜きで12万8000ドルで注文を受け付けているが、2025年、2026年分の注文はすでにいっぱいになっている。
参考:GMO熊谷氏、HEXA搭乗し飛行を公開
参考:GMO熊谷氏にHEXA公開搭乗の理由を聞く
参考:米Pivotal、パーソナルAAM発売開始
ドローンショーの株式会社レッドクリフ(東京)が、フィンテックのフリー株式会社(freee株式会社)の活用事例に登場した。レッドクリフが搭乗したのはfreeeが提供しているプロダクト「freee販売」の活用事例で、ビジネスの急拡大に伴う業務管理の効率化に役立てていることが紹介されている。取引先の業務効率化をアピールすることが多いドローン事業者にとって、freeeの活用事例はモデルになりそうだ。またドローン事業者が他の事業者の活用事例に取り上げられることも今後、増えそうだ。
フリーが公表したレッドクリフの活用事例はこちらからみられる。
それによると、事業の急拡大で案件別の収支管理や、全体の把握、属人依存の管理に限界が見えてきた中で、それまでスプレッドシートに頼ってきた業務フローを見直しに着手した。freee販売の導入で、受発注データと原価情報を集約し案件ごとの収支把握が容易になり、部門を越えたデータ共有や、各部門がそれぞれの業務に集中できる態勢が整ったという。チェック漏れリスクの軽減と業務負担の軽減が同時に果たせ、人件費、立替経費、ドローンの減価償却費を案件単位で管理できるようになり、より正確な原価管理と利益把握が実現し、経営判断の精度向上にも繋がっている。
結果として、IPO準備に不可欠な「事業計画の妥当性」や「来期の成長性の蓋然性」をデータに基づいて説明できる環境ができたという。
ドローンの事業者も、取引先の効率化をソリューションとしてアピールする事例が多く、活用事例でも導入先の作業の時間短縮効果などが掲載されることが多い。一方で、導入先にとっては、その事例が解決したい課題の一部にすぎないことや、導入による新たな負担などが発生するケースもあり、活用事例のアピールの方法について、各者が試行錯誤している。
freee販売の活用事例では、汎用性の高い困りごとを取り上げていて、freee販売の商品性のアピールになるとともに、多くの企業にそのアピールの手法そのものが参考になりそうだ。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が、ドローンによるマンション外壁点検の仕事を請け負うための力を養う講座「ドローン点検スペシャリスト育成コース<マンション外壁編>」の内容を解説する「講座ご案内ウェビナー」をJUIDAの公式ページ上で公開した。ウェビナーは7月に視聴者を募って行われ、講座は8月に開講した。現在も受講生を募集している。
「ドローン点検スペシャリスト育成コース<マンション外壁編>」は、JUIDA、マンション管理など不動産管理大手の株式会社東急コミュニティー、ドローンスクール運営の株式会社ハミングバードの3者が作った講座で、5月に公表し、6月に開催された展示会「JapanDrone」で3者そろって発表会に臨んでいた。3者は新たな講座のマンション外壁点検の現場で求められる実務を盛り込んだことと位置付けている。
マンション外壁点検でのドローン導入期待は高いものの、外壁点検の現場や実務を知るドローン事業者は多くない。マンションの管理組合などから点検業務を請け負うマンション管理事業者側にとっては、現場知識の乏しいドローン事業者にドローンでの点検を依頼すると、ドローン事業者が担うべき実務を一から伝えなければならず、手間、時間、コストの負担が大きい。これがドローンの導入を阻む要因になっていると言われている。このため講座を通じてマンション外壁点検に求められる実務の知識を習得することで、マンションの外壁点検現場へのドローン導入を後押ししようとする狙いがある。
公開された動画は、全体で50分弱。事務局のあいさつ、カリキュラム概要、受講料、受講会場など講座に関わる説明が27分ごろまで行われる。この中では、点検作業後に作成し、依頼主に納める報告書の重要性が強調されている。ドローン作業者には、報告書の重要性や、報告書に掲載するための画像の要件が講座で解説されることなどが伝えられている。
その後、事務局が設定した想定質問に、担当者が回答する一問一答が行われる。一問一答の中では、講座の修了生には必ず外壁点検の仕事があっせんされるのか、タワーマンションにも対応可能なのか、など受講判断に関わりそうな質問がいくつも盛り込まれていて、担当者の回答は、受講を検討者の参考になりそうだ。
高校生FPVドローンレーサー・山本悠貴選手が、9月13日にドイツで開幕する国際レース出場に向けてクラウドファンディングを実施中だ。山本選手をスポンサーとして応援している株式会社ドローンショー・ジャパン(金沢市)がプレスリリースで山本選手の活躍を紹介している。
山本選手は今年7月12日~13日にイタリア・アルビッツァーテで開催された「World Drone Cup Italy 2025」で予選を総合3位で通過してジュニア部門の決勝に進出した。山本選手としては初の決勝進出で、決勝でも4位入賞に食い込む活躍を見せた。なお、ジュニア部門ではすでに数々の大会で優勝経験を持つ日本の橋本勇希選手が優勝している。
山本選手は、2024年10月30日から11月3日まで中国杭州市のShangcheng Sports Centre Stadiumで開催されたドローンレースの世界戦主権「2024 FAI World Drone Racing Championship(WDRC)」で、橋本選手とともに日本からの5人の選手の一人として出場し、各選手の成績を集計した国別順位で日本代表チームが3位に導く立役者の一人となっている。 なお、イタリア大会で優勝した橋本選手は、中国杭州市の大会でも個人総合、ジュニア部門の2部門で優勝している。
ドローンショー・ジャパンのプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000131.000080729.html?fbclid
イタリア大会結果詳細: https://fpvscores.com/events/0DNj73gpMX/results
山本選手の動画:https://youtu.be/1auUXebjYTc
<参考>中国大会で日本総合3位、橋本選手は個人総合、ジュニア部門の二冠:https://dronetribune.jp/articles/24276/
山本選手のクラウドファンディング:https://camp-fire.jp/projects/876711/view?utm_campaign=cp_share_c_msg_projects_show
ブルーイノベーション株式会社は9月3日、沿岸防災ドローンとして注目されている「BEPポート|防災システム」の解説動画を公開した。仙台市と千葉・一宮町に配備されたシステムは津波警報のさいに初出動したことをきっかけに、自治体からの注目度がさらに高まっている。
動画は7分弱。「BEPポート|防災システム」について、「災害発生時の初動を支援する次世代型ソリューション」と説明していて、主に自治体の防災担当者や関係者、協力事業者らを対象としているとみられる。
開発したブルーイノベーションの紹介、災害時の初動対応に求められる3要素などの説明があり、それらの説明をうけて、2分50秒ごろから具体的な説明に入る。Jアラートを受けてBEPポートが自動的にドローンに離陸を指示する仕組みなどが説明されている。
また終盤の5分ごろからは、7月30日の津波注意報、津波警報を受けて一宮町<千葉県>のシステムが初出動した模様を紹介している。
システムは一宮町と仙台市<宮城県>に設置していて、7月30日の津波注意報、津波警報を受けてそれぞれ出動した。
なおブルーイノベーションは、東京都立産業技術研究センターの「クラウドと連携した5G・IoT・ロボット製品開発等支援事業 公募型共同研究」に、同社が「BEPポート|防災システム」の活用を前提に提案した「自動離発着型ドローン多目的災害支援システムの研究開発」が採択されたことを9月1日付で発表している。孤立地域の状況調査、倒壊家屋の監視など災害現場で求められる機能を新規開発する計画だという。